仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ アズール×ムラサメ DUST TO DUST   作:正気山脈

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「ふむ……なるほど、これは確かに手強い呪いだ」

 翔たち仮面ライダーが、帝久乃市でヤミーと戦っている間。
 地下研究所でホメオスタシスの面々と合流した晴明は、呪いの赤い鎖で雁字搦めにされたメビウスユニットの解呪に取り掛かっていた。
 先にパトロールから戻っていた駿斗は、若葉と共に緊張した面持ちでその様子を見守っている。

「外せそうですか?」
「それは確実にできる、時間はかかってしまうだろうがね」

 両手の指先から放たれる光が、少しずつだが確実に鎖の拘束を緩めていく。
 そうして少々の時間が経過した後、紫乃たちが帰還した。

「晴明、到着していたのか」
「やぁ紫乃。呪い対策の防護術が必要だろう、全員が集まるまで少し待っていてくれ」

 晴明はそう言いながら作業を再開し、駿斗と若葉は戻って来た翔らに労いの声をかける。
 が、その時。

「……」
「翔?」

 眉間にシワを寄せ、押し黙る翔。その視線の先にいるのは、駿斗だ。
 一体どうしたというのか、尋ねるよりも前に翔はアズールセイバーを手中に生み出し、その切っ先を駿斗の首筋へ突きつけた。
 ロゼも若葉もギョッと目を見張り、紫乃も愕然としつつもレリックライザーを抜いて銃口を向ける。

「何をしている!?」
「ゴメン。でも気になっちゃってさ、駿斗くんが悪いワケじゃなさそうなんだけど」

 剣を降ろさずじっと駿斗の目を見据え、翔は続けて問いかけた。

「いい加減出て来い、()()()()()
「……フッ」

 直後。駿斗の口から漏れ出たのは、()()()()()()()()()
 怯えたような表情も消え失せ、不敵な笑みを口元に作っている。
 そうなった頃の彼の姿を、紫乃たちは知っていた。

「バカな!?」
「クロノス!?」

 紫乃は銃を下ろし、ロゼは驚く若葉をかばうようにして前に出る。
 一方、剣先を向けられてもクロノスは動じず、目の前の青い怪物に向かって拍手を送った。

「素晴らしい洞察力だ、天坂 翔。君なら私に気づいてくれると思っていたよ」

 その言葉を聞いてしばらく黙っていた翔だったが、敵意はないと判断した様子で、剣を下ろして消滅させる。
 とはいえ全員からの警戒は解けておらず、それを察してかクロノスはくつくつと笑いながら両手を拡げた。

「案ずるな、今の私は時の力と共に駿斗の中に宿った残留思念……刈人が現れたこの時のために潜んでいただけで、今更君たちをどうこうする気はない。駿斗とも仲良くできているようだしな」
「そうか……だが、丁度良い。お前と話がしたかった」
「ほう?」
「お前が何と戦おうとしていたか、何から世界を守りたかったのかが分かったからな」

 かつてクロノスは、虚無による破滅から宇宙を守るため、永遠の時を手に入れるために戦っていた。
 その過程でロゴス・シーカーを生み出し、LOTと敵対したが、最終的に敗北を喫したのだ。
 虚無や刈人に対抗するための方法を、クロノスならば知っている可能性がある。紫乃はそう思い、問いかけようとする。
 だが、それはクロノス本人によって遮られた。

「かつて私が生み出し用いたレリックライザーDは、虚無を滅ぼすために刈人の力の一部を持ち去って作り出したものだった。だがそれと時を司る力を併用してもなお、神の私では君たち封魔司書に敵わなかった」

 そう告げた後、彼は紫乃に指を差す。

「ならば、助言も手助けも必要ない。勝利の鍵は()()()()()()()()()()
「オレたちの中に……?」
「きっとすぐに理解できるハズだ」

 どこか満足気に微笑みながら、柔らかな眼差しと共にクロノスは続けた。

「勝てよ、人間。私の時代は既に過去のもの、白紙の未来を自由に彩るのは君たちの仕事だ。だろう? 仮面ライダー……」

 激励の言葉の後、駿斗は一瞬の間の後にハッと目を見張る。
 クロノスの人格が消失し、元の状態に戻ったのだ。
 勝つための鍵は自分たちの中にある。その言葉について考え込んでいると、晴明たちから招集がかかった。

「行こうか。僕らなら、きっとやれる」
「ああ」

 奈落の刈人との戦いに決着をつけるために。
 翔と紫乃は頷き合って、共に晴明の元へ向かう。

※ ※ ※ ※ ※

 ――数年前。

『また人間を見逃したのね、グレイ?』

 瀕死のグレイを救った女は、血縁はないが彼の母親となって子育てをしていた。
 しかしその教育も、キュクロプスの眼のような暴力を伴う恐怖政治ではないとはいえ、幼い子供にとって別方向であまりにも過酷な環境であった。

