仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ アズール×ムラサメ DUST TO DUST   作:正気山脈

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PAGE.05[白雲は進む]

 翔と紫乃が、驩兜ヤミー及び恐竜ヤミーと交戦しているのと同じ頃。

 マガツムラサメの魔の手からキアノスを守るべく援軍として現れたのは、アダンが変身する仮面ライダーゲイボルグであった。

 その声を聞き姿を見て、マガツは激しい憎しみをあらわにする。

 

「アダン……お前はボクを覚えていないだろうが、ボクの方は一度も忘れた事はないぞ」

「……」

「お前を八つ裂きにして!! ボク自身とかつての仲間たちの無念を晴らし……奈落秘神教が虚無へ至るための礎にしてやる!!」

 

 怒りの叫びと同時に、黒狐の全身から噴き上がる漆黒の怨念が可視化され両腕や九尾の如きマントを覆い、マイナスのエネルギーによって構成された強靭な前肢や大きな尾を形成する。

 どうやら散布していたものを収束させた事で範囲は限定されているようだが、その分前肢や尾に触れた場合は激しい呪いに苛まれる事になりそうだ。

 さらに全身から放たれるその圧倒的な殺意と威圧感を前に、キアノスは怯みながらも武器を取って身構えた。

 

「バカな、なんて出力だ!!」

 

 自分と戦っていた時に本気を出していなかったというワケでは、恐らくないはず。

 にも関わらずこれ程のエネルギーを放出できるという事は、たった今現れたアダンという男に余程恨みがあるのだろう、と響は思った。

 

「……かかって来い」

 

 対するゲイボルグもまた、臆する事なく槍を振るって応じる。

 直後、マガツムラサメはエネルギーで構成された獣のような前肢を地面に叩きつけて跳躍し、握り締めた刀と脇差を強く振り下ろす。

 マズいと思い、キアノスは慌てて警告する。

 

「避けろ! まともに受けるな!」

 

 軽く触れただけでも弱体化が発生する以上、今の収束された状態で武器を使って防いでも、呪いで蝕まれてしまうだけだ。

 しかしゲイボルグはその場を動かず、逆に攻撃を仕掛けるべくダイタルコロッサスリキッドの操舵輪を回転させる。

 

《タイダルコロッサス・クリード! Calling(コーリング)!》

「破ァ!」

 

 トリガーを引くと同時にゲイボルグの背後から膨大な海水の壁が立ち上り、その大津波が頭上の黒狐を叩き落とすように呑み込んだ。

 

「ぐっ!? これは……!!」

「フンッ!!」

Boosting Color(ブースティング・カラー)! Last Enhancing(ラスト・エンハンシング)! アクア・クロマティックシェイバー!》

 

 リキッドを用いた水の刃を纏う槍投が、力強くマガツムラサメの胸を捉えて一撃を加え、跳ね返って手元へ戻る。

 そうして体勢を崩している間に、ゲイボルグは続け様に操舵輪を回し、再びトリガーを引く。

 

《タイダルコロッサス・コインヘン! Calling(コーリング)!》

「破ァ!」

「調子に乗るなァッ!!」

 

 頭部に生えている髪のような触手が伸び、先端の鋭い刃が黒い狐の装甲に裂傷を作る。

 だが大したダメージにならず、真っ黒な九本の尻尾が触手を払いのけた。

 呪いによって威力が削られるものの、ゲイボルグは健在。今度は別のリキッドをAウェポンにセットし、槍を振るう。

 

Boosting Color(ブースティング・カラー)! Last Enhancing(ラスト・エンハンシング)! フレスベルグ・クロマティックファランクス!》

「破ァァァッ!」

 

 使ったのは、かつてヴェールが持っていたフレスベルグのモンストリキッド。もう戦わなくなった彼女から、アダンへと託されたものだ。

 槍から放たれる突風と斬撃が、迫り来るマガツムラサメの脇差を弾いて落とし、再び胸へ穂先の一突きが的確に命中。

 しかし、黒い狐の進軍は止まらなかった。

 彼は攻撃を受けながら自身のリキッドのダイヤルを黄色に向けて操作し、刀を手に必殺の体勢に移る。

 

Reshadowing Color(リシャドーイング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!!》

「取ったぞ!! 喰らえアダン、ボクの呪いを思い知れェェェッ!!」

《トワイライトナインテイル・アクロマティックボルテージ!!》

 

