呪い?絶望?関係ないわ!ティロ・フィナーレ!   作:なお

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第六話

 肉体と精神に不自然なほどの乖離がある少女……暁美ほむら。

 一体どんな人生を歩んでくればこうなってしまうのか。

 彼女が背負う絶望の重さはいかほどか。

 それを支える希望はもう消えかかっている。

 ここで私が彼女を支えてあげなければ少女はやがて壊れてしまうだろう。

 かつての佐倉さんを彷彿とさせる。

 

 私の……巴マミの正義の心が大きく鼓動する。

 

 私は震える暁美さんの手を優しくそっと握り返す。

 びくっと暁美さんが恐れるように反応する。

 暁美さんの揺れる瞳が私を見つめる。

 私は暁美さんの願いに応える。

 

 

 

「……ええ、勿論よ。安心しなさい。あなたが背負う呪いを私という希望で全て打ち消してあげる」

 

 

 

 いつも通り私は私の信念に従い、一切の迷いなく、確固たる自信で以て答える。

 私の言葉を聞いた暁美さんの瞳が一瞬大きく見開かれる。

 そして、……ふっ、と暁美さんの全身を支える糸が切れたように突然私の胸に倒れ込んでくる。

 

「ああ、これで……やっと……まどかを…………」

 

 最後にそう呟いた暁美さんはそのまま気を失ってしまった。極度の精神状態から解放された為だろう。私はそんな暁美さんを優しく抱き留める。

 

 ……まどか、ね。

 

 ひとまず私は驚くほど軽い暁美さんをお姫様抱っこの要領で抱きかかえるとそのまま自宅へと帰った。

 

 

 

 

 

 自宅に戻っても暁美さんは静かに寝息を立てて寝ていた為、ひとまず佐倉さんのベッドに寝かしつけた。

 そのまま私が夕食を作っていると佐倉さんが帰って来た。

 

「ただいまー。ふぃー、今日は流石に疲れたな……」

 

 佐倉さんは大きく息を吐きながらも慣れた様子で手洗いとうがいを済ませてそのままソファにダイブする。これでもだいぶ行儀が良くなった方だ。

 

「佐倉さん、おかえり。二人はちゃんと送り届けたの?」

「うん、バッチリ。ただ一人は最後目を覚まして姿見られちゃったな。確か美樹さやかって人」

「……そう、とりあえずお疲れ様」

 

 二人の内もう一人の子は美樹さんというらしい。鹿目さんと美樹さんの二人についてもフォローが必要だ。早速明日の放課後にでも二人と接触することにしよう。

 

「それより! 今日の晩御飯はなんだ!」

 

 先ほどの疲れはどこへやら、満面の笑みを浮かべて意気揚々とこちらに向かってくる。本当に楽しみなようで食事の時間になると毎回こうだ。私の作った食事を美味しく食べる為に好きだったお菓子をあまり食べなくなったほどだ。

 

「今日はビーフシチューよ」

「……ビーフシチューか。……楽しみだなぁ」

 

 トロンとした表情でそう呟いた佐倉さんはそのまま鼻歌交じりに自主的に皿出しなどの食事の準備を始めた。

 切り出すなら今だろうか。

 

 

 

「……それで? 暁美さんと一緒にいる時に言ってた、私を恨むってどういう事かしら?」

 

 

 

 瞬間、佐倉さんの動きがピタリと止まる。

 カタカタと震え出すと同時に佐倉さんの顔からどんどんと血の気が引いていく。

 

「…………ち、違うんだよ、あれは……その、なんというか。実験というかなんというか……」

「私のことを馬鹿にしたのかしら?」

「……いや、なんというかs」

「『はい』か『いいえ』で答えなさい。それ以外の言葉を口にしたら夕食抜きよ」

「………………」

「答えなくても夕食抜きよ」

「……………………はい」

「私が名付けた技名のことを馬鹿にしたのかしら?」

「…………………………はい」

「そう、……ふふふふふ」

 

 私は心底可笑しそうに笑いながら、笑顔を浮かべて鍋の火を消してから佐倉さんの方へ近づいていく。私が近づくごとに佐倉さんの顔色が恐怖に染まっていき、目尻には涙が浮かぶ。

 

 

 

「…………うぅ、使い魔に魔女も倒したのに……」

 

 完全に意気消沈した佐倉さんは、机に突っ伏しながら悲し気にそう呟く。

 あの後、『少し』だけ説教をし、今私は自分で作ったビーフシチューを口にしている。佐倉さんの前には空っぽになった皿が置かれていた。その皿にはサラダが盛られていた。本来は夕食抜きと思ったが、佐倉さんも言っていたように今日は頑張ったと認めてサラダを食すことだけは認めた。

 

