ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ 作:dwwyakata@2024
眠っていた。
解放された直後からは。凄まじい怒りによりずっと覚醒状態を保っていたクリームだったけれど。それがどこかで、ふつりと切れてしまったのだろう。
怒りで全身が焼けるようだったけれど。
それでも、マスターボールの中で、いつの間にか眠ってしまっていた。
周囲は不思議な光景だ。
主と一緒にいたときは、殆どモンスターボールの外にいたけれど。たまにモンスターボールに入る事もあった。
中はポケモンにとって良い環境に最適化されていて。
本来だったら、疲れが取れ力の消耗も抑えられる。
だけれども、主が命を落として。
ユウリにマスターボールに入れられてからは。そんな風に感じたことは一度もなかった。普通のモンスターボールとは比較にならない好環境なのだろうが。そのような事は関係無い。
膝を抱える。
強烈な負の感情が、一線を越えてしまったのだろう。そして疲れが限界に達し、眠ってしまっていた。
何とも不覚だが。それもまた、仕方が無い事なのかも知れなかった。
マスターボールから出される。
エンジンシティだ。ただし、その外れだが。見覚えがある奴がいる。確かカブとか言うジムリーダー。まだ現役だったのか。
流石にクリームと戦った時に比べて、少し老けているようだが。そもそも殺し損ねた前の戦いの時も初老に片足を突っ込んでいたっけ。
いわゆる生涯現役という奴だろう。
「ユウリくん、このマホイップは、あの事件の主犯の……」
「クリームという名前だそうです。 直接本人から聞きました」
「そうか。 やはり誰かトレーナーがいたポケモンだったんだな」
「恐らくは、エンジンシティにいた誰かだと思います。 これからクリームと話してみますので、協力して貰えますか?」
頷くカブ。
まずユウリが住所を聞いてくる。完全に無視。知っているが、教えてやるものか。
ため息をつくと、ユウリは言う。
「カブさん、ケーキ屋さんについて調べてほしいんです。 後はカレー屋さん。 どちらかだと思います」
「エンジンシティの、ケーキ屋とカレー屋? どちらもたくさん存在するけれど」
「この子が起こした事件の直前になくなったお店です。 多分半年以内だと思います」
「!」
クリームが反応すると。
やはりという目でユウリが此方を見た。
此奴、ある程度当たりをつけておいてかまを掛けてきたか。結構鋭い奴だ。ダンデを試合とは言え倒したというのも、あながち嘘でも無いのかも知れない。
カブが行くと、その場にはユウリとクリーム、それにザシアンとエースバーンが残った。
ユウリが聞いてくる。
エースバーンも残したのは、恐らくクリームが精神的に不安定になっていると、見抜いたからだろう。
「ねえクリーム。 何があったのか、話して。 誰に何をされたの」
「……お前に話すことなど無い」
「ポケモンの言葉だと分からないよ。 でも、拒否しているのは分かった」
ザシアンもエースバーンも、此処が街の一角だからか、一切合切油断するつもりは無い様子だ。
暴れ出したら全力で制圧に来るだろう。
エースバーンなら倒せる自信があるが。それでもこのエースバーン、相当に強い。ザシアンが本気を出してきた場合、伝説級も含めての二対一の状況であるし、勝てる見込みはない。
程なくカブから連絡が入ったようだ。ユウリがスマホロトムでやりとりをしている。
「該当は七箇所。 ケーキ屋さんが四ヶ所、カレー屋さんが三箇所。 ……このケーキ屋さん、少し潰れた経緯がおかしいね」
すっと、スマホロトムの画面を突きつけられる。
主の店だ。
此奴、一発で特定しやがったか。多分天性の勘を持ち合わせているのだろう。あのダンデと同じか、それ以上の。
すぐに歩き出すユウリ。
促されて、歩き出すクリーム。口を引き結ぶ。後ろから、エースバーンが話しかけてきた。
「お前に何があったのかは分からないが、ユウリはすごく良い奴なんだ。 何かやらかしたらブッ殺してやるからな」
「嗤わせるな。 其所の犬なら兎も角、お前は私に勝てん」
