呪い?絶望?関係ないわ!ティロ・フィナーレ!   作:なお

5 / 10
第五話

 杏子の前では緊張を解きつつあったほむら。しかしマミの登場によって一気に警戒態勢に入りながらマミに視線を向ける。杏子は完全に縮こまって俯き沈黙している。

 

 先ほどの佐倉さんの発言やその前に私が名付けた『技名』を大声で叫んでいたことも気になるがひとまずは保留とする。まずは暁美さんへの接触が優先だ。

 私は変わらず笑顔を浮かべつつ冷静に、暁美さんの瞳をじっと見つめ観察する。

 

 ……随分と警戒されているわね。

 …………異常なほどに。

 

 私は有名であるから相手に緊張されることはしばしばあるが、暁美さんのこれは違う。まるで魔法少女が初めて未知の存在である魔女と対峙した時に見せるような恐怖や畏怖の感情を強く孕んでいる。私は表の世界でも超が付くほどの優等生。そして裏の世界でも他の魔法少女と友好的な関係を築いている。このように警戒される理由は無いはず。しかし一方で私に対し期待を寄せている部分もあるように見える。

 そして私はあることを思いだす。

 

 ……この刺すような視線。最近感じたことがある。

 

 それは見滝原中でのこと。無数の尊敬や羨望の眼差しの中に紛れるように強い疑念を内包した視線を感じたのだ。こちらが勘付いたことにすぐに向こうも気付き気配は無くなった為、その正体の判明には至らなかった。

 

 ……なるほど、あれは暁美さんだったのね。

 

 ということは暁美さんは以前から私のことを観察していたということ。明らかに私に対して特別な何かを抱いている。

 

 ……本当、色々と謎が多いわね。

 

「初めまして、暁美ほむらさんよね? 私は巴マミ、あなたと同じ魔法少女よ。パートナーがお世話になったようね」

 

 そう言いながら私は友好を示す為握手をするべく右手をさし伸ばす。しかし暁美さんは差し出された手をやはり警戒するように見つめる。

 ちなみにパートナーと言う言葉に佐倉さんが一瞬嬉しそうにピクリと反応したのを見逃さなかった、一々可愛いなと思う。

 

「……巴マミ、私を知っているの?」

 

 随分と間を空けて返って来た言葉がそれだった。握手には応じなかった。仕方がないのでさし伸ばした手を下ろしつつ答える。

 

「ええ、先週に転校してきたのよね? 色々と噂になっていたからね」

 

 実際、暁美さんは容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀と学校中で噂になっていた。当然私の耳にも暁美さんの情報は入って来ていた。

 

「……そう。さっき佐倉杏子とパートナーと言っていたけどそれはいつから?」

 

 暁美さんはそんなことを聞いて来る。出会ったばかりでパートナーを結成した時期を聞くとは妙だと思う。

 

「一年前くらいかしら。でもどうして?」

「…………いいえ、別に」

 

 暁美さんはそう答えると黙ってしまう。これからどう動くべきか考えているように見える。

 ここまで暁美さんと話していて言いようのない違和感がずっとあるのだが、それが何かは分からない。その違和感の正体は今は置いておいて、今度はこちらからも探りを入れるようにする。

 

「ところで私も暁美さんに聞きたいことがあるの」

「…………何かしら」

「暁美さん……あなたが三週間後にワルプルギスの夜がやってくることを予言していると聞いたわ。どうしてそんなことが分かるのか聞きたいわ」

 

 私がそう聞いた瞬間だった。

 明らかに暁美さんが動揺した。瞳が揺れ、全身が強張っている。

 暁美さんは言おうか言わないか迷うように俯く、そしてちらりと後ろ……倒れている二人のほうを見つめる。いや、正確には鹿目さんの方。次いで佐倉さんのほうを見つめる。

 

 ……他の人には聞かれたくないということね。

 でもどうして一般人である鹿目さんまで?

 

 疑問が再び湧いてくるがここはまず……。

 

「その前に一般の子を放置したままになっていたわね。佐倉さん、もう暗いし二人を家に運んで頂戴。二人とも学生証を持っているはずだからそこから住所を調べて運んでね」

「え? ……あ、ああ、分かったよ。でもマミさんは?」

 

 突然話しかけられて驚いた佐倉さんだが、怒られなかったことにほっとした様子。

 

 ……安心して佐倉さん。保留にしていた件は家でたっぷり聞くからね。

 

「私はもう少し暁美さんとお話ししたいことがあるのよ」

「……そっか、分かった」

 

 佐倉さんはこちらの思惑を察してくれたのかそれ以上は何も聞かずに倒れている二人の元へ向かって行く。佐倉さんは言われた通り二人が持っていた鞄から学生証に記載された住所を確認し「じゃあ先に行くぞ。ほむらもまたな!」と言い残し二人を抱えて闇に消えていった。その様子を暁美さんはじっと見守っていた。やはり鹿目さんが気になるようだ。何かしらの繋がりがあるのだろうか。

 

「じゃあ暁美さん、お話の続きいいかしら?」

「……ええ。でも’そいつ’はご遠慮いただくわ」

 

 そう言ってほむらの瞳に強い怒りの意志が籠る。その視線の先にいたのは私の肩の上にいるキュゥべえだった。キュゥべえから聞いていた通り強い恨みを買っているようだ。

 

「だそうよ。悪いけどここは引いてくれるかしら」

 

 私としてはキュゥべえがいようがいまいがどちらでも構わなかったので冷たくそう突き放す。

 

「……やれやれ君達の話し合いには興味があったのだけどね、特に暁美ほむらの方にはね。……仕方ないから僕は行くよ」

 

 キュゥべえは残念そうにそう言うと私の肩から飛び降りる。そして潔くその場から去っていこうとしたその時。

 

「……そう言う事じゃないわ」

 

 全てを凍らせるような冷たく殺意に満ちた暁美さんの言葉が響く。そして暁美さんは洗練された動きで素早く銃を構える。その照準はキュゥべえに向けられている。

 

 パンッ!

