なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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日曜日分

沢山の誤字脱字報告に感謝する毎日。
本当にありがとうございます!!


第12話

 

 

 

ダン!ダン!ダン!

 

 

 

いつ聞いても全身に危機感を促し、全身が焦燥感に包まれる、キヴォトスの音だ。

 

それでもこの空気感に慣れたから、恐怖で硬直するよりも避難のためすぐに体は動く。

 

もしこれが前世、俺の住んでいたお国ならこうは行かなかっただろう。逃げる選択を咄嗟に選べず飛び交う弾幕の中で足がすくんで終わり。

 

しかしここはキヴォトス。

 

巻き込まれるヤツが悪いと言われる程に、ここは引き金の先で自由意志が尊重されてしまうイかれた世界だ。だからコチラもそれ相応に応えれるよう備えるべきだろう。

 

 

 

ダン!ダン!__ダン!!ドスッ…!

 

 

 

「ぐっ…!?」

 

 

 

しかし脆いこの体に弾丸が刺さる。

 

普通なら、それがなんだ…と、この世界なら吐き捨てれるキヴォトス人達で溢れかえっている箱舟であるが、しかし中にはそうもいかない者だっている。俗に言う個体差ってヤツだ。

 

例えば、全身を纏う神秘の濃度が薄ければ弾丸を受けた時に緩和する力がなく、ダメージに耐えれず沈黙してしまう。

 

もしくは純粋に肉体の弱さが原因で容易く沈黙する。神秘が充分でも弾を受けれるほど体が鍛えられてなければ強い攻撃には耐えれない。

 

そして、俺の場合……器たる月雪カナタは箱舟の常識に嫌われてしまったのか弾を受けれるほどの強さを秘めていない。前任者はこの脆さに苦しんでいた。そして。それは成り代わりの俺にも引き継がれている脆さである。

 

 

 

「カナタ!?」

 

「____、__」

 

 

 

キヴォトス人なのに、歪んだヘイロー故にまともから嫌われ、弾丸を体に通す。

 

それは女性ではない男性だから、この正常からかけ離れてしまったのか。

 

それともヘイローがまともではないために本来の性能が引き出せないのか。

 

 

欠陥者…

半端者……

堕落者………

 

 

そんな扱いがお似合いな、この体。

 

 

 

 

 

だから……

 

 

それを乗り越える月雪カナタは、俺だ。

 

 

 

 

「____っ!大丈夫……だっ!!ダメージはヘイローに浮かせた!アヤメはそのまま牽制を続けろ!この痛みは倍にして返してやる!」

 

「ッー!よし!なら頼むんよ!」

 

 

 

遮蔽物から飛び出し、建物中に移る。

 

腰からは忍者研究部のイズナが開発した煙幕を取り出し、敵地に投げ込む。

 

すると百鬼夜行自治区で暴れるスケバンの格好をした不良達は煙幕に巻き込まれてしまい、慌てる声が町に響く。

 

戦闘中に足を止めるなど自殺行為。

 

その隙を逃がさないアヤメは足が止まった不良達を次々と撃ち抜く。煙幕の中だろうと一度視認したアヤメなら容易く撃ち抜ける。彼女を舐めてはいけない。

 

そして更に、屋根の上から忍者…の、格好をしたイズナが不良達の足元にクナイを投擲する。

 

そのクナイには爆弾が取り付けられている。すると時間差で爆発。足に積もられた雪と共に不良達は白く吹き飛んだ。同時に煙幕も晴れたので俺はサイレンサー付きのハンドガンで混乱状態の不良達の狙撃を行う。もちろんアヤメもイズナもこの隙を逃さず蜂の巣にする。

 

そうやってサイレントキルを捗らせながら不良達を次々と鎮圧すると状況の把握が済んだ相手も焦りが生まれ始めたのか…

 

 

「くそっ!アイツら!?何者だよ!!」

「中等部だろ!?何故押されるんだ!」

「く、くそっ!ダメだ!ずらかるぞ!」

「年下に負かされるとかふざけんな!」

 

