なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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日曜日分


第20話

 

 

私はSRT特殊学園の教官をしている者だ。

 

元はヴァルキューレ警察学校の生徒であり二年前に学校を卒業した。

 

現役時は警備部の機動隊に所属し、部隊の所長として卒業する最後まで全うしてきた。

 

しかしこう見えて書類の手続きなど無視した上で現場に強行するなど、まあそれなりにやんちゃした。その後の始末書なんか日常茶飯事。辞めた今も懐かしく思う。

 

それから卒業後、キヴォトスを見て回ろうと考え一年程旅に出たこともある。なにせ所長として勤務が忙しく、休暇を取っても住み慣れた街だけでしか休日を過ごしたことがないからだ。

 

それを直接言われたわけでもないが、自分のことを寂れた女として扱うのは少し悲しかったため卒業後は思いっきり羽を伸ばし、気になったところはとことん歩き回ることにした。

 

ただ何処もかしこもキヴォトス特有の治安の悪さが目立ち、当時の苦労を思い出す。

 

そのため元機動隊として活躍していた体に残っている使命感が私を動かそうしていた。

 

てか、勝手に体が動いた。

 

そんな感じに旅先で何度か荒事を鎮圧してしまった事もある。

 

職業病ってヤツだろう。

厄介だな。中々に休まらん。

 

まあそれでも役柄に縛られない旅は楽しく1年間、好きなようにキヴォトスを見て回った。

 

 

そしてある日のこと。

 

 

旅から帰ってきた翌日だ。

連邦生徒会が急遽、私に接触してきた。

 

何か引き継ぎなどで不始末があったのか?

しかしそれなら連絡の一つで報告は受けれるはずだ。卒業生と言え、誰かしらが私の連絡先を保持しているだろうから。そのため飛び出す言葉に身構えながら連邦生徒会の者と対応を取っていると…

 

 

 

__貴方に教官を務めていただきたい。

 

 

 

良くありげな話だ。

 

言わば、学園のOGまたOBをしてほしいと言う誘いだろう。

 

組織に所属していた人間とならばそう言ったスカウトもある。

 

ヴァルキューレ警察学校でもよくある話だ。

 

実際に私も機動隊所属時はOGの者達から手解きを受けて所長に上り詰めた。

 

そして次は私の番。

 

つまりそういう事なんだろう。

 

私は、そう思っていて…

 

 

 

 

 

 

 

__勤務先は【SRT特殊学園】です。

 

 

 

 

 

 

 

その話は想像よりも大きな重責らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いか?水中は肺活量との勝負だ。別に今からアスリート選手になれとは言わないが、SRTの名をその身に飾るならこの訓練程度を乗り越えてもらう。良いな?」

 

「「「了解っ!!!」」」

 

 

武器の代わりに錘をくくり付け、手と足だけで15分間浮き続ける。中々きつい訓練だ。

 

私も現役中はやったことがあり、訓練の度に足を攣らせては錘と共に溺れたことがあった。

 

忘れもしないさ。

 

ただそんな過去経験もあるからか、その当時の訓練方を活かし、いま目の前で錘と水中相手に格闘している新兵達を鍛える。

 

それが連邦生徒会に頼まれた私の役割。

 

しかし幾ら3年分の分厚い経験があるからと言っても、まさか雇われ先がSRT特殊学園になるとは思わなかったな。てっきりヴァルキューレ警察学校にOGとして出戻りかと身構えていた。

 

しかし鍛えるべき対象が機動隊よりも能動的に動ける特殊部隊の兵士と来た。

 

それも連邦生徒会長直属の私兵。

 

なかなかに責任重大である。

 

 

「…」

 

 

それにしてもSRTか。

 

いや、存在自体は薄々聞いていた。

 

何せSRT特殊学園は二年前に現連邦生徒会長が急遽設立を提案していたからだ。これに関しては私が所長になった時に防衛室から話を聞かされた。まあ私が現役中に設立されることはなかった計画段階の組織だが。

 

しかし今年になって稼働まで漕ぎ着けた。

 

だが、まだ7割ほどしか機能していない。

 

何せ、今も特殊部隊に相応しい有能な人材やスタッフの確保が進められている状態だ。なので運営状況は万全かと問われたら不十分だと答えるしかない。まだ足りないものは多い。

 

それでも学園として運営が開始されたのは兵士を育てるためである。宙ぶらりで遊ばせておくのは色々と勿体無いからだ。

 

ただ、新兵に訓練を積ませるための施設は充分に揃っているとはいえ少し急ぎ気味に感じられるのは、気のせいだろか?

