なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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第37話

 

 

「ブフッ!!?」

 

 

 

休憩エリアとしてコーヒーメーカーなど一息つける用品が置いてあるエントランスで一人の大人が噴き出していた。朝から盛大なこった。

 

 

 

「コーヒーに手をつける前で良かったな」

 

「珍しいな黒服。そこまで噴き出すとは」

 

「ゴホッ、ゴホッ!ク、クック、ククッ、いやはや、申し訳ない。朝からお見苦しいところ失礼した。後頭部を殴られたような感覚でかなり驚きましたよ。だが、しかし、ふむ…まさかマエストロが地下生活者の居所を暴いてしまうとは思わなかったですね。ですがこの中で暴ける者がいると考えればこの発覚はマエストロで必然と捉えるべき、か…」

 

 

現在、このエントランスで俺とマエストロと黒服の三人で椅子に腰掛け、それぞれインスタントコーヒーを目覚ましの代わりに嗜んでいるところだ。

 

 

前日は俺のヘイローを使ってクラフトチェンバーとシッテムの箱の修理を行い、そしてシャーレの先生を目覚めさせたりと目まぐるしい進展を迎えた。まだ事の全てが終わったわけではないが、中務キリノの覚悟を引き継ぎ、ひと段落とした昨晩は遅くなりながらも、それぞれ眠りについた。

 

そして次の朝を迎えると先ほど同じタイミングでこの二人と鉢合わせたので三人揃ってモーニングコーヒーを嗜んでいる。

 

そんなところ。

 

早起きのできる大人のモーニングタイム。

 

ちなみにコーヒーは黒服が淹れてくれた。

 

簡単なインスタント用品なのだが、黒服が丁寧に淹れてくれたので普通に美味しく、またコーヒーを嗜むマエストロも黒服も様になっているあたり大人の余裕ってヤツだろう。

 

そうやって俺達はコーヒーを朝のお供にしながら改めて朝の挨拶を交わし、コーヒーブレイクを挟んでいるところでマエストロが昨晩、要塞都市エリドゥから空を観測し、この世界のエピローグを解釈した結果とある情報を手に入れたことを黒服に共有。

 

そして、その情報に対して黒服は噴き出した。

いまここ。

 

 

 

「マエストロの発言に偽りがないのならソレを観測できたってのは異常なのか?」

 

「ええ、異常ですとも。なにせ【混沌の領域】は実際のところ外側から認識されることはありません。あの領域は次元的にも、時間的も、実在の有無が確定しないモノとして扱われる非干渉を建前とした世界。ステルスや透明とはまた違うのですよ、これは」

 

「なるほど。でも…マエストロが見つけた」

 

「ええ。地下生活者が意図しない観点から混沌の領域を視認した。クックック。いやはや。大人の域に達することも叶わないその削ぐわなさが地下生活者の欠点になろうとは…ククッ」

 

「混沌の領域ならば表面に見える弱さを包み隠すことができる。だから奴は干渉不可の概念を盾とした弱点の無い存在に見えた。だが奴は黒服の言う通り、未熟さが文字通り目立っていた」

 

 

マエストロは窓の外を視線で指差す。

 

要塞都市エリドゥの空はまだ透明感のある青の空だが、城壁を境目とした外側の空は灰色に満たされている。だがこの灰色すらもマエストロは贋作と評を下した。その意味は…

 

 

「この世界は奴のエピローグだ。この世界で奴が敵とみなしたシャーレの先生とやらを倒し、世界に歪みを生み、この世界を灰色に彩らせ、この世界にピリオドを打ち、そうして地下生活者の渇望と共に完成させた世界。だから私はこの世界を【解釈】する事で奴の筆を辿ったが…なんとも誤魔化せぬ色黒の書き残し。作品を生むのは勝手だが、綴った後始末もできない大人とは随分と笑わせてくれる。黒服よ。本当にあれがゲマトリアの人物か?まるで子供部屋ではないか」

 