「ああそうかもな。 お前は確かに強い。 だがな、ユウリの指示があれば結果はわからねーよ。 彼奴の指示で、何度も格上を倒して来たんだ。 ガラル最強のトレーナーを侮るなよ」
「ふん……」
ザシアンは相変わらず何も言わない。
まっすぐ現地に向かう。あまり外に 出歩くことはなかったけれど。間違いなく主のケーキ屋に近付いているのが分かった。
そして、到着した。
空き地だ。草ぼうぼう。周囲の綺麗な家とは対照的な、何も無い場所。禁忌にさえ思える。
ユウリが周囲の家に対して、聞き込みを開始している。その間、クリームはじっと待っていた。
怒りに身が震えるようだ。
まだ覚えている。店長とこの辺りで呼ばれていた頃の事。主と話し合って、そうした方が良いと決めて。外に主が作るケーキを持ち出すときは、「人間から見て見栄えが良い」クリームが。
ケーキを作るのは、主が。
それぞれ担当したこと。
主はケーキを作ることと、作ったケーキが人を笑顔にするのが大好きだった。あんなに人に迫害されてきたのに。
だからクリームも笑顔でそれに協力した。
主は突然命を落とした。理由は分からない。病院では、心臓発作だとか言っていたが、確か理由不明の場合は心臓発作にするとか聞いた。
その後の事は思い出したくない。
確実に暴走状態になる。
主のケーキを美味い美味いと食べていた連中が、掌を返したあの経緯は。主はまともに葬られもしなかった事実は。
周囲の連中が。見かけだけで主を判断して。
そしてその尊厳の全てを奪い去り陵辱して踏みにじった事は。
呼吸を整える。
何軒かめの家で、裕福そうな太った女が出てきた。ユウリが此方を一瞥だけする。殺気と怒気に気付いているのだろうか。
「あら、貴方は新しいチャンピオンさん」
「はい。 ユウリです。 少し今調べ物をしています。 ……このケーキ屋を覚えていますか?」
「……あらやだ、このケーキ屋。 覚えているわよ」
もう一度、ユウリが此方を見た。
いや、違う。
ザシアンとエースバーンを見た。場合によっては即座に取り押さえろというのだろう。面白い。
もし取り押さえるというのなら、最悪この女だけでもブッ殺してやる。
「具体的に聞かせてください」
「とても美味しいケーキ屋さんだったのよ。 何だか悪い噂が流れて、それで潰れてしまったけれど」
「経緯は逆じゃありませんか?」
「……どういうことかしら」
ユウリは言う。
ケーキ屋の主人を見た事があるかと。
太った裕福そうな女は、しばし考え込んだ後、そういえばバイトしか見た事がないと言う。
何人かのバイトが交代で勤務していたけれど。
店長らしい人物は見た事がなく。代わりに、愛くるしいマホイップがケーキを配膳していたという。
ユウリはその度にメモを取っている。
スマホロトムで、録音もしているようだったが。
「悪い噂の具体的な内容は知っていますか」
「何だか子供に言って良いのかしら。 いかがわしい作り方をしたケーキだったとか、それで警察が入ったとか。 何だか悪いお薬が入っていたとか、そんな事を聞いたわねえ」
「具体的に誰からですか」
「お隣さんからよ。 実はね、そのお店でケーキを買った直後だったから、心配で調べて貰ったの。 マホイップが本当に信頼している相手のために作ったホイップクリームが使われている事くらいしか分からなかったわ。 少なくとも、噂に出てくるような変なお薬の形跡は無かったそうよ」
もったいないことをしたわと女はいい。
一瞬だけクリームを見たが。多分そのマホイップがクリームだとは、気づけなかったのだろう。
ユウリにサインをねだり。ユウリも笑顔を崩さずに応じていた。
更に数件、聞き込みを行う。
年老いた夫婦が出てきた。ユウリが咳払いをすると、丁寧に話を聞いていく。少し耳が遠いようだが。
男の方が覚えていた。
「あのケーキ屋さんな、代々ケーキ屋を続けていた店だったな。 以前は昔気質の店長がいて、いつも気むずかしそうにしていたんだが……そういえば、ある時期から急に更に機嫌が悪くなったな」
「詳しくお願いします」
「ええと……結婚して……そうだ、子供が出来てからだ。 子供の姿を殆ど見なかったし、初等教育でも話は聞かなかったな。 それどころか、夫婦で怒鳴りあいをしているのを聞いたっけ」
「おじいさん、そのような事を……」
