「貴様……」
コツ、コツ、コツ、と、歩みが響く。
それは子供の足取りに聞こえない音。
しかし、その者はまだ未成年な子供。
けれど__
その重みは知っているからこそ。
踏み締めることが出来る__
「ベアトリーチェ」
高性能なアサルトライフルをその背に揺らしながらアリウス自治区の奥までやって来た、とある組織の一期生のリーダー。
一人の生徒として着飾る制服には『SRT』の三文字が刻まれている、誇り高い証。
しかしその腕には【KANATA】という名前が書かれた腕章は巻いて無い。なぜなら明日を求める少女のために託したから。でもそれで良い。何故なら明日それを返してもらうから。
その予定は彼にとって間違いない。
何故ならそれらを得るまで限りある姿で『存在証明』を繰り返し、この瞬間まで『正当化』を続けてたこの箱舟に浮き出る【規格外】の成り代わりだから。
その先駆者___月雪カナタは、バシリカに腰を添えていたベアトリーチェの名を吐いた。
「……ココまでの、兵は?」
「全員、倒したよ。敵ではなかった」
目立った傷は無い。
無論、ある程度の被弾はある。
しかし気に留めない。
月雪カナタは淡々と告げながらアサルトライフルをカチャリと鳴らす。
__お前を撃つ分の弾は充分にある。
「何も知らない子供達だったから、俺の敵にならない」
「いえ、アレは子供ではありません。大人のための舞台装置です。現に貴方はその舞台装置を踏み倒してココまでやってきた。それは大人だからこそ可能とする___」
「驕るな_____ベアトリーチェ」
「…」
頭に浮かぶ砕け散ったヘイローは錆色と琥珀色を混ぜ合わせながら光る。
まるで月雪カナタの情動に感応するが如く、歪な形は円を描き、まだコレがヘイローであることを証明する様にゆらりと回る。
「子供は舞台装置なんかじゃない。子供は大人の過程にある未来。残りを寂れていくだけの大人と違った可能性の塊なんだ。むしろ俺達が子供達の舞台装置。それが役割だ。そしてベアトリーチェ。それはテメェも同じ事だ」
「外から来ただけの紛い物な魂こそ驕り高ぶるな月雪カナタ。子供は大人のために捕食され、すり潰されるべき存在。何も知らないが故に染まりやすい生き物。本当の楽園も知らないがために容易く注がれやすい泥人形はその形を崩せば何にでもなれる無知の象徴に過ぎん」
「だからこそどんな願いにでもなれることを大人が教えてあげるんだよ。それが先駆者と言う姿だろ。お前は背中を見せないのか…!」
「必要ありません。子供に願い与える必要は何一つ無い。ただ大人のために搾取されるだけで良い。ココでは特に何もかも虚しいだけなのだから明日すらも気にする意味はない。何も無いのなら何も無くて構わない。ただある限りの憎悪や軽蔑を手段にしていれば良い。ならばそこに子供である必要など全く無い。全てはただ虚しいだけ。全てを知り得る大人に捕食されて行けば良いのだ月雪カナタ。
子供のフリをした見窄らしい器の___」
パンっ!!