「それでもフランシスはゲマトリアの起爆剤を欲して地下生活者を解放した。まあその後は地下生活者から癇癪を受けてフランシスは半殺しに合い、そのまま生死不明になりましたが…いやはや、あそこまで未熟とは、クックック…」

 

「違う意味で起爆剤じゃねーかよ。しかもその場で爆発してるやん。あほくさ」

 

 

てかまた知らない名前が出て来たな。まあ間違いなく子供を食い物にして平和を乱しそうな奴の可能はあるだろう。帰った後はコイツも要注意人物としよう。はー、めんどくさ。

 

 

 

「クックック、しかしまさか並行世界からやって来たマエストロが混沌の領域を明かしてしまうとは全くもって想定外だ。これも正当化の色彩から受けたインスピレーションが芸術家の解釈を助長させたのだろうか?ああ、それとも!それともだ!マエストロ!貴方は色彩と共に到来した事で崇高に至ったか?無論、仮の形でも構わない!ベアトリーチェが成せなかった果てと知覚を言語化できるのならば是非教えて欲しいっ!さぁ!さぁ!!さぁあ!!」

 

「朝から元気すぎるだろ、この大人…」

 

「しばし落ち着け黒服。私とて未だ己が未熟者であることを自負している。まだカナタのように己を行き届かせてないのだ。マエストロの名も確立の途中である。存在証明が容易くないことくらい黒服もよく存じているはずだ」

 

「クックック、確かに。それは大人が死ぬまでの課題ですからね。私ですら未だ道半ば。だから探究を続けなければならない。ええ、そうですとも。このような場所で廃れるつもりは更々ありませんよ。ピリオドと思われた独りよがりにやっとネクストタイトルが訪れたのです。この観測を逃すほど私は不出来に収まるつもりはなければ、このまま灰色のエピローグ飲み込まれるつもりなど更々ない」

 

「同感だな」

 

 

クックックと、カタカタと、それぞれの個性を鳴らしながら大人達はこの現状を打破しようと情報を共有する。敵になると厄介だが味方になると頼もしいのはどの世界にもあるんだな。

 

 

 

「だからこそ月雪さん。貴方の助力に感謝しますよ。人のまま健在に模った正当化の色彩が味方にいるのはこの上なく頼もしい。それに今回の反撃は貴方抜きでは恐らく成しえないだろう」

 

「…それは先生に失礼じゃないか?」

 

「先生は確かに救世主です。ベツレヘムの星の下で巡り落ちた奇跡。私もあの聖人の活躍を見てきました。しかし救世主がイコールとして神様にはならない。先生もまた人間で沢山です」

 

「…」

 

「その先生は数ヶ月の眠りにいた。目覚めることは出来ましたが、まだ肉体もろもろ本調子ではない。意識もまだ安定していない現状、救世主を呼び起こすという本懐は果たせても私達はまだエピローグに揺らされる立場なのですよ。だから月雪カナタというイレギュラーは地下生活者に対して強めの抑止と牽制になる。この【到来】はこの世の恐怖を裏返す奇跡の始発点になるでしょうから」

 

「俺は売られた喧嘩を買う…と、正当化させた上で地下生活者って奴を引き摺り下ろすだけ。だがエピローグの果てに先生がいなければキヴォトスの調和は不確かなんだろ?そんで持ってシッテムの箱も先生のみ権限がある。ならキーマンとなる先生が必要不可欠」

 

「ええ、その通りです。そもそもこれは力だけでなし得る解釈に終えない。物語(あす)の続きを望む者で書き換えることが重要になってくるでしょう。本来なら()()()()()()()がキヴォトスに存在したのですが、その生徒も堕落天使と化し、この世界から離れ堕ちてしまった。ならば補習授業部の担任として物語を曲解することに成功した先生が介入しなければこのエピローグは止まらない。故に中々に厄介なのですよ。この戦いは」

 

 

ダンジョンを進んでラスボスを倒す!……だけで終えられるならこの騒動はどれだけ楽だったか。

 

 

この世界は言わば、ご都合主義に書き換えられてしまった世界。

 