 呪いと共に全身に激しい雷光を帯び、刀を突き出して突撃するマガツムラサメ。

 しかしその瞬間、ゲイボルグも地面にAウェポンを突き刺した後、ドライバーを操作して必殺技を発動した。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

「荒浪に飲まれて消え去れ!!」

《タイダルコロッサス・クロマティックメイルシュトロム!》

 

 背を押すように間欠泉か鯨の潮吹きのように海水が噴き出し、ゲイボルグはその勢いを利用して飛び蹴りを放つ。

 激突する二つの一撃。

 そのせめぎ合いにおいて有利なのは、紛れもなくマガツムラサメの方だ。呪いの力によって常に敵を衰えさせる事ができる以上、至近距離での真っ向勝負で敗北する事はほぼあり得ない。

 ――だが。

 ゲイボルグの放った必殺技の威力は減衰する事なく、逆にマガツの方を押し返す。

 

「なに……!?」

「ムゥン!!」

「グッ!?」

 

 動揺した一瞬の隙に、体勢を崩したマガツムラサメの胸に鋭いキックが突き刺さる。

 吹き飛ばされ、地面に仰向けに倒れる黒狐。しかし深手というワケではなく、すぐに立ち上がって身を守るために構えた。

 必殺技で呪いの力を正面から砕かれた代償か、身に帯びていた黒い怨念は目に見えて弱々しくなり消滅し始めている。

 

「バ、バカな……なぜ呪いが効いていない!?」

 

 問われると、ゲイボルグは槍を装備し直して穂先を突きつけた。

 

「お前が九尾の妖狐の力を使うと聞いて、そこから能力の正体を予測し、肉体に防護の術を付与する形で対策しただけだ。丁度そういう呪いの類に強い者が味方にいるからな」

「……安倍 晴明か……!!」

 

 迂闊だった、とマガツムラサメは仮面の奥で歯噛みする。

 一度LOTと交戦した以上、自分についての情報が流れてしまうのは必然。そうなれば、たとえ僅かな情報量であったとしても、勘の良い者ならすぐに呪いの事に気付いてしまう。

 特に、向こうには切れ者として知られる安倍 晴明がいる。怒りで我を忘れてしまった上、呪いの力を集中させた事が完全に裏目に出てしまったのだ。

 

「クソッ……! アダン、ようやくお前を殺せると思ったのに……!」

「……」

 

 恨み言を放つマガツに対し、黙して僅かに目を伏せるゲイボルグ。

 その一方。戦いを観戦していたキアノスは、両手を握ったり開いたりと動かし、自分の身体が徐々に呪いによる衰弱から脱却しつつある事を察知していた。

 つまり、今ならばゲイボルグとの二人がかりでグレイの身柄を取り押さえる事ができるかも知れない。

 そう考えて動き出そうとした、その刹那。

 二人の背後から、けたたましい鳴き声が響き渡った。

 

「なんだ!?」

 

 驚き振り返ってみれば、そこには恐竜のヤミーと共に頭の後ろから黒蛇を生やす双角の怪人が立っている。

 

「こいつらがヤミーか……!?」

 

 言いながらゲイボルグは槍を構え、その四罪を元とした蛇の怪物、共工ヤミーと対峙しようと動く。

 瞬間、不意打ち気味にマガツは抜刀し、ゲイボルグの左腕へと一閃。負傷せしめた。

 

「ぐぅっ!? 待て、グレイ!」

「ここは退かせて貰う……次こそお前を殺してやるぞ、アダン!!」

 

 そう告げた後、黒狐は黒い靄と共に消え去る。

 これで追跡はできなくなった。ならばせめて被害が広がらないように、戦うしかない。

 ゲイボルグはすぐさま槍を投げ、飛んだ先にいるヴェロキヤミーたちの頭を一直線に貫いた後、徒手空拳で他のヤミーたちを攻撃する。

 その後ろからにじり寄る、ヴェロキの群れ。それに気づいた瞬間、キアノスのパーフェクトガンナーがそのヤミーを一体残らず撃ち抜いた。

 

「加勢しますよ」

「すまん、助かる」

 

 キアノスとゲイボルグ、二人の戦士は背中合わせに協力し合う。

 ゲイボルグはキアノスからサーベルを受け取ると、向かってくる敵を全て一刀の元に斬り伏せていき、キアノスもまた自身の銃でヤミーを殴るなり撃つなりで応戦していた。

 そうして周りのヤミーたちが警戒して距離を取り始めた直後、遠方から共工ヤミーの嘶く声と共に凄まじい熱量の火炎弾が飛来する。

 

