呪い?絶望?関係ないわ!ティロ・フィナーレ!   作:なお

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第八話

 鹿目さんと美樹さんは私の説明を時折相槌を打ち静かに聞いた。

 暁美さんは私の発言に一々大きく頷き、佐倉さんは退屈そうにミルクと砂糖が大量に入ったコーヒーをちびちび飲んでいた。

 暫くしてキュゥべえが行うような魔法少女や魔女についての表向きの説明が終わった。

 案の定というか美樹さんは会った時以上にその瞳をキラキラさせて勢いよく机に乗り出す。

 

「それじゃあ巴先輩は、昨日私達を助けたみたいに魔女から人々を守る為に日々戦っているということですよね! ……ま、まさか巴先輩への尊敬度がさらに上がることになるとは……。か、格好いい……格好良すぎる!! まさに正義の味方ですね!!」

「……そうね。ただ昨日、あなた達を助けたのは暁美さんと佐倉さんだけれどね」

「う~、この気持ちもう抑えられない! 巴先輩!! お姉様と呼ばせてください!!」

 

 この美樹さんからの私の呼び方についてのお願いは、私が反応するよりも前に暁美さんが「却下よ」と冷たく一刀両断する。

 

「なんでそこで転校生が出てくるのさ!」

「美樹さやか……あなたはなぜそうも愚かなの……」

「はぁっ!?」

 

 そのまま二人は見るに堪えない幼稚な口喧嘩を始めてしまう。暁美さんが若干昨日の冷徹な状態に戻っている気がしつつも、鹿目さんのほうに視線を向ける。

 美樹さんが盛り上がる一方で鹿目さんはなぜか困惑している様子だ。

 

「……魔女、……魔法少女……、やっぱりあの夢は……」

 

 不安そうな表情を浮かべた鹿目さんの小さな呟きを私は聞き逃さなかった。

 ……夢? それにこの反応……。心当たりがある……?

 …………まさか。

 

「鹿目さん、どうしたのかしら? 何か分からないことがある?」

「あ、えと……その……」

 

 鹿目さんは顔を僅かに下に向け、視線が虚空を彷徨う。言おうか迷っているようだ。

 

「気になることがあるなら何でも聞いてね? それがどんなに不思議なことだとしても私は絶対に馬鹿にしないわ」

 

 穏やかな口調でそう促すと、鹿目さんはごくりと喉を鳴らし、意を決したように顔を上げ私を見つめる。

 

「……その、私最近夢を見るんです。ちょっと不鮮明な部分もありますけど、……ほむらちゃんが、多分その魔女と戦っているのを。魔女は歯車にスカートが覆っているような見た目でした……。その光景を見るのが怖くて……」

 

 ……やはり。

 私の中でばらばらだったピースが形を為していく。

 

「まd……鹿目さん、それは本当なの?」

 

 これには美樹さんと喧嘩していた暁美さんも反応する。本人にとっても予想外だったようで酷く驚いている。

 

「う、うん……」

「……そんな。どういうこと……?」

 

 暁美さんは意味が分からないといった風に険しい表情を浮かべ思案している。美樹さんも突然の暁美さんの豹変に戸惑っている。

 

 基本的に異なる世界線と現世界線が交わることはあり得ない。

 しかし鹿目さんは別の世界線の自身の記憶を持っている。

 それは鹿目さんが別の時間軸の鹿目さんと繋がっていることの何よりの証明。

 

 そして鹿目さんは途轍もない魔法少女としての素質を持っている。

 魔法少女としての素質は、その人が背負う因果の大きさで決まる。

 

 そこまで条件が明確になることで一つの仮定を生み出すことができる。

 別の世界線の鹿目さんの因果と目の前にいる鹿目さんの因果が繋がり、一つの巨大な因果となっているのではないか、と。

 

 そうなった要因は暁美さんの時間遡行。

 

 暁美さんが時間遡行を行うたびに、鹿目さんの因果が増えていったのであれば全てに説明がつく。

 その仮定が正しいのであれば、暁美さんが時間遡行を行うたびに鹿目さんの魔法少女としての実力もどんどん上がっていったはずである。

 

 ……暁美さんが鹿目さんを助ける為にしてきたことが最終的に史上最強の魔法少女を生み出すことになるなんて。

 平凡な少女である鹿目さんがそんな莫大な力を持ってしまって正気を保ち続けられるわけが無い。身に余る力を得た者が辿る末路は決まっている……破滅だ、つまり絶望。そして鹿目さんはワルプルギスの夜すら赤子のように感じるほどの最強の魔女へ変貌するのだろう。

