仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ アズール×ムラサメ DUST TO DUST   作:正気山脈

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「帝久乃市に脅威が!?」

 紫乃たちが旅行に出かけてから、数時間後のこと。
 図書館地下にあるLOT磐戸支部でセピアからの連絡を受け、晴明は大きく目を見張って問い返す。
 幼さに見合わない高い演算能力から夢という形で未来を予知した彼女の言葉は、LOTの封魔司書たちにとって大きな意味を持つのだ。

「相手は戯我なのですか?」
『……そうではない、と思いたい。戯我だとすればアレは……最悪神の敵(サタン)級だ』
「バカな……!?」

 神の敵は、戯我の中でも最大級の脅威を示す称号。
 ムラサメたちがかつて戦った最強の敵、クロノスもそれに位置する超獣戯我だった。
 つまり、今回の敵はそれと同じか――それ以上の存在、という事になる。

「事情は理解しました。丁度現地には行雲 紫乃とロゼ・デュラックが向かっています、彼らに対処を命じましょう」
『いや、その二人では戦力が足りない。増援を送って欲しい』
「しかし、ここを手薄にするのもマズいでしょう。他に誰を向かわせれば……」

 そんな風に頭を悩ませていると、不意に背後から声がかかった。

「な~に面白そうな話してんだァ?」

 そこにいたのは、ニッと不敵な笑みを浮かべる銀髪の少女。元ロゴス・シーカーにして現LOT磐戸支部の封魔司書、クリスチーナ・バグローヴィだ。
 彼女の隣には、同じくロゴス・シーカーからLOTに移った新人の封魔司書、ロッソがいる。

「アタシらも混ぜろよ、晴明のおっちゃん!」
「おい!? 僕は関係ないだろ!?」
「水臭ェ事言うなよ、お前アタシの後輩だろォ~? 大人しく先輩の言う事聞けホラ!」
「おいパワハラだぞそれ!? や、やめろぉぉぉー!?」

 彼らの漫才のようなやり取りを眺めて幾分か冷静さを取り戻したようで、晴明は溜め息と共に思考を再開する。
 現在、藍原 織愛は()()()()()()席を空けており、磐戸には支部長代行としてフェイが在籍している。彼の戦闘能力なら、少なくともこの街が落とされる心配はないはず。
 しかし念のため、できる手を可能な限り打っておきたい。他に、協力してくれそうな人物はいなかっただろうか。
 そう考えた晴明の脳裏に、一人の男の存在が浮かび上がった。

「……一応、彼にも声をかけてみるか……」


PAGE.03[陰る青空]

 ムラサメとマガツムラサメの戦い、ヤミーの出現。

 それが起きた時、翔は調査のために現場からやや離れた位置にある港にいた。

 

『翔! 敵はアミューズメントパークにいる、しかも見た事もない怪人だ! お前もすぐに来てくれ!』

「分かった、待っててね兄さん」

 

 通話を切った後、翔はパルスマテリアラーを駆り猛スピードで走り抜けていく。

 未知の怪人の出現。翔の中にひとつだけ、その心当たりがあった。

 以前、同じように『ファッジ』や『メタロー』という怪人が現れた事がある。それらは翔たちの住む世界とは全く別の次元の存在であり、同じように異なる世界の仮面ライダーや人間を襲撃していたのだ。

 その当時は別世界のライダーである仮面ライダーデイナと共に解決できた。仮に、今回の事件の犯人が()()()()()だとすれば。

 

「ヴァンダル・リーグ……! もしヤツらが刈人や奈落秘神教と手を組んだのだとしたら、最悪だ!」

 

 ギッと歯を軋ませながら、翔はバイクを飛ばし続ける。

 だが、街に入ったところで彼の前に、頭上から二つの影が現れた。

 翔はそのままブレーキをかけず、さらにスピードを上げ撥ね飛ばそうとするが、その前に敵影は回避に動く。

 

「……しつこいな、こんな時に邪魔しないで欲しいんだけど」

 

