呪い?絶望?関係ないわ!ティロ・フィナーレ!   作:なお

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第十話

 ……ふぅ、初めてここまで魔力を一気に消費したわね。

 

 集中状態を解くように大きく息を吐く。

 全身が軽い疲労に包まれている。魔法少女として初めての感覚だった。ソウルジェムを見るとしっかりと穢れが溜まっていた。それでもまだ魔力に余裕があるのは最後の一撃をキャンセルしたからだ。

 

 でもワルプルギスの夜戦の前に本気の時の感覚を掴めておけてよかったわ。……二人の実力も把握できたしね。

 

 まず暁美さんへ視線を向ける。

 暁美さんは腰が抜けてしまったのかその場にへたり込んでいた。暁美さんは今起きたことが信じられないといった様子でこちらを見つめている。しかし、その瞳の奥にあるのは確かな希望だった。

 

 ……暁美さんについてはおおむね予想通りの実力ね。一つ気になることがあったけど、まあそれは本人に直接聞けばいいわね。

 

  私は暁美さんの元へ向かう。

 

「……お疲れ様、大丈夫? 立てるかしら?」

 

 手を伸ばしそう声をかけるも暁美さんは私の手を呆然と見つめるのみ。しかし、すぐにはっとしたように我に返ると私の手を両手で物凄い勢いで掴むとそのまま立ち上がる。そしてその勢いのまま暁美さんは私の顔と触れ合いそうなほど顔を近づけてくる。

 

「す、すごいです! 勝てます! 巴さんがいれば必ずワルプルギスの夜に! 絶対に!」

 

 昨日以来、私の前だけでは本来の暁美さんの性格と思われる物腰が柔らかな様子を見せていたが、今は興奮した様子である。気持ちは分かるが流石に顔が近い。

 

「……いったん落ち着きましょうか。とりあえず少し離れてくれるかしら」

「え、あ、す、すみません。私、つい……」

 

 我に返った暁美さんは顔を赤くし恥じるようにおずおずと身を引く。

 

「二つ聞きたいことがあるわ」

「は、はい。なんですか?」

「嫌なことを思いださせて申し訳ないけれど、前回の世界線で鹿目さんはワルプルギスの夜を倒したのよね、それも一撃で。私とその時の鹿目さん、どちらが強いかしら? 参考にさっきの私の最後の本気の一撃、もし発射していたら半径一キロ前後位のものは跡形も無くなる程度の威力よ。……正直に答えてもらって結構よ」

 

 私のこの質問に暁美さんは険しい表情を浮かべて顔を伏せてしまう。どう答えようか迷う様子を見せるもすぐに顔を上げる。

 

「……巴さんは間違いなく強いです。でも魔法少女になったまどかには遠く及びません。次元が違います。恐らく世界中の魔法少女が束になっても勝てないかと……。どうしてまどかがそんな強さを得てしまったのかは分かりませんが……」

 

 ……やはり。

 鹿目さんは最早私でも手の届かないほどの因果を集めてしまっている。

 この世界ではさらに強くなっていると言うのだから本当に笑えないわね。

 ……唯一の懸念材料ね。

 まあそれでも……。

 

 予想通りの回答に私は意識を切り替えて次の質問にいこうと思ったのだが、佐倉さんの様子を見て中断する。どうせ興味本位の質問だった、また今度でいい。

 

「ごめんなさい、二つ目の質問は保留にするわ」

 

 そう言って暁美さんの返事を待たずして佐倉さんの方へ早足で近づいて行く。

 佐倉さんは戦いの直後、放心状態だった為、しばらくそっとしておいたのだがようやく我に返ったようだった。佐倉さんは怯えるような様子で地面にうずくまっている。

  

「佐倉さん」

 

 声をかけると、佐倉さんの全身がびくんっと反応する。私の接近にも気付いていなかったらしい。佐倉さんは恐る恐る顔を上げてくる。

 佐倉さんは酷く怯えていた。戦い前の勝気な佐倉さんの面影はどこにも無かった。潤みを帯びた緋色の瞳が不安げに揺れている。

 

