「オイ……嘘を言うならもっとまともな嘘をつくと良いぞ??」
テーブルの先には威圧感。
この組織で最強を表している証拠。
それは調停委員会の委員長から発せられる。
与太話の一つも許さない。
目の前の者は、そう訴える。
だから…
「嘘じゃないもん!この手でクズノハのケモ耳をモフったもん!めっちゃ手触り良くて最強だったし!あとキセルからモモのような甘い香りしてたし!全然若娘だったし!クズノハまじでクズノハだし!」
「何がケモ耳だお前ぇ!!てか様を付けろこの無礼者!大預言者様だぞ!」
「でもめっちゃ親しみあったぞあの人!!」
「嘘を言うなと言っておるだろ!!」
さて俺は現在、百花繚乱紛争調停委員会の客間に招かれて事情聴取…と、言うよりは預言者クズノハに関して問答に迫られていた。
もちろん嘘は言ってない、てか言えない。
なにせ一人の委員に両肩を押さえつけられてるから。
俺の後ろにいるこの委員……あ、俺はこの無口な委員を『ボクっ子』と勝手に命名しているのだが、このボクっ子はどうやらその人の両肩に触れることその人の発言が嘘か誠かを暴けるらしい。嘘を付くときは肩が震え、それが手のひら越しに伝わるとか。つまりこのボクっ子は嘘発見器としての役割を果たしている。そのため俺は発言に偽りを述べることができず、全て真実を語るしかない。
だからそう、真実を告げしかあるまい。
「そうとも!!これまで触れてきたケモ耳の中でもやはり大預言者クズノハのケモ耳は最高クラスだった!!これは間違いない!!やはり歴史上最大の人物のケモ耳は格が違ったのだ!!」
「だーかーらー!そんなケモ耳狂いな与太話が信じられ___!!」
「嘘は言ってないみたいだよ」
「……………は?マジで?」
「うん、委員長。微動の一つもない。この子の心は本当を表してるようだ」
「…………」
「だから言ってるだろ?クズノハのケモ耳めちゃくちゃ良かったんだと」
「……はぁ、まったく。継承戦を行うのは勝手だがその過程で余計な子を連れてきてくれたなお前ら」
「ボクはただの見届け人」
時刻は午後の18時。
そろそろ秋が到来する季節なためか暗くなる時間が早くなってきた。いくら百鬼夜行とはいえ根本は無法地帯がデフォルトのキヴォトスである。不良やらチンピラやらに絡まれる前にとっとと帰りたい。前も絡まれた時があって、心臓バクバクさせながらイズナが開発した煙玉を使って逃げたことがある。
正面切って戦えるならまだしも、こちらは比較的オワタ式に近いんだ。訓練用の弾ならともかく実弾でまともに戦ってたまるか。そうなる前に帰りたいんだよ。
「改めて言うけど俺は嘘を言ってない。実際にこの身でクズノハと会ったし、それで色々と教えてもらった。この砕け散った歪なヘイローを持ちだろうと頭を垂れず、このキヴォトスで渡り合える手段を、そして施しを受けた。あの大預言者は手を貸してくれた!」
「もしそれが本当だとするならお前はココの委員長としての資格を持っていることになる。しかし百花繚乱紛争調停委員会は背負う重責故に中等部以下は加入することが認められていない。そしてお前はまだ中等部だ。何処の所属も無い君がその資格を得てるとは思えないな」
「それは調停委員会側のルールだろ。俺は別枠として招かれてんだよ。哀れにもこの砕け散ったヘイローのままだと俺は壊れる可能性があるからと憐んでくれたんだ。黄昏に招かれた幸運を確かな幸運として彼女は導いてくれた。これは真実だと何度でも言ってやる」
「っ!オイ…あまり虚言が過ぎるのなら…!」
「ううん、戯言じゃないよ。間違いなくこの子の本心から出た熱だ。あと神秘が分厚い……これ以上は干渉すると火傷してしまうかも…」
「!!…っっ!!!………なら、なぜ…」
「?」