 パルスマテリアラーを止めた翔は、立ち塞がる敵、刈人のリガレとマルムを睨みつけ吐き捨てた。

 二人は返事をせず、その代わりにリガレが右手を挙げる。

 すると、彼らを取り巻くようにして背後から恐竜ヤミーが姿を現し、道行く人々に襲いかからんと睨む。

 

「な……!?」

 

 リガレが腕を下げると、ヤミーたちは戸惑い恐怖する住民を視界に捉えたままピタリと止まった。

 その様子を見て、マルムはくつくつと笑う。

 

「クククッ、聞いた通りだぜこいつ」

「ああ。こんな身近に大きな弱点があったとは、分からんものだ」

 

 翔は彼らの様子を見て、すぐに理解する。

 リガレとマルムは、帝久乃市の住民を人質に取るつもりなのだということを。

 

「貴様は他の人間を見捨てることができない! その優しさとかいう甘っちょろい性質のせいでな!」

「こいつらを殺されるのが嫌なら、抵抗をやめて大人しく俺たちに嬲り殺されろ!」

《烈火剣呑!! クリカラリュウオウ!!》

『変身!』

《森羅万象天地万物生々世々!! 等しく喰らい呑み込む虚無の龍!! ディアボリックドラゴン!!》

 

 ヴォイドユニットが装着されたレリックドライバーD、ヴォイドライバーを装着したリガレは、以前と同様にモンストリキッドを起動。

 そしてそれをセットし、二人はサイフォスとデモゴルゴンへ変身する。

 

「クックックッ……変身しない貴様など、もはや怖くもなんともない」

「死にな、アズールゥッ!!」

 

 リガレは剣を、マルムは鋭い爪を振り被って襲いかかる中、翔は静かに腕を前に突き出す。

 すると、頭上からアズールの拡張アイテムである小型の宇宙戦闘機が飛来し、レーザーを放って二人の攻撃を妨害した。

 その行動を、リガレが咎める。

 

「抵抗したな!?」

「ギャハッ、マヌケが! お望み通りこいつらを殺して――」

 

 その瞬間。

 翔が拳を握り込むと同時に、翔以外のその場にいる者全ての動きが止まる。

 

「う……が……ぁ……!?」

「……な、に……ぃ……!?」

 

 人間だけでなく、飛び出そうとしていたヤミーも、さらにリガレとマルムも例外なく。

 翔がアクイラの力を行使してユニットとマテリアプレートに直接干渉し、ルクシオンムーンの時流操作を無理矢理発動したのだ。

 無論、これを発動するのは彼自身にとっても身体的・肉体的な負荷が大きい。故に翔は、即座に勝負を決めるべく走りながら素早くユニットをアプリドライバーへ合体させた。

 

《ビヨンド・ザ・ブルースカイ!!》

「変身」

《無限に拡がる大宇宙、エヴォリューション!!》

 

 迷いなくアズールメビウスに変身。形態はルクシオンムーン、すぐに時流操作を使い今度は自分の動きを速くする。

 続いてシノビソードを召喚し、シュリケンフリッカーを操作してその機能を発動した。

 

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

 

 加速状態の分身が何度も生み出され、本体と共に散開。

 そしてアズールセイヴァーとシノビソードを手に、周辺一帯の動きを止めているヤミーたちへ斬りかかった。

 当然ながら恐竜ヤミーたちは無抵抗のため、防御も回避も反撃もできないまま、斬られて爆散し数を減らしていく。

 広範囲に及ぶ敵勢の時流減速と分身全ての時流加速はアズール自身に多大な負荷をかけ、先の強制発動も相まって確実に彼を追い詰める。

 だからこその一撃必殺。修羅の如く即殺と疾走を繰り返した末、ヤミーを皆殺して時の流れを戻した時、実際の経過時間は僅か3秒であった。

 

「ハァッ……ハァッ……くっ、アァッ!!」

 

 さらに時間が正常に動くと同時に、消滅していくアズールの分身たちはアズールセイヴァーを全力投擲し、サイフォスとデモゴルゴンの頭を貫く。

 そこへ本体のアズールも接近すると、二人に拳を打ち込んで、今度こそ確実に仕留めるべく生体情報の書き換えを実行しようとした。

 だが。

 

