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境界対策課。略して、
環境庁神祇部に属する政府機関であり、
界異。正式名称は境
近年の科学化の波はそんなオカルト領域に住まう彼らにも波及し、科学と神秘の融合を経て誰にでも扱う事のできる装備品が生み出された。安定した性能で欠落した素養を補う装備の数々は元来特別な才能を必要とした祓魔を凡人が行うことを可能とする。
規格化された装備を振るい、才能の差を戦術で補い、叡智の牙で界異を祓う。そんな全く新しいスタイルで活動を行う祓魔師達のことを、タクティカル祓魔師と呼ぶ。
薄暮の教室の中で、物々しい装備を身に着けた集団が円を描くように座っている。境対指定の
彼らは皆、ひとりだけやけに場違いなラフなTシャツ姿の少女の方へと顔を向けて、ホワイトボードまで駆使して彼女の垂れ流す今回の作戦内容を拝聴していた。
「――――と、いうわけでだ。まあ小難しく語ったが簡単に纏めれば『慎重に突っ込んで最後にどーん!』が今回の作戦ってワケだな。……ん、なんだね壱番くん。随分と不服そうじゃないか?」
「いやあ、だって、
「そうは言っても、仕方ないじゃないか。実際問題、君達の仕事で一番大切なのは生きて最奥部に到達することなのだから」
篝の説明に、壱番と呼ばれた大男が呆れたように肩を落とす。反論はないが、文句はあるのジェスチャーだ。
当然黙殺されるそれを尻目に、中肉中背の男が手を挙げ、口を開く。
「つっても、相手は三号級の『マヨヒガ』でしょ? 最奥部まで到達するのは中々骨なんじゃないですか?」
「いい質問だね、弐番くん。確かに『マヨヒガ』は難敵だが、今回はそうでもない」
界異にはその存在規模、脅威に応じて一号から五号までの等級が割り振られる。その中で『マヨヒガ』は異界を創造する上に、『どの方向に移動しても最終的には最奥部に到達する』
だが、今回は事情が違う。
篝がホワイドボードに一枚の資料を貼り付ける。資料には大きく、切れ長の瞳を人懐こそうに丸める少女の姿がプリントされている。
「あれ、この子って」
「そう、最近ここ近辺で目撃されている
「勘弁してくださいよ、未成年によこしまな感情は持ちません」
柔和に、しかしきっぱりと言い切る白衣の男に対して、篝がからからと笑った。
その様子にいかにも不愛想に、少し小柄な人物が声を上げる。少年のような声質で、身体にもこれといって性別を特定する要素がない中性的な容姿は怜悧な眼光をより冷たく見せていた。
「雑談は後にしましょう、篝さん。それで、その子がどうしましたか」
「おっとごめんよ参番くん。手早く亡霊の種明かしと行こうか」
篝はべろべろばあ、とお化けを模するようにおどけてみせて、資料をばんと掌で叩く。
「この子の正体は、
四年前。学校丸ごとひとつが
もちろん、境対も四年の時間を何もせず過ごしてきたわけではなかった。無人となった校舎を立ち入り禁止とし、研究畑の人間を何度も送り込んで異界の研究を進めていた。
状況が変わったのは、つい最近――――廃校の亡霊少女こと児島花澄が、目撃され始めてからだ。
「彼女は『マヨヒガ』と同時併発的に発生したと予測される、三号級界異『
「彼女が望めば、最奥部への入り口が早い段階で現れるはずだと?」
「そうだ。だから、君達は突入後、彼女を探し出して味方にする必要がある」
壱番と弐番が資料へと注視する。今の内に児島の容姿を頭に焼き付けておくつもりなのだろう。だが、参番はそちらへ視線を向けることすらなく、続く疑問を篝へと投げかける。
「そもそも、僕達は本当に『マヨヒガ』に突入できるんですか? 手出しできないから今まで放置されていたのでしょう?」
「できるとも。……君、意外と意地悪だよね。話しづらい話題なのわかって振ってきてるだろう」