「うわっ!?」

「チィッ、なんて破壊力だ……!」

 

 爆炎を腕で振り払いながら、ゲイボルグは迫り来る共工ヤミーの爪撃をキアノスサーベルで受け止めた。

 しかし共工の膂力は凄まじいもので、彼の腕力と剣で受け止めてなお、支えた足が地面にクレーターを作ってめり込む程だ。

 とはいえ全く力負けしてはいないため、ゲイボルグは前方向へヤミーを押し返し、サーベルで斬りかからんとする。

 ところが共工は素速く後方へ飛び下がる事で斬撃を回避し、反撃のために再度腕を振り被った。

 また攻撃が来る。そう思ってゲイボルグが身構えた、次の瞬間。

 

「グゲェッ!?」

 

 共工ヤミーの背後から飛んで来た銃弾によって右角が打ち砕かれ、蛇の口から悲鳴が上がる。

 

「そこまでだ、蛇野郎」

 

 見れば、銃声の聞こえた方向にはリボルブや雅龍を始めとする帝久乃市の仮面ライダーたちが集っていた。

 弾丸はリボルブが放ったもので、ザギークもその背にインク弾を発射する。

 戦力差から不利と判断したのか共工はすぐに走り去っていく。

 

「逃げたぞ!」

「いや、追わなくて良い。行かせろ。先に他のヤミーを始末する!」

 

 ゲイボルグの言葉にそう答え、リボルブたちは恐竜ヤミーを優先して攻撃し始める。

 理由が分からず困惑するゲイボルグだが、ひとまずその指示に従い、Aウェポンも拾い上げて槍と剣のコンビネーションで敵を薙ぎ払う。

 するとすぐ後にヤミーたちは勝てないと悟った様子で、散り散りに逃げ出した。

 戦いは終わったが、やはり先程の行動に納得できず、変身解除したアダンは鷹弘たちへ問いかける。

 

「なぜ行かせた? 倒すチャンスだったと思うが」

「んっふっふっふっ~。それは理由があるんだよねぇ~」

 

 ニヤつきながら答えたのは浅黄だった。彼女の手にはマテリアパッドがあり、その画面には脱兎の如く逃げていく共工の背中が映し出されている。

 先程放ったインクが発信機のような役割を果たしており、密かにフォトビートルを放って映像を記録しているのだ。

 逃げていく共工ヤミーの行き先は、やや離れた位置にある廃工場だった。

 

「ヤツらの潜伏先は分かった。翔たちを呼び戻せ、総力戦だ!」

 

 鷹弘の宣言に応えて一同はそれぞれ了承し、ホメオスタシスの地下研究所に戻っていく。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 一方、紫乃たちと別れた八重垣一家は、他の観光客や帝久乃市の住民たちと同様にヤミーたちの魔の手から逃げ出していた。

 

「はぁっ、はぁっ……くっ、一体どうなってるんだ!?」

「どうしてこんなに怪物が!?」

 

 広範囲に及ぶ恐竜たちの破壊活動。それから逃げ惑う最中で、竜胆は転んでしまう。

 

「竜胆、大丈夫か!?」

「お父さん、お母さん! う、後ろ!」

 

 目を見開いた表情の竜胆の人差し指が示す先にいるのは、負傷した驩兜ヤミー。白黒の両腕を振り上げ、今にも爪で裂かんとしている。

 瞬間、ヤミーの後頭部に一本の刀が突き刺さり、その動きが止まった。

 見れば、そこには息を切らせて立っているムラサメの姿がある。

 Aウェポンを投擲し、驩兜を止めたのだ。

 

「おい……何をしようとしている、貴様」

「ギッ……」

「その人たちに手を出すな……殺すぞ」

《ボディスサノオ! Calling(コーリング)!》

 

 光で構成された草薙剣を握り、じりじりと距離を詰めるムラサメ。

 その殺意に怯え、太刀を放り捨て驩兜ヤミーは背を向けて逃げ出し、足止めのために恐竜ヤミーをけしかけた。

 ムラサメはそのまま光の剣を振るい、向かってくるヤミーを一体ずつ斬り伏せていく。

 だがやはり数の多さから全員を仕留めるのに時間がかかり、ヴェロキに背後の隙を狙われ飛びかかられそうになる。

 その瞬間、裂帛の掛け声と共に振り被られた大剣により、その恐竜ヤミーの頭が両断された。

 