「……なに!?」

 

 自分の拳に伝わった『異様な感触』に、アズールは瞠目し、刈人たちから距離を取る。

 聞こえたのは、硬貨が擦れるような金属音。そして感じた手応えは、前回とは明らかに違った。

 まるで()()()()()()()()()()()かのような。

 何よりも。

 

「デジブレイン化できない!?」

 

 その言葉を聞き、眼の前の刈人たちはくつくつと笑う。

 見れば剣で貫かれた傷口からは黒い泥は流れ出ておらず、代わりに粘質の泥に混じって無数の銀色のメダルのようなものが覗き出ている。

 

「なんだ……何が起きた!?」

「なに、特別なことではない。我々はこのメダルを媒介として肉体を変質させたというだけの話だ」

 

 言いながら二人が傷口を手で拡げれば、銀色のメダルだけではなく、別種のメダルが入っているところが見えた。

 銀縁で表面が透明であるために内部機構が見えており、リガレには大地に立つ鷲、マルムには鷲と蛇が抱き合う形で融合した姿のメダルが一枚ずつ入っている。

 そうして傷を手で塞いで閉じたリガレの語る言葉に、アズールは動揺を深めた。

 体があの奇妙なメダルに変わったところで、アクイラの力が通用しない道理などないはず。

 すると、今度はマルムがニヤリと笑いながら話し始める。

 

「いい事を教えてやんぜ! テメェのアクイラの力は()()()()()()()()()()()を解析して書き換えるってぇ話だが! このコアメダルとセルメダルは別の宇宙の技術で作られた物質だぜ、だからそれを取り込んだ俺たちには通じねぇのよ!」

 

 それを聞いて、アズールは疑念を確信に変えた。

 

「……お前たちが能力の詳細をそこまで知っているということは……やっぱり、ヴァンダル・リーグか!? ヤツらはアクイラの力をそこまで把握しているのか!?」

「なんだよ知ってんのか」

 

 つまらなさそうに両腕を放り出すデモゴルゴンに対し、サイフォスは終焔剣絶終を肩で担いで溜め息を吐く。

 

「マルム、少し喋りすぎだ。こいつの反抗自体が想定外なんだぞ」

「構いやしねぇって! あのクソッタレな力が効かねぇ以上、こいつにはもう俺たちを殺せねぇんだからなぁ!」

 

 デモゴルゴンが改めてアズールへ飛びかかり、サイフォスもそれに続く。

 分身は既に消滅しており、本体も先程の猛攻で疲弊している。それも刈人たちの狙い通りなのだろう。

 そして拳打と斬撃が青い戦士を襲う――寸前に、アズールセイヴァーとアズールセイバーV2がそれらの攻撃を防ぎ、逆に二人の身体を斬り裂いた。

 

「は……!?」

「……アレッ!?」

 

 愕然とし、斬られた胴の傷を押さえ見下ろす二人。

 痛みはなく、傷も黒い泥によってすぐ塞がっていく。

 だがアズールは、それでもなお攻撃を続ける。今度は頭・胸・腹への三段突きを瞬く間に放ち、サイフォスらに傷を負わせる。

 

「確かにアクイラの力で消せないのは厄介だ、正直驚いたよ。でもよく考えると()()()()()()()()()()()()()()

 

 勢いのある突きと斬撃の連続により、よろめく刈人たち。

 そこへ息をつかせる暇もなくスタイランサーが頭上に生成されて雨のように降り注ぎ、槍に貫かれたサイフォスとデモゴルゴンは揃って地に膝をついた。

 

「お前らが強くなったワケでも、まして僕が弱くなったワケでもない……力の差が覆らないんだから、結局勝つのはこっちだよ」

「な、あ……!?」

「消せないなら消せないで、ここにいるのが嫌になるくらい徹底的に痛めつけるだけってことだ!!」

 