『いいこと? あなたは既に奈落秘神教の信徒なの。たとえ子供だろうと何だろうと、情けをかける理由なんてないわ。いずれこの宇宙は滅ぶのだから、今殺したって何の問題もない。心を痛める理由などないのよ』

 練習だ、と言われナイフを無理矢理持たされるグレイ。その視線の先にあるのは、練習代わりとして用意された子豚だ。
 人を殺すための練習。そして、()()()()()()()()()()()()
 命を奪う事に対し躊躇いを持つようでは、奈落秘神教の者として生きていく事などできはしない。だからこうして、盲目的に虚無のために命を捧げる事ができるよう、幼い内から徹底的に倫理観を破壊するのだ。
 しかし、当のグレイにとってそれは忌避すべき行いだった。
 知らなかったとはいえ、キュクロプスの眼にいた頃の彼は戯我に変異させられた同胞を何度も殺している。
 その当時のトラウマが起因して、たとえ命の恩人から命じられたとしても、何かを殺すという事に対する嫌悪感は絶対に拭えない。

『殺さなければ私たちが殺されるだけ。躊躇は捨てて、覚悟を決めなさい。でないと私はあなたを見捨てるわよ』

 彼女はキュクロプスの構成員のように暴力で言い聞かせはしなかったものの、言葉の刃でグレイを刺し続けた。自分の言い分こそ正しく、価値があるものだと信じ込ませるために。

『グレイ……』

 グレイの脳裏によぎる、血まみれで倒れてこちらを見つめる母の姿――。

 瞬間、眠っていた彼の時間と意識は、現在へと引き戻された。

「母さん……」

 濡れた瞼を開き、グレイはコンテナの上で一人呟く。
 そうしてゆっくり身を起こすと、慌ただしい足音と共にリガレがその場に姿を現す。

「配置につけ!」
「何があったんです?」
「奇襲だ! ヤツら仮面ライダーにここがバレている! あと少し、我々のコアメダルが馴染むまで時間を稼げ!」

 如何にしてこの場を嗅ぎつけたのかは不明だが、決着をつける時が来てしまった。
 グレイはレリックドライバーDを装着しつつ、刀と脇差を携え、迎撃に向かうべく歩き出す。


PAGE.06[黄昏に刃鳴る]

 刈人たちの潜む拠点を特定し、ホメオスタシスとLOTの連合軍は各々のマシンを走らせ廃工場へと向かう。

 先頭を往くのは鷹弘と響、そしてアダン。その後ろに翔や紫乃たちが続く。

 

「あそこが目的地だ!」

 

 鷹弘の叫ぶ声。しかしそれと同時に、側面からランフォリンクスヤミーの群れが強襲をかけて来る。

 

「やばっ! 勘付かれてる!」

「問題ない。行くぞ浅黄!」

《ノー・ワン・エスケイプ!》

《ドント・シンク・フィール》

『変身!』

《義賊の一矢、アクセス》

《絶対零度の雪顎争覇! 龍氷鳳武、エクストラアクセス!》

 

 そこへザギークと雅龍転醒が変身して先陣を切り、上空の敵を撃ち落としていく。

 だがやはり敵の数が多く、全てを射抜く事はできなかった。

 紫乃の駆るAストライカーに正面から飛来せんとするランフォリンクス。このままでは、衝突して落とされてしまう。

 しかし激突するよりも前に、既にロッソがバトルシップグレーとウルトラマリンブルーのリキッドを手に取り動いていた。

 

《トルピード!》

《フォルネウス!》

「勝手はさせませんよ」

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

「変身」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 変身と同時にバイクを蹴って飛び上がると、灰色と青色のインクを浴びてその姿を変容させていく。

 青いアンダースーツの上に、グレーの装甲とエイのように見える翼や鞭状の尻尾が形成され、頭部はサメを思わせる凶暴で鋭利なフォルムになる。

 両手にはAウェポンW-Gが握られ、変身と同時に発砲が開始された。

 

《潜みし轟海なる鮫魔! トルピードフォルネウス!》

「ここは僕が切り開きます」

 

 ランフォリンクスたちを容易く撃ち抜き、さらに地上からゲリラめいて近づくヴェロキには接近して尾を叩きつけ頭を砕く。

 それでも数はあまり減っていない。ヤミーたちはゾロゾロと、何度でも湧いて出る。

 ユーダリルは業を煮やした様子で舌打ちし、左腕の『フォージバイザーネオ』のスイッチを押した。

 

