なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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14000文字だってよ。
何が起きたん?
ワシにも分からん。



第21話

 

 

「こちらcrescent(クレッセント)1、ターゲットの捕獲に成功した。ターゲットは現在昏倒している状態だ」

 

 

『crescent1、了解。ランデブーポイントにトラックを向かわせるのでそこで落ち合って下さい。仲間と合流した後にターゲットをヴァルキューレ警察学校第四支部に搬送します』

 

 

「了解した。今からポイントに向かう」

 

 

『よろしくお願いします』

 

 

 

マイクを切断し、ターゲットを抱える。

 

建物の屋上を出ると夜だ。

 

そして今日は三日月。

 

晴天だった昼間のまま夜を迎えれば月がよく見える筈だが、しかしこの街の雰囲気に呑まれているためか三日月が薄らとしか見えない。

 

 

 

「まさにブラックなマーケットだな」

 

 

まあ、今いる場所がまんまブラックマーケットなんですけどね。初見さん。

 

そして、こんな治安が機能してない場所で俺はSRTとして今回初の任務…と、言うべきか?

 

いや、どうだろうか。

 

実のところ今回は急な役回りである。

 

何せ、今日の俺は非番だった。過去形。

 

午前中は滅茶苦茶楽しんでたぞ?百鬼夜行にはないゲームセンターに寄り、そこでネルとか言う勝気なちびっ子と仲良くなって半日くらい遊び倒していた。それで門限までに戻ろうと歩いているとSRTの輸送車が真横を通った。

 

そのことには少し驚いたし、運転席に座っていた仲間もラフな格好で帰る俺に驚いてたが、思わず窓越しに笑い合ってしまう。いや仕方ないやん。このシチュエーションは誰でも笑顔になってしまうって。

 

それで「カナタん乗ってー!」と帰り道のついでに乗せてくれる仲間にお礼を言いながら俺は助手席に乗り込み、帰り道を共にする。

 

それで仲間に輸送車が走っていることについて尋ねると、どうやら連邦生徒会の届け物を受け取るために駆り出されたらしい。あと輸送車の運行テストも兼ねての事。それで帰り道の途中で俺を見つけた流れということで、しばらく運転席の仲間とケラケラ笑い合っているとSRT本拠地から入電が届いた。

 

入電によると、ヴァルキューレ警察学校が脱獄者を一名逃してしまい、更に重要物まで盗まれてしまう脱獄事件が発生したとか。いやヴァルキューレは一体何をしとるん??

 

それで近くにいたSRTは援護に向かえないかと話が届き、そして丁度俺が一緒にいる事が確認されると犯人を捕まえるために向かうことになった。しかも私服である。動きやすい服だからまだ良かったけどゲーセン帰りに捕獲任務になるとは思わなんだ。

 

ちなみに装備は輸送車に幾らかあったアサルトライフなどを軽装備として持ち込み、GPSを片手に輸送車を飛び出してターゲットを追跡しているとブラックマーケットに潜入。

 

ターゲットに関してはまだ浅いところに居たので確保後はすぐにブラックマーケットから抜けれた。少々肝を冷やしたけど。

 

 

まあそんなこともあり、急な援軍として駆り出された俺氏、さりげなく任務に入った所存。

 

それも今回、これが初任務………の、扱いで良いのかな?

 

一応、本部から頼まれた身だし…任務か?

 

まあSRTの名目で動いたから恐らくは任務扱いなるんだろうけど、初任務としては随分としっくり来ない気分。いやだってゲーセン帰りにそのまま「頼むわ!」って感じに犯人確保へと乗り出したからな。それも私服だし。どうせなら皆から託された腕章巻いて出撃したかったわ。

 

 

まあ、無事に終わった、ええ?

 

うん、俺、頑張った。ヨシ。

 

 

「よっ、時間通りだな」

 

「あ、crescent1!」

 

「お出迎えありがとう。そんで抱えてるコイツがターゲットだ。脱獄と同時にヴァルキューレ警察学校の行政書士のシャチハタを盗んだ罰当たりな娘さん、ってな」

 

「なるほど。改めて拘束しますね!」

 

「一応、親指だけはロックタイで縛ってる」

 

「わかりました。あ、ところでお怪我は?私服で向かわれたので心配で…」

 

「ブラインドアタックで一撃。被害無し」

 

「おお、流石カナタん!」

 

「こら、任務中はコールサインだぞ?」

 

「えへへ、すみません。でも急なコールサインの命名とはいえcrescentの由来はどこから?」

 

「今日は三日月だからな。だからcrescent(クレッセント)という安直な理由だな」

 

「なるほど。なら私はcrescent2」

 

「今はな。気に入ったらそのままコールサインを使ってくれても良いぞ」

 

「!」

 

 

 

会話もそこそこにトラックの後ろにターゲットを投げ入れ、備え付けのロープを引っ張り出してターゲットの両腕と足をぐるぐるに縛る。それから俺は後方に乗り、もう一人の仲間は運転席に座ってヴァルキューレ警察学校に移動する。

 

すると途中、ターゲットが目を覚ました。

 

 

 

「おや、お目覚めかい?」

 

「あれ?わたし………はっ!!!???」

 

「君は捕まった。なので留置所に出戻り」

 

「なっ……!?」

 

 

ターゲットは目を見開く。

 

まあ、それもそうだろう。

 