それは地下生活者がキャンペーンを欲するままに世界をほじくり回した結果として、このキヴォトスは灰色を迎え、生徒にとって楽園だった世界は失楽園(バッドエンド)として終わりを迎えようとしている。

 

そのキャンペーンとやらを防ぎ、世界を取り返すには地下生活者を舞台から引き摺り下ろし、そこに成功体験(ハッピーエンド)を経験している先生がこの世界のエピローグを取り消し、物語の続きを望ませなければならない。そのため先生の意識が目覚めさせる必要があった。

 

 

てか、先生を目覚めさせないと普通に詰む。

そりゃキリノ達も必死になるわ。うん。

 

 

 

 

__これは力の戦いではなく権限の戦い。

__都合の奪い合いである。

 

 

 

 

 

「改めて聞くと、かなり厄介だな…」

 

「カナタ、この世界はそれだけのご都合主義が押してきた。ならそれ相応に押し返せる理由と都合をこちら側も秘めなければならない。これは銃撃だけで済ませられる子供の喧嘩じゃないことを今一度知った方が良い」

 

「月雪さん。貴方は周りの生徒達と違って己の存在証明を確立させた成功体験者です。それはシッテムの箱も触れるくらいに大人としての自立心があり、自己完結してる人間です。そしてSRT特殊学園という現役兵であることも聞いています。しかしこのエピローグ相手にワンマンアーミーはそう容易く向かい入れない。もう聞き飽きた条件だと思いますが必ずその後ろに先生という完全者が必要になる。何せこのキヴォトスではソレばかりが存在証明たらん奇跡かつ軌跡として生徒と紡いできた青春物語(ブルーアーカイブ)なので」

 

「奇跡かつ軌跡か。フランシスが顔を顰めそうなご都合主義だな黒服」

 

「約束された存在ですよ先生というのは。この世を捻じ曲げる特異点となり、もしくはピリオドにもなれる。フランシスが気に入らないのは確かですね。ま、現在はその顰める顔もありませんがね。クックック」

 

「俺はフランシスって奴がどんな存在かは知らんが、でも生徒達が生きるキヴォトスでは青春物語(ブルーアーカイブ)に溢れんばかりのご都合主義(ハッピーエンド)で上等だろ?ならば大人の都合で生きねぇよ」

 

「クックック、なるほど。もしかしたら貴方もこの世界ならば先生の器たらん存在かもしれませんね。興味深い」

 

「さてね。ただこのコーヒーのようにビターやバッドエンドだけに『解』を望むというのならそのまま理想を抱いて溺死すれば良い。甘味すら愛せない奴に世論も営みも語る資格は無いと俺は思うな」

 

「おや?ハッピーエンド主義者の貴方にとってそのコーヒーは苦過ぎましたか?」

 

「夢見を抱きすぎるのも危うい。だからこのコーヒーは現実主義へと引き戻してくれる程度に丁度いい苦味だと、そう言っておく」

 

「クックック、それは光栄ですね」

 

 

まあでも、ほのかに甘みがある白鳥のコーヒーの方が好きだな。理想主義を込めたシュガースティック一本分は俺好み。しかし現実主義な苦味も忘れない白鳥が淹れてくれるコーヒーは確かに美味しんだよ。帰ったらまた飲みたい。

 

 

 

「ブリーフィングは昼からだろ?なら俺は時間までしばらく外すよ。あと黒服。コーヒーご馳走」

 

「ええ、お粗末さまでした」

 

「カナタ、もしやエリドゥの外か?」

 

「要塞都市からは出ないよマエストロ。ちょいと理解者と擦り合わせを行うだけ……ま、これは俺だけの都合だから、マエストロはあまり気にしなくて良い」

 

「承知した」

 

 

 

席を外して、紙コップをゴミ箱に投げ入れ、エントランスの外に向かう。

 

 

すると途中、寝起きのエイミと鉢合わせる。

 

どうやら久しくグッスリと眠れたようだ。

 

心なしか顔色が良い。

 

 

 

「おはよ。それでカナタはどこに向かうの?」

 