「あぁもう、鬱陶しいですね……」

《アタッチメント・マシンガン!》

「そろそろ怒りますよ?」

《AウェポンW-M(ダブル・エム)!》

 

 すると、彼の持つ銃の先端に金属の光沢を放つインク液が纏わり付き、硬質化してその形状を変化させ長大なマシンガンを形成する。

 磐戸とは別支部にて使用されているメタルリキッドを応用して新開発され、フォージバイザーネオに内蔵された『ネオメタルリキッド』による、ユーダリル専用の武装拡張機能だ。

 さらに彼はドライバーのリキッドを操作し、その力を発動する。

 

《トルピード! Calling(コーリング)!》

「我は求め訴える」

 

 両翼に三発ずつ生み出される、葉巻状の魚雷。

 ユーダリルが飛び立つと共にそれが空中で発射され、周囲の風景に溶け込んで透明化し、ヴェロキやランフォリンクスたちに着弾すると同時に爆発する。

 そうして混乱が波紋めいて広がっているところへ、マシンガンからの銃撃。これによって、ヤミーらは確実に数を減らして行った。

 とはいえ、その圧倒的破壊力と爆風の熱波には味方であるフィオレやツキミも困惑している。

 

「あ、あの子メチャクチャすぎない!?」

「危ないですわ怖いですわぁ~!!」

「とんでもねぇ火力だ……けど、お陰で道は確かに開いたぜ」

 

 鷹弘はそう言いながら、背後にいる者たちへ「急げ!」と叫ぶ。

 そしてついに、ヤミーを振り切って工場前に辿りついた。

 

「よし! ここからはいつ襲われてもおかしくない、変身してない者は今すぐ戦闘態勢を取ってくれ!」

 

 響の呼びかけに応じ、一同はそれぞれドライバーへマテリアプレートやモンストリキッドを装填していく。

 すると、すぐに工場の屋根や入口から四罪のヤミーが飛び出して来た。

 

「やっぱり出たね……!」

「門番のつもりか? そんな役目が貴様らに務まるものか!」

 

 紫乃は言いながら変身に移ろうとするが、その寸前でパーフェクトガンナーを持った響が介入し、向かってくる四体のヤミーを攻撃して足止めする。

 

「翔! 紫乃くん! 君たちは先に行け!」

「こんなヤツら、俺たちだけで充分だからな!」

 

 そう言って鷹弘が前に出た後、肇と翠月、さらに浅黄が続く。

 この五人が揃っていれば、きっと勝てるだろう。翔はそう考え、紫乃の肩を押して前に進む。

 

「……みんな! 頑張って!」

 

 振り返った翔の言葉に、響たちは背中を向けたまま腕を上げて応え、変身と同時に敵に立ち向かうのであった。

 

 

 

 廃工場内へ侵入成功した翔と紫乃たち一行は、寂れた広い空間の中を駆けていく。

 残ったメンバーは翔と紫乃に加え、アシュリィら三姉妹、さらにロゼとクリスとアダンだ。

 

「刈人は……まだ先、みたいだね」

「もっと奥へ行きましょう」

 

 アシュリィとロゼがそう言い、翔たちも頷いて奥へ向かって走る。

 そうして二階に上がってコンテナや壊れた備品が散らばる開けた空間に出ると、果たして二人の刈人はコンテナの上に並んでいた。

 

「ヒャハハハハァ! アズールとオマケのザコども! よく来たなァ!」

 

 紫乃たちを見下ろし、嘲笑うマルム。しかし、ここに集った戦士たちは挑発に乗る事なく、プレートやリキッドを用意して戦闘準備に移っている。

 

「貴様らが刈人か……これ以上好き勝手はさせん、オレのこの手で引導を渡してやる!」

「無理だな。なぜならば」

 

 紫乃の言葉にリガレが答える、その瞬間。

 彼の立つ床に刀によって切れ目が走って大穴が開き、下の階層へと落ちていく。

 その落下地点にいるのは、グレイの変身する仮面ライダーマガツムラサメ。

 

「――はっ!?」

「キミにこの方々の相手はさせないからだ!!」

 

 叫ぶマガツムラサメ。紫乃は即座にカレイドライバーを使って変身しようとするも、呪いで作られた狐の前肢により引きずり込まれてしまう。

 

「グレイの野郎!?」

「分断されるとは……!」

 

 グレイは最初から一階に隠れていたのだ。あえて一度刈人の元に送って視線を上に誘導し、下階に落下させるために。

 このままでは紫乃が危ない。ロゼはすぐさま、紫乃が落ちた穴の中へ走ろうとする。

 しかしその足元に、今度は頭上から手裏剣が飛んで来た。

 

「キャッ!?」

 