「なら…!何故ッ?!私の代は預言者様に出会えない!?いやその前の代もだ…!なんならその前の代だって先人から伝わっている!!ココ歴代の委員長は預言者クズノハに出会うことができなかったことを!!」
目の前の現委員長はテーブルに拳を打ちつけて嘆く。俺は百花繚乱紛争調停委員会の内側事情は然程詳しく無いが、委員長の座を継いでる者はクズノハに出会えるらしい。それはどれほど重要なのか分からない。しかし出会えることは委員長にとって誉れに違い証なんだろう。その様子が伝わる。
「……なぁ、ボクっ子」
「…それはボクの事?」
「そうだよ。君達調停委員会は預言者クズノハに会えることは重要なのか?」
「まあ…そうだね。まず資格を得た者…ココだと委員長の座を得た者の事なんだけどね。それでその資格者はこの場所から山にある『黄昏の寺院』にて預言者クズノハと邂逅を果たせる。そう伝えられている」
「出会えたらどうなるんだ?」
「……わからない。コレまでの代を継いできた者たちは何も言わずに事終えている。だから信憑性が薄く、あくまで不確かな伝承として扱われているんだよ。でも……証はある」
ボクっ子はそう言うと指を刺す。
壁に飾られている、一つの銃を。
「アレは【百蓮】という幽霊を捕らえることが出来る不思議な銃。それは昔、百鬼夜行連合学院が連合する前の時代に預言者クズノハから授かったとされている。あれは委員長のみ使うことが許されている。」
「幽霊を捕らえる?」
「うん。そう伝えがある。詳しい意味はよく分からないけど、でもあの銃はとても特別。昔から守られてきた証だから」
「なるほど…」
俺は預言者クズノハの事とは片手で数える程度だけど出会った事がある。印象としては只者じゃないと言うことが充分に分かる程に。
しかし百鬼夜行だとクズノハは本当に存在してたのか怪しいほどに半ば伝承視されている過去の存在である。しかしクズノハの名で歴史は歴史書に刻まれているため、過去存在した者として扱われる。
まあ今もキセルを片手に黄昏ているだろう。文字通りに。
しかし何度も出会った俺は百花繚乱紛争調停委員会の事を本人からあまり聞いたことは無い。
あの場では、ただ純粋に黄昏で邂逅できた幸運を確かな幸運として俺を導き、神秘と色彩の意味を学び、そして俺が月雪カナタで居られるように手解きしてくれた。
普通に優しい人だ。コレは間違いない。
彼女はめちゃくちゃ良い人である。
しかし、俺はそこまでの印象だ。
彼女の活躍と歴史は寺子屋にあった歴史書を紐解いて知った程度であり、本人の口からその話は聞いてない。しかしココにいる人たちにとっての預言者クズノハは俺が考えてる事以上に意味ある人なんだろう。この様子を見ればな。
「なら……俺が会って尋ねてみようか?」
「!?」
「……出来るの?ボクは貴方の肩に触れてみたから嘘を見分ける。でも正直……虚言に尽きる」
「言わんとする事はわかる。でもさっきも言ったけどそれは調停委員会側の伝承であって、俺はそれらとは何ら関係ない浮いた魂として彼女と邂逅を果たせた。もしコレが嘘ならば何故、俺は継承戦の発端がクズノハであることを知ってたんだ?コレって調停委員会の機密情報だろ?権力の堕落や腐敗を防ぐため、また調停者としての正義が健在であり続けるためのシステムだ。それはクズノハ本人が決めたことであり、調停委員会の者のみにその意味を伝えられている」
「……じゃあ貴方は、本当に…預言者様に?」
「本人からある程度聞いたからな」
俺は淡々と告げる。
無論、肩に震えはない。
しかし…
「ッッ、ふざけるな!!ならばお前はこの私なんかよりも邂逅を果たせる資格があるとでも言うのか!?」
「いや、だから違うって。まず俺は調停委員会の枠組みとは…」
