何度この場所に足を運んだか。
予定があっても、予定がなくても。
案内役だった俺は歓迎される。
ほのかに香るいちごミルクを交えながら美味いコーヒーをお揃いのマグカップに淹れて、百鬼夜行から続く彼女との関係はこうして今も延長されるんだ。
だから彼女の名前は__白鳥。
それが今のプレイヤーネームである。
「どうですか?SRTの新人達は」
「流石の目利きだな。俺をSRTに推薦させただけある。やはりプレイヤー目線かぁ」
「否定はしませんがあまりメタく納得されると少し悲しくなりますよ、カナタくん」
「反則行為上等な二度目なんだろ?互いにさ。俺はそんな白鳥を頼もしく思うけどね」
「二人揃えば最強って事ですか?ふふっ。まるで初代のプリティーでキュアキュアなコンビですね」
「いや待て、比較対象おかしい。あれはまた無理あるって…」
インフレ?なにそれ美味しいの、を素で行く唯一無二なコンビに遠い目をしながら机にもたれかかり白鳥が淹れてくれたコーヒーを味わう。彼女が自慢するだけあって淹れてくれたコーヒーは本当に美味しい。文句なし。いや連邦生徒会長を卒業できたら喫茶店開けよ。このコーヒーが飲めるなら絶対に行くからさ。マジで。
「そういやさ。晄輪大祭の選手宣誓って白鳥が俺に推薦したんだよな?そうだろ?」
「あら、バレました?」
「晄輪大祭までそこそこ期間あったのに選手宣誓の代表を早めに取り決めるとか絶対誰かのゴリ押しがあったと考えて、まあ恐らく白鳥なんだろうなぁ、と推測したまで。男性キヴォトス人が珍しいって理由だけで選ぶわけ無いだろうし」
「でもカナタくんが適任だと私は考えての上ですよ?それに本大会の運営部も元からカナタくんで問題無いと頷いてました。なら早めに伝えようと働いたまでです」
悪びれる様子もなく、むしろ頭の上にピロン!と音符マークでも飛び出させたかの様にご機嫌そうな表情でコーヒーに口をつける白鳥。
そんな俺は生徒会長直属の兵士なので最高権限者となる彼女に逆らえるわけもなく、この横暴に応える他あるまいか。
まあ選手宣誓に関してはウリエからテンプレートなる参考資料を貰ったので当日はなんとかなるし、ある程度考えている。なので言うほどの心配はしてない。というか任せるにしても早めに伝えてくれたことは非常に助かるのでなんとも言えん気持ちである。ちょっと面倒に感じたのは秘密だが。
すると__コンコン。
扉からノックが鳴り、ガチャリと扉が開く。
「失礼します生徒会長、前日お伝えになった報告をまとめたのでお持ちしました」
「ありがとうねリンちゃん!適当にそこら辺に置いておいて」
「わかりました。あと…業務中はリンちゃんじゃなくて七神と呼んでください生徒会長。ココには来客もいらっしゃるのに…」
「…だってよ?会長さん」
「えー、リンちゃん呼び、可愛いのに」
「可愛くないです」
あからさまにため息を吐いて非難する少女。
見たところ一年生だろうか?