1時間前にヴァルキューレ警察学校の留置所から脱獄しながらシャチハタを盗むとブラックマーケットに潜り込み、ブラックマーケットなら流石に連邦生徒会も手を出せないと考えて身を潜められる所を探していたようだが、まさかSRTの俺が追跡してるとはつゆ知らず、後頭部に攻撃を受けて瞬間意識を失い、そして目を覚ましたら揺れるトラックの中で縄に縛られて、搬送中である。

 

そりゃ、そんな反応にもなる。

 

 

「っ…!はは…まさかヴァルキューレにこんな嗅覚の良い奴が居たのか。油断した…」

 

「…ま、油断したのは確かだな」

 

「??…待て。お前、もしかして…男性…?」

 

「如何にも。ま、そういうこともある」

 

「……は、はは、これは驚いたな。驚きに驚きが重なって何がなんだかな…」

 

「…」

 

「いやー、コレでも私は逃げ足には自信があってね。前はヴァルキューレの奴らが10人集まってやっと捕まったんだ。ま、行き止まりに間違えて辿り着いた私のミスだから別に集まった人数なんてのは関係ないんだけど、まさかたった一人の追跡者かつ男性と来た。しかも頭の上にヘイローもあるじゃないか?はははっ!これは食わされたな!」

 

「随分とご機嫌だな」

 

「納得の行く捕まり方をしたからな。そういった意味では痛快に笑みも浮かぶさ」

 

「そうかい。ならこの思い出のまましばらくは務所でおとなしくしているんだな」

 

 

そして目的地となるヴァルキューレ警察学校に到着し、ターゲットを受け渡す。

 

その際にやはり俺が男性かつヘイロー持ちと言うことで大層驚かれた。

 

 

 

「正直、信憑性に欠けていました。生徒会からの入電とはいえ、連邦生徒会長直営の試作部隊が追跡に向かうため、情報の共有を即座に行えと指令を貰い、一周回って何者かのイタズラかと思いましたが…」

 

「ま、稼働自体は今回が初だけどな」

 

「なるほど…では、今回がぶっつけ?と、いうよりそのなんて事ない普通の格好は一体…?」

 

「ご想像の通り。かなりドタバタとな」

 

「く、苦労をかけてしまったか!」

 

「気にしなくて良い。構わないと乗り出したのは俺自身だ」

 

「そ、そうか。いや、感謝する!」

 

「あとはそちらに頼んで良いんだな?」

 

「ああ!もちろんだ!あらためて夜分に協力感謝するよ!ありがとう!」

 

 

 

俺は背を向けながらスッと手を振り、それから待っていたトラックに乗り込み、トランシーバに状況終了を知らせながらシラトリ区の中を抜ける。とりあえず急な出撃に疲れた。

 

 

 

「お疲れ様です、crescent1」

 

「こういう時はカナタで良いよ」

 

「そうですか?匙加減がわからないですね」

 

「そこは雰囲気で覚えな」

 

 

アサルトライフルを握りしめながらも助手席に凭れ掛かり、一度体を楽にする。

 

急な任務とはいえ請け負った現場役として先陣を務めているため、表面では淡々と振る舞っていながらも内心は不安を混ぜ合わせながら身を投じていた。故に張り詰めすぎて体が怠い。

 

今くらいなら力を抜いても許されるだろう。

 

そう思い、ほんの数分だけ力を抜こうと、背もたれに全てを預け__

 

 

 

「?」

 

 

 

ふと、鼻元がツンとした………気がする。

 

なんだ?

車の…芳香剤か??

 

いや、そんなのはこの車両に備えてない。

 

 

 

「どうしました?」

 

「………」

 

 

 

まもなくSRT特殊学園の入校口。

 

巧妙に隠されているためただの一般人にはわからない林道なのだが……

 

しかし、その近くで何か気配を感じる。

 

 

 

 

それに_____

 

どこか感じたことのある神秘だ。

 

 

 

 

「止まれ」

 

「え?」

 

 

終わったはずの緊張感を引き戻すように任務中の時と同じ声量で伝える。

 

その声色を理解したのか即座にブレーキを踏んで止まってくれた。

 

俺はシートベルトを外しながら彼女に待機の指示を出してトラックから降りる。

 

そして感じ取れる神秘の先まで走った。

 

 

 

「っ、これは…!」

 

 

 

ああ、やはりだ。

 

知っている神秘だ。

 

しかし、なんというか、これは__

 

 

 

 

重たくて。

 

 

苦しくて。

 

 

悲しくて。

 

 

怯えるがため隠逸に纏わせた『虚しい』香り。

 

 

 

しかし、それはしばらくの間だが__

 

制汗剤から発せられるメントールの幸せに包まれていた後味が重なり、少しだけ和らぐ。

 

 

___ああ、覚えているとも。

 

その人は誰なのかを。

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

見つけた。

 

 

やはり知っている。

 

 

星の様に幾つもトゲトゲとしたヘイロー。

 

 

水色の髪に、薄幸な雰囲気。

 

 

眼の色にハイライトはなく、しかし何処か強かそうに世界を覗き見る。

 

 

そのキヴォトス人は___

 

 

 

 

 

「まさか____ヒヨリ、か…??」

 

 

「ぁ……ぁ、カ、ナタ…に、ぃさん…?」

 

 

 

 

どうして?

 

ここに居るのか?

 

 

どうして?

 

この場に来たのか?

