なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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土曜日分

評価数が200→555ってマ?
しかも内☆10が30%ってマ?

めちゃくちゃ嬉しいって気持ちと、本当に本当に本当にええの??って気持ちが腹の中でぐるぐるして、あぁ^〜これこそハーメルンだよな感じで堪らねぇぜ。本当にありがとうございます。これからも適度に頑張る。



第27話

 

 

 

「だぁぁあ!」

 

「よっ!ほっ!」

 

「うお!?うおお!?」

 

「へへっー!甘いにゃよぉ!」

 

 

 

バチャバチャと水面を蹴り上げる事で跳ね上がる水飛沫は夜空の月を被せながら繰り広げられるCQCの訓練の証… と、言っても現在時刻は夜の21時であり就寝時間の2時間前。なのでコレは寝る前のちょっとした自主訓練である。

 

そのため一期生の同期達はSRTのロゴが刻まれた藍色のジャージ姿を身に纏い、そして月雪カナタである俺のヘイローを自分達の()()()()()()()()ことでカナタの神秘を受け、水の上に浮くことが許されている。

 

 

今回の参加者は9人。

 

11個あるヘイローはなんとか足りている。

 

 

 

「きゃー!濡れたぁー!」

 

「うわわわ!?あぶねぇ!」

 

「あっははは!まだ慣れてないか!」

 

「だって難しいだろこれぇ!」

 

「コツがあるんですよ、コツが」

 

「その中でもウリエちゃんは慣れてるよね」

 

「ウリエの奴は前から参加してたからな」

 

「まさか夜にカナタんを独り占めとは…」

 

 

 

梅雨が明けの季節。

 

つまり夏の季節だ。

 

そのため既に気温も高く、暑さも充分に感じられる環境下、もちろん夜も暑い日がある。

 

だからこうして水辺まで来ては波風に涼み、もしくはこの反則行為を活かして水の上に立てば更に涼しく、それは快適だ。

 

しかしこの涼み方は俺一人だけのお気に入りスポットに収まらず、最初はウリエ、そして次第に他のメンバー達も俺のお気に入りスポットを発見しては、日を跨ぐに連れて次々と参加者が増える。

 

そしてSRTの設立から四ヶ月が経過した頃には一期生全員がSRT特殊学園から少し離れたこの湖に集まるようになった。

 

気分転換に涼む目的は勿論として、俺がこの湖にいる時は「ヘイローを貸してー!」と、まるでアヒルボートを借りるような感覚で俺のヘイローを借りては水の上に立って遊んだりと、俺がこの湖にいる時のみ限定とした楽しみを分かち合っている。

 

その際にCQCを建前にした取っ組み合いが彼女達の遊びになっている。

 

ルールとしてはとても単純で、尻尾取りゲームのように自身のヘイローに重ねている俺のヘイローを奪い取った方が勝利。

 

もちろん俺のヘイローが体から離れるということは月雪カナタの神秘が解除されてしまい、神秘の効力を失えばそのまま水の中に落ちるということだ。ポロリもあるよ。

 

中々にデンジャラスな取っ組み合いだが、SRTの兵士だけあって実のところコレがかなり盛り上がっている。

 

一対一で対抗したり、複数で組んだり、もしくは全員が敵同士になるデスマッチルールになったりと遊び方は様々。

 

だから訓練中や任務中はキリリと真面目な彼女達もこの時だけは年相応な少女達としてはしゃいでいる。

 

だがそれでもSRTの兵としてのプライドを賭けているためか、遊びだろうとやる事が白兵戦による取っ組み合いとならば、簡単に負けてやらないといった競争心が水飛沫と共に湧き立っている。

 

そのためこの水上戦闘は自主訓練って事にしてあるし、この状況を知っている教官にもそう説明している。まあ自由時間だから好きにしろって事で教官もあまり気にして無い。

 

ちなみに教官も参加したことがある。

 

流石と言うべきかすぐに水上に慣れてた。

 

俺たちの教官は強いです。

 

 

 

「ブルーシートの上で寛いじゃって。リーダーは水上戦に参加しないのかしら?」

 

「今日は良いや。ボーっとしてたい。あ、ヘイローは好きに使ってくれ。それで終わったら適当に頭の上に翳しといて。勝手にヘイローが元の位置に動くから」

 

「相変わらず不思議なヘイローね…」

 