「先生のところだ」

 

「先生?うーん。できればあまり先生を起こさないで欲しいかな?眠り続けた肉体の回復に勤しんでいるから。意識も安定してないし」

 

「もちろん分かっている。そして先生に直接的は用はない。用があるのは…まあ、その傍らかな」

 

「傍…??もしかしてキリノの事?それなら別室だよ??」

 

「キリノじゃない…と、いうより先生の傍ら=キリノって認識なのか?ココでは」

 

「うん。だってそれだけキリノは特別な生徒だからね。更に言えば噂だとキリノは先生と大人の一歩を踏んだらしいよ。やるねぇ」

 

「………はい?」

 

 

どゆこと??

大人の一歩??

え、なんですかそれは…?

 

 

エイミから飛び出した内容に俺は脳が混乱を起こしていると、廊下の奥からダダダッ!と走ってくる生徒が一人。

 

噂をすればなんとやらだ。

 

 

 

「エイミさぁん!ストップです!!」

 

「あ、噂をすればキリノだね。おはよー」

 

「あっ、はい!おはようございます!…じゃなくて、ですね!その噂は嘘ですから!本官は先生とは別にそう言うわけじゃありませんから!?」

 

「でもキヴォトスでは先生と生徒の恋愛が犯罪じゃないんでしょう?それを警察官だったキリノがわざわざ言っているってことは、つまりそう言うことじゃないの?」

 

「ど、どう言うことですか!?ちょっと待ってください!だからと言って本官はっ!!」

 

「でも聞いた話ではライフセーバーの訓練中で人口呼吸を建前に思いっきり先生にファーストキスを捧げたらしいね?と、言うか盗聴してたコタマがそう言ってたよ。お熱だね」

 

「と、ととと、盗聴!?ヴァルキューレ警察を相手に堂々と盗聴行為ですか!?ダメです!いけませんよ!そんなことは!?」

 

「盗聴やハッキング程度ならミレニアムでは日常的だよ。まあ、そんなことよりも…キリノ?初めてのキスってやはり酸っぱい味がするのかな?本でしか読んだことないから少し気になるんだよね」

 

「ほ、本官は存じませんよ…!本当です!だってあの時はプールの漂白剤が強めでしたので酸っぱさなんてのは何一つ感じられませんでしたので…!」

 

「なるほど……でも、漂白剤ってことはやっぱりその時のキスの味は知っているんだ。へー、ふーん。キリノって中々大胆なんだね」

 

「!!?、ち、ち、ち、違いますっ!違いますから!大胆でもなんでもないですよ!あの件は人口呼吸の訓練でうっかりと手を滑らせたしまっただけですから…!だから…そう!あれは事故です!事故現場ですから!全て不可抗力な事件なのです!」

 

「でも、したことに関しては否定しないんだね」

 

「!!!」

 

 

より一層慌てふためくキリノ。

 

興味半分、羨ましさ半分のエイミ。

 

いかにも、女子生徒って会話だ。

 

 

そんな俺は邪魔をしまいと百鬼夜行仕込みの忍足で二人の元から離れ、そのまま先生が眠る病室まで向かう。にんにん。

 

 

そして扉を開け、先生の眠る病室に入る。

 

眠りを妨げない程度の光。

 

あと薬の香りもする。

 

 

 

「あった。やはりココか」

 

 

 

俺は探し物を見つけると、それを手に取る。

 

側面の小さなボタンを押し、起動する。

 

そして、タブレットに語りかけた。

 

 

 

 

「来たぞ___ CARINA(カリナ)

 

 

 

充電器に繋がれたシッテムの箱が反応した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァー、ザァー、と均等た届く波の音。

 

踏みしめれば砂浜もジャリと音が鳴る。

 

電子機器の世界の筈なのに随分とリアリティがあるのはこれもシッテムの箱だからか。

 

 

 

「やはり、カナタさんは、そうなのですね…」

 

「カリナの情報が正しいのなら月雪カナタという生徒は唯一、その箱舟にしか存在しないイレギュラーなんだろうな…」

 

