なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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第51話

 

 

 

 

「え、すごい…」

 

「……ごくり」

 

 

順番に梔子ユメと小鳥遊ホシノ。

 

俺はお盆を隅に置いて椅子に座る。

 

そこには…

 

 

 

「わぁー!!抹茶の善哉!!」

 

「ま、まるで喫茶店のような盛り付けだ…!」

 

「SRTでは毎週振る舞ってたからな。和菓子に関しては大体作れる。ほら、冷たいうちに食ってしまえ。アイスクリームも溶けちまう」

 

「う、うん!いただきまーす!!」

 

「い、頂き、ます!」

 

 

八月が終わろうとしているがまだまだ外は熱気に包まれており、エアコンで冷えたユメの家は憩いの場。そしてある程度回復した俺は台所を借りるとユメに頼んで買って来てもらった材料を使って久方ぶりに和菓子を振る舞うことにした。

 

グラス器の中にはアイスクリームと粒あんが乗せられており、そこに抹茶味のチョコレートがデコレーションされ、器の底の方には砕いた氷と白玉がゴロゴロと敷かれている。ホシノが言った通り喫茶店などでそこそこ値段がしそうな作りだ。つまり本格的ってヤツだろう。

 

スイーツ好きのトリニティ生が喜びそうな出来映えだ。特にあのスイーツ好きのロマンス娘。

 

しかもちょうど季節が(ナツ)である。

元気しているだろうか。

 

対して俺はまだ万全とは言い難い。

 

 

 

「んんー!!おいひぃーぃ!!」

 

「お、おいしい、金が取れるレベルだ…」

 

「善哉と白玉ならまだ台所にあるぞ」

 

「本当!!?おかわりやったー!」

 

「モッキュ、モッキュ…」

 

 

久しぶりにする料理は楽しく、つい張り切ってしまった。寝たきりからのフラストレーションの解放というべきか、お菓子作りは手を込ませると思ったのでユメに色々頼んだ。そして満足な作りが完了した。出来映えも良し。

 

もしSRT特殊学園の広報アカウントが手元に生きてたら写真を撮って投稿してただろう。もちろん最初にgoodするのはマエストロとする。

 

まあここ半年近く見てない芸術家はともかくとして、目の前に座っている二人、ユメは分かりやすいレベルで喜び、対してホシノは黙々と食べているが良く見るとスイーツを放り込むたびにお目目がキラキラしている。ホシノの年相応な反応に満足しながら俺も久しぶりのスイーツを楽しむ。やっぱり善哉は良いな。作るのも楽だし。後うまいし。へけっ。

 

 

 

「……」

 

 

しかし、善哉……か。

 

五週間ぶりの和菓子作りとは言え、まさか作る相手がSRTの仲間達ではなくアビドス自治区に残った僅か2人の生徒とは。

 

 

こうなるとは思わなかった。

 

1ヶ月前の晄輪大祭が終わったら、またいつも通りに月曜日が訪れて、それで同期や後輩達に善哉を振る舞って、SRTの絆を深め合う。

 

そんな日常が約束されていると疑わなかったが大人の悪意が子供の明日を奪い取ってくれた。

 

そうしてしばらくは月曜日の和菓子作りも出来ずに床の上で20日以上ほぼ眠ったまま。

 

回復は出来ても身体は鈍りそうになり、和菓子作りをしていた毎週のルーチンが崩れることで俺の中にある何かが欠落しそうと感じた。

 

なので良い加減飛び起きることを選ぶとユメに材料の買い出しを頼み、ホシノも一緒にユメと戻ってきて、俺は振る舞う人数が増えた事を喜びながら台所を借りて現在この状態である。

 

少しだけ身体が元気になった。

 

やはり寝たままってのは良くないな。

 

何かしないと本当に廃れていく。

 

代わりにユメから起きてて大丈夫なのか心配されたけど、ユメのおかげでめちゃくちゃ身体が良くなったと感謝しまくったらアホ毛をブンブンさせて喜んでいた。お陰でユメのことが分かってきた。もうユメの涙目に負ける事は__

 

 

 

「ぅぅ、でもカナタくん…?あまり無理はしないでね?カナタくんあんなにボロボロですごく辛かったんだからね?ちゃんと全快するまで休むんだよ?それまでここに居て良いからね?約束だよ?…ね?」

 

「…………ああ、分かったよ」

 

よっわ…

 

 

うるせーぞホシノ。

 

オメーだってユメに弱弱(よわよわ)だろうがよぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃばー、ゴシゴシ

