仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ アズール×ムラサメ DUST TO DUST   作:正気山脈

5 / 9
PAGE.04[紫乃と紫檀]

「紹介するよ、四人とも。ここにいるのが帝久乃市の仮面ライダーのみんなだ」

 

 戦いの後に合流を果たした翔と紫乃は、迫り来るヴァンダル・リーグと刈人の脅威から人々を守るべく協力関係を締結。

 詳細な作戦を詰めるために、駿斗と若葉も伴って地下にあるホメオスタシスの研究所に移動したのであった。

 翔からの紹介を受け、真っ先に名乗り出たのは響だ。

 

「ホメオスタシスの戦闘部隊隊長、天坂 響。翔の兄だ、よろしくね」

 

 そう言って響は紫乃と握手を交わし、続いて負傷した身体に包帯を巻いた姿の翠月が、壁に背を預け声をかける。

 

「魔祓課の英 翠月だ……先程は遅れを取ってしまったが、これ以上足を引っ張りはしないと誓おう」

「げへへ、美男美女……しかも女装が似合いそうな超美少年……はぐっ!?」

「この変態クソ女は羽塚野 浅黄だ。様子がおかしいのはいつも通りだから気にしなくて良い」

 

 ヨダレを垂れながら二人に迫る浅黄が翠月のゲンコツで沈み、次に名乗ったのはその後ろで手を振るアシュリィだ。

 

「私はアシュリィ。ショウの恋人」

「ど、堂々と……!」

 

 ポッと顔を赤らめるロゼに対し、アシュリィはニヤリと笑って胸を張る。

 その両隣で、アシュリィの姉二人が彼女を間に挟んでピースサインを作った。

 

「姉のツキミです」

「フィオレだよ! 私が二人のお姉ちゃん!」

 

 三姉妹はそう言って翔の傍に寄り添う。

 直後、彼女らと翔・響の後ろでハットを手に持つ藍色のスーツ姿の男が声を上げた。

 

「天坂 肇。この子たちの保護者で探偵だ、調べ物をしていて戦いに参加するのが遅れちまった。悪かったな」

 

 そして最後に、奥の席で座していた鷹弘が立ち上がる。

 

「Z.E.U.Sグループ現CEO、静間 鷹弘だ。今回はよろしく頼むぜ」

 

 合計九人。フィオレとツキミは正確には仮面ライダーというワケではないが、除外したとしても七人も集まっている事になるのだ。

 その後、二人の人物が扉を開いて顔を見せる。

 

「失礼、ちょいと報告ついでに挨拶しとくぜ。俺は沢村 鋼作、仮面ライダーじゃないがホメオスタシスの一員だ。こいつらのサポートしてる」

「同じく塚原 琴奈だよ! よろしくね!」

 

 彼らの挨拶を聞き、駿斗と若葉は「こういう人たちもいるんだ」と安心したように呟く。

 

「彼ら以外の全員が仮面ライダーとはな……驚きだ」

「一つの街にこれだけの人数が揃ってないといけないくらいの強敵がいた、って事よね……」

 

 かつてクロノスが仕掛けた第二の巨神戦争(ティタノマキア)、その激戦を思い出し、紫乃とロゼは息を吞む。

 若いながらも戦士である二人だからこそ、彼らもまた数々の修羅場を潜り抜けた猛者である事をすぐ理解できたのである。

 紫乃とロゼは、帝久乃市の仮面ライダーたちに対し、自己紹介を返す。

 

「オレはLOT磐戸支部の封魔司書、行雲 紫乃。そちらと同じように仮面ライダーとして戦っている」

「私はロゼ・デュラックです。紫乃くんの……えと、婚約者です!」

「お、おい……そこで張り合わなくて良いだろ別に……」

 

 羞恥からカァッと頬を熱くする紫乃。その姿を見てニヤつく女性陣。

 続いて手を挙げたのは、駿斗と琴奈だ。

 

「白多 駿斗です、僕らも紫乃くんたちのサポート役です。まぁ、本当は観光に来たんですけど……」

「私は新山 若葉です! 駿くんのカノジョだよ!」

「だから張り合わなくていいって!?」

 