 

俺は開口一番、シッテムの箱の管理者であるカリナに『月雪ミヤコ』って生徒がキヴォトスに存在するかを確認してもらった。

 

するとカリナは「シャーレの当番として登録されています」とすぐに答えてくれた。

 

その答えに対して俺は「ならばカナタという名の月雪ミヤコの兄は存在するか?」と続けて尋ねてみた。

 

しかしその質問に対してカリナは「月雪カナタという在校生徒は存在しません」とすぐに答えが返ってきた。どうやら『月雪カナタ』という生徒はカリナが既に調べていたみたいだ。

 

なのでカリナは即答した。

 

 

 

「まあ、大体分かっていたことだけどな」

 

「その……カナタさんも、もしかして、私達と同じ、なのですか?」

 

 

 

私達と同じ__それは何を意味するか。

 

俺は大体のことは察している。

 

ブルーアーカイブって名の世界であること。

 

しかし並行世界が存在すること。

 

何より白鳥が『解』を得ようと必死なこと。

 

そしてここに居る彼女も、ソレであること。

 

だから既視感だ。

 

認識する者同士として、俺とカリナは同じ。

 

それはつまり、別の白鳥である意味を。

 

 

 

「俺はそちら側の役割じゃないよ。コレは別枠として招かれた魂。まあ外から理解得ずに到来した側…の、設定だから一応は色彩としての扱いになるけど、まあそこら辺は気にするな。もう終わったことだから」

 

「…月雪カナタ……学園都市キヴォトスの生徒名義に当確しない生徒の名前……そちらでは、何があって…?」

 

「分からないな。気づいたら月雪ミヤコの兄としてこの身は注がれた。どのような意図があってこのようなイレギュラーが用意されたのかは不明なんだ。だから調べようがなければ、否定のしようもないんだ。でもこのイレギュラーは正当化してきた。月雪カナタはキヴォトスという学園都市に健在だと。だから俺の方ではコレが当然とするし、ソレが普通であり、常識と繰り返した」

 

「そうやって、貴方は確立を済ませたんですね…」

 

「別にひっそりと謳歌しても良かった。百鬼夜行で茶をしばきながら、たまにクズノハのケモ耳でもモフって、生徒を卒業したら茶畑の運営でもしながら話芸を楽しんで、そのまま百鬼夜行自治区で枯葉と共に骨を埋めてもよかった。けれど夏祭りで分岐点が現れた。俺を本当の意味で非常識として認識する者がそれはもう嬉しそうに月雪カナタを捕まえてさ、花火の下で言葉を交わしながら、縁側で紡ぎながら、擦り合わせながら、そして…求めてきた。まだ錆切っていた頃のヘイローに口付けをしてまでこのイレギュラーに夢中になって、私と共に来て欲しいってさ…」

 

「…」

 

「本当にアレが分岐点だったよ。彼女との出会いが理想主義の始まり。刹那主義に終えまいと眼を凝らし続ける小さな躰と使命の限り。俺はソレがいつしかの追憶(ぼく)と重なって見えて仕方なかった。そして色彩(ヘイロー)の口付けは恐怖としての扱いではなく、子供の願いにならんとして見えたから、俺は月雪カナタで正当化するために白鳥の案内を続けることにした」

 

「案内ですか…」

 

「花火は刹那的だ。一瞬で終わる。しかし俺は永遠と彼方(カナタ)先に打ち上がり続ける刹那主義に終えない唯一の花火として視てもらうために彼女の案内を続ける。ソレが今SRTにいる意味なんだよ。まあ一年の頃に国が陥落するレベルで弾け過ぎて怒られたけどな。後悔はしてないけど」

 

「ふふっ、それは……目が痛くなりそうですね」

 

「画面に張り付く観測者(プレイヤー)なんだ。瞬き厳禁だよ。さもないとこのイレギュラーが次何を浮かせるか知らない。そして俺自身もこのストーリーテラーを存じない。ひたすらに月雪カナタをしているだけ。ソレが並行世界に存在する『理解されない存在』なんだ。な?こうして聞くと俺って色彩だろ?」