 飛び退いて見上げれば、そこにいたのはくノ一の如き怪人、バケキツネザルだ。

 

「こいつ、まさか例の化神……!?」

「アズールとムラサメには確実に死んで頂きたいので……邪魔はしないで、頂きますよ」

 

 ジャラッ、と尾を振って先端についた鎖鎌を動かす化神。これでは紫乃を助けに行く事ができない。

 一体どうすべきかとロゼが悩んでいると、背後からアダンが密かに声をかけて来る。

 

「穴には俺が飛び込む。あの化神は任せたぞ」

「アダン……!?」

 

 チラリと振り返ってみると、彼の表情は真剣そのものだった。

 どうしても向こうに行きたいようだ。ロゼはアダンの意思を汲むべきと考え、ブリューナク エレガントヴァルキリーカラーに変身し、Aウェポンを手に駆け出す。

 アダンも変身してそれに追従し、その直後にクラレント エクセリオンに変身したクリスが並走する。

 

「オイ!?」

「ヘッヘー! お前ばっか良いカッコすんじゃねぇーよ!」

 

 ブリューナクがバケキツネザルをエレガントミラージュと共に抑え込み、その間にゲイボルグとクラレントの二人が穴に飛び込む。

 

「チッ!? 邪魔だ!!」

 

 鎖鎌で分身たちを斬り倒して消滅させるものの、穂先で刃を弾かれたため本体には命中せず。結果として、ブリューナクと正面から対峙する事になった。

 今追いかけるとブリューナクを素通りさせる事になる。そうなってしまっては、伏兵としてマガツムラサメを潜ませていた意味がない。

 それだけでなく、アシュリィとツキミとフィオレも仮面ライダーピクシーズに変身し、バケキツネザルに立ち向かう。

 

「戦うのはロゼだけじゃないんだよ」

「私たちだっているんだから!」

「行きますわよ、ロゼさん!」

 

 ピクシーたちのレイピアとブリューナクの槍が、ワオキツネザルの怪人を襲い、その身体を薄く斬り裂く。

 

「良いでしょう……お望みとあらば、貴方がたも血祭りに上げて差し上げますよ!」

 

 舌打ちの後にそう告げ、バケキツネザルは鎖鎌を尻尾で振り回し、四人を相手に立ち向かう。

 

「無事でいてくれよ、紫乃くん……!」

 

 そして翔の変身するチャンピオンリンカーのアズールも、仮面ライダーサイフォスとデモゴルゴンに飛びかかっていく――。

 

 

 

QUALIA-UP(クオリア・アップ)!! 千変万化に瞬く色彩!! 絶望を断つ光芒一閃!! 解き放て!! カレイドプリズム!!》

「くっ!」

 

 マガツムラサメによって一階に落ちた紫乃は、転落の直前に仮面ライダームラサメ 千紫万紅に変身する事によって、念動力を利用し緩やかに着地した。

 その後に続いて、ゲイボルグとクラレントも到着する。

 仇敵と肩を並べ自分と対峙するかつての仲間の姿に、マガツは深く溜め息をついた。

 

「ホンット傷つくなァ……どうしてキミたちはアダンなんかと一緒にいる、本来ならボクの味方をするべきだろう」

「立ち場分かって言ってんのかお前? お前を止めなきゃ宇宙が終わるんなら、ムカつくヤツと一緒だろーがやるしかねぇだろ!」

 

 大剣の先端を突きつけ、クラレントが言う。

 すると、うんざりだとばかりに黒狐が肩を竦め、自身のドライバーに手をかける。

 

「呪いの対策をして来たようだが、キミたちではボクを止められない! 見せてやるよ、ボクの真の力を!」

《トワイライトナインテイル!! Calling(コーリング)!!》

 

 トリガーが弾かれると同時に、黒い靄に包まれるマガツの身体。

 そして靄が消え去ると、そこには新たに三人のマガツムラサメの姿があった。

 

「なっ……!?」

「分身!?」

 

 驚くアダンとクラレントを前に、黒き狐は仮面の奥でくつくつと笑う。

 

「四対三だ。キミたちにもう、勝ち目はない」

 

 刀を構えて、じわじわと迫るマガツムラサメ。

 だが、その時。

 

「それはどうでしょうか?」

 

 入口の方でそのような声が聞こえ、爆発音と共にユーダリルが飛び出して来た。

 

「これで四対四、五分五分の勝負になりますね」

「元キュクロプスの眼が揃い踏み、か……良いだろう! ならば全員纏めて捻じ伏せるだけだ!」

 

