なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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土曜日分

病気なって1話分しか書けんかった…
なので 日曜日分 は今週無しッス。
仕方ないね♂



第13話

 

 

 

「ギィィィィィ!!」

 

 

 

高さ的に2メートルはあるだろうか。

 

そのペラッペラな体は黒く濁ったような色をしており、ギザギザとした歯を並べた大きなお口は子供を容易く丸呑みできるくらいのサイズだろうか。噛まれると相当痛そうだ。

 

しかし見えるのは口だけで、目も、耳も、鼻も無く、奇声だけは一丁前にこの場を響かせる。

 

そのお陰で化け物と断定するはやく、野生動物のようにそこら辺から現れた生き物とはまた違った、怪異的現象の元で生まれたと正体不明なんだと完結できる。どう見ても化け物だから。

 

しかし、なんでもありなキヴォトスだからこそこんなヤツが普通に存在しているのだろうか?

 

判断材料が足りないためなんとも言えない。

 

 

しかし、ここは百鬼夜行。

 

噂好きなこの町だからこそ、いろんな逸話が転がっている。もちろん妖怪や怪物の類は存在するし、子供を怖がらせるための童話も児童館などに置いてある。

 

まあ、だからというか、百鬼夜行の雰囲気からして特段存在してもおかしくなさそうだから判断に困る。そこらへんゲームや漫画のあるあるに汚染されてる結果かもしれんが。

 

しかしココは改めて百鬼夜行……かつ、ブルーアーカイブって世界だ。前世の感性はほぼ役に立たないと思った方が身のため。日常のように銃声飛び交うこの透明感をデフォルトとしてフィルターを作るべきだろう。それはここ数年で学んだ。

 

ならコイツは元々、百鬼夜行自治区の外れで本当に生存している化け物なのか?それとも俺たちは幻覚を見せられていることでこの化け物を視認しているのか?判断材料は足りないまま。

 

ただ一つ言えることは、この町に下りて良いような化け物ではなく、この場で退治しなければならない存在であること。

 

___怪異を討て。

 

そう使命感にかけられるのは、おそらく気のせいではない。

 

 

「ギィィィィ…ィィィイ!!」

 

 

「…」

 

 

しかし初めて目の当たりにする不気味さに思わず足がすくみそうになる。

 

感じたことない威圧感、あと重圧感。

 

横にいるワカモも武器を握りしめて仮面越しに睨みつけているがが耳に元気がない。

 

彼女も不安に襲われているようだ。

 

 

……っ、馬鹿野郎!俺!

俺だよ!!月雪カナタっ!

 

ここで俺が先駆者として乗り出さずして何が月雪カナタの正当化だ。ふざけるな。化け物相手だろうと月雪カナタは健在であることをキヴォトスで存在証明する。それが俺だろ!

 

 

「安心しろワカモ」

 

「!」

 

 

頭の上に浮かぶ砕け散ったヘイロー、それが衛星のようにくるくると回転し、ワカモの斜め前に踏み出しながら、その小さな頭を撫でる。

 

 

「ここには俺がいる」

 

「!」

 

「確かにアイツは不気味そのものだが、見たところ水の上までやってこれない化け物だ。つまり地の利はコチラにある状態で一方的に攻撃ができる。そう考えればあんなの動く大きな的だ」

 

「月雪様……ええ、ありがとうございます」

 

 

俺はサイレンサー付きのハンドガンを、ワカモは銃刀付きの銃剣を化け物に向ける。

 

 

「とりあえず撃つぞ!まずはそこからだ!」

 

「はい!」

 

 

 

俺とワカモは水の上から射撃を行いペラペラな化け物に何発かぶつける。

 

しかしダメージが浅く、倒せる気配もない。

 

 

 

「ギィィィィィ!!ァァァァ!!」

 

 

「攻撃来る!回避だ!」

「はい!」

 

 

口が大きく開かれたことで攻撃を察知する。

 

バスケットボールサイズの黒い塊が化け物の口から発射され、俺たちは左右に展開して攻撃を回避する。

 

 

 

「口の中を狙え!」

 

「はいっ!」

 

 

大口を開ける系の敵ってのは何かと口の中が弱点だったりする、そんなあるあるの一つを思い出したので、ワカモに口の中を攻撃するよう指示を出す。

 

そんなワカモは片方の手に俺のヘイローを握りしめているため、残りの片手で上手く射撃をする必要があるのだが…

 

 

「喰らいなさいな!」

 

 

しかしワカモは片手での射撃に慣れているのか苦もなく引き金を引いた。

 

まあそれもそうか。

 