「…」
見えない速さで構え、その頬を通り過ぎる。
訓練の成果は感情すらも加速させた。
月雪カナタはその先にある真実を止める。
もう、交じることの無い引き金として。
「もう良い黙れ。その背中に少しでも期待した俺が馬鹿だった。お前はひたすらに『俺』の敵でしかない。何も分からない子供のために大人をできない大人などただ傲慢に極まった大人のフリをした『人間』の出来損ないだったな…!」
腰から鎖を取り出す。
それは『万力鎖』と呼ばれる武器。
遠心力を利用して戦う古武術。
破壊も、拘束も、可能とする万能武器。
それはまだ、月雪カナタがサイレンサー付きのハンドガンでしか戦えず、同時に火力不足に悩まされた際に手に入れた武器。
しかし身長が伸び、神秘の扱い方は誰よりも上手くなった今では素手による白兵戦で多数を相手できる様になっためこの万力鎖もめっきり出番を失う。
しかしその破壊力は今も健在。
人を相手に使えないだけで装甲を破壊する分にはいまも頼りになる唯一の高火力武器。
それは、あの大人を屠るに充分である。
「棒と棒を支え合うから『人』であり、役割の一つを被れるから『大』になるっ!それを新たなる『子』のために『人』の支え方を『共』に学ばせれるから『大人』に意味がある!なのにそれを放棄した人間が大人であるものか!!」
ダンっ!ダンっ!と数発の銃撃。
そして万力鎖を回転させながら接近する。
ベアトリーチェは口元に持っていた扇子を閉じると一発だけ弾き飛ばし、もう一発は防げずに肩に刺さった。
ベアトリーチェは痛覚に体を強張らせながら何かを体に念じる。
「大人を果たせない【責任】に対して【責任】を持って俺が殺してやる!」
「子供の形をした紛い物が大人を下すことなど不可能です!」
「ならばそれを正当化してやる!」
「独りよがりな子供のやり方に何ができる!」
ベアトリーチェは体の至る部分をぐちゃぐちゃと変形させる。まるで植物人間のように腰から下は根っこの様に生やし、腕はしなやかに枝を伸ばし、背中からも枝のようなモノが伸び、頭は気味の悪い白い花弁が先開く。
それはまさに人外という言葉が当て嵌まる。
こんな者が大人をしていたのかと月雪カナタは顔を顰めた。
あんなのがこの世界の支配者??
無知と無垢と負の感情を利用して食い物にしてきた支配者??
成り代わった俺なんかよりも人の形をした紛い物ではないか。
「消し飛べっ!」
「!」
回転する万力鎖の鎖部分を一部分だけ神秘で浮かせた月雪カナタ。これまで一方向に力が流れていた万力鎖であるが、それが急に静止しすることで力の方向がグッと変わり、それは鞭のようにしなる剛速の一撃としてベアトリーチェの体を狙う。ベアトリーチェは腕を前に形成して防ごうとする。剛撃なら柔で防ぐ。
そう考えて____グチャリと音がした。
「(このっ、紛い物っ!?)」
ベアトリーチェは攻撃を受け止める際に腕を柔らかくし、万力鎖の剛に対して柔で絶とうしていたのだがしかし、先端に付いている鉄槌の部分は月雪カナタの神秘によってとある属性に変換していた。
それは柔らかに攻撃を受け止める筈だったベアトリーチェの弾力装甲。
しかし月雪カナタの『振動属性』によって抉り取られてしまう。
それはまるで温められたナイフがチーズを溶かすように、いとも容易くベアトリーチェの防御を突破していた。
「!」
それならと、ベアトリーチェは肉を切らせて骨を断とうと言う随分と人間らしい思考で一部を犠牲にしながら、もう一つの腕で月雪カナタを狙う。
空中なら逃げ場はない。
損失した体はまた再生すれば良いと意識を切り替えながら、空中に投げ出されたその胴体を荊棘のような鋭さで貫こうとして…
月雪カナタは急にその場から身を退いた。
「!?」
ベアトリーチェはいくつもあるその目を信じられないように見開く。
この世の理に従って生きているのなら人間である彼は重力に従って落ちるしかない。
しかし今のは何なのか?