()()()()さらに不思議なヘイローになったぞ」

 

「知ってるわ。流石、私達のリーダーね」

 

「流石で済ませるべき異常性なんですかねぇ、コイツは」

 

「それがSRTの月雪カナタでしょ?」

 

「勘弁してくれ。パンダにはなりたくない……ふぁぁ、眠っ…」

 

「あら、そのまま寝ちゃう?」

 

「どうしようかな…あ、ウリエが子守唄を歌ってくれるなら寝ようかな」

 

「別に構わないわよ?起こす時にロールケーキをお口にぶち込んで優しく起こすから」

 

「それ全然優しくねぇだろ」

 

 

ウリエは白い羽をパタパタと揺らしながらクスクスと笑い、ブルーシートから降りると湖まで足を運び、次のCQCに参加する。

 

ちなみに彼女のジャージはまだ濡れていない。

 

だからいつの間にか出来上がっていた『必ず一回は濡れておけ』という暗黙のルールがある以上は皆から標的にされるだろう。

 

 

「ぎゃー!」

「ぐへー!」

「ひゃぁ!」

 

 

「退かぬ!媚びぬ!顧みぬ!」

 

 

 

でも残念、そいつはウリエだ。

 

水上戦に慣れている彼女に勝てるわけもなく何人か返り討ちに合い、湖の中に倒された。

 

強いなぁ、俺たちの副リーダーは。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

__あれ以来、か。

 

 

そう語れるくらいには時間も経ったか。

 

と、言っても1ヶ月経った程度だけど。

 

事後処理は殆ど完了している状態。

 

あとは行先の安定を祈るだけ。

 

 

 

「アリウスも元はトリニティか……ま、あの会合で見せた顔面蒼白土下座ティーパーティの姿が本物なら大丈夫だろうな。でもそれにしてはあの時の連邦ちゃん…悪い奴だったな…」

 

 

まあ土下座って部分は冗談なんだけど、でもそのくらいのレベルで腰を落として頭を下げて来たティーパーティの姿は今でも記憶に強く残っている。

 

 

 

 

それは__とある会合の話だ。

 

 

 

まず騒動後というのは当然ながら事後処理が必要になる。それがキヴォトス単位での治安維持組織とならば奔走するのは連邦生徒会。

 

だからしばらくは慌ただしかったし、連邦生徒会の代表である連邦ちゃんも最初の数日は「寝る時間がねぇ!」とちょっとキレてて面白かった。

 

 

そしてある日のことだ。

 

 

何を思ったのか連邦ちゃん、文字通り()()()貸して欲しいと、少しだけ悪い顔をした連邦ちゃんに頼まれて俺はとある会合に連れて行かされた。

 

その会合先ってのが学園都市キヴォトスの三大学園として選ばれている【トリニティ総合学園】であり、そして今回のアリウスの件は過去レベルから関わりある…

 

まぁ、遠回しに言えば『主犯国』だ。

ほんまトリカスさぁ…

 

 

それで会合の内容は主にアリウスの生徒をどうするかという話だ。

 

__自治区を無くしたアリウス生徒はこの先どうなるのか?

 

 

ぶっちゃけると、アリウスは元トリニティの分国なんだからこれを機に受け入れて元に戻せって話だ。落とし所の正当性はある。

 

てか急な受け入れが可能な自治区ってトリニティくらいだろうから。

 

なので連邦ちゃんはトリニティにアリウス生徒をお願い……

 

 

いや、命令に近いお願いだった。

 

 

何故なら___トリニティの憎悪を引き金にアリウスから始まろうとしていた復讐劇は後にキヴォトスを脅かす可能性は大いにあったとことをトリニティの責任として追求したから。それも大人の力も借りた上で積み上げられる行先は未知数である。

 

 

 

 

__お前らトリニティが責任を持って居場所を無くしたアリウス生徒を受け入れろ。あとそれからあまり表に出たがらないシスターフッドも強引に引っ張り出せ。文句言わさず絶対に協力させろ。元はユスティナ聖徒会の熾烈な弾圧によるものだから。あとトリニティは月雪カナタに感謝した方が良い。連邦生徒会側が未然に防いだ件については構わないがトリニティの陰湿な虐めにて自治区を出ることになった被害者の月雪カナタが過去トリニティが起こした愚行を肩代わりする形で清算を行ってくれたこの事実に対して、元トリニティ生徒である私はこの惨状が恥ずかしくてたまらない。