 

強敵相手に撤退を提案する者、または、年下相手に尻尾巻いて逃げることを嫌がる者とで言い争いが生まれる。プライドのぶつかり合いによって統率力が奪い取られ、また一人倒れた。

 

 

そして、そこに…

 

 

「___逃がさないよ」

 

 

 

残りの煙幕から人の影。

 

雪と白を連想する様な声が聞こえる。

 

足元に積もった雪を踏み締める音は重く。

 

冷たさを交えた明確な敵意が突き刺す。

 

百鬼夜行自治区で不良行為を行う生徒達はその声に背筋が凍るような感覚に襲われた。

 

その声と敵意に振り向く。

 

しかし、不良達は視認する隙も与えられず意識は途端に狩られる。

 

放たれた弾丸はまるで白雪姫の様に静かな吐息の如く、音は冷たさに閉じ込め置き去りに。

 

パタリ、バタリ、ドサリ、と、残り全ての不良達は倒れた。

 

 

 

「カナタ兄様。コレで全部?」

 

「どうかな。ちょい待って」

 

 

俺は屋根上にいるイズナにハンドサインを送ると既に索敵を済ませていたのか、残存勢力がいないことをペンライトで知らせてくれた。俺はハンドサインでメッセージを飛ばすとナグサに視線を移して終わったことを伝える。

 

 

「なんやぁ。年上さんだから身構えといたのに随分とあっけないんねぇ」

 

「呆気ないって言うけど、コレに関してはアヤメとナグサが強すぎると思うんだが?俺なんて最後は被弾したぞ」

 

「あ、それなんだけど!痛くないと?」

「ッ、被弾したの!?か、体は!!?」

 

「落ち着けナグサ。俺は大丈夫だから。体に受けた攻撃は弱かったし、小さめのヘイローで肩代わりできる程度のダメージだったから問題は無い。ヘイローもすぐに回復する」

 

「そ、そう、なの?本当に?」

 

「ああ。まあゴム弾を喰らわされた時くらいの痛覚は走ったけど、それも頭のヘイローが痛みを吸収してくれたし、体は平気。ほら一個だけヘイローが濁ってるだろ?これがダメージを浮かした証拠よ」

 

「…うん。大丈夫なんだね?うん、良かった」

 

「でも、カナタが丈夫になった訳じゃないけんあんまり無理したらダメとよ?もしヘイローが機能してなかったらそれは危険やけんね?」

 

「わかってるさ。これはあくまでセーフティラインであってバカ真面目に正面立って受けるつもりはない。俺ではアヤメとか、あと前日にまた遊びに来た宇沢レイサみたいにタンク張れるほど信頼性は無い。物陰からサイレントキルに徹するさ……イズナぁ!発煙筒は撒いてるか?」

 

 

「撒いてますよ!主人殿!自警団の方が煙目指してすぐに来てくれます!あっ!修行部の人達も一緒に来てますね!」

 

 

どうやら駆けつけてくれている様だ。

ありがたい。

 

 

「後始末は自警団に任せて俺たちは寺子屋に撤収するぞ。俺たちはあくまで正当防衛の元で鎮圧したんだ」

 

「しかし、おやつタイム中にカツアゲしてくるとは思わなんだ。コイツら暇とかね?」

 

「カナタ兄さんとのひと時を邪魔するなんて許し難い人達です…」

 

 

寺子屋で勉強やら鍛錬やらが終わったら大体お団子屋まで足を運ぶ毎日。いつもはお団子屋の長椅子に腰掛けて食べるのだが今は冬の季節。外で頂くには寒いため持ち帰りで注文。暖かい寺子屋で食べようと考えながら歩いてる最中、空気を読まない不良達が俺達を標的にカツアゲしてきた。その数10人だ。人数差で物言わせての堂々なカツアゲにむしろ清々しさを感じる。

