仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ アズール×ムラサメ DUST TO DUST 作:正気山脈
――数年前。
日本国内の離島に、森林の中で人目から隠すように建てられた施設の地下にて。
全身傷だらけで顔から爪先まで血塗れの少年が一人、担架の上に乗せられゆっくりと運ばれていた。
衣服はボロボロで裸同然、左腕は異様な方向に折れ曲がり、右腕はほとんど皮一枚で繋がっているような状態で、出血も酷い。
にも関わらず、少年を運ぶ者たちの顔に、助けようという必死さは感じられなかった。
「今回はこいつが犠牲者か。かわいそうに」
「訓練で結果を出せなかったのはこのガキの方だ、かわいそうも何もない。しかもほぼ食われかけ……生きてるのが不思議なくらいだな」
「さしずめ廃棄品、もしくは戯我の残飯ってところか?」
「アッハハ! 違いない!」
担架を動かす男たちの、品のない不愉快な笑い声が彼の耳に聞こえて来る。
だが全身を駆け巡る痛みによって抗議の声を上げる事はできず、ただ苦しむばかりだ。
そして、運搬の途中でガタッと担架が揺れた後、彼の身体に辛うじて血で引っ付いていた腕章が剥がれ落ちる。
自分が自分であるという唯一の証、90という番号の付いた腕章が。
「あ゛……あ゛、あ゛ぁ゛、あ゛あ゛ーっ!!」
少年は必死でそれに手を伸ばそうとするが、当然届くはずなどない。そもそも、今の彼の腕は動かないのだから。
「このガキ、うるせぇな! 暴れんじゃねぇよ!」
「大人しくしろ90番! 死にたいのか!?」
「おい速く黙らせろ!」
藻掻いていると、男たちはそう言って少年の頭を殴りつける。
「キュクロプスの眼に捕まった時点で、お前はこうなるって決まってたんだよ! 今更抵抗するんじゃない!」
それでも少年は自分自身を示すその腕章に手を伸ばし続け、何度も、何度も顔を殴られてしまう。
このまま続けていては、死んでしまうと分かっていても。
しかし、その時。
鼓膜を貫くような警報音と共に、敵襲のアナウンスが施設の中を駆け巡った。
「マズいな、逃げるぞ!」
まだ正体は分かっていないが、敵性組織が現れたのならば命の危機。急がなくてはならない。
すると、男たちの一人が少年に視線を落とし、ニヤリと笑う。
「このガキはここに置いて行こう、運が良ければ保護させて時間を稼げるだろう」
「あぁ、どの道利用されて死ぬ以外にそいつの価値はない!」
「俺たちが生き残る方が先決だからな! 悪く思わないでくれよ90番!」
言いながら男の一人が担架を蹴りつけて放置し、出口を目指して走り出した。
ところが。
「うぉっ!? 誰だお前ら!?」
「し、侵入者!?」
「撃て、撃てえぇー!!」
そんな声が遠くから聞こえ、さらに銃声が何度も何度も廊下に響く。
やがて音も声も止むと、複数名の静かな足音が、今度は少年の方に向かって来るのが聞こえた。
そうして次に自分の顔を見下ろすのは、真っ黒なローブを羽織り『黒い涙を落とす血走った眼球』の意匠を施されたフードで顔を隠した集団。
「君、無事かね? 我々は奈落秘神教、虚無の使徒様からの啓示によりここに参上した」
代表者の長身の女が声をかけるが、少年はこの状況に困惑し、さらに負傷のせいでまともに舌が回らなかった。
「……うあ、あ……ぐ、うぅる」
「うぅむ、酷い怪我だな。喋れるか? 名前は?」
応急治療を施す女に問われて、少年は息を切らしつつもゆっくりと口を開き、発声する。
「ぐ……
名を聞いて女は頷き、グレイの名を囁くように呼んで、再び質問を投げた。
「君には二つの選択肢がある。ひとつはここに留まり、
女が、グレイの目を覗き込む。
まるで宇宙の果てに続いているかのような、何も映さない底知れぬ深く黒い
「我々と共に、虚無に至る道を往くか」
見つめながら言い、女は手を差し伸べて来る。
痛みに苦悶しながらも、少年はその手を静かに握り締めた。
そして――。
血に濡れた廊下に残されたのは、施設の職員の男たちの屍と、誰も乗っていない担架だけであった。