それは万力鎖にあった。
ベアトリーチェは月雪カナタであるからこそ可能とする新価値を見誤っていた。
回転する万力鎖。
それを然るべき方向、もしくはベアトリーチェの攻撃から回避したい方向に鉄槌を放ち、そして月雪カナタ自身を神秘によって一瞬だけ浮かせてしまえば、無重力状態にある体を万力鎖の進行方向に引っ張ってもらうことで空中回避を可能とする。
「くたばれ!化け物っ!」
「なにっ!?」
月雪カナタは万力鎖をヘリコプターの羽のように頭の上で回すと、もう片方の腕でアサルトライフルを脇下に構えてダダダっとベアトリーチェに射撃する。
そのままアサルトライフルに流し込まれた振動属性の攻撃は弾力装甲化していたベアトリーチェの肉体を次々と抉り、そして頭に幾つもある眼を貫いた。
「がぁぁぁあ!!!」
倍加した属性によって激痛が走る。
これまであまり受けたことのない痛みだ。
よくありげな貫通や爆発の攻撃ではない。
まさかピンポイントで特攻を打ち込んでくるとは流石にベアトリーチェも想定できず、皆無な防御力はSRTの高性能なアサルトライフルによって撃ち抜かれてしまう。
カチカチ、と、弾切れの音だ。
「ちっ、弾切れか…」
月雪カナタは弾切れのアサルトライフルに舌打ちしながら万力鎖に流す神秘を解除する。
浮上力を失ったヘリコプターのようにゆっくりとその場に落下した。
「このっ!紛い物がァっ!搾取されるはずの子供の姿で正当化を行う反則行為がァ!大人を下すというのか貴様ァァ!!」
「!」
ベアトリーチェはおどろおどろしいエネルギーを頭上に形成すると、それは月雪カナタに撃ち放った。この世の憎悪を込めたような一撃。
しかし…
「だからなんだと言うんだ」
「!?」
月雪カナタはそれを手のひらで受け止めた。
直撃寸前に神秘で力で浮かせたのだ。
「なっ、ァ……!!!???」
驚くベアトリーチェ。
濃縮した憎悪のエネルギーまさか片手で受け止めてしまうとは思わなかったからだ。
「百鬼夜行では
そのエネルギーを地面に叩きつける。
そして、足の裏で踏みつけて破壊した。
「箱舟の中でこうして無くなれば良い!」
「貴様ァァ!!月雪カナタァァァア!!!」
過去に戦ったことのある__栞の怪異。
月雪カナタにとって強く残る記憶。
寂れきった悪意の目次をこの目で見た。
しかしその時の月雪カナタはまだ理不尽を受け止める力も無く、同時に隣にいた小さな
しかし、今はもう違う。
この身体はあの頃よりも強くなった。
月雪カナタはキヴォトスの理不尽に打ち勝てるくらいに成長した。
だからこの程度の憎悪__手のひらで浮かせるに難しくない。
この足で踏みつけて乗り越える。
それはベアトリーチェにとってそれは屈辱のほかならない所業だった。
「しかし、紛い物、か…」
回転する万力鎖を腕に巻きつけるとそれを一度脇に収めてしまうと次にアサルトライフルの弾倉を腰から引っ張り出してリロードする。
「俺は確かに、お前が存じている残りの紛い物であり、歪に極まったら成り代わりであり、本来キヴォトスにありもしない贋作だ。それはまごうことなき事実なんだろう」
「ああ!そうだ!貴様はあまりにも都合の良すぎる注がれた魂!そして偶然に与えられた大人のプロセスを砕け散った程度の器に注ぎきってしまう愚か者でもある!」
「大人じゃない大人が他者を判別するな!子供に寄り添うことすら出来ない愚か者はお前だろ!先駆者にもならないお前が子供のように俺の都合を欲しがるんじゃねぇ!テメェそれは心底気持ち悪いんだよ!」
「ふざけるな!ふざけるなァ!ならば!何故お前がそうであるというのだぁ!!?」
額から放たれる真っ赤な光線。
歪に伸びる、それを__
月雪カナタはその手で掴み取った。
そして腕を横に振るい__
ベアトリーチェの光線を千切り獲った。
「アアアア!!まただァ!まだたァ!またそれをするのかぁ!!カナタァァ!!」
また、
非常識を常識とする身技。
ベアトリーチェはそれができる反則行為の塊に対し、ひどく怒り狂う。
そこには理性を処理しきれない化け物が残っているだけ。
月雪カナタは冷めたような目で大人になれない化け物を一蹴する。