 

しかし相手が悪いかな。アヤメがすぐさま腰の短刀を投擲して一人近づいてきた不良を沈めると銃を取り出して射撃。俺は短刀でしばかれた不良を掴み、盾にしながら後方に撤退。すると喧嘩に気づいた商店街の人たちが「使え!」と遮蔽物になりそうな椅子やテーブルなどを道路真ん中辺りに蹴ってくれたので、俺とナグサは急いで椅子やらテーブルを盾にして応戦開始。

 

そして運良く巡り合わせたイズナが屋根上からクナイやら煙幕やらで援護してくれる。そして仕上げはナグサの速射によってなすすべなく不良達は沈黙した。

 

確かに俺達は奴らよりも年下であるが、百鬼夜行では修行や鍛錬と言った研鑽が日常の中にあるため、良く鍛えられた百鬼夜行の生徒相手に歳の差などあまり関係ない。実はココにいる住人はとても強いことを知らなかった百鬼夜行外の不良生達の落ち度である。

 

それに不良達にとって誤算なのは、商店街の人達が遮蔽物を寄越してくるとは思わなかったことだろう。しかし百鬼夜行自治区ではコレが普通だ。百鬼夜行の大人たちは百鬼夜行の子供の味方である。それを俺達は知っている。

 

なので百鬼夜行自治区に住まう俺たち三人からしたら、たったの10人程度でカツアゲが成立すると思って他所からやって来た不良達は怖くもなんともなかった訳だ。

 

これに懲りたらカツアゲのために遠征とかしてないで小さなお山で我慢しておくんだな。

 

 

月雪カナタはこの程度では負けない。

 

 

 

「主人殿ぉ!イズナは主人殿のお役に立てたでしょうか!?」

 

「ああ、もちろんだ。増援助かった。ありがとうイズナ。それとこの後お団子タイムだがイズナも来るか?」

 

「本当でありますか!?もちろんイズナはお付き合いします!むふふ〜!」

 

「カナタ兄様。イズナちゃんの分、お団子あるかな?」

 

「追加で買えば良い。ほらいくどー」

 

 

 

到着した自警団に引き継ぎを行い、俺達は地面に積もった雪を踏み締めて寺子屋に戻る。

 

百鬼夜行自治区に刻まれる四人分の足跡は引き金の先で自由意志を示した者達の証。

 

段々と白化粧に変わりゆくこの町を踏みしめながら厚衣を揺らし、次の春を待つ。

 

今は暖かい緑茶を楽しみながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、月雪様」

 

 

 

ほんの僅か、籠った声だ。

 

しかしそれは仮面を付けているから。

 

振り向けば狐のお面が語りかけている。

 

 

 

「ワカモか、久しいな。それと今日は水の上でお暇を潰せないぞ?何せ水が冷たいからな」

 

「大丈夫です。もし落ちたりしたら凍えて大変になりますから。それよりこの様な暗いお時間かつ寒い季節の中。ただの池と向き合い一体何を?」

 

「水切を使った鍛錬法だよ。投擲する石は平べったくなくて構わないが、代わりに神秘を注いで水切するんだ。そうすると水面を揺らさずに石が水の上を跳ねてくれる」

 

「あら、そんなことが…?」

 

「過去に俺自身浮くことができるなら、このヘイローのように対象物も浮かせられないかなと思ってね。もしそれが不可能でも神秘を注ぐことで攻撃手段を増やせたらと考えての事だ。もしくは防御手段としてきっかけに繋がっても良い。例えば掴み取った物が脆そうな板だとしても、注いだ神秘次第では強固にできるかもしれないし、もしそうじゃなくても防御の性質を変化させられるなら受ける攻撃をゼロにできるはずだから」

 

「そんなことが可能でしょうか?」

 

「試す限りだと可能みたいだよ。そうだな。ワカモは【属性】って概念を聞いたことあるかい?」

 

「授業でそれなりには…」

 

