なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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第57話

 

 

宇宙から__砕け散る音が到来した。

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、それが 合図 になる。

 

 

 

 

 

「SRTッッ!!総員出撃ッッ!!」

 

 

副隊長の軽沢ウリエは全部隊に作戦開始の合図を出す。

 

この学園は物資の供給が止まっていた。

 

しかしだからと言って武器の手入れを怠っていたつもりは一日足りとともない。

 

あのゲヘナ生から__手紙を読んでからの二週間は研ぎに研いでこの時を待っていた。

 

そして今日が__解放の時。

 

 

「行けェェ!!」

「前進ッッ!!」

「SRTの強さを示せェェ!!」

 

 

誰も手を出せぬ宇宙から一方的にキヴォトスの大地を縛っていた衛星砲ノヴァの破壊が火蓋となり、洞窟の中で耐え凌いでいたカルバノグの兎達は目を赫く光らせて飛び出す。

 

地上から、上空から、海上からも。

 

SRTの兵士として選ばれた者達はカイザーPMCが居座るシラトリ外区へと烈火の勢いで進軍し、攻撃する。

 

 

 

「行けェェ!!進めェェ!!」

「奴らを叩き潰せェェッ!!」

 

 

 

良く訓練された兵士だ。

 

しかし感情が加速させる。

 

幾分か、冷静さを欠きながら。

 

だがその戦力を何倍にも膨れ上がらせてくれるその情動に対して目瞑る。

 

これまでの無力感を赫怒(かくど)に変えながら目の前の障害を轢き潰すために、この赫さを止められやしない。

 

 

相手は、この世で恐ろしい大人??

 

 

__何を言うか。

 

私達はあんなのに怖がらない…!

この学園は大義のために生きているから!

 

 

 

「くそッ!?全然止められないっ!!」

「SRTは弱体化したんじゃないのか!?」

「まだこんなにも強さを残しているのか!」

 

「ひ、東の部隊が撃沈しました!!」

「防衛戦を敷き直せ!急げっ!!」

「ダメです…!応戦間に合いません!!」

 

 

カイザーPMC達は着々と戦線を押し上げてくるSRTの攻撃にに防衛が間に合わず、なんとか送られてきた援軍も秒で崩され、気づいた時にはSRTから挟撃されてしまうなどして一方的に殲滅されていく。

 

 

目視できる限りだとSRTは100程度の兵しかいないのでは??上空のヘリコプターや通信部隊のような後方支援を含めば総数で200以上はあると考えるが、しかしSRT特殊学園はそう大きい学園ではない。少数の精鋭が複数用意されてるだけ。

 

数なら圧倒的にカイザーPMCの方が多く、後ろにもまだ援軍部隊はいる。数字にすればSRT特殊学園の20倍は余裕に超えている。キヴォトス中から集めれば更にその数は膨れ上がるだろう。

 

 

しかし__数を揃えても勢い収まらない。

 

止まるようには思えない。

 

 

「第三防衛ラインも壊滅!!このままでは67区の駐屯地が倒壊します!!急ぎ68区の軍事基地に報告をっ!!ぐぁぁあ!!」

 

 

衛星砲の光によって一部の土地が更地となっている67区、次にシラトリ中央区に対して圧をかけるためにも多くの兵士や兵器を駐屯させている68区、その次にカイザーPMCの訓練兵育成区域となっている69区、そして現在は本拠地として構える70区、SRT特殊学園は順番にカイザーPMCの基地を制圧する。

 

 

 

「敵の戦力はどうなっている??」

「打撃無し、コチラが一方的です!」

「あの時に精鋭が多く削られてなければ…!」

 

 

あの時__それは降臨大祭の当日に行われた月雪カナタを消滅させるための作戦。

 

あの兵士一人のために多量の兵を動員し、尚且つ精鋭部隊も用意した。

 

しかし突如召喚されたヒエロムニスによって殲滅されてしまい、更にコラテラルダメージとして衛星砲の光に飲まれてしまうなど度重なる広範囲攻撃によって多くのオートマタが廃兵と化してしまった。

 

しかしカイザーPMCからすらば月雪カナタさえ消えれば大戦力が失われようともまた作れば良いと考えていた。実際に時間さえ掛ければまた元に戻す事は可能である。2年もあればデータのインプットを済ませて量産できる。それがオートマタの強み。パーツだって最新に変えて馴染ませればあの日失った以上の兵を用意できる。尚且つ月雪カナタの戦闘データを活かせれば最強の兵だって造れる。

 

そこにSRT特殊学園の存在が時の流れで消え失せ、大きな武力を失った連邦生徒会の力が失落すればもう誰もカイザーPMCを止める事は叶わない。そうなる。普通はそうなるはず。

 

 

 

 

だが___この、現状はどうだ??