 駿斗が慌て、屈託のない笑顔を見せる若葉。再び盛り上がる女性陣。

 すると、挨拶も済んだのでその場の空気を引き締めなおそうと鷹弘が咳払いし、改めて紫乃に問う。

 

「早速聞きてぇ事がある。お前ら、呪いとかそういうモンに詳しいんだよな?」

 

 鷹弘からのアイコンタクトを経て、翔はあるものを紫乃へ見せた。

 奇妙な赤い鎖で封じられた、メビウスユニット。それを見た途端に、二人はギョッと目を剥く。

 その様子から何か知っているのだろうと感じた翔は、続いて事情を明かす。

 

「実は君たちと合流する前に化神のバケキツネザルって敵に出くわして、この装備を使えなくされたんだ。呪いの鎖って言われたんだけど……」

 

 それを聞き、紫乃とロゼは静かに頷いた。

 

「……一目で分かったが、これは確かにただの鎖じゃない」

「ええ、まさかこんなところで実物に出会うなんて」

 

 深刻な面持ちのままユニットから視線を上げ、紫乃は詳細を語る。

 

「これは、かつて北欧の『道化の神(ロキ)』を戒めていた……ナリという巨人の腸を変質させ作られた呪いの鉄鎖だ」

「腸!?」

終末戦争(ラグナロク)の間まで縛り続け、その役目を終えてからどうなったのかは定かではないが……まさかその一部を拝めるとは」

 

 鎖には千切れた痕跡が残っているため、最終的には劣化したところを無理矢理力技で引き千切ったものと見られるが、呪いの力そのものは継続しているようだ。

 紫乃たちがその旨を伝えると、鷹弘は再び尋ねる。

 

「結局、この呪いは解けるのか?」

「……残念だが、オレたちでは無理だ」

 

 ザワつくアシュリィたちと愕然とする響の視線を感じつつ、紫乃は冷静かつ正直に答えた。

 

「ナリというのはロキの息子でな。父を戒めるために腸を毟り取られたナリの呪い、息子を殺され拘束されたロキの呪い、そしてそいつを縛った神々の呪いと強力なものが三重にかかっている。元より、神話級の呪物を破るのは容易くない」

「そんな……」

「化神という怪人も聞いた事がない。恐らく鎖は何らかの方法で入手しただけで、そいつ自身はファッジやメタローと同じく別世界の存在なんだろう。だから呪いをかけた本人じゃない相手を殺したとしても絶対に解けん」

 

 では、もう完全に諦めるしかないというのか。

 そんな言葉が鷹弘や翠月の口から出る寸前、紫乃は「だが」と言葉を紡いだ。

 

「時間はかかるかも知れないが、幸いなんとかできるヤツがこっちに向かってくれている。到着次第頼めば良い」

「じゃあ、とりあえずそっちは増援を待っておけば良いんだね」

 

 解呪が全く不可能ではないのなら救いはある。一応は問題がクリアできたものとして、響は次の議題に移った。

 

「ヤミーは普通に倒せるから良いとして……残る問題はマガツムラサメと刈人だな」

「刈人か。確か、コアメダルとかいうモンを取り込んでるせいで翔の力が効かないんだっけか」

 

 鷹弘の言葉に翔が頷き、紫乃は目を丸くしながら質問を投げる。

 

「そのコアメダルをどうにかできれば倒せるのか?」

「うん。黒い泥を宿す刈人は本来不死身だけど、僕はヤツらの存在そのものを消し去る力が使える。アイツの体内の透明なメダルがそれを邪魔してるんだ」

 

 それを聞いて紫乃とロゼは顔を見合わせ、首肯し合う。

 

「もしかしたら」

「ああ。カレイドライザーとプリズムエリクシルを使えば、できるはずだ」

 

 言った後、紫乃は翔たちの方に向き直り、事情の説明を始めた。

 