 

 

__と、最終的に感情のままに吐き出していた連邦ちゃん。

 

ちなみに連邦ちゃんが虐めの件を知っているのは俺が何故百鬼夜行自治区に引っ越したのかを聞かれた際に話したから。だから連邦ちゃんは俺の過去を知っている。

 

 

 

で、だ。

 

会合の際に連邦ちゃんの言った。

___ 文字通り面だけ貸して欲しい。

 

この時に、その意味を理解したが……

 

 

いや、しかし。

 

連邦ちゃんも残酷なことをしてくれる。

 

俺にも、ティーパーティにも。

 

何もかも、事の始まりとなった月雪カナタの存在を脅迫に近い交渉材料として必ず話を取り付けさせる目的。

 

それは実際にそうだったし、ティーパーティとの会合後は俺の過去を利用した事について連邦ちゃんからめちゃくちゃ謝られた。もしかしたら一番腰が低く頭下げたの連邦ちゃんかもしれない。金色の綺麗な長い髪を地面に付けるまで垂らして頭下げていたし、何よりキヴォトスを代表とする責任者がただの兵士よりも頭を低くした。その意味は理解する。

 

 

だが、それほどの事が起きた。

 

起きてしまったし、終えてしまった。

 

 

なら今回のアリウスの件、過去起きた負債を今のトリニティが責任持って向き合わなければならないのは事実。その尻拭いとして動かされる羽目になるのは可哀想だが、しかしトリニティが起こしたという括りに他ならないためトリニティを総括する現ティーパーティがこの結末をなんとかするしかない。

 

そして連邦ちゃんも元トリニティ生徒であると同時にキヴォトスの安定を望む連邦生徒会の生徒会長としてこの問題を重く受け止め、二度と引き起こしてはならない憎悪の始発点として見ている。

 

 

なら俺程度の兵士が口を出してはならない。

 

だって月雪カナタはトリニティを脱して百鬼夜行に逃れた生徒だから。

 

 

 

 

『月雪カナタ様、貴方様の多大なる活躍にティーパーティとして感謝します』

 

『それから…誠に申し訳ありませんでした。トリニティの環境が貴方を苦しめ、そして受ける必要のない痛みを背負わせてしまった事を、この場で深くお詫び申し上げます』

 

『本当に、申し訳ありませんでした…!』

 

 

 

そしてトリニティのトップから。

 

その3人からその頭を下げて謝罪を受けた。

 

 

再度想う。

 

彼女達はそこにどんな感情にあったか。

 

 

この広すぎる自治区を。

 

 

なら、知らないから仕方ない___と、言ってあげれない問題もある。

 

自治区の総括者である以上はトリニティの問題は彼女達の問題である。

 

しかもそれを一人の人間が過去トリニティで受けた痛みも清算されない被害者のままトリニティの汚点を拾い上げると憎悪の始発点を単独で未然に防ぎ、それをこうして紅茶を嗜める会合の場で精算できるようにしたこの人間をなんと言うべきだろうか。英雄?救世主?

 

 

いや、俺はただSRTの兵士。

 

そして、先駆者だ。

 

こんな時も子供の味方でなくてどうする?

 

 

 

『卒業したから大丈夫です。だからその謝罪受けます。月雪カナタはもう気にしない』

 

『そつ、ぎょう?』

 

『乗り越えたって事です。そしてどうか。アリウスの生徒をよろしくお願いします。彼女達も騙されて生きてきた生徒だ。トリニティのトップである貴方達でなければ明日の陽光すら与える事はできない。だからどうか。あの生徒達を頼みます』

 

『ッ、その責任!!必ずや応えます!!』

 

 

それからティーパーティは過去の清算を果たすために動き出した。

 

 

 

さて__ここからはアリウス生徒の話。

 

 

現在はアリウス生徒を一部の地区で保護されている状態である。

 

ただ、あまり外部と接触があり過ぎるとストレスなので離れたところに隔離されてる状態だ。

 

これは仕方ないな。

 

でもちゃんとした建物に収容されており、全員分の綺麗な服も用意され、暖かいお湯が出るシャワーと風呂、ふかふかの布団。ある程度の娯楽に勉強の教材も揃えられたりとアリウスの地獄のような環境とは一転した充実ぶりは逆に困惑させてたらしい。

