なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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え?この作品を50話も書いてるってマ?




第50話

 

 

カナタは激怒した。必ず、かの純白無垢のアビドス生徒会長を分からせばならぬと決意した。カナタには状況がわからぬ。カナタは、砕け散った怪我人である。銃を構え、皆とSRTで活動して来た。だからこそ邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 

「はい!あーん」

 

「……」

 

「……ぅぅ…食べてくれないの…?」

 

「っ…あ、あーん!」

 

「!!……えへへ!はい、あーん!」

 

「…モキュ モキュ……」

 

 

 

しかし、その悪意は全く感じ取れない。

 

伝わるのは底抜けな優しさ。

 

だからこの状況が理解できぬ。

 

 

 

何故__

 

一人の少女の家に居候しているのか??

 

 

そんな疑問は数日前から頭の中で巡っているが、しかし、カナタは差し出されるスプーンに対して抵抗もできず口に放り込まれ、今日も彼女に手厚く看病されている。

 

しかしその甲斐あってか、栄養失調で弱り果てていた身体は元に戻りつつあり、栄養が確保出来ているおかげで衛星砲の光によってズタズタにされた神秘もゆっくりと修復出来ている。

 

 

だがそれでも完全回復に時間が掛かる。

 

故にカナタにとって体を休めれる屋根の下を提供してくれることは非常にありがたく、また固い地面ではなく柔らかい布団のお陰で睡眠の質も確保出来ていることは回復の助長に繋がっている。本当に助かっているのだ。

 

 

でも、でもだ。

カナタは何度も思う。

 

 

会ったばかりの見知らぬ男性を家に連れて看病するなどこの娘に危機感は無いのだろうか?

 

この女性は底抜けに優しく、そして太陽のように暖かいザ・お人好しだ。

 

食うか食われるかが正当化されているこのキヴォトスでは致命的過ぎる程に優し過ぎる。

 

優しさにも限度がある。

 

だがそれでもこの女性はその致命的過ぎる優しさを1ミリも曲げずに心の底から助けたい人を助ける。真っ白だ。純白無垢である。

 

 

 

「ご馳走様。卵入りの美味しいお粥だった」

 

「えへへ、お粗末さまでした」

 

 

こうして誰かに看病して貰ったのは何年振りだろうか。銃撃戦絶えない役柄にいた身であるがカナタは基本的に無傷か掠り傷で事を終えてきた。なぜならヘイローがダメージを浮かせるから。だからこうしてボロボロの体で床に伏せる機会などあまり無かった。

 

しかし大人の悪意によって消し飛ばされた結果このような状態まで陥い、そして混じりっ気のない善意に助けられた。

 

 

アビドスの現状は聞いている。

 

借金__億単位のアビドスの負債。

 

今いる二人だけでこの負債を返そうと奮闘している。

 

ならばこのような砂塵に埋もれそうだった男を救う余裕はアビドス高等学校に無いはずだ。

 

しかし、アビドス生徒会長の梔子ユメという少女は助けると選択した。たとえ、己らの現状が窮地に追い込まれていようとも誰かを助けるための心は絶対に失われてはならない。

 

普段から頼りにならなそうな少女でもそこに秘められた想いと信条は絶対に砕けることない。

 

 

それが__梔子ユメなんだ。

 

月雪カナタはそう捉えるに充分だった。

 

 

 

「あ、登校する時間だ!わたし行ってくるね!カナタ君はしっかり休んでね!」

 

「ああ。ありがとうな」

 

「ううん!いいの!いいの!えへへ!それじゃあ行ってくるね!!」

 

「ああ、気を付けていってらっしゃい」

 

「!!…うん!!いってきまーす!!」

 

「…」

 

 

本当に……偽りの文字一つない。

 

何か裏があったほうが気持ちは楽なんだろうと思ってしまう。銃社会で自由意志を取り決めるキヴォトスでは特にそう思える。

 

やはり梔子ユメという少女は非常に危うく感じられる生徒だ。心配されて助けられたカナタはむしろ心配する側になっていた。それは同じく、後輩の小鳥遊ホシノも四六時中そんな気持ちでいるのだろう。今日もユメに振り回される。

 

 

 

「……」

 

 

