なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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速報 : 地下生活者 終了のお知らせ




第36話

 

 

「クックック、なるほど。つまりそのヘイローは月雪さんの中にある【責任】と【役割】が果てしない正当化の元で確立され、そして崇高に至ることで色彩として扱われることになり、同時に月雪さん本人も、貴方がいう箱舟に於いて色彩として扱われる…と言う訳ですね。なかなかに条件が多いですね」

 

「崇高に至るってそれだけの積み重ねと解釈ちゃうの?知らんけど」

 

「クックック、ご冗談を。そう容易い証明じゃないですよ、頂というのは」

 

「みたいだな。そんじゃ…先生とやらの目覚めに取り掛かるか?揃う物はそろった。あと並行世界とはいえ俺も長居するべきか迷いところさんなんだ。終わらせられることは終わらせようや」

 

「うん、その通りだね。キーは揃った。なら時間かける意味もないもんね。それじゃあカナタくんは、その、ここまでの旅路から急で申し訳ないけどヘイローの調整に付き合って欲しい。クラフトチェンバーさえ動けばシッテムの箱の中に意識を隔離された先生は目覚める筈」

 

「ああ、わかった……の、前にさ、シャワーとかあるなら借りて良いかな?お二人方の準備中に済ませてくるから」

 

「あまり急がなくて良いよ。しっかり疲れ落としておいで。私達もクラフトチェンバーの改修準備を済ませておくから」

 

「じゃあヘイローもゴシゴシ洗ってくるわ」

 

「ゴシゴシ?…あー、そういやカナタのヘイローって触れるんだね。なんだか不思議」

 

「クックック、コレも色彩に触れることが叶えられたモノとして、規格外に浮き出た証ですか」

 

 

それから俺がシャワーを浴びてる間にエイミと黒服はクラフトチェンバーの改修準備に入る。

 

ちなみにキリノは俺より先にシャワーを浴びたようで、現在は個室でぐったり眠りについている。ここまでの慣れない旅路と、あと泣き疲れたからだろう。ああ、ゆっくり休んでくれ。君はとても頑張った。ここからは俺の役割だ。

 

 

 

「お待たせ、ヘイローぴかぴかにしてきた」

 

「気合い入ってるねー」

 

「クックック、ある意味自分磨きですか。ユーモアセンスもお持ちで…」

 

「俺は常に余裕の様で往かん、とする」

 

「ククッ、それは一種の責任感でしょうか?」

 

「ヘイローが砕け散ろうとも月雪カナタそうでありたいという健気さ。あと健在さ。その両方を欲してるだけ」

 

「クックック、なるほどです。ではそれすらも月雪カナタの存在証明たらん追憶とし、この時まで築き浮かせた証を奇跡の一端として頂きましょう」

 

 

どこか興奮を隠せない黒服を横切り、俺はクラフトチェンバーの前に立つ。

 

そして、その傍には…

 

 

 

「大人…」

 

「ええ、この世界の【先生】です」

 

 

病院服に包まれた大人が一人。

 

その者は目を覚ます気配がない。

 

ひたすら浅い呼吸のまま意識は闇に落ち、その傍らには使い古されたメガネと画面の割れたタブレットだけが残っている。

 

ふと横を見ればエイミは少しだけ寂しげに視線を先生に投げていた。しかしすぐに意識を切り替えてモニターを叩いて準備を進める。

 

これから俺のヘイローを使うことでクラフトチェンバーを修復し、それと同時にシッテムの箱とやらも修復する。

 

 

 

「なぁ。もしかしてだが、このボロボロなタブレットがそうなのか?」

 

「ええ、それがシッテムの箱です。見た目は市販で売っているようなタブレットですが、しかしそのタブレットに内蔵されているシステムやOSは全く不明の代物。そして、それはシャーレの先生のみ扱うことが許されている…」

 

「キリノの話によるとこの箱の中に先生の意識があるみたいだが?」

 

「シャーレで爆発が起きたある日、ミレニアムに一通のメールが届いたんだよ。シッテムの箱に先生の意識を隔離しているってね。おそらくそのシッテムの箱の中にあるAIが送ったんだと思う。それから遅れてもう一通が届いた。シッテムの箱が機能を失った際、地下にあるクラフトチェンバーで修復することで再起動できる。けれど…」

 

「クラフトチェンバーがこの状態と言うわけか」

 

