ちょっとした日常回(訓練中)
しばらくはこの雰囲気で進行するぞ。
「きっっつぅ?!!うおおごごぎぎぃ!!!」
垂れ下がったロープを片手で掴み、アサルトライフルを握りしめたもう片方の手で200メートル先にあるターゲットに射撃を行う。
そして背中には救助者や負傷者を想定して成人男性一人分の重さのある錘を背負い、更に両足にも同じくらいの錘が括り付けられている。
キヴォトス人として普通の人間よりも二倍近くの筋力は確保されているが、それでも左右に振り回されるとかなり辛い。
そのため神秘を使って身体を強化するのも手だが…と、言うよりよっぽどの筋肉バカじゃない限り身体強化しないと無理に等しいため、全員が神秘を身体強化に当てている。しかし奥にあるターゲットは神秘を込めた弾丸でなければ撃ち抜けなかったりと、コレがまたしんどい。
HUNTER×HUNTERの念理論で語るなら身体強化に20%、弾丸80%ように神秘を調整しながら錘に耐えつつ、遠くのターゲットに対して反動が連続で襲いかかるアサルトライフルを片手で構えて狙うとかいう、マジで後日に腕が死ねる軍隊訓練を達成しなければならない。
しかもこれ入校から20日目の訓練である。
ハードルが高すぎるッピ!
「あっははは!無理無理ぃ〜!ぎぃぃぇ!」
「あああ落ちるぅぅうう!!はんぎゃぁ!」
「きゃぁぁぁぁあ!!ダメェェ!ぐえっ!」
「ぎゃぁぁあ!肩が外れたァ!うぉぷっ!」
次々と悲鳴を上げながら落ちている同士達。
足下にクッションがあるとはいえ、それでも錘ごと加速して落ちるため落下時の衝撃が半端なく、受け身に失敗すれば普通に怪我する。
先ほど指の骨を折った娘が現れた。
回復力の高いキヴォトス人なら10日で完治するが、見ていて痛ましかった。
「ぜぇ…ぜぇ……よ、良かったぁ…三年近く百鬼夜行で神秘の訓練してきて。これも努力の賜物だな…マジでクズノハに感謝だわ…ぜぇ…」
中等部時代の全てと言って良いほど神秘の鍛錬を積んで来た。だから神秘の使い方に関してはこの一期生の中で一番理解があると自負している。だからその3年間もあり俺は落ちずにターゲットを狙い撃てる現状。
これもエボンの賜物だな!… とは言わないが積み重ねた努力の賜物であるのは確か。
そのため周りの同期たちも俺の課題クリアに驚いている。な?月雪カナタは凄いだろ?
「あー、ちなみにターゲットを全て倒すまで今日の訓練は終わらんからな」
「「「ひぃん!!」」」
しかし驚きも束の間、SRT特殊学園の教官役として過去ヴァルキューレに所属していたOGが一期生達に厳しい条件を設ける。そこらで悲鳴が上がる。これはつらい。
「ただし、今残っている者が残りのターゲット全てを撃ち抜くなら、今回はヨシとしよう」
「「「!?」」」
と、希望を僅かに残すも、まだロープから落ちずに済んでいる同期たちはギョッとする。
「仲間の生存も大事だが、任務は誰か一人でも完遂できるならそれは組織としての勝利だ。言わん事はわかるな?では残りの生きている兵士だけでこの状況を終了できると良いが…」
__さて?どうする?
と、そう視線でコチラに訴える。
主に『俺』に対して強くだ。
だから…
「それがSRTなら、やり遂げてやるさ!」
「ほう…」
深く息を吸い、身体中に酸素を回し、それと同時に神秘を浸透させる。
すると身体中が満たされる感覚になり、掴んでいるロープばギリリっと軋ませ、アサルトライフルをガチャと鳴らしながら再度ターゲットを狙う。そして、ガガガッと銃口から良い音を響かせながらターゲットを一つ沈黙させた。
「っ、次…!」
残心するように一度アサルトライフルを上に引っ込ませ、再度アサルトライフルを振り下ろしてターゲットに銃口を合わせる。
また同じようにトリガーを引いてターゲットを狙い撃ち、右に、右に、また右にと、脱落者の余っているターゲットを排除していく。
しかし連続で襲いかかるアサルトライフルの反動により錘が揺れ、重量に耐えきれない筋肉が悲鳴を上げているのか掴んでいるロープから少しずつ落ちてしまう。そうして隣では誰かが耐えれずにクッションの上に落ちた。
それを一瞬だけ見送っているとカチカチとアサルトライフルから音がする。弾切れだ!