お暇の度に俺の元に訪れ、お暇から浮くために水上を歩いてるワカモが今更水面の波に揺さぶられることもないだろう。証拠として精密な射撃で化け物の口の中に何発も撃ち込んでいる。

 

 

 

「よくも…!月雪様との大事なお時間を…!」

 

「(そういやこの娘、何かと強かったな)」

 

 

こうしてみると百鬼夜行は強い奴ばかりなんだと感じる。

 

例えば寺子屋のアヤメにナグサ。

 

いま隣で戦っているワカモ。

 

同じケモ耳のイズナ。

 

そして百花繚乱紛争調停委員会の者たち。

 

鍛錬を日常の一つとして扱われる百鬼夜行連合学園の空気感は戦闘民族なのかもしれない。

 

まあかく言う俺自身も、ほぼ毎日と言って良いレベルで神秘の研究がために鍛錬を積んでいる身である。こうして考えると月雪カナタも百鬼夜行連合学園の生徒だな。誇らしい。

 

 

まあ、だからかな。

 

研鑽を積むほどに己の理解が進めば、余裕だって生まれてくる。

 

 

「ギィィ!ギィィィィ!!」

 

 

「怯んだ…!」

「ええ!効いてますわ!」

 

 

こんなにも落ち着いて次の手を考えれる。

 

見てるか前任者(カナタ)っ!!

俺は『(おれ)』として健在であるぞ!

 

 

 

「ワカモ!俺がアイツの攻撃を誘うから口を開ける度に狙ってくれ!」

 

「っ、それは危険ですわ…!」

 

「水上戦は俺の得意分野だ!前衛は俺に任せておくんだ!」

 

「っ…!はい!このワカモ!承知しました!」

 

 

俺は銃のサイレンサーを取り外し、わざと射撃音で目立たせることで敵のヘイトを買うように立ち回る。そして射撃をしながら接近。また同時に満月を背にして敵との距離感を狂わせながら俺に集中させ、その間にワカモはうまく視界から外れるように位置取りを行っている。

 

やはりこの娘!多く語らずともわかっている!コレが戦闘上手なキヴォトス人か…!

 

 

「!?」

 

 

すると化け物は頭からヒラヒラとした2本の紐を生やした。__なんだ??

 

それがウネウネと動くと俺の方へ一斉に狙いを定める。

 

___先端が怪しく光った。

 

 

 

「!!?」

 

 

俺は神秘をフル稼働させて進んでいた方向から直角に跳ねる。そしてウネウネと怪しく光っていた先端から光線が放たれた。

 

 

「コイツっ!!そんなのありかよ!?」

 

 

着弾した水面から高さ3メートルほど弾ける水飛沫は、その威力を物語る。

 

 

 

「ギィィィィ!!」

 

 

マジでキヴォトス終わってるわ!!

普通に殺す気満々じゃねぇかよ!!

このくそったれの、化け物めが!!

 

 

「月雪様!私の短刀で斬り落とします!」

 

「っ、なら俺が地上に出る!ワカモは奴の背後を取って紐を斬り落とすんだ!」

 

 

俺は水面を思いっきり踏みつける。すると足裏から押し上げられた水柱が2メートルほど正面に跳ね上がる。俺はその場から高く飛び、更に水柱を踏み台にして更に高くジャンプする。宇沢レイサとの水上射撃戦で見せた月雪カナタならではの芸当だ。

 

そして化け物の真上を通過しながら弾丸をぶつけ、意識をコチラに向けさせる。

 

 

 

「ダメージがない……だが!」

 

「やぁぁぁぁ!」

 

 

化け物はコチラに振り向き、ワカモから視線が外れた瞬間、その隙を逃さないとばかりに駆け出す狐の乙女は銃口に取り付けられた銃刀を取り外し、それを化け物に振りかぶる。

 

一見か弱そうに見える幼子だが、彼女はれっきとしたキヴォトス人だ。

 

大人顔負けの身体能力を秘めた神秘と共に化け物の頭上に伸びる紐を斬り落とそうと……

 

 

 

ガキン!! と、音が否定する。

 

 

「!?」

 

「刃物が通らないだと…!」

 

 

「ギィィィィィ!!」

 

 

 

いかにも切り裂けそうな薄さの癖に、刃物で切断されることを拒否したような斬撃音は常識以上の頑丈性を秘めていることを証明する。

 

いや、それよりも!