出された栄養剤を飲んだカナタはクジラのマークが付いた可愛らしい部屋着と共に布団の中に潜る。部屋着はユメのチョイスである。わざわざ新しいモノを買ってきてくれた。

 

また暑さ対策としてエアコンも学校から使ってないモノを持ち出した。

 

ただし取り付けたのはカナタであるが。

 

梔子ユメの優しさは100%であるが、その分のポンコツ具合も100%であるため取り付けれない彼女に変わってカナタが取り付けた。

 

ついでにエアコンの使用に室外機も必要である事もユメ忘れており、これもカナタが現在のアビドス高等学校から使われてない個体を引っ張り出し、自ら環境を整えた。

 

しかしこれだけ用意できるならアビドス高等学校の空き教室を使い、監視目的でカナタに休める場所を提供すれば良いのでは?

 

これに関しては小鳥遊ホシノと月雪カナタ本人もそう言っていたのだが、しかし梔子ユメは「病人はちゃんとした場所で看病しないとダメだよ!」と頑なに譲らない。

 

現在のアビドス高等学校は多少なり清掃は行き届いているが、それでも砂まみれ学園は衛生面で良い方とはいえない。しかしSRTの兵士であったカナタからすれば充分に休める場所だと思っていた。屋根があるだけでも大助かり。

 

しかしユメはそんな悪環境で弱り果てたカナタを休ませる事を大変嫌がった。

 

ならばインフラがまだ生きている家でも勝手に拝借するか?しかしこれもユメは嫌がった。

 

ではどうするか?

 

 

 

__私の家ならお部屋が一つ空いてるよ!

 

 

カナタとホシノは唖然とした。

 

いや、君ぃ??看病がためとはいえ一人住まいの女性宅に男性を連れ込むとは危機感は無いのだろうか??

 

ホシノはそんなアホな先輩に対していつもの調子で説教し、カナタも同調するように他を提案するが、しかしユメには無自覚な切り札があった。それは……

 

 

__ひぃん!…ぅぅ…だ、だめ、かな??

 

__っ!?!?

 

 

実は、梔子ユメは若干泣き虫である。

 

いや、若干では無い。

よく、涙目になって目を潤ませる。

 

後輩のホシノは毎回これに怯んでしまう。

 

ユメ本人に泣き落としのつもりはない。

しかしいつもコレである。

 

カナタはそれをなんとなく察し、そして彼女の底抜けの深い優しさを無碍にする事は涙目を前に厳しいと知る。

 

と…まあ、そんなわけで一人の少女の涙目に負けた二人は最終的に頷く他なかった。

 

同居について本人が構わないというのなら、そういうことで良いのだろう。

 

何よりユメは人助けに喜んでいる。

 

そして助けたいからそうしたいと言う。

 

だからカナタはそのご厚意に甘えた。

 

クジラのマークが付いた部屋着を貰い、アビドス高等学校から使われていないエアコンと室外機を取り付け、寝心地の良い布団も借り、毎朝お粥と昼用の作り置きのお粥、そして帰宅後のユメは早々に夜ご飯を作れば同時にお風呂も沸かし、部屋も掃除し、病人のカナタには何一つさせない。

 

百点満点の看病である。

 

 

 

「………あかん、 このままでは、 あかん…」

 

 

目元まで掛け布団を被っているカナタは軽く死んだ目をして呟く。休まる場所を提供してくれた事、またアビドス自治区にいる事を許してくれた事は感謝している。

 

今のカナタにとって頼れる先が早々に見つかった事は幸運だ。

 

こんなにも体を休めることに集中できるなど至れり尽くせりの極み。

 

しかしカナタは休みながらも何かできることがあればと考えていた。

 

ギブアンドテイクまではいかずとも最低限の誠意は見せたい。

 

弱っているとはいえ料理を作ったりなど住まわせてもらっている限りの事はできる。

 

そもそもアビドス砂漠を横断してきた胆力と根性がこの身には備わっている。

 

そこまで廃れ切ったつもりは無いんだ。

 

けれど病人だからと、怪我人だからといって梔子ユメは布団から出る事を許さないし、もし無理するとすぐに「ひぃん」である。

 

だから繰り返す。

 

 

 