「軽装には爆発を。重装には貫通を。この二つはシンプルな内容として最初に教えられる。まぁ単純に発生しやすい性質として基本的にコレがよく挙げられる。しかし百鬼夜行は歴史ある町だからかなかなかに面白い論文がそこらに転がっていてね、その中で俺はひとつ興味深い内容を知ったんだ」

 

 

適当に拾い上げた石に神秘を注ぎ、それを揺れのない池に水切する。

 

一つ跳ね、二つ跳ね、三つで揺れる。

 

水切の石が水面に触れるごとに神秘の効力が落ちている事がよくわかり、四つ目でチャポンと池の中に沈んだ。

 

 

 

「俺には恩師が居てね。黄昏ながら神秘の使い方を教えてくれた。俺次第で神秘の深さも、濃さも、分厚さも、何もかもが変わることを色々と学んだ。同時に意味深ながらも『注ぎ、注がれる者』としてキヴォトスの月雪カナタは扱われることも知った」

 

「注ぐと言うのは…つまり、私を川の上で沈まず、歩ける形として案内してくれた、あの不思議な現象の事でしょうか?」

 

「その通りだ。その初段階として俺の神秘が良く浸透している俺自身のヘイローを使う事でワカモを川の上に誘った。その方が確実だから」

 

「ええ。よく覚えています。初めて会ったあの日を。またそれ以来も貴方様は私めのお暇を拾い上げては川の上を案内してくれます。無論その度に感じ取れますわ。地を這うことに縛られる私たち動物は落ちるはずの常識から浮く。それは文字通り神秘に包まれた規格外の賜物でございます」

 

「ワカモが言うなら間違いないな。さて。今日は満月が綺麗に顔を出してるから、偽れない水面によく写し出される。そのため水切り次第では揺れ具合が確認しやすい夜に来た。しかし今宵この先は常に自己満足だけが水面を揺れ動かすことになる。ワカモのお暇に叶う事か分からないぞ?」

 

「お気になさらず。身側に誰もいない貴方様を独り占めできるのでしたら、それは叶った一時です。このくらいの寒さは我慢できますから、しばしお側に居させてください、月雪様」

 

「良いぞ。ただし俺は女の子を凍えさせるほど廃れてるつもりはない。そこのポットには温かいほうじ茶が沢山入っている。俺の分を気にかけてくれるなら適当に紙コップを使って温まってくれ」

 

「ふふっ。この温かみに感謝します。しかしこの2リットルのポット。どれだけ凍える夜に時間を過ごすおつもりですか?流石に神秘があるとはいえ、使えば使うほど薄くなり、終いには風邪を引きますわ…」

 

「流石に弁えてるさ。2年近くこんなことをしている人間だからな。しかし君こそ風邪を引くなよ?流石に病気を浮かせれるほど俺の神秘は万能じゃない」

 

「お暇に沈みそうな私を神秘に浮かせてくれるなら贅沢は言いませんわ」

 

「何を言うか。月雪カナタの神秘はとても贅沢だぞ?なにせ百鬼夜行の論文を読む限りだと俺はどちらにも当て嵌まらない希少らしいからな。トリガーは月雪カナタ自身として」

 

「…と、言いますと?」

 

「性質の変化と言うべきかな。まあほうじ茶片手に聞いてくれ。これは先ほどの続きだ。まず基本的には武器性能によって属性の扱いが変わってくる。スナイパーライフルなら貫通能力。グレネードなら爆発能力。カスタム次第ではハンドガンやアサルトはどちらにも位置する。もし依存せず拘らない場合はノーマリティーに性能は一律に帰す。しかし属性にはもう二つ存在することを俺は知った。そしてそれは使()()()()()()()()()()()()()ことも同時に」

 

「二つの存在??それと、使用者??」

 

「結論から言う。俺は___ソレだった」

 

「え…?」

 