キュッ、キュッ。ニャッ。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

スイーツを楽しんだ後、3人分のお皿と調理器具を纏めるとシンクに並べてスポンジで洗う。

 

作ったのは俺なので、洗うのはユメがやると立候補してくれたが、スイーツ作り後の調理器具にも少し洗い方とか処理の仕方があるので全部俺がやると告げる。ならユメは俺の部屋を掃除すると言ってリビングを後にする。

 

そして残されたホシノも何かしようと考えて乾布を持つと、洗い終えた皿や調理器具を拭いては食洗機棚に置いてくれる。俺の手伝い。

 

ただし会話は特に無し。

 

ほんの少しだけ気まずいな。

 

 

 

と、思ったら彼女から声をかけてきた。

 

 

 

「……身体、どうなんですか?」

 

「そうだな……全盛期の15%くらいかな。お菓子作りするくらいの元気はあるけど。でもズタズタにされた感覚はまだ残っているから本調子は当分先だと思う」

 

「それにしてはバール一本でなんとかやり過ごせそうな感じですけどね」

 

「目的を持てば意識は覚醒するんだわ。肉体もそれなりに動けるし、身体強化のため数分程度なら神秘を薄く纏えるけど、それ以上は未知数故に試せてない。まあ何かしようとしたらユメが泣いて心配するから試せずにいるけど」

 

「ヒモ」

 

「オイ、言い方オイ」

 

 

ホシノの辛辣な言葉にツッコミを入れながら指先に神秘を纏い、鍋の表面を滑らせてみると料理後の汚れが触れた指に浮いた。まだカナタの神秘が健在であることを確認できる。

 

隣にいるホシノは不思議そうにその神秘を視認して、目を少し見開かせる。

 

俺は引き続き調理器具の汚れを流す。

 

 

 

「……貴方は……戻らないんですか」

 

「無策なら、そうしてるな」

 

「……」

 

「でも、ココから何処かに行ってくれと言うのならそうするよ。これは本当だ」

 

 

スポンジの音と流れる水の音。

 

ユメが一人いないだけでこのリビングはとても静かである。だからホシノの冷たく感じられる声が耳に良く通る。そして俺は続ける。

 

 

 

「ただし___SRTには戻らない。いや戻ることは許されない。この意味は…分かるよな?」

 

「……」

 

 

カイザーコーポレーションは月雪カナタをひどく嫌悪する。

 

存在しているだけで利益率を下げてしまう悪徳企業の敵。

 

だから奴らは衛星砲を手に入れたことでこの存在を消そうとした。

 

それは文字通りに。

 

 

そして…

 

それは表面上の情報としてカイザー側は月雪カナタの消滅に成功した。

 

 

ネットニュースで見たんだ。

 

連邦生徒会長と月雪カナタの消失。

 

当然だが、世間は大騒ぎである。

 

そして連邦生徒会は求心力を失った。

 

ヴァルキューレ警察学校はまだ動いている。

 

しかし肝心のSRTは動かない。

 

いや、動けない。

 

良く訓練された、忠実な兵士だから。

 

 

そのためシラトリ区の治安は………と、思ったが実のところ治安はあの騒動以来、寧ろ良くなっていた。

 

 

それは何故なのか?

 

理由はすぐに理解した。

 

 

 

___子供があの光に怯えているから。

 

 

 

あの衛星砲の光を目の当たりにしたキヴォトス人は著しく活力を失い、宇宙に怯えるようになっていた。

 

とある場所では手がつけられないレベルで問題児だったキヴォトス人も大人しくなったりと話題になり、それは生徒会長の消失によって求心力や統率力が低下してしまった連邦生徒会でも取り締まれるほどに犯罪率が下がっていた。

 

それのため「お陰で平和なのでは?」と能天気な奴が今のカイザーコーポレーションによって半植民地状態なキヴォトスの現状を考えずに発言したりと物議をかまし、しかしカイザーコーポレーションにも良い企業はあるからと現実逃避に近い考えでそれに同調してしまう者まで出てきたりと、現在のキヴォトスは生徒会長無き政治体制で混迷期を辿ろうとしている。

 

 

いやもう混迷しているのだろう。

 

連邦生徒会は無いようなものだから。

 

治安は良いのに、統治できてない。

 

犯罪は無いのに、恐怖が支配する。

 

あの衛星砲の影響はそれほどだ。

 

そしてあの衛星砲はひどく恐ろしい。

 

 

 

……ああ、理解もできるさ。

 

 

 

アレは天使そのものを否定する。

 

