呪い?絶望?関係ないわ!ティロ・フィナーレ!   作:なお

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第九話

 ……これだけ距離があればっ。

 

 コインが落ちると同時にほむらは動く。常人には不可視な動きで盾を装備した左腕を動かす。

 ほむらは時間を止めさえすればこちらの勝ちだと確信していた。

 マミには自身がこれまで経験してきたことを話したが、固有魔法の詳細の能力についてまでは話していなかった。そもそも能力を知っていようが、この状況下でなら関係ない。

 ワルプルギスの夜のような規格外の敵を除けばほぼ無敵の能力であるとほむら自身でさえ考えていた。

 

 巴さんの考えは把握している。

 ワルプルギスの夜戦に向けて互いの実力を明確する為。

 まどかと美樹さやかに魔法少女の本質を示す為。

 そして巴さんが全力でかかってこいと言うのなら私はそれに従うまで。

 

 でもどうして杏子まで……。

 私だけで片を付けてみせる。

 杏子の助けは必要ない。

 そう意気込むほむらだったが、気付く。

 

 黄色く輝くリボンが目前まで迫っていることに。

 

 それは衝撃波を纏いながら銃弾を数段上回る速度でほむらに襲いかからんとしていた。杏子には手を出さずほむらの足を狙った攻撃。

 間違いなく距離はあったはず。これほど僅かな時間でここまでの攻撃を繰り出すことなんて可能なのだろうか?

 

 ……ありえない。

 

 魔法少女でこの攻撃を初見で捉えることができる者がどれだけいるだろうか。魔法少女として途方もないほどの経験を積んでいるほむらは驚愕しつつも何とかギリギリで自らに迫る攻撃を視認できた。

 ほむらはタッチの差で魔法の発動は間に合わないと判断し全力で回避行動に移る。

 しかし間に合わない。

 致命傷は免れるかもしれないがダメージを食らうことは間違いない。魔力で肉体を回復させる余裕をマミが与えるとは考えられない。

 

 攻撃がほむらに直撃する直前。無数の赤い鎖がほむらを守るように凄まじい速さで張り巡らされていく。

 次の瞬間、リボンと鎖が接触し轟音を立てる。衝突から生まれた衝撃がアスファルトを砕くほどの威力でほむらを襲い吹き飛ばそうとする。

 瓦礫や砂塵が大量に舞い上がり視界が悪くなる中、ほむらは後ろから支えられる。

 

「おいっ! ほむら! しっかりしろっ! 一瞬でも隙を見せたらやられるぞ!」

 

 杏子が芯の籠った力強い口調でそう叫ぶ。その視線は土煙の向こうにいるであろうマミに向いており、一瞬でも気を抜くものかという執念にも近い気迫を感じる。

 杏子は今の攻撃にも余裕で反応し、しかも相方を助けるといった偉業を成したにも関わらず、一切油断しないどころかどんどんと集中力を高めていっている。最初、二人がかりならマミに勝てると言ってのけただけのことはある。

 ほむらは、ついさっき必要無いと思った杏子に助けられたことを強く恥じ、己の認識が甘かったことを痛感する。

 杏子は自分が知っている杏子より遥かに強い。そして当然マミも。自分が知っている杏子も確かにベテランの魔法少女だったが今の攻撃には反応できなかったはずだ。

 

 ほむらは油断していたわけでは無い。手を抜いていたわけでも無い。

 しかし自身の能力なら、杏子の助けも必要無いと判断したのは事実。

 完全に二人の実力を見誤っていた。

 ほむらはこの戦いは格上の相手に対し格上の相方と組んで挑む戦いであることを認識する。

 

 未だ視界が悪い中、全方位から魔力の反応を感じる。すぐに無数のリボンが私達を探し求めるように縦横無尽に襲い掛かってきていることを理解する。

 ほむらは急いで杏子から離れると手に持った銃で応戦する。とてもではないが、時間停止の魔法を発動させる余裕は無い。杏子も鎖状にした槍を器用に振り回し危なげなく攻撃を捌いている。

 

(ほむら! 私が幻惑魔法を使うから土煙が落ち着いたら一斉に攻撃に出るぞ!)

 

 杏子がテレパシーでそう伝えてくる。

 

(……分かったわ)

 

 速さと攻撃力を伴ったマミの攻撃を対処するのに必死なほむらは、短くそう答えて根気強く土煙が明けるのを待つ。

 そして視界がどんどんと回復し、完全回復した時私は言葉を失った。

 

 …………え?