カナタは激怒した。必ず、かの純白無垢のアビドス生徒会長を分からせならぬと決意した。カナタには状況がわからぬ。カナタは、砕け散った怪我人である。銃を構え、皆とSRTで活動して来た。だからこそ邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 

 

「………でも……中々に…回復が…なぁ……」

 

 

 

神秘を治すための神秘が、不安定だ。

 

 

 

 

「くそっ……アレほどなのか、あの光は…」

 

 

 

カナタは思い出す__あの衛星砲を。

 

 

肉体どころか存在すらも否定する光。

 

まるでキヴォトスの天使を消さんとする凶悪極まった意志だった。

 

カナタは__先駆者として到来した魂故に耐えることができた。

 

肉体は天使(カナタ)であるがその身に内包した色彩扱いの魂は光を受けても耐えることができ、また先駆者としての正当化を済ませたヘイローも抵抗力があった。

 

絶対に砕けんとする証。

 

だからアリウス兵にヘイローを重ねることで光から守ることができた。

 

 

それでも限界はある。

 

あくまで抵抗力であり、無力化ではない。

 

受け続ければいずれ削られ、砕け散る。

 

そう__受け続けたからこそ、その光によってズタズタされる時間も長引いてしまった。

 

だからその分の回復にも時間がかかる。

 

残った三つのヘイローも琥珀色は失われて錆切った色として床に転がり落ちている。

 

眠れない時は布やアルコールでヘイローを磨いている。いつもの習慣だ。

 

しかし奥底まで濁り切った錆色は6年前の時と同じ。磨いても磨いても濁っている。白鳥のプレイヤーネームを得た彼女も万華鏡のように彩っていると言ってくれたヘイローだが今やそんな面影はない。

 

これが今の月雪カナタだと証明するかのように濁っているんだ。ベアトリーチェと対立した時に済ませた存在証明も遠くに感じられ、テラーワールドにてセトの憤怒と対立した時の力も嘘だったかのように現実が押し付ける。

 

 

俺は__ここまで失落したのか。

 

 

 

あんなにも健在を追求し、それがキヴォトスという箱舟にて砕け散らない月雪カナタなんだと願い、そこから編み出されるストーリーテラーにも打ち勝ってきた。

 

ベアトリーチェが用意したバシリカの光に貫かれようとも色彩たらん解釈を済ませたことで帰還し、キリノテラーを通して始まったテラーワールドもセトの憤怒を名乗る神を灰色に抗った生徒達と打ち砕き、最後は衛星砲の光を一人受け止めアリウスの生徒を救ってみせた。

 

ここまで、己は貫いてきた。

 

前任者(こども)の涙を共にし、選ばれた故に成り代わる事を選んだあの日から、月雪カナタはこの箱舟で二度と砕け散らんとしてきた。

 

 

それが今や、この有様である。

 

 

 

「っ……ぁぁ…意識が…」

 

 

体が、脳が、回復を求めているのか、起きていられる時間が短くなった。

 

起きようと思えば、起きられる。

 

アビドス砂漠を横断している時も夏の暑さに持っていかれぬよう意識は覚醒して、何時間も起きていた。またエアコンの取り付け工事も注意力が散漫だと危険なため意識は集中していた。目的を持てば意識は覚醒する。これもSRTとして訓練を積んできた精神力によるもの。

 

 

だが、回復できる瞬間を知ると脳が絶対に休ませようと促してたまらない。

 

そうして強烈な睡魔に襲われる。

 

 

__求めるんだ。

0.1%でも健在だったあの頃へと。

 

 

この身体が【追憶(ねがい)】を求める。

 

月雪カナタはそうであったという証。

 

何故ならそれは『カナタ』が求めた物語。

 

そして『僕』が願った。

だから『俺』が果たさんとするんだ。

 

月雪カナタはもう砕け散らない。

 

砕け散らないんだ…

 

決して…

 

もう…

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「ぅ、ぁ?」

 

 

 

ノックの音。

 

目を開ける。

 

窓を見ると……既に夕方だ。

 

先ほどまで朝だった筈。

 

なのに昼は起きず眠っていたのか。

 

軽く8時間は経過している。

 

 

 

「起きてる?ええと…ただいま!えへっ」

 