「くっ!」
片手が使えない以上、弾倉を口に咥えてアサルトライフルの弾倉を交換するのだが、あまり余計に体を動かすと落ちてしまいそうになる。
呼吸を整えて、少しでも体力に余裕を作ろうとこのジリ貧に思考を巡らせていると、隣にいた一人の同期、またはパテル派を蹴ってSRTにやってきた元トリニティの生徒がコチラに向かって声をかける。
「ごめんっ!腕がもうやばいからっ…!私が新品を投げ渡すっ…!後は頼んで良いかな…!?」
「っ!なら寄越せ!!はやくっ!」
そう答えると彼女は険しい表情ながらもどこかホッとしたように笑い、そしてロープから手を離す。
クッションに落ちゆく彼女。
しかしその落下中にアサルトライフルのカートリッジを素早く取り替えると俺に向かって投げる。
「ッッ〜!!受け取ってぇ!!」
「よしっ!受けたァ!」
俺は弾切れのアサルトライフルを手放し、投げ渡されたアサルトライフルを掴み取り素早くターゲットに照準を合わせる。
トリガーを引き、遠くにあるターゲットを狙い撃ち、残り最後の一つ___
「っ、うおァ!!!?」
意図せずとも手元からロープが離れる。
根性論だけでは支えきれぬ厳しさが、全身に疲労を訴え、脳がロープを手放させてしまう。
「ッッ!!」
それでもターゲットから目を離さなかった。
だから破り被れに放った射撃。
そして__カコン!と奥から音がする。
次に下のクッションに背中から落ちた。
「ぐぇっ!!?」
背負っている錘が下敷きになったため背中の衝撃が幾分か分散されたが、それでも全身にズンッと衝撃が襲いかかり、脳が揺さぶられる。
「げっほ…!げっほ…!」
「あっ!あああ!!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「つ、月雪さぁん!?」
「そっちの錘を外して!」
駆け寄った同期達から体を起こされ、錘を次々と外される。圧迫感から解放され、背中の錘も外れたおかげで幾分か呼吸がマシになる。
そして再度クッションの上に倒れ込む。
全身が脱力感に包まれる。
体に酸素が足りない。
どれだけ意地になってたのか。
やや、調子に乗り過ぎたか。
でも…
「ふむ。視認する限りだとターゲットは全て沈黙していると見た」
俺を見下ろすように教官が声をかける。
それより全てのターゲットが沈黙。
それはつまり。
「なかなかやるな、月雪カナタ」
「はぁ…はぁ…この程度…はぁ…余裕ですよ…」
「ふむ。少なくとも旧校時代には近しいか」
「近しい…って、先人達はどれだけ化け物なんですか……げっほ…」
「さてな。当時の私はまだ幼かったが、噂の限りだとハンドガン一つでゲヘナの風紀委員会を鎮圧できるらしい。ま、それ程と言うわけだ」
「どこぞの殺し屋 *1 ですか、それ…」
やっぱり旧SRTって頭おかしいわ。
やはり昔も特殊(な、異常性を秘めた)学園ってことなんだろう。
そしてこの一期生もそう成ろうとしている。
しかし求められるのは、ただ普通に凄いだけの部隊じゃない。
ヴァルキューレ警察学校を超えた、生徒会長の私兵として君臨する特殊部隊になること。
それを俺たちに望まれている。
まずは一期生。
その地固め次第でこの先が変わる。
重責だな。
「ターゲットは全て撃破として扱う。よって約束通りに本日の訓練は終了だ。早急に道具を片付けてあとは実習に入れ。では解散っ!」
「「「はい…!!!」」」
教官の声に敬礼する隊員たち。
俺も筋肉疲労によって震える手を何とか動かして敬礼する。
そして周りの隊員達は吊り下げられたロープ以外は片付けに入った。
俺もワンテンポ遅れながらも、疲れた体を引きずるように片付けに入ろうとするが…
「あっ!月雪さんはお先に校内に向かってください!ここは私達がやりますから!」
「そ、そうですよ!月雪さんのお陰で今日は真っ暗にならずに済んだですから!」
「その!ごめんね!残ってたのに途中落ちてしまって!それで最後まで全部任せてしまって!」
「っ、ありがとう!貴方のお陰でSRTの意地を見せれたわ!次は私も頑張ってみせるから!」
皆からお礼を言われながら、そしてやや強引に背中を押されて、訓練所を退出する。
別に片付けをするくらいの体力は残っているのだが……まあいいか。
ここは皆の意思を尊重しよう。
だが、その代わり…
「早めにシャワー浴びたら用意するか」
俺は疲労を引きずりながらも寮まで駆ける。
そして到着後、真っ先にシャワーを浴び、SRTのロゴが入ったジャージに着替えて動きやすい格好になる。
それから寮のエントランスにある冷蔵庫から事前に作っておいた白玉と、粒あんがぎっしり詰め込まれたパックを引っ張り出し、10人分のお湯を沸かす。ひとまず段取りを終えた。
するとタイミング良いのか、片付けが終わったのか他隊員達が次々と帰ってきた。
するも嗅覚に優れたケモ耳隊員が耳をピーンさせてコチラに指を刺す。
「甘い香り!?もしや!月雪さんそれは!」
「
「わーい!」
「え、マジ!?」
「月雪さん!さすがぁ!」
「カナタさん!ナイスゥ!」
と、訓練の疲れを忘れたかのように駆け出す隊員達は微笑ましい。
なので俺は戻って来るまでにパパッと作ることにすると、先ほど善哉に気付いたケモ耳がいち早く戻って来た。
髪がまだしっとりしてる辺り簡単に乾かして来たのだろう。風邪をひいても知らないぞ?