 

「そうですね。確かに、私達からすればカナタさんは充分に色彩で……ああ…だから、そちら側の彼女は…」

 

「俺を認識した。彼女も…白鳥も…つまり君のように()()()()()だから…」

 

「……少しだけ、羨ましいですね」

 

「何を言うか。君には先生がいるだろうに」

 

「先生のことは誰よりも頼りにしています。これは本心です。けれどあまねく限り存在する無数の二度目に於いて、カナタさんの世界が綴るアーカイブは何処よりも特別です。無論、似たような並行世界は存在しますが、認識する側として地に足つける理解者は相当な『解』としてその二度目を大いに意味齎す。だから私はそこ芽生える願いと奇跡を喜びながらも同時に羨ましさも感じてしまいます…」

 

 

塩っけを感じさせないほんのりも甘めな海風が頬を撫で、俺の隣に立っているカリナは彼方先に続く水平線を眺めながら金色の髪を靡かせ、同時に袖をふわりと揺らす。

 

その腰元には傘の形をした銃が握りしめられている。それからその銃は若干トリニティチックに神聖な色合いをしている。どうやらこの世界でも彼女のルーツがそうみたいだ。つまりウリエと同じってこと。

 

 

 

「なら、今だけはこのイレギュラーをこの世界にお貸しするよ。白鳥もソレを良しとした。だからしっかりとその眼で視ておけ。正当化の色彩は月雪ミヤコという天使を滅ぼしてくれた地下生活者に喧嘩を売られたと大層お怒り様。この到来は今だけ本当の【恐怖】にしてやる。大人の責任を果たせない独りよがりは俺が責任を持って___消してやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”随分と穏やかじゃない生徒さんだね ”

 

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

「!?」

 

 

 

後ろから聞こえた声。

 

俺たちはその声に振り向く。

 

そこには。

 

 

 

 

 

「やぁ、お疲れ様、カリナ」

 

「せん、せいっ!」

 

 

 

 

表世界では病院服だったがこの世界では連邦生徒会の制服で姿を現した、人間の大人。

 

それは__シャーレの先生だ。

 

 

 

「ごめんね。せっかく起こしてもらったのにすぐにまた眠ってしまって。まだ体が本調子じゃないんだ」

 

「いえっ…っ、いえっ!!そんなことはありません!先生が戻ってきてくれて私はとても嬉しいですよ!嬉しいです!」

 

 

水平線を眺めていたカリナは銃を放り投げて先生の元に飛びつく。すると先生はふわりとカリナを受け止めるとその頭を撫で、あやす。

 

随分と手慣れている姿だ。

 

あと手つきも、撫で慣れているな。

 

 

 

「それで___君がカナタ君だね?キリノから話を聞いてるよ」

 

「そうか。あと悪いな、挨拶が遅れて」

 

「ううん。目覚めの際に可愛い生徒達を優先してくれたからね。むしろ謝るのは僕の方だね。僕の意識を繋いで救ってくれた恩人なのに」

 

「気にするなよ。皆が先生の目覚めを待っていたんだ。むしろ蔑ろにしていたら許さなかった」

 

 

俺がそう言うと先生は苦笑いしながら「なかなかに手厳しいなぁ」とこぼす。

 

それはともかくとしてカリナの頭を揉みくちゃに撫で回し、カリナも蕩け始める。

 

この人、絶対暇な時に撫でましてるだろ。

 

 

 

「先生、意識はどうだ?」

 

「肉体がまだ追いついてないけど、でも隔離された感覚はないよ。ちゃんと起きられる状態。これも全部君のおかげだね。ありがとう」

 

「全部は言い過ぎだ。俺は色彩としての役割を果たしただけ。この件で一番頑張ったのは中務キリノだろ?先生のために片道切符を覚悟して世界を跨いできたんだ。彼女はすごいよ」

 

「うん、その通りだね。僕の自慢だよ。いつも彼女に助けられてばかりだ。彼女には本当に頭が上がらないね」

 