 

 

 

「67区前哨基地の制圧完了しました!」

「この基地からハッキングを開始します!」

 

「前衛の兵士はこのまま68区に進軍!」

「敵に時間を与えるな!電撃的に制圧しろ!」

 

 

 

最大の敵となる青年を消したと思っていたカイザーコーポレーションだった。

 

アレが全て。終わりの始まりだった。

 

 

普通は、そう思うだろう。

普通なら、そう考えるだろう。

普通ならば、そう事が進むだろう。

 

 

 

しかし、目の前のコレはなんだ???

 

どうしてこうなっている???

 

 

 

 

それよりも__

 

それよりも__

 

 

 

 

何故、???

 

お前が生きている??

 

最大の脅威 __ 月雪カナタ!!

 

 

 

「貴様ぁ!あの衛星砲によって消えてなかったのか!!?何故まだ生きている!!?」

 

 

『もちろん一度は消えてたさ。しかし奇跡を起こした。このクリスマスのためにな。だから俺はこうして復活した』

 

 

「きせ、き??奇跡…だと??」

 

 

『現実主義に囚われた大人にとって妄想ひどい話かもしれないが、でも俺は奇跡に奇跡を重ねて生きることを許された。キヴォトスの大地がそうしてくれた。こうして会話できることが何よりも証拠。それと逆探知は無意味だ。どうせあと数分もすればそこには居ない。何より今日この特別な日にお前らを否定するからな』

 

 

「なんだと…??」

 

 

『宇宙にある悪意が消えた瞬間、SRT特殊学園がお前らを殲滅しようと動きだした。こうなったら貴様らに勝ち目はない。そして俺はお前らを絶対に許さない。連邦生徒会の兵士としてお前らカイザーコーポレーションを全て殲滅すると決めた。ああ、もう二度とこのキヴォトスの大地に足を踏ませるつもりないない。

 そうとも。そうだとも。

 何度でもこの手で正当化しよう。

 何故なら俺は月雪カナタをする者。

 子供のために大人をしない大人は…

 この俺が責任を持って葬ってやる!!!

 

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!!?」

「な、なんだと??」

「う、嘘だろ…嘘だろ!?」

「もうダメだ…おしまいだ…」

 

 

 

ノイズが混じる通信越しなのに。その体に痛覚が走り辛い装甲の筈なのに。背筋に氷を深く突きつけられたような悪感と恐怖が襲う。

 

既に何名かのオートマタが椅子から崩れては月雪カナタに恐れ慄き、装甲をガタガタと震わせている。

 

 

 

『それとジェネラル。お前だけは必ずこの手で裂いてやる。…おごり高ぶったアリウスの子供達を苦しめ、そして命を奪った落とし前は必ずや…!この月雪カナタが責任を持って果たす!たった一人の子供に怯えながらそこで待っていろォ!!』

 

 

 

そうして通信は切れる。

 

月雪カナタの声はもう聞こえない。

 

だが、あの存在はこの身に刻まれた。

 

必ず__その必ずを果たしに到来する。

 

何故ならアレはそうだから。

 

 

 

「カナタ……カナタァァァ!!!」

 

 

ダンっ!とコントロールパネルを叩くジェネラルは感情を隠せない。

 

そして隣にいたプレジデントもまだ生きていた存在に驚きを隠せずにいた。

 

 

 

「どうするつもりだ…?ジェネラル」

 

「っ!」

 

 

月雪カナタを消した。この世から抹消した。プレジデントもジェネラルからそのように報告を貰っており、実際に月雪カナタが光に飲まれて消える瞬間を、また衛星砲ノヴァを初期化する直前までの月雪カナタの神秘反応を捉えていたデータも確認し、このキヴォトスから月雪カナタが消えてなくなった事を理解した。把握した。

 

だから確かにこの半年間、あの子供が存在しない事を実感していた。

 

もう何も恐れる事はない。

もう何も邪魔される事はない。

 

それが現実であり、勝者の報酬だった。

 

 

しかしそれは全てまやかし。

 

今この瞬間何もかもが裏返ってしまい、子供を搾取していた大人は、色彩の怒りに触れた事でいつの間にか終わりが迫っている事を知った。

 

 

持っている杖が……震えを覚える。

 

それはどのような感情からなんだ??