「無属、爆発、貫通。コレらが基本型。オーソドックスに使われるよくありげな属性だ。そして先ほど言った残り二つと言うのは【神秘】と【振動】と名付いた希少な属性質。ワカモはこの二つを聞いたことある?」

 

「い、いえ、まったく…」

 

「じゃあ、そのほうじ茶で少し実験をしてみようか。ワカモ、ひとつ多めに淹れてくれ」

 

「ええ、かしこまりましたわ」

 

 

俺は池から離れ、手を拭きながらワカモの元に歩き、ブルーシートに腰掛ける。

 

シートの上で綺麗に正座しているワカモからほうじ茶を受け取り、手元を温める。ちなみに彼女の仮面は膝横に置いてある。雪化粧された狐の仮面だ。一体何種類持っているんだ?

 

そんなワカモは先にほうじ茶を淹れていたのか丁度良い温度になっており、時折耳をピコピコとさせながらほうじ茶で温まる。少し頬を惚けさせているのは温かいお茶で一息付けるからだろう。あと寒さによって高まる体温は赤い頬を作り上げるそれが良く目立つ。しかしこうして素顔を見るとまだ幼なげな雰囲気を見せる可愛らしい顔立ちだ。

 

 

 

「さて、今からとある漫画を参考に今から『水見式*1』に近い実験をお披露目しよう」

 

「?」

 

 

真っ平らなところに、並々注がれたほうじ茶を置いて、それから指に神秘を纏わせる。

 

 

 

「貫通ならほうじ茶も紙コップは貫かれ、爆発ならほうじ茶ごと紙コップは弾け飛び、無属(ノーマル)なら威力次第でほうじ茶が跳ね上がり紙コップは砕ける。ここらは実際にやらずともイメージはつくはず。ここまでは良いね?」

 

「ええ」

 

「では神秘の場合。このほうじ茶に指を突っ込んでみよう」

 

「え?……お、お熱いですわよ!?」

 

「と、思うやん?俺が扱う神秘の性質上ほうじ茶に触れることはない。ほら見てみ?指にほうじ茶の水滴が付いてないだろ?もしこのまま紙コップの先まで手を伸ばせば、ほうじ茶は質量に押されて紙コップから溢れ出ることになり、いずれ紙コップの底に神秘が届いてしまう。もしこの指が実弾だった場合どんな物理装甲だろうと関係なく届いてしまう。これはその証。囚われのない身勝手な属性なんだ」

 

「身勝手な属性……」

 

「ただしコレは月雪カナタとしての神秘だから人によっては秘めてある神秘次第で属性アプローチは変わるだろうけど、まあ似たようなモノだと思えば良い。神秘で攻撃するってそう言うことね。触れることなく底に届く。しかし使用者次第の分厚さでは何もかも変わるから、神秘が弱ければなんの意味もなさない。その場合は素直に武器性能に頼った方がいい話だ」

 

「なるほどですわ。先ほどの使用者次第って意味はそう言うことですのね」

 

「そう言うこと。しかしこれは使用者の実力面で変わるパワーバランスだ。特別だから特別に強いとは限らない。これは当然な話。料理人だって素質はあっても火加減と包丁を知らなければ作品は生み出せない。神秘も同じ。理解と知識が無ければ神秘の価値を生み出せないさ」

 

 

語りすぎで白い息が溢れる。しかしほうじ茶はまだ熱い。火傷してしまいそうだ。

 

 

 

「神秘の属性に関する説明はした。そしてそれにもう一つ属性があることは覚えているね?」

 

「ええ、たしか【振動】ですわね?」

 

 

俺は頭のヘイローを一つ掴む。

 

それを小指と薬指で握りしめ、人差し指に神秘を薄く纏わせる。性質を伝わせるためである。

 

 

 

「このヘイローを例えるなら振動モーター。揺れを付属させている。しかしその揺れを伝えるには対象が必要だ。例えばこのまま、ほうじ茶に指を淹れるとしよう。どうなると思う?」

 

「文字通り振動。ほうじ茶が揺れますわね」

 