 

 一発の銃撃音。

 一切の躊躇なく銃口から放たれた銃弾は正確にキュゥべえの脳天に向かって行った。しかしそれがキュゥべえに命中することは無かった。

 私の魔法で生み出した何重にも重ねたリボンによって銃弾を止めたからだ。銃弾を止めたのは初めてだったが案外簡単にできるものだ。

 キュゥべえはそのまま走って逃げて行く。

 

「邪魔しないで!」

 

 暁美さんが私に怒りをぶつけてくる。その表情はまさに鬼の形相。これまでほとんど表情を見せなかった暁美さんがこうまでなるとはね……。

 

「キュゥべえをいくら倒したところで何も生まれないわよ? 時間の無駄よ」

 

 別に私はキュゥべえが死のうがどうでも良かった。キュゥべえ自身がそう思っているのだから私もキュゥべえの生死には興味が無い。ただ暁美さんにそんなことをする意味が無い事を伝えたかっただけだ。

 しかし、暁美さんは私の言葉を聞くつもりは無いらしい。ここで暁美さんが僅かに意識を自らの腕に装着している円盤状の盾に向けた。

 嫌な予感がした私はほぼ反射的にリボンを展開し、暁美さんが動くよりも先に暁美さんの盾を装着した腕を拘束する。暁美さんはすぐさま右手に持った銃でリボンを射撃するが無駄だ。魔力を込めたリボンには通用しない。完全に拘束されたことを理解した暁美さんは苦虫を潰したように表情を歪める。

 

「やめなさい。言ったでしょう、時間の無駄よ。これはあなたの為を思って言っているのよ。キュゥべえなんて便利な情報入手ツールくらいに思っていた方がいいわよ?」

「……あなたに何が分かるのよ。あなただって魔法少女の真実を知れば……」

 

 震える口調で放たれた暁美さんのその言葉には、深い悲しみ、そして止めどない怒りが含まれていた。やはり暁美さんは魔法少女の仕組みを全て知っているのだろう。

 

 ……それにしてもいくら魔法少女とはいえ中学生の女の子にここまで重みのある言葉を発せられるものだろうか?

 

 そう考えた時、先ほど抱いた違和感の正体にようやく気付いた。人間は経験してきた事象の質と数によって放たれる格に差ができるもの。暁美さんの場合はそれがあまりにも中学生離れしているのだ。加えて未来を予言したことやこれまでの言動。

 

 まだ謎は多くあるけど……、だんだんと見えて来たわね。

 

 そこまで考えたところで私は少し考えてこう言った。

 

 

 

「それは魔法少女が絶望した時やソウルジェムが穢れ切った時に、魔女になることかしら?」

 

 

 

「なっ!?」 

 

 なんでも無いように言った私の言葉に暁美さんが驚いたようにその目を大きく見開く。信じられないことが起きているといった感じだ。

 しばらく静かに待っていると暁美さんが少し平静を取り戻し質問してくる。

 

「……巴マミ、あなたは魔法少女としての運命を知り何も思わなかったの?」

「何も思わなかったわけじゃないけれど私の精神を揺るがすには至らなかったわね。それに魔法少女の運命と言ったけれど、それは少し違うわ」

「……どういうこと?」

「魔法少女である私は魔女にはならないもの、絶対にね。私が絶望することなんてあり得ない。キュゥべえはどうにかして私を絶望させたいようだけれど。……ふふふ、それこそ無駄と言うものだけれど」

 

 またも暁美さんは驚いた表情を浮かべる。反論しようとしているようだが言葉が出てこないらしい。あまりに私が自信に満ち溢れていたからかもしれない。実際、私自身、私が絶望する姿など想像できない。

 そして徐々に暁美さんが私を見る目が懐疑的なものから希望を見出したものに変化していくのを見逃さなかった。もういいかしらね……。

 

「……さあ、最初の質問に移らせてもらうわね。暁美さんはどうしてワルプルギs」

 

 私がそこまで言葉を発したその時だった。 

 

「巴マミ! ……いえ、巴さん!」

 

 突然暁美さんが駆け寄って来て私の手を取った。これは私も想定外であり、一瞬反応が遅れてしまう。

 しかし暁美さんの表情を見て私は理解した。

 

 

 

 …………もう、限界だったのね。

 

 

 

 私の目の前には顔をくしゃくしゃにし、今にも泣きだしそうで絶望に飲みこまれそうになっている一人の少女がいた。

 その今にも消え入りそうな少女は私の顔を見てこう言う。

 

 

 

「巴さん……、私と一緒にワルプルギスの夜を倒してください!」

 




たくさんの感想ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。