「チャンピオンが直接調査に来ているんだ。 何か大きな事件につながっているんだろう?」
ユウリは頷くと、続きをと言う。
少し考え込んでから、年老いた男は続ける。
「その頃から、ケーキが目立ってまずくなってな。 店が傾きかけた頃、夫婦が相次いでなくなった。 よく分からんが、夫の方は怒鳴りすぎて頭の血管を切ってしまったらしいな。 病院で噂を聞いた。 妻の方はストレスがたまりすぎて、夫が亡くなった直後に入院してそれっきりだったそうだ」
「……ケーキ屋さんは、それからも残っていたんですか?」
「ああ。 多分子供がついだんだろう。 だけれども、どうしてかその子供を誰も見た事がなくてな……」
「お爺さん、あの事件の時に」
口をつぐむ老人。
どうやらこの老婆の方が、よく分かっているのでは無いのだろうか。
「お願いします。 この事件、結構根が深いんです。 私が調査をするくらいに」
「……ケーキ屋が潰れる少し前だったか、ケーキ屋で人が死んでいるのが見つかったんだよ。 どうやらその死んだ先代夫婦の息子らしくてな、酷い顔だった。 顔が崩れているというのか、なんというのか。 それでいて図体がでかかったから、噂になった。 実を言うと、先代の時よりもケーキの味は断然上がっていたんだよ。 だから、逆にそのケーキを作っていたのがバケモノじみた男だったと言う事で、悪い意味での噂があっと言う間に広がってな。 更に、親戚も一人もいないのが徒になって、店は潰された。 男については、無縁墓地に葬られたと聞いている」
「……大体分かりました。 この事件、百人以上の死者が出ました。 でも、それも当然に思います」
「えっ……」
老夫婦に頭を下げると、ユウリは聞き込みを終えた。
そして、少し場所を移しながら、カブや警察と話をしているようだった。珍しく、相当に苛立っていた。
「ええと、名誉毀損か何かで……時間が経ちすぎている? 私がちょっと調べただけで、これだけ色々出てくるのに。 ガラル警察と言えば色々難事件を解決する事で有名でしょう? あれだけの事件が起きたのに、どうして何も調査していないんですか!?」
「ユウリ、珍しく本気で怒ってるな。 あんなに怒ってるのみたの、いつぶりだったか」
「温厚だとは思っていたが、怒るのだな」
「……俺も何回かしか見たこと無い。 少なくとも、ポケモンに対して怒りをぶつけるところは一度も見たことが無いな」
エースバーンとザシアンが話し合っている。クリームは爆発寸前だが、ユウリは何かを悟っていたのかも知れない。
しばしして、しぶしぶという感じで警察が来る。
資料が届けられた。
警官は少し困った様子で、事件性無しだったから、探し出すのが大変だったと写真などを渡していた。
ユウリは頷くと。
写真を受け取り、静かに見つめていたが。
やがて、クリームの所に持ってくる。
「この人、カーネーションさんっていうらしいけれど。 クリームの主で間違いないね」
「……」
「そっか、間違いないか。 分かった、有難う。 此処からは、私に任せて。 私の廻り、立派な大人が多いから。 此処と違って」
しらけたまま、話を聞く。
ユウリは何人かに連絡を入れていて。
そして、クリームには、一度ボールに戻ってと言ってきた。
薄笑いを浮かべて、棒で地面に書く。
「それで。 どうするつもりなんだ」
「名誉を回復する」
「そんな事より主を返せっ!」
ブチ切れる。
全身から抑えきれないサイコパワーが噴きだし、来ていた警官達が飛び退く。ウィンディを展開した警官もいた。
エースバーンは構えを取ったが、ザシアンは静かにこっちを見ている。
ユウリは、動じる様子も無い。
「クリーム。 いい、聞いて。 カーネーションさんは、検死の結果心臓発作で亡くなったことが分かっているの。 そして、カーネーションさんは、貴方といられてずっと幸せだったの」
「知るかっ! 主がどれだけ迫害されていたか知らないくせに! 主はいつも怒鳴られても殴られても笑顔だった! 親からゴミでも見るような目で見られながらも、それでもケーキについて勉強した! それで親を超えたんだ! 主の親父が死んだ理由を教えてやろうか! 主が作ったケーキが、自分のものを超えたからだよ! 錯乱したあの親父、頭の血管を切って死にやがった! 女の方は、それを見て主を悪魔と罵りながら病院で悲劇のヒロインぶって死にやがったんだ!」