 マガツが強く叫び、刀を振り上げて戦闘が始まる。

 クラレントもゲイボルグも、ムラサメも攻撃をしっかりと受け止めた。

 呪いが通じない以上、この戦いにおいては完全に本人たちの積み重ねた技術や実力がモノを言う。

 そういう意味で、ユーダリルの方はまだ未熟だった。

 マガツの剣速と腕力に対し、自身の武器である二挺拳銃で受けるものの、食い止め切れずに後方へ押し出される。

 

「なんだ? キミが一番大した事ないじゃないか、飛び入りくん!」

「流石に今のままでは厳しいか……ならば!」

《バルバトス!》

 

 言いながらロッソが取り出したのは、ガンメタルグレーのリキッド。

 それを起動すると、端子からオリーブドラブカラーの流体金属が溢れ出して小さな鷲の形に変化した。

 クロノスとの戦いの際に破損したワイルドイーグル、それを修繕して受け継いだものだ。

 ユーダリルは即座にリキッドを装填し、レリックドライバーにセットした。

 

GET READY(ゲット・レディ)! Weathering Color(ウェザリング・カラー)! MILITARY GRADATION(ミリタリー・グラデーション)!》

先代(灰矢)……力をお借りしますよ!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 全身に駆け巡るニ色のインク。現れるのは、ガンメタルグレーのアンダースーツに、鷲の翼を背負った迷彩色の装甲を宿す悪魔。

 

《嘶け! 深き森に羽撃く百発百中の悪魔! ワイルドバルバトス!》

「この姿になったからには、僕は決して負けない……負けられないッ!!」

《AウェポンW-W(ダブル・ダブリュー)!》

 

 仮面ライダーユーダリル ワイルドバルバトスカラー。武装も形状が変化し、左右で組み合わせる端子とリキッド装填用のスロットが両方の銃に増築されている。

 強い決意を込めた言葉で自らを奮い立たせると、彼は銃口を突きつけ引き金を弾く。

 それと同時に、ユーダリルの背後にトランペットに似た形状の四つのドローンが出現してマガツを取り囲み、その大きなベル部から無数の銃弾を乱射した。

 

「なっ!?」

「狐狩りだ!」

 

 四方八方から飛んで来る銃弾の嵐には、いかに高速剣術を得意とするマガツムラサメの二刀流であっても防き切る事はできず、徐々に装甲へのダメージが目立ち始める。

 

「く、手数が違いすぎる!?」

「一気に終わらせる!」

「させるか!」

Reshadowing Color(リシャドーイング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!! トワイライトナインテイル・アクロマティックプロミネンス!!》

 

「ハァァァァァッ!」

 

 ユーダリルに先んじてマガツはドライバーを操作、必殺技を発動して燃え上がる刀で斬りかかる。

 対するロッソは、両手の銃を組み合わせた後、ドライバーのイーグルを取り外してAウェポン側のスロットに装着。こちらも必殺技を発動した。

 

Getting Color(ゲッティング・カラー)! Last Enhancing(ラスト・エンハンシング)!》

「行けェェェェェッ!」

《ワイルドイーグル・クロマティックサジッタディストラクション!》

 

 四つのトランペットが銃と合体し、放たれる極大の光線。その一撃を受けて、マガツムラサメの分身は為す術もなく消滅する。

 

「いい加減倒れろ、クリス!」

「へへっ……やだね! オラッ!」

 

 一方、クラレントは持ち前の頑強さから攻撃を防ぐ事ができているものの、彼女自身からの大剣による斬撃は命中していなかった。

 マガツムラサメは威力で、クラレントはスピードで相手に劣る。どちら側も決め手に欠けているのだ。

 

「チィッ! これでは埒が明かない……」

 

 バックステップでクラレントの一振りを回避しつつ、マガツは自分の打つべき手を思索し、それを実行する。

 彼女の視界から逃れるように大きく飛び上がり、さらに地を刀で斬って砂煙を巻き上げながら走り回り続けていく。

 そうしてクラレントがマガツムラサメの姿を見失った瞬間、彼は動いた。

 

Reshadowing Color(リシャドーイング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!!》

「終わりだ!!」

《トワイライトナインテイル・アクロマティックアヴァランチ!!》

 

 氷刃と共に、背後から殺到する斬撃の嵐。

 それが背中にヒットし、マガツは勝利を確信して刀を押し込まんとする。

 しかし、その瞬間。既にドライバーからシリアルリキッドを抜いていたクラレントは、自身のAウェポン2C-EXへとそれを装填していた。

 

Highboosting Color(ハイブースティング・カラー)! Last Igniting(ラスト・イグナイティング)!》

「しゃらくせェッ!!」

《ブリッツゲイル・クロマティックエクスキューション!》

「オォラァァァッ!!」

 

 必殺技を使って当てた直後の隙を突いた事によって、クラレントの斬撃は吸い込まれるように黒狐の胸に直撃。

 分身体を一刀両断し、勝利を収めた。

 