それから到着した順に善哉を渡し、各々好きなところに腰掛けて食べ出す同期達を見守りながら俺も善哉に口を通す。業務用で購入した適当な粒あんだけど美味くてホッとした。
「んん〜!!」
「美味しい!」
「おいひぃ!」
「あまーい!」
百鬼夜行でも良く食べていた甘味だ。
疲れた体に甘い食べ物。
訓練後の善哉は染み渡るだろう。
「中々渋いチョイスなのね、カナタ」
「俺からしたら馴染みだよ___ウリエ」
「そのようね。あと美味しいわ」
「業務用の粒あんだけどな」
「それでも満たされるわ。ありがとう」
「どういたしまして。あ、それとさ」
「?」
「訓練中のアサルトライフル、ナイスだった」
「!……ふふっ、それは良かったわ」
パテル派を蹴ってSRT特殊学園にやって来たトリニティ生徒、彼女の名はウリエ。
パテルに誘われるだけあって戦闘能力が非常に高く、現時点でSRT特殊学園のナンバー2と評価されている。つまり上澄み。
……え?ならナンバー1は誰かって?
それは俺だよ。月雪カナタ。
SRTでは月雪カナタが評価されている。
そう耳にすれば、誇らしく思える。
正直、嬉しい気分だ。
ま、その分、教官に目を付けられている。
良い意味でも、悪い意味でも、な。
「ねぇ!カナタん!カナタん!前みたいにケモ耳ともふもふの尻尾を触らせてあげるからさ!善哉のおかわり頂戴して良いかな?」
「ほー?ケモ耳モフって良いのか?なるほど。それなら遠慮しないぞ?」
「うぇぇ…!?あ…!ええと…ごめん!やっぱり今のは無しで…!」
「ぇ………あ、そう?」
「そんなに残念がる!?ぅぅ…でも!やっぱり今日はもふもふ無し!お預け!…だってシャワーは雑に浴びたから髪とかちゃんと洗ってないし…」
「ふむふむ。でしたら私が善哉のおかわりを頂きましょうかね。あ、もちろん代わりとなんですが私の白い羽を触らせてあげますわ。ドライヤーでふわふわに仕立てたので触り心地がよろしいですよ?」
と、ウリエがお代わりを要求する。
すると周りも…
「はいはーい!はーい!それなら私は角触らしてあげるから善哉おかわり頂戴!」
「で、でしたら!私は翼などを!」
「あ、なら私は尻尾をどうぞ」
「む!私のケモ耳も負けませぞ!」
「わ、私は……あ、そういえば何もないですね」
「ほんとだね。やれやれ。私も月雪さんみたいにヘイロー触らせれたらワンチャンあったかな」
それほどに善哉が気に入っただけたようだ。
ま、こうなることを想定してたので。
「魅力的な誘い有難い。しかしそんな事しなくても全員分のおかわりあるし、まだ冷蔵庫に白玉があるぞ。追加で食べたい奴はいるか?」
「「「はい!!!」」」
訓練中はキリリとしている彼女達も甘味が関わると年相応になる。
やはり甘い物は皆好きだな。
もちろん俺も好き。
「やれやれ、奥手な方ね…」
「大和男児ってのは内弁慶らしいからな」
「そんな風には全く見えませんけどね?」
「さて、何のことやら。で?ウリエもおかわり食べるか?」
「ええ、もちろん!頂きたいわ」
こうしてたまに百鬼夜行の和菓子を振る舞う事で士気を向上させ、同時に団結力も高める。
SRTは大事な仲間だから。
因みに、俺以外にもこのように訓練後や放課後にそれぞれご当地の料理を振る舞っている。
例えばトリニティなら高級店やティータイムで用意されるスイーツを中心に。
ゲヘナなら無法地帯だからこそ手に入る珍しい珍味を持ってきてくれる。
ミレニアムなら品質改良された最先端の保存食料をお披露目してくれる。
山海経なら一部の商会でしか輸入できない希少な茶葉を淹れてくれたり。