「ああ、それから佐倉さんは今日はソファで寝てね」

「……え、ソファで? まあソファふかふかだし別にいいけど。でもなんで?」

「今、暁美さんが佐倉さんのベッドで寝ているのよ。暫く起きないだろうからね」

「なんだよ、ほむらがいるのかよ!」

 

 暁美さんが家にいると知って急に元気になった佐倉さんが興奮気味に立ち上がる。

 ……随分と暁美さんを気に入っているのね。遠目ではあったが暁美さんも佐倉さんには気を許していたように見えたし案外二人はいいコンビになるかもしれないわね。

 

「ええ、そうよ。だからうるさくしたらだめよ」

「ん、了解。ほむらとは明日だな。……あ、そうだ!」

 

 ここで佐倉さんは素晴らしいことを思いついたぞとばかりにきらきらとした目でこちらを見つめてくる。嫌な予感がする。

 

「ならマミさん、今日は一緒に寝ようぜ!」

「絶対嫌よ」

「即答かよ!? しかもなんで絶対なんだよ!?」

 

 怒れる佐倉さんを無視して私はお風呂に入る準備を進める。

 ……理由は単純。佐倉さんの寝相が悪いからだ。

 以前、一緒に寝ている時に顔を蹴られたことを私は一生忘れない。魔女でさえ私に攻撃を通せたものはいないのに大したものである。というよりなぜ一緒の布団で一緒の向きで寝たのに顔を蹴られることになるのか。

 

「そんなことより皿洗いよろしくね。私はお風呂に入ってくるわ」

「そんなことよりって……はぁ、ビーフシチューはたべられないし、まだ全然空腹だよ……」

 

 力なく机に突っ伏し不満たらたらな佐倉さんに私は思い出したかのように付け加える。

 

「あ、そうそう。お鍋は洗わなくてもいいからね。中身もできれば見ないこと」

「え? なんで?」

 

 不思議そうにする佐倉さんを横目に私は返事することなく部屋を後にした。

 鍋の中にはまだたくさんのビーフシチューがある。暁美さんも食べるかもと沢山作ってしまったからだ。中身が多少減ったとしても気付かないかもしれない。

 

 

 

 

 

 それから数時間が経過し、そろそろ日が変わる時間帯になった頃。

 自分の部屋で机に向かって勉強をしていた私は辞書ほどの厚さがある書物を閉じると軽く伸びをする。机に置いていたティーカップを手に取り口につけようとしたその時、部屋の外から気配がした。

 

 ……コン、コン。

 

 遠慮がちな弱めのノック音が静かな室内に響く。

 ちなみに佐倉さんはノックをしない。

 

「どうぞ、入っていいわよ」

 

 そう言うと、かちゃりと扉が開く。そこにいたのは佐倉さんのパジャマに身を包んだ暁美さんだった。暁美さんは緊張した様子で部屋に入ってくると私の方を困ったように見つめる。どう声をかけていいか分からないらしい。

 

「どうぞ、座るところが無いからベッドにでも腰掛けて頂戴」

「……は、はい」

 

 やはり暁美さんは借りてきた猫のようにぎこちない動きで言われた通りベッドに腰掛けた。私は回転椅子を引き暁美さんの方に向きを変える。

 

「よく眠れたかしら?」

「……はい、おかげさまで」

 

 そう言う暁美さんの顔色はすこぶるいい。その言葉に嘘はないだろう。ぐっすり眠れたのは久しぶりだったに違いない。

 

「ごめんなさいね。寝にくいと思って勝手にパジャマに着替えさせちゃったわ」

「い、いいえ! そんな、寧ろありがとうございます……」

 

 私の言葉に暁美さんは慌てたように首を横に振りながらそう言う。

 

「……あの、気を失った後色々よくしてもらってありがとうございます」

 

 暁美さんは人が変わったように慎ましく頭を下げながら丁寧な口調でお礼を告げてくる。これが本来の暁美さんの姿なのだろう。

 

「いいのよ、気にしないで。それより紅茶飲む? 入れるわよ」

「……いいえ、大丈夫です」

「そう」

 

 私は持ったままになっていたティーカップをゆっくりと口につけ流し込む。少しぬるくなった紅茶が乾いた喉を潤す。暁美さんはそんな私を見て意を決したように聞いて来る。

 

「あ、あの……、さっきの、そのワルプルギスの夜を一緒に倒すのを了承してくれたのは……その現実ですよね」

 

 恐る恐ると言った感じの質問。暁美さんの中ではまだ信じ切れない部分があるのだろう。

 私はゆっくりとティーカップを机に置き、まっすぐに暁美さんの瞳を見据える。暁美さんは少し恥ずかしそうにしつつもしっかりと私の視線を正面から受け止める。

 

「現実よ。そして私は絶対に嘘を吐かないし自分の発言を撤回することも無い。命に賭けてもいいわ。だから安心して頂戴」

「……そう……ですか……」

 