「黙れ!!そんな事があるものか!!預言者クズノハと出会える意味を!!その証を!!過去継いできた伝承は調停委員会にとって組織を繋いできた意味なんだ!!それが…っ!別枠だからとか!浮いてるからだとか…!認めない!!」
「ならどうするんだよ。継承戦の見届け人程度の俺をこんな時間まで引っ張っておいて、それで理由を聞いたら虚言として切り捨てて認めないだけじゃねぇか。別に認めないのも勝手だし、戯言なんだと受け止められようが構わない。でも……俺は真実を言う!何故なら彼女が幸運を確かにしてくれた俺の恩人だから!だから本当に会ったんだと嘘を言わない!コレだけは絶対に否定なんかしない!」
「っ…!!……そうかよ。ああ…そうかい…」
「わかってくれるか?なら俺はそろそろ…」
「おい??お前ぇ…月雪カナタと言ったなァ……?」
無言で肯定する。
いや、した。
なぜなら押し黙りたくなるような威圧感が頬をなでるから。
そして…
「カナタ____この私と戦え」
「…………は?」
今こいつ、何を言った?
「!?…待って、委員長。それは…!」
「お前は黙ってろ!これは委員長としての問題であり!調停委員会としての問題だ!」
テーブルを叩き、立ち上がり、そして湯呑みが倒れる。
目の奥は怒り。同時に失意も覗き見る。
「部外者だからクズノハに出会えただと?ふざけるな!ふざけるなァ!!そんな非常識が認められてたまるか!もしそれが本当だというなら…!私達の存在理由は一体なんだ!?何のためにこの組織を誇りとして銃を握る!!?もし百鬼夜行連合学院を守るだけの組織なら自警団で充分だ!!」
「委員長…」
「この羽織を着てココにいると言う事は!調停委員会として名を馳せるこの意味を持たなければならないんだ!ただ銃の引き金に指をかける程度の雑兵なら百花繚乱なんざなんの意味も無い!」
「っ!貴方っ!!」
「私は百花繚乱紛争調停委員会の長だぞ!ただお山の大将としてこの座に腰を添えてるだけの飾りなんかじゃない!!この組織を!!継いできた誇りを!!得るべき誉れを!!健在とされるべき意味を成せずして何が百花繚乱だ!!」
興奮する彼女は膝横に置いていた銃をガチャリと持って俺に銃口を向ける。
「その意味を否定させやしない!!
百花繚乱としての志も!
使命も!大義も!存続の価値も!!
なんの意味を持たずに出会った貴様なんかが!!
クズノハに出会ったなど無礼も極まり!!
その偽りの幸運を…!!
お前の幸運として驕るなぁァァァあ!!」
________ は ?
偽りの、幸運??
お前の、幸運??
月雪カナタにとってそれは驕り???
意味を持たない邂逅??
え?なに?
クズノハとの出会いは、間違いだと……??
ふざけるなよ。
ふざけてんじゃねぇぞ……!!!
「テメェェェ!!俺が月雪カナタとして出会えた意味を否定する気かァ!!」
「ま、待って!貴方も落ち着いて…!」
俺も立ち上がり、怒りを買う。後ろにいたボクっ子は俺の両肩を抑えて留めようとする。
「ゆるさねぇ!!ゆるさねぇ!!クズノハが月雪カナタとしての意味を…!!存在証明を…!!この歪な形を…!!それでも施しの先で正当化してくれた彼女の邂逅を…!!確かな幸運を…!!黄昏に導いてくれた月雪カナタのアーカイブを…!!テメェの論理で勝手に『
「!?!?……熱っっ!!」
両肩から重みが消える。
そして俺はテーブルをガンッと踏みつけて頭一つ分大きな委員長を睨む。
……周りが蜃気楼のように歪む。
全身から湧き上がる感情が、この名に託された意味が、魂に注がれた存在証明が、絶対に否定させないと、奮えて、慄えて、形作る神秘によって建物がガタガタと震わせる。
ドタドタと廊下から人が集まる。
騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
だから周りなど関係ない。
ただ俺は____コイツが許せねぇ!!