 

 

そんな疑問が駆け巡るも、傷だらけで倒れている見知った顔が。掠れた声で求める眼が。

 

虚しさの中にあろうともコチラを視界に入れたことでいつかの相席の時のように満たされる。

 

そんな風に顔を綻ばせていた。

 

 

 

「って!?おい!!?大丈夫なのか!?」

 

「ぁ、ぇ、えへ…へ……ココは、せいか、い、ですね…」

 

「何がだよ!?何があったんだ!?」

 

「げっほ…ぁ、ぁ、やはり…虚しくても…満たしを知るって…痛々しいです…よ…ね…」

 

「!」

 

「…ぅ、ぅぅ、…カナタ…さん……辛いです……助け…て…ください…」

 

「わかった!もう良い!喋っ……ッ!?」

 

 

 

なんだコレ!?

 

すごい熱じゃないか!!

 

キヴォトス人がここまで熱に浮かされるって相当の消耗が必要不可欠だろ!?

 

しかも粗布一枚だけで身を包んでいる??

 

なにが……あったんだ????

 

 

 

「おい!車を出せ!」

 

「え?え??」

 

「早く!重症者がいるんだよ!」

 

「あっ!はい!」

 

 

俺はヒヨリの足と腰に手を回して抱えながら一足でトラックの後方に飛び乗り、すぐさま出発するように声をかける。

 

彼女も必死な声と重症者の単語に反応してアクセルを踏み、SRT特殊学園に全速力で進む。

 

トランシーバからもトラックの停止を感知して状況確認のために声が響いてた。

 

だが、それよりも。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「この高熱…!っ、ヒヨリ!すまん!」

 

 

 

俺はヒヨリの体を包む粗布に手を掛ける。

 

そして、とある部分。

 

つまり胸元が見えるように捲った。

 

それだけで見える__

 

 

 

____傷だらけの爛れ切った、肌。

 

 

 

 

「っ!?!!?」

 

 

 

惨い……なんてことだ。

 

何故こんなにも????

 

 

俺は一瞬だけ、手を止めてしまう。

 

しかし高熱に苦しむヒヨリの呼吸が意識を無理やり戻させる。俺は手のひらをヒヨリの胸元に押しつけ、そして神秘を纏わせた手のひらをヒヨリの胸元にグッと押し込んだ。

 

神秘が熱く沸る。

 

 

 

「応急処置だが、熱なら浮かせる筈…!」

 

 

他者の熱を浮かせるのは初めてだ。

 

上手くできるか??

 

 

いや、できるかじゃない!

 

やってみせるんだよ!!

 

 

 

「この色彩(ちから)が反則行為に等しいなら子供一人くらい救ってみせろッッ!!」

 

 

 

琥珀色に光っていた頭のヘイローが濁る。

 

まるで肩代わりするように熱を浮かせる。

 

 

 

「ヒヨリ!呼吸を止めるなよ。酸素も神秘も回してコチラに委ねろ。俺が拾い上げる!」

 

「ぅ、ぅ、ふぅ…っ、ふぅ……ぅ、ぅ…」

 

 

荒い呼吸は少しずつ落ち着く。

 

手が焼けるほどの高熱は収まりゆく。

 

つまり、上手くいっている!

 

 

「ああほんとにっ!クズノハに感謝だな!神秘の巡回と接続を真っ先に教えてくれた彼女は間違いなく大預言者なんだよ!!」

 

 

 

トラックの積荷では琥珀色に光るヘイローによって神秘に光っていた。

 

俺は気づかなかったが夜の瞬きを見た仲間がそう言ってたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌朝。

 

 

 

 

「熱は一度落ち着きました。ただひどい栄養失調による衰弱。それから撃ち抜かれた後。それもかなり強力な攻撃です。()()()()()()()()()()()ため治療でなんとかなります。ですが長めの安静が必要不可欠です」

 

「そうですか…いえ、ありがとうございます。あとすみせんでした。夜分に急な怪我人を連れてきてしまいまして」

 

「いえいえ、コレもスタッフの仕事ですから。それにしても…月雪さん?もしかして寝ては…?」

 

「ええと、軽く1時間くらいは…?」

 

「任務明けですよね?大丈夫ですか?」

 

「教官から半休貰っています。夕方からは訓練ですけど、そこの彼女が……ヒヨリの容態が分かって少しは安心しました。改めて眠れそうです」

 

「そうですか……患者さんとはお知り合いなんですね?」

 

「ええ。同じ釜の飯……じゃないな。彼女の一方的な強欲だったけど、でもココに来るまで一度だけ背中を預けていた関係ですよ」

 

 

 

俺はベッドに視線を移す。

 

今のところ穏やかな寝息。

 

 

しかし病院服の姿に点滴を繋がれた状態。

 

別の形で心配が襲う。

 

 

でも、ここはSRT特殊学園だ。

 

スタッフも優秀である。

 

 

なら、大丈夫だろう。

 

 

 

「あとはよろしくお願いします」

 

「いえ、お疲れ様でした」

 

 

 

病室を退出する。

 

すると目の前に一人、仲間の姿。

 

 

 

「彼女はどうですか?」

 

「ウリエか。おはよう。とりあえず大丈夫。いつ目を覚ますかわからない状態だけどキヴォトス人なら回復も早いし、大丈夫だろ」

 

「そう。でも……少しだけ身勝手ね?」

 

「独断なのは理解している。でも手の届くはずの重症者を放置することがSRTのやり方だと言うなら俺は躊躇いなくすぐにこの組織を辞めてやるよ。誘ってくれた『彼女』には悪いけど」