 

 

 

「キヴォトス中の兵を集めろ…」

 

「!?」

 

「今すぐにキヴォトス全土にあるカイザー兵を招集し、SRTを迎え撃て!!」

 

「っ、はっ!!!」

 

 

ジェネラルは叫ぶ。

 

戦う以外に道はない。

 

弁明も、謝罪も、後悔も、何も許されない。

 

ここにあるモノが全てだ。

 

カイザーコーポレーションは『支配』を強さとしてきた。そのやり方から逃げては実質的な敗北かつ終焉を意味するだろう。

 

 

 

「ジェネラル…!」

 

「必ずっ……奴を討ちます…!」

 

 

兵量はコチラの方が上だ。

 

物量だってSRTよりも優っている。

 

途上中とはいえ軍拡は順調だ。

 

迎え撃たない選択はなく、それ以上に逃げる選択は与えられず、そして滅びないための選択をする。

 

 

 

「この場を任せる…」

 

「……」

 

 

 

必ず勝て__と。

 

必ず討て__と。

 

そんな言葉は残さず、プレジデントは何も延べず去る。

 

 

 

この責任は月雪カナタの奇跡を許してしまったカイザーPMCが原因であり、指揮官であるジェネラルの責任。

 

 

 

だが、同時に。

 

 

月雪カナタの怒りに触れてしまう。

 

キヴォトスの子供を。アリウスの子供を利用し、月雪カナタたった一人を葬るためにその命を引き換えさせようと泥水から拾い上げ、その虚しさを利用したことが全ての原因であるから。

 

だからプレジデントも月雪カナタによって正当化される対象である。

 

月雪カナタは言った。

カイザーコーポレーションを全て滅ぼす。

 

それは子供の戯言には聞こえなかった。

あれは子供の遊戯には捉えれなかった。

 

それらは間違いなく、子供なんかで定義できる相手ではない。とんでもない恐ろしい敵に敵と認識されてしまった。覆る事は無い。正当化の色彩を裏返すことは叶わない。それはベアトリーチェという大人ですら裏返せなかった存在だから。

 

 

 

「トリニティにいるPMCに繋げろ」

 

 

戦いが始まった以上、ジェネラルはどんな手を使っでもこの戦いに勝つと切り替える。

 

キヴォトス全土から兵を集め、SRT特殊学園を迎え討ち、月雪カナタを相手に備える。

 

どのようにして衛星砲ノヴァを破壊したかは存じないが、だが月雪カナタはその破壊兵器に頼らず必ずこの場所にやってくる。責任を果たそうとジェネラルの首を討つために。

 

 

 

「これは……まだ、動いているのか??」

 

 

「?」

 

 

 

トリニティ自治区にいるカイザーPMCに指示を出し終えたジェネラル、すると一人の解析班がモニターを見て呟きを聞く。衛星砲ノヴァが砕け散った以上解析班の役割は終わっている。しかし解析班が呟いた言葉にジェネラルは聞き逃さなかった。

 

 

 

「どうした?何があった??」

 

「!、いえ、それが、そのっ…」

 

「報告しろ」

 

「はい!」

 

 

 

解析班はこれを報告するか迷っていた。

 

だがジェネラルの指示だ。

 

命令通りに解析班は報告する。

 

 

 

 

「衛星砲ノヴァが……実はまだ動いていますっ…!その反応があります!!」

 

「「「!!???」」」」

 

 

「なん…だと??」

 

 

 

 

耳を疑う報告だった。

 

まだ、アレが辛うじて生きている??

 

 

 

「衛星砲ノヴァは貫かれた事で二つに砕け散りましたが、しかし衛星砲本体を動かすための動力源はまだ辛うじて動いています。そう言った意味ではまだ動きますが、兵器としての機能は…」

 

 

「胴体は動く………?」

 

 

 

ジェネラルは考える。

 

 

既に__敗北濃厚なカイザーPMCだ。

 

諦めを誘うような敗北主義な思考に兵士として苛立ちを覚えるが、しかしSRT特殊学園が動き出せば負けるのはカイザーPMCである事を誰よりも理解しているのがジェネラル。

 

けれど、ただ負けるだけではカイザーコーポレーションも名折れである。

 

何より……月雪カナタに完全敗北はジェネラルの中で到底許されなかった。

 

あんなのに全てを裏返される??