「良いだろ…ああ!良いだろう!!ココはキヴォトスだ!!許された引き金の先で自由意志を突き通す世界だ!!相手してやるよ!!」
「ッ!!それ以上の戯言を刻めないよう叩き伏せてやる!!ああ!もし本当にお前がクズノハと出会いその砕け散ったヘイローが貴様自身として正当化するならば!何も得ずに居座っただけの私に勝てるだろうなぁ!?!」
譲れぬ意志をそのまま。
そして外に出る。
時刻は18時過ぎの夕方。
既に月が見えている夜闇手前の時。
互いの後方に一つだけ用意された遮蔽物。
何発か打ち込めば壊れる薄い木壁。
「貴方…本当に??今すぐ去るならボクが委員長を抑えて止めてあげるから…」
「月雪カナタは逃げない」
「!」
「もう二度と……ああ!もう二度と…!!」
それは俺の【
歪に浮かばせるヘイローの輪が…
月雪カナタとして与えられた形が…
この箱舟に定められてしまったが器が…
嘲笑われて、叩きのめされて。
撃ち抜かれて、すり潰されて。
否定されて、もがき苦しんで。
そして…
そして…
月雪カナタは___死んだ。
前任者は___戻れない浮いた先で。
「…」
まだ、あの時を覚えてるとも。
『僕』は疲れたように、笑う。
しかし、涙を流しながら___
『僕』は疲れたように、溢す。
されど、涙を流しながら____
『僕』は疲れたように、俯く。
けれど、涙を流しながら____
『僕』は疲れたように、泣く。
そして、涙を流しながら____
子供が流した涙の先は、残酷に濁る。
それを【
箱舟に揺らされ、ヘイローは砕け散った。
それが、月雪カナタだったから___
合図もなく、この身体は駆け出す。
「もう二度と……!!」
腰から取り出した__ハンドガン。
整備だけはされて、あまり使われない武器。
威力も全くない、自由意志の浅さ。
そして…
それすらも握れずに朽ちた……後悔の証。
この
でも……!!
それ、でも!!!
「月雪カナタの【
「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃと!!百花繚乱の意味すら背負えないお前みたいな奴が!この調停委員会の意味を踏み越えるなァァ!!」
後方の遮蔽物など気に留めない。
俺は前に出る。
トリニティで向けられた銃口を相手に、歪んだ『僕』があの日受け入れるしかなかった恐怖を目の前に、後ろ退きずってていた頃の未熟な身体は…
「うぉぉぉぉぉ!!」
過去も痛みもその場に置こうと今の月雪カナタに求めて踏み越える。
弾が横を掠めた。
「コイツ!?避けたッ!?」
思いっきり落とした腰。
まるでその場で躓いたかのように低く。
風圧で舞い散る、なんてことない落ち葉。
しかし力を込めに込めた足裏は地面をしっかり捉えており、身体に纏う異質な神秘が俺を前進させようと支える。そして前に踏み込む。舞う枯葉も過去にしようと。
「っ!バカにされたモノだ!」
それでも相手は調停委員の委員長。
腕はホンモノ。
その証拠として攻撃から攻撃へと移るに早い。外したのならもう一発と俺の移動先に弾を置こうと引き金を引く。
そして次は回避されても問題無いように銃を両手で構え、その銃口は正面180°を必中射撃範囲として捉える。百鬼夜行の紛争に介入できるほどの幅広さはまるで百花繚乱の強さを表しているようで、突っ込むことしか選ばない俺は次弾を放つことも許されない。
「!」
身体の神秘が反応する。
向けられた先端から伝わる重圧感が捉える。
そして俺はまた回避する……
左肩の肉を削って。
「ッッッッ!!!???」
「!?」
この勝負の見届け人…… と、示すには、あまりにもこの戦いはそれぞれのエゴを通したいがために始められた決闘だから、それを仕切るなど意味をなさない筈。だがこの両肩を触れてまで最初から行方を見守り続けてくれたボクっ子の調停委員は、俺の上着から鮮烈に弾ける血飛沫を見て目を見開いて…