「うん。だから【色彩】を探した」

 

「そして探し求めた結果、中務さんが色彩である貴方をこの場に連れてきた。ああ、これを奇跡と言わずしてなんと表現するべきだろうか。このような巡り合い…どれほどの代償を得てどうして叶えられようか…それも世界を超えてと来た」

 

「さてな。ただキリノがいなければ絶対に始まらなかった奇跡の始発点だ」

 

「そうだね。キリノが居たからこそ今こうして私達は奇跡を起こそうとする。黒服、始めるよ」

 

「ええ、もちろん」

 

 

するとクラフトチェンバーが動き出す。

 

完全に壊れてた訳ではないみたいだが、シッテムの箱を治すための機能と条件が失われてた故にただ稼働するだけ。電源が付いてもモニターが点かないパソコンと同じような状態か。

 

 

「準備は完了した。あとはカナタの【色彩】をクラフトチェンバーのオーダーに加えてそのままパスに繋げるだけだよ。まずは試運転。もしイレギュラーが起こった場合は緊急シャットダウンだからね」

 

「ロジックは幾つか用意してあります。あとはクラフトチェンバーが私達のアプローチに答えてくれるか、否か…」

 

 

琥珀色の色彩をクラフトチェンバーの前に浮かせて読み込ませる。

 

すると受け入れ対象として扱われたのかクラフトチェンバーの表面からピピピッと光がヘイローを包み込み、それをゆっくりと引き込む。

 

そして…

 

 

 

「パスが完了した…!黒服っ!」

 

「ええ、このまま出力を上昇させ、色彩を浸透させます。月雪さんはそのままクラフトチェンバーに移し込んだヘイローに神秘を繋げてください。色彩たる貴方の正当化が鍵です。それは叶えるに相応しい証だと読み込ませてください」

 

「ああ、やっている!」

 

 

頭のヘイローが琥珀色に光る。

 

それに呼応するが如く、目の前にあるクラフトチェンバーは青白く光らせながら俺のヘイローを読み取ると、それをデータ化して吸収して、欠けてしまった部分を修復する。

 

その光景にエイミは驚きを隠せず、それでもモニターを操作し、一方、黒服は気持ち悪いくらいに興奮している…てか、実際に少し気持ち悪いくらいだ。どんだけ神秘研究が好きやねんコイツ。元の世界に戻ったら改めて要注意やなこの変な大人は。

 

 

「できたっ!!できたよ!!クラフトチェンバーの修復が完了した!!やった!!」

 

「ええ、正常に稼働している間にシッテムの箱の修復も急ぎましょう」

 

「ノード設定を【神秘】に固定した!そしたら次はシッテムの箱もクラフトチェンバーと同じように修復を並行させて、このまま再生成…そうだ!ねぇカナタくん!」

 

「?」

 

「シッテムの箱にある電源ボタン、それを長押しして、それで電源を入れてみて欲しいんだ」

 

「なるほど、わかった」

 

 

 

俺はエイミに言われた通り手を伸ばしてシッテムの箱に触れる。

 

その側面にある小さなボタンを探る。

 

おそらく……あ、これかな?

____ボタンを長押してみる。

 

 

 

 

ブゥォン。

 

 

 

 

「!」

 

 

シッテムの箱が起動した。

 

真っ暗だった画面内は明るい色に起動し、青と白の三角形が画面内に広がると、最後は画面の中央にはシャーレのマークが一瞬だけ映し出されてロード画面に入る。

 

それはつまり…

 

 

 

「エイミ、電源が付いた。問題なしだ」

 

「本当!?じゃあ成功なんだね!」

 

「ククッ!そこそこ長い道のりでした!」

 

「ああ、これもキリノのお陰___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“……我々は望む、ジェリコの嘆きを。”

“……我々は覚えている、七つの古則を。”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に聞こえた、謎の声。

 

それは男性でも、女性でもない。

 

ただ言葉がそこに紡いだだけ。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

___俺の意識は、彼方に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月と星に照らされる薄暗い世界だ。

 

しかし何も見えない事はない。

 

充分に視界は確保されている。

 

周りを見渡す。

 

そこそこ広めの空間。

 

よく視ると乱雑に積まれた机と椅子。

 

あと少しボロボロになっている黒板。

 

ついでに使いかけのチョークもある。

 

 

 

「ここは……教室??」

 

 

 

困惑しながらも少し足を動かす。

 

するとチャプチャプと足元から音が鳴る。

 

よく見ると足裏に浸り広がる水。

 

これは……海水?