 

「リーダーになったばかりで辞められるのは非常に困るわよ。でもその認識があるなら大丈夫ですね。まぁ…私が貴方の立場なら同じ事はしてたと思いますから…」

 

「ウリエのそういうところ優しいよな」

 

「もう!………しかし、それにしても」

 

 

 

ウリエは一度病室に視線を移す。

 

そして何処か困ったように顔を顰める。

 

 

 

「なんだか他人事には思えないわね…」

 

「ウリエが?ヒヨリとは初対面だろ?」

 

「そうですが、しかし……うーん…」

 

「?」

 

 

 

ウリエは首を傾げる。

 

 

「いや、気のせいですわよ…ね?ええ、だって私は全く知らない人ですが……いや、でも、なんだか他人事に思えないようなこの感覚……気持ち悪いですわ」

 

「その違和感がウリエ本人のモノじゃないとしたらそれ以上の違和感か?例えば…トリニティが彼女になんかやったとか?」

 

「どうでしょうか??陰湿な在校生徒が何かするなら分かりますが、トリニティ全体()何かするのは流石に大ごとなのでそれは無いかと思いますが…」

 

「まぁ……そうだよな。内部問題ならともかく外部問題は大ごとになるよな。てかゲヘナだけで手一杯か。あそこは」

 

「そうですわね。なのでそこら辺はお眠りの方が目覚めたら色々聞くしかありません」

 

「俺の方で違和感は聞いておくよ。一応アイツとは知り合いだし」

 

「そうですのね。あ、訓練のお時間!」

 

「もう9:00か。早いな」

 

「そうですわね。では!わたくしはそろそろ午前の訓練に参りますのでこの辺りで。リーダーはごゆっくりとお休みください。それとロールケーキは冷蔵庫の中にありますのでお好きに頂いてくださいね!」

 

「空腹にロールケーキは重たいなぁ…」

 

「そうですか?でしたら私が無理やりそのお口にロールケーキをぶちこんであげましょうか?嫌でも胃袋に収まりますわよ」

 

「別の意味で重たい拳になりそうだな…」

 

「でしたらこのCQCでついでに重たくぶち込んであげましょう。過去に聞き分けのない後輩ちゃんに何度もやってあげたことがあるので手慣れてますわ。とても楽しみですわね」

 

「それ後輩に悪影響を与えてないよな?」

 

「さて?あのゴリラっ子ならともかく紅茶好きのあの子がそんな事をする……いや、うーん?寧ろしてるのかな?」

 

「おい、ウリエ、おい」

 

 

ロールケーキ関連の後輩の行方が何かと気になってしまうが訓練のためにウリエと別れる。

 

そして俺は自室に去ろうとして、今一度ヒヨリが眠る病室に視線を移す。

 

 

 

「なんで彼女がココに?学園が近いのか?」

 

 

 

何故__の、言葉ばかりが体を巡る。

 

粗布一枚だけが彼女の身を纏っていた。

 

そしてひどい傷が痛めつけていた。

 

 

__怪我の量が異常である。

 

 

確かに銃社会な世界だけど、しかし喧嘩であそこまで痛めつけてしまうなんてことはキヴォトスではそうあり得ない。人だって死ぬまで喧嘩なんてしない。倫理観があるなら。

 

しかしあの怪我はそれ以上の倫理観が彼女を襲ったことになる。

 

そう決定付ける他あるまい。

 

 

 

「……」

 

 

しかし彼女が目覚めない限り、何も情報が得るもの無し。なら今は待つしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出るのは今回で二度目。

 

一度目はリーダーと出たことがある。

 

それはほんの2時間だけの世界でした。

 

しかしそれでも、何もかもが新鮮で、何もかも目新しくて、だから任務にも関わらず落ち着きなく歩いてたからリーダーに自重するよう咎められたりとしました。なのであまり外のモノに触れることは叶いませんでした。

 

でもまたあの世界に足を伸ばしたいと、心の奥に願っていて、願って…

 

それで、思わず口に出て…

 

 

 

__マダムからの指示だ。今後は表舞台で活動する機会が増える。その時に単独行動も増えるだろう。そのために遠征訓練にて外を慣れてもらう必要がある。期限は5日だ。

 

 

叶いました。それも1回目の時よりも何十倍の時間も貰えたんです。こんな押し込まれた虚しい場所でも小さな願いは叶う。それは死んでしまった目の色もキラキラとするほどに。

 

そして私は外の地図を貰い、少量の遠征費と遠出のための荷物、訓練用のライフルを抱えるとスタート地点となったカタコンベからひたすら目的地を目指しました。

 

睡眠時間を4時間だけに三日間も歩き続けるのは大変でしたが、それでも目まぐるしく変わる外の世界は新鮮で私を飽きさせないから、私の人生は虚しくとも今だけは苦しくない。

 

しかし地下に戻ってしまえばいつまた外に出れるかも分からない。だから目に入る全ての光景を記憶に留めようと大事に仕舞う。

 

でもせめて、何か形が残って欲しいと考えた私はこっそりと雑誌を数枚だけ購入して、食費は最低限に削りました。

 

低価格で購入できる生のもやしは調理もせずそのままだと味気無いものですが、一袋で意外と量があるので、お刺身用として無料で貰える醤油を幾つかポケットに忍ばせ、そしてもやしに垂らしては味付けて食べる。それはアリウスの私からしたら大層に贅沢でした。