篝の向けるじっとりとした視線を涼し気な顔で受け流して、参番は目配せで続きを促した。全然取り合うつもりのない様子に大げさにため息をついて、篝が口を開く。
「……児島ちゃんの姿が目撃され始めたのは、なんでか知らないけど『マヨヒガ』と現世の距離が今は非常に近い位置にあるからだ。本来はその亡霊モードの児島ちゃんと接触しないと侵入できないはずだけど、今ならそれを無視して侵入できる」
「それはどうして?」
「既に侵入したヤツがいるからだ」
「ええっ!?」
壱番がひときわ大きく反応を見せる。目を真ん丸に見開いて、それは大変だと全身で感情を露わにしていた。それに篝は愉快そうに笑いながら、説明を続ける。
「呪詛犯罪者、
「大変じゃないっすか! ただでさえ危ない界異なのに呪詛犯罪者までおかわりしちゃその児島って子も無事かわかりませんよ!?」
「そこはあんまり心配しなくていい。相沢……今名乗ってる敷島の方で良いか。とにかく、敷島は呪詛犯罪者って言っても、罪状も動機もはっきりしてるから……」
「なら教えてください」
言いづらそうに口篭る篝の様子を無視して、参番が直球に質問を入れる。少しの間、篝は参番に恨めしそうな視線を向けて、観念したようにため息を吐いた。
「敷島の罪状は、窃盗だよ。元タクティカル祓魔師でどっかの班員だったらしいけど、娘が『マヨヒガ』に巻き込まれてからは調子を崩して引退。その時のゴタゴタで上層部に不信を抱いて短刀型の
「……じゃあ、先に侵入したって言うのも娘さんを探しに?」
「おそらく間違っていないだろう。元々の性格は真面目で温厚だったと評判であったようだし」
親子の情を感じさせる話に、壱番が目を輝かせる。こうした善性に対して非常に素直な男であるから、感動でもしているのだろう。その様子を微笑ましく見つめながら、弐番もまた感心したように言葉を漏らす。
「しっかし、黒不浄を持ち逃げとは随分な度胸だな。狩衣は持ち出さなかったんだろう?」
「そう聞いている。狩衣の霊魂防御がなければ諸刃の剣よりひどいものなのにね」
黒不浄とは、物質化した穢れを刀身とした対界異近接武装である。護符を織り込んで作り上げられた狩衣の防護がなければ使い手の魂すら汚染してしまう危険な代物で、何の対策もしていない状況で扱うものではない。
仮に、霊魂防御を備えずに黒不浄を握った場合、使い手の肉体と魂は急速に穢れに蝕まれ、破滅的な変異を遂げることになるはずだ。
「敷島と出くわしても、無理に捕縛をしなくても構わない。どうせヤツは目的が叶うか、あるいは叶わないかした場合は大人しく投降するだろう」
「うす。目的が一致した時は協力を求めてみても良いか?」
「許可しよう。甘い対応になるが、元々私達の作戦目的は敷島の捕縛ではない。逆に、敷島の手助けでもない。そこを忘れないようにね」
追加の質問がないのを見て、篝は手を打ち鳴らして場を切り替える。
「では、繰り返しの確認だ。君たちのやることは、最初に『児島花澄の捜索』。次に『児島花澄の協力を得る』。最後は『最奥部へ赴く』ことだ。最奥部での手順は先ほど説明したから、もう頭に入っているね?」
実働組の三人が頷いたのを見て、篝もまた満足そうに頷きを返す。
「研究開発部門でも評判の『ナナツド隊』の実力、楽しみにしているよ」
〇篝
ラフなTシャツ姿で現場入りしている少女。研究開発部門所属であるらしい。
〇各務
狩衣の上に白衣を着た男性。口調や物腰は柔和だが意志の強さを感じさせる断言口調が特徴。
〇壱番
狩衣にフェイスガードをつけた隊員。大柄で若い男。素直。
〇弐番
狩衣にフェイスガードをつけた隊員。中肉中背の男。短気だが情と合理のバランスが良い。
〇参番
狩衣にフェイスガードをつけた隊員。少し小柄な人物。性別不詳。常に冷静で必要なツッコミを入れては話を進める。