 

いやしかし運営維持費を考えればとっとと使って稼働させ、改善点などを洗い出しながら組織を完成させた方が良いのかもな。ならこのタイミングは良いのだろう。

 

だがそれにしても、教育相手が一期生とはこれまた重責を背負わされたものだ。

 

機動隊の所長をしてきた身であるが、現役の頃とは間違った重役な立場。

 

少しながら受けたことを後悔している。

 

 

 

が…

 

案外、楽しみになっている自分がいる。

 

 

 

 

「おら!しっかり浮け!それともSRTが任務中に溺れてしまうつもりなのか!?その名は重たくとも溺れ落ちるな!名に溺れずしっかり這い上がれ!ほら!あと10分!気張れぇ!」

 

 

 

推薦され、招集を受けた入校生達は、確かに連邦生徒会または生徒会長自らが厳選しただけあって特殊部隊に相応な人選だ。

 

無名に等しい学園から、そこそこ耳をする硬派な学園、またマンモス校として有名なミレニアムやゲヘナからも来ている。

 

中にはトリニティのパテル派を蹴ってSRTを選んだ者もいた。それも自国愛が強いはずのトリニティを出る選択を取ってこの場に来た。すごい決断だと思う。

 

そして、それができる生徒だと分かったからこそ生徒会長はその者を選んだのだろう。

 

やはり生徒会長が超人の話は本当かもな。

見ている眼、見る眼が何もかも違う。

 

まあそうでなければ目まぐるしく治安が変わるキヴォトスに目を配るなんて無理だろう。

 

やはり選ばれてそこにいるのか。

 

その観察眼は私に無縁だな。

 

 

「む?……おい、二番が溺れそうだ。それぞれ下から足を持ってやれ」

 

「「了解しました!」」

 

「げっほ!げっほ…ぜぇ!ぜぇ!」

 

 

 

さて、生徒会長は生徒会長だとして、ココに集められた新兵達はまだまだ殻の付いたヒヨッコってところだ。

 

中には生え抜きのヒヨッコも何人かいるみたいだが、それでも組織という場所で兵として使われるからには一から鍛え直す。

 

 

だから何一つ、特別扱いはしない。

 

ここにいる奴らは皆平等だ。

 

そう決めている。

 

 

 

 

 

 

そう、決めているが…

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

「え?え……ええええええええ!!??」

「月雪さん!なんか浮いてませんか!?」

「う、嘘っ!?水の上に立ってるぅ!?」

「しかも、なんか水面が渦巻いてね…?」

 

 

「おい!月雪!流石に引き出し過ぎだ!それでは訓練の意味がないだろう!」

 

 

「___へ?……あっ、やっべっ…!って!うおあああ!!」

 

 

 

ザバーン!!

 

 

 

付けられた錘と共に立ち上がる水飛沫。

 

同時に目を疑うような光景を見てしまう。

 

私は疲れているのか?

 

 

 

___否、そんなはずない。

 

 

もちろん、今のはすごく驚いた。

 

水の上に立つ。

 

とんでもない御技(みわざ)を目の当たりにした。

 

けれど、これまでの指導によって幾度なくその異常性を見てきたため、分かることがある。

 

あの者__この中で唯一『彼』として扱われるたった一人の男性生徒。

 

砕け散ったヘイローをクルクルと回しながら訓練に取り組むイレギュラー。

 

そして、そのイレギュラーたる彼に、私はかなり興味が惹かれている。

 

もちろん、キヴォトスで唯一の男性生徒って意味で興味もあるが、この新兵の中でも特に生え抜いたモノを彼は抱えている。

 

それは今見せた__神秘の扱い。

 

彼は特に神秘の使い方が上手い。

 

 

 

「げっほ!げっほ!おえっ…」

 