ユウリは、静かにクリームを見ている。
警官隊が慌てた様子で周囲を取り囲んでいるが、すっと手を横に出して、手出し無用と指示。
エースバーンも、それで納得したように、少し下がった。
「カーネーションさんは迫害されていた。 それは今までの情報で私も理解出来た。 でもね、貴方の中でカーネーションはいつも貴方に笑顔を向けていたし、貴方の事を本当に大事にしていたし。 一緒にケーキを作ることを、喜んでいたんじゃないのかな」
「どうしてそんな事が分かる!」
「そうでなかったら、貴方が其所まで怒らないからだよ」
口をつぐむのは、クリームの方だった。
びりびりとした空気の中。
ユウリはなおも言う。
「カーネーションさんは、こんな場所に生まれて、酷い扱いを受け続けても、まだ笑って好きな事に打ち込める立派な人だったんだよ。 だから、今からするべきなのは、その名誉を回復すること。 カーネーションさんは、迫害をするような心が寂しい愚かな人達なんて、何とも思っていなかったはずだよ。 それならば、クリーム。 貴方がするべき事は、その名誉を回復して、それを見届ける事では無いのかな」
「……私は、主と一緒にケーキが作りたい」
「それは出来ないよ。 ゴーストポケモンにもでもなっていないかぎりね。 でも、そんな風になっていたら、クリームにも分かるでしょう?」
「……」
もう一度、多少柔らかい口調で、ボールに戻ってと言われる。
頷いて、ボールに戻る。
人間に怒気を叩き込んだのに。平然と受け流された。新しいチャンプというのも、伊達では無いという事か。
いずれにしても、何だか気が削がれた。
膝を抱えて、しばし待つ。
人間の美的基準など知らない。
あいつはああいったけれど。迫害されて主が寿命を縮めたのは確実だ。それはクリームが一番側で見ていたから、一番よく分かっている。
だが、どうしてだろう。
ユウリは怖れず、クリームに立ち向かってきた。
クリームとの苛烈な戦いで、眉一つ動かさなかったダンデと同じように。
しばしして。
ボールから出される。場所は、主の店のあった場所だった。
時間はどれくらい経過しただろう。モンスターボールの中では、どうも時間の経過がわかりにくい。
だからいつも主には、ボールから出しておいてくれと頼んでいたし。
必要がないとき以外には、ある時期から入らなくなった。
草ぼうぼうの空き地だった其所には。
既に、店が建てられていた。
綺麗になっているが、間違いない。主の店だ。側に立っているユウリが、笑顔を向けてくる。
「どう、再現完璧でしょ」
「お前がやったのか」
「……お前がやったのか、かな? そうだよ。 内装も再現完璧。 見てみる?」
目を細めた後、中に入る。確かに、主と暮らした場所だ。内部は、いつでもケーキが作れる状態だ。
厨房に入る。
今も主がそこにいそうだ。
主は成長するにつれ、体が大きくなるのが速かった。だから、途中からは、主の親父に殴られても、あまり痛そうにはしていなかった。それを見て、更に主の親父は暴力を激化させたが、途中から効果がないと判断して、暴言に切り替えた。
ケーキ造りの腕前は兎も角。最低の親だった。
そんな親に一切主は似なかった。独学でトレーナーの資格を取ると、クリームを捕まえて、マホイップに進化させてくれた。
ポケモンにニックネームをつけないトレーナーも多いけれど。主はクリームに、ホイップクリームの守護者という意味で、そのままクリームという名前をつけてくれた。
クリームは、主が。
今でも大好きだ。
目を拭う。
「サプライズ」
ユウリが言うと、奥から若い女が、ケーキを持ってくる。主が作ったものと同じケーキである。
ただし、まだデコレーションはしていない。
「レシピはね、幸い残ってたんだ。 この家が取り壊されるとき、ロトム達が外されたんだけれど。 そのロトム達を追跡して、そして回収したの。 ロトム達が全部証言してくれたし、記録されていたレシピも出してくれたよ。 後はプロに頼んだんだ」
勿論、薬物など入っていない。
主はいつも楽しそうにケーキを作った。