 

 

 

「ワカモぉ!!」

 

「!!」

 

 

化け物の頭から伸びる紐がワカモを捉える。まるで嗅覚を捉えた象の鼻のように、斬撃後に空気へと弾かれたワカモを追尾している。

 

すると一本の紐が怪しく光り、着地後の硬直を狙うようにワカモに狙いを定めている。

 

このままだと逃げられない…!」

 

 

「動け!ヘイロー!」

 

 

俺は神秘を込めて手を伸ばす。その対象はワカモの手に握られた俺のヘイローだ。

 

すると俺の神秘の反応を示すようにヘイローが強く光る。__捉えた!

 

そして池の方へとヘイローを操り、ワカモごとを遠隔で化け物から遠ざける。

 

 

 

「きゃっ!!」

 

 

「ギィィィィィ!」

 

 

 

ワカモを狙う化け物の紐。

 

地上だろうと、水面だろうと、そこへ落ちた瞬間に光線を放ってぶつけようと光らせる。

 

しかし、俺がそんなこと許すわけがない。

 

俺はワカモの手に握られたヘイローを通して一気に神秘を解き放つ。するとワカモは俺の神秘に包まれ、常識から浮くことが許される。

 

そしてワカモが池に着水する瞬間、化け物は着地狩りとばかりに無防備に落ちるワカモへ光線を放たれる。

 

しかし俺は更に遠隔操作でヘイローを操り、ワカモの着地をズラすように押し込む。

 

 

「きゃ!」

 

「ギィィィ!?」

 

 

ワカモは池の中に落ちず、水切石の様に水面から弾かれて化け物の射程範囲から遠ざかる。

 

当たるはずだった光線は俺の非常識によって直撃することなく池の水に飲み込まれ、水飛沫だけが結果を残した。

 

 

 

「あ、危ねぇ…!危なかった…!」

 

 

砕け散ったヘイローだからこそ出来た芸当だがもしそうでなければどうなっていたか。

 

想像するだけで恐ろしい。

 

ともかく助けれてよかったと胸を撫で下ろしながら、化け物に残り一発を放ってコチラに意識を向けさせる。

 

 

「あの紐、まるで象の鼻だな。背を向けたとしても近づいた頭の紐が反応する。なるほど、目が無い代わりに嗅覚が強い。なら、その嗅覚は何を捉えている??」

 

 

現状、振り出しに戻っただけ。

 

戦況は、地上に俺、水上にはワカモ。

 

化け物を挟む形の位置取りになっているがコチラに"有効打"が無い。

 

 

 

「有効打……か」

 

 

化け物を睨みながら、月明かりの下で水面から起き上がるワカモの姿を視認。

 

寒さのために厚着された羽織から水滴がポタポタとこぼれ落ちている。それでも俺のヘイローと銃剣を手放さなかったワカモに感心していると、キラリと光るモノが視界に入る。

 

 

「あれは…」

 

 

ワカモが俺の遠隔操作で弾かれた際に手放してしまった銃刀だ。

 

化け物の後方に落ちている。

 

……常識以上の防御か。

なるほど。

 

 

 

「それなら…!」

 

 

非常識な攻撃を加えればいい話だ。

 

俺は足裏に神秘を流して化け物に突貫する。

 

急接近に反応した化け物は大口を開けて黒い塊を吐き出し、迎撃してくる。

 

俺は当たる直前、踏み出した足を斜め90度に切り替えて直角に回避する。

 

 

 

「(俺の神秘は某漫画に出てくるチャクラやオーラ的なモノと考えれば扱いにもイメージも付きやすい。急な方向転換に投げ出されそうになる遠心力も神秘で強引に支えてしまえば、直角に曲がるくらいはなんてことない…!)」

 

 

前へ倒れるように一歩踏み出せば、そこから前に跳ぶ距離は2メートルとかなり大きい。これも神秘を使って水上に立つ鍛錬ばかりをしていたおかげだろう。

 

 

「(クズノハからアドバイスをもらったとおり身体中に神秘を循環させておけば、咄嗟の動きに対応できる様になる。これがあるからこそ銃撃戦の中でもすぐに避ける事が出来る…!)」

 

 

月雪カナタは脆い。

 

だからこそ回避力を上げる。

 

そうやってキヴォトスの環境と向き合う。

 

けれど……

 

 

 

「避けてばかりが俺であるものか!正面からでも立ち向かえると言うことを…!」

 

 

 

化け物を回り込み、ワカモの銃刀を拾う。

 

握りしめたワカモの銃刀に神秘を流し込みながら一気に前へ踏み出す。

 

振り向きが追いつかない化け物は頭の2本の紐をウネウネと動かして俺を狙う。

 

紐の先端から光線が放たれるが、回避。

 

そしてもう一撃が回避場所に放たれる。

 

 

 

「っと!」

 

 

急にすごい嗅覚を持って狙ってくるな。

 

もしや神秘に反応してるのか?