 

「うわっ!うわっ!ちょ!なにそれ!?」

「すごっ、水の上に這い上がってきた…」

「まるで水面を崖みたいに扱っている…」

「月雪すごい!なんか忍者みたいだよ!」

 

 

「おいおい、マジか…」

 

 

月雪カナタは水面から体を這い上がらせると腕と膝を水面の上に乗せる。まるで崖から這い上がるように体を水中から持ち上げていた。それから引きずり上げた足を水面の上に乗せると重心を活かして体を水中から起こし、仰向けに転がる。

 

そして大の字に倒れた。

 

それも水の上で。

 

錘を付けられているにも関わらずだ。

 

 

 

「なんて規格外な野郎だ…」

 

 

周りの新兵達も彼の異常性に夢中である。

 

無論、それは私もだ。

 

 

 

「おえぇぇ…油断した…てか、錘の重さが全く違うじゃねぇか……ミニガンの重量かよ……通りで浮かねぇと思ったわ……げっほ…」

 

 

良く見ると全身に100kgだ。

 

いくらキヴォトス人でも浮上は困難。

 

そのため神秘を使って浮き上がろうとしたのだろうが、それ以上に錘が重たかったため更に神秘を解き放ち、そして浮いたのだろう。

 

 

 

「ご、ごめんなさい!間違えて皆よりも重たい錘を付けてしまいました!」

 

「ぁー、おけ、おけ……は、ふぅ…」

 

 

 

あの感じだとかなり焦っただろう。

 

それに気づかなかった私も注意不足だったな。

 

反省しよう。

 

 

 

「月雪、とっとと起き上がれ。錘を調整したらお前は10分間だ。良いな?」

 

「げっほ……はい」

 

 

それから月雪は軽くフラつきながらも水の上を歩き、岸に上がると錘をつけ直し、そしてまた水の上に脚を乗せ、プールの水面をバチャバチャと歩いて定位置に戻った。

 

まるで慣れたように歩いている。

 

 

「錘、付け終わりました」

 

「あ、ああ……では10分間だ!始めろ!」

 

 

そしてゆっくりと沈み、肩まで浸水した段階で月雪も手足を動かして浮上しようと訓練を開始する。どうやら錘は規定通りだ。

 

 

「残り7分だ!気張れよ!SRT!」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

 

少しイレギュラーも発生したが、訓練の流れは変わらない。いつも通り新兵達を追い込んで鍛える。他の雑な部隊には負けない。それこそ特殊部隊として胸を張れる一端の兵士として選りすぐりの卵達を育てる。

 

 

 

さぁ。

 

この一期生達がどのように軌跡を作るか。

 

なんだかんだで、楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の21時。星は見やすい。

 

故に、良い子は寝る時間。

 

しかしキヴォトスは、悪い子で蔓延っているため良い子の時間なんて概念はない。

 

 

そんな俺も、早い時間に寝ることは稀だ。

 

基本的に遅くまで起きている。

 

 

 

「山奥だからか、夜風が涼しい…」

 

 

 

もう習慣と言ったほうが良いのか、俺は毎晩SRT特殊学園の近くにある湖に脚を運んでは神秘の研究、また鍛錬を行っている。

 

浮かせる力__それは色彩として反転し、新たな月雪カナタとして浮いた結果、このような芸当ができるようになった事はもう何度も説明した通り、コレは憑依者である『俺』の神秘。

 

もしくはキヴォトスに於ける反則行為。

 

色彩として理解されないからこそ常識では理解されない規格外の力と化す。

 

バグキャラとは良く言ったものだろう。

 

だからこの力でもっともっと凄いことだって出来るのだろう。

 

それこそ俺自身が浮くとか、またはこの一帯を掴んで浮かせるとか、もう言葉遊び上等な規格外は文字通り、神秘的に可能性を秘めている。

 

 

今はわかりやすく水の上に浮いてるだけ。

 

と、言うよりコレが現在の精一杯。

 

元より神秘を理解するためにはコレが一番手っ取り早く、己の技量を図るには水の上に浮くという行為が非常に理に適っていた。

 