 

あの場所ではガサガサのパンに水を少しでも染み込ませて膨らませる。そんな虚しい食事ばかりでした。しかし採れたてのもやしなら私にとってそれでも充分に贅沢なのでコレは嫌いじゃなかった。

 

 

でもひとつ、バチが当たりました。

 

 

夜、睡眠のために数十分ほど公園の多機能トイレに籠っていましたが、何処かの不良達に狙われてしまったのか扉越しに脅されたりと眠りから叩き起こされてしまう。

 

中央突破で切り抜けれたのは良いですが、半分近く持ち物を置いてしまったことに気づかない私はそのまま指定されたチェックポイントに置いてある機械に触れ、暗号をカタカタと打ち込み、遠征完了をアリウスに知らせる。

 

それから残りの遠征費を使って快速線に乗り込み、トリニティ自治区に戻る。

 

 

しかしお腹が空いた。

 

そして___もやしがない。

 

 

絶望しました。

 

やはり人生は虚しいことばかりなんですね。

 

 

トリニティ到着まであと4時間。

 

それまでこの空腹に耐える。

 

 

別に耐えることは慣れています。

 

空腹の一つや二つ。

 

 

そんなの何年も前から経験している。

 

自分の爪や皮膚を齧ってまで満たした。

 

 

そうやって幼少期から食い繋いだ。

 

だから程度なら空腹は、大丈夫___

 

 

 

「百鬼夜行の駅弁は素晴らしいな!」

 

 

 

後ろの席から聞こえてきた声。

 

そして味わい慣れてきたお醤油の香ばしさ。

 

なので全然っ、大丈夫では無くなりました。

 

お腹が空しさと、虚しさを訴える。

 

それでも私は空腹に堪えながらも、せめて駅弁とやらを一眼見ようと思い、後部座席から顔を乗り出した。

 

しかし後部座席から露骨に飛び出ていた私はその人、もしくはその『お兄さん』に見つかってしまった。

 

けれど駅弁の彩り豊かな光景に虚しさを覚えている空腹が耐えれず、心がいつものようにうわーん!と泣いてしまった。迷惑客ですねぇ。虚しいですねぇ。でも空腹はもっと(むなし)いですよ。

 

 

そんなお兄さんは私の現状に対して困ったようにため息を吐き…

 

でも、最終的に苦笑いしながら__

 

 

 

「駅弁は残してあげる。そのボディーシートも使い切って良いから。一度落ち着いて来いよ」

 

 

 

私はその言葉に甘えるようにお兄さんからの施しを頂いた。節約なんか考えず贅沢に体を拭き回し、制汗剤のメントールが包み込む。

 

そして戻ってくると駅弁は言葉通りに手付かずで残してあり、更に車内販売の自販機からお茶まで買ってきてくれたりと、それはもう至れり尽くせり。

 

ココまで来ると私はもう、恥も外聞も忘れ__

 

 

 

「あのっ、良ければ一緒に食べませんか?」

 

 

 

どんな食事でも誰かと食べれば満たされる。

 

胃袋ではない。心も幾分か満たされる。

 

だから私は駅弁の蓋を閉じながら、お兄さんにそう提案する。

 

 

……たった少しだけの会話だ。

 

今日、出会ったばかりの関係。

 

でも、何故か__この人は、と思う。

 

 

 

それはそう。

 

お兄さんは私達のリーダーに…

 

 

__サオリ姉さんに、とても似ていたから。

 

 

生きている世界は違うけど、でも先駆者として背中を見せてくれる姿が重なっている。

 

そんな雰囲気があるから、私はいつもの様に甘えてしまう。

 

この人なら__許される、と確信があって。

 

 

そしてお兄さんは一呼吸分の沈黙後、椅子を回して向かい合わせました。その表情に変化はなくとも雰囲気は「仕方ないな」とその言葉に頷いてくれた優しさを見せてくれる。

 

やはりサオリ姉さんに似ている。

 

それから私は兄さんと共に昼ごはんを頂き、ついでに海老カツサンドも分けて貰ったりと何から何まで全て甘えてしまう。

 

 

温かくて、暖かくて、美味しい。

 

 

久しぶりに心の底から満たされた。

 

いまなら幸せに眠れる。

 

 

それでもあと数時間もすればトリニティに着いてしまうから、私はこの時間を噛み締めるように満腹のまま寝息を立てた。

 

 

ただ途中、前車両から不良が暴れ出した。

 

私はいち早く目覚めるも、お兄さんは引っ越し作業で疲れていたのか目覚める気配は無い。

 

体を揺すって起こしても良かったが、流れ弾を防ぐためにシートを倒すべきと考えて、でもシートの倒し方がわからないので色々と手探りを行い、結果的に寝込みを襲うような形でお兄さんを馬乗りになってしまう。なにせ知識がない故に重量で後方に倒れるかなって思っていたから。するとお兄さんは違和感に目覚める。

 

お兄さんは馬乗りにされている状況に驚いていましたが説明するとすぐに納得してシートを後方に倒しました。飲み込みが早いのは嬉しいですが目に見えて慌てることもなく淡々と理解を進めるお兄さん。うぅっ、そうですか。まあこんな美人でもなんでもない虚しい私なんかに乗られても嬉しくないですよね。それは仕方ないですよねぇ。でも代わりに頭をポンポンしてくれました。えへへ。

 

 