「昔、似たような状況になった事があってな。友人が身体を敵に乗っ取られて、それを元に戻す方法を探し、そして手に入れた。そいつを身体から引き剥がす力を」

 

 この力があれば、コアメダルを取り除く事も不可能ではないはず。

 鷹弘や響だけでなく翠月と浅黄もその言葉に納得し、刈人の対処を彼と翔の手に託す事に決める。

 そして翔は、紫乃へ改めて尋ねた。

 

「任せて、良いのかい?」

「ああ。翔、オレとお前で刈人を潰すぞ」

 

 これで大まかな対処法は纏まった。残る問題は、マガツムラサメをどう凌ぐか。

 相手が普通の人間である以上、命を奪いかねないため怪人と同じ方法で倒すワケにはいかない。だがそもそもマガツムラサメ自身が強大であり、手を抜こうが抜くまいが倒す事そのものが至難の技だ。

 ある者は唸り、ある者は黙り込んで天井を見つめ、考え込む。

 キュクロプスの眼の一人だった者として、自分が決着をつけるべきではないかと考える紫乃だったが、その一方で自分が敗北した事とそもそも刈人の相手をしなければならない問題が立ち塞がる。

 一体どうするべきか。悩んでいると、響がただ一人静かに挙手した。

 

「俺が行くよ。今の戦力的に考えて、時間を稼ぐにしても倒すにしてもやれるのは俺だけだろうから」

「……ま、実際のところマトモに相手ができたのは響しかいなかったしな」

 

 鷹弘はそう言って響に頷き、翔たちも承認。

 やがて悩んでいた紫乃も同意すると、鷹弘は立ち上がって一同に命じる。

 

「よし。ある程度対策は固まった、各自散開してヤミーや刈人からこの町を守ってくれ」

『了解!』

 

 町の警邏は磐戸で何度もやっている事だ。

 ロゼとの二人一組で充分だろうと考えていたのだが、そこで背後から翔が声をかけてくる。

 

「紫乃くん、一緒に行こう」

 

 刈人が現れた時、確かに翔と一緒なら対処しやすくなるかも知れない。

 そう思って了承したところ、アシュリィとツキミとフィオレも彼らについて来る事となった。

 

「……六人もいると目立つんじゃないか?」

「あはは……」

 

 どうやら三姉妹は勝手に同行を決めたようで、翔は苦笑しつつもフィオレとツキミには一旦待機を頼み込み、二人はそれを渋々受け入れる。

 こんな弛緩した空気のままで大丈夫なのかと紫乃は一瞬思ったが、ロゼがアシュリィとにこやかに談笑しているのを見て、溜め息と共にその考えを放り出す。

 そして、これからの戦いに向けて翔の持つ情報を改めて聞き出す事にした。

 

 

 

 十数分後。

 

「――地球上の命の『生きたい』という願いに応えた……!?」

 

 アクイラの力に関する情報をある程度聞き終え、紫乃はあまりの出来事に瞠目していた。

 

「うん。この力で願いを一つに束ねて、望んだ未来に翔ぶ力を発動して……僕らは刈人を初めて打ち破ったんだ」

 

 歩きながらニコニコと語る翔。

 一方の紫乃は、これまでに翔が用いたアクイラの力の詳細を聞いて、ある事実に辿り着いていた。

 

「翔、お前……自分がどれ程の事をしてるのか分かってるのか!?」

「どういうこと?」

 

 キョトンとして首を傾げる翔に対し、紫乃は彼へとその情報を打ち明ける。

 

「断言しても良い。アクイラの力とやらの源は『地球の書庫(アカシックレコード)』だ、ソレに直接アクセスする権利をお前は持っている」

「アカシックレコード?」

「宇宙誕生以来のあらゆる出来事を記憶し蓄積し続けている霊的データベースだ。過去LOTに属していたヘレナ・P・ブラヴァツキーを始め、ニコラ・テスラやアインシュタインといった高名な学者もアクセスに成功し、その絶大な知識の一端に触れたという……」

 

 真剣な表情で告げた後、紫乃は頭を振った。

 