「そう思うなら次は漂白剤で誤魔化さずにちゃんと感謝の証でも送ってやれ」

 

「ひょ、漂白剤とは…?」

 

「キリノ曰く、どうやらキヴォトスでは先生と生徒の恋愛は犯罪ではないらしい。なのでまあキスの一つや二つは許されるんだろうなぁ、と」

 

「ブフッ!!?」

 

 

お、黒服と同じ噴き出し方。

 

もしかして仲良し?……んな訳ないか。

 

でも年賀状は一番先に出したと黒服が自慢していたからそれなりの関係らしいな。

 

エイミ曰く、相容れないところは多大あるみたいだが。

 

 

 

「それで___先生はこのキヴォトスの状況を把握しているのか?」

 

「状況……うん、エイミから聞いてるよ。あと黒服からもね。随分と衝撃的なブラインドアタックに襲われては半年近くも意識なく沈んでしまったことをね。まったく、ゲマトリアというのは…」

 

 

かなり嫌そうな顔をしている。

 

過去色々とあったのだろう。

 

しかも今回はダイレクトアタックだ。

 

ソレ故にキヴォトスが9割滅んだ。

 

地下生活者の業はあまりにも深い。

 

 

 

「先生の目覚めを引き金に次は反撃に乗り出す予定みたいだけど…」

 

「僕がまだ本調子じゃないからね。先生として情けない限りだよ…」

 

「いえっ!そんなことありません!これも全部地下生活者という悪い大人が原因です!」

 

 

撫で回されて蕩け顔だったカリナも流石に先生の言葉を聞いてバッと頭を上げて否定する。

 

ヘイローも赤色だ。かなり怒っている。

 

それはともかく撫で撫では満喫する。

 

 

 

「カリナの言う通りだよ、先生。これに関しては全て直接的に危害を加えてきた地下生活者が悪いとする。しかも不意打ち紛いな爆撃すらも先生との真剣勝負の果てに勝ち得たと抜かしているらしい。やってることただの通り魔で笑えない」

 

 

ある意味、治安が終わったキヴォトスらしい爆破攻撃なんだけど、それを生身の先生に使っておいて「ウェェェイ!オレの勝ちィィww」と喜んでいる地下生活者。しかもこの不意打ちすらも先生との正当な勝負事として認識している救えない始末。これにはマエストロもクソガキだと苦言を呈していた。ワイトもそう思います。

 

 

 

「確かに許されない事だね。人に対して一方的に害を与えるなんて。ああ……でもね、それ以上にキヴォトスの子供達を……っ!私の…!私の可愛い生徒達をッッ!!よくもっ……!!」

 

「せん、せい…」

 

 

 

堕落天使は二度と戻らない。

 

つまり多くの生徒は……死んだ。

 

地下生活者のご都合主義(エピローグ)によって。

 

 

 

「僕もね…できれば今すぐそいつを殴り倒しに行きたいくらいだよ。けれど長く寝たきりだった肉体はまだ目覚めた意識に対して追いついていない。とても歯痒い思いだよ…」

 

「せんせい…」

 

 

 

カリナの腰裏で、グッと手を握りしめてその無力さに苦しむ___普通の人間。

 

なんの力も持たず【責任】だけが彼の命。

 

その拳で殴ることも、晴らすことも出来ない。

 

 

 

___だから。

 

 

「こうして俺がいる。安心しろ。先生の代わりに俺が地下生活者を殴り倒してやる」

 

 

 

波が荒立つ。

 

まるでこの情動に呼応するが如く。

 

 

 

「カナタさん……」

 

「月雪カナタなら…とっとと元の世界に帰るべきだろう。キリノを送り届けた時点でSRT所属の人間としてこの責任は終わった。でも昨日の時点で意味は変わったよ。今ここにいる俺は正当化の色彩であり、それは大人に成りきれない独りよがりの子供によって引き起こされた正しい恐怖の体現者、この身は到来したんだ。この世界にピリオドを打った独裁者に向けて。落とし前は付けてやらんとな?先生」