それにクズノハから、己の神秘の理解を進め続けることがキヴォトスに浮き出た月雪カナタとしての確立であり、また健在に至るとの事。

 

あとは「継続は力なり」を心掛けなさいと言う真っ当なアドバイスを貰い、そして俺は今もその言葉を守り続けているだけの話である。

 

だから、今もこうして水の上にいる。

 

 

 

「神秘って案外何でもアリみたいなところあるけれど、キヴォトスでは日常的にありきたりすぎてるせいで理解解明、興味関心などに薄いことでこの価値を見出されてない。しかし仕組みさえ明かされれば誰だって神秘の意味を無限大に引き出せる…!!」

 

 

俺は水面に跪くと、思いっきり水面を片方の手のひらで叩いて神秘を解き放つ。

 

すると俺の正面に神秘が広がり、そして巨大な水飛沫、いや巨大な水柱が立ち上がる。

 

 

「よっとぉ!」

 

 

その場から高く飛び、水柱の側面を蹴って更に上に飛び、そのてっぺんにたどり着く。

 

俺はその上に立ち、満月に向かって大きく手を広げた。

 

 

 

「クズノハぁー!見守ってくれてるかぁ!?俺は月雪カナタとしてこの箱舟でここまでの正当化が進んだぞ!ならば俺はまごうことなき健在で有ろうか!だから!どうか!キセル越しに浮き出る黄昏る中でもケモ耳を揺らしなから頷いてくれ!大預言者との邂逅が幸運にあった月雪カナタは大丈夫なんだと!!」

 

 

伝え切った声と共に水柱は神秘の効力が消えてしまう。俺は足場を無くしてそのまま水面に落下し始める。その前にもう一声を届けた。

 

 

 

「後そのケモ耳またモフらせてくれよ!!」

 

 

 

満月から遠ざかる。

 

 

そして、バチャーーン!!と。

 

水飛沫を立てて着地した。

 

 

 

「っっ〜、クゥッはぁぁァァぁああっ!!

すッッッっきりしたァァぁぁぁぁっ!!

はぁぁぁァァあ、ふぅぅぅう……っし!」

 

 

そして俺は満足気に息を吐く。

 

 

 

 

え?

 

何しているかって?

 

いや、ストレス解消だよ。

 

SRTは訓練漬けで大変なんだって。

 

もちろん休日もあるけど、訓練日は本当に厳しくて、厳しくて、ストレスが溜まる。

 

皆で差し入れとか出し合ったり、それで励まし合いながら頑張ってるけど、でも体の負担はストレスの助長。ならば気持ちをリセットするためにも一度現実から切り離したくもなる。

 

だからこうしてたまに水柱の上に立っては少しでも近づいた月に向かって手を広げて大きく伸びをする。こうすれば何かと凝り固まったストレスから開放的になれるし、コレがまた気分が良い。

 

まあ今回はなんとなくクズノハ宛にラブレターを飛ばしてみた。急に思い出したから。

 

 

いやだってよ?

 

SRT特殊学園に転学するため百鬼夜行を出ることになったのに、最後で会えなかったし。なんか寂しいわ。

 

そりゃ黄昏で会うこと自体がレアケース過ぎるから本当は出会わないのがデフォルトなんだろうけど、でもクズノハとは何度も顔合わせてるケモ耳の関係だ。

 

だからこうして恩師かつ恩人に対して思い馳せる日だってある。

 

 

それに!あのケモ耳!!めちゃくちゃレベル高いんだぞ?細胞レベルであのモフり具合を覚えちまったよ!モフりたくて堪んねぇっ!!

 

たまに触らしてくれる同期のケモ耳っ子の耳触りも悪く無いけど、クズノハレベルは流石にいない。あれは年季あるわ。モフりの年季。

 

 

ちなみに次点でワカモが良きさは。

 

イズナも悪くない。

元気の良い毛先はまさに彼女らしさ。

 

でも手触りはワカモかな。

しなやかの中に秘める強かさな毛並み。

 

ここら辺は思い出補正マシマシな判定になっちまうけどなこの二人も良き。

 

けーれーど!