菓子作りは計量との勝負だ。レシピをまず再現する事。そして、レシピ造りは更にその先になる。
レシピを完全再現するところまで行けていなかった両親を主は超えて。
そして自分でレシピを改良。何処でも通用するケーキを作るところまで腕を上げた。
この辺りは、クリームが主と一緒に勉強したことだ。両親が「外に出すと恥ずかしい」という理由で主を外に出さなかったから。一緒に初等学校の内容から勉強したのである。
「デコレーション、してくれるかな」
「……」
「これは完全に再現したカーネーションさんのケーキだよ。 それに対して、クリームが酷い事なんてできないよね」
「卑怯なやり方だな……」
苦笑いするユウリ。
ため息をつくと。クリームは、ケーキにデコレーションを施す。体が血に染まった今も、ホイップクリームを産み出すことは出来る。
やがて、主のケーキが再現された。
すぐに試食が行われる。
皆が笑顔になるのが分かった。
ユウリは美味しい美味しいと食べているし。奴が呼んだらしい数人も、ケーキを絶賛していた。
中にはダンデやキバナ、カブやポプラもいる。
毒殺を怖れなかったのだろうか。
いや、ユウリは読んでいたのだ。クリームが、主のケーキにそんな事など出来るはずもないと。
「ユウリくん。 これは……これは実に素晴らしいケーキだね。 幾らでも食べられそうだ」
「俺は辛党なんだが、このケーキはむしろ食べやすいな」
「ちょっと年寄りにはたくさんは食べられないが、まあ充分な出来だろう。 紅茶を淹れておくれ」
「確かに素晴らしい。 だが素晴らしすぎてカロリーを取りすぎてしまいそうで困るね」
口々に言っている。
クリームは、静かにため息をつく。
いつの間にか、側にザシアンがいた。
「これからあのケーキを売るそうだ。 カーネーションブランドという名前でな。 更に、数年前のお前が起こした事件に関して、関連する情報も公開するという話だ。 両親および近隣住民によるカーネーション氏への虐待、その結末の大事件とな」
「……」
「彼奴はチャンピオンとしての財力と人脈を生かして、カーネーション氏の名誉を回復させた」
見ろと言われる。
取材が来ている。ガラルを代表するトレーナー達が掛け値無しに絶賛するケーキ。これ以上の宣伝効果は無いだろう。
主が此処にいたら。
笑顔を浮かべているだろう。ユウリは、それを全て計算した上で、やってのけたと言う事だ。
「次はお前の番だ」
「……何をしろというのだ」
「そうだな。 あの者を助けて、殺した以上に救え。 今のお前なら、それが出来る筈だ」
しばし、沈黙した後。
分かった、と応える。
確かに、主はこの光景を見れば喜ぶだろう。そして、それ以外に、クリームが望むものなんてない。
自分の命だってどうでもいいのだ。
あの日に見た絶望は、既にユウリがどうにかしてくれた。人間は揃ってクズだと思っているし、今だってそれに違いは無い。
だが彼奴は例外だ。主と同じように。
だったら、今度は此方が筋を通す番か。
程なく、ケーキの試食会が終わる。ユウリは取材のカメラに向けて、かなり険しい表情を作った。
「今、一連のケーキを見せました。 いずれもが薬など使われていない、清潔な行程で作られたとても美味しいケーキである事はガラルのチャンピオンである私ユウリが保証します。 でも、この素晴らしいケーキを作り出したカーネーション氏は、見かけが醜いという理由だけで迫害され続けました。 それでも笑顔を絶やさなかった人だと言うのにです」
声を、更に一段低くするユウリ。
もう、年齢とは別の風格を備えていた。
「ガラルは平和な地方です。 他の地方に比べて犯罪組織も少ないし、治安も良いし、貧富の格差も小さい。 だけれども、覚えておいてください。 こういう悲劇はどこにでもある。 私は、少しでもそんな悲劇を、減らしていきたいと思っています」
悪い事を目論んでいる奴がいるなら、躊躇無くぶっ潰す。
非道を働く奴は、容赦なく叩き潰す。
そうユウリは告げたに等しい。
カメラマンが青ざめていた。どうやら、クリームの完敗らしい。ならば、義理の分だけでも。この少しまだ危なっかしいチャンピオンに、協力してやるのもありだろう。
そう、クリームは思った。