「相棒置いて何面白そうな事してんだよ!」

 

 剣を振るった張本人である猫の似姿の戦士はそう言い、ムラサメの背を軽く叩く。

 

「クリス!? 来たのか!」

「へへっ」

 

 肩で大剣を担ぐ仮面ライダークラレント イリュージョンケットシーカラーは仮面の中で笑い、そして迫って来るヤミーの頭を拳で砕いた。

 そんな彼女を追って、一人の少年が姿を見せる。

 ロッソだ。レリックドライバーを腰に巻き、左右の手にそれぞれ持つモンストリキッドを起動した。

 

《ニトロ!》

《アスモデウス!》

「先走りすぎですよ、先輩」

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

 

 カッパーレッドとオックスブラッドのリキッドが同時に装填され、鳴り響く音声と共にロッソはトリガーを引く。

 

「変身」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 赤い二色のインクが飛び交い、アンダースーツと装甲を形成。

 そうして完成したのは、見事な牛角を頭に生やし、右肩に羊と左肩に龍の頭部を模したアーマーが装着されている赤い戦士。

 右腕には蛇をかたどった鉄鞭が巻き付いており、足の先端には鳥類を思わせる蹴爪が付いているのが見えた。

 また左腕には、彼がギガノイドとして戦っていた頃に使っていた武装、フォージバイザーに似たガントレットが装着されている。

 

《乱れ撃つ爆炎の銃魔! ニトロアスモデウス!》

「仮面ライダーユーダリル、配置につきました」

《AウェポンW-G(ダブル・ジー)!》

「行きますよ、先輩」

「おっしゃあ!」

 

 灰矢の意思を受け継いだロッソが変身する、新生した仮面ライダーユーダリルは、二挺拳銃のスタイルで遠距離からヤミーを撃ち抜く。

 その彼に目を向けられないよう、クラレントが前線へ突撃して大暴れし、注目を集めて戦場をかき乱す。これがこのコンビの基本的な戦闘スタイルだ。

 だが、ランフォリンクスのような一部の恐竜は、クラレントを飛び越え直接ユーダリルを狙い攻撃を仕掛けて来る。

 そこで、ユーダリルは動いた。

 

《ニトロ!》

「我は求め訴える」

Calling(コーリング)!》

 

 ドライバーの操作により、彼の持つ銃の中に赤いインク液が集まっていく。

 そして突っ込んで来たランフォリンクスへ発砲、着弾すると同時に、インクが大爆発を起こしてそのまま近くにいた敵ごと消滅せしめた。

 エレメントカラー、ニトロの能力。自身の武器や両手足に、爆発するインクを付与する機能だ。

 今ならこの場を凌ぎ切れるかも知れない。そう思って応戦を続けていると、三人の元にさらなる援軍が駆けつける。

 

「紫乃くん、大丈夫かい!?」

「応援に来た、よ」

「クリスとロッソ! もう来ていたのね!」

 

 翔とアシュリィ、そしてロゼだ。

 全員戦闘に加わり、ヤミーたちは大きく数を減らしていく。

 堪らず逃げ出そうとするヤミーたちへユーダリルが追撃をかけるため、右手の銃へウルトラマリンブルーのリキッドを装填、撃鉄部のレバーを倒して必殺技を発動した。

 

Boosting Color(ブースティング・カラー)! Last Enhancing(ラスト・エンハンシング)!》

「終わりです」

《フォルネウス・クロマティックバラージ!》

 

 銃口から、飛沫と共に解き放たれる蒼海の鮫龍。そのアギトに呑まれ、あっという間にその場から怪人の姿はなくなった。

 安全は確保できた。変身を解いた紫乃は、隠れている八重垣一家へゆっくりと歩み寄る。

 そうして一瞬の間と深呼吸の後、意を決した様子で告げた。

 

「これで分かったはずだ。オレとあなたたちでは、もう生きている世界が違うんだ……それに、オレには向こうで育ててくれた家族がいる」

「紫檀……」

「だから忘れてくれ。オレは、行雲 紫乃として生きる。あなたたちは……平和な世界で生きていてくれ」

 

 紫乃はそう言ってすぐ、ホメオスタシスの研究所に戻るため背を向けて歩き出す。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 その背中を、竜胆が叫んで呼び止めた。