 

クズノハしか勝たんのは確か。

はー、また彼女と黄昏てぇなぁ。

 

 

 

 

 

「___で?覗き見てる君は誰だい?」

 

 

「!!」

 

 

 

俺は胸元にある小型ライトをパッと照らしながら木に向けて声をかける。

 

すると木の後ろから一人姿を現す。

 

 

 

「ごきげんよう月雪さん。それと流石ね」

 

「また来たのかウリエ。それと羽は見えた」

 

「え!?」

 

「精一杯折りたたんでいたみたいだけど、日頃手入れが良過ぎるせいかな。夜でも充分に目立ってたよ」

 

「あら、褒めて下さいますのね」

 

「隠密行動的には減点だけどな」

 

 

俺は一度湖から出て岸に戻る。

 

小さなシートの元まで歩き、風でシートが吹き飛ばないように立てられていたタンブラーを手に取って休憩を取る。

 

俺は視線でウリエを手招きして、カップの中にあったもう一つの二段カップを取り出し、タンブラーを傾けてほうじ茶をカップに注ぐ。

 

そして彼女に渡した。

 

 

 

「梅雨明けとはいえ夜は寒い。ブランケットの一つは持ってこなかったのか?」

 

「ここに来れば月雪さんがあったかいほうじ茶をご馳走してくれるので凍える心配はしてませんでしたわ」

 

「トリニティ程のセッティングは望めないけどな」

 

「あら、私はこう見えて庶民派なのよ?飾り過ぎるのは寧ろ嫌いよ。この程度が良いわ」

 

「なら君は百鬼夜行向きだな。そっちの方が似合ってる」

 

「あら!それは本当に?ふふっ、それはそれで嬉しいわね。いえ!むしろその方が良かったくらいよ!うふふふっ」

 

 

よっぽどトリニティが窮屈だったらしい。

 

でも子供に生まれは選べれないからな。

 

それは成り代わった俺が良く知っている。

 

 

 

「ほうじ茶ですのね」

 

「緑茶だと酸化した時の変化量が強くて長時間の持ち運びに向かない。ただし、ほうじ茶は酸化しても然程変わらないから長時間の持ち運びに向いてる」

 

「酸化防止にレモンは垂らしませんの?」

 

「手段としてはありだけど、でも緑茶を呑むなら急須に淹れて腰掛けた時だな。外出する時はほうじ茶の方が良い。そのくらいの使い分けだよ」

 

「それだけ理解あるなら紅茶も上手く飲めそうですわね」

 

「トリニティに住み続けていたらそうなってたかもな。でも百鬼夜行に惹かれた体は緑茶を覚えた。だから今はこっちの方が良い」

 

 

元より緑茶は好きだ。

 

前世が和の国だからな。

 

馴染み深さがある。

 

 

 

「………ひどい、話ですわね」

 

「もう3年前の話だ。今更気にはしない」

 

 

頭のヘイローがくるくると回る。

 

俺としての答えはこのままで良いのか?

 

それを問いかけるように回す。

 

 

 

「っ、やっぱり、わたし…!」

 

「ウリエ」

 

「っ、でも!」

 

「今それをしたところで何も起こらない。トリニティはご都合主義に傾いた世界。今更過去の傷跡を引き出したところでトリニティは何もできない」

 

「ですが…!」

 

「責任の量が増える高等部の時ならともかく、まだ浅い中等部に罪の重さは測れない。だってこんな血筋も備わらない庶民に裁きの権限を与えるほどトリニティは暇じゃないだろ?」

 

「それは…でもっ!貴方が通っていた中学校はそれはトリニティで一番…!」

 

「なら尚更掘り返さないだろ。貴族と権力者に塗れた学園だ。心優しい人もいたけど、貴族主義に酔いしれたあんな所、月雪カナタなんて人間は三年経った今は居なかった者として扱ってるに決まってる。 それは……トリニティに居たウリエの方が詳しいだろ??」

 

「っ!!!……ッッ…」

 

 

 

彼女は俺のことを聞いている。

 

砕け散ったヘイローの話から、どうしてそうなったのかを触れ、同時にトリニティの分派を即座に見極めた知識力に対して、ウリエは他人事じゃない気がして俺に尋ねてきた。そして彼女は最終的に青ざめていた。トリニティの陰湿な虐めは危うく殺傷事件になり得えたと。