 

なるほど。

 

今、俺がこの銃刀に神秘を使ったから嗅ぎつけたのか。それも至近距離というなら尚更嗅ぎつけてしまうのだろう。まるで絶対にコレを捉えんとする役割に急かされているようだ。

 

 

その姿はまるで…

 

 

 

「書物に挟まれる【栞】のようだな!お前って化け物は!見た目もそのままだ!」

 

 

「___ええ…!まったくもって…!それはひどい目次になりそうですわ!!」

 

 

 

書物などに扱われる栞の形をした化け物。

 

うねうねと動く紐にワカモが狙撃。

 

それは直撃すると、先ほどまで俺に向けて放たれようとする光線は横に逸れる……が、余波が俺に直撃した。

 

ワカモの攻撃では不十分だった。

 

 

 

「月雪様!?」

 

 

 

ワカモの悲鳴が聞こえる

 

同時に水面も揺れ動く。

 

まるで鼓動するように小波が打ったから。

 

 

 

「____浮かせ……たっ!!」

 

「!!」

 

 

しかし、余波は左腕で受け止めた。

チリチリと肌が焼ける感覚だけが残る。

 

代わりにヘイローが幾つか濁ってしまう。

ダメージを浮かせ、肩代わりさせたから。

 

でもこの程度ならすぐに回復する。

だから臆せずに…!

 

 

 

「こんのぉぉぉぉお!」

 

 

肉を切らせて骨を断つとは正にこの事か。

 

俺の神秘を注いだワカモの銃刀を、ウネウネと動く栞の紐に振りかぶり…

 

 

 

「ギィィィィィ!!?」

 

 

___2本の紐の切断に成功する。

 

 

 

「ギィィ、ギィィ」

 

 

 

紐を斬り落としたことで化け物は弱った様子を見せる。嗅覚の代わりとなっていた紐を失ったことで鈍っているようだ。

 

 

 

「今なら…!」

 

 

俺は銃刀を両手で強く握りしめながら化け物に突進する。間合いに入った瞬間、一気に踏み出し、化け物のガラ空きな胴体へ銃刀を一直線に突き出して、強引に抉り込ませる。

 

 

 

「ワカモ!コイツを池に沈めるぞ!」

 

「!」

 

 

俺よりも大きな栞の化け物だ。

 

その質量も重量もわからない。

 

しかし、そんなのは関係ない。

 

だって…

 

 

 

「月雪カナタは規格外に浮かせる!!」

 

 

まるで本物の栞のように軽くなった化け物は俺の突進によって軽々と押し切られ、そして化け物は空を舞う。戦地は地上から水上に舞台を移される。そこは俺たちの独壇場。

 

 

 

「今宵のお暇は冷たいですわよ…!!」

 

 

少しズレていた仮面を整え直すとワカモはその場から高く飛ぶ。空に浮かぶ満月の中で銃剣をクルクルと回しながら握り直すその姿はまるで寝首を狩らんとする、夜の狐のように…

 

 

 

「ギィィィィィ__ゴボボボッ!!???」

 

 

水面に投げ出された化け物は俺に押さえつけられながら水面に叩きつけられ、その大口を泡立てながら暴れる。

 

俺は突き刺した銃刀を更に捻じ込むことで化け物にダメージを与え、その神秘を掻き乱す。

 

そして与える攻撃は振動属性による特殊装甲の破壊。栞の化け物にヒビがはいる。

 

 

普通がダメなら、普通じゃない。

そんな攻撃を加えれば良い話。

 

__非常識には、それを超える非常識を!!

 

 

 

 

「寂れた栞、如きが…」

 

 

上からはワカモの声が聞こえ、俺は化け物の背中から飛び退き、そして入れ替わるようワカモは化け物の真上を取った。

 

 

 

 

「私と月雪様の間を挟むなど…っ!」

 

 

狐の仮面から放たれる赤に鋭い眼光は、幼子であることを忘れさせるような威圧感で冬空を溶かし、そして。

 

 

 

 

「許されませんわ…!!」

 

 

化け物の背中に刺さる銃刀に向け、その銃剣で強く打ちつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真冬の化け物退治は、満月すら被せてしまう程の水飛沫によって幕を閉じることになった。

 

 

 

__悪魂な前口上は全て水に流されて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

「なんてことだ、嗚呼!なんてことだ!?」

 

 

 

古く寂れた怪異の具現化とはいえ、まさか目次の番人を討つとは思わない!!しかも何故攻撃が通じた!?前口上とばかりに大口を開けた時のみ有効打を与えれない仕組みの筈だが、奴はそれを無視して文字通り裂き目を入れた。

 

そうして建前(ぼうぎょ)が崩れ去った。

 

結果そこに佇むは、ただ大きいだけのペラペラな存在と、なんら変わらないものとして。

 

 

 

「っ!!」

 

 

序章のために前座を作ろうと…!