それから流れ弾に当たった小さな車長さんを助けるとお兄さんは通路に飛び出し、前車両から私達の車両にやってきた不良を対面にヘイトを集める。そして私は隙だらけの不良の額に一撃お見舞いしてやりました。昼寝の邪魔は流石に重罪ですから。

 

すると兄さんはその隙に足裏で不良の顎を捉えると天井を大の字に凹ませてしまう。

 

前方に蹴飛ばすよりも電車の天井を壁代わりに打ち付けることで別の車両に逃さない判断に私は関心していました。そして天井から落ちてきた不良をクルリと掴んで「裏蓮華ぇ!」と叫びながら叩き潰しました。なかなかにエグい白兵戦ですねぇ。でも確実な無力化のため躊躇いが無いのは高得点です。

 

 

「援護、ナイスだ___ヒヨリ」

 

「ぁ」

 

 

 

 

 

 

__よくやった、ヒヨリ。

 

 

 

 

 

やはり、サオリ姉さんと重なります。

 

あの背中は__何もかもが、同じだ。

 

淡々としている強さを見せるけど。

 

でもそこに感じられる優しさは等しい。

 

その安心感が私を大切にしてくれる。

 

 

 

それからお兄さんによって鎮圧された不良は次駅で受け渡され、私達は無傷の別車両に案内されると引き続き快速線に揺らされる。

 

そしてお兄さんはシラトリ区で降りる前に自販機から沢山のお茶を買ってもらいました。

 

優しさの限りに至れり尽くせりです。

 

 

 

 

「遠征頑張れよ、ヒヨリ」

 

「__!!」

 

 

 

その背中を見せるお兄さんに私は何かを言いそうになった。だって何故か__サオリ姉さんと重なっていて、そして、それがサオリ姉さんの姿に見え__

 

 

 

「ッ__」

 

 

それ以上の思考を止める。

 

虚しさの中に飲み込んでしまう。

 

そうしなければならない。

 

だって私はそちら側ではない。

 

お兄さんをコチラに巻き込んではならない。

 

 

「!」

 

 

手を振ってくれる、お兄さん。

 

私は眼を見開く。

 

でも私も精一杯手を振って見送る。

 

 

ああ__気のせいなんだ。

 

いまのはナニカの間違いだ。

 

 

満腹を知りすぎて、この生の本質となる虚しさを忘れそうになっていただけ。

 

戻ったら__また元通りだ。

あの場所で虚しいだけを知る。

 

だから、今だけを覚えておく。

 

コレで良い。

コレで良いんだ。

 

お兄さんの知る槌永ヒヨリは、満腹になった腹でメントールの香りに包まれながら涎を垂らして眠りコケる、そんな人。

 

 

コチラ側に招けない。

 

だからこそ……大事にしてもらおう。

 

時が流れて、いずれ忘れられても、でもサオリ姉さんのように優しくしてくれたお兄さんの記憶の最後に刻まれた姿に、昔からそんな女の子がいたんだと、そんなビジョンとして残されて欲しいから。

 

 

今だけは。

 

虚しくなんかありませんでした__

 

 

 

 

 

 

「___その神秘は何処からですか??」

 

「ぇ…?」

 

「答えなさい。その理解し得ない神秘は何処から拾ってきたのですか?」

 

「マ、マダム…?」

 

 

 

普段、リーダー格を除いて私のような雑兵に姿を見せないマダムでしたが、遠征を終えたある日、私はアリウスを統治するマダムに呼び出されて、そして問われました。

 

 

 

「全て見ていましたよ、槌永ヒヨリ」

 

「!?」

 

 

 

ギロっと、目が蠢く。

 

私を徹底的に覗き見る。

 

 

 

「スクワッドのリーダーは愚かにも、希う貴方のために遠征訓練を名目に外の世界に出してあげた事くらい私はわかっています。それは上から見ずとも眼を見れば希望の色くらい大人の私にはわかる。愚かな子供ですね」

 

「っ!!??」

 

「ですが私が聞きたい話はそのことではありません___ええ、ソレは不可解でした。貴方の乗り込んだ鉄道は監視を遮る不思議な力が働いていた。何故鉄道如きであのような技術があるのか不可解かつ不愉快極まりない。しかし私はそのことを問いたく呼んだのではない。子供は素直に答えなさい__」

 

 

 

そして、私の両隣にいたアリウス兵が銃口を向けて脅迫する。私は震えが止まらない。

 

 

「ほんの僅かに纏う、不可解極まりない神秘は一体何処から拾い上げたのですか?まるで私の全てを否定するような形。それも理想の果てに似過ぎている。ああ、まるで…」

 

 

 

___【色彩】の様な不条理ではないか。

 

 

 

 

「答えなさい」

 

 

「ぁ__ぁ__」

 

 

 

 

それから、全てを答えた。

 

そこにあった数時間の出来事。

 

駅弁も、ボディーシートも、緑茶も。

 

一時的に共闘した事も。

 

そのために___甘えていたことも。

 

 

 

 

「虚しさを忘れたのですか…?」

 

「ぁ__ぅ__」

 

 

 

 

 

希望を抱いたことも。

 

安心を知ったことも。

 

満たしを知ったことも。

 

飢えを怖がったことも。

 

何もかもを、私は虚しさのまま告げる。

 

 

 

__虚しさが元に戻る感覚。

 

__希望も幸せもまやかしになる幻覚。

 

 

 

 

 