レッドウィンターなら何かと決まってプリンを引っ張り出しては特別に二つも食べて良い!と豪語してくれる。
そんな感じに各地方から、それぞれの自慢を振る舞ってくれたりとしてくれるため、こうした訓練外でも交流を深めていることで俺たち一期生の団結力が高い。
なんなら水と油なトリニティとゲヘナですらもSRT特殊学園では笑い合って、手を取り合う関係になっている。俺はあまり分かってないが皆からしたらなかなか凄い光景だとか。
「皆、食べながら聞いてくれ」
俺は鍋にお玉を置いて声を投げる。
すると視線が集まり、隣にいたウリエも二歩分だけ離れて、こちらに耳を傾ける。
「今日もかなりきつい訓練だったが、明日は訓練が休みだ。死にそうになっている腕を労わりながらもゆっくりと英気を養い、そしてまた同じSRTの文字が刻まれた兵服を身に纏い、同じ苦闘の中で肩を並べれる。しかし俺たちは発った場所は違えどSRTは仲間として、強固なチームとして成長しているのは確かなんだ。他部隊よりも誇れる学園として、俺たち、私たちは、間違いなく連邦生徒会長直属の私兵である!ココにいるメンバーなら誇り高き一期生として馳せる!間違いなく馳せれる!そう思っているのは俺だけじゃないよな!!」
「そうだ!私たちはSRTだ!」
「もちろんです!その通りよ!」
「私達は選ばれてここに居る!」
「間違いない!間違いないよ!」
「なら今日の訓練の成果と!そしてこの一時に舌鼓する善哉と甘味を噛み締めて!またそれを繰り返せるようなSRTであることを望もう!では!本日はお疲れ様でしたぁ!!」
「「「「お疲れ様でしたぁ!!!」」」」
それぞれ、器やスプーンを手に持って上に掲げてお疲れ様の挨拶を叫ぶ。
俺も周りの士気高い様子を見渡しながら自分の分の善哉を啜り。
「やはり、この部隊は貴方ですのね…」
「?」
ウリエがコチラを見て何か言ったような気がしたが、周りの士気高い雰囲気に飲まれてそれは俺の耳に届く事はない。
だからズズッと善哉を啜って甘味を噛み締めながら、再び周りを見渡す。
「やはり、連邦ちゃんの人選だからか…」
善哉越しに眺める、彩り豊かな一期生。
どれも素晴らしい人選の数々だ。
個性も、能力も、情熱も、全てが高い。
ここに集まった皆は誰もがエリート。
「超人が導き出す『解』に歪み無し、か…」
間違いなく、俺たち一期生はその名に恥じない地固めとしてSRT特殊学園を完成させる。
その未来は想像するに容易い。
そうやって器の中身を平らげながら…
「また訓練、頑張ろうな」
「「「はい!!」」」
「「「ええ!!」」」
平らげた器の中に、明日の栄誉を。
つづく
ええ何ぃ!?トリニティに失望したカナタ君がキヴォトスのジョン・ウィックになってティーパーティを壊滅する世界線ですって!?この場合コンチネンタルホテル枠がシャーレになるんっすかね??そうなるとシャーレを爆発(アビドス編)させた地下生活者はキヴォトス全体から狙われてしまうのか。怖いなぁ。戸締りしとこ。
あ、今回出てきた『ウリエ』ちゃんはこの小説のオリキャラ。元ネタが大天使ウリエルなだけあって、パテル分派に誘われる(しかも首長候補)くらいには強く、またリーダーシップとしての能力も高いため自然とSRTを纏めるようになるのではと思っていた。しかし自治区を捨てたと言わず選ばれたために国を発ったと豪語したカナタ君の方が適任と感じると2日目時点で既にカナタくんの一歩後ろに立つ姿勢を見せるようになった。つまり脳を焼かれてる。ほんまコイツ。SRTには訳あってロールケーキを差し入れする事が多い。あと昆布茶が好き。
ではまた