童話のために噂を泡立てようと…!

 

そうやって少しずつ怪談の準備をするつもりだった…!!

 

なのに流されるはずの序曲は!本当の意味で流れてしまい!文字通り沈んでしまった!!ぶくぶくと水の泡になった!!

 

 

ああ!!??

ああああ!!??

 

なんてことだ!!

なんてことを!?

 

怪談だろうと…っ!

昔話だろうと…っ!

 

何事も【前口上】は必要とされるのに!

 

 

 

「その口をへし折ってしまうだと…??」

 

 

 

そんな!

そんなのって!!!

 

あの観客が舞台に上がる資格があるとでも言うのか!?

 

前口上も!!

怪談話も!!

 

話のオチすらも!!

 

そこに割り込んでは書き換えてしまえるほど資格がある者とでもいうのか!?

 

口遊めるほどの入り方があるとでも!!

 

何が許しを得てそうなっているのだ!!

 

 

ああ、それは…!

嗚呼、それは…!!

 

 

ああ、まるで…!

嗚呼、まるで…!!

 

 

 

 

 

 

___ 主人公 の ようではないか。

 

 

 

 

 

 

「ね、練り直しだ…」

 

 

早急にだ。

早急に戻って練り直すしかあるまい。

 

いや、しかし、あの者がこの町で聞き耳を立てる限り、非常識なはずの怪談話はただ普通の常識として扱われる。

 

口先は折られた。

役割は砕かれた。

 

 

「恐れを生むからこそ!怪談話に価値が生まれると言うのに!あの手前はなんてことを!ああそうとも!座敷に大人しく座れぬ客人と言うのは本当に嫌いだ!水飴に喉を詰まらせ死ねば良いのに!」

 

 

悪態を吐きながらも、文字通り池の中で水の泡となってしまい、存在が消えてしまった栞の化け物に背を向けてこの場を去る。

 

もしかしたら騒ぎを聞きつけて百花繚乱の者たちがこの場に来る可能性がある。

 

ここで我らが暴かれるのは避けなければ、物語を紡ぐ口すら与えられない。

 

 

「っ、箭吹シュロ…!前口上に失敗した私は無下に屈すだろう…!ならば手前にこの投影を託すほか手段はあるまいな…っ!」

 

 

 

 

 

失敗した役者に出番なし。

 

そうやって舞台から降ろされる。

 

それでも演劇に成功を祈らざるを得ない。

 

何故なら怪談に気狂う、役者の集い。

 

なにせ…

 

完成度あってこのこそ___作品だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百鬼夜行で年明けを迎えたのはコレで2回目あり、今年で俺も中等部3年生である。なんと言うかあっという間だな。まあ大体は寺子屋に集まったり、放課後は団子食べたり、そのあとは神秘の研究を進めたり、大体は同じような毎日を過ごしている。

 

この学生生活に何ら不自由は無いが、しかし一年ってのは思ったよりも短い。そう感じてたまらないこの頃、俺はとある人物を百鬼夜行まで呼ぶことにした。それは…

 

 

 

「そしてこのウサギのケモ耳を付けて…よし!これで完成だな!!」

 

「ぅぅ、兄さん?ほ、本当にコレ付けないとダメですか??レンタルした着物は綺麗ですごく嬉しいけど、でも今から向かうのはただの初詣ですよ?」

 

「百鬼夜行ではケモ耳を付けるのが習わしだ」

 

「嘘です、よね?」

 

 

さて、年を明けて一月の始まり。

 

と、言っても今日の日付、1月2日である。

 

そう、一日遅れの初詣である。

 

なぜ一日遅れているのか?