この身で受けたからこそ分かる。

 

アレはまるで大人に叱られた子供のように縮こまらせてしまう恐ろしい兵器だ。

 

 

存在そのものを消してしまう。

 

ならば子供(てんし)は怯える。

 

 

そして__光が月雪カナタを消し飛ばした。

 

キヴォトスでそう情報が飛び交う。

 

 

しかし誰も抗う手段も持ち合わせておらず、反旗を翻す者は存在せず、よって重力に縛られた天使達はいつ降り注ぐかも分からない光に怯えてこの箱舟で生きていく。

 

怖い。恐ろしい。

苦しい。助けて。

 

それは自由意志を示す銃の引き金すらも奪い取ってしまうほどに【悪意(しはい)】が望んだ結末なんだ。

 

子供は大人相手に何も出来ない。

 

そしてカイザーコーポレーションが現在進行形でキヴォトスを支配できていると来た。

 

奴らが遠くから望んでいた形だろう。

 

この状況は偶然の産物だと思うが、しかし彼らからすれば誰も手を出せない位置にある衛星砲によって一方的な抑止かつ喉元に突きつけた凶器としてキヴォトスの意思を縛り、何より月雪カナタを消し飛ばしたというデモンストレーションまで成功させ、今や発言権も含めて奴らの支配下にある。

 

 

全ての命を___光に握られている。

 

これが今のキヴォトスである。

 

箱舟は舵を奪われ、帆を書き換えられた。

 

 

 

 

「カイザーコーポレーションは企業だ。独占権など顧みない会社だ。だからこそキヴォトスは利益のために生かしている。なのでドル箱のキヴォトスを下手に光にしてしまうことはない」

 

「…」

 

「しかし、だ……俺が生きていること知れば奴らは握り潰すことを躊躇わない。それと同時に第二のデモンストレーションとして俺を次こそは完全に消し飛ばし、確実に子供のためのキヴォトスを大人の世界として終わらせるだろう」

 

「…」

 

「だからココを出たとしても俺はそのままSRTには戻らない。せめてこの身体が半分以上回復するまでは無策に飛び出さない。そして…その光を奪い取れる手段を得るまで俺は表舞台に出ることは決して許されない。それが機密主義に長けたSRT特殊学園だとしてもその場所ですら俺が戻ることは決して…な」

 

「……その通り、でしょうね」

 

 

淡々と返すホシノだが、しかし彼女もそうなってしまうビジョンは容易く浮かぶらしく、その表情に若干余裕は無い。

 

 

もし俺の言ったことが本当に起きてしまったらアビドスの借金返済どころでは無くなる。

 

 

キヴォトス全土の危機だ。

 

この箱舟は支配されているから。

 

 

 

「どうするん……ですか?」

 

「……」

 

 

その問いかけは誰に向けてか。

 

無論、隣にいる俺に対してだろう。

 

 

しかしそれは、弱り果てた俺に向けてか。

 

それとも、SRTの兵士に向けてなのか。

 

 

今か、それとも、後か。

 

 

 

 

「手段はある」

 

「!」

 

 

 

最後の皿を渡し、答える。

 

 

 

 

「それと同時にアビドス自治区の君たちに伝えたえなければならないことがある」

 

「アビドスの私達に…伝えたい、こと?」

 

 

 

水を止めて、告げる。

 

ホシノはアビドス生徒として名指しされたことに首を傾げ、そして俺はひとりの目撃者としてアビドスに情報を持ち込む。

 

それは…

 

 

 

 

 

「雷帝の遺産__列車砲シェマタの事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコン…

 

 

コンコンコン…

 

 

ドンドンドン。

 

 

ドン!ドン!ドンッ!

 

 

 

 

何度も叩かれる扉の音だ。

 

この荒々しさは……知っている。

 

だからこそ、何も反応しない。

 

もし知らない音でも、反応しない。

 

この場所から……あまり動きたく無い。

 

 

 

 

「私だ!___ミヤコ!!」

 

「……」

 

 

 

ガチャリと勝手に戸が開く。

 

そして廊下をドスドスと踏み込む音。

 

光が刺さらないこの部屋が開かれる。

 

廊下から差し込む……【光】に目が___

 

 

 

 

 

ひ、かり??

 

 

ひ、かり…

 

 

ひかり……ひかりっ。

 

 

光、ッッッ!!??