「血___??」
と、こぼす。
脳裏を突き刺すような痛みが走る。
思わず目を見開く__常識な痛み。
内側は非常識でも、外側は常識の器だ。
それは前任者の記憶に飽き足らず…
俺がこの身で初めて本物の銃弾を受けた。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
__痛すぎる。
急な弾傷が、もう終われ、と警告する。
月雪カナタは、止まらないと。
脆い体で、腕の肉を削ぎ落としたのだから。
「ぐぁッッ…!!!」
「な、なにっ……!!?」
「ダメ!!もうそれ以上はやめて!!」
俺は激痛に膝をつき……そうになるところで踏ん張る。
しかし肩を抑えて、呻き声を漏らす。
目の焦点が痛みに逃げたく震える。
喉が焼ける。体が膝から崩れそうだ。
引き金を引いた委員長は鮮烈に弾けた赤に対して正気になり、そしてボクっ子の調停委員は危険すぎると叫び、周りの委員もどよめく。
__終わろうよ…もうっ、良いから。
都合の良い幻聴が聞こえる。
歪み切ったあの声が俺に要求する。
__ココまで出来たんだからさ…!
誰も責めないから、もうこれで良い。
それは認めてくれる故の…安心として。
__もう良いっ、ありがとうっ…ありがとう…だからもう良いんだよ!…それ以上を!証明せずとも…!君は…僕は…月雪カナタを…!!
__ッッ!!?
そこにいた『僕』は頑張ったさ。
それでも希望を抱こうと抗ったさ。
行先はトリニティで失敗しようとも。
朽ち果てて自壊してしまおうとも。
濁ったヘイローが砕け散ろうとも。
その後悔はまだ諦めを飲み込まない。
月雪カナタは砕けた先で【
流した涙が
この『俺』が拾い上げる事を選んだ__
_______
血濡れたハンドガンを構える。
動揺していた委員長に当てるに充分な猶予。
そして引き金を、引く。
「!」
銃口から、意地が放たれる。
鋭く伸びるカナタの弾丸。
それは___コツンと浅い音がした。
「……」
その浅い音は…周りに虚無感を生む。
敵を倒すにはあまりにも弱々しい。
百花繚乱紛争調停委員会の羽織に紙屑が当たったような軽い音だ。
血濡れた銃口は、それでも現実を見せる。
あまりにも…
あまりにも…
それはあまりにも。
月雪カナタにとって軟弱が過ぎる。
「・・・・・・・・・・」
抵抗を__見せた。
意地を__放った。
苦痛を__飲んだ。
それだけは、誰もが見届けた。
高等部の委員長を相手に中等部の学生が僅かに魅せてくれた、儚さ。
構えたハンドガンは…
腕の痛みに耐えれず地べたに垂れた。
「終わらせる……」
調停委員会の羽織を靡かせながら委員長は銃をコチラにゆっくりと構える。
それぞれ意思とエゴを突き通す決闘の場だろうと、血が出てしまうほどに危険な以上は狙うべき場所を選ぼうと理性が構え、しかし意味を否定してやろうとトドメのために狙う。
「っ、委員長…」
誰も止めることはできない。
この場を近くで見届けるボクっ子の調停委員も言葉に詰まる。
意思と意地に奮わせた俺たちに手出しは出来ないから。それが、普通。
ああ…
それが『普通』だから…
____月雪カナタは規格外に揺らすんだ…!!
「こん……のぉぉおおっ!!」
「!?」
俺はハンドガンを手放し、自分の手首を掴み、神秘を巡回させ、行き止まりを作り、手のひらに神秘を集中させる。