「…おかえり、梔子さ__」

 

「…むぅ」

 

「……おかえり、ユメ」

 

「うん!ただいま!」

 

「…」

 

 

 

 

 

やっぱりこの娘は距離感がおかしい。

 

カナタはゆっくりと体を起こした。

 

 

 

弱り果てた身体は__まだ回復に遠い。

 

あの戦いはそれほどの代償だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誇りに思っている。

 

 

SRTである事を誇りに思っている。

 

 

選ばれたからこそ、ココに居る。

 

 

そう言ってくれた私達の先駆者がいる。

 

 

だからとても誇らしかった。

 

 

あれ程の者がそう示してくれたから。

 

 

 

 

 

なのに…

 

なぜ、こんなにも無力なのか??

 

 

 

 

「今すぐにリーダーを奪ったカイザーコーポレーションを叩き潰しましょう!!」

 

「そうです!!敵は明らかです!!アイツらはアリウスが原因だとしらばっくれてますがそんなの関係ありません!!」

 

「そうです!!現にリーダーが最後の力を振り絞って救ったんですよ!!数名のアリウス生存者の証言もあります!!何より外区だろうとシラトリ区で破壊兵器を使った事は鎮圧対象として充分な筈ですよ!!」

 

 

 

過激派……と、称するにはやや穏やかでは無いがしかし気持ちは理解できる。

 

下すべき敵は既に示されている。

 

 

あの光から奇跡的に生き残った総員()()のアリウス兵の証言。

 

シラトリ区の外区だろうとまだ生きていた監視カメラの映像。

 

 

そして降臨大祭の会場の改装記録。

 

細かな証拠は幾つか残っている。

 

 

全てはカイザーコーポレーションが仕組んだ証拠は全てで揃っている。

 

だから奴らは討つに充分な正当性は、治安維持を目的としたSRT達に許されている。

 

 

ならば今すぐに武力介入できる。

 

彼女達なら冗談抜きで秒であの敵を畳める。

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

「落ち着いてください。その気持ちは大変わかります。しかし私達は連邦生徒会長の私兵なんです。身勝手な理由で動く事は許されません」

 

「それに衛星砲と名付けられたあの光はとても危険ですよ!私たちが動く事で次が放たれては被害を広めてしまいます!下手に刺激する事はかえって危険なんですっ!」

 

「ああ、そうだ。仮に敵を撃つ事はできても衛星砲のコントロールを掌握できない以上は目の前の膿を潰しても意味がない。市民を守る私達が軽率に引き金を引くことは許されないんだ」

 

 

 

穏便派は嗜める。

 

情動のままに引き金を引けないと。

 

しかし…

 

 

「ふざけるな!!連邦生徒会長がなんだ!!私達だって心のままに動ける兵士だろ!!」

 

「そうだ!!私達は私達で選んで動ける!!リーダーならばそうする!!」

 

 

 

意見は衝突する。

 

 

 

「バカを言うな!もし独断で軽はずみに動けばSRTの意味を失う上にあの衛星砲が更に意味を奪い取るんだぞ!?」

 

「過去リーダーの記録を知ってるならそれこそ連邦生徒会長の指示の元で動いていた!!リーダーはちゃんとSRTとしての意味を守って動いていた!!感情論を先行させてSRTの意味を破綻させるな!!」

 

 

 

感情は加速させる。

 

 

 

「ならリーダーの弔いはどうなるよ!?私達の大事な人を奪ったんだよ!!アイツらは!!」

 

「今すぐカイザーコーポレーションを叩き潰しましょう!!既にリーダーが先陣切って引き金を引いているんですよ!!なら私達だって!!」

 

 

 

悲痛は憤怒に変えたい。

 

 

 

「わかっているよ!!わかっているさ!!でも独断専行で乗り込めれるほど今回の件はそう簡単じゃないんだ!!」

 

「私達の独断が正しいとしてもね、衛星砲を止める手段はないのよ!ミレニアムですら信号をキャッチできないと来た…っ、現状としてお手上げなのよ!!現にヴァルキューレだって役に立ってない!!」

 

 

 

衛星砲の光を見た。

 

それに怯えてしまった。

 