白鳥にも後輩が出来たと言うわけか。
「あ、カナタくんに紹介するね。彼女は…」
「初めまして月雪カナタさん。そこの生徒会長が先に言いましたが、改めて七神リンと申します。今年連邦生徒会に編入して来ました。あまり会う機会は無いと思いますが、どうかお見知り置きを」
「初めまして。ご存知の通り、月雪カナタだ。SRT特殊学園所属Rabbit小隊の隊長をしている。まあたった一人の編隊なので隊長と扱うには微妙なところだけど」
「ラビット…小隊?」
「こいつの趣味でウサギになった。
「仲間の元にぴょんぴょん駆け付ける意味ではウサギも似た様なものでしょ?仲間意識の強いうさぎさん!カナタくんにピッタシ!」
「ちょォぉと感性がわからんけど、まあその感じならこの会長の素っ頓狂も納得いくだろう?七神リン」
「ええ。今ので全て理解しました」
「ちょっと二人とも!なんで私を材料に仲良くなっちゃうかな!?」
シンパシーというべきか、互いにこの会長の苦労を分かち合える。そして前から会長はこうなんだと七神リンもどこか諦めたかの様にため息を付いてしまう。可愛がられてるのはわかるけど本人は大変そうだ。
俺はSRTにいるから頻度は少ない(それでも月2回以上は直接学園に訪問してくる)けど七神リンはこれから先もこの調子なんだろう。
まあ、でも。
「会長とは仲良くしてくれよリン。コイツのかまってちゃんは実は寂しがりやから来てるし」
「カナタくん!?」
「わかりました。では適度に構いますね」
「リンちゃんが冷たい…!むむっ……ふーんだ!そんなこと言うのなら来年はリンちゃんを行政官にしてもっと構わせるもーん!」
「会長!?」
「じゃあ俺、帰るわ」
「なっ、待ってください月雪さん!掻き回すだけ掻き回して貴方は逃げるのですか!?」
「うさぎは掻き回す生き物だけど、俺はウサギではないので、コレにて失礼」
「どう言う意味ですか!?って、消えた!?」
「バイバーイ!カナタくーん!また遊びに来てねー!コーヒー淹れて待ってるからー!」
「あ、遊びにって!っ、あのですね!会長はもう少しお立場と言うものを!」
「うわーん!リンちゃんが怖いよー!」
「____!?」
おちゃらけていた少女は空に振り向く。
心臓をその指で直接なぞられた冷たさを感じて。
「……会長?」
まだ未熟な少女は問いかける。
その嘆きはその者に届かないから。
「……気の……せい?」
「あの……どうかなさいましたか?」
「コレも強いられたストーリーテラーなの…?」
「会長?あの…急に何を?」
急変したその雰囲気に少女は戸惑う。
しかし生徒会長は空を…いや。
このキヴォトスを視る。
ナニカ……
何か、楽観視できないナニカがいる。
それは何なのかはわからない。
だが……この身は直感する。
恐らく……いや、間違いなく。
この身に余る【解】によって刻まれると。
「……七神さん」
「え……あ、はい…何でしょうか?」
「少し早いですが、貴方にとある計画書の一部を渡します。もしソレが起こってしまった場合、行政官としてその役割を背負った時に疾くと進めてほしい内容です。ただしこの件については他言無用です。恐らくキヴォトスの命運に関わるだろう案件ですから」
「!!」
その眼は案内される【白鳥】ではない。
その眼は__
この二度目を認識する者である事を……
♦︎
ある時は__裏と繋がりあった違法な取引を邪魔されてしまった。
ある時は__サイロに隠された武器保管庫を制圧されてしまった。
ある時は__海を渡ってきた奴らに海上基地を壊されてしまった。
ある時は__
ある時は__
ある時は__
我らはSRTに幾度なく邪魔された。
その中でも、一際目立つ、とある存在。
ソイツはあまりにも気味が悪い。
その言葉に尽きる。
悪い大人が何かをする度に到来するその生徒は本来ならば子供がまだ持たないだろう眼を持って我らを砕かんとする。
それを、何度も、何度も、何度も、だ。
その
__月雪カナタ。
我がカイザーコーポレーションの危険分子。
ただ強いだけの子供ならば脅威ではない。
我らは切り離し、何度でも再臨する。
しかし、アレは違う。
悪事を浮かされ、裏返される。
全てを無意味とするような脅威だ。
大人を挫かんと役割に投じる異常者。
気味が悪い。気味が悪い。
なんとも、気味が悪い、子供なんだろうか。
だから、お前は間違える。
この我らに間違えてくれる。
ただの子供ならば食いちぎってやった。
我らはそれをできる側にある。
しかし奴はその大口の顎を砕き返してくる。
それを幾度なく、見てきたから。
故に認めよう、月雪カナタ。
カイザーコーポレーションに於いて。
一番厄介な【先駆者】であると危険視する。
お前は子供ではない。
我が社にとって最大の敵である。
だから___
「キヴォトスらしく、銃口と引き金でその身に訴えてやろう。コレはお前の【責任】だ。子供をしないその身がままに正当化し続けてきたそれは対価であることを知る日が来る」
そして__
残されたこの産物を使って我らカイザーコーポレーションがこの世界の命を掌握する!!