「その通りだな。至って単純。もしコレが装甲だった場合ほうじ茶の揺れを活かし、内側から紙コップを破壊することになる。それが振動の属性の強み……に、対して更に属性を加えよう!」

 

「え?」

 

 

 

引き続き、人差し指に【振動】を加え。

追加として、中指には【神秘】を注ぐ。

 

二本の指を立て、ほうじ茶が注がれた紙コップを手に取った俺は軽く息を吸い、一気にエネルギーを稼働させる。そして紙コップを横に傾け、ほうじ茶が容器から溢れ出る前に人差し指と中指を紙コップの中に突き刺した。

 

 

__次の瞬間。

 

 

紙コップ()()吹き飛んだ。

 

そして、その紙コップに型を取られたままのほうじ茶は二本指に突き刺さり、しかし崩れることなくその場に浮いていた。

 

 

 

「え?………えええええ!!??」

 

「はっははは!!いい反応だ!!」

 

 

まるでアイスキャンデーの様に突き刺さるほうじ茶に、ワカモは子供らしい反応を示し、耳をピーンと伸ばす。そういやイズナも同じ様なリアクションをしてくれたな。やはりケモ耳は可愛いなぁ。やっぱケモ耳しか勝たんわ。知ってたけど。

 

 

 

「振動属性で紙コップを弾き飛ばし、月雪カナタ特有の神秘属性によってほうじ茶を浮かせる。種を明かせばこんなところだな。まさに神秘の芸当ってやつだ」

 

「す、すごい…と、しか、言えませんわね!」

 

「まあ振動属性に関しても月雪カナタ特有の性質が加わってるけどね。紙コップもほうじ茶から浮かせたってことになるし。月雪カナタってすげーな」

 

「そ、そんな他人事の様に…」

 

「ワカモも同じだぞ?このワカモだからこそ出来る神秘があり、この月雪カナタだからこそできる神秘がある。それだけの話さ」

 

「!」

 

 

呆気に取られていたワカモの頭をさりげなくわしゃわしゃと撫でることにして、ついでにケモ耳にも軽く触れておく。

 

あぁ^〜、やっぱケモ耳しか勝たんわ。

 

 

 

「繰り返して言うが、これは俺が特質に寄り切った神秘を秘めているからこそできる芸当だな。個人差があり、向き不向きがある。バリバリな体育会系の人間に文学やってみろと言われても急には無理だろ?これはそれと同じ。しかし月雪カナタはそれができる側にいる者としてこの水切りの鍛錬の元、己の中にある神秘の研究を進めている訳だ。これはその成果さ。どう?面白いだろ?」

 

「ええ…!それはもう、とても!」

 

 

 

月雪カナタにできる神秘。

 

それがこの器に備わっている素質。

 

しかし『僕』はそれが出来る前に朽ちた。

 

前任者は得ずして、砕け散った。

 

だから成り代わりの先で続きを果たす。

 

これは『俺』と『(おれ)』に備わる賜物。

 

それが【神秘(しきさい)】と【振動(はんてん)】としての証。

 

 

 

 

__注ぎ、注がれる。

 

 

 

 

クズノハの言う月雪カナタ(おれ と ぼく)はその様に表していた。

 

やれやれ……?

随分と遠回しなヒントを与えてくれたものだなあの大預言者は。

 

存在証明に関わる言葉であると同時に、キヴォトスで正当化を果たす月雪カナタの『武器』としても言葉紡いだのだろうか。うんうん。やはり黄昏による邂逅は月雪カナタにとって確かな幸運の極みであるわけだ。

 

預言者クズノハ、本当に良い人すぎる。

 

またケモ耳モフらせてね?

うん、ありがとう。絶対モフるね!

