『児島ちゃんの動きが止まった! なんでか知らないけどチャンスだぞ皆!』
四体からなる一つ眼の猛攻を再び駆けまわりながらかわす壱番と弐番が、篝の上げたその叫びに思わず児島の方へ振り返る。
既に蛭子の真下にまでたどり着いていた児島は、両手を上げて蛭子を受け止めようとする姿勢になっていた。しかし、不自然に右手が下がり、それに続いて左手も高さが落ちていく。
児島の右手には、血染めになったリボンが結び付いていた。作戦開始前にはそんなもの巻いてなかったような気がするけれど、記憶違いだろうか?
「やるなら今しかねえな! 壱番、しっかりやれよ!」
「お、おう!」
弐番が最後の疑似穢を起動して、一つ眼達の包囲の中へと突っ込んでいく。
振り抜かれる拳を掠めるようにして避け、四体の中心点に疑似穢を落とした直後に邪視に固まった体を殴り飛ばされ、壁際まで吹き飛んでいった。
これで、弐番の形代紙は切れた。もう、戦線に復帰することはできないだろう。
壱番も覚悟を決めて、疑似穢に気を惹かれて一瞬動きを止めた一つ眼達の中心へと突っ込んでいく。同士討ちを避けるためか、それとも児島を慮ってか、全身の眼を開いての邪視を行わないことだけが幸運だった。
「うおおおおおおおっ、俺を見ろぉ!!」
叫びを挙げて跳びあがった壱番へと視線が集まる。弐番に邪視を行わなかった個体が居たようで、その分の邪視を受けて形代紙が一枚散る。一枚なら、まだ許容範囲だ。
高々と掲げた黒檀の筒の紐を引き抜く。紐に繋がった安全札が剝がれ、贄体と呼ばれる呪詛の発生源に急速に負荷がかかる。
壱番ごと巻き込んだ呪詛の爆発は一つ眼達の眼球を抉り、壱番の最後の形代紙を削り切った。
その雄姿を見届けた参番もまた、自分の仕事を果たそうと蛭子を睨み上げ、霊力――――魂より発する力を込めて詠唱を始めた。
「日
参番の声音に乗った霊力が加護を呼び込み、清浄な空気を辺りに漂わせ始める。その見えない力の矛先は蛭子を捉え、蛭子もまた参番のしていることに気が付いた。
「陰が
蛭子の泣き声が響く。一つ眼達は蛭子を害そうとする参番へと狙いを定め、新しく生やした眼球を怪しく光らせる。
連続して襲い来る邪視を
参番の懐から、最後の形代紙がこぼれ落ちた。
「陰に潜みて陰を祓い、穢れを以て穢れを祓う。我らこそが祓魔の
参番の総身から立ち上がる見えない何かが、辺りの暗闇を喰い破りながら蛭子へ迫る。清浄なる力は蛭子の纏う濃密な穢れに阻まれ、届かないようだった。
隊列を整えた一つ眼が、一斉に体表に眼球を生やす。児島を背にして、正面に限定した邪視を一斉に投射することで参番の命を奪わんとしているのだ。
チェックメイト。胎内潜り達は詰みに手をかけて、最後の一手を打ち込まんと――――
――――瞬間。蛭子の真下から、強大な神秘の力が立ち上がる。いつの間にかそこに陣取っていた壱番が、“秘密兵器”を蛭子に向かって撃ち放ったのだ。
「自爆して終わりだと思ったかよ? 俺だって、体くらい張るんだぜっ!」
壱番の足元で、箱型の機器がぶつんと音を立てて機能を停止した。――――
強力な加護を纏う特別な祓串が、蛭子に衝突する。それは、ギリギリの所で蛭子の穢装に受け止められ、僅か数センチの距離を残して拮抗する。
蛭子の注意が、否応なくそちらへと逸れた。
「はああああああああぁぁぁっ!!!」
生身で邪視を受け止めながら裂帛の気迫を込めた雄叫びを上げる。参番の霊力が性質を変え、蛭子の穢装に染み込むように溶け込み、その防御を失わせる。
数多の宝玉に彩られた祓串が、とうとう蛭子の体に突き立った。
「────
参番の通信を受けた篝がニヤリと笑みを浮かべ、背後へと振り向いた。そこには、大砲のような輪郭をした光学機器に繋がれた各務が居る。ついでとばかりに機器ごとしめ縄を巻かれ、全身に吸盤でケーブルを貼られた姿はとてつもなく窮屈そうだった。
「喜べ、各務くん。お待ちかねの出番が来たぞ!」
「やれやれ、本当に待ちくたびれましたよ」
各務という男は、参番を遥かに凌ぐ霊力を持つ突然変異の怪物であり、出来損ないであった。類稀を見ないその霊力総量は全てを戦闘機能に回せば古今無双の力を各務に与えるが、各務の肉体がそれに耐えられない。そうすれば確実に、各務は肉の体を失い、
だが、それは各務の肉体を通して力を振るった場合だ。こうして、霊力タンクとしての使い道は十分にあると目をつけたのが篝だった。
「こいつはとんでもない大喰らいだが、性能は折り紙つきだ。ああ、やっとだ、やっとテストができる! この時をどれほど待ち侘びたか!」
「早く撃ってあげないと参番くん達危ないんじゃないですか?」
「おっとそうだった。それではマヨヒガ特効兵装プロトタイプ、篝式霊光放射器『阿弥陀』、起動!」
「この『阿弥陀』を通して発射された霊光は何かにぶつかったとしても無駄に威力を分散させたりしなくなるのさ。全てぶつかった物体の表面をなぞる様に進路を変え、どこまでも先へ進み続ける。ただし、扉は例外だけどね」
ナナツド隊に持たせた小型機器なんかでその辺を調べて調整するのには苦労したよ、と語るその姿に気負いはなく、既に作戦の成功を確信している様子だった。
そしてそれは、マヨヒガにとって最悪の相性を持つ性質だった。放射され続ける光はマヨヒガの空間を組み替える速度を超えて、あらゆる部屋を満たし続ける。新しく空間を拡げることも、経路を複雑に組み換えて遅延することも許されない。何より、何より────『どの方向に進んでも最終的には最奥部に辿り着く』マヨヒガ自身の
マヨヒガの持つ全ての
「もちろん、それじゃあ何の攻撃力も持たない光でしかない。心配ない、調整済みだ────マーカーに触れたら即座にBOM!」
体育館の扉を消し飛ばし、白い極光が戦場へと乱入する。まっすぐに進むそれは参番に向けられていた邪視を有り余る加護で消し飛ばし、児島の体を柔らかく迂回して、蛭子に突き刺さる祓串へと吸い込まれる。
瞬間、視界を全て白く染める光の爆発が、全てを飲み込んだ。