だが肩に力を入れたことで流れ出る血が、肩から腕、手から指先へと、赤い血が染める。
人体の損傷を表す血流。
そのため心臓が激しく動く、脳が警告する。
「くっ!」
委員長は引き金に指を添える。
もうこれ以上は不要に血を流させまいと。
刹那____
急な浮遊感に委員長は襲われた。
「!!?」
重心が一瞬だけ、不可解に歪む。
疲れ??___否、そんなことはない。
だが、体に違和感を覚える。
何が起きた?
それは訓練に明け暮れていることで身体に理解ある調停委員会の委員だからこそ自身の違和感を理解できた。足元に覚束なさを知る。
「う、ううぅ!?」
地面に付いている感触が無い。
まるで、浮いているような感覚。
地面から数ミリ、拒絶されたみたいだ。
「ちぃ!!」
だが……いや。それがなんだ!
そう顔を強張らせ、歯を食いしばりながら強引にコチラへ銃口を合わせる。
なんのカラクリかはわからない。
もしくは緊張感で精神力が不調をきたしたか。
ああ、訓練が足りないな。
これでは委員長失格だ。
だが今度こそ、終わり____!!
「返してもらうぞ!月雪カナタの意味を!」
俺は委員長に手を伸ばす。
目の前を掴むように握りしめ、そして念じた。
__ヘイローを、寄せるように。
「なに!!?うぁあぁあぁぁ!??」
委員会は引き寄せられる。
まるで
「あれは…!!」
夜18時過ぎに決闘場の場と化した、調停委員会の訓練場は月明かりに照らされている。
俺と彼女の譲れない意思を真上から月が見守っていた。それは嘘偽りないように光るから、濁ったヘイローを不気味に光らせる。しかしどこか透明感も含めている。これにボクっ子の調停委員は違和感に気づいたのが声を漏らし、百花繚乱の羽織に注目する。
「何が!?いや…まさか…!!」
ハンドガンから放たれた一撃。
それはあまりにも弱々しい威力だった。
まあ、だから、それでよかった。
貫通するモノなら困ってたから。
それが中途半端に食い込んだおかげで俺だけの神秘が成立したんだ。
やったことは至って単純。
委員長が羽織っている百花繚乱の羽織に食い込んだ小さな破片。それは月雪カナタの砕け散ったヘイローの破片であり、弱々しい一撃としてハンドガンから放たれ、後に委員長の羽織に直撃していた。
そして___神秘で対象を浮かせた。
食い込んだヘイローから俺の神秘を注ぐ。
そうやって浮かせる。
水上射撃戦をやった時のように。
そして対象を引き寄せる。
砕け散ったヘイローは月雪カナタのモノである事を示すように元の定位置に動く。
「この月雪カナタがクズノハから学んだ神秘だぁぁぁ!!」
手のひらに集約させた高速に螺旋する神秘。
血塗れる腕のまま、相手に振りかぶり…!!
「彼方まで受け取れぇぇぇぇえええ!!!」
爆音を響かせる。
枯れ落ちた葉は、再び舞い上がったんだ。
つづく
Q_カナタくんはなんでこんなに怒ってるの?
自分がただの転生者なら全く気にしなかったが、月雪カナタから始まる後悔と追憶を拾い上げた成り代わりの者として(大人の責任の元で)立っているから、月雪カナタの否定は絶対に許せなかった。ただ幼さに対して精神も引っ張られてるから情動のままに怒っていたのもある。まあつまり若いって事よ。好き勝手言われるだけじゃない熱い青年ってこった!それも良き良き。
次回!シュポガキ(によって脳が)死す!
デュエルスタンバイ!!
また来週の土日な!
じゃな!あばよ!