怯えてしまうほどに危険だと理解した。

 

 

だから手を出せない。

 

あらゆる理由を秘めて動けない。

 

カイザーコーポレーションは非常に強力な抑止力を保持しており、それは奴らの機嫌次第でこのキヴォトスを光に変えてしまう。

 

 

目の前の敵を叩き潰すことは可能だ。

 

SRTの兵士なら容易い。

 

あの程度なら数刻で片付けれる。

 

それほどに彼女達は最強である。

 

 

だが…

 

あらゆる条件と思惑が邪魔をする。

 

SRTの主である連邦生徒会の会長が同時に消失し、そして衛星砲のコントロールどころか破壊すらも叶わない。

 

 

こんなにも力があるのに。

 

こんなにも大義が備わっているのに。

 

なのに無力を噛み締めるだけ。

 

 

何もできない。

 

何も成せない。

 

何も意味を齎せない。

 

 

この痛みは、この怒りは、この悲しみは。

 

どうしたら晴らせるのか??

 

 

何より私達の…

 

何より私達の…ッッ!

 

 

 

大事なリーダーを奪った敵がすぐそこにいるというのに何もできないなどッッ!!

 

 

 

「くそっ…くそっ……くそぉぉぉっ!!」

「ぅぅ、ぐぐぐっ!うあああああ!!!」

「ちくしょうッッ!!ちくしょうッッ!!」

 

 

「ぅぅ…ぅぅぅっ…」

「リーダー……りー、だ……なんで…」

「カナタん……どうして……カナタ…っ」

 

 

 

 

何が、SRTの兵士だ。

 

何が、選ばれた兵士だ。

 

 

 

無力だ。

 

私達は___無力だ。

 

 

 

 

「副リーダー…」

 

「…」

 

 

 

一人が「副リーダー」と声をかける。

 

声をかけられた生徒、それは元トリニティ生徒の証である天使のような羽を広げたSRT特殊学園の副リーダー、名は軽沢ウリエ。

 

SRT三年目としての風格を備えており、また副リーダーとしての器に誰も異論を持たない。

 

そんな彼女は___冷静に判断する。

 

 

「SRTがカイザーコーポレーションに手を加える事は出来ません。それは連邦生徒会長の指示無き下に動けぬ組織的理由と、また衛星砲の対抗策を持たない故、私達は下手に動けません」

 

「っ!副リーダーぁっ!!」

「軽沢ぁ!!お前もそう言うのかよ!!」

 

 

 

いくつかの批難が降りかかる。

 

何事も冷静を失ってはならないはずのSRTの兵士たちは叫ぶ。

 

 

 

 

___私だって!!

___私だって!!できるならっ!!!

 

 

 

 

そう心の中で叫ぶ。

 

 

今すぐにリーダーの仇を取りたい。

 

今すぐに悪しき敵を仕留め、役割を果たしたい。

 

今すぐにSRTとしての意味を遂げたい。

 

 

そう感情が巡ってたまらない。

 

そう情動に駆けられて痛く仕方ない。

 

 

 

でも。

 

それは叶わない。

 

 

やっては、ならないんだ。

 

だから、胸の中に押し留める。

 

 

今は冷静に判断を___しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だって……私だってっ…!」

 

 

「「「 ! 」」」

 

 

 

 

 

 

一番近くにいた。

 

敬愛して止まない、あの人の隣にいた。

 

 

だから任されている。

 

副リーダーという立場を。

 

 

だが、今はいない。

 

だから副リーダーが司令塔。

 

冷静に判断しなければならない。

 

 

 

 

でも…

 

この痛みを抑えるにはあまりにも…酷だ。

 

 

 

 

 

「私だって………できるなら……」

 

 

 

SRTとして失格だ。

 

精神的弱さを見せてしまった。

 

こんなのではリーダーに笑われる。

 

もしくはリーダーは「それは仕方ない」とこの未熟さを笑ってくれるだろうか。

 

 

そんな姿がすぐに浮かぶ。

 

だって副リーダーとして近くで見てきたから。

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

私達は疑いなき最強の兵士だ。

 

SRTとしての意味を曲げなく正当化し続ける選ばれた兵士なんだ。

 

だから何もできない事に悔いる。

 