 ルクシオンムーンの酷使を経てもなお、刈人二人を同時に相手取り足止めする程の余力があるというのか。

 その強力無比な戦闘能力を前にして、今度こそデモゴルゴンはそう思い、サイフォスと共に慄く。

 

「バッ……バケモンがァッ!?」

「だからさ。言われ慣れてるんだよ、それ」

 

 二本の剣をデモゴルゴンの足に突き刺して動きを封じ、アズールは拳の乱打を何度も何度も食らわせる。

 そして最後に顔面を蹴り砕かんと右足を上げた、その寸前。

 アズールの足に、金属音を立てて鎖が絡みついた。

 

「なんだ!?」

 

 危うく転倒しかかったアズールが振り向くと、そこには艶めかしい漆黒のくノ一装束に身を包んだ、フサフサとした長い尻尾が特徴的な怪人がいる。

 その姿はワオキツネザルに似て、黒い鎖が尻尾に巻き付いて縞模様を作っており、絡みついたものもそこから伸びているようであった。

 

「化神・バケキツネザル、推参」

 

 バケキツネザルと名乗った謎の女怪人は、尻尾の鎖を器用に操ってアズールの足から外すと、そのまま鎖の先端に付いた鎌で攻撃する。

 

「おっと!」

 

 自由になった足でそのまま飛び上がり宙を舞うも、鎌の刃が肩の装甲を掠め、さらに投げ込まれた煙玉が視界を奪う。

 そして瞬時に、煙を突き破って赤い鎖のようなものがアズールのアプリドライバー∞に投擲され、それが命中する。

 すると、ドライバーからユニットが分離して鎖に絡め取られ、フリーズしてしまったかのようにユニットが挙動しなくなってしまった。

 

「アズールメビウスが……封じられた!?」

 

 変身も解け、驚き呟く翔。

 好機とばかりにその彼へ迫らんとするサイフォスとデモゴルゴンに対し、翔はアズールセイヴァーとアズールセイバーV2を構え迎え撃たんとする。

 だが、バケキツネザルがそんな刈人たちを腕で制した。

 

「ひとまず今回はここまでです。退きますよ、お二方」

「はぁーっ!? バカ言ってんなよ、コイツの最強形態を封印した今がチャンスだろうがよぉ!?」

「そうやって油断したところを今しがた捻り潰されたばかりでしょう。この男、何を仕掛けて来るか分かったものではない」

「だったら尚更……!」

「どちらにしても我々がこの宇宙を滅ぼせば彼も纏めて死ぬ。呪いの鎖は発動しました。今は焦らず、一度体勢を立て直すべきです」

 

 デモゴルゴンが舌打ちし、サイフォスも不服そうにしながらも剣を下ろしてバケキツネザルの言に従う。

 全ての脅威が消えたのを確認すると、翔は構えた剣を地に突き刺した。

 

「……退いて、くれたか」

 

 そして深い溜め息と共にその場に座り込み、どっと汗を玉のような額から噴き出す。

 先刻の『問題ない』という発言は――全くの無策というワケでもないが――単なるハッタリだった。それを信じ込ませるためにあえて強気に振る舞い果敢に攻めていたが、実のところ疲労で限界が近かったのだ。

 今追い打ちをかけられたら危なかった。汗を拭って再びパルスマテリアラーを召喚し、翔はゆっくりそれに跨る。

 

「さて、どうしたものかなぁ……」

 

 使えなくなってしまったメビウスユニットに思いを馳せ、少年はバイクを走らせた。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 同じ頃。

 グレイ・ダストの変身するマガツムラサメと交戦していたムラサメは、彼が放った必殺の一撃を、近くにいた少年からかばって受けてしまう。

 それによって変身が解除され、紫乃は倒れ伏して意識を失った。

 

「……」

「おにいちゃん! おにいちゃん、おきて!」

 

 刀を握ったまま、呆然と紫乃を見下ろし立ち尽くすマガツムラサメ。

 紫乃の傍では、幼い少年が涙を浮かべて必死に彼を助け起こそうとしている。

 ほんの一瞬の静寂の後、マガツムラサメが紫乃と少年の方に一歩近寄ろうと動く、その刹那。

 