「だが本来そう何度も成功するものじゃないし、複雑な手順を踏む必要もある。お前のその力は、過去に類を見ない程の接続速度と精度を持っている」

「待ってよ、流石に大袈裟じゃない? だって僕、そこまでアクイラの力を自由に扱えるワケじゃないんだよ?」

「……自由自在ではなくとも、お前自身が考えているよりずっと、それは恐ろしい能力だぞ」

 

 前述の通り、アカシックレコードは地球の歩みそのものを記録した巨大データベースである。それだけの容量の情報全てを人間の脳にインプットする事は不可能であるため、当然必要な情報だけを仕入れなければならない。

 喩えるならそれは、広大な情報の海の中で一粒ずつ砂金を見つけるに等しい作業。

 かつての偉人たちは、万全に準備を整えつつ目的の情報を手に入れるため念入りかつ必死に時間をかけ、潜水・調査の繰り返しで疲労困憊になってようやく成果を挙げているのだが。

 翔は船すら用意せず丸裸の丸腰でどこまでも誰より深く潜り雑に鷲掴みにして適量の成果を手に入れるばかりか『データ・アブソープション』のような現地で拾ったものをその場で組み上げ即座に使う、という暴挙とも言える離れ技を成し遂げているのだ。

 それをそのまま翔に伝えると、流石に自分のやっている事の異常性に気づき、頭を押さえて困惑していた。

 

「……まぁ、アクセスできるのはあくまでもこの世界のアカシックレコードだけだろうがな。他の世界で同じようには使えまい」

「そ、そうだね、実際コアメダルの情報はなかったワケだし。戯我の事だって調べてないし教わってないから知らなかった。そういうところが欠点だと思う」

「しかし、そもそものアクイラ自身はお前よりもずっと深くアカシックレコードと繋がっていたんだろう……よく勝てたな?」

「みんながいてくれたからだよ、僕一人じゃきっと敵わなかったよ」

 

 懐かしむように左目を細め、翔は笑う。

 きっと語り尽くせない程の修羅場をくぐり抜けて来たはずだが、それでも目の前の『怪物』とまで呼ばれた青年は笑っているのだ。

 アクイラの力以上に、このタフな精神力こそが彼の強さの秘密なのかも知れない。紫乃は、そのように考えた。

 

「それにしても……」

 

 しばらく話していると、不意にロゼがポツリと呟く。

 

「パトロールしてるけど何も起こらないわね?」

「向こうも警戒しているようだな。今日中には仕掛けて来ないのかも知れな――」

 

 言い終える前に、その唇が動きを止める。

 何事かと思って翔たちが紫乃の視線の先へ目をやると、そこには彼が助けた幼い少年、八重垣 竜胆とその両親がいた。

 

「おにいちゃんだ!」

 

 紫乃の姿を発見するなり、少年は母の手を引いて駆け出し、父親はその後をついていく。

 背筋を震わせながらも動揺を気取られないように耐え、紫乃はその朗らかな家族からサッと顔を逸らす。

 

「あぁ、あなたが息子を助けて下さった方なんですね!」

「ありがとうございます! この御恩は決し……て……?」

 

 しかし、二人の視線は紫乃の横顔をしっかりと捉えている。

 そして覗き込むようにゆっくり近づいて見つめ、父親の方が呟いた。

 

「紫檀、なのか?」

「……!?」

 

 目を剥く紫乃。その反応を見て、父親は確信する。

 彼こそが、誘拐されたはずの自分の息子なのだということを。

 

「本当に、本当に紫檀なの!?」

「私だ紫檀! まだ生まれたばかりの話だから覚えていないのも無理はないが、君の父親の……」

 

 興奮した様子で両親が近づき、手を差し出そうとする。

 

「違う!!」

 

 だが、紫乃は全てを聞き終える前にその手を振り払った。

 愕然とする一同。刹那の沈黙が訪れ、それを紫乃自身が破る。

 

「……あなた方に何があったのか分からないが、そんな名前の人は知らないしそれはオレではない。オレは行雲 紫乃だ」

「紫檀……」

「やめてくれ。人違いだ、オレは関係ない」

 