「……あ、マ、マミさん……。わ、私、頑張ってきたんだ……本当に。ぜ、全力でも戦った……。本当だよ……。ま、まさか、ここまで実力差があったなんて……。あ、そ、その……、み、見捨てない、よな……? な、なあ……、私、マミさんに見捨てられたら……うぅ」

 

 私のパートナーになりたいという魔法少女は多い。それを知っているからこそ佐倉さんはこんなことを言ってしまっているのだろう。

 私が佐倉さんをパートナーに選んでいるのは彼女に魔法少女としての素質があると確信しているからだ。現にこの戦いで私の目に狂いが無かったことが証明された。断言できるが、この世界で私以外に佐倉さんに一対一の真っ向勝負を挑んで勝てる魔法少女はいないだろう。

 佐倉さん自身も私の隣に立つに相応しい実力を持っていると自負していたのだろう。しかし、私と佐倉さんの間にかなりの実力差があることを知り、ショックを受けたのだろう。元々私は全力で戦うように言っただけだったが、佐倉さんの中ではそれで済む問題では無かったらしい。

 

「……佐倉さん、私はあなたを見捨てないわ。寧ろよく頑張ったわね。ここまで強くなっているなんて私の想定以上よ。相当努力したのでしょうね。……私のパートナーは佐倉さんしかいないわ」

 

 私はしゃがみ込み、佐倉さんの頭を優しく撫でる。

 

「……ほ、本当?」

 

 佐倉さんは不安そうに上目遣いで聞いて来る。普段からこれくらいしおらしいといいのに、なんて思ってしまう。

 

「ええ、本当よ。私が嘘を吐かないのは佐倉さんもよく知っているでしょう」

 

 私がそう言うと佐倉さんは安心したように笑顔を浮かべるとおもむろに私に抱きついてくる。普段なら即引き剥がすところだが今は仕方ないので優しく抱き返してあげる。

 

「へへ、そ、そうかー。マミさんのパートナーは私しかいないかぁ……。なぁ、マミさん。頑張ったって言うなら、一つお願い聞いてよ」

「……全く、調子がいいいのね。……お願いの内容によるわね」

 

 ケーキを作ってくれなどのお願いであればいいが……。

 

「……今日、一緒に寝てほしい」

「…………それ以外は?」

「……なあ、マミさん? ……私、頑張ったんだよな? だめなの?」

「………………わかった……わ」

 

 私がそう言うと佐倉さんは私から離れて「よっしゃー!」と言いながら嬉しそうにはしゃいでいる。先ほどまでの様子は演技だったのではないかと疑うほどに。この気持ちの切り替えの早さが彼女が魔女化せずに今日まで生きてこられた理由なのだろう。

 また顔を蹴られたら即佐倉さんをリボンで拘束しようと心に誓いながら、最後に残った二人の方へ顔を向ける。

 視線の先にいたのは勿論鹿目さんと美樹さんだ。

 遠目だが、二人とも驚いている様子である。というよりは何が起きたのかよく分からないといった感じだ。まあ、無理も無い。目の前で人知を超えた存在が力を振りかざしたのだから。

 

 私は二人の元まで向かって行く。暁美さんと佐倉さんも私の後を付いてくる。

 私達が目の前にやってくると二人は少し恐れるように私達を見てくる。先ほどまでの私達を憧れるだけの様子とは明らかに違う。これだけでも二人に魔法少女としての戦いを見せられたのは良かった。

 

「どうだった二人とも? あれが魔法少女の戦いよ。……まあ、実際は魔女と戦うのだけれどね」

 

 私の問いに先に答えたのは美樹さんだった。

 

「そ、想像以上に凄くてびっくりしました……。で、でも! やっぱり私は巴さんがかっこいいと思いました! ねえ? まどかもそう思うでしょう?」

「え!? う、うん……で、でも凄く危険なんだなって思った、かな……」

「ま、まあそうだけどさ……。でもその危険を顧みず巴さんは町の平和を守っているんだよ? まさに正義のヒーロー! やっぱり憧れちゃうじゃん!」

 

 鹿目さんはかなり揺れているようだけど美樹さんはまだ魔法少女への憧れのほうが強いらしい。なら魔法少女の残酷な真実の一つ目を伝えようかしら。全てを知った上でもなお、魔法少女になりたいのなら私は美樹さんを止めるつもりは無い。

 