「アリウスの意味を忘れるな!」

「自覚が足りないみたいだな!」

「なんのための準備期間だァ!」

 

 

「うぎぃぃいい!ァあああ!!!」

 

 

 

マダムからの刑罰だ。

 

私に刑罰を行うアリウス兵の言う通り、私は意味を忘れてた。ここに生まれた決まり事を。そうなってしまった狂い事を。

 

ただ虚しいだけの現実を、外の世界に希望と光を見てしまい、誠の意味を忘れそうになっていた愚か者はアリウスでは生きていけない。そしてアリウス以外でも生きていけない。私はこの場所でしか得られない。いや得ることすら許されない。トリニティのような光なんて何処にもないのだ。

 

そうやって鎖に縛られた私はアリウス兵から多くの鉛打を撃ち込まれる。死にはしない。でも痛みを知らしめやすいようにゴム弾で皮膚を抉る。もういっそ実弾を使われることで神経を焼いて気絶したい。でも虚しさの中にそんな贅沢は叶わない。私は何百発も撃ち込まれる。

 

 

 

 

「ぁ____」

 

 

 

 

 

 

ああ__ここは地獄だ。

 

 

 

___理想すら抱けない世界なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

されど…

 

激しくなる心臓の音が__思い出す。

 

 

あの人の事を__肌越し思い浮かべる。

 

 

それは電車内での__追憶。

 

彼を起こすため馬乗りになり、シートを倒す時に彼を上から押し倒す形で触れ合って、それで感じ取った、互いの心臓の音。

 

スナイパーだからこそ耳は良い。

もちろん感覚も鍛えられている。

薄暗い世界だからこそ発達する。

 

 

だから、私は__それ以上を知った。

 

 

 

そこにある。

 

その中にある。

 

 

神秘に込められた表面を。

 

理解し得ない彼の数々を。

 

 

 

虚しいからこそ触れた時に伝わる意味を。

 

暖かくて、温かくて、優しい___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

 

 

半刻前の満たしが、まるで嘘の様な逆転。

 

虚しさを忘れた私はアリウス兵から重たい刑罰を受け続け、そして渇きを思い出させる様に銃弾を撃ち込まれたあと、下着を残して全ての衣類を剥がされると雑に引きずられる。その途中で何度も踏み躙られた泥水に爛れた肌は擦られて、乱雑に髪も引き摺られて、それから真っ暗で何もない牢獄の中に投げ入れられてしまう。

 

もう、あの電車の中にあったシートの柔らかさすら忘れてしまった。

 

 

緑茶の味も。

 

駅弁の彩りも。

 

全て、全て、全て、全てが、消え去った。

 

 

 

「ぅ_____ァ___」

 

 

 

 

せめて、思い出だけでも、と思ってた。

 

 

そんな贅沢を記憶に刻もうとしていた。

 

 

だが噛み締めたはずの時間も虚空に消える。

 

 

私は希望なんてないことを知った。

 

 

私は拠り所なんてないことを知った。

 

 

私は満たされる意味なんて無いと知った。

 

 

ここが全て。

 

 

虚しさが全て。

 

 

憎悪が救い。

 

 

憎しみが原動力。

 

 

冷たさでしか生きられない。

 

 

それしか…

 

 

それしか…

 

 

それだけしか…

 

 

もう、それだけが…

 

 

槌永ヒヨリに許されない虚しさの___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

忘れたく無い。

 

 

 

外の暖かさを。

 

 

 

ココには無い温かさを。

 

 

 

私にだってあるはずの満たしを__

 

 

 

 

 

 

 

「っ……お兄ぃ…ざ、ん…」

 

 

 

 

 

 

ほんの数時間程度の出会いだ。

 

ほんの少しだけの、香ばしい記憶だ。

 

一日に対して約1割程度の交流だ。

 

 

 

「ぐ…ぅ……ぅぅ…ぐ…」

 

 

 

 

でも、私は、案外……図太くて。

 

あと、何気に、しぶといらしい。

 

 

虚しさだけだと思っていた心の中にまだ一滴分の満たしが残っていたから、槌永ヒヨリが感じていた幸せの【追憶】を思い出させる。

 

 

 

 

「狙、ら……わ、……れ……る…」

 

 

 

 

 

危ない___お兄さんが、危ない。

 

マダムが___激しく嫌悪している。

 

 

その理由はわからない。

 

虚しさを忘れたアリウス兵に対する刑罰なんてよくある話だから、私程度の人間がこの場所で朽ちようとマダムにとって関係ない。

 

ただ純粋に、その神秘に嫌悪する。

 

お兄さんに対する存在そのものに対して。

 

そう感じられる。

 

 

 

 

__ああ、私の意味を否定する存在。

 

__なんてご都合主義に塗れた願い。

 

__そのような責任に力など無い…!

 

 

 

 

私の体にほんの僅か纏う、神秘に。

 

希望に『浮かされた』無条件な施しに。

 

マダムは酷く、酷く、嫌悪している。

 

 

 

 

 

 

「私のミスだった」

 

 

「リ…ィ……ダ…ァ…?」

 

 

「この選択は、誤りだったな…」

 

 

「サ、オ…リ……ねぇ、さ…ん?」

 

 

「ヒヨ___」

 

 

「ッッ!!!」

 

 

 

 

 

そして私は残されている限りありったけの力を放って飛び出した。

 

 

私達のリーダーに

 

スクアッドのサオリ姉さんを突き飛ばす。

 

 

 