 

 

 

「リーダーがいたら…どうしてたか、にぁ…」

 

 

 

 

その問いに誰も答えれない。

 

だってその者はもういない。

 

 

SRT特殊学園の登録名簿。

 

スタッフ揃えて100名近い。

 

 

その一番上に書いてある__生徒。

 

その名は___月雪カナタ。

 

 

その横に書いてある__KIAの3文字。

 

軍事用語で__Killed in action。

 

 

意味は_____【戦死】である。

 

キヴォトスで起こってはならぬ二文字だ。

 

 

あの光は大事なものを奪い取った。

 

__楽園を取り戻さんとする者達の願い。

 

 

それが衛星砲ノヴァである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生まれつき内包される神秘の量は決まる。

 

その中で私は特段大きかった。

 

だから銃を握りしめるようになった時から急激に強くなり、周りに敵無しとなった。

 

けれどそう思っていたのは私だけで、ある日理不尽なほどに強い敵が迫ってきた。

 

それと対立したのはたまたま偶然で、キヴォトスのそこら中に姿を見せるヘルメット団の派閥争いの中に巻き込まれてしまった。

 

逃げ惑う一般市民たち、わたしはその場に残る。

 

私は派閥争いに雇われた傭兵だと勘違いされて雑兵に襲われたが、ショットガンを使わずとも足技だけで敵を蹴散らして、敵を返り討ちにしてやった。

 

この場を避けようと思えば、いつでも逃れた。

 

しかし私は負けを知らないし、この程度なら問題ないと敵を蹴散らし、溢れんばかりの戦闘力を持って場を凌ごうとして…初めて勝てない敵と出会った。

 

親玉らしきソイツは柔らなんて言葉が似合わないほどに鍛え上げられた肉体で弾丸を弾くデタラメな強さと、また溢れんばかりのカリスマを備えて多くの手下を連れていた。

 

神秘の量は私よりも下なのに、その威圧感は背筋が冷たく這わせる。

 

それでも撤退を選ばない私は目の前のヤツを倒そうとして……返り討ちにあった。

 

多勢に無勢。

 

雑兵程度なんら問題ないのだが、それでも親玉と連携する攻撃の質量はどうにもならず、避け損なった爆発に巻き込まれた私の真上から戦車が落ちてきた。

 

これは__無理だ。

 

 

 

あの頃はかなり慢心していたと思う。

 

己の強さを疑わない、幼き未熟さ。

 

しかし身余った結果として悟る。

 

私は___

 

 

 

 

 

__よく耐えたな、英雄。

 

 

 

 

瓦礫から飛び出した一人の影。

 

それはキヴォトスで有名になりつつあったSRTの兵士だった。

 

 

 

「木ノ葉旋風!」

 

「!」

 

 

 

落ちてくる戦車を蹴り飛ばした。

 

まるで空箱でも蹴飛ばしたような軽々しさ。

 

すると戦車にくっ付いていた何かを手元に戻すと頭の上に戻しながら私の肩に手を置く。

 

 

 

「!」

 

 

その刹那、視界が切り替わった。

 

そこは…

 

 

 

「え?え?」

 

 

 

気づいた時には抗争から離れた場所に居た。

 

周りには民間人。

 

それからヴァルキューレ警察がいる。

 

あと数名のSRT兵士らしき者も。

 

混乱する私。

 

そんなのを他所に肩から手が離れる。

 

 

 

「これで避難は全てか?」

 

「はい!ドローンからは確認できません!」

 

「了解。なら俺も鎮圧に入る。後方は任せた」

 

「リーダー!お気をつけて!」

 

 

その者は小さな私を横切る。

 

腕章に刻まれた【KANATA】の文字が見えた。

 

するとその者は立ち止まり、コチラに横顔を見せながら声を掛ける。

 

 

 

「避難民から聞いたぞ。戦えない住民のために時間を稼ごうと戦ってくれたらしいな?すごく感謝していた。君が頑張ったお陰で多くが怪我無くあの場所から逃げることが出来た。SRTとして俺からも感謝するよ」

 

「!」

 

 

それだけ言葉に残すとその者は腕章を揺らしながら少しだけ空を見上げ、その手元には視覚化可能な程に濃度の高い神秘を回転させていた。

 