理由は簡単。

 

 

単純に寝正月したからである。

それも意図的に。

 

炬燵でぬくぬく気持ちいいんじゃよ。

あと手元にケモ耳があったら最高だった。

 

まあ、そんなの無かったけど。

 

それでモモトークを開いて年明けの挨拶文を送ったりとデジタル技術に甘えながら炬燵の中で過ごしていたのだが、その中で妹のミヤコから年明けの挨拶が届いた。

 

もちろん兄として挨拶の文を送ったが、それだけだと味気ないし、なにより百鬼夜行一年目ではミヤコとはモモトークでのみ挨拶でしか済ませていなかったりと、しばらく家族らしいことをしていないな、と思い出す。

 

それで俺は「百鬼夜行に来ないか?」と文を送れば「行きます」と秒で返ってきた。

 

そしてモモトークから翌日、ミヤコは去年新しく開通された鉄道を使って百鬼夜行に到着。

 

俺を見かけると軽い足取りでコチラまで駆け寄り年明けの挨拶。見ないうちに少しだけ背が大きくなった妹を確かめるため頭を撫でたりしながら挨拶を交わす。兄妹同士のスキンシップは忘れずに百鬼夜行まで足を運んでくれたミヤコを歓迎、そのまま案内する。

 

それで、ミヤコは可愛らしい私服の格好で来てくれたのだが、せっかく百鬼夜行なんて素敵な場所に招いたので着物屋さんまで足を運び、着物のレンタルをお願いして、ミヤコを着飾ったところである。いまココ。

 

あとなぜかケモ耳系のカチューシャも置いてあったので試しに飾る。うさ耳だ。

 

 

「わたしはうさぎではないので…」

 

「ミヤコだもんな」

 

 

戯れもそこそこにケモ耳は棚に返してレンタル料金の決済を完了させる。

 

 

 

「兄さん、今年の初詣は?」

 

「年越し蕎麦食べて寝正月したから初詣は今日が初めてだよ。外は寒いし。あと純粋に寝たかったし」

 

「そうですか……いえ、ちゃんとご飯は食べれているようですね。安心しました」

 

「もうあれ程に弱り切ってないよ。だから安心して良い。この砕け散ったヘイローとも向き合えるようになったから」

 

「!……はい。なら私は何も言いません。兄さんが元気ならそれで良いです」

 

「心配してくれてありがとうミヤコ。お兄ちゃんはこの通り元気さ」

 

 

着物屋さんを出て、石畳を踏みしめながら適当な神社に向かう。

 

すれ違う人達も一日遅れの初詣として神社を巡ってきたのか、着物など着飾って今年を迎えている。既に百鬼夜行は賑やか。

 

ちなみに俺も和服をレンタルしてミヤコと一緒に着用している。ミヤコが水色の着物で、俺が灰色の和服である。それと学生料金としてレンタル料がとんでもなく安かった。着物自体高いのに学生なら半額以下ってマジかよ。

 

やっぱりココの人たちは子供好きで集まっているんだなと再確認する。

 

何度も思うけど百鬼夜行選んで正解だわ。

ミヤコもその事を強く感じ取っている。

 

え?トリニティ??

なにそれ?

知らない学園ですね。

 

 

 

「初詣が終わったら、そのまま百鬼夜行自治区を案内しよう。巡るところは多いからな。今日は覚悟しておけよ?」

 

「!!」

 

 

月雪カナタの中身は違う魂であるが、それでも俺は兄として家族サービスを忘れない。

 

そしてお祭り好きな百鬼夜行の勢いに目を回すミヤコの手をしっかり引いて参拝に向かう。

 

その途中で甘酒を味わい、おみくじを引き、初詣ならではのイベントを楽しみながら、今年の無事を祈る。

 

 

何せ__先月はあんな事が起きたからな。

 

 

ワカモと共に討ち倒した謎の怪異。

しかしアレは本当に何だったのか?

 

この世界はキヴォトスだから……って、理由で済ませるべきか判断に困る真冬の襲撃事件。

 

実はあの後、百花繚乱紛争調停委員に駆け込んで委員長となったボクっ子を捕まえて事情を説明した。嘘発見器の能力があるボクっ子だから話も信じてくれたし、跡地にも案内した。

 

攻撃の痕跡なども残っていたため証拠充分として信用に値し、その後は陰陽部に掛け合ったりと現在は共同調査を進めている。それでも年明けるまで一ヶ月間、特に進展無しと謎に包まれた襲撃事件。しかし戦闘音が離れから聞こえたりと住人の証言もあったので本当に起きた出来事して現在も調査中である。

 

事件解決に届かなくとも、下手に被害が広まらなければ良いのだが、それは果たして…

 

 

「(でも同じ化け物が現れたのなら、次はコチラから真っ先に捉えて先制できる。奴の異質な神秘は触れたことで覚えた。離れ過ぎてなければ俺もすぐにわかる……筈)」

 

 