 

 

 

ぁ、ぁぁ…

 

 

 

 

 

「いや、いやァァァ!ああああ!!!」

 

「っ!!落ち着け!私だ!サキだ!!」

 

「いやっ!!いやぁっ!いやぁぁあ!!」

 

「ミヤコ!!私だ!!私だよ!!」

 

「ぁ、ぁ、ァァァッッ!!うぅぅう!!」

 

「っ…!!このっ!!」

 

 

 

震える身体。

 

そして抵抗して暴れなければ裏返ってしまいそうな痛みと苦しみ。

 

何よりあの日に目の当たりにした光と真実が怖くて怖くて苦しくて仕方ない。

 

けれど…

 

 

 

「落ち着けっ!!ミヤコ…!!」

 

「ッッッ!!!!」

 

 

両頬を押さえつけながら耳を(つんざ)く程に大きな声で必死に呼びかけてくれた彼女の姿により、現実に引き戻してくれた。

 

 

そして見える。

 

中学校の同級生である友人。

 

 

___空井サキの姿が。

 

 

 

「落ち着け、深呼吸しろ、落ち着くんだ」

 

「は、は、はっ、はッ、はっ…!」

 

「大丈夫だ。大丈夫だから」

 

「はっ…はっ、ぁ、ぁ、サ、サキ…」

 

「ああ、そうだ。私だ、サキだ」

 

「サキ………わたし…は…」

 

 

 

わたしの震えていた呼吸を定めるごとにサキは段々と安心したように表情を変える。

 

 

 

「今週の宿題を持ってきた」

 

「……あ、ありがとう、ございます…」

 

「それと……何も食べてないだろ…?」

 

「……」

 

「換気一つ無い部屋の濁り切った香り。ならシャワーとかも浴びずにずっとこの部屋に居たんだよな?なら何も食べてない筈だ。一応ゼリーを持ってきた。少しは食べ……いや、その前に少し汗流して来い。その…ひどいぞ、色々と…」

 

「……わかり、まし…た」

 

 

どれほど、この部屋にいたのだろうか?

 

何も覚えてない。

 

食事も最後はいつだったのか。

 

縮みゆく胃袋だから食欲を感じない。

 

でも、喉が渇いて仕方ない。

 

 

 

「ミヤコ」

 

「…」

 

 

 

おぼつかない足で部屋を出ようとしてサキから声をかけられる。

 

 

 

「私は信じないからな」

 

「…?」

 

「あの人が死んだなんて……私は信じない」

 

「!」

 

 

私は横にある勉強机に視線を向ける。

 

そこには色を無くし、灰色に染まったカケラが一つだけ置いてある。

 

それは元々、乗り越えようとする錆色だったか、もしくは琥珀色として彩っていた。

 

月雪カナタ___私の兄のヘイロー。

 

あの日を終わりにSRTから私に渡された。

 

 

「キヴォトス人は命を失う時、ヘイローは無くなると聞いた。でもそれはまだ消えてない」

 

「……」

 

 

サキも机の上にあるヘイローを見ていた。

 

 

けれど…

 

なら…!

 

 

 

「兄さんはなぜ来てくれないんですか!?このヘイローがあるなら!いつものように飛雷(とん)で現れるのに!でも兄さんは__!!」

 

「だとしても!!」

 

「!」

 

「私は信じないっ!あの月雪カナタが消えたなんて絶対に信じないっ!私は……その強さだけを根拠にするけど……でも…っ、アレほどの人間ならばと…思うんだ…」

 

 

サキは何事も教本やマニュアルを絶対だとする堅物な人だ。

 

見えない何かを根拠にするなんて本当ならあまり言わない。

 

でもサキはもう見えないソレを根拠にして言う。

 

月雪カナタはまだ消えてなんかない。

 

 

 

 

「私だって……そう、思っています」

 

「ミヤコ…」

 

「私だって……兄さんを信じています…」

 

「…」

 

「私は……兄さんの妹ですから……」

 

「…」

 

「でも……でも………………ぅぅ、ぅぅ…」

 

「っ」

 

 

 

 

兄さん…

 

にい、さん…

 

カナタっ…

 

にいさん…

 

いるなら、見せてください。

 

生きてるなら、お姿を見せてください。

 

 

さみしいです…

 

くるしいです…

 

かなしいです…

 

 

兄さん。

 

にいさん。

 

カナタ、にぃ、さん…

 

 

 

 

「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁん…!!」

 

「ミヤコ……ミヤコっ」

 

 

 

膝から崩れ、友人に支えられる。

 

もう枯れたと思ったのに、まだ流れる。

 

この寂しさも痛みも、いつかは晴れるか。

 

まだ癒えることもなく、立ち上がれない。

 