 じわり……と暁美さんの目尻に雫が浮かぶ。

 それを皮切りにどんどんと暁美さんの瞳から涙が溢れてくる。

 暁美さんは涙を何度も拭うがそれでも涙は止めどなく流れ続ける。

 

「う……ご、ごめん……なさい。で、でも、わた、私……もう駄目だとお、おもってたから……まどかを……守れないと……おもった……から」

 

 今日私と出会い、そこから少し時間を置いてようやく暁美さんも心から現実に起きていることを信じることができたのだろう。

 誰にも弱みを見せることなく、頼ることもできずに孤独に戦ってきたのだろう。

 私は静かに立ちあがり暁美さんの元へ歩み寄る。そのまま暁美さんの横に腰を下ろしそっと優しく抱きしめた。

 

「……暁美さんに何が起きたのかは分からない、でもこうして胸を貸すことはできるわ。今のうちに泣けるだけ泣いておきなさい。そして溜まっていたものを全て流してしまいなさい。次に泣く時は、ワルプルギスの夜を倒した時に、ね」

 

 その後、しばらく暁美さんは幼子のように私の胸の中で泣き続けた。

 その間私はただ静かに暁美さんを優しく抱きしめ続けた。

 

 

 

「落ち着いたかしら?」

 

 私の言葉に暁美さんは私の胸から顔を離し顔を上げてくる。

 目を赤くした暁美さんは、顔を少し紅潮させながら優しく天使のように微笑みかけてくる。まさに憑き物が落ちたという表現がよく似合う。

 私が男だったら惚れていたかもしれない。

 

「…………はい、ありがとうございます」

 

 暁美さんはそのまま私から少し離れると顔を伏せる。

 しばらくしてゆっくりと顔を上げて私の瞳をまっすぐに見つめる。

 そこにはもうか弱い少女はいなかった。

 その表情は力強く希望に満ち溢れている。

 

 

 

「巴さんには全てお話します。私が見てきた全てを……」

 

 

 

 

 

 暁美さんから話を聞き終わる頃にはとっくに日付は変わっていた。

 暁美さんは親友を守る為に、幾度となく同じ時間を繰り返していたのだ。それは私の予想からそう大きく外れないものであった。

 しかし話を聞いたうえでも謎のままのことが多く残った。

 

 まずは鹿目さんの事。

 なぜ鹿目さんは魔法少女としての大きな素質を持っているのか……いや、正確には持ってしまったのか。 

 前回の世界では、ワルプルギスの夜を一撃で葬るほどの実力を備えていたらしい。正直、今分かっている情報から、’現在’の純粋な私の実力でワルプルギスの夜を一撃で倒すのは不可能だと考えている。

 そうなると、鹿目さんは人知を超えた素質を兼ね備えていることになる。

 暁美さんの幾度となく繰り返された時間遡行が関係しているのは間違いないが。

 

 そしてワルプルギスの夜。

 何度も対峙した暁美さんから話をきいて確信した。

 やはり異常に強すぎるのだ。

 魔女は魔女になる前の魔法少女の実力に比例する。鹿目さんの例があるとはいえ、基本的にワルプルギスの夜ほどの実力を持った魔女が生まれる為には、私のような才能に恵まれた魔法少女が魔女になる必要があるだろう。それほどの人物であると確実に歴史に何かしらの影響を及ぼしているはず。それほど有名であれば誰が元なのか分かりそうなものである。しかし、キュゥべえにもワルプルギスの夜の元になった魔女が誰なのか見当もつかないと以前に聞いている。

 

 そして最大の謎。それは私だ。

 どの時間軸にも『私』はいなかったらしい。

 しかし、これはいい。

 私がここにいる。それが全て。

 私は私が信じることを全力でするだけ。

 それによって生まれる結果がそのまま私の存在理由になるだけのこと。

 

「……あの、私の話、信じてもらえますか?」

 

 暁美さんが緊張した面持ちで問いかけてくる。

 

「ええ、信じるわ。私、人が嘘を吐くと不思議と分かるのよね。暁美さんは一切の嘘を交えず話してくれたと確信しているわ」

 

 私の答えに暁美さんは「……よかった」と嬉しそうに微笑み照れくさそうにしている。やはり天使のようである。私にあの表情は真似できまい。

 

 ……鹿目さんのことはこれから探っていくとして、やはりワルプルギスの夜の実力をもっと正確に測りたいわね。

 

 そう考えた私は暁美さんにあるお願いをする。

 

「暁美さん、一つお願いがあるの」

「はい、巴さんのお願いならなんでも聞きます」

 

 暁美さんは私からお願いされることは喜びだとばかりに食い気味にそう答えてくれる。

 

 

 

「私と戦ってくれないかしら?」

 

 

 

 

 




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