 紫乃は頭を振りつつ、泣き出しそうな目で自分を見上げる竜胆の方に顔を向けた。

 

「その子と一緒に笑って暮らせるなら、()()()がいるんだからそれで良いだろう。もういない人間の事など忘れてくれ」

 

 そして、紫乃は呆然とする家族の横を早足で通り過ぎていく。

 驚きながらも八重垣一家に頭を下げた後、ロゼは紫乃の元に急いだ。

 

「紫乃くん、本当にこれで良いの!?」

「良いも悪いもない、オレはこの生き方を選んだ。だからこれからもそれを貫く」

 

 グッと唇を引き結び、そう締めくくる。

 すると、アシュリィがタッタッと駆けて紫乃の前に回り込み、じっと顔を見つめる。

 

「なんだ」

「シノはあの家族の事、嫌いなの?」

「……なに?」

 

 突然投げかけられた質問に眉を寄せ、彼は再び首を左右に振った。

 

「……分からん、関わり合ったのはこれが初めてだからな。ただ……あそこをオレの居場所にしてはならないんだ。単なるオレのわがままで、あの人たちの平穏な日常を壊してはいけないんだよ」

「紫乃くん……」

「オレは、封魔司書の仮面ライダーなんだ……」

 

 人々を裏で守る立ち場である以上、彼らを守りたいからこそ、普通の日常を生きる八重垣家に踏み込んではならない。

 その思いから紫乃は、一家を遠ざけざるを得なかった。

 

「もっと欲張ればいいのに」

 

 しかしアシュリィは全く納得できないといった表情で肩を竦め、ビシッと人差し指を突きつける。

 

「キョウが言ってた。生きてる限り、生かす事も生き残る事も諦めるなって。自分の命も他人の命も、皆の笑顔も。救える力があるなら、欲張って良いんだって」

「同じ無茶をするなら、全部勝ち取れ……だね」

 

 翔がその言葉に補足し、だが不満げな彼女をなだめるように肩へ手を置いた。

 紫乃は一瞬立ち止まって目を剥いたものの、すぐにまた首を振って否定してしまう。

 

「そんな生き方を簡単に選べたら、苦労はしない」

 

 沈痛な面持ちの紫乃から放たれた言葉に、翔もアシュリィもロゼも言葉を失った。

 欲張って何もかも勝ち取るのが翔の決意なら、紫乃もまた決意を固めて実の両親との別れを選んだのだ。

 なら、アドバイスはしてもこれ以上引き返させるような事を言うのは野暮というものだろう。

 そう思い紫乃と共に歩き続けていくと、突然に激しい爆発音と共に悲鳴が街の中で聞こえ始めた。

 

『敵襲だよ!』

「見れば分かる」

 

 琴奈からの通信に対し律儀に返答しつつ、紫乃とロゼは速やかに対処に動く。

 それに追従するように翔とアシュリィも駆け出し、現場へと急行する。

 だがそこへ、四人の頭上に大きな影が差し込む。

 

「ハッ!?」

 

 素速く見上げると、そこには恐竜のヤミー以外にも、前回の襲撃でも見た半身が白と黒の猛禽のようなヤミーがいた。

 

「なんなんだこいつは!?」

 

 翔がアシュリィと共に身構え、敵の姿を捉えた紫乃はハッと目を見開いてその名を口に出す。

 

「恐らく、このヤミーの正体は『四罪』の驩兜(カントウ)だ。驩兜ヤミーとでも呼ぶべきか」

「四罪って何!?」

 

 四罪とは、中国神話において天下に害をなしたという悪神の事だ。

 その中の驩兜は帝の息子でありながら反逆を企て、後に追放された事で蛮族の祖になったと伝えられている。

 身体が白黒なのは、帝が彼のために囲碁を発明したのが由来なのだろう。

 

「恐竜と関係ないじゃん!?」

「理由は分からんが、特徴が合致する以上そうと考えるしかないだろう。それより、来るぞ!」

 