何故なら私はカナタ兄さんのように強くない。

 

砕け散っても尚、進むことを選んだカナタ兄さんのように私は強くないんだから。

 

 

 

 

 

 

いつかは涙も枯れるはず。

 

空井サキはそう信じるだけ。

 

 

 

そして月雪ミヤコも敬愛する兄を信じる。

 

彼方の先に浮き上がる、あまねく奇跡に。

 

 

 

___もしも、と、信じるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ココも一カ月ぶりだな」

 

「わー!すごーい!アビドスにこんなのが!」

 

「これが、列車砲シェマタ…!」

 

 

 

半日近く掛けて移動させたジープから降りた俺たち3人はそれぞれの反応を示す。

 

改めて見る。やはりデカいな。

 

あとただいま、シェマタん。

ちなみに俺はカナタんだ。

 

うん、どうでも良いか。

 

 

 

「見ての通り、コイツを使えたのなら宇宙にある衛星砲を打ち破れると考える。でも起動しない。鍵がないからな」

 

「確かにそれ相応に頭身はありますが……でもその前に届くんですか?あと本稼働できたとしてもまともに使える物なんですか?」

 

「まともに使用できるかは分からないが、しかし周りに置いてある砲弾を確認したら試験用ではなく実践用として取り揃えてある。なら起動した瞬間に使えるモノとして用意してあると考えて良いだろう。まあ俺からしたら砲塔が動けばそれで良いさ。移動要塞である必要は無い」

 

「でしたら砲撃距離に関しては?」

 

「マニュアルを読む限りだと500kmは余裕で届くらしいから、大気圏突破からの衛星砲の破壊も可能。仮に威力減衰が考えられたとしても俺のヘイローを列車砲の弾に詰め込んでぶっ放す予定だから衛星砲の処理は確実だし、演算もシェマタが全て計算して調整してくれることもマニュアルに書いてあったから、命中率もそう心配してない。それに俺はSRTの兵士だ。砲撃の訓練もしてきたから計算に関してはそこまで心配はしていない」

 

「では…これが使えたらほぼ確実と?」

 

「ああ。てか…これが行く末の【解】だな。そもそも目覚めた場所がココなんだよ。ならばこのコレでなんとかすることをこの箱舟が望んでいると考えた方が自然だな、これまでの出来事を根拠にすれば」

 

「…箱舟?」

 

子供(てんし)のためのキヴォトス。俺と連邦生徒会長はそう認識してる故にそう呼称してるだけ。あまり気にしなくて良い」

 

「…」

 

「ねぇねぇ!見て見てホシノちゃん!格納庫にも沢山砲塔が付いてあるよ!機関銃も!」

 

「格納庫というよりは、要塞ですね…」

 

「要塞レベルの迎撃兵器付き格納庫だな」

 

「なるほど!」

「いや、それはそれで、ややこしい…」

 

「ま、今となっては役立たずの金食い虫だ。利用価値が無いね」

 

「ぅぅ、少しはそのお金をアビドスに残してくれてもよかったのにね…」

 

 

ユメが「ひぃん」と落ち込む。

 

どれもコレも金が費やされたモノばかりだ。

 

この砲弾だって数百万はするだろう。

 

つまり目に入るモノ全てが大金。

 

昔のアビドスはとんだ金持ちらしい。

 

 

 

「さて、お待ちかねの列車砲だ。扉開くぞ」

 

「え?」

 

「!?」

 

 

するとシェマタの扉が開く。

 

次に内部が電気で照らされる。

 

俺の帰還でも喜んでくれてるか。

 

 

 

「列車砲の中を探検しよう。面白いぞ?」

 

「「!!」」

 

 

ユメは分かりやすい程に目をキラキラさせ、ホシノも「探検」のロマン溢れる言葉に少しだけ目を見開き、そしてアホ毛を揺らす。

 

 

それから内部を歩き回る。

 

案内しながら、この場でしばし生活していたことを告げると二人は大変驚き、俺は懐かしげに少し笑う。

 

水と食料はあったが、どれも期限切れ。

 

結構不安だったとしみじみ遠い目をすればホシノは同情するように頷き、ユメは「ここまで頑張ったねカナタくん!」と相変わらず早変わりな涙目になってはぎゅっと頭を抱きしめてそのままナデナデと慰めてくれた。

 

あとめちゃくちゃ柔らけぇ。マジなんだこの凶悪なたわわ2つ。恐らく頭の栄養がコッチのに行ってるんだろうな、とクッソ失礼なことを考えながら俺は最後に操縦席に案内する。