 

 

 

「風によってだんだんと形が崩れてるな」

 

「固まってる訳では無いですのね」

 

「形のまま浮いてるのであって、形が固定された訳じゃない。机に溢れて広がった水も横から風を吹き起こせば水も崩れて動くだろ?これも同じ様なモノさ。このほうじ茶も浮いてるけど外からの影響は受ける。少しずつ表面が風に動いて形崩れるし、俺から離れるごとに神秘の影響力が途絶えて常識に戻る。そうすれば次第にほうじ茶も溢れ落ち……あっつぅ!膝熱ぃ!!」

 

「あらら」

 

 

指先に纏っていたほうじ茶の塊をブルーシートの外に払い飛ばす。膝の上に溢れたほうじ茶を手のひらで払って熱を誤魔化しながら神秘を使って水滴を浮かし、それも外に払う。

 

しかし皮膚に張り付いた火傷は手遅れだ。

 

ぐぬぬ…

 

ワカモの前で得意げになりすぎたか。

 

 

 

「あちち……これは、本格的に火傷する前に帰りなさいって合図なのかな」

 

「ふふっ、そうですわね。たしかに段々と寒くなってまいりましたわ。でもまた新鮮な一時を得れてワカモは嬉しい限りでございます」

 

「お暇が浮いたのならそりゃ結構だ。そんじゃ紙コップはそこの袋に入れてくれ。ついでにポットも外に移動させてくれ。俺は弾いた紙コップ回収したらブルーシートを畳むから」

 

「ええ、わかりましたわ」

 

 

 

それから帰る準備を済ませて立ち上がる。

 

時刻は既に夜の21時を回る。

 

既に町の人の気配は減っている。

 

学園の生徒だって帰宅してるだろう。

 

池を一目見て、ワカモに視線を移す。

 

狐の仮面を付けて彼女も準備完了。

 

ほうじ茶の香りがほのかに漂う跡地。

 

それぞれ、今日は帰ろうとして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!??」」

 

 

 

 

俺とワカモはバッと同じ方向に振り返る。

 

なんだ、今の気味悪さは??

 

 

 

「…気のせいか…?」

 

「…異質な、気配でしたわ…」

 

 

 

なにか、居る…のか?

 

しかしワカモもこの反応だ。

俺の気のせいじゃないらしい。

 

視線の先には大きな岩石が転がっている。

 

先ほどの気味悪さはこの方角。

 

あの岩陰に……ナニカいるな。

 

 

 

「ワカモ、俺がこのまま牽制しておくから君は先に帰るんだ」

 

「いえ、この不穏な気配のまま月雪様を置いて行くなど私には出来かねます…」

 

「……わかった。ならポットと紙コップは隅に置いてくれ……いま…余計なモノは手元に無い方が良いだろうから…」

 

「はい…」

 

 

ワカモは少しだけ跪き、腰掛けれる程度の石にポットと紙コップを立てかける。

 

俺はブルーシートを持ち替えながら岩陰に視線を注力しつつ、次の指示を出す。

 

 

 

「ワカモはゆっくりと満月を背中に右から回り込め。俺は左から挟み込む。あと……俺のヘイローを渡しておく。場合によっては池の上に逃げ込め。水の上なら捕まる確率を下げれるから」

 

「ええ、ありがとうございます…」

 

 

 

俺はヘイローをワカモに渡すために一瞬だけ目を離した。

 

 

 

 

 

 

 

足を止めるなど命取りだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!? __月雪様!!」

 

「!?」

 

 

 

岩陰がナニカが飛び出してきた。

 

大きい!!?

 

すると黒い塊を飛ばして攻撃をしてくる。俺は咄嗟にブルーシートを目の前に広げて攻撃の盾にし、その隙にワカモの背中と太もも裏に手を滑り込ませると、下から抱き上げて一気にその場から離脱する。

 

 

 

「な、なに!?」

 

 

ブルーシートはグネッと凹む。

 

うそだろ?