「なん、だとォ……!?」

「伊達で紫乃の相棒やってンじゃねェんだ、アタシが簡単に負けるワケねぇだろ!」

 

 快活に笑って、クラレントは剣を地面に突き刺す。

 分身は残り一体。しかしゲイボルグに猛攻撃を仕掛けるマガツに、その焦りは見えなかった。

 

「貴様だけは……貴様だけは殺す!! アダァァァァァン!!」

 

 怒声を浴びせ、息もつかせないほどの激しい剣撃を繰り出し続ける黒狐。

 だが、当のゲイボルグは、時に槍でいなし時に身をかわしてその猛攻の全てを避けていた。

 

「なぜだ!? なぜ直撃しない!?」

「……昔教わったはずだ。直線的な攻撃を続けても意味はない、殺意を込め過ぎれば挙動は読みやすくなると」

「こ、の……!!」

 

 ギリッと歯を噛み締めた後、仮面の奥で目を吊り上げ憤怒の形相を作ったグレイは、そのままダイヤルを黄色に合わせドライバーを操作する。

 

Reshadowing Color(リシャドーイング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!! トワイライトナインテイル・アクロマティックボルテージ!!》

「砕け散れェェェッ!!」

 

 雷光と共に刀を振り上げ、斬閃を放たんとするマガツムラサメ。

 しかしその瞬間、ゲイボルグは地面に穂先を突き立てて棒高跳びのように跳躍した後、リキッドを装填して投擲する。

 

Boosting Color(ブースティング・カラー)! Last Enhancing(ラスト・エンハンシング)!》

「ハッ!」

《レーシー・クロマティックファランクス!》

 

 頭上から右肩へ直撃する投槍。

 その強烈な一撃に思わず膝をつきかけるが、身の内から湧き上がる怨念を力に変えて堪え、頭上を見上げた。

 

「……なん、だ!?」

 

 瞬間、身体が動かなくなる。

 見れば、槍の先端から木の根のようなものが張り巡らされており、両腕も両脚も拘束されてしまっていた。

 そこへ容赦なく、ゲイボルグが襲いかかる。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

「荒浪に飲まれて、消え去れ」

《タイダルコロッサス・クロマティックメイルシュトロム!》

 

 刺さった槍へ振り抜かれる踵落とし。

 その一撃はゲイボルグのAウェポンをさらに深くへと押し込み、マガツムラサメの身体を引き裂いて木っ端微塵に粉砕せしめた。

 最後に残った本体はその戦況を知って、よろめき後退りしてしまう。

 

「分身が全滅だと!? バカなぁ……!!」

「そうだ。後はお前だけだ、グレイ!」

 

 力強い一太刀が、呪いでコーティングされたマガツムラサメの脇差を圧し折る。

 これで使える武器は刀一本のみ。しかし、闘志を絶やさず黒狐は叫ぶ。

 

「驕るなよ紫乃! キミの命さえ奪えばボクらの勝ちなんだ!」

「無理だな。できないだろう、人を殺せないお前には」

 

 どうしてそれを、という言葉を出し切れず、代わりに紫乃が厳しく追及する。

 

「最初の戦いでお前はオレにトドメを刺さなかった。それだけじゃない、本来なら確実に直撃する局面で必殺技を自ら逸らした。知らぬ存ぜぬとは言わせんぞ」

「ぐっ……!?」

「あの場には無関係な子供がいた。かつての、キュクロプスの眼だった頃の自分を思い出してお前は躊躇したんだ! 晴明の防護術が完璧だからというだけじゃない、お前はその半端な覚悟のせいで呪いの力を完全には扱えていないんだ!」

「黙れ!! だったらキミはどうなんだ!? 殺せないだろう、ボクを!! 覚悟が半端なのはそっちも同じだァッ!!」

 

 鋭い一突きがムラサメの喉に向かって伸びるが、ムラサメが先読みして放った念動力の壁がそれを阻み、カウンターの拳が顔面に叩き込まれた。

 

「がぁっ!? な……なぜ、だぁ!?」

「オレはもう覚悟を決めている。お前を含めて誰も殺さない、殺させない!! 犠牲を出さないのがオレの覚悟だ!!」

 

 続いてムラサメの蹴りがマガツの横腹を強く打ち、彼を転倒させる。

 勝てない。呪いの力が、通用していない。

 しかしそれを認められないグレイは、自らを奮い立たせダイヤルを押し込み、ドライバーに手をかけた。

 

Reshadowing Color(リシャドーイング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!!》

「ふざけるな……負けて、たまるかぁぁぁ!!」

《トワイライトナインテイル・アクロマティックコラプション!!》

 