 

冗談では無い。

屈してたまるものか。

 

 

 

ジェネラルは考える。

 

考えて…

考えて…

 

 

 

子悪党のように、とある事を閃いた。

 

 

 

 

「月雪カナタの神秘はどうだ??まだノヴァは捉えているか??」

 

 

「ええと…反応は、ありです。ですが砲撃のためのコントロール権を得れておらず、それ以上に砲塔は砕け散っているため、どのみち砲撃は……」

 

 

「構わない」

 

 

「………え?」

 

 

「それを___動かせ」

 

 

「う、動かす…とは??」

 

 

「文字通りにだ。衛星砲そのものを動かせ」

 

 

 

ジェネラルはモニターを操作し、シラトリ区の地図を展開する。

 

そこから残存兵力と戦闘区域、カイザーPMCの基地を確認し、そしてジェネラルは考える。

 

 

 

そして……

 

 

 

「衛星砲ノヴァを__キヴォトスに落とす」

 

「!?」

 

 

 

それは耳を疑う内容だ。

 

けれどジェネラルは手段を問わない。

 

たとえ子悪党に成り下がったとしても__ジェネラルは月雪カナタの理想を否定したい。

 

もうそこに真っ当から戦う兵士としての結末は考えていない。

 

ジェネラル本人がただ、そこにあるだろう完璧な奇跡を許したくないだけだ。

 

 

存在させない。

 

理想の正当化など。

 

 

許してはならない。

 

都合の良い現実など。

 

 

 

 

「月雪カナタ…」

 

 

 

組織同士の衝突で負けるのは構わない。戦の中でありったけをぶつけて尚負けたとしてもそれは兵として本懐でもある。これも己の未熟さだと納得がいくから。

 

 

しかし、現実を裏返すようなたった一つの奇跡に屈する事だけは絶対に許されない。

 

それはありとあらゆる物をこの足で踏みつけて支配してきたリアルが、カイザーコーポレーションという支配者だからこそ、奇跡の一言で用意できる子供一人に片付けられるべき現実ではない。

 

だからジェネラルはこの時のみ己が兵士である事を忘れた現実主義者として理想主義者の奇跡かつ軌跡を砕かんと冷徹になる。

 

 

 

「貴様が奇跡を信じる理想主義者ならば…この俺も!貴様のすべてを否定し、知らしめてやる!!」

 

 

 

 

__我らだけが傷を負うと思うな…!!

 

 

 

 

 

悪意の形は地上に手を伸ばす。

 

その事をSRTは…まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目的地に着いた、って!」

 

「そうか」

 

 

 

一人の生徒会長が携帯に受け取ったメッセージを見てそう告げる。すると一人の青年は通信を切断しながら予定通りと心の中で頷く。

 

 

沢山のモニターが置いてあるこの部屋は生徒会の谷の入り口を管理し、必要ならば電車を手配させるコントロールセンターであり、場合によっては通信棟にもなる重要施設だ。

 

その施設を利用し、とある敵に向けてマイクに顔を近づけていた一人の青年、月雪カナタはアサルトライフルを揺らしながらアビドスの生徒会長、梔子ユメに振り返った。

 

 

梔子ユメは、月雪カナタを見る。

 

修繕を完了させたSRT特殊学園の制服を着こなしたSRT最強の超兵が目の前に立っている。

 

本来なら…アビドスなんて荒廃していく場所にいるはずも無い人間。とても場違いだ。

 

でも、そこにいる青年は梔子ユメにとって底抜けにお人好しな同年代の生徒であり、SRTとか関係無く彼自身を見ていた。

 

 

けれど今は…ユメは初めて思う。

 

コレが本当の月雪カナタなんだと。

 

SRTを束ねる、いと高き大黒柱。

 

 

 

「行くんだね、カナタくん」

 

「ああ。全て終わらせてくる」

 

 

 

列車砲シェマタの砲撃から、ひと息つく間もなく生徒会の谷にあるコントロールセンターに飛雷神で向かい、SRTにいる元ミレニアム所属のハッカーがハッキングしてくれたカイザーPMCの通信回線に繋げると月雪カナタは宣戦布告をした。