 

ぶち破られた壁の奥には砂浜が見えている。

 

ここまで浸水しているのか?

 

しかし…何だ?

 

ここは一体何処だ?

 

再度周りを見渡す。

 

 

 

「見たことあるな…」

 

 

 

前世の記憶がチラつく。

 

断片的にだが、ココを知っている。

 

SNSとかで見たことあるような。

 

そんな程度の記憶。

 

 

 

 

「?」

 

 

 

更に教室の側には柔らかそうなクッションも置いてある。もっと詳しく言うならばそれは人をダメにするクッションだ。それは既視感として収まる。そうだ。SRTにもあったな。

 

 

俺はそう考えながらクッションに足が惹かれていると……ナニカいた。

 

 

 

 

「むにゃ……むにゃ……」

 

 

 

人をダメにするクッションの上で一人ダメになっていた。

 

 

 

「なんだ?この娘は…」

 

 

俺はチャプチャプと足裏に浸る水を踏みしめながら近づき、その顔を覗き込む。

 

その姿はまるで…

 

 

 

「白鳥??……いや、違う……似てはいるが違うか。ああ…でも、何処か彼女に似てるな」

 

 

いちごミルクに蕩けきったような顔。

 

やはりこの既視感は何だ?

 

それとも違和感と言うべきか?

 

あの彼女と姿が重なって仕方ない…

 

 

 

「しかしここは何処だ?」

 

 

あまり女性の寝顔を覗き込むのは失礼なので一度視界から外し、今一度周りを見渡しながらこの世界を視認する。

 

てか、ぶち破られている壁は非常に気になる。

 

何だこれ?廃校した教室か?

 

しかも水浸し、だし……

 

 

 

ヨシ、ちょっと舐めてみるか!

 

 

…………ん、甘い!

 

何故か甘みがある。

 

ほのかな舌触り…

 

……いや、待て。

 

何で味つきなんだよこの水。

 

意味がわからんがな。

 

でも塩っぽくはないな…

 

海水ではないらしい。

 

 

 

「むにゃ?」

 

 

そうこうしてる内にお目覚めの声だ。

 

俺はその様子を見守る。

 

そして__目が合った。

 

 

 

「……へ?は、へ?」

 

「おはようございます」

 

 

とりあえず挨拶を交わしておく。

 

一応敵意が無いことも伝えるために。

 

 

 

「あっ、はい、おはようござい……っ!??」

 

「あと、お邪魔してる」

 

「な、ななな、なななぁっ!?」

 

「悪い。不可抗力なんだ。許してくれ」

 

 

ヘイローの色をカラフルに変えながら感情豊かに驚く少女。しばらくパニックになった後、外からやって来た侵入者ということで人をダメにするクッションを投げつけられた。

 

俺はそのクッションを受け止めると少女に投げ返し、何故か投げ返されたクッションに混乱しながらも少女は再び俺に投げ付けてきた。

 

またそれを受け止めると俺はもう一度クッションを少女に投げ渡し、また少女は俺にクッションを投げる。

 

 

そうやって10往復したあたりで。

 

 

 

「いや、この応酬なんですか!!???」

 

「知らん。正直俺も半分パニクってる」

 

「嘘ですよね!?実は少しこの応酬を楽しんでませんでした!?」

 

「いやー、ひたすらモノを投げ合うって知能が低下した感じで少し楽しいよな」

 

 

相変わらず感情豊かにヘイローをグニャグニャと形を変えて、あと顔も豊かに変える少女。

 

その間に俺は近くにあった勉強椅子に手を伸ばして腰裏に引っ張り、それにドスンと座る。

 

 

学校の椅子に座るなんていつ以来だ?