 

 

また過度な栄養摂取に気をつけるように食事も用意されている。それでも炊き立ての白米はこれまで一番美味しかったようで、泣いて食べてた子が何人か居たらしい。

 

どうやらアリウスに米が届いてもパサパサだから泥水に浸して米を膨らませるらしく、本当のおいしさも知らないとか。

 

それを聞いたシスターフッドが大泣きして食事の量を増やそうとして、栄養管理に敏感な救護騎士団に注意されたとか賑やかな話はそれなりに聞いている。

 

 

そして最近は栄養状態が戻ったらしくトリニティの名物(?)であるロールケーキを元アリウス生徒達が食べたとか。それで泣いて喜んでいたらしい。やはりあの地獄の日々から助かりたかった生徒も多く、外の世界の話を聞いていた生徒も実物のロールケーキを食べれたことに感激したり、中にはベアトリーチェに中指立ててながら頬張っていた者もいたとかまあ痛快な話も関係者から届いている。

 

すっかりベアトリーチェの洗脳から解けてるっぽいな。しかもロールケーキ一つで。

 

だとすると何とも浅い復讐心で笑える。

 

 

 

まあしかし、それでも。

 

全てがそうなっているとは限らない。

 

収容されている生徒は皆救っているし、救われようとしている。

 

だがその一部は……

 

 

「まだトリニティに復讐心があるから他は逃れたのか?わかんねぇな」

 

 

まず俺がベアトリーチェを文字通り消し飛ばしたことでアリウスは壊滅した。そうなるとアリウスの生徒達も統治者がいなくなったことを理解すると、縛られていた重圧から解放されるようにほとんどが抵抗もせず投降した。やはりベアトリーチェという大人に怯えて従っていた者が大半らしい。

 

そしてベアトリーチェと決着を付けた俺もバシリカから表に戻る途中でアリウス生徒達に見つかったのだが…

 

『ありがとうっ!ありがどう"!!』

『うええええん!!終わったよぉぉ!!』

『もう良いんだっ!もう苦しまなくてっ!』

 

と、悪い大人の恐怖政治が終わったことに泣き崩れていた生徒達はそれなりに多く、その後の正義実現委員会から武装解除するように言われると大人しく投降した。ガスマスクも武装の一つなのか次々と外すアリウス生徒。

 

しかし栄養失調にて窶れていた顔の数々は正義実現委員会もひどく驚いていた。

 

だからもう抗うことも。

また争うこともしない。

そんな様子で光を求め続けていた。

 

 

 

しかし、大人しく投降してたと思われていたアリウス生徒の中にも一部、ベアトリーチェが消えたことを悟るとカタコンベを利用してキヴォトスのどこかに消え去った。

 

逃げたのは一小隊だけ。

 

トリニティに保護されたアリウス生徒の証言によると数人程度の編成だとか。なので大した戦力を保持している訳でもないみたいだが、でも全員がトリニティ自治区に収容されている話にならない。今も捜索が進められている。

 

……何のために逃げたのか。

 

まだベアトリーチェに植え付けられた復讐心が残っているからか?

 

それともトリニティや連邦生徒会に怯えて逃げたのか?

 

理由は色々考えられる。

 

俺もアリウスの全員が大人しく投降するとは思っていなかったし、そのケースも考えていた。

 

逃げるのは……まあ、構わない。

 

だがその先でまだベアトリーチェに植え付けられた復讐心が原動力になっているなら、見つけ次第捕まえてもう終わった事なんだと教えなければならない。

 

悪い大人は消えた。

 

この俺が箱舟から追い出した。

 

もう囚われずに済むことを知ってくれたら良いのだが…

 

 

 

「こればかりは、時間の問題だな…」

 

 

ほうじ茶のコップを横に置いてブルーシートに仰向けで寝転がる。

 

初夏に澄んで浮く、星空。

 

街の光から離れた湖だから夜空に浮かぶ星々がよく見える。

 

あと謎の輪っか。

 

ブルーアーカイブ特有の輪っかだ。

 

 

 

__ピロン。

 

 

 

「?」

 

 

モモトークが鳴る。

 

俺は寝転がりながら携帯を開く。

 

そこには…

 

 

 

 

『また勉強を教えてくれ(ᓀ‸ᓂ)』

 