 

そして同時に彼女は怒り、また恥じる。

 

トリニティの所業を。

 

今こうしてSRTの場に選ばれた月雪カナタという人間の苦悩と、またトリニティ側の大きな喪失を。楽園に見せかけたあの自治区は残念ながらも愚かに極まったんだと。

 

 

 

「だから……トリニティなんて貴族主義は嫌いなのよっ……子供のくせに子供を食い散らかしてしまう、あんな醜い場所なんて…!」

 

「…」

 

「そうよ…!何が…パテル分派よ…っ!血筋が弱いからと、中等部の頃は私に見向きもしなかったのに!でも私が強くて!資質がある生徒だからと分かって!それで簡単に党派のために心変わりを見せる卑しさなんて!それで月雪さんを踏み躙った上で成り立つなんて私は…!!!」

 

「ウリエ、落ち着け」

 

「!」

 

 

 

ポンっと、彼女の頭に手を乗せる。

 

騒ぎ立てていた羽はピタリと止まった。

 

 

 

「ほうじ茶、冷めないうちに飲んじまいな」

 

「っ………ごめんなさい…」

 

 

彼女も落ち着くべきと考え、両手に握りしめていたほうじ茶を飲む。夜風によって正体を現す湯気が心を穏やかに誘う。茶葉が香ばしい。

 

 

 

「復讐、報復、断罪。それしようと思えばこの手で直接出来るさ。酷いことだって可能だ。前任者(じぶん)にとってそれが望まれることなら俺は幾らでも手を尽くし、奴らにも同じようにヘイローだって粉々に砕いてやる。コレと同じようにな」

 

「……ヘイロー」

 

 

こうなったのは前任者…… 自分自身だが、しかしそうに至るまでの引き金は間違いなくトリニティが原因だ。

 

あの酷いイジメさえなければ前任者は絶望せずに希望を見て、それで俺なんて異物が入り込むことなんて無かった。

 

もし俺が憑依したしても、彼を見守り、人生経験の限りを尽くしてアドバイスなりして、まあ守護るくらいはしてたかな。

 

そのくらいの平穏は彼にもあった筈。

 

 

ま、全てヘイローと共に砕け散ったけどな?

 

 

 

 

「でもやらない。そんな事のために『俺』は月雪カナタとして強くなろうとしてない。でなければこうしてSRTにも来なかった」

 

 

もちろんこの痛みを晴らすべきだと訴える心だって残っている。

 

もう【ひと押し】あったらそうなっている程にこの体は行方を求めていた。

 

しかし、けれど、今の『俺』はそこ至らない。

 

そうしない選択を取る。

 

何故なら俺を助けてくれた人がいる。

 

報復とかよりも、子供として育つことを望んでくれた百鬼夜行の世界がある。

 

なら俺は助けてくれた人達が望む、そんな月雪カナタとして形成する。

 

それが(おれ)の『解』だと思うから。

 

 

 

「ウリエ、気晴らしに付き合えよ」

 

「え?……わわ!」

 

 

俺は頭から紐付きの琥珀色を隣に投げる。

 

彼女は慌てて受け止めた。

 

 

 

「胸に着けな。引っ掛けれるだろ?」

 

「琥珀色のヘイロー…」

 

 

 

 

 

俺は立ち上がり、歩みを進める。

 

そして___始発点に手招きする。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

月明かりの下で錆色から琥珀色に変化しながら輝かせるヘイローは、私と同じSRT特殊学園の同期として活動する月雪カナタの証。

 

ただ一人の男性として入校し、また男性にも関わらずヘイローを浮かばせている珍しい人。

 

そして同じキヴォトス人の筈なのに、まるで別世界から来たような眼差しと雰囲気を纏う不思議な人でもある。

 

 

そんな彼が手招きする__水の上で。

 

 

 

「CQCの基本は出来るよな?」

 

「入校から二ヶ月目よ。流石に出来るわ」

 

「ならお互いの胸元に引っ掛けてあるヘイローを奪い取った方が勝ちだ。もちろん俺のヘイローが体から離れると何が起きるか分かるか?」

 

「水の中にドボン…よね?」

 