 

「…………おいおい、まじかよ。どんだけ馬鹿げた魔力だよ……」

 

 これには杏子ですらも絶望を孕んだ口調でそう小さく呟く。その額からは大量の冷や汗が噴き出ている。

 周囲全てが大量のマスケット銃によって隙間なく囲まれていたのだ。マスケット銃の数は、数百、数千、もしかしたら万にすら届くかもしれない。その銃口は全てこちらを向いている。私達はいつの間にか直径十数メートルほどのマスケット銃でできたドームの中にいたのだ。いったいどれほどの魔力があればこれほどの所業が可能なのか。

 

 唯一マスケット銃が設置されていない真上には大樹のような巨大なリボンを足場に立っていたマミが冷静にほむらと杏子を見下ろしていた。マミはこれだけの魔法を発動させているにも関わらず息一つ乱れていない。

 

 ……凄い、巴さん。精神面だけでなくここまで強くなっているなんて。

 

 ほむらの想像を遥かに超えるマミの実力にほむらは頼もしさと同時に空恐ろしくすら感じてしまう。

 マミの乗っているリボンがゆっくり上がっていき、代わりに先ほどまでマミがいたところにマスケット銃が生み出される。これで完全に囲まれてしまった。

 

 今この瞬間もリボンによる攻撃は続いている。

 当然だが時間停止魔法は使えない。

 その上、全方位からの無数の銃撃。

 誰が見ても状況は絶望的だった。

 

 ……でも、諦めないっ。

 

 ここで諦めるような魔法少女をマミは仲間だとは認めないだろう。

 そしてそれは杏子も同じ。

 

「……くっ! 諦めてたまるかっ!! 私だって必死になって強くなってきたんだ! ほむら! 私がありったけの魔力を使ってリボンと銃弾を蹴散らす!! その間に何とかしてくれ!!」

 

 杏子はこの絶望的状況を払いのけるようにそう叫ぶとその言葉の通り、膨大な魔力を注ぎ込む。そのまま自身とほむらの分身を計十人生み出し、周囲に散らばっていく。少しでも狙いを分散させる狙いだろう。

 しかし瞬間的に膨大な魔力を使用した負担は大きいのか、杏子の鼻からは血が流れる。杏子は荒い息を吐きながらこれから来る攻撃に備える為、集中力を極限まで高める。ほむらも杏子に引っ張られるようにリボンを捌きつつ反撃のチャンスを逃すまいと集中していく。

 そして。

 

 マスケット銃が一斉に火を噴いた。

 

 一瞬、周囲一帯が目も眩むほどの光に包まれる。

 光が収まると、無数に降り注ぐ銃弾がほむらと杏子に襲い掛かかる。さらにその銃弾一つ一つが魔力によって分身体含めて私達全てに平等に命中するように軌道を修正させて来ている。

 

「うおおおおおおっ!!!」

 

 ほむらでさえ一瞬怯むほどの杏子の気合の叫びと共に、最大限の魔力を込めた鎖化した槍を振り回し銃弾とリボンを薙ぎ払っていく。銃弾と槍がぶつかり合うたびに火花が飛び散る。

 銃弾とリボンの大部分を分身体へ誘導できていることもあり、杏子とほむらにダメージは無い。

 だが瞬時に分身体を見極めたマミは銃弾の軌道を再度修正し、私達に向けてくる。しかし杏子も負けていない。鎖化した槍を振り回す度に遠心力を利用してどんどんと加速させていく。しかも速さを得る度に精度を失うどころか益々洗練された動きに昇華していくという曲芸の域に達した動きで無数の銃弾を打ち払っている。

 ほむらでさえ思わず認めるほどのまさに神業であった。

 

 ここで初めてほむらに時間停止の魔法を使う機会が訪れた。

 

 杏子が身を削って生み出したコンマ数秒の時間。

 はっきり言ってここまでこれたのは杏子のおかげ。ほむらは寧ろ足手纏いにしかなっていなかった。それを理解した上でほむらは絶対にこれで決めると強く決意し、盾を構えて魔法を発動させる。

 

 その瞬間、世界の時間が止まる。

 

 無数の銃弾も、リボンも、杏子もピタリと止まる。

 魔法の発動は成功。

 これで私達の勝利は間違いない。

 ほっと胸を撫でおろす。

 

 

 

 ダンッ!

 

 

 

 聞こえてくるはずの無い銃声にほむらの心臓が跳ねあがる。

 銃声のした方向、横合いに慌てて視線を向けると、マスケット銃を片手で構えたマミが十メートルほど離れたところにいた。マミは時間停止の中でもなぜか動けている。

 マスケット銃から放たれたと思われる銃弾は少し進んだところで時間停止の影響を受けて宙に浮いていた。銃弾が止まっている位置から見て自分の足を狙ったものだと理解する。

 マミは止まった銃弾を見た後、新たにリボンを生み出しすぐに時間停止の影響を受ける様子を見て時間停止の世界の中での物体の振る舞いを見極めているようだ。無論、こちらへの警戒も一切怠っていない。

 

 ど、どうしてっ!?

 

 ほむらは驚愕する。ほむらはマミに細心の注意を払いつつ急いで自身の全身を見渡す。

 そして、あった。

 足首に極小の細さのリボンが巻き付いていた。いつ巻きつけられたのかは分からない。

 

 ど、どうすれば……。今、時間停止を解除すれば大量の銃弾に当たるし、ギリギリの状況で銃弾とリボンを捌いている杏子の気を散らすことに繋がってしまう。

 ……かといって私一人でなんて。

 

 どうするべきか混乱した頭で思案しているとマミからの視線を感じ、ほむらは急いで顔をマミへ向ける。

 

 マミはほむらに対し、なぜ時間を止めた程度で油断した?とでも言いたげにこちらを厳しい視線を向けてきている。そして新たなマスケット銃を片手に持ち、こちらに向かってくる。そのスピードは速くあっという間に距離を詰めてくる。

 

 ……っ!