 

 

SRT特殊学園にも椅子はあるけどリビングとかにある大きなテーブルとプラスチック素材の椅子だからな。しかもSRT特殊学園に用意された椅子って事で少し質が良いし。あと百鬼夜行時代に通っていた寺子屋も勉強する際は座布団か座椅子だったからな。なので良くありげな勉強椅子は実のところこの世界に来て経験したことない。

 

仮に経験あったとしても、二週間だけ通っていたトリニティの中学校の時くらいか。

 

しかしアレは前任者の経験であって俺のものでは無いから経験としてノーカン。

 

だからこのように木を使った勉強椅子は本当に久しい感じだ。

 

 

 

「あの、ええと……ええとっ!」

 

 

椅子に座ってくつろぐ俺に困惑する少女。

 

しかし感情と情報の処理が落ち着いたのか彼女は警戒しながらも問いかけて来る。

 

 

 

「何故__貴方は、私が見えるのですか?」

 

「何故と言われてもな。見えてるとしか…」

 

「いえ…質問がおかしいですね。私は改めて貴方に問います。どうやってこの場所に??」

 

「それは俺も聞きたい限りだが…まあ、何と言うのかな…とりあえず記憶を頼りにここまでの経緯を説明するとだな?」

 

 

俺がこの並行世界から来た事。

 

また俺は扱いが色彩である事。

 

そして俺の色彩を使ってクラフトチェンバーを修理した事。

 

それと同時にシッテムの箱の修理が完了した事を順番に説明した。

 

どれも荒唐無稽な話に聞こえるが少女はヘイローをクルクルと動かす。

 

まるでロード中のように。

 

すると思い出したかのように目を見開いた。

 

 

 

「そ、そうです!そうでした!!私はバッテリーを使い果たし!そしてシッテムの箱の電源が落ちてそのまま眠りついてしまったんです!ああですが!こうして目覚めたと言うことはシッテムの箱が直ったという事っ!!ならッッ!!先生っ!!」

 

 

寝ぼけてた頭がクリーンになったのか彼女はクッションから飛び上がると目を閉ざしてこの空間にある何かを探る。

 

すると少女は目を開け、バッと黒板の方に振り向くと教卓の元まで駆け寄る。

 

そして教卓の引き出しに手をかけると引き出しから淡く光が漏れる。

 

 

「ッッ、無事です!無事でしたっ!の限りを考えて咄嗟に先生の意識を引っ張ってしまいましたが!でも無事でしたっ!ああっ!良かったですっ!先生っ、せんせぇっ…!」

 

 

少女は引き出しに手をかけたまま膝から崩れ落ちると……涙を流す。

 

しばらく彼女の啜り泣く声と、外から聞こえる波音のみが、この教室に細やかに響く。

 

寝顔の次は、涙顔か。

 

俺は女性の泣き姿を視界に入れまいと、百鬼夜行仕込みのスリ足で、ぶち破られた壁からこの教室を出て、砂浜に向かう。

 

 

見渡せば___まあ、絶景だ。

 

透明感の限り海と砂浜が広まっている。

 

この世界は夜の時間帯の設定?らしいが、月と星の光によって幻想的に色染める。

 

 

 

「シッテムの箱か」

 

 

俺がここに来た経緯を説明しながらも彼女は時折答え合わせするかのように教えてくれた。

 

改めて…この世界はシッテムの箱の中だ。

 

肉体は外に置いて、意識だけがこの箱の中に引っ張られて、この世界に俺はいるとか。

 

いつの間にかロックマンEXEしてたらしい。

 

どうせ引っ張られるならプラグイン時のポーズしたかったな。

 

こう、シュババ!って腕を動かす感じの。

 

ちなみに1と6のシンプルなプラグインポーズが好き。前世の幼少期の頃、テレビの前でホッチキス片手に真似してた。電子内にプラグインできると信じて。まあ出来なかったけど。

 

 

だからこの世界ではヘイローを利用して再現してやった。カナタの神秘を使えば瞬間移動できるからプラグインの再現できてめっちゃ面白かったぜ。まる。

 

 

 

「ここに居たんですね」

 

「砂浜にいたら水属性のウイルスとか狩れないかなって思って。それでスチールゼリーゲーしてジゴクホッケーで壊してやろうかと」

 

「シッテムの箱は無敵故にウイルスなんて一つも望めませんよ。何せここは完璧で究極のゲッターな世界ですから」

 

「なにその究極のプログラムアドバンス。2のぶっ壊れアドバンス超えてそうで怖っ」

 

 

どうやら冗談を叩けるくらいには気持ちが復帰したらしい。なら改めて会話が出来そうだ。

 

 

 

「あと…ごめんなさい、急に取り乱して…」

 