 

 

 

「で、動かすためのキーが無いんだわ。はーつっかえ」

 

「その前に勝手に動かして良いんですか?」

 

「良いんじゃね?明確な持ち主は表面上としていないし。居たとしてもSRTとして軍用目的がため借りるか、もしくはゲヘナ引き渡しのために確保対象としてSRTが連邦生徒会の元で一時的に管理するかで動かすか。もしくは敵の兵器を【鹵獲】したって扱いで現状処理した方が話は早いか。まだ俺は生きてるしな」

 

「……鹵獲?」

「どう言う意味ですか?」

 

「え?なに、その反応………待て、もしや?お前ら知らないのか??それはまずいな…」

 

「「??」」

 

 

二人は首を傾げる。ユメはどういうことかピンと来ていないが、ホシノは『鹵獲』って言葉を理解しているのか俺の言葉に目を鋭くさせる。

 

 

 

「結論から言うと、このアビドス自治区の土地87%はカイザーコーポレーションが所有していることになる」

 

「え?…え??」

「なっ…!!?」

 

 

ユメは更に理解が追いつかなさそうにし、ホシノは衝撃を受けている。

 

 

「とある一件でな、アビドスのことが気になったため一度だけアビドス自治区のことを調べたことがある。その時にアビドス自治区の土地の所有権がアビドス生徒会長のものでは無いとして記録されていてることを知った。ただこの段階ではカイザーが所有権を握っているところまで調べていない。俺が気になったのは砂漠化の記録だから…そんでだ。ユメの家で寝転がっている間は暇だったから家用のタブレットをユメから借りて改めて調べた。そしたら所有権はアビドス生徒会の元から手放されていたことが再確認された。そして一つ答え合わせが済んだ」

 

「!」

 

「アビドス自治区の土地所有者を掘り起こすと驚いたことに【カイザーコンストラクション】として登録されている事が発覚した。SNSでも記録遡ってみたらアビドス自治区に住んでいる者の呟きに退去届を貰った等、そういったトーク記録が残っていた」

 

「う、うそ…」

 

「ま、待ってください…!そ、それって本当なんですか!?だ、だってアビドスは…!!」

 

「学園が自治区を統治している以上、そりゃ学園のモノあるのが一般認識。それは俺も知っている。しかし何度も情報を照らし合わせてみてもカイザーコンストラクションの登録名義で土地所有権は決まっていた。恐らく列車砲シェマタが置いてあるこの一帯もカイザーコントラクションのモノだろう。信じられないなら後で役所から地籍図を貰って調べてみろ。間違いなく俺の語った内容が書いてるはずだから」

 

「ユメ、先輩?…知ってましたか?」

「し、知らなかった……知らなかった!」

 

 

突然浴びせられた情報に二人は困惑する。

 

 

「で、でも、なんで??」」

 

「こんな土地に利用価値があるのですか?」

 

「よく分からない。だがカイザーコーポレーションは無意味なことはしない。何か…利益になるナニカを得てそういうことをしている。なにせ土地を買うんだ。ならばカイザーが欲するそれ相応が置いてあるんだろう」

 

「……」

「……」

 

 

固定観念と、莫大な借金に頭いっぱいでなにもしらなかった二人は既に列車砲シェマタの探索ごっこ気分は吹き飛んでしまい、ユメに関しては表情が青ざめている。彼女も流石にカイザーコーポレーションの悪徳性と危険性を理解しているからだ。ホシノも穏やかじゃない。

 

 

……ここで語る内容じゃなかったな。

 

少し悪いことをしてしまったか。

 

まぁでも、この瞬間を説明するならいずれ語る必要がある。それに…

 

 

 

「まあ、だからかな。俺が『鹵獲』という行為に繋げられたのはこの土地がカイザーコーポレーションのモノだから。対して俺は奴らの敵対者としてこの土地に踏み込んでいる現状、この列車砲を確保した。そうなれば所有者だとかの話はSRTからすれば関係ない」

 

「だから鹵獲ですか…」

 

「そうだ。カイザーコーポレーションは宇宙にある衛星砲をSRTの兵士に打ち込み、そして言い逃れできないレベルでの敵対関係を確立させてしまった。俺はまだ生きている者として奴らとの敵対状態を継続している。だから列車砲シェマタを利用するこの行為が正当化されて当然なんだよ。それに…」

 

「?」

 