 

 ほむらは銀色に輝くハンドガンを取り出し全弾連射する。魔力が込められて強化された複数の銃弾はまっすぐにマミに向かって行く。

 しかし、マミは走りながらマスケット銃を持っていない方の手ですべての銃弾を最小限の動きのみで難なく掴み取ってしまう。

 

 そ、そんなっ!?

 

 マミの予想外の対応で後手を踏んだほむらはそれでも新たなハンドガンを取り出し応戦せんとする。しかしそのハンドガンもすぐに手からは弾き飛ばされてしまう。

 

 な、何がおきてっ……。

 

 マミが先ほど掴み取った銃弾の一つを高速で投擲し、ほむらのハンドガンを弾き飛ばしたのだが、最早ほむらはそれすらも視認できなかった。

 そのままマミのマスケット銃から放たれた銃弾がほむらの足元に命中してバランスを崩した。

 ここまで来るとほむらには対抗する術は無かった。

 至近距離まで詰め寄られたほむらはそのままリボンで四肢を拘束されてしまう。リボンはとても強固でほむらの力ではどうしようも無い。

 そして、時間停止の魔法も解除してしまう。

 

 ……杏子!

 

 魔法が解除された瞬間、マスケット銃でできたドーム内を埋めていた大量の銃弾は全て杏子に向かって降り注ぐように軌道を変える。

 だが極限の集中状態にある杏子はなんとその猛攻すらも全て槍一つでしのぎ切る。

 

「……はぁっ! はぁっ!」

 

 杏子は膝をつき重度の疲労をその表情に浮かばせている。

 すぐに杏子はほむらが拘束されていることやマミがいつの間にかドーム内にいることに気付く。しかし驚きはしつつも慌てずに冷静にマミの次の手を警戒しなんとか立ち上がって構えを取る。

 しかし、未だに疲労の様子が見えないマミを相手に流石にこの状況は不利だと考えているのか、その表情は苦しい。

 

 その時、ほむらは見た。

 マミが杏子を見て満足そうに小さく笑うのを。

 

「……へへ、マミさん。どうよ? マミさんの全力の攻撃耐えてみせたぜ? 澄ました顔してるけど実はちょっとやばいと思ってるんじゃないの?」

 

 挑発するような杏子の言葉。もう杏子には戦う力はほとんど残っていないだろうが、完全に勝機が無いとも思っていないようだ。

 確かにあれほどの膨大な魔力を使用したのだからマミにも魔力がほとんど残っていないと考えるのが普通、それはほむらも同感だった。

 しかし、本当にそうなのだろうかとほむらは疑問に思う。マミのこの余裕は本当に虚勢なのだろうか。

 

 杏子は残り少ない魔力を使用し、自身の分身体を一人作り出す。二人となった杏子が槍を構える。

 対峙するマミは右腕を静かに上げると辺りを囲っていたマスケット銃が消える。あの量のマスケット銃を具現させるだけの魔力が尽きたのかもしれない。

 既に夜になっているのか辺りは真っ暗だ。魔法少女は目に魔力を込めれば暗闇でも問題は無いが、ほむらはすぐにおかしいと感じる。

 

 ……なに? 

 何かおかしい。

 辺りにあった建物はどこ?

 

 どれだけ目を凝らしても周囲にあった廃工場の建屋が見えないのだ。さらに目に魔力を込めて視力を高めて周囲を観察する。

 

 

 

 …………え、なに、これ?

 

 

 

 ほむらはあり得ない光景を前に思わず息を吞む。

 周囲を埋め尽くしていたのは無数の砲台だった。

 先ほどのマスケット銃とは比べ物にならないほどのここら一帯全てを覆いつくすほどの数。

 それらの砲口は全て杏子に向けられている。幻影などでは無い、全て本物だ。

 ほむらの記憶が正しければあの砲台はマミの必殺技『ティロ・フィナーレ』を放つ為の砲台であったはず。一発だけでも強力だったあの技がこの数……。一体どれほどの魔力がこれに込められているのか想像することもできない。

 

「…………え、あ、あ……あぅ」

 

 杏子も周囲の状況を視界に収めるも、何が起きているのか分からないと言うように目を見開き小さく言葉にならない声を漏らす。

 そしてこの状況を打開する術が無いと判断した杏子はそのまま槍を手放して力なくぺたんと崩れ落ち分身体も消えてしまう。杏子はそのまま顔を俯かせてしまう。それはパートナーであるマミとのあまりの実力差にショックをうけているようでもあった。

 その様子を見たマミは戦闘態勢を解いた。同時にほむらを拘束していたリボンも解けた。

 

 こうして私達の戦いは終わった。

 




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