と、簡潔な一文だ。

 

 

 

「アイツ、とうとう顔文字を覚えやがったか」

 

 

メッセージの主は白洲アズサだ。

 

彼女もトリニティ自治区に保護された元アリウス生徒であり、アリウス脱出の際に協力してくれたヒヨリの家族だ。また槌永ヒヨリ自身もアリウスの情報提供を行ったりもしている。

 

そう言った貢献もあったのか、周りのよりも早めに表社会に出歩くことが許されており、またスクワッドメンバーがトリニティ自治区で住まうための家も手に入れた。まあ家に関しては俺が連邦ちゃんにティーパーティとの会合で俺を利用した代わりに寄越せと言ったから。

 

そんな訳でアズサはもう既にトリニティの生徒として再スタートを決めている。

 

平和の象徴かな?

まあ、一応その目的もあるらしいが。

 

 

 

「とりあえず返信しとくか」

 

 

俺は『明後日ならええよ⎛ಲළ൭⎞』と気味の悪い顔文字で返してやった。

 

ちなみにこの顔文字はアズサが最近仲良くなったらしい友達の趣味。

 

ペロチキなところはまあプリンを二つも食べることが贅沢とするキヴォトス特有の倫理観だとして、あとは至って普通で、そして無害そうな優しい友達だった。銀行強盗とか無縁そう。

 

 

 

__ピロン。

 

 

「?」

 

 

するとまたメッセージが返ってきた。

早いな。

 

俺は再度、携帯を開いて確認する。

 

そこには…

 

 

 

『ヒヨリが会いたがっている』

 

 

 

俺は少しだけ目を見開き、画面に指を添えてメッセージを送り、アズサに返事をする。

 

 

 

「……まったく、仕方ないな」

 

 

 

文字を打ち終えた俺は携帯の画面を閉じるとブルーシートから立ち上がり、ジャージのジッパーを閉めながら神秘を全身に纏い、水面に足を付けて同期達に声をかける。

 

 

 

「濡れても構わない奴から掛かって来な」

 

「「「!!」」」

 

 

頭のヘイローが琥珀色に光る。

 

だが、それが合図になったのか同期達は互いに顔を合わせあい、そしてニヤリと笑い。

 

 

 

「カナタん!覚悟ぉ!」

「ビショビショしたるぜ!」

「わーい!リーダー参戦だぁ!」

 

 

子供らしく、水遊びを始めるか。

 

 

 

 

 

 

 

__ピロン。

 

 

既読

『次の駅弁巡り、リサーチしておけと伝えて』

 

未読

『ヒヨリにそう伝えておく。感謝するカナタ』

 

 

 

 

 

 

 

裏の世界に生きていた子供はいま。

 

表の世界に生きている子供となる。

 

それが許される箱舟なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっしょおおぉぉぉい!!」

 

「ぶーーー!!?」

 

 

 

 

俺はその声と姿で盛大に吹き出す。

 

いやだって、なんか、おったもん。

 

実はめっちゃおもしれー、ケモ耳が。

 

 

 

「こんなところまで来るのか、お祭り娘」

 

「え?え?……ええええ!?も、も、もしかしてカナタさん!?え、わわ!ええええ!お久しぶりです!えー!わー!すごいです!」

 

 

 

シラトリ区にある大きな公園で何やら奇妙なお祭りがあるらしく、興味を持った俺は善哉の材料を買いにいく寄り道として顔を出してみた。

 

現地まで足を運べばそれなりに人が集まっており、何か物珍しい祭りなのかと更に興味が惹かれたのでもう少し顔を奥に出してみる。

 

すると驚いたことに、そこには百鬼夜行のお祭り娘こと『里浜ウミカ』がいた。

 

水色の法被を着て何かのエントリー待ちをしている。

 

 

 

「もしかしてカナタさんも参加ですか!」

 

「いや、俺は見に来ただけ__」

 

「はい!二人分のエントリー完了です!カナタさんにお一つどうぞ!」

 

「おいこらワン娘、何も言ってないだろ」

 

 

お祭りが関わると急にスペックが高まるこのお祭り娘。俺が気づかない速度でエントリー済ませて俺の分まで渡してきた。たまにキヴォトス人がわからなくなる。

 

 

「で?これ、なんの祭りだ?」

 

「すごくすごい祭りです!」

 

 

うん、語彙力が無いなってた。

いやお前どこぞの覇王世代のNTRだ?