憎悪を帯びたはずの光線は手のひらで握りつぶされて消えてしまった。
「何故だっ…何故っ!お前が…っ!!」
「本当にわからないんだな、お前…」
既に哀れむような目でベアトリーチェを見る月雪カナタ。
彼にとってはあまりにも愚かしい限りの価値観であり、それはもう理解の対象にもならない。
「子供の涙を共有したことあるか?」
「何を言っている…!!」
「俺はこの眼で同じ涙を流したよ。いまも頬を伝って流れた温度を覚えている。一日たりとも忘れもしないんだよ。それは俺も…このアリウスのように痛くて、悲しくて、虚しかったから…」
「子供は搾取されるべき生き物…!流れゆく涙に価値などない!溢れる痛みなど結局は枯れ切った荒地にこぼれ落ち、忘れられる!だから大人が本当の意味を教えるのです!地獄の中で抱くものなど存在しない… 結局は全てただ虚しいだけが真実にある!子供はそれを知り、それに生きるべき…!」
「それが、ベアトリーチェの主張か」
「主張ではない!この世界の真実だ!」
「でもお前…何も与えられなかったな?この『俺』と違ってさ」
「だから忌々しいのです!何故お前のような贋作がこの世界に於ける【色彩】として扱われる存在になっているのか!?何故っ!大人の私ではなくお前のような大人が選ばれるのですか!?恐怖に反転せず!反転しても成り果てず!月雪カナタとしての正当化が今もこれからも健在が約束されていると!!何故こんなに【安心】を抱かせるのですか!!?」
「それが本来あるべき大人の役割なんだよッ!!」
「!!」
踏み出した右足が、情動に比例してアリウスの地面を砕き、床のヒビがベアトリーチェの足元まで地割れのように伸びる。
ベアトリーチェは裂き割れた床に怯み、そして今一度カナタを見た。
「!」
ベアトリーチェは目を見開く。
その後ろに___子供よりも、大きな姿。
琥珀色に光るヘイローによって見え辛いため姿はハッキリとわからない。
しかし。
そこに立っている者が何なのかは分かる。
「なっ……」
___人間の大人だ。
月雪カナタに寄り添う、子供の味方だ。
それは、拾い上げた責任の形をしていた。
「これが、箱舟の___解、とでも?」
純粋な戦闘力なら、月雪カナタが上だ。
ベアトリーチェを容易く崩してしまえる。
しかし世界の本質を知った理想と今あるべきとする構想なら、アリウスをそのようにしたベアトリーチェの方が実績がある。
これが全て。
ゲマトリアにも刻んだはずの証。
そうなれば更に真実が広まる。
このアリウスという世界を。
彼女がありとあらゆる物事を歪曲し。
子供を搾取するべき対処として扱い。
大人の言う言葉が真実だからと子供を教育してしまうアリウスの支配者として真理を知る大人が君臨している。
これがベアトリーチェの証。
そのバシリカに居座っている『解』だから。
これがベアトリーチェの成し得た、大人としての成功例なのだ。
しかし…
目の前の
たった一人の子供の後悔と追憶を拾い上げただけのなんて事ない大人。
けれど『真実』が見えてしまう。
この眼で大人を測ってしまう。
__認めたくはない。
__認めてはならない。
__認めるわけにはいかない。
なのに、何故こんなにも安心を覚える??
大人が、子供の成長する背中を見守り。
子供が___大人の背を見ているから。
寄り添いこそが__真実に辿り着く解。
その前提が子供のために大人を果たす。
アレが、大人の正解なんだ___
「言葉も、理念も、理想も、歪曲も、それまであったはずの全てはこの『俺』が否定する!」
リロードの完了したアサルトライフル。
銃口がベアトリーチェを狙う。
子供が__大人を否定しようとする。
否定しようと、する__
『それでも!私は明日を願いたいですっ!』
槌永ヒヨリという【子供】の願い。
大人が創り上げた真実の中の願い。
虚しさを刻まれても、しかし尚、求めた。
アリウスを飛び出し、明日を願い続けた。
それは目の前にいる『
アリウスには無い__明日を見れる光。
故に__
ベアトリーチェの歪曲は、この瞬間___
「子供のために寄り添えない大人は!!