そしてその者は姿を消し__ドカーン!と奥から爆発音が響き渡る。本格的に鎮圧に入った音なんだろう。同時にSRTの勢いも増した。

 

それからヘルメット団同士の抗争はSRTの武力介入によって瞬く間に鎮圧され、同時にあのガタイの良い親玉も撤退させ、抗争は嘘のように静まった。特殊部隊の強さを知らしめた。

 

 

 

 

「あの人が、月雪カナタ…」

 

 

 

井戸の中の蛙は大海を知った。

その背中は今も焼き付いているとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

「何故、あなたがココに??」

 

「色々、あってな…」

 

 

私から奪い取ったショットガンをコチラに返しながら、その者は__SRTの月雪カナタは弱ったように吐き出す。

 

 

夜のパトロール。

 

今日は砂漠を確認する日。

 

すると見知らぬ足跡を見つけた私はこのアビドス自治区にまた不届者が入り込んだと思い、足跡を辿って一気に電車に入り込んだ。

 

そして即無力化させようとショットガンを突きつけたが、逆に無力化させられた。

 

それもバール一本で、だ。

 

だが、それは納得のいく相手だった。

 

 

けれど…

 

 

 

「この砂漠を抜けたい。案内してくれないか?」

 

 

 

今にも__砕け散りそうな身体だ。

 

表面上、そんな様子を見せないのはやはりSRTとしての強さなんだろう。

 

だが私にはわかる。

強さを理解してるつもりだから。

 

だから、あの頃に焼きついた姿とは真逆な弱り果てていた月雪カナタに私は驚く。

 

 

 

「こうして生きてるのは、死に間際に連邦生徒会長が最後の力を使って逃がしてくれたから。なら俺は死ぬ訳にはいかない…絶対に」

 

 

私の問いに対してまるで自分に言い聞かせるように説明してくれた。

 

そして私が見張る形でカナタはしばらく浅く眠り、朝になると砂漠から街へ移動し、とりあえずカナタの存在を表に明かす訳にはいかないと思いアビドス高等学校に連れて行った。

 

この学園には二人しかいないから。

 

そして私の先輩__梔子ユメとカナタは邂逅を果たすと何を考えたのかユメ先輩は月雪カナタを匿うと言った。誰かを助けるほどの余裕はないと思った私は反対したが、しかしアビドス生徒会長の責任として保護すると半ば強行。

 

それからカナタをユメ先輩の家に招くと衣食住を提供し、回復するまで居て良いと告げる。

 

 

この生徒会長はバカなのだろうか。

 

色々と危機感が足りなさすぎる。

 

 

しかし無駄に強情なんだ、この先輩は。

 

かく言うカナタ本人も私と同じようにユメ先輩の提案は非肯定的だったが、最終的には押し切られてしまい、カナタはクジラ柄の部屋着を着せられて現在療養中である。

 

SRT最強の姿か?これが?

 

どこかの鬼落ちしたお侍のセリフを脳裏に過らせながら私は現状維持を決める。

 

まあもしカナタが良からぬ何か起こそうものなら私が叩きのめす。昔は勝てるビジョンが何一つ浮かばないほどに焼きついてしまった後ろ姿だったが、今の弱りきったあの人なら私にも…と、思ったがそういえばバール一つで無力化されたこの体たらくに気持ちが落ち込む。

 

やはり弱ったのは嘘なのでは??

 

いや、でも…あの神秘。

 

私は覚えている。

 

肩に触れられた時に感じ取れた、良く洗練された重圧感に満ちている神秘。

 

透明なのに彩に満ちたような、そんな矛盾は二つを兼ね備えた強欲さに、けれどそれ相応に許された誓いと言うべきだろうか、ともかく月雪カナタの神秘そこらの比ではなかった。

 

けれど今のカナタはそんなのを感じさせないほどに廃れきった。まるで凡ゆるを欠落させたような堕ち具合は偽れるモノとして扱えないと分かる。ならあの話は本当か。

 

キヴォトスに注いだ【光】によって散った。

 

連邦生徒会長の奇跡によって復活したと言っているが、それも嘘ではなさそうだ。

 