そして後ろから銃弾を浴びる。

 

__ひどい痛みだ。

 

 

 

 

でも、私は走っていた。

 

虚しさが足を止めないでいた。

 

だから今も枯れきった喉を震わせる。

 

足から血が流れても動く。

 

激痛が止まれと訴える…が。

 

でも、芽生えた希望が。

 

世界の『反抗心』が槌永ヒヨリを生かす。

 

震えてばかりだったわたしなのに。

 

今はこんなにも光を求めている。

 

コレも全部___外を知ったから。

 

 

 

「ぅぐぅぁぁぁァァァァア!!!!」

 

 

 

死にそうになる。

 

死ぬかもしれない。

 

死んでもおかしく無い。

 

でも足は止めない。

 

途中、落ちていた粗布を拾う。

 

そしてカタコンベに潜り込む。

 

必死にルートを撹乱する。

 

短縮させ、撹乱させ、夜の街に躍り出る。

 

トリニティ自治区を走った。

 

装備も何も持たず、粗布だけを纏う。

 

アリウス兵が後ろから追ってくる。

 

でも、目立てないが故に、追跡は甘い。

 

 

 

「ヒヨリっ!」

 

 

「サオリ…っ!」

 

 

 

ダンダンダン!!と銃声が聞こえる。

 

何発か、()()()()()に当たった。

 

死なないところに__当ててくれた。

 

それでもギリギリの意識だ。

 

どれだけの時間が経ったのか…

 

 

 

 

ああ___私は何処に向かう。

 

 

 

私の行先は何処なのだろうか。

 

 

 

何時間も走る足に感覚はない。

 

 

 

空の朝明け空に揺さぶられる暇もない。

 

 

 

ああ、もう、崩れそうだ。

 

 

 

槌永ヒヨリの反抗心はここまでの__

 

 

 

 

 

 

 

 

『倒れないで!朽ちないで!砕け散らないで!どうか起きて!眼を開けて!あの人なら絶対に拾い上げてくれるから!どうか!どうか!!』

 

 

 

 

 

 

聞いたことない__男の人の声だ。

 

沈み切った【後悔】の色。

 

でも、その声は琥珀色に澄んでいる。

 

だから意識が途絶えそうになりそうな私はグッと歯を食いしばって、意識を覚ます。

 

 

 

__拾い上げてくれる。

 

あの人なら__拾い上げてくれる、と。

 

 

 

 

 

え、えへへ、そうなんだ…

そうなんですねぇ。けれど…

 

 

これは都合の良い幻聴なんだ。

人頼みの声に任せた幻想なんだ。

 

だって頭が熱い。

いや、体も熱い。

 

それほどに浮かされている。

 

私はそれほどの熱に浮かされている。

 

 

ああ、それもそうだ。

 

長いこと、牢屋に押し込まれた。

 

一粒程度の光だけが差し込む牢屋。

 

虚しさを取り戻す為に何十日も居た。

 

いや、もっとだろうか。

 

覚えていない……

いや、思い出したくない。

 

それでも気を狂わせずにいたのは__

 

 

 

虚しさに対する__諦めと。

 

虚しさに対する__願いが。

 

 

 

槌永ヒヨリを交互に生かしてくれたから。

 

 

 

 

でも…

 

 

 

理想と希望だけで限界を誤魔化せない。

 

走り疲れた足はもう動かない。

 

途中、足の肉から変な音もした。

 

千切れたの…かな?

 

それとも砕け散るのかな?

 

 

それより、ここは何処?

もう、わからない。

 

 

やはり虚しいだけだったのかな。

やはり苦しいだけが救いだったのかな。

 

 

 

そうなのかもしれない。

 

ああ、私は身勝手に終わった。

 

 

でも何故かコレまで浮き出なかった反抗心に身を任せてアリウスを飛び出せたし、押し込まれていた世界から浮き出て、粗布のままでも光の下を走っていた。

 

弱々しかった私にしては上出来だ。

 

 

 

でもコレで終わりですねぇ。

 

サオリ姉さんには、迷惑をかけたなぁ。

 

家族は大丈夫だろうか?

 

皆は私の身勝手に苦しめられないだろうか?

 

 

 

 

 

「ごめん…な、さい…」

 

 

 

 

 

希望を求めて、ごめんなさい。

 

世界を求めて、ごめんなさい。

 

願いを求めて、ごめんなさい。

 

 

 

私、は…

 

槌永ヒヨリ、は…

 

 

 

 

でも…後悔は、無いかな。

 

 

 

 

「うぇ、へへ…こう…いう…おわり…かた、なら……ま、だ…きぼ…う、を……さがそ…うとし…た……わた、し…の、まま…で……死…んで…いける……か、ら……」

 

 

 

 

 

虚しさのまま死なずに__そのまま逝ける。

 

多分、それが__

 

私なんかでも贅沢な人生なんだって__

 

光を求めれた槌永ヒヨリのままで__

 

砕け散って__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……ヒヨリ、か…??」

 

 

 

 

 

 

その声は___後悔を拾い上げてくれた。

 

 

 

 

つづく

 






プロットとか何一つ存在しないその場その場で夜のテンションに任せて書き殴ると急にヒロイン化しちゃった中等部一年生のヒヨリちゃん本当にかわいいね。実はそのせいで鉛筆がノッてもう3話分も書いちゃったんだ。11時間も画面に張り付いてんだよ。眠いよ。寝る。


じゃあな!!
また明日!!
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