ゲームや漫画に良くありげな『感知タイプ』と言えるほどに感知能力があるのか俺自身わからないが、神秘に対する理解を深め続けようとする俺ならば分かってくれるだろう………なんて責任は未来の月雪カナタに託しつつ、今はこの初詣を楽しむとしよう。

 

 

参拝を終え、その後は下町まで案内を開始。

 

腹を満たすためお気に入りの団子を食べながら観光スポットを歩き周ったり、大道芸で行く人を楽しませる百鬼夜行の芸人達を眺めては楽しんだり、祝舞としてお披露目される勘解由小路家の舞に舌鼓したり、年明け早々に聞こえる銃声から忙しく避難したりと、ミヤコに百鬼夜行を知ってもらう一日。

 

 

気づけば夕方になっていた。

 

 

 

「ここは良いところですね」

 

「だな。特にケモ耳がポイント高い」

 

「む…そういえば、ケモ耳があるからと言ってココを選んでいましたね」

 

「癒しだからな。荒んだ心にケモ耳はいい栄養だよ。お陰で俺も随分と元気になった」

 

「!……兄さんは…その、いつの間にか『俺』って言うようになったんですね」

 

「え??……そういえば……そうだな。あー、嫌か?」

 

「いえ。兄さんがそれほどに、その…前に進もうとしている証拠なら、その変化は喜ばしいことだと私は思います」

 

「そうだな。ミヤコにはずっと…ずっっと、心配をかけてたからな」

 

「…」

 

「ヘイローが砕け散ってしまうほどに、己の弱さを、己の脆さを、悔やみに悔やんでいて、それで選択を誤って行先で撃たれて、月雪カナタってこんなに息苦しく足踏みするような運命の元で生まれたのかと何度も何度も考えてさ…」

 

「兄さん…」

 

「月雪カナタは()わるしか方法は無い。そのためにはいつまでも『僕』と弱気に縮こまるカナタではなく、『俺』と敢然に構えれるカナタでなければこのキヴォトスを生きられない。これはそのための証だ。だから僕って言うお兄ちゃんはこの先見られないかもな」

 

「そうですか…」

 

 

荷物から折り畳んでた長布を取り出し、それを広げてミヤコの肩に被せる。夕方にもなれば日も落ちて本格的に凍える時間になる。本当なら話もそこそこにして着物屋さんに戻るべきだろうが、もう少しだけ、このまま…

 

 

 

「でも『僕』を忘れたことは一度もないよ」

 

「え?」

 

「トリニティに間違ったけどさ、でも、何としてでも、自分はキヴォトスで生きたいと諦めきれなかったから『僕』だから、過去を忘れることは『俺』になろうとしたカナタの否定になる」

 

「!」

 

「難しい話かもしれない。他人事の様に聞こえてしまう悲しい話かもしれない。でも今も昔もあるから月雪カナタはココに健在で有る。だから受けた痛みも、引きずる脆さも、僕が忘れないから俺が今を()けるんだよ」

 

「お兄さん…」

 

 

ポケットからスマートフォンを取り出す。

 

現在の時刻を確認し、同時に電車の運行時刻を照らし合わせる。

 

あまり遅くなるのは忍びない。

 

ミヤコを帰らせる時間を…と、考えて。

ふと、ミヤコに視線を移す。

 

……まだ、小さな体だ。

 

しっかりしているけど、まだ幼なげに映る。

 

 

「来てくれてありがとうな」

 

「ん…」

 

 

余っている手をミヤコの頭に伸ばし、抱きしめる様に腕で包みながらその頭を撫でる。

 

手のひらは仄かに暖かくて、よく手入れされた白色の髪が指と指の間を通り抜ける。

 

するとミヤコもこちらに全て預けるように身を任せる。女性ならではの高い体温が伝わるから百鬼夜行の寒い冬をより感じ取れて、同時に守ってあげたい、そんな庇護欲に掛けられる。

 

スマートフォンをポケットにしまいながら、先ほどまで勘解由小路家が舞を見せてくれた舞台を遠目から眺めつつ、明日の百鬼夜行のイベントを脳内で探る。

 

そういえば……明日の昼間に何かあったな。

 

 

 

 

「ミヤコ、餅は嫌いか?」

 

「餅ですか?嫌いではないです」

 

「そうか。じゃあ…」

 

「?」

 

 

まだこの時間なら空いているだろう食品店を脳内でリサーチしつつ、今日の夜ご飯はお蕎麦を二人分かなと、考えながら…

 

 

 

 

「今日、泊まって行くか?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

秒で返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人で一つは……狭くないか?」

 

「暖かいですよ、兄さん」

 