この箱舟の世界から出ていけェェ!!」
ダダダッッ!!と銃身が焼き切れるほどの勢いで放たれる弾丸はベアトリーチェを貫く。
「がぁあァァァアアぁぁアア!!!!」
振動属性を遮るために弾力装甲を別の属性に切り替えたとしても、しかし月雪カナタは理解を深めたことで得た神秘属性に切り替えてしまうことが可能であり、もしくは本来アサルトライフルに備わっている爆発属性にも切り替えることも可能とし、もしそうでなくともサイレンサー付きハンドガンで貫通属性にもしする。
何が何でも、何があっても、通し切る。
それは彼が先駆者という【二度目】を得ているからこそ体現できた子供の頃を知っている子供だった大人の力。
まさに、ご都合主義に愛された反則行為そのものであった。
「が、ぁ、ぁ…ぅ…ぁ、ぁが…」
ベアトリーチェはとうとう、多くを貫かれたダメージに耐えきれずその場に崩れ落ちる。
月雪カナタに負けたのだった。
「ふっ、ふふ…」
「…」
笑みをこぼす。
現実をこぼす。
歪曲に叶わなかった『解』をこぼす。
「これが、私の、敗北ですか…」
「…」
まだ言葉を吐ける程度には生きているベアトリーチェ、しかし抵抗する力もない。
月雪カナタは弾切れになったアサルトライフルをその場に手放し、腰からサイレンサー付きハンドガンを取り出した。
ベアトリーチェの元まで歩む。
「私は、あなたを嫌悪する…あなたが子供に寄り添う大人だからこそ、それを体現し続ける反則行為に、私は意味を否定する…嫌悪する…ああ…その器に備わる、そのご都合主義ならば、楽園も、世界も、真実も、またはこの箱舟すらも追い求めれる事を…それが許される【色彩】たる象徴なのに…なのに…ただ、子供のためだけに【二度目】を使う自己満足に…その傲慢さに、獲れるはずの資格者なのに…ただの砕け散った子供なんかの、ために…正当化する…私は、お前という存在を、私は…私は…嫌悪する…」
「___虚しいな、お前」
アリウスで、アリウスの言葉を吐く。
それは今まさに__
ベアトリーチェに相応しいから。
そして…
「大人はそれほど……偉くなんかない」
タンッ…
その額に____引き金を、弾いた。
ザクッ…
「_____ぇ?」
胸元に、何かが刺さる。
なんだ?これは?
銃弾…か??
それとも悪い大人の足掻きか?
いや、違う。
これは、違う。
もっと『理解できない』ナニカだ。
その正体はすぐにわかった。
「ステンドグラスの、光??」
その体は【恐怖】によって貫かれる___
「が、ぁ、ッ___________」
貴方が【色彩】としての扱いなら。
それは【儀式】に引き寄せられる。
だから、そのまま___
「ふっ、ふ、ふふ、ふっ…」
無意味に砕け散って___死になさい。
____月雪カナタは【反転】した。
♢
夜の23:55頃だ。
完全武装した『彼』の後ろ姿を見た。
それと救出された『女の子』も見た。
中等部になったばかりの子供だ。
それが4日前にひどく衰弱した形で私たち一期生のリーダーに救出され、それからSRTの施設で治療を受けて、目を覚ましたようだ。
もうしばらくは安静にするか、もしくは然るべき病院に入院するかだと思っていたが、しかしその女の子、または槌永ヒヨリと呼ばれる彼女もリーダーのように武装し、リーダーの後に着いて行く。
何を、しようとしている??
日付が変わればリーダーは非番になる。
5日前の急な任務(?)によって返上されることが決まったから。
だからその日にまた、何処かに出かける予定で準備していたみたいだが、しかし武装して向かう姿は異常だ。私は怪しむ。
教官なら何か知っているだろうか?
そう思い、問おうとして__
「SRT、初めての任務だ」
「「「「!!!」」」」
ブリーフィングルームに集められた私。
時刻は00:25。
そして、同時に__
「このような時間に突然申し訳ありません」
連邦生徒会長の姿だ。
…
…
…
私たちは威力偵察として先行したリーダーがマーキングした場所に向かい始めた。
時刻は3:00だ。
リーダーがSRTから極秘のために出て既に3時間が経過している。
私達としてはいち早くその背中を追って支援に向かいたいが、教官と連邦生徒会長により待機を指示されて動けなかった。
私たちは命令通りに動くのが兵士だから。
そしてヴァルキューレ警察学校ともう一つの学園に連絡が付いた。これには私たちも驚いた。
ヴァルキューレの事はまだ分かる。
現場に人が寄りつかないようにするためにする警備隊は必要だ。
しかし任務遂行のためにSRT単独ではなく別の学園に力を借りるとは一体どう言う事だろうか?