 

そして今からその通りに向かう。

 

アビドスに新たに出来た一人の後輩の神秘を頼りに今から飛雷して、シラトリ区の外区にある違法に作られたカイザーPMCの本拠地、そこにいるジェネラルを打ち滅ぼす。

 

 

「カナタくん、これ……持っていって!」

 

 

梔子ユメはホルスターに収められていたハンドガンを取り出してカナタに渡す。

 

もしこれを渡した場合、戦地に行かないとはいえユメの装備が無くなってしまう。

 

盾も、銃も、全てを託すことになる。

 

 

「使わなくても良いの。でもお守り代わりとして持って行って。私も…一緒だから!」

 

 

あの日、奇跡を忘れさせるような絶望の砂嵐の中で助けられ、いまはいつも通り感情豊かに動けるくらいには回復した。それでも全快とはいかず戦いに支障はあるだろう。だから梔子ユメはとても強い後輩に戦地を任せ、自分は生徒会長としてアビドスで帰りを待つことにした。

 

体が弱っている事に関しては月雪カナタも同じであるが、それでも回復量は充分だと判断した彼はカイザーPMCに時間を与えないためにも年が明ける前に動く事を決め、特別なこの日をわずかながらも不意にして全てを終わらせる。

 

 

「わかった、君の想いを持っていくよ」

 

「うん!」

 

 

月雪カナタは梔子ユメの気持ちに応えるためにも差し出したハンドガンに手を伸ばし__その腕を掴み取り、グッと彼女を引き寄せてその腕で強く抱きしめた。

 

 

 

「___ふぇ??」

 

「ありがとう____梔子、ユメ」

 

 

 

 

 

強く__そして強く、その身体を抱きしめる。

 

凡ゆる想いを、そこに込めて感謝を告げる。

 

 

 

「絶対に、お守りを返しに戻ってくるから」

 

っ……うんっ……うんッ!」

 

 

 

名残惜しさは微かにして、けれど行くべき場所がある。

 

待っている者たちがその先で戦っている。

 

カナタはハンドガンを受け取りながらユメから離れて、彼方遠くある神秘を探り__

 

 

 

「視えた__!!」

 

 

 

そして、姿を消した。

 

その責任を果たすために。

 

 

 

「カナタ、くん…」

 

 

目の前にあるのはモニターだけ。

 

もう彼はそこにいない。

 

SRTの制服に着飾れているからこそ、その役割を果たしに彼は待つべき場所に戻った。

 

ハンドガンは返しに戻ってくる。

 

 

でも寂しさが、心を震わせる。

 

あの時のように__奇跡を削り取るような冷たくて無惨な砂嵐の中で触れてくれた、あの温かな熱がそこから消えてなくなった気がするから。

 

 

けれど、この心臓を叩いてくれた心臓の鼓動が嘘じゃないのなら、仄かにまだあるから…

 

 

 

「えへへ……ギュって、されちゃった…」

 

 

嬉しそうに頬を染めて、この熱は本物に…

 

 

 

 

 

 

「ぅぅ、泣けますね…」

「オートマタも涙流せるのね…」

 

 

そしてその後ろには、とある企業の幹部であるオートマタは何処からか取り出したハンカチで目元を拭い、なぜか涙が出るシステムが搭載されているそのオートマタの身体に対して少し引け気味にツッコミを入れるゲヘナの諜報員。

 

順番にセイントネフティス幹部とゲヘナ風紀委員会の空崎ヒナである。

 

この日までの協力者だ。

 

それぞれ別自治区の関係者であるが、月雪カナタを通してなんだかんだで仲は深まっていた。

 

 

 

「それじゃあ、一度戻りましょう」

 

「ぅぅ、はい、そうですね……こほん!ではお二人方!列車の手配は済んでいますのでそちらに乗り込んで自治区に戻りましょう」

 

「えへへ……じゃあ、街に戻ろっか!あ、それとヒナちゃん!護衛ありがとうね!」

 

「え??えと…ヒナちゃん??」

 

 

空崎ヒナは戦えない二人のための護衛。

 

表向きは今日もゲヘナ諜報員として役割を果たそうとアビドス自治区に来ているだけ。

 

本来ならココまでする義理はないのだが、空崎ヒナも月雪カナタの助けになれればと最後まで付き合う事を決め、そんな彼女に梔子ユメはアビドスの生徒会長として感謝する。

 