 

アレは俺の神秘を注いだブルーシートだ。

 

あの攻撃が爆発属性なら耐えれるはず。

 

しかし、受け止めたかのように思えたブルーシートは攻撃を抑えきれず、シートの真ん中を抉るように貫通した。

 

 

 

 

「俺の神秘を捻った…!?」

 

 

 

ってことは、あの攻撃も神秘系統か?

 

思考を巡らせたまま水面に着地する。

 

足裏からバシャバシャと水飛沫を立て、わざと滑るように距離を稼いで後退。

 

 

 

「月雪様、確かな敵意を感じられます」

 

「だな。間違いなく友好的じゃないね」

 

 

ワカモに俺のヘイローを握らせながら水面の上に降ろす。そして俺は腰からサイレンサー付きハンドガンを取り出して臨戦体制に。ワカモも腰から銃を取り出すと、袖の中から短剣を引っ張り出し、それを銃の先端に取り付けて銃剣を完成させる。手慣れているな。

 

 

「しかしアレはなんですの…」

 

「わからない。ただ……童話に出てくる様な化け物に見えるのは気のせいじゃないみたいだ」

 

 

 

 

 

 

ああ___今日は満月が綺麗に映る。

 

 

 

だから、くっきり………?

 

 

 

もしくは、はっきり、と?

 

 

 

そいつぁ、よくお見えになるでしょう

 

 

 

さあ、邪道にゆれるは紙芝居。

 

 

 

儚き、儚げや、灯篭の、かみしばい。

 

 

 

今宵はよく写し出される、月夜の歓迎。

 

 

 

おろせぬ暖簾に、お気をつけなされ。

 

 

 

池にも、川にも、映るや夜灯にや。

 

 

 

醜くかぁ人の心にも、灯されようぞ。

 

 

 

そうともさ、そうともさ

 

 

 

 

「それはそれは随分たぁ目まぐるしい。

 急しまれる脚すらカラカラとんぼ。

 止まってゆけぇや夜闇の通行人よ。

 一際珍しい怪異の押し売りなされ。

 手心しらぬ山猫の戯れも。

 背徳に溺れる狂犬も。

 毛先を逆立てる鼠の群行も。

 さぁ、さぁ、(まなこ)を見開かん夜来る。

 百の役終えた【栞】の暴飲暴食に。

 千切れ行く先には食えずも無いさぁ。

 無論千鳥に酔えるに飲むもん無いさぁ」

 

 

 

 

さぁ!さぁ!さぁぁ!!

 

よってらっしゃい、みてらっしゃい…!

 

コレは戯れとならん試作の序章…!!

 

薄れる足跡に 栞 を挟んでみなされや…!!

 

 

 

 

 

__これは 花鳥風月 怪談話 ぞよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギィィィィィィィィイイ!!!」

 

 

 

 

 

 

「構えろワカモ!来るぞ!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

目無しの巨大な【栞】の形をした怪物。

 

大口だけを開けてコチラに襲いかかる。

 

まるで俺たちの物語(アーカイブ)を食らわんとばかりに。

 

 

 

 

 

つづく

 

*1
HUNTER×HUNTER。ちなみにカナタはケモ耳に好かれる(自称)から良いハンターになれるらしいぞ









花鳥風月部「(実験で出せたのは良いけど……あれ?よく見たら水の上になんかやばい奴おらん?これ大丈夫??)」



属性云々はタグの通り【自己解釈】なので「へー、ほーん」程度に受け止めてくれたら助かる。今後活かされる設定かもわかんないし。

ちなみにカナタ君は【神秘】と【振動】の複合属性かつ有効な属性優先してダメージを与えてくる上に『神秘を注ぐ』の性質を利用することで防御力とかを常識から浮かせてゼロにしたりと、本質が色彩なだけあって性能がアタオカなのでミカとかもワンパンできてしまう。しかも神秘が強いほど【振動】で掻き回されるので詰む奴はとことん積んでしまうことになる。これもクズノハが手解きしたからやな。もう作者しーらね。どうにでもなれ。



またの土日更新を待て。
じゃあな!またな!!
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