「あ、うん、そう?」

 

「……うさぎは寒さに強いのですが……私はうさぎではないので……ひとり離れていると凍えますから…」

 

「まぁ…幾ら暖房を入れても一月の真っ只中では寒さに限界もあるか。なら久しぶりに一緒の布団で寝るか」

 

「はい………ふ、ぁぁ…」

 

「今日は疲れたろ?着慣れない姿で町中を歩き回ったし、あと常に寒かったし、目まぐるしい限りだったと思う」

 

「はい。でも、とても楽しかったです…」

 

「それは良かった。明日は昼前に餅つき大会が開かれる。帰る前に食べて行きな」

 

「は…い………ん、んん……にい、さ…ん…」

 

「おやすみ、ミヤコ」

 

ん、ん………すぅ………すぅ…

 

 

腕の中で穏やかな寝息を立てるミヤコの頭を撫でながらリモコンで暖房の温度を上げ、凍えないように空調を整えると俺も掛け布団を整え直して使い慣れた布団の中に体を預ける。コチラの首元に頭を預けるミヤコの髪からは石鹸の香りが広がり、鼻をくすぐる。

 

百鬼夜行産の桜と桃を贅沢に合わせた上質な香りだ。男の俺が使うのも何だから未開封品のもまとめてお土産に包んであげようか。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

「……妹、か…」

 

 

月雪として同じ血のつながり。

 

俺の髪の毛は黒寄りな紺色をしているが、ミヤコは白寄りの灰色である。毛の色は対照的になって違うがそれでも兄妹である。

 

 

でも中身は___別のモノとなった。

 

 

そこに罪悪感は___ある、と言える。

 

 

致し方ない理由と果てに今そうなっている。

 

でも、だからと言って、彼女を他人として扱う理由はない。俺が月雪カナタとして歩むのならミヤコは俺の妹に変わりない。大事な家族として大事にするべきだ。これ以上の理由は必要だろうか?少なくとも家族に対してこの愛情は無条件で良いはずだ。

 

 

そしてそれは『前任者』も同じ。

 

彼も妹ミヤコのことを大事にしていた。

 

歪んだヘイロー持ちの男性という偏見と虐めの中でも家族を心配させないために奮い続けていた兄が過去にいた。でもヘイローと共に砕け散ったから、その家族愛を注ぐことはもう叶わない出来事になった。悲しいな話だ。トリカスほんまマジで。

 

 

 

「(…ミヤコ……カナタ………俺、は…)」

 

 

 

瞼が落ち始める。

 

意識も沈んでいく。

 

寝落ちる前に俺は手を伸ばす。

 

腕の中にある頭に手を優しく置き、その眠りを守ってあげようと撫で、一人の兄としての役割を可能な限り全する。

 

コレが正解なのかはわからないが、でも大事にしたい気持ちは間違いなく嘘なんかじゃない。

 

この気持ちは確かであってほしいと強く願うこの温もりに意識を寄せて…

 

 

 

 

 

「…すぅ……すぅ……」

 

「……………みや、こ…」

 

 

 

 

数年ぶりであるが。

 

月雪兄妹は身を寄せ合い、眠りにつく。

 

 

 

まるで本物の兄妹のように。

 

血の繋がった証として、穏やかな夜に。

 

 

 

 

 

つづく

 

 






妹ミヤコ概念ええぞぉ。
食後に摂取すると体に良い。


戦闘描写って本当に大変なんですよ。

マジで難しすぎんねん!
文の表現ってのがよぉ!!
脳を焼いてる方がまだ楽だわ!!

ちなみに栞の化け物は在庫処分代わりに怪談の『前口上』として具現化した実験物。つまり数年後(百花繚乱紛争調停委員会編)に開始される百物語の仕込みであり、言わば広告塔として「怪異ってのは本当にあるんですよぉ怖いですねぇ??」と定期的に噂を広めるための目次。ちなみに栞なのは定期的に怪談を挟むと言う意味でだった。しかもこの前口上を砕くにはそれ相応の資格、言わば撃破するための条件が必要なのだが、運が悪いことに相手を間違えた風花雪月部。まず月雪カナタは本質が色彩であり箱舟を揺らすほど資格を得ている規格外であり、またワカモも未来では『厄災の狐』として怪異に劣らない厄災として資格は充分に得ているため、化け物退治として前口上に介入できてしまった。狙う相手を完全に間違えた訳だ。かなしいな。

怪談?物語?化け物??
いやいや。

本当に怖いものは人間だってそれ良く言われてるから。


また来週な!
じゃあな!!
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