「トリニティです。主に正義実現委員会ですが」
連邦生徒会長は私の疑問を汲むように告げ、私はひどく驚いた。
トリニティが何故?
どうして今回の任務に参入するのか?
「アリウス分校。月雪カナタさんはその威力偵察として向かわれました」
他校の者は首を傾げる。
しかし元トリニティ生の私は衝撃を受けた。
アリウスのことは聞いたことがある。
過去トリニティの分校として存在していた。
消えた理由は、詳しくはわからない。
だが『詳しくわからない』ってだけでトリニティがナニカしたんだと理解する。
だって、あのトリニティだ…
たったそれだけの理由に結び付けさせられたトリニティの扱いは笑えるけど、でも笑えない答え合わせをしながら私は一つ理解する。
あのボロボロな状態で拾い上げられた槌永ヒヨリと言う少女のこと。
彼女は___アリウスの生徒だ。
そう答えが行き着くと理解も進む。
「君たちSRTはこれから月雪カナタのマーカーポイントに向かい進路の確保を行う。どうやら救出者がいるみたいだ。救出が済み次第トリニティの正義実現委員会と連携を行いながらアリウス分校の制圧を行なう」
「あのぉ…SRTはまだ極秘では?」
「本稼働は今日からだ」
「「「!!!」」」
「まだ世間一般にSRTの存在を認知させることはないが、その自治区の治安維持に努める組織から認知されるのは仕方ない。しかしキヴォトスの治安維持を勤めるに当たって本日から連邦生徒会の特殊部隊として活動を開始するのは確かだ。皆、これが最初の任務だ」
寝耳に水な話だ。
周りも多少なり困惑している。
しかし…
「私達のリーダーが先駆者となって任務に当たっているんです。ならわたし達SRTもその背を追いかける。それが腕章を巻いてもらった彼に対する報いではありませんか?」
「「「「!!」」」」
私は仲間達に告げる。
確かに驚くことはかなり多い。
生徒会長も急な話である事を謝罪していた。
でも、急な指示を受け、現場に急行して任務を遂行するのが、SRT特殊学園の役割だ。
なら、急な本稼働からの任務くらい私達一期生が熟せなくて、この存在意義は何か?
リーダーは既に向かっている。
なら私達もその背に続くべきだ。
「そ、そうにゃよ!驚く意味ないにゃ!」
「その通りだ!SRTなら普通の事だ!」
「ああ!私たちは選ばれた兵士なんだ!」
「べ、別に驚いてないさ!ちっともな!」
「そうだね。ならば、私達も彼に続こう」
皆は告げられた事実を飲み込み、その眼はすぐに切り分かる。
やはり、あの大黒柱は一期生の心を結びつけてくれる重要な存在だ。
それから私達は現場に向かった。
そこはとある寂れた大聖堂だ。
既にトリニティ自治区の一角で一般人が入らないように包囲網を張っているヴァルキューレ警察学校の間を通り抜ける。
そしてリーダーが置いただろうマーカーを感知した。しかし…
「壁??」
「いえ、これは入り口です」
正義実現委員会の者__に、護衛されながらやってきたシスターフッドの人間。
「お久しぶりですね、ウリエさん」
「貴方は……そう、シスターフッドに」
私の一年上の先輩、中等部時代の知り合い。
そのままトリニティ総合学院に向かったのは知っていたが、まさかシスターフッドに入ってあるとは思わなかった。
「カタコンベの入り口を下手に爆発させて開けようとすると扉の扉が閉まり、それに反応して道が複雑化し、最終的にどれが道かわからなくなってしまいます。ここはシスターフッドに任せてください」
それから何故か仕組みを知っているシスターフッドの力でカタコンベを開け、道が開かれる。
そして先にSRTが侵入し、敵影やトラップなどを散策、特に何も仕掛けられていないことを理解するとトリニティ正義実現委員会が後ろから続いたりと、本格的にアリウス分校へ侵攻しようとした…その、瞬間だった。
ダン!ダン!