無名の司祭が
その名は__衛星レーザー砲!!!
「
悪い大人は喜びに叫ぶ。
この世界を【
「さぁ、宣言しろ。その血肉を以て__」
貴様の最後の声明となるのだからな。
…
…
…
コレが本当に正しいことなんだろうか。
もう虚しさを理由にしなくて良いはず。
到来したあの光が全てを終わらせた筈。
なのに何故…私はまだココにいるんだろうか?
「守月、やる事はわかってるな??」
「たい、ちょう…」
「ロッカーか、荷物袋でも良い。ともかくお前はカナタの眼に入る場所に無線機を置いて誘き寄せるんだ。そしたら会場から外れた場所まで誘導し、カイザーから渡されたこのミサイルで集中砲火して一気に撃ち殺す」
「……」
「アレから2年近く待ったんだ。アリウスの時のように暗い地下施設で月雪カナタを討つために準備してきた。この身に真実とする虚しさと怒りを忘れる事なく、堪えてきた…あぁ、なんとも虚しいなぁ。月雪カナタによって私達の真実を否定され、出た先で大人に踏み躙られ、こんなにも堪えなければ報われないとは、ああ、どこまでも虚しいなぁ」
「……」
使い古されたガスマスクの中には狂いきった眼と声が漏れ出る。眼に悪そうな薄い赤色の光に包まれた部屋の中で正気を疑わせてくれる。この環境はわざとだろうか?どうであれあまり長居したくない。訓練の時に用意される明るい部屋の方がまだ眼にも心にも栄養がある。
けれどブラックマーケットという場所で泥水の中で大人に踏み躙られて以来、もう外の世界は見ていない。ずっとこの地下世界にいる。ココは一体どこなんだろうか?アリウスの時となんら変わりない閉ざされた世界。良くなったのは寝床がボロ布ではなく寝袋になった事と綺麗な水で喉を潤し、体を洗える事か。食事もアリウスの頃に比べて栄養がある。ゼリー飲料で大体朝昼晩を済ます。むしろガサガサに乾き切ったパンが懐かしいくらいだ。
生活はできている。
読み書きもできるようになった。
私達に負債を負わせたカイザーは月雪カナタを討つための兵士として機能させるためにもある程度の教養は必要だとBDを垂れ流す。
ただ……それが、ひどく嫌になる。
「……」
「……」
「……」
参考資料として流れる内容に、それは表世界にあるだろう道楽や、人並みや、街並みを見る。
それが、それが…
あまりにも、苦しい。
この虚しさを押し除けて、行きたい。
とある少女が叫んでいた「明日が欲しい!」と願いたくなる。
「……っ…」
「なぁ、映像のあれ…って…」
「やめろ言うな…なにも…欲しがるな…」
何故??私達は……??
光の元に許されない??
どうして??私達は……??
到来したあの元に行けない??
私は、私は…
私は、私は…
私は、守月スズミ、は。
何故__ アリウスから始まったの???
「ねぇリーダー、月雪カナタを討てばこの対価は支払われるんだろ??そうなると…」
「ああ、ココから出れると聞いた」
「っ、なら!」
「そうだな。そしたら次はトリニティだ」
「!?」
「虚しさを忘れた同胞共を葬る」
「なっ…!」
私の仲間が一人、リーダーに問う。
そしてリーダーは躊躇いなく答える。
月雪カナタの命を持って後始末をするだけに飽き足らず、真実を忘れた仲間にも手を下す。
その言葉に尋ねた仲間は驚いた。
「私達は苦しんだ。その苦しみを忘れてしまった愚か者には粛清が必要だ。マダムの教えを月雪カナタ程度の奴にひっくり返されるなど許されて良いわけがない。忘れたのか?私達が虚しさに苦しんだのやアリウスを地下に追い討ったのは全てトリニティを発端とする、表にある光が原因なんだよ。なのにそれに縋り生きる??ッ、ふざけるなァァ!!!」
「「!!」」
「マダムは言ってた!!私達の統治者でるベアトリーチェは教えてくれた!!この虚しさは過去に光が地下世界に追いやったと!!私達はそれを強いられた!!強いられて生きてきた!!なのにその虚しさを押し除けて表世界の光に明日を欲しがるだと??アリウスの痛みを忘れるというのかぁァァ!!私達はこの痛みを背負って明日を見ずに虚しさを糧としてきたんだろう!!それを光程度で忘れるかぁ!!忘れんなぁァァア!!私たちがココまで苦しんだのは月雪カナタのせいだぁァァア!!」
継ぎ接ぎ、に、狂った怒りだ。
それは借り物の怒りだ。
私達は少なからずそれを知っている。
けれど虚しさを隣り合わせに生きてきた。
無論、私もそうだった。
だからその虚しさを真実にして生きてきたリーダーにとって月雪カナタはその真実を奪った側の敵なんだ。
別に___それで、良いんじゃないの??