 

 キュゥべえからしたら鹿目さんは絶好の餌に映っていることでしょうね。

 

 ……なんて皮肉な話なのかしらね。

 

 もし私と出会わずにこの真実に辿り着いてしまえば、暁美さんは間違いなく心が折れていただろう。

 

 

 

 ……良かった、暁美さんがその事実を知る前に私と出会ってくれて。

 

 

 

 そして勿論、これは今鹿目さんに伝えるべきでは無い。

 この事実は鹿目さんにとって重くのしかかるだろう。

 それにほぼ確信しているとはいえ、まだ仮定に過ぎないのも事実。

 慎重に場を整えて対応に当たる必要がある。

 キュゥべえの動向にも注意しなければ。

 ここをうまく突かれたら、一気に崩れる可能性がある。

 

「話してくれてありがとう、鹿目さん。心当たりはあるからしっかりと調べたうえでまた伝えさせて頂くわね。安心して、その夢はあなたに危害を与えるものではないわ」

 

 ひとまず私は鹿目さんを安心させるように笑顔を浮かべてそう答える。

 そして暁美さんにも「暁美さんにも後で説明するわね、大丈夫、不安になることはないわ」と暁美さんにだけ聞こえるように小声でフォローしておく。

 暁美さんは私の顔を見つめるもすぐに安心したように「分かりました」と微笑を浮かべて答えた。

 

「そ、そうですか。巴先輩に相談して良かったです……。あの、すみませんがお願いします」

 

 鹿目さんは安心したようにそう言うとようやくその顔に笑顔が戻った。

 

「……もし夢を見るのが怖いなら、佐倉さんの幻惑魔法で見ないようにもできるわよ」

 

 突然振られた佐倉さんは「……え、できるかな」と若干不安そうに呟いている。

 しかし、ここで意外にも鹿目さんはその瞳に力強さを込めてこう答えた。

 

「……いいえ、大丈夫です。正直よく分からないけど私はあの夢から逃げたらだめな気がするんです」

 

 そう答える鹿目さんの言葉にはその瞳同様に決して折れぬ強い意志が込められていた。

 

 ……へえ。気弱そうな子だと思ったけど。

 

 このように潜在的に強い意志を持っている人は存外少ないものだ。

 鹿目まどか……、案外あなたのような子が私の予想もできないような凄いことをやってのけたりしてね。

 

 

 

「……そう、強いのね。鹿目さんのような人、私好きよ?」

 

 

 

「え、ええ!?」

 

 私の発言に鹿目さんが顔を瞬間的に赤くして慌てる。

 そして他の三人も同時に反応する。

 

「お、おい! マミさん! 私にそんなこと言ったことないのに! どういうことだよ!」

「……わ、私はどうすれば」

「なあっ!? まさかのまどかに寝取られたぁ!! 私の方が巴先輩を想っているのにぃっ!」

 

 まさに阿鼻叫喚。地獄絵図である。

 

「……みんな、静かにね」

 

 流石にこれだけ大声を出されると他のお客さんに迷惑なのでそう注意する。私としたことが失言だった。

 そこから三人が落ち着くまで少しの時間を要した。

 

 

 

「あ~、やっぱり格好いいな! 魔法少女!」

「……うん、そうだね。確かに皆さんがしていることは町の人達の役に立っていて素敵だなって思うな」

「だよね! 流石まどか! それでこそ親友だ!」

 

 盛り上がる美樹さん。鹿目さんは夢のことがあるせいか少し後ろ向きではあるものの、魔法少女を前向きに捉えているようだ。

 二人は私達三人に尊敬の視線を送る。しかし、真実を知る暁美さんと佐倉さんは険しい表情を浮かべる。

 

「鹿目さん、美樹さん。あなた達に伝えるべきことがまだたくさんあるわ。……まず初めに、あなた達二人には魔法少女になる素質があるわ」

 

 それを聞いた瞬間、二人はポカンとするも、すぐにそれは歓喜に変わる。

 

「ええええ! ほ、本当ですか! なりたいです! なりたいなりたい! 私も巴先輩みたいになりたいです!」

「……わ、私に魔法少女の素質が。それで人の役に立つことができるなら私も……。あの夢みたいな状況になっても私も力になれる……」

 

 各々抱く想いの違いこそあれど、二人とも魔法少女になることに乗り気である。

 