 

大人しくしていれば美人なのに興奮すると語彙力が飛んでしまうのは昔から変わらず。

 

それはともかくぴょこぴょこと揺らす垂れ気味のケモ耳はくっそ可愛いしで、なんか百鬼夜行が懐かしい。SRTにもケモ耳っ子は何人かいるけど満足感は百鬼夜行しか勝たんな。

 

 

 

「さぁ!さぁ!皆さん!今回も盛り上がっていきましょう!!」

 

「「「わっしょぉぉぉい!!!」」」

 

 

 

そしてお祭り仲間の中心になり始める。

 

この子、やっぱすごい子なのでは??

 

無害そうに見えてこの求心力は才能だろ。

 

 

 

 

「それで?本当になんの祭り?」

 

「転がるのを追いかける祭りです!とりあえず丘の上に登って横一列に構えましょう!そしたらあとは追いかけるだけです!」

 

 

違う違う、そうじゃない、ウミカ。

 

俺はコレがなんの祭り名なのか知りたいんよ。

 

おいこら。首傾げんな。垂れたケモ耳が揺れて可愛すぎんだろ。ふざけんな。撫で回したくなるだろ。神経が苛立つ…!

 

 

 

「はーい!ではこれから!キヴォトスのチーズ転がし祭りを開催いたしまーす!皆様は坂道に転がるチーズを追いかけて捕まえてくださいねー!!」

 

 

 

「マジか」

 

「わっしょぉぉい!」

 

 

 

メガホンから響く名前で全部察した。

 

なるほど、これはそういうことか。

 

だから丘の上から…

 

 

 

「さぁさぁ!カナタさん!カナタさん!張り切っていきましょう!一瞬で終わってしまいますので気を抜くと終わります!」

 

「わかった、わかった」

 

 

ふんす!ふんす!と、お目目をキラキラさせて意気込むお祭りケモ耳こと里浜ウミカ。

 

ボルテージは最高潮。

 

ケモ耳もケモ尻尾もブンブンである。

 

 

 

「仕方ない、やるか……!」

 

 

でも参加した以上は本気でやろう。

 

それに百鬼夜行ぶりにお祭るのも悪くない。

 

これでも中等部時代はナグサとアヤメを率いて祭りによく参加していた。もちろん色物な祭りにもエントリーして楽しんでいた。百鬼夜行はそれだけあったからな。

 

 

 

「怪我だけはするなよ、ウミカ」

 

「丈夫ですよ!わたし!ふんすっ!」

 

 

 

雑草刈りの時のように頼もしいな。

 

なら気にするのは俺だけか。

 

すぅぅ、と息を吸って意識を切り替える。

 

せっかくの非番だからゲーセン以外で体力を使うのはナンセンスかなと思っていたが、今日くらいはお祭り男になって、終わったら温泉からお団子ルートだな。今日はそうするか。

 

 

……あ、そうだ。

 

 

「ウミカ、俺のヘイローを一つ渡す」

 

「これですか?……って!ええ!?ヘイローって触れることが出来るんですか!?」

 

「あれ?知らなかったのか?俺のは特別製で触れることが出来るんだよ。とりあえずウミカのヘイローに重ねておくから」

 

「あ、はい、わかりました……ええと?」

 

「なに。ただ純粋にこの祭り、一番になるのは俺たちって事だ。祭りらしく協力頼むよ」

 

「!!!__ッッ、はい!!」

 

 

里浜ウミカの勾玉のようなヘイローの間に一つ琥珀色を浮かばせる。

 

そして俺は全身に神秘を纏わせる。

 

10メートル先にあるチーズ。

 

それが転がり始めたら追いかけて捕まえる。

 

だが、不安定な坂道。

 

丸いチーズは不規則に転がってくれるため捕まえるのは一苦労だ。

 

このお祭り、チーズほど甘くない。

 

 

 

『よーい……始めっ!!』

 

 

「「「!!!」」」

 

 

そして『パァン!』とスタートの空砲が響くとチーズが転がり始め、それと同時に参加者全員が追いかける。

 

俺とウミカも追いかける。

 

 

 

「うわわわわ!!」

 

「っと、ただのスニーカーだと滑るか…!」

 

 

頭からローリンガールは勘弁願いたい。

 