 注意を促すと同時に紫乃とロゼはレリックドライバーを装着、翔の方もアプリドライバーを身につけ、アシュリィがピクシーレイピアを手に取った。

 

『変身!』

《チャンピオン・アプリ! 天下無敵! 天上不敗! 語り継がれし伝説、インストォォォール!》

(ソウル)(アーツ)(ボディ)! 光に翼を得たるが如し! 神をも超える煌きの龍! オリエンタルトリニティ!》

《オトギガールズ・アプリ! 歌激(カゲキ)なる御伽女(オトメ)、カーテンレイズ!》

《舞え! 優雅なる赤薔薇の戦乙女! エレガントヴァルキリー!》

 

 そして、同時に叫んで姿を変える。

 アズール チャンピオンリンカーとピクシーが疾走し、地上のヴェロキヤミーを攻撃。上空のランフォリンクスヤミーは、ムラサメ オリエンタルトリニティカラーとブリューナク エレガントヴァルキリーカラーが相手取る。

 先刻の戦闘では全く苦戦しなかった敵。しかし、今回のヤミーたちは明確に様子が違っていた。

 

「……なんだ!?」

 

 ヴェロキはより素速く爪で斬り込み、ランフォリンクスはより力強く急降下で突撃して来る。

 戦闘能力が高まっている。思い当たる原因は、一つしかない。

 

「まさか驩兜ヤミーの能力か!?」

 

 見れば、驩兜の両腕が淡く発光しており、ヴェロキとランフォリンクスの瞳孔もそれぞれ白と黒に染まっているのが分かった。

 周囲のヤミーの強化。囲碁は戦略や政治のシミュレーションゲームとして広まったと言われておりそれが、驩兜の能力に反映されているのだろう。

 ムラサメはそう考えて、最優先の討伐対象を驩兜ヤミーに定め飛び上がった。

 

「ハァッ!!」

 

 AウェポンT/G-SSSの刃が、驩兜の頭を目掛けて振り下ろされる。

 しかし即座に身を逸らしたヤミーに避けられ、お返しとばかりに両腕から碁石のような白と黒の光の弾を乱れ撃たれてしまう。

 

「ぐっ!」

「紫乃くん!」

 

 思ったよりも手強い。

 背後から襲いかかって来たランフォリンクスヤミーをブリューナクが撃ち落とすのをチラリと確認しつつ、ムラサメもヴェロキを斬って捨てる。

 

「マズいね……他の場所でも襲撃が始まっているかも知れないのに」

「モタモタしてたら、町の人たちにも被害が出ちゃうよ」

 

 同じく応戦しているアズールとピクシーの言葉を聞いて、ムラサメの脳裏によぎったのは八重垣一家の姿だった。

 彼らの命が奪われてしまうかも知れない。家族である事を手放したとしても、それだけは許せない。

 ムラサメはその強い思いを胸に、剣を握りしめて再び驩兜ヤミーへと挑みかかる。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 時を同じくして、再び帝久乃市のビル街でもヤミーによる強襲が始まっていた。

 騒ぎの中心に立つのは黒い闘気を放つマガツムラサメ。しかし、彼は人を襲う事なく、刀一本を手に立ち尽くしている。

 

「やはり来たか、グレイ」

 

 そんな彼に声をかけたのは、既に仮面ライダーキアノス ニューオーダーへ変身を果たした響だった。

 マガツムラサメは溜め息と共に視線を向け、マントをはためかせる。

 

「またボクの相手をするつもりかい、キアノス」

「あぁ。お前は俺が倒すし、刈人たちの好きにはさせない」

 

 それを聞いて黒狐はゆらりと腰を落とし、ゆっくりと刀の柄に手を伸ばして居合の構えを取った。

 

「さっきは数が多いから退いただけだよ、君一人にボクは止められない。諦めて帰れ」

「どうかな、やってみなくちゃ分からないだろ?」

 

 瞬間。

 一足で一気に間合いを詰めたマガツムラサメが、目にも留まらぬ抜刀術でキアノスの胴の右側を狙う。

 