「分かったわ……。でもその前にまずこれを見て頂戴。美樹さん、あなたはまだ魔法少女がどういう存在かは完全に理解していないようだから、今からそれを実演するわ」

「え? 実演? それってどういう?」

 

 美希さんと鹿目さんは私が何を言っているのか理解できないようで、訝し気な表情を浮かべている。そしてそれは暁美さんと佐倉さんも同様だった。

 

「巴さん……、何をするつもりですか?」

 

 暁美さんはそう聞いて来るが私は答えない。代わりにこう言う。

 

「鹿目さん、美樹さん。これから二人に見せるのはかなりショッキングなことよ。……望むなら今から見る記憶は後で消すから安心して頂戴」

 

 そう言いながら私は魔法で剣を具現させ右手に持つ。切れ味が良いことが一目で分かるほどその刃は輝いている。

 

 

 

 そのまま私は一切の躊躇なく剣を振り下ろし自身の左腕を斬った。 

 

 

 

 激痛と共に大量の血飛沫が周囲に飛び散る。少し遅れてボトッと左腕が地面に落ちる鈍い音が周囲に響く。

 

「……え? は? え、え??」

「き、きゃあああああああ!!!???」

 

 美樹さんは何が起きたのか理解ができず、鹿目さんは目を覆い悲鳴を上げる。暁美さんと佐倉さんも私の行動の意味を理解しつつも正気を疑うような目を向けてくる。

 

「二人とも目を背けずしっかり見て! これが魔法少女になるということなのよ!」

 

 二人の悲鳴をかき消す私の声に二人は硬直したように静かになる。完全に恐怖に染まった二人の瞳が私を捉える。私は激痛を感じつつ、集中し魔力を練り上げる。するとすぐさま私の無くなった左腕の部分が光り輝く。その光は暗くなり始めた辺りを照らす。そして光が収まったそこには完全復活した私の左腕があった。

 普段から痛覚に耐える訓練をしている成果だ。この程度の怪我であれば苦も無く回復できる。

 美樹さんと鹿目さんは理解不能といった風に口をパクパクしながら元に戻った私の左腕や地面に転がっている私の腕や周囲に飛び散っている血飛沫の後を見ている。混乱する二人に私は告げる。

 

「これが魔法少女よ。私達の魂はこのソウルジェムになり、肉体は魂を持たないただの空っぽの器になり果てる。言わば操り人形のようなものよ。だから今みたいに肉体が損傷しても魔力を使えば元通りよ。理論上は首を刎ねられようとも四肢を捥がれようともソウルジェムさえ無事ならば元に戻ることができるわ。……実際にはほとんどの魔法少女がショックのあまり魂が耐えきれないでしょうけどね。……少なくない魔法少女がこの魂の在りかの真実に気付き絶望してきた。だからあなた達にもこのことを伝える必要があると思ったわ。……いきなりごめんなさい。さっきも言ったけど望むなら今見た記憶を消すわよ」

 

 流石にこれには美樹さんも声を発する事すらできないほどのショックを受けたようだった。先ほどまでの私への憧れもほとんど無い。あるのは畏怖の感情のみ。鹿目さんに至っては恐怖のあまり顔を手で覆って泣いてしまっている。

 

 ちなみに私は魂の在りかはどこでもいいと考えている。私の魂が存在する、このことだけが重要なのだ。その場所などどうでもいい(美しいものであるという条件付きだが)。寧ろ健康や美容管理の側面から便利とすら思っている。このことを佐倉さんに言ったことがあるのだが、「……なんかキュウべえみたいなこと言うな」と言われてしまった。

 

 結局、二人とは会話ができる状態じゃなかったので、その日は解散となった。勿論、魔法で血と斬った腕をきれいさっぱり無くして周囲を綺麗にした。

 意外だったのは二人とも記憶の消去を希望しなかったこと。ただ色々考えたいとのことだった。

 今の気持ちが宙ぶらりんの二人とキュウべえを会わせるのは得策ではないと判断し、念のため二人の家には結界を展開しておいた。魔力は消費するが、キュウべえの営業トークに乗せられて覚悟が決まる前に契約などしてしまえば目もあてられない。

 私達は二人を家に送り届け、そのまま私達も自宅へと帰った。

 

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