なので駆け降りるのではなく、小股で跳ぶようにぴょんぴょんと動き、着地しながら進行方向を秒で定めて、また同じようにしながら同時に周りとの衝突を避ける。

 

しかし、これは……

 

中々良い訓練になるな。

 

なんだかんだで全身を使うし、動体視力と状況判断も鍛えられる。

 

坂道、中々バカにならない。

 

 

 

「(と、言っても、前が塞がれるな…)」

 

 

もう既に前線で転がっている参加者。

 

無理して割り込んでしまうと巻き込まれてしまう可能性もあるし、何かの拍子で顎下を蹴り上げられる恐れもあるのであまり無理は…

 

 

「ぬうおおおおおお!!!」

 

 

それでも先頭に躍り出ていたウミカは転がるチーズに手が届きそうな距離まで下っていた。

 

てか、すげぇなあの子?

めちゃくちゃフィジカルあるやん。

 

田舎育ちは身体が強いなぁ。

 

 

 

「もう、ちょっと…!」

 

 

 

見たところあと2歩分の距離。

 

転がるチーズは目の前。

 

ウミカはグッと食いしばって手を伸ばす。

 

 

 

「!」

 

__指が触れた!

 

 

 

 

 

しかし、足が坂道に取られてしまう。

 

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

 

手を届かせようと必死のあまりに足が不安定な坂道に取られてしまい、そのまま前に倒れそうになるウミカ。このままではローリンガールが始まる。曲は好きだけどアレ見てると普通に痛そうなんだよね。てか折れるだろ骨。折るね⭐︎

 

 

 

「ひぃん…!そんなぁ!」

 

 

 

届きそうだった手から遠のくチーズ。

 

絶望したウミカから情けない声が漏れる。

 

 

 

 

 

でもよく頑張ったぞ、お祭り娘。

 

ここからは、俺の出番だ。

 

琥珀色のヘイローを頼りに踏み出して…

 

 

 

「飛雷神互瞬回しの術!!」

 

 

 

「ぇ?」

 

 

琥珀色のヘイローを頼りに浮き出る。

 

すると俺の左手に柔らかな肌触り。

 

それは里浜ウミカの手のひらである。

 

そして右手は転がるチーズに伸びて__

 

 

 

「取ったどぉ!」

「なんとぉ!?」

 

 

転がるチーズに触れると手のひらで収めるように神秘で浮かし、まるで磁石のようにチーズをくっ付けると最後は握力でグッと掴む。

 

次に坂道の勢いを殺せないウミカを左手でフワリと浮かし、グッと引き寄せて左腕全体を使ってガバッとその体を受け止めた。

 

そして、ぴょん、ぴょんと大股で跳びながら勢いを少しずつ抑え、次第にゆっくりと緩やかに歩幅を安定させながら平坦な道に辿り着いた。

 

 

「ふぇー、あっという間だったな」

 

「カナタさん…!」

 

「良い根性だったぞ、ウミカ」

 

「!」

 

「なのでコイツは君の物で良い。ほれ」

 

「!?」

 

ウミカを腕から下し、そしてチーズを渡す。

 

ズッシリと両手にのしかかる丸いチーズ。

 

里浜ウミカは次第に目をキラキラとさせて…

 

 

 

 

 

「ッッ〜!!わっしょぉぉおい!!」

 

 

 

 

 

両手に掲げて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、カナタん。この新聞なぁに?」

 

「ぜ、善哉の味付けを深めようと思ってな…」

 

「それってチーズ味の善哉??」

 

「……ごめん、やっぱり今の無しで…」

 

 

 

ネット新聞を開いた同期から問われる。

 

それは前日のお祭り。

 

そこにはバッチリと俺が写っていた。

 

 

 

 

 

ちょっとはしゃぎすぎた…

 

 

 

つづく







ちなみにお祭り後は前みたいにウミカとスーパー銭湯に寄って、適当なお店でお団子を食べて、もう一回脳を焼いてから解散しました。ほんまコイツ。


アリウス編はカロリー高杉だったのでしばらく百鬼夜行の時のような日常回にしてたいですねぇ。また適当にキヴォトスの女の子達の脳をスパダリカナタザウルスでこんがり焼きてしまいたいぜ。ぐへへ。


日曜日分はまだ筆記中です!
更新は未定ってことで!
またな!あばよ!
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