「コイツは雷帝の遺産だ。ゲヘナが破壊対象としてキヴォトス中を探している。俺は過去に雷帝の遺産を一つゲヘナに受け渡した。そんで引き続き雷帝の遺産を見つけたら確保してゲヘナに伝えて欲しいと頼まれている。なら治安維持目的として活動する連邦生徒会の管理下にあるSRT特殊学園は組織目的を果たすためにこの雷帝の遺産、列車砲シェマタを確保しておく必要がある。だからコイツの有無はSRTの俺に権利があるんだ。敵対者以外にコイツの所有を決める権利は何処にも無いね」

 

 

コンコンと装甲をバールで叩いて軽く傷物にしてやる。戦略兵器としての価値を生み出すならこの列車砲シェマタは何千億になる。ならこの傷だけで数百万は損害を引き出すなるがカイザーコーポレーションから鹵獲した兵器かつ破壊対象先としての扱い。なんら関係ないな。

 

 

「急に情報を叩き込まれて混乱してると思う。でも今ここで考えても仕方ない。難しいことは帰ったら改めて考えよう。もしこの土地や列車砲に踏み入れたことが不安に思うならその必要はない、安心しろ。SRTの俺が現地民に案内を頼んだとして扱うから…な?」

 

「!」

「!」

 

 

ポンポンと、ユメとホシノの頭を叩く。

 

ただでさえ借金等の不安事が多いのに更に降りかかる不安要素に子供二人は萎縮しそうになっていたが、SRTの月雪カナタがこの場にいることを再認識してもらい、不安が無いように落ち着かせる。

 

 

 

「っ…うん!わかった!とっっってもつよいカナタくんがいるなら安心だね!あとホシノちゃんもめちゃくちゃつよいからそう考えると何も怖くないね!二人があるんだもん!」

 

「ふぇ?……あ、え、ええ。もちろんです」

 

「そうとも。俺とホシノが2人揃えば最強だ。カイザー程度に何を恐れるか」

 

「えへへ、頼りにしてるね」

 

「あまり楽観視は……いえ、何でもないです。それよりも戻ったら役所で……ええと…」

 

「地籍図だ。手数料に500円ほど必要だから現金は持ち込んでおけ」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 

ある程度の不安事を拭えたと心を軽くした俺たちは列車砲シェマタを調べ尽くし、それで現状動かすことはできないと結論に至らせ、切り上げることにする。

 

 

「そろそろ日が落ちるな。格納庫を拠点にして今日はここで明かそう。列車砲シェマタを眺めながら食べる夜ご飯は美味しいと思う」

 

「レトルトカレー持ってきたよ!」

 

「レトルトですか。でしたらこの列車砲で湯煎が可能な筈なので夜は暖かいカレーが食べれそうですね」

 

「ああ、是非利用しよう……が、その前に」

 

「「??」」

 

 

 

やるべきことがある。

 

3人で表にあるジープに戻り、トランクからあるものを取り出した。

 

そして、列車砲にそれらを持ち込んだ。

 

 

 

「別に気にしなくても良いのでは?」

 

「第二の俺が現れた用だ」

 

「そんなの早々に無くていいですよ…」

 

「この水、相当古いよ…?あと保存食も…」

 

「ああ、どっちもクソ不味だったぞ」

 

「そりゃ体を壊しちゃうよね!?」

 

「と、いうよりもこんな環境からバール一本握りしめて砂漠横断決めるとか、この人そこそこ頭おかしい……それもコンパス無しで…」

 

 

実はここに来る前にアビドスで保存水と保存食を購入し、ジープに積んできた。

 

それを列車砲の中に保管されている期限切れの保存水と保存食を入れ替え、新しくする。

 

次の俺がこの列車砲を拠点代わりに訪れても良いようにだ。うん。かんぺき〜

 

 

それから…

 

 

 

 

「えへへ!湯煎完了したよ!」

 

「こっちの米も炊けたぞ」

 

「探索の方を終えました。敵影無しです」

 

 

保存食と保存水の入れ替え作業を終えた俺たちは移動用のジープを砂風浴びせないように格納庫の中に停車させると、夜ご飯の材料を列車砲シェマタに持ち込む。

 

それから電気系統を休憩室のみに稼働させると電気コンロが使えるようになったので期限切れの保存水を処理目的も兼ねて鍋に放り込んで沸騰させ、ユメがレトルトカレーを湯煎する。

 

俺は列車砲シェマタの装甲上で携帯調理器具で3人分の米を作り、ライスの用意。

 

その間にホシノは双眼鏡でこの辺で徘徊しているオートマタがいないかを偵察し、夜ご飯のために安全確保をする。

 