だって、あの痛みは…
だって、あの苦しみは…
本来、隣にあるものじゃない、筈だよ??
アレを真実として頭を垂れ続けるべき見えない明日の訳がない、筈だよ??
なのに、何故そんなにこだわるの??
だって、だって…
もう終わった、真実なんだよ??
「守月…」
「っ、せんぱい?」
「コレが終われば私達は対価を支払い終える。そうすれば終わるわ…」
「!」
狂乱したように叫ぶリーダーを他所に、まだ私と同じくらいに明日の意味を知る先輩は耳打ちする。ガスマスクで声は響かない。聞こえるのは隣にいる私だけ。だから私はハンドサインで肯定として先輩の話を受け取る。
ああ、そうだ。
真実がどうであれ、私達は月雪カナタを討たなければカイザーから背負わされた負債を払い切ることはない。今は対価としてこの地下施設で管理されながら月雪カナタを葬り去るために準備している。そしてそれは2日後。
2年近くこの地下施設に居たと聞くが、そんな感覚はない。ちょっとだけ伸びた身長が時の流れを物語るけど、でもどれほどの時が流れたのかを把握する事は一切ない。ただ私達は生まれた時から強いられた虚しさと、求めることすら許されない明日に縛られながらこの日まで準備してきた。
ああ__確かに。
そう言った意味では、私達は未だ『虚しい』のかもしれないと、自問するんだ。
アリウスにいた時のように。
そして…
ザザッァー
ザザッァー
『聞こえるか?月雪カナタ。私達は君の大事なモノを奪った。返して欲しければシラトリ区の外区67-41の場所まで一人で来い。余計なことをせずにな。でなければその会場にある大事なモノ達の安全は保証しないだろう。時刻はこのメッセージから15分後だ。貴様にも忘れさせない。この虚しさの限りを』
リーダーの無線があの者の手元に入る。
その声色は、本物として耳を突く。
だからカナタは本気だと受け止めた。
カナタは上着を羽織り、駆け行く。
更衣室の扉を出て、廊下を急ぐ。
途中、無線に向かって仲間に指示を出す。
恐らく、この会場を守るためだろう。
だからカナタは一人で向かう。
本気の声は嘘じゃないと判断して。
「ごめん、なさい……わたしっ…は…」
潜入のために外しているガスマスク。
それがあったらこの涙を隠せるだろう。
でもその資格は恐らくない。
何故なら表世界で苦む痛みだ。
ガスマスクで覆い隠せない苦しみだ。
私は__守月スズミは。
「やはり……虚しい…のですか……」
逃れることができない真実に震える。
わたしも…
明日が………ほしい…
つづく
IQの無い奴がいると物語って進むよね!ってわかりやすい例ですね。良くある良くある。
あと守月スズミがアリウススタートなのは調べると分かる。確かにアズサと似ているなぁ、って気づく。
ちなみに守月アリウス概念がこの世界に適用されているのは所詮リセマラ扱いな「本編になれない(リリース前)の世界線」だから。これはその型を使った都合の良い二度目として扱われる。だから後書きでちょいちょい言われている『ブルーアーカイブゼロ』ってこの意味なんやろうね。知らんけど。
じゃぁな!
またな!!