「……それじゃあ、ここからは魔法少女のことについて’ちゃんと’教えていくわね。まず理解してほしいのは、魔法少女になるということは、一般的な『人』から大きく外れた存在になるということ。といってもこれは各々の価値観に大きく左右されるのだけれどね。けれど少なくない魔法少女がこれによって苦しめられてきたのも事実……」

 

 この説明に二人はピンと来ないとばかりに困惑した表情を浮かべる。無理も無いだろう。

 

「まあ、これは説明するより直接見てもらった方がいいわね。……さあ、皆、行くわよ」

 

 私の呼びかけに暁美さんは緊張したように「……はい」と答え、佐倉さんは待ってましたとばかりにその目を輝かせる。

 暁美さんと佐倉さんの様子に益々混乱する二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は廃工場が密集する地帯にやって来ていた。念のため、辺りを調査したが人の気配は無し。ここなら思う存分暴れられるだろう。

 鹿目さんと美樹さんは少し離れたところから見てもらっている。当然流れ弾の被害に遭わないように強力な防御結界を展開している。

 この戦いを通して魔法少女がどういうものか伝わるはずだ。

 

「それじゃあ、佐倉さん、暁美さん。二人一緒に私にかかってきなさい。勿論全力でよ。魔力の消費は気にしなくていいわ。グリーフシードを多く持ってきているから」

 

 ちょっとした空き地になっている場所で私は夕陽を背負いながら、暁美さんにと佐倉さんにそう言う。

 

「えっ!? 私も!? ……おいおいいくらマミさんでもそれは無茶だぜ?」

 

 しかし佐倉さんは何を言っているんだとばかりにへらへらと笑う。

 

「確かにマミさんは強い。一対一じゃ絶対に勝てないさ。マミさんが最強の魔法少女だと信じて疑っていないよ。でもほむらもベテランの魔法少女だ。そして私もな。どんな魔法少女でも私達二人を同時に相手にして勝つなんて無理だよ。私だって日々強くなっているしね」

 

 暁美さんも表情には努めて出さないようにしているが、佐倉さんの意見に同意しているようだ。

 そんな二人に私は言う。

 

「もう一度言うわ。二人一緒にかかってきなさい。全力でね」

 

 同時に私は魔法少女の姿に変身する。

 これ以上、無駄な時間を使わせるなと圧力をかける。

 そんな私に、佐倉さんはどうしたもんかと思案するもこれ以上は無駄だと考えたのか変身する。暁美さんも同じように変身する。

 佐倉さんはどこか余裕を持ちながら槍を構える。

 暁美さんは真剣な様子で構える。

 

 …………甘い。

 

 二人の構えをみてそう結論付ける。

 佐倉さんについては、これまで佐倉さんの前で力を抑えすぎた弊害ね。

 暁美さんは私の言葉通り全力を出そうとしているのだろうがそれでも緊張感が足りない。

 二人とも形上だけの全力を出そうとしている。

 ……仕方ないわね。

 

 

 

「……二人とも随分余裕ね? あなた達が全力でないと判断したら……」 

 

 

 

 私は少し間を空け、鋭い口調で告げる。

 

 

 

「あなた達には私の元から去ってもらうわ」

 

 

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 この発言に二人とも驚愕の表情を浮かべる。

 先に変化があったのは佐倉さん。

 私が決して冗談を言わないことを知っている佐倉さん。

 先ほどから一転、慢心を一切捨て目を細め深く息を吸い深い集中状態へと移行する。そして私に鋭い視線を向け、肌を刺すような殺気を向けてくる。

 その姿はまさに歴戦の魔法少女。

 このあまりの変わりように暁美さんも驚く。

 

「…………おい、ほむら。やるぞ。……マミさんは絶対に冗談も嘘も言わない」

 

 佐倉さんは静かに暁美さんにそう言う。その額からは一筋の汗が流れる。

 そんな佐倉さんのただならぬ様子を見た暁美さんはようやく状況を理解したのか、佐倉さん同様に先ほど以上の集中力を見せ、左腕に装着した盾を構え、私に鋭い眼光を向ける。

 

 ……やればできるじゃないの。

 

 私は十数メートルほど後ろに飛びのき、暁美さんと佐倉さんから適度な距離を空ける。

 これで舞台は整った。

 

「……これが地面に落ちたら開始よ」

 

 私はそう言うと魔法で創り出したコインをちょうどお互いの中間地点に落ちるように弾く。

 放物線を描きくるくると高速で回転しつつ落ちていくコイン。

 そして……、

 

 

 

 キンッ!

 

 

 

 三人が同時に動く。

 

 

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