「ぐ……ハァッ!」

「むぅ!?」

 

 しかしキアノスもすんでのところで反応して左手のサーベルで刃を受け止めており、反対側の手に持ったパーフェクトガンナーで発砲した。

 銃撃は頭を傾ける形で回避されたものの、キアノスは即座に足へ蹴りを食らわせ飛び退き、刀の届く範囲から逃れる。

 

「そして見えて来たぞ、マガツムラサメ! お前の能力の正体が!」

 

 剣の切っ先を黒い妖狐に向け、キアノスは言い放つ。

 

「お前の装甲を構成している黒い粒子は、マイナスの感情エネルギーを利用して生まれたもの……つまりは作用が反転したカタルシスエナジーのようなものだ! それを細かく散布する事によって、自分に敵対する者たちを弱体化させている!」

「……ほう。そこまで分析できたのか」

「だから知らずに粒子を浴びた紫乃くんや翠月さんたちは、お前のパワーやスピードについて来れなくなった! これが答えだ!」

 

 その言葉を聞き、黒狐は納刀の後に再び構える。

 

「御名答。トワイライトナインテイルの力の正体は『呪い』……ボクの前では、あらゆる者が無力となる。君の場合は元々カタルシスエナジーが高出力なのと、その黄金の鎧のせいで呪いが相殺されているようだが」

 

 そして、またも接近し高速抜刀。

 今度はパーフェクトガンナーによって防御されるも、マガツは続け様に刀を振り続けていく。

 

「逆に言うと君さえ倒してしまえば、この街に脅威はなくなるワケだ」

「無理だ。その前にお前を倒す」

 

 マガツムラサメが刀を振り上げたその一瞬の隙に、キアノスサーベルで刺突を繰り出す。

 だがその瞬間に黒い靄から脇差が飛び出し、キアノスの額に直撃して仰け反らせた。

 

「ぐっ!」

「失念しているんじゃないかな? 呪いが相殺されてなお、ボクは君と互角に渡り合えるという事を! そして!」

 

 弾かれた脇差を掴んだ後、マガツは刀を交差させ激しく斬り込む。

 キアノスは斬撃を防ぐために自身のサーベルで受け止めようとするが、その腕の動きは先程よりも明らかに遅くなっており、防御する前に胸の装甲が火花を散らした。

 

「なっ!? こ、これは……!!」

「理解したようだね。君はボクの能力を少しだけ勘違いしていたのさ」

 

 トワイライトナインテイルの力。

 響の言う通り、それはカタルシスエナジーを反転させた特性を持つ弱体化の呪いで、マガツムラサメはこれを常に発し続けて有利に立ち回っている。

 しかし、この呪いの粒子には他にも特性があった。彼の持つ武器や拳などを通して攻撃に利用する事により、命中した対象をさらに弱体化させる事ができるのだ。

 雅龍とザギークだけでなく、オリハルコンの装甲を纏うムラサメがたった一撃の必殺技で倒されたのも、これが原因である。

 

「終わりだ、キアノス!!」

 

 レリックドライバーDに手を伸ばし、必殺の一撃を繰り出さんとするマガツムラサメ。

 立ち上がったキアノスは攻撃を凌ぐための方法を頭の中で構築しようとするが、今の状況ではどう足掻いても逃れる事などできない。

 そうして黒狐が動こうとした、その寸前。

 頭上から、二人の間を割くように一本の槍が飛来し、地面に突き刺さる。

 

『!?』

 

 驚き、マガツムラサメが立ち止まる。その隙にキアノスはバックステップし、体勢を立て直した。

 

「間に合ったようだな」

 

 頭上から、槍の柄と石突の上に静かに立つ人物から声がかかる。

 

「俺の名は仮面ライダーゲイボルグ、故有って助太刀に来た……」

 

 その人物を見て――否、その男の声を聞いて、マガツはハッと息を呑んだ。

 

「アダン……ッ!!」

 

 激情に震える声と拳。

 ゲイボルグが地上に降り立つと同時に、マガツムラサメはすぐさま二つの剣を手に飛びかかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。