「そこまでだ!」

 

 左側面からそんな声と共にインクの矢弾が飛来し、黒き妖狐は即座に身をかわす。

 見れば、そこにいるのは緑色のアンダースーツの上に白銀の装甲とクリアブルーの装甲を併せ持つ戦士と、黄色のスーツの上に黒いアーマーを纏う女の戦士だった。

 新たな仮面ライダー、それもLOTとは異なる戦力である。

 

「魔祓課の仮面ライダー雅龍転醒!」

「同じくザギーク! 参上だよぉ~っと!」

 

 武器のスタイランサーをボウガンモードからスピアモードに変形させ、二人はマガツムラサメへと突きを繰り出す。

 しかしその黒狐は容易く攻撃を刀で打ち払うと、距離を詰めてザギークの頭に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「ぶわっ!?」

「浅黄! ぬぅ!?」

 

 続けて素速く双刀が迫り、紙一重でスタイランサーの柄で斬撃を凌ぐ雅龍。

 だが直後に鋭い連続蹴りが胴を打ち、よろめいたところへ二本の刀が腕を捉えて火花を散らすと共に、両手から槍を取り落とさせた。

 武器を失った。だが雅龍は関係ないとばかりに手刀を作り、マガツが自ら距離を詰めている状況を利用して彼の胸に押し当て、力を一点に集中させて握り拳を打ち込まんとする。

 雅龍の変身者である翠月が特異とする技、寸勁だ。が、マガツムラサメは直前で背後へ飛び、その衝撃を完全に逃がしダメージをほとんど打ち消してしまった。

 

「む!?」

「拳法使いか。なかなかやるな」

 

 納得した様子で呟くと同時に、黒き妖狐の戦士は拳の届かない距離に着地して二本の刀を構え直す。

 そして拳打を警戒して一定の位置取りを維持しつつ、雅龍が仕掛けると同時に脇差で攻撃の手を斬り払い、体勢を崩したところで即座にカウンターの斬撃に動く。

 明らかに戦い慣れている、熟練した戦士の挙動。その上、反応速度も攻撃速度も、翠月ですら捉えられない程に速い。

 

「くっ! これ程の相手とは!」

「どうした、そんなものか?」

「……やむを得ん」

 

 雅龍はそう呟くと、両腕の装甲に配備されたノズルを突きつけ、そこからインク弾を発射する。

 浴びたモノを凍結(フリーズ)させる機能を持つインク、サスペンドブラッド。

 拳打に見せかけ不意打ちで放ったそれは、確かにマガツムラサメの身体にヒットし、冷気と共に装甲を凍りつかせ始めた。

 だが。

 

「無駄だ、こんな力など。ハァッ!!」

 

 マガツの一喝と同時に付着したインクが消し飛び、凍結したボディも修復されていく。

 

「なに!?」

 

 愕然として動きを止めた隙を突き、双刃を交差させた妖狐が、雅龍をバツ字に斬り裂いた。

 

「がっ……!?」

「ボクには通用しない」

 

 決定的な一撃を受け、膝から崩れ落ちる雅龍。

 そんな彼を守るようにして、ザギークがスタイランサーを手に飛び出して来た。

 

「ゲッちゃぁーん!」

「邪魔だ」

Reshadowing Color(リシャドーイング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!!》

 

 地に刀を刺し、ダイヤルをダークシアンの位置に合わせ、トリガーを引くマガツムラサメ。

 すると彼の背から伸びている九本の尾のようなマントがはためき、冷気を放つ青いエネルギーを纏って鋭利な刃を作り出す。

 

《トワイライトナインテイル・アクロマティックアヴァランチ!!》

「ハァァァッ!!」

 

 そして、炸裂。

 氷の刃を宿す九つの尻尾が伸び、雅龍とザギークの身体に滂沱のような連撃が殺到する。

 二人は強烈な猛攻を受け、変身を解除されながら勢い良く後方へ吹き飛んでいった。

 