そして、すべての準備が完了し__

 

 

 

「おおー、これは良い眺めからの夜飯だ」

 

「すごーい!たかーい!たかーい!」

 

「この高さなら砂も被りづらいですね」

 

 

ユメは大喜び、ホシノはあまり表情には出さないが移動要塞の上で眺めれる広大な砂漠に目を奪われている。

 

俺はその間に紙皿やスプーンを並べたり、米を分けたりと手際よく準備して、最後は甘口3つのカレーを二人に手渡す。

 

開封すれば食欲をそそる良い香りだ。

 

 

 

「じゃーん!ゆで卵!さっき作ったんだ!」

 

「「おおー!」」

 

 

どうやらユメがゆで卵を作ってくれた。

 

それをカレーに放り込んでトッピング。

 

3人で手を合わせて頂くことにした。

 

 

 

「えへへ、まさか移動要塞の上で夜ご飯食べてキャンプするなんて思わなかったね!」

 

「本当ですよ……何なんですかこの人は…」

 

「いや、俺が原因かよ」

 

「そうですよ。こうなってるの大体貴方が原因なんですからね?5日前の皿洗い中に何を言い出すかと思ったらリスポーン地点に衛星砲を撃ち抜けるだろう凄いモノがあると… いやでもだからと言って、砂漠奥にあるのが移動要塞だとは思いませんよ。その上に聞きたくない情報まで聞かされて……今日は疲れました」

 

「まぁまぁ、その話は帰ってからにしよ?いまはキャンプを楽しまないとね!ほら!カレーが冷めちゃう前に食べよ!」

 

「……まぁ良いです。いただきます」

 

 

ホシノに続いて俺たちもカレーを楽しむ。

 

季節は夏だからか星空がよく見える。

 

あとこの辺に光が無いため夜空は街の光に邪魔されるず、くっきりとよく見える。

 

まぁ、だからこそ…

 

 

 

「ああ、やはり……アレか」

 

「え?」

 

「もしかして……見えるんですか?」

 

「いや目視はできないよ。だがこの身を否定した光の矛先はわかる。本能と役割が訴えて堪らないんだ。あの悪意を何とかしろと…な」

 

「悪意…」

 

「……カナタくんは……その、怖くない?」

 

「怖くないな。あんなのに怯えるものか。もしアレに臆するというのならそれはあの光で大事なモノが奪われる時だ。しかし俺はそれを許してやらない。許すもんか。だから必ずこの手段を確立させる。まだ動かすための手立ては見つかってないが、でもこの身に紡がれ役割と目的は必ず果たさんとする。だって、それが…」

 

 

 

 

 

 

 

__正当化を続けてきた意味だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰にも頼まれたわけでもなく、ただひたすらにこの箱舟で月雪カナタはもう砕け散らないとするための、独りよがったアーカイブ。

 

それはこの瞬間だって、続く。

 

例え、琥珀色が失われようと、錆切ってしまおうと、どんなストーリーテラーがこの身に降り注ごうとも沈まず、箱舟で浮かせ続ける。

 

正当化の色彩である意味を色褪せないために俺は月雪カナタをする。

 

それだけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと俺、アビドス生徒会に入るから」

 

「___ゑ?」

 

「本当に?? わーい!!やったー!!」

 

 

 

 

俺はカレーで味付けしたゆで卵を楽しみ。

 

ユメはIQが下がったフレンズのように喜び。

 

ホシノは更なる情報に頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

つづく




そして、1話に繋がる訳よ。
いやー、長かったわ(7ヶ月間)



あと作者はね、カナタとユメとホシノが列車砲シェマタの上で、広大な砂漠を眺めながら、透き通った夜空の星々を下で座り込んでいる、そんなスチルを幻視したんよ。なんなら数話前にもキリノテラーとマエストロとカナタが灰色の地下鉄を歩いてるスチルと、その後の駅員室で疲れて眠ってしまったキリノテラーにタオルケットを掛けてあげる紳士なマエストロとその奥でレーションを飲みながら壁の隙間から外の状況を警戒するSRT姿のカナタがいる、そんなスチル(若干灰色気味)も幻視したりとやっぱこの界隈ってウマ娘のように幻覚多いんだなぁと作者は再確認したわ。やっぱブルアカおもしれー。


それはともかく泣いてる妹を他所にアビドス組(過去)とゆるキャン△を楽しんでる兄の温度差はまるでアビドス砂漠で干からびそうになる感覚なんだけどそこらへんどうよ?ホシノおじさん。



じゃあな!
またなぁ!
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