バン!バン!
銃撃の音だ。
誰かが戦っている??
っ、もしや!!?
私達は銃声の元まで急行した。
安全装置が外れてることを確認しながらタンク役の仲間が前進する。
「まさか帰投中に反逆者と出会えるとは」
「悪いがここで全員、捕まってもらおう」
「全て虚しいだけなのに…無駄なことを」
「げっほ…ぐぅ…」
「ひ、姫ちゃん…!」
「ちっ…これはマズイ…」
「くそっ…動いてくれ…足…っ!」
「私が囮になる!二人は背負って行け!」
マスクを付けた兵士たち??
あと五人の子供?
一体、何の状況で___
「あれ?あの腕章はもしかして…?」
「そうにゃ!リーダーの腕章にゃ!」
「なにっ!?そ、それは本当か!?」
【KANATA】と大きく刻まれた腕章。
それは間違いなく、リーダーのモノだ。
「制圧するべきはマスク付きの3体!残りの子供五人はすぐに保護しろ!子供はリーダーの救出対象だ!!」
「「「了解っ!!」」」
副リーダーの私は指示を出す。
SRTの洗礼された動きはすぐにアリウス兵を討ち倒してしまう。
「敵…?味方…?」
「ぐっ…お、お前ら…は?」
「それ以上は近寄るな…!」
警戒される。
それもそうだろう。
アリウスの生まれだからこそ外に信頼を置くべきかわからない。
至って普通の反応だ。
けれど…
「あっ、ええと、もしかして、私を助けてくれたSRTの者…ですか?」
「貴方は…槌永ヒヨリ?」
「!!」
「そう。なるほどね。その腕章。私達のリーダー月雪カナタから渡されたモノね?」
「!?」
「その反応…ええ。理解したわ。なら貴方達は保護対象。もう大丈夫よ。私達は月雪カナタの仲間であり、助けるように言われてるの」
「あっ、な、なら、やはり…!」
「そう…か、助けが、来たのか…」
「あの男が言ってることは本当だったか」
「なら…これ以上の警戒は無意味ね…」
「げっほ……ぁぁ…助かったのね…」
全員が傷だらけ。
でもこうなるまで足掻き続けた証。
そして…
そう言う子供を助けるために彼は…
「こちらcrescent2、アリウス分校行きの入り口の確保、また特定の救助者の保護を完了した」
『crescent9、状況は了解した。そのまま救助者を表まで移動させるんだ。一度SRTの方で保護する』
それから短な会話を通じて次の指示に動く。
すると私達SRTと入れ替わるようにトリニティの正義実現委員会とシスターフッドがアリウス分校に雪崩れ込んだ。かなりの数だ。
連邦生徒会長、かなり強めに尻を叩いてトリニティを動かしたらしい。
「とりあえず、これで一つ任務を達成。そしたら次はおそらくリーダーとの合流を…」
「あ、あのぉ…」
「??」
私の元まで近づき声をかけて来たのは救助者の一人である槌永ヒヨリ。
どこか怯えたような目で見ているが、しかしグッと気持ちを切り替えたのか、一歩だけ前に踏み出して…
「あ、ありがとう…ございます…!」
「!!」
お礼を言われる。
初めて__任務でお礼を言われた。
「ふふっ、気にしないで」
「!」
「私達はSRTだから___彼と同じね」
「ぁ…」
時刻は5:00を回る。
それから季節は夏に近い梅雨。
それでも日の出は早いから。
「そろそろ、朝ね」
____キヴォトスに【明日】が来た。
つづく
やめて!
バシリカに用意された色彩の儀式にて
生贄の対象として貫かれたら
恐怖の反転によってカナタの精神まで正当化されてしまう!
お願い、死なないで月雪カナタ!
あんたが今ここで倒れたら
ヒヨリや白鳥との約束はどうなっちゃうの?
神秘はまだ残ってる!
ここを耐えれば、悪い大人に勝てるんだから!
次回! ベアトリーチェ 死す!
デュエルスタンバイ!
じゃあな!
また明日!