「おっと」

 

 そんな彼らを、黄金の蝙蝠のような姿をした戦士が受け止める。

 仮面ライダーキアノス ニューオーダー、天坂 響だ。

 見ればブリューナクもその場に駆けつけており、既に紫乃を救助していた。少年の両親も無事に息子と合流し、逃げ出している。

 

「チッ、新手か」

「君は奈落秘神教の手先だな。これ以上好き勝手はさせない、そして……容赦もしない!!」

 

 パーフェクトガンナーから銃弾を連射しつつ、サーベルを構えて接近するキアノス。

 マガツは即座に刀を拾い上げると、黒い靄から鞘を再び手にして納刀、直後に高速抜刀術で全ての弾丸を斬り裂く。

 そして、サーベルと刀が激突。火花を散らして刃が重なり合い、それが幾度も繰り返される。

 

「……流石にやるね! ボクが押し切れない程とは!」

「あぁ。俺一人押し切れないようじゃ、ホメオスタシスは落とせないよ」

 

 キアノスの言葉に、訝しむように首を傾げかけるマガツムラサメ。

 直後に自身の方へ迫る足音を聞き、ハッと仮面の奥で目を見開いた。

 

「喰らいやがれ!」

「ヤァッ!」

 

 振り返ってみれば、そこにいるのは二丁拳銃でマガツを狙い撃つリボルブと、彼の援護射撃に守られながら突撃するピクシーたち三姉妹の姿がある。

 妨害に動く恐竜ヤミーたちをものともせず、キアノスに苦戦している間に四人はどんどん迫って来ていた。

 

「アシュリィ、ツキミ! 囲んで逃げられないようにしながら響兄ちゃんをサポートするよ!」

「了解ですわ!」

 

 まさしく多勢に無勢。この数を実質一人で相手にするのは、流石に骨が折れるだろう。

 黒狐の戦士はそう判断すると、右掌から黒い靄を放ち、その中へと飛び込んだ。

 

「今回はほんの挨拶代わりだ。次は本気で落としに行かせて貰う」

 

 ヤミーの方も大半は身を隠すべく町に散らばっていくが、中にはまだ貪欲に人間を襲おうとしている者がいる。

 そんな濁流の如き恐竜の群れを、烈風と共に青き閃光が真っ二つに薙ぎ払う。

 見れば、そこにいるのはパルスマテリアラーに跨ってアズールセイバーを振るう、仮面ライダーアズールであった。

 まさしく瞬く間に恐竜ヤミーを殲滅せしめ、その場に静寂を取り戻す。

 ――青い怪物。

 圧倒的にして絶対的な存在感を放つその姿を目の当たりにし、ロゼは理解する。

 彼こそがその怪物なのだという事を。

 

「……ごめん、だいぶ遅れちゃったかな?」

「翔!」

 

 一時的とはいえ、危機は去った。

 ホメオスタシスの面々は変身を解いて、安堵の溜め息を漏らす。

 

「とりあえずは大丈夫みたいだな」

「危ないところでした。まさか翠月さんがやられるなんて……」

 

 周辺の警戒と負傷者の警護と避難に遅れた住民の捜索をエージェントたちに指示しつつ、自分たちも動き回りながらそのような会話をする鷹弘と響。

 翠月と浅黄はなんとか立ち上がり、鷹弘たちに同行しつつ、部下の警官たちへ指示を出している。

 一方、翔の視線は意識のない紫乃を運ぶロゼの方に注がれていた。

 

「一人で大変そうだな……僕らも手伝おう」

「うん!」

「兄さん、また後でね!」

 

 アシュリィたち三姉妹も翔について行き、病院に向かって歩き出すのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 目を開いて意識を取り戻した時、紫乃はロゼの膝を枕にしていた。

 戦いは既に終わっており、マガツムラサメもヤミーの姿もない。

 どうやら比較的安全な病院の中まで運ばれたらしく、周囲には慌ただしく駆け回る看護師たちの姿が見える。

 