 炎・氷・雷の全てが混ざり合う、極大の呪いを宿した斬撃。

 それと同時にムラサメも、自身のカレイドライバーを操作し、必殺技を起動する。

 

CHECK(チェック)!! Fullgathering Color(フルギャザリング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!!》

「オレの勝ちだ!!」

《カレイドプリズム・クロマティックエクスプロージョン!!》

 

 サイキックの力で浮遊すると同時に自分自身を弾き飛ばし、飛び蹴りを放つ。

 ムラサメの念動力とマガツの呪いのせめぎ合い。その余波は天井や地に広がり、元々老朽化しつつあった廃工場をさらに痛めつける。

 そうして極限までの力を出し合った両者の内、戦いを制したのはムラサメの方であった。

 痛烈な蹴りの一撃は呪いを押し退けてマガツの胸に命中、彼を解除に追い込んだ。

 

「がああっ、く……クソッ……!!」

「もう諦めろ。お前に人殺しは似合わん……あのキュクロプスでの日々を味わったオレたちだからこそ、こんな事とは無縁な生き方を目指すべきじゃないのか?」

 

 再び立ち上がろうとしていたグレイは、それを聞いてピクッと眉をひそめ、震える腕で拳を地に叩きつける。

 

「ボクを拾ってくれた母は……キュクロプスの眼の出身者に、ボクがいない間に殺された……!! しかもそいつは逃げて、きっと今もどこかでのうのうと生きている!!」

 

 何度も、何度も。

 血が出るまで拳で床を叩いた後、呪いに魅入られた少年は立ち上がった。

 

「こんなふざけた事がまかり通る宇宙に!! この時空に!! 理想的な未来なんて存在しないんだ!! だから、善人だろうが悪人だろうが全部滅びれば良い!! それがボクの呪いだッ!!」

 

 言いながらレリックライザーDに手をやって、グレイはよろめきながらももう一度変身を試みる。

 

「そうだ……呪いだ、呪いの力こそ全てだ! イチかバチか、ボク自身にこの呪い全てを注ぎ込んで……!」

「やめろ! 危ないぞ!」

「うるさい! 未来に選ばれている側の人間が――」

「違う! グレイ、()()!」

 

 ピシッ、という音が頭上から聞こえ、グレイは思わず天井を見上げた。

 そこにあったのは、先程の必殺技の余波と元々自分が斬っていたせいで、崩れ落ちつつある瓦礫。

 逃げよう、と思い至った矢先に天井は崩れ、グレイに向かって降り注いで来る。

 

「がっ……!?」

 

 身体に走る痛み。頬を伝って落ちる血。

 しかし、その血は自分自身のものではないとグレイには分かっていた。

 なぜなら彼は正面から押し飛ばされた痛みで呻いたのであり、血は頭上から降って来たのだから。

 では、この血は――?

 

「く……無事、か?」

「……え?」

 

 見れば、目の前にはアダンがいる。

 仇敵だったはずの男が、身を挺して自分を庇った。その事実に、グレイは自分の思考が真っ白に染まっていくのを感じた。

 

「なん、で……ボクが、生きて……いや、どうしてアダンがボクを……!? あり得ない、あり得ない!! なんで、お前がボクを助けるんだよ!?」

 

 どうして、どうしてとアダンから離れて呼吸を荒げながら、目を剥いて半ば錯乱した様子で叫ぶ。

 そんな様子を見かねて、変身解除したクリスは躊躇いながらも弁明しようと口を開いた。

 

「グレイ、そいつはお前の知ってるアダンじゃ……」

「知ってるよ!! ウロボロスとかいう戯我に生まれた時から乗っ取られていて、何もかもそいつの思考でやってた事なんだって!! でもボクは納得できなかった!! 認められなかった!! コイツがボクらの人生を全部メチャクチャにしたんだ!!」

 

 頭を押さえて血を拭うアダンへ指を差しながら、グレイは言う。

 するとそのアダン本人が、目を細めて彼に頭を下げた。

 

「辛かっただろう……自分の人生を、ずっと他人の都合の良いように歪められ、そのまま一生を終えるというのは……俺も、所詮クロノスたちのために生み出されただけの命だった……」

 

 それを聞き、グレイの目が見開かれる。

 

「だから、俺は償わなくてはならないんだ……俺自身の意思で行われたかどうかなど関係ない、全てを弄ばれた俺だからこそ……その罪と向き合い、贖い、命を守るために生きなくてはならない……!!」

「……ッ……!!」

「済まなかった。恨むなら恨んでくれ、俺はそれで良い。だが、どうか生きてくれ。俺と違ってお前はまだ引き返せるんだ」

 