現にキヴォトスでは連邦生徒会長の消失も騒ぎになっている。

 

SRTの先人 と 連邦生徒会の超人。

 

その二つが同時に消えた。

 

それはあの光が降り注いだ日から。

 

そしてカナタだけがこうして生きている。

 

何もかもを欠落させ、彼の凡ゆるを失い、それでも砂塵の中で折れようとしない。

 

 

弱くなったが、まだ弱れない。

 

砕け散ったが、もう散らされない。

 

そうして今も、なんとか耐えようと。

 

痛ましくも、傷ませながらも。

 

砂漠を超えて来た、その身一つで。

 

 

 

「…………」

 

 

 

私達は……誰かを助けるほどの余裕は無い。

 

アビドスには多額の借金がある。

 

私達はそれで精一杯。

 

何かに振り向いてる暇などないんだ。

 

 

 

ないんだ。

 

 

ない、はずだ…

 

 

ないはず、なのに…

 

 

 

 

 

 

 

あのね__ホシノちゃん。

 

 

 

『疑念、不信、暴力、嘘……そういうのを当たり前だと思うようになったら、私たちもいつか自分を失っちゃうよ』

 

『そうやってアビドスを取り戻しても、それは私たちが思い描いたアビドスにはならない』

 

『だからね、ホシノちゃん。困っている人がいたら、手を差し伸べるの』

 

『お腹を空かせたり、寒さに凍えてる人がいたら助けてあげるの』

 

 

 

悪意や困難に晒されながらもそう言う先輩が私の学園にいる。

 

しかもそれをカナタと出会うその日に言われた。

 

 

頭に過ぎるんだ、その言葉が。

心に訴えるんだ、その信念が。

 

 

梔子ユメが告げるから。

 

 

 

 

「…………助ける、ですか…」

 

 

 

今日も夜のパトロール。

 

廃れたアビドスを歩き回る。

 

いつかユメ先輩と取り戻すために。

 

 

 

 

 

__避難民から聞いたぞ。戦えない住民のために時間を稼ごうと戦ってくれたらしいな?すごく感謝していた。君が頑張ったお陰で多くが怪我無くあの場所から逃げることが出来た。SRTとして俺からも感謝するよ。

 

 

 

 

 

「…………………っ」

 

 

 

砂嵐が頬を叩く……少し、砂が痛い。

 

私は腕で拭い、その痛みを誤魔化す。

 

夜風が鬱陶しのは恐らく彼のせいだ。

 

そして今日も喧しいのは先輩のせいだ。

 

 

 

 

 

 

「……借りを返すだけ、ですから…」

 

 

 

 

 

その呟きは砂塵の中に。

 

小さな足跡は砂嵐に掻き消える。

 

 

 

 

 

 

つづく

 






キヴォトス民「怖い……光……怖い……嫌だ……助けて……」

SRT「貴様ら…ッッ!!」

カイザー「まぁ別に?俺たちのせいにしたければすればぁ??遺憾砲でもなんでもご自由に!!がはははは!!」




カイザー(いやいやいやいやいやいや!?やべぇよやべぇよ!!マジでやばいって!衛星砲がハリボテの状態で使えないこと悟られたら俺たち終わっちまうよ!!カナタ一人でアレなのにSRT総員で来られたら俺たち絶対に勝てねぇよ!!失った分の軍拡も済まさねぇとマジで終わっちまうって!!ほんまやばいって!!)


全て終わったらカイザーお得意のトカゲの尻尾切りでアリウスが全ての元凶にするシナリオだったのにアリウスをカナタが助けてしまい、しかも長年整備不良だった衛星砲をフルパワーで放ったせいでエラー起こしたため初期化せざるを得ず、そのためアクセス権を得るために再解析が必要だったりと実のところ当初のプランから総崩れになっているカイザーコーポレーションは引くに引けないところまでやって来ている。ハリボテだろうと手の届かない衛星砲は抑止力として充分なため、強気な姿勢を継続しているが、内心SRTに食い殺されないかバクバクな状態である。これも全て月雪カナタとかいう規格外を測り損ねたせいですね。子供の味方である正当化の色彩に喧嘩売ったが運の尽き。あーあ。



じゃぁな!
またなぁ!
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