「紫乃くん、大丈夫?」

「ああ……すまん、まさかグレイがここまで腕を上げていたとは」

 

 ゆっくりと身を起こし、彼は溜め息をついた。

 必殺の一撃を受けてしまったハズだが、幸いにもそれほど目立った負傷はない。恐らく寸前で外れたのだろうと紫乃は考える。

 しかし同時に、あれほど凄腕のグレイが、絶好のチャンスで攻撃を外したばかりか自分にトドメを刺さずに去った、というのは不可解にも思えた。

 

「あの後、何があった? 駿斗と若葉は? それと……『あの子』は?」

 

 紫乃からの問いに対し、ロゼは頷きながらひとつずつ答えていく。

 

「まず、先輩たちは無事よ。避難を手伝ってくれたお陰で、被害も少なくて済んだ。それから……あの子も、紫乃くんが守ったから傷一つないわ」

 

 それを聞き、胸を撫で下ろす紫乃。ロゼはその姿を見て唇を開くが、グッと言葉を飲み込んで紫乃が倒れた後の事情を語る。

 

「グレイはヤミーと一緒に逃走したわ。救援が来てくれたお陰で、私も助かったの」

「救援だと? しかし、この街にLOTはいないはず……」

 

 その言葉の直後、紫乃たちの前に二つの人影が姿を現す。

 一人は眼帯を付けた青い髪に青い瞳の青年。その隣に、銀髪の少女が寄り添っている。

 

「目が覚めたんだね」

 

 青年の方が声をかけ、ニコリと微笑む。

 まるで面識がない相手なので、紫乃は首を傾げるしかなかった。

 

「……誰だ?」

「初めまして。僕は天坂 翔、こっちはアシュリィちゃん。この街で探偵見習いと……仮面ライダーをやってるんだ。この子もね」

 

 翔の隣に立つアシュリィが頭を下げるのを見ながら、紫乃は目を剥く。

 帝久乃市の、それもLOT外の仮面ライダー。そんなものが存在するとは思わず、言葉を失ってしまった。

 さらに、ロゼは紫乃にある事実を耳打ちする。

 

「紫乃くん、この人よ。例の『青い怪物』って」

「なに!?」

 

 かつてこの街に攻め込んだ戯我を滅ぼし尽くし、LOTと戯我双方にとって実質的な不可侵領域に変えたという恐ろしい存在。

 それが今、目の前にいる。柔和で穏やかな笑みを浮かべる青年の姿で。

 

「うーん。言われ慣れてるとはいえ、他所にまでその呼び方が広まってるのは流石にちょっとショックだなぁ」

「あ! ご、ごめんなさい! 助けてくれた本人の前で……」

「いやいや気にしないで、広めたヤツらが悪いんだから。それより君たちの事を聞かせてくれないかな」

 

 翔と紫乃は、それぞれ互いの事情を簡単に打ち明け始める。

 自らの属する組織と仲間たちのこと。これまでの戦いのこと。そして、奈落秘神教のことを。

 

「LOT、か。そんな組織があったなんて。それに、この世界にデジブレイン以外の怪人がいたとはね。まだまだ僕の知らない事が多いんだなぁ」

「正直それはこっちのセリフでもあるんだがな……電脳空間に人間の感情を喰う情報生命体、おまけに刈人の存在……何より、あの有名なZ.E.U.Sグループが秘密裏に対怪人の組織を作っていたとは」

 

 ロゼも彼らの話を聞きながら、ふと顔を上げて質問する。

 

「あの……今『この世界』って言いませんでした? まさか『喫茶Hameln』のある世界に行った事が?」

「え、そっちも? じゃあショウタロウたちにも会ったんだね」

 

 アシュリィが目を丸くしてそれに答え、女子同士という事もあってか二人は意気投合し始めた。

 そんな彼女らを横目に見ながら、翔は提案する。

 

「もし良ければ、LOTの手を借りたい。ヴァンダル・リーグが絡んでいる以上……今回の事件は、僕らだけじゃ解決できそうにないんだ」

 