「ああ。それが嫌なら俺からヘイローを取ってみろ。なんならこの頭の上に回ってるヘイローでも良いぞ?俺から一つでもヘイローを奪い取ればウリエの勝ちだ」

 

「……生意気ね」

 

「ハンデだ。地の利は俺が上」

 

「足元掬われるわよ?」

 

「掬うのはお祭りの金魚だけにしてくれ」

 

「なら袋に詰めて持ち帰ってあげる」

 

「お世話はされたく無いな」

 

「濡れたら髪ぐらいは拭いてあげるわよ」

 

 

 

タンっ!と水飛沫が立つ。

 

軽く上下に、緩やかに、揺れる水面の上で体重移動はまだ慣れない。

 

別にコレが初めてって訳でも無い。

 

今日の夜と同じように砕け散ったヘイローを訪ねて、トリニティの所業を知って、その後の百鬼夜行で得た力を聞いて…

 

 

 

「おら!だぁ!」

 

「やぁ!はぁ!」

 

 

月雪カナタの神秘を通せば、こうして水の上で白兵戦が出来るくらいに不思議なことができる事を知った。

 

__っ、足払いっ!!?

 

 

 

「避けるか!やるな」

 

「っ!!」

 

 

 

円形に鋭く水飛沫を立てながら狙ってきた足払いに対し、私はその場から跳んで回避する。

 

急な攻撃だったので私も神秘をフル稼働させて一気に飛び退いてしまい、水面に対して高さは3メートルほど離れている。

 

それにしても少し飛びすぎだ。

 

彼の神秘によって浮いているから跳ねる量が増えたのか?

 

それを証拠にほんの僅かに緩やかな落下。

 

いつもより余裕を持って着地できそうだ。

 

 

 

「見せてやろう!水遁の術!」

 

「____へ?」

 

 

 

彼は叫びながら手を水面に叩きつける。

 

すると私の真下から水柱が湧き上がる。

 

すると着地のために準備をしていた足を急に取られてしまい、水柱のてっぺんで転んで尻餅をつき、体勢を崩しながら転げ落ちてしまう。

 

 

「地の利はあると言ったろ」

 

「CQCはどこ行ったの!?」

 

「水に流した」

 

「コイツ!?」

 

 

私はバッ!と羽を広げる。

 

すると空気抵抗と月雪カナタの神秘によって姿勢を立て直し、足元から着地する。

 

しかし目の前には既にカナタ。

私は身構えて攻撃を受け止める。

 

 

 

「そらぁ!」

 

「このっ…!」

 

 

 

互角…いや、カナタの方が強い。

 

コレも百鬼夜行に居た成果だろうか?

 

あの場所はそういうところでもある。

 

 

 

「俺の後輩が滅茶苦茶強くてな…!射撃戦でも白兵戦でも敵無し…!だから必死だった!」

 

 

そして私の思考を読むように答える。

コレまでの研鑽を拳に乗せながら。

 

 

「そう!コレが月雪さんの答えなのね…!」

 

「ああそうさ!砕け散ったヘイローだけど!でもそれすらも飲み込んで来た!だってそれが月雪カナタでなんだと色んな人が視てくれたから!」

 

「っ、そう!そうなのね!それが貴方の『解』なのね!なら…! 私だってSRTに導かれた自分自身を誇ってみせるわ!元がトリニティだからとか関係ない…!私も今の貴方のように!」

 

「ならば己の正当化を続けるんだ。それが許される子供の世界だからな!」

 

「はい!」

 

 

 

ガッ!ガッ!バチっ!とぶつけ合う意地。

 

CQCを交えた、水面上の会話。

 

月明かりに映し出される私達に偽りなんて許されやしない。

 

そうした私たちの応酬によって生み出される水面の波紋が、水面に反射する私達を歪ませるけど、でも確かに今そこに自分がいて、やがてまた映し出される。

 

胸元に引っ掛けられた琥珀色の証は更に強く瞬いている。それが彼であるように。

 

 

 

「チェックメイトだ」

 

「あっ!」

 

 

私の顎下を二の腕で抑え、そして胸元にあるヘイローを指先で摘み、いつでもヘイローを引っ張り上げれるようにしている。

 