「君達にとって先生というのはめちゃくちゃ大事な人なんだろ?なら仕方ない」

 

「っ、はい。だからこそ安心しました。爆発が起きた時はもう先生をどうするかでがむしゃらでしたから。本当にこれが最善の選択なのかはわかりませんが、でもこうして、貴方という奇跡が訪れたというのなら、まだ私はこの役割を通し続けられるのでしょう…」

 

「役割、か…」

 

「はい」

 

 

もうその目に涙を浮かべていない。彼女は先生を助ける秘書として既に覚ましている。なら後は頼もしさが約束されるだろう。

 

 

 

「あの、カリナです」

 

「?」

 

「私の名は【CARINA(カリナ)】と言います。このシッテムの箱に内蔵されたOS。先生の秘書をすることを目的としてます」

 

「なるほど、カリナか。なら改めて俺の名は月雪カナタ。元の世界ではSRT特殊学園の兵士として活動している」

 

「SRT??と、いうことは……もしかしなくとも連邦生徒会長の私兵ということですか?」

 

「ああ、その認識であっている。光栄にも選ばれてSRTをしている身。ついでに言えば色彩としても扱われているかな。中々に欲張りセットだな」

 

 

SRTに関しては白鳥のお願いを聞き届けた結果として今があるが、色彩扱いに関してはほぼ不可抗力だ。そうなれる資質はクズノハから説明を受けているし、月雪カナタである以上は条件も満たしているが、まさかアリウスの件で崇高に至ったと解釈されてこうなるとは思わなかった。まあだから今こうしてキリノに狙われた先でこの世界にいる訳だが。

 

 

 

SRT……ってことは…連邦生徒会長、も…

 

「?」

 

「……いえ、これは今聞くべき話ではないですね。わたしが優先するべきことは先生の意識を戻して目覚めさせること…そしてっ!」

 

「!」

 

 

 

カリナは頬を叩いて気持ちを入れ変える。

 

すると教室に戻り教卓の引き出しを開ける。

 

淡い光を優しく手に取った。

 

 

 

「カナタさん!お願いがあります。本来ならメッセージを使って次の指示を出すつもりでしたがこのままカナタさんに言伝をお願いしたいです。もちろんメールの方で形にして送りますが…」

 

「良いよ。伝えよう。どうしたら良い?」

 

 

 

それからカリナから先生の意識を目覚めさせるための手順を簡単に教えて貰い、最後に「この世界から遠のくように意識を切り離してみてください」とアドバイスを貰い、俺はその通りにやってみた。

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

目の前にはクラフトチェンバー。

 

そして手元にはタブレット。

 

つまり、これは、シッテムの箱。

 

と、言うことは…

 

 

 

「カナタ?どうしたの?」

 

「ふむ、少し無茶をさせてしまいましたか?」

 

 

 

聞こえた声はエイミと黒服だ。

 

どうやら意識は表に戻って来れたらしい。

 

時間は……うん、あまり経ってないな。

 

カリナ曰くこの間は数秒程度とか。

 

シッテムの箱には数十分いた感覚だが。

 

いやすごいな。驚いた。

 

 

 

「いや、なんでもない。色彩が役立って良かったと少しホッとしているだけだ。あ、それよりも二人に言伝がある。シッテムの箱からだ」

 

「え!?」

 

「ふむ、なんでしょうか」

 

 

俺はカリナに言われた通り説明する。

 

それは先生を目覚めさせるための手順。

 

そして、やることは至って単純。

 

シッテムの箱を使った虹彩センサーだ。

 

タブレットに付属しているカメラのレンズを先生の眼に合わせること。

 

ただし、クラフトチェンバーの精製技術をシッテムの箱にインプットさせ、映し出す機能を助長させる必要があるとのことだが…

 

 

 

「余裕だよ。既に数値化は完了している」

 

「クックック、抜かりなしですか」

 

 

このパターンも想定していたのかエイミは既に準備を完了させていた。

 

やっぱりミレニアムって優秀だよな。

 

SRTにも何人かミレニアム候補生が居たけどシステム面では無敵そのものだったな。

 

ハッキング一つ許さなかった。

 

やっぱり連邦ちゃんの人選力は半端ねぇ。

 

 

 

「でもシッテムの箱は俺の方で操作する」

 

「え?」

 