 それを聞いて紫乃は頷きかけるものの、すぐに顎に手を添えて考え込む。

 

「願ってもない話だが、正直言って物理的に難しいぞ。磐戸支部から帝久乃までそれなりに距離がある。増援が間に合うかどうか」

 

 直後、その悩みを掻き消そうとするかのように着信音が鳴り響いた。

 音の発信源は紫乃のN-フォンで、相手は晴明だ。

 何事かと思い、紫乃はすぐさま通話に応じる。

 

「晴明か? そっちでなにかあったのか?」

『あぁ、本部長から連絡がね。帝久乃市でマズい事が起きそうだって』

 

 一瞬言葉に詰まってしまう紫乃。

 セピアはこの状況を予見していたのだ。そして、その沈黙から晴明の方も状況を察した。

 

『やはり襲撃があったんだね?』

「まぁな」

『丁度良かった。私自身も含め既に人員を派遣してある、すぐに到着するハズだ』

「了解……いや待て、お前も来るのか!?」

 

 返事をせず『ははは』と笑い、LOT日本支部長・安倍 晴明は通話を切る。

 紫乃は呆れた様子でN-フォンをしまい、翔の方に向き直った。

 

「聞いていたな? 朗報だ、援軍は恐らく間に合う」

 

 それを聞いてロゼは安心したように頷き、翔も状況の好転に小さく笑みを見せる。

 

「翔、ホメオスタシスとやらの研究所に案内してくれ。作戦を立てよう」

「分かった。ついて来て、他のみんなにも連絡しておく」

 

 まだか細いが、希望は見えた。

 こうしてホメオスタシスとLOT、二つの組織は手を結んだ。

 宇宙を滅ぼす刈人、そして仮面ライダーを狙うヴァンダル・リーグを打倒するために。




 仮面ライダーたちとの交戦後。
 ヴァンダル・リーグと奈落秘神教の連合軍は、薄暗い廃工場の奥に身を隠していた。

「作戦は滞りなく進みましたね」

 そう言ったバケキツネザルの目の前には、リガレとマルムとグレイ、そして()()()()()()()()()
 角を生やした黒蛇のようなヤミーと白黒の猛禽のようなヤミーの隣にいる、黒ずんだ青い体色の舌が何枚も伸び出ている人面魚、さらにコウモリに似た姿で苔むしたような深緑色の怪人だ。
 歪み切ったその造形を満足気に眺め、ワオキツネザルの怪人は笑う。
 加えて彼らの背後には、無数の恐竜ヤミーがひしめきあっていた。

「アズールは力を封じられ、ムラサメは負傷……」
「あとはこのヤミー共を増やしてけしかけ続けりゃ良いんだったな、連中の手に負えないレベルまでよォ」

 圧倒的な物量の戦力を見て唇を釣り上げながら、マルムが言う。
 バケキツネザルも喉奥でくつくつと笑い、自らの右掌を見下ろした。

「強力なヤミーも生み出せています。順調ですよ、実にね」

 その視線の先にあるのは、()()()()()()()()()()()
 彼女はそれを懐へとしまい、コンテナの上に座り込む。
 直後、沈黙していたグレイがゆっくりと出口に向かって歩き出した。

「如何しました?」
「少し偵察へ。このまま彼らが何の手も打たないとは思えないので」
「そうですか」

 バケキツネザルは引き止めず、リガレとマルムも特に気にした様子もなく、背中を見送る。
 そうして外に出た後、グレイはポケットから一枚の色褪せた写真を取り出した。
 幼いグレイの隣に、奈落秘神教のローブを纏った長身で金髪の女の姿が写っている。

「もうすぐだよ、母さん。ようやくあなたの最期の望みを叶える時が来る」

 写真に語りかけて幼子のように微笑んだ後、グレイはそれをポケットに戻す。

「これで良い。これで、良い……はずだ……」

 まるで言い聞かせるように呟きながら、彼は再び街に向かって歩いていく。
 澄み渡る青空を、灰色の暗雲が遮り始めていた。
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