 

 

「流石ね。全然強いじゃないの…!」

 

「ココに至るまで頑張ったからな」

 

「そう……月雪さんは__進んでるのね」

 

「砕け散った意味を取り戻すんじゃなく、砕け散った先にある俺を成す。それは間違いなく百鬼夜行に辿り着いて得た答えだ。だからトリニティなんかに引っ張られない。俺はソッチよりもコッチで有りたいからな」

 

 

 

水面は静かに波紋を生む。

 

そして水面に私たちが映る。

 

やや歪んでいるが、でも分かりやすい。

 

そこには間違いなく私達がいる事を。

 

 

 

「私の負けね。どちらの意味でもね」

 

「けれど、その怒りはとても嬉しかったよ」

 

「…本当に?」

 

「パテルなんかには勿体無いと思う程に」

 

 

 

彼は私の顎下から腕を引く。

 

何もかも決着は付いたから。

 

彼の主義と主張、意思と意志に対しても。

 

私が怒りを拾わなくても、彼は自分で拾う。

 

月雪カナタでどうするべきかと。

 

 

 

「別れの言葉は無しか?」

 

「え?…あ、ええと?フルスピード…で?」

 

「はい、ノットスピード。時間切れだ」

 

「あ」

 

 

 

彼はヘイローを私から引き離す。

 

そして、バチャーン!と水に落ちる。

 

 

彼のこういう、たまに容赦ないイタズラがあるからちょっぴりだけ嫌いになってしまう時はあるけれど、でも年上のように私達を見守ってくれる彼のユーモアがあるからまたちょっぴり好きになる。

 

loveと言うよりはlike。

 

敢然と征くその背を__私達は見ていたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

 

 

 

「てな、訳なので前日の夜に決めました!この一期生のリーダーを月雪カナタさんに決めようと思います。皆様の方で何か異論の方はございませんか?」

 

「「「ないでーーす!!!」」」

 

 

「おい待てい(江戸っ子)」

 

 

 

皆の声が一つになる。

 

あ、一名だけ違いますね。

寝耳に水な彼は私たちに静止を求める。

 

うるさいですね。

私だって昨日の最後に水が耳に入ったんです。

 

 

だから許しません。

 

水の中に落とす悪い人なのでそちらにも冷水を被って貰いますから。

 

 

 

「いやいやいや、おいおいおい、待て待て待て、本当にそんなので良いのかよ!?てかリーダーってなんぞ!?」

 

 

「そのままの意味ですよ。私達一期生の心の支えとなってくれる大黒柱の事です」

 

 

「オイィ!責任の意味がデカ過ぎるだが!?」

 

 

「でも既に纏めてるカナタんだよね?」

「私はカナタんが総リーダーが良いよ」

「カナタんが一番強いからカナタんで」

「賛成賛成!カナタんで決まりだね!」

 

「と、こんな感じに皆の総意です」

 

 

 

彼はあんぐりと口を開けている。

 

だってそうですもん。

 

私たちだけで決めましたからね。

 

 

 

「……わ、別れの言葉は」

 

 

「無しですよ月雪リーダー、ふふっ」

 

 

 

教官や生徒会に、この一期生からリーダーを作るように指示されたとか特に無い。

 

しかし皆の心を纏めてくれる心強いリーダーは間違いなく月雪カナタであると気持ちは、皆も同じだったから、今こうして彼にお願いする。

 

もちろん急な大役に彼もしばらく頭を悩ましていたが、期待に満ちた眼差しと願いに根負けした彼は抵抗を諦める。

 

そして【KANATA】と刻まれた私たち手作りの腕章を腕に巻くことで…

 

 

「ならばこの月雪カナタが一期生のリーダーと成ろう。それで良いな?」

 

 

「「「「了解ッッ!!!」」」」

 

 

 

彼は期待に応えてくれた。

 

私は___この学園に来て本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 






あぁ^〜、脳が焼ける音ぉ^〜

てか原作が始まってないせいで比較的同年代にあたるオリキャラのヒロイン力がとことん強いですね。白鳥と言い、ウリエと言い。


またの更新でな!
じゃあな!あばよ!
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