 あまりの気迫の込もった声に、紫乃は思わず立ち止まる。

 続いて、竜胆の傍で母親の方も言葉をかけた。

 

「紫檀、いえ紫乃! 確かに私たちとあなたの歩む道は違っているのかも知れない……でも、それでも私たちにとってあなたはずっと探し続けていた家族よ! 片時も忘れたことのない、愛する息子なの! だから……!」

 

 帰って来て欲しい、という切なる願い。自分たちと日々を共にしていなくとも、抱き続けていた愛情。

 それを感じながらも、しかし紫乃は振り返らない。

 すると今度は父親の方が、我が子の背に向かって語りかける。

 

「もう無理に帰って来いだなんて言わない、君は私たちを守ってくれた。それが答えなんだろう?」

「……」

「自分の歩むべき道があるのなら、男として引き止めるワケにはいかない。だけど……だからどうか、生きてくれ。生き続けてくれ」

 

 それでも紫乃は振り返らない。

 だが、俯いていた顔を上げ、噤んでいた口を再び開いた。

 

「一緒に生きていく事はできないと、そう言ったのに……それでもあなたたちはオレを、まだオレのことを……本当に家族と呼んでくれるんだな……」

 

 背中を見せたまま、紫乃は首を僅かに後ろへ傾ける。

 その両目は、僅かに濡れていた。

 

「オレにとってあなたたちは守るべき存在だ。それはこれから先も、変わらない」

「紫乃……」

「ずっと想っていてくれてありがとう」

 

 ただそれだけを言い残し、紫乃は去っていく。

 その後を追うロゼは母親から呼び止められて「紫乃をよろしくお願いします」と一礼を受け、頷いた後に紫乃の隣に並んだ。

 翔もすぐに追いつき、両目を指で拭う紫乃の傍を歩く。

 

「素敵な家族だね」

「……ああ。だからオレが守る、必ず」

「さっき静間さんから敵の本拠地が分かったって連絡があった。その意気で、頑張ろう」

 

 全ては守るべき者のために。

 翔と紫乃、二人の意思はひとつとなって固く強く結束していた。




 共工ヤミーと驩兜ヤミーが逃げ出してから、しばらくの後。
 廃工場の屋上で、リガレとマルムは自らの中に宿る力の高まりを感じ取っていた。

「くくく! いいぜぇ、破壊の波が広がっていくのが分かる!」
「人間たちの不安と恐怖が、虚無に捧げるこの宇宙のスパイスとなるのだ。もっと暴れろ! もっとこの街を恐怖で満たせ、虚無の信徒たちよ!」
「その欲望が虚無と俺たち刈人を強くしてくれるからよぉ!」

 奈落秘神教にとって世界の破滅こそが悲願。その欲望を叶える事で、ヤミーは体内のセルメダルを増やす。
 彼らの耳には、怪人騒動によってヤミーの中のセルメダルが増えていく音が聞こえているのだ。
 そんな興奮状態の二人の元に、バケキツネザルが姿を現す。

「リガレ様、マルム様。こちらは()()()コアメダルになります」

 その言葉を聞き、リガレとマルムはグパッと自分の胸を切開する。
 開いた内部は大量のセルメダルと、コアメダルが二枚ずつ入っていた。
 しかも透明だったはずのコアメダルは黒地に銀縁でハッキリと図柄が表れており、リガレの方には骨格で作られたようなサソリのメダル、マルムには双頭の鷲のメダルが新たに宿っている。
 そしてさらに、リガレに中央に『S』の記号が入っている鷲のメダルが、マルム側は胴体の中央に眼が付いている鷲のメダルが追加された。

「順調にメダルが馴染んでいるようですね」
「おうよ! これならヤツらに負けねぇ、ヴァンダル・リーグには感謝しねぇとなぁ!」
「えぇ、本当に感謝しなければ。では私は持ち場に戻ります」

 クスクスと笑い、バケキツネザルはその場を後にする。
 そうして工場内の小部屋の中に隠してある黒いトランクを開き、口角を釣り上げた。

「この力さえ完成すれば、ビャクアもマイヤも敵ではない……元の世界で御伽装士を全滅させ、ついでに他の世界の仮面ライダー共も全て抹殺し……私が化神の世を創り上げる……!」

 トランクの中に入っているのは、天面にスイッチが付いた一本の銀色の()()()
 それを満足気に見下ろした後、バケキツネザルはそれをしまって、トランクを片手に部屋を出ていくのであった。
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