 

 

ベアトリーチェの時と同じだ。

 

子供のためにならない大人は消す。

 

このキヴォトスで、生徒(こども)のための世界でそんな大人は生かしておく理由が無いから。

 

 

 

「その…落とし前ってのはわかるんだけど…もしそうなると…カナタ君を狙ったキリノの事も…?」

 

「キリノは気にしちゃいねぇよ。まあ治療中に一度だけ説教してるからこれ以上のお咎めは不要だな。だから安心しろ。全てのヘイトは地下生活者に向いてるから。絶対に子供部屋からアイツを引き摺り下ろしてやる」

 

「あの…カナタさん、その事なんですけど。地下生活者は私達では届かない場所に…」

 

「ああ、それなんだけど、地下生活者の位置はマエストロがおおよそ把握してくれた」

 

「え"…!?」

「…マジ??」

 

「本当だぞ?マエストロが近所迷惑なクソガキの家は特定したと言ってた。それで黒服には一足先に共有してあるが、改めて午後のブリーフィングで地下生活者の位置情報を伝える。だから反撃はここから。そのためにはこの世界の成功体験者となる先生の力が必要になる。午後はちゃんと起きられるよな?」

 

「起きるよ、もちろん。半年分の寝癖もちゃんと治してね」

 

 

既にほとんど計画は立っている。

 

黒服主体なのはやや不安だが、ここまで付き合った大人だ。

 

責任をもって結末まで付き合うだろう。

 

 

 

「後は盤面を整えるだけ。カリナもしっかり充電しておけよ。俺たちはもう灰色に少しも怯えない。それでも震えが子供を嘲笑うならこの琥珀色を頼りにしてくれ。俺は彼方先に代わろうと子供の味方だから」

 

 

カナタ君……君は一体…?

 

 

 

俺はシッテムの箱から出るためにゆっくりと意識を手放す。

 

波風は落ち着き、足跡だけが残ろうとする。

 

 

 

「カリナ、色々と話せてよかった、ありがとう」

 

「カナタさん……いえ、こちらこそ!」

 

 

 

 

潮風と共に意識を切り離し。

 

シッテムの箱を出る。

 

僅かに、琥珀色の残光を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心強い……人ですね……」

 

 

「カリナ、その、()()……ってのは…」

 

 

「……たまたま…同じ苗字ですよ、先生」

 

 

「そう…か。うん………わかったよ___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__元、連邦生徒会長さん。

 

 

__はい、先生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これも一つの、ブルーアーカイブ。

 

 

 

 

つづく

 

 






この世界の連邦生徒会長はシッテムの箱の管理者(カリナ)になっても己が生徒会長だったことを覚えており、また先生にも自身が連邦生徒会長であることを明かした世界線であったりと、彼女なりに『解』を探そうとした結果である。そんな先生も事情は深くは聞かず「カリナも私の可愛い生徒だよ」と受け入れた。まぁそれはともかく幼児化によって味わえる頭ナデナデを非常に楽しんでいるカリナはそれはそれで良い空気を吸っている。ちなみにカリナは連邦ちゃんで合ってる。そういう世界線。人をダメにするクッションがお気に入り。



因みにこの世界は比較的平和な世界線であり、プレ先は来ていなければ世界も滅びも迎えてないし、先生も全裸で落ちてもないし、もちろんクロコもいなくて、カヤのクーデター事件までは原作通りに進んだキヴォトスらしい平和な世界。だが物語の変わり様にインスパイアを求めるフランシスが「今のキヴォトスとゲマトリアは暇だから起爆剤欲しい」ってことで地下生活者を解放して始まった灰色の世界。やっぱゲマトリアってクソっすね。ちなフランシスは地下生活者の癇癪によって半殺しにされてそのまま滅んだし、一方その頃、純粋に芸術作りを楽しんでいたマエストロは不幸にも黒塗りの恐怖にぶつかってしまい一緒に滅んでしまった。やっぱゲマトリアってクソっすね。




じゃあな!
またな!!
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