急な呼び捨てにやや戸惑いを覚えるが、しかしこの一ヶ月で梔子ユメのことは遠間からではなくより近い距離でその人間性を感じ取り、裏表の無い素敵な生徒会長である事を理解した。

 

何せ…とある同年代かついずれゲヘナ生徒会長になろうと野心塗れなあの生徒(マコト)と比べたら梔子ユメの付き合いやすさは天地の差である。ああ…もし本当にアレがゲヘナの上に立つようならゲヘナ自治区にさよならバイバイして自由なアビドスに所属してしまおうか?そんな風に考えてしまうほどである。

 

 

「護衛に関してはあまり気にしないでくださいアビドス生徒会長。私は月雪先輩が全力で戦えるようにするためですから」

 

「ふふっ、ありがとう。あと、そこまで固くならなくて良いよ?普通で大丈夫だからね」

 

「で、ですが…貴方はアビドス自治区の生徒会長ですので…」

 

「そうですよ生徒会長様、その…分け隔てのない心はとても素敵なものですが、しかし流石に生徒会長として頭を下げすぎるのは立場として如何なものかと…」

 

「そうかな?私はお友達としてヒナちゃんに感謝しているだけだよ?生徒会長とか立場は関係無くね!」

 

「!!」

 

「は、はぁ……なるほ、ど」

 

 

良くも悪くも生徒会長としての自覚の足りない梔子ユメに振り回されるネフティス幹部。

 

上の者とはもっと構えてるべきだ。

 

それを知っている大人側だからこそ、自治区という国の代表として選ばれた生徒会長が固さを捨てるのは如何なモノかと悩ます。

 

しかし梔子ユメは生徒会長の身分を抜きにして空崎ヒナを友として認識し、ゲヘナ諜報員だとか関係なく、打算一つどころか混じりっ気の無いそんな心で頼りにしている。

 

 

だから…

 

 

 

「友達……ええ、貴方はそうなんですね」

 

「?」

 

「ええ、分かったわ。それなら私は友達として梔子先輩を、月雪先輩のためにも絶対に守るわ」

 

「えへへ、ありがとう!ふふっ、なんだかヒナちゃんってホシノちゃんみたいに心強いね」

 

「生徒会長様……本当に貴方って方は…」

 

「ぅ…そ、そんなにため息つく…?」

 

「小鳥遊ホシノ…」

 

 

 

空崎ヒナはシラトリ区の方を眺める。

 

月雪カナタよりも先に、小鳥遊ホシノは飛雷神先としてシラトリ区に動いているから。

 

だから今頃、月雪カナタは小鳥遊ホシノの元に飛んでそれぞれの目的を果たしに作戦に移っているのだろう。

 

 

 

「キヴォトスをお願いね、二人とも…」

 

 

 

少女は望む。

 

彼方先にある__その奇跡を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッッ…

 

 

 

 

 

 

ん……んん…?

 

 

 

 

何か、揺れた。

 

それによって目を覚ます。

 

 

 

「な、に…が?」

 

 

 

外が少しだけ騒がしい。

 

……いや、別に騒がしい程度ならキヴォトスでは普通のことだ。

 

また何処かで抗争でも起きてるのだろうか。

 

でもこの辺は比較的平和だ。

 

私は気になり布団から出て、ベランダを出てみる。

 

 

 

「ぁ………ゆ、き…」

 

 

 

町に降り注ぐ、白の飾り。

 

自身の苗字を連想する__それは、雪。

 

まだ昼だけど、あと数時間で月も見える。

 

そうなれば『月雪』になるだろうか。

 

 

 

「……」

 

 

 

わたしは、この季節が怖い。

 

己に課せられた概念(せってい)が今は痛くてたまらなくて、愛せなくて仕方ないから。

 

だから今は…雪も、月も、訪れないでほしい。

 

 

 

「……にい……さん…」

 

 

 

彼を__最愛の兄を亡くした。

 

大事な、大事な、家族を失った。

 

空から見下ろす無慈悲な光によって。

 

 

 

「っ…」

 

 

奪い取ったんだ。無慈悲に。

 

何よりキヴォトスで禁忌に近い【死】を得て兄はこの世界から失われてしまった。

 

 

 

「……兄さん………わた、し…」

 

 

 

しばらく外を見ていた。

 