「現状、このタブレットは俺にしか触れない設定らしい。だからシッテムの箱は俺の方で操作する。まあなに。カメラ機能を開いて先生に合わせるだけだ。そう変なことはしない」

 

「あ、うん、分かった。じゃあ頼むよ」

 

 

どうやらシッテムの箱というのは生徒には操作はできず、また役割を満たさない大人も受け付けない仕組みのようだ。

 

これは【先生】のみ、受け付ける。

 

シッテムの箱はそのように設定されている。

 

まあ本当はカリナの方で先生以外の人間でも設定を変えれるみたいだが、俺が操作できる以上が資格のある俺に任せたいと頼まれた。

 

てか、俺は触れることが可能なのか…

 

やはりこれはそういうこと?

 

 

 

「二度目だろうと資格は引き継がれているの、か…」

 

 

月雪カナタをするけど、されどこの内側は先駆者であることは変わらないらしい。

 

だからシッテムの箱に許されたのか。

 

 

「…」

 

 

チラリの黒服を見る。

 

彼も先生と同じ【大人】のはずだ。

 

けれど……ああ、その資格は無いな。

 

職歴的にも、履歴的にも、資質的にも。

 

この黒服にはそれは秘められていない。

 

それは見るだけで何となくわかる。

 

 

 

「もしもし?医療班に連絡をお願い…うん、ええとね、今から先生の眼球を剥き出しにする。その際に傷つけないようにする必要があるから人体に理解がある…そう、その通りに。うん、分かった。よろしくね」

 

 

淡々と次のステップを進めるエイミ。

 

しかし希望が見えてきた。

 

そう感じさせるようにエイミの目は明るい。

 

それからしばらくして研究室の扉が開かれた。

 

 

 

「すみません、お待たせしました!」

 

「セリナ、来てくれてありがとう」

 

 

 

それから次の打ち合わせを済ませ、状況と盤面を整え、最後の作業に取り掛かり始める。

 

すると…

 

シッテムの箱から声が聞こえる。

 

 

 

『カナタさん』

 

 

タブレットからよく響き渡る。

 

しかし、それは俺しか聞き取れない声。

 

周りにはカリナを認識できない。

 

声も、姿も、存在も。

 

見えないモノとして扱われている。

 

 

「カリナ、こっちの準備は全て済んだ。後は君が先生の意識を肉体に通すだけ」

 

『わかりました。ありがとうございます』

 

「礼には早い。本当の始まりはココからだぞ」

 

『っ、はいっ!』

 

 

エイミと黒服はクラフトチェンバーとシッテムの箱に数字上にズレがないようモニターの前で監視と操作を行い、セリナという医療班の生徒は先生の眼球が傷つかないように消毒と固定を行い、俺はシッテムの箱を操作する。

 

あとはシッテムの箱の管理者であるカリナが先生の意識を肉体に落とし込むだけ。

 

 

 

「頼むよっ!」

 

「頼みますよ…」

 

「頼みますっ!」

 

「頼むぞ!」

 

 

 

 

四人の声が、シッテムの箱を震わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

" ここ…は? "

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベツレヘムの星の裏側に位置着いた落星。

 

それは反転した物語によって再び吹き込まれた。

 

 

 

さぁ___救世主(せんせい)の目覚めだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色と灰。

 

これらが交わることのない世界。

 

ただ終末へと向かって行く。

 

 

 

ああ___なんとも芸がない。

 

 

互いの価値観を、主張を、意思を、信念を、追憶を、闘志を、敬意を、尊厳を、織り交ぜようともしなかった結果生まれてしまった、あまりにも幼稚過ぎる世界だ。高め合うこともなければ擦り合わせることも選び取れない。仮面が育っただけの臆病者。

 

 

 

これになんの価値があろうか??

 

自己満足の果てとでも言うのか?

 

 

 

仮にそれが一種の完成形態だというのなら、成功体験を目の当たりにした私からすればこの世界はあまりにも贋作が過ぎている。

 

 

理解がある、大人の筈。

 

芸術を見る、大人の筈。

 

調和を知る、大人の筈。

 

 

なのに。

 

なのに。

 

なのに。

 

 

伸ばした手と舌はノーサイドな麗し。

 

これを同じゲマトリアだったと思いたくもなければ尊重に値もしない。

 

 

改めて、わたしは評を下す。

 

この灰色はあまりにも幼稚が過ぎた。

 

 

 

 

ギギギ、ギギギ、キィィィ。

 

 

 

 

「…私がいる意味とは……いや、関係ない……関係無いからこそ、この贋作を無視できないか…」

 

 

 

灰色に染まり切った空に手を伸ばす。

 

その幼稚さに触れてみる。

 

 

すると指先になぞられたのは何だ?