 頼む、と血を流しながらもアダンは懇願するように言った。

 その瞬間に、グレイの脳裏に再び記憶がフラッシュバックする。

 戯我に襲われ倒れた母の、最期の言葉が。

 

『グレイ……命を奪えないあなたの優しさは……私たちの世界では、不要なもの。でもね……もう私、ダメみたいだから……あなたが望むなら、その優しさを捨てないで……ここを出て、どうか……平和に……』

 

 とめどなく溢れる涙。グレイは地に膝をついて喚き、両拳で地面を殴る。

 

「無理だ!! 無理だよ!! だってボクは……奈落秘神教に、宇宙の滅亡に加担して……いっそ、殺してくれれば良いだろう……!!」

 

 すると、皮がめくれ血に濡れた拳を、彼の両側から二つの手が掴み取った。

 ロッソとクリスだ。

 

「過ちを犯しても、やり直せないなんて事はないと思いますよ」

「だな。アタシも戯我に変えられた同胞を大勢殺して、まだその償いの途中だ」

「生きて下さい、グレイさん。それで自分のやった事がなくならなかったとしても、僕はあなたの味方でいますから」

 

 グレイは二人の言葉を聞いて口を噤み、力を失ったように項垂れる。

 その様子をチラリと振り返りながら、ムラサメは彼らに背を向けて天井に空いた穴の下に歩いていく。

 

「オレは行く、翔たちが待っているからな。今後どうしたいかは自分で勝手に決めろ」

「紫乃……」

「……あの子を助けてくれてありがとう」

 

 ムラサメはそれだけ言った後、二階に向かって飛び上がった。

 この険しい戦いに、決着を付けるために。




 時を同じくして、アズールは刈人の変身したサイフォスとデモゴルゴンの二人を相手に、互角に立ち回っていた。
 デモゴルゴンが剛腕で殴って潰しにかかればそれをヒラリとかわし、サイフォスの素早い斬撃も全てアズールセイバーで受け止め、逆に反撃の蹴りを浴びせて距離を取る。
 あまりにも洗練された動きに、不死身な上にあまりダメージがないと言えど二人は苛立ちをあらわにしていた。

「クソがァッ!? なんで当たらねぇ!?」
「人間如きが無駄な足掻きを!! 反撃の手がないのだから、大人しく殺されろ!!」

 一方でアズール自身も、仮面の奥では焦燥と疲労の色が見え始めている。
 手を誤れば、紫乃が到着する前にやられてしまう。それだけは避けなくてはならない。
 だが、そんな心配を吹き飛ばすように、床に空いた穴からゆっくりとムラサメが浮き上がって来た。

「いや……どうやら、こっちの勝ちみたいだよ」
「待たせたな、翔」
「ううん。さぁ、反撃開始だ!」

 二人の人間の威勢の良い言葉に、サイフォスとデモゴルゴンは鼻を鳴らす。
 今更一人増えたところで、何ができるのか。そんな油断が見て取れた。
 そして、それが即仇となる。

「なん、だ!?」
「身体が……う、動かねぇ……!?」

 ムラサメの強大な念力(サイコキネシス)。それは刈人さえも封じ込め、楔を打ち込んだかのようにその場に固定した。

「容赦はせん。最初から全力で、即刻確実に倒す!!」

 アズールとムラサメは頷き合い、同時に自身のベルトに手を伸ばして跳躍し、必殺技を発動した。

《グレイテストフィニッシュコード! Alright(オーライ)! 》
CHECK(チェック)!! Fullgathering Color(フルギャザリング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!!》
『ハァァァァァーッ!!』
《チャンピオン・マテリアルヴィクトリー!》
《カレイドプリズム・クロマティックエクスプロージョン!!》

 夕刻の如きオレンジの輝きと、紫色の極大の光条。
 それらが二人の刈人に直撃すると共に、彼らの身体に裂け目が生まれて六枚の黒いコアメダルが露出した。

「紫乃くん、今だ!」
「よし……!」

 後は、あのコアメダルをリガレとマルムの体内から取り除くだけ。

「させるかァ!!」

 そう思って実行に移そうとした、その寸前。
 一本のベルトが、仮面ライダーたちと刈人の間に飛んで来る。
 アズールもムラサメも呆然とする中、女の笑い声がその場で響く。

「この時を待っていた……あは、あははははは!!」

 見れば、投げたのは一度戦線を離脱したらしい傷だらけのバケキツネザル。トランクから取り出したベルトを、その場に投擲したのだ。
 その銀色のベルトの左右には三つずつメダルを装填するスロットがあり、天面にはスイッチが付いている。

《ヘキサギンガオードライバー!!》

 一同が見守る中で、そのベルトは静かに、不気味な音を立ててひとりでに起動した――。
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