 

一方的にぶちまけられた自己満足だ。

 

 

ああ……

 

あまりにも気持ちが悪い。

 

 

まだ、あの成功体験に触れている方が彩り激しく心と体が揺れる。慄える。

 

それに比べたらこのような追憶など…

 

 

 

「ピリオドのつもりか。ならば芸術家として認めたくもないな。作品名すら香らせない結末に揺らされるべき世界ではない。この世界はもっと神秘に溢れている。私は…断じて認めんぞ」

 

 

 

伸ばした手を引っ込める。

 

あまり触れたくない灰色の自己満足。

 

 

けれど、色黒いその在処を知った。

 

やはりザラつきは誤魔化さないか。

 

 

甘い奴だ。

 

この程度が【勝利】とするか。

 

 

 

「子供部屋に隠れたつもりか地下生活者…?この私にはわかるぞ。貴様の幼稚さが引きずる後味の無さを。青二歳が垢抜けない愚かさを。灰色に濁された程度で過程を誤魔化したつもりか?全ては結果に帰すと勘違いしているのならば舞台に上がってしまった私だからこそ、この権利と解釈を元に、貴様を知らしめてやろう」

 

 

 

何故__わたしはこんなにも未熟だったのか?

 

予定もしなかった正当化に引っ張られた。

 

それ故に項垂れることもあった。

 

しかし、これは一つのインスピレーションだというのなら間違いはないと、飲み込めた。

 

 

 

「月雪カナタ。私程度の芸術家でも貴殿の織り成すストーリーテラーの一部になれるか?そうなれば崇高に至った意味をもっとこの身に知れるだろうか?傲慢なのは分かってある。怠惰なのは理解している。しかしされど私は己をマエストロと名乗りたい。だから今はこの未熟さに許しを乞いたい。私はこんなにも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば、気に入らないソレをひっくり返すか?

 

 

 

 

 

要塞都市エリドゥにある適当な屋上。

 

そこには時刻的に眠りついているはずの青年が立っている。

 

錆色と琥珀色の片鱗たちを揺らして。

 

 

 

「この世の救世主は目覚めた。だから明日には帰る予定だった。これ以上の勝利条件は無いと思ったから余計な介入は不要だと。俺はそう考えた」

 

「カナタ…」

 

「けれど、よく考えればこの件は他人事じゃないんだよ。実際問題、俺は狙われた身にある。それはこの世界をそうさせた元凶によって月雪カナタの証を奪わせる羽目になったんだ。それも少女に片道切符を強要させてしまうほどの結末を持って、されど今もこうして何処かで満足げにこの出来損ないなエピローグを眺めている…そうだろ?」

 

「黒服から聞いたのか…」

 

地下生活者__物語に浮き出る『過程』を重んじるフリして【勝利】のみを渇望する程度の青二歳なんだと…………ははっ」

 

 

 

 

 

 

 

___ふざけているのか?

 

 

 

 

 

 

ドンッ___と、空気が震える。

 

それは世界を歪ませるほどの色彩として。

 

成功体験に呼応するが如く、空気は揺れ動く。

 

 

 

 

「俺はこの世界に位置しない余所者だ。月雪カナタは存在しない人間だ。けれど正当化の色彩はこの世界に存在した。光となって届いた。観測されたんだよ。この世界にある物として」

 

 

「……だから、余地があると?」

 

 

「白鳥に言われたんだ。認識する側はあくまで観測者なんだって。そして月雪カナタは箱舟のみ健在であって欲しいって。俺としてはそう希う彼女のために極力守ってやりたい。けれどこの世界に届かせた意味は違う。既に始まっていた。この世界を幼稚に曲げてしまった結果として色彩の光を浮かせた。箱庭が認識させた。そう仕向けた。この身をこのふざけたエピローグに招かさせた。ああ、つまりそれってさぁ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

正当化の色彩に喧嘩売っているんだよな???

 

 

 

 

 

 

 

 

余計なことをしたのだろう。

 

奴は。

 

 

取り返しのつかない事をしたのだろう。

 

奴は。

 

 

そうさせたから浮かばせてしまったんだ。

 

奴は。

 

 

 

 

色彩(カナタ)が【到来】するという恐怖を。

 

地下生活者は__余計な歪みを起こした。

 

 

 

 

「だからもうしばらく付き合ってもらうぞマエストロ。ま、これもインスピレーションの一端として、見てくれや」

 

「ああ、成功体験たる貴殿の織り成すストーリーテラーを特等席で眺めれるというのなら、芸術家としてこれほどにない…僥倖だろう」

 

 

 

 

 

喜びか。

 

畏れか。

 

慄きか。

 

判断のつかない限りにカタカタとこの身に軋ませる。

 

 

 

ああ__なんという巡り合わせだろうか。

 

月雪カナタ__貴殿との類稀な出会い。

 

 

 

キヴォトスの連邦生徒会長__白鳥。

 

しばしの間だが__この者を借りるぞ。

 

 

 

余す限りの感謝と敬意を込めて。

 

成功体験の証明を視させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

灰色の世界で特等席に座った芸術家は、色とりどり彩り豊かな舞台に再び上がった青年の物語に久しく心を躍らせる。

 

 

ならば。

 

これはこの場だけのブルーアーカイブ

 

 

そして、もし。

 

この都合の良い物語にタイトルを付けるならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 なんか俺のヘイロー砕けてね? 】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、ここまでの余すことない追憶に沿って。

 

 

彼の有様のまま、そう刻み込めて。

 

 

芸術家は純粋な、敬意のままに。

 

 

期待する、この人間に。

 

 

月雪カナタを織り成すこの存在に。

 

 

 

 

 

つづく

 

 





さりげないタイトル回収。
オレでなきゃ見逃しちゃうね。




― 以下、勝利者(笑)の視点 —


地下生活者「おおおぉぉぉおおい!!何だよそれェェ!?はぁぁぁぁあ!!?チートだろぉぉおお!!はぁぁぁあぁぁぁあ!?なんで主人公クラスが二人もいるんだよぉぉおお!?プレイヤーをバカにしてんじゃねぇぇぇえよぉぉ!?てか勝手にオレが到達したエンドロールを止めんじゃねぇよぉぉ!!つーかオレの勝ちだろうがよぉぉお!!?気持ちよくさせろヨォぉぉぉおお!!そもそも道中で結果を曲げるそういうのアンダーテールだけにしろなぁぁああ!!??それとも同じ『地下』扱いなオレに対する当てつけのつもりかぁぁあ!!?バカすんなよぉぉおおお!!キヴォトスGルートにして皆殺しにしたるぞぉぉおオメェぇええらよぉぉぉぉ!?!!ああああァァァあクソウゼェ!!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!」


芸術家「騒がしいから運良く見つけれたわ。そんじゃあ色彩に共有しとくね」


地下生活者「は?」


先駆者「よし、殺すにいくどー」
救世主「あっ、待ってくださいよ」
芸術家「この辺にぃ、狭い空間あるんすよ」
救世主「行きてぇな」
先駆者「じゃけん正当化しましょうね」
警察官「おっ、そうだな」
先駆者「あ、そうだ(唐突)」
芸術家「お前さっきからチラチラ見てただろ?」
生活者「何で視る必要があるんですか?(焦り)」
警察官「嘘つけ絶対見てたぞ」
芸術家「お前さ、中々部屋から出てこなかったよな?」
先駆者「そうだよ(肯定ペンギン1号)」
救世主「見たけりゃ見せてやるよ(大人のカード)」
生活者「やめてくれよ…(デデドン)」


の、予定になる。
まあ嘘やけど。


とりあえずカナタ君も今回の件で思うところあったので地下生活者を表に引き摺り出してボコすことにした。てか普通に許さねぇ。地下生活者が余計なことしなかったら今頃SRTに置いてある人をダメにするクッションでくつろぎながら看板猫モフってウリエの手作りロールケーキを楽しんでたはずなのに苦労する羽目になった!!バンシィに値する!あ、違うわ。万死に値する!!

…まぁ対して意味は変わらんか!!
へけっ!!


じゃあな!
またな!


《追加 8/25》
忙しくて37話は投稿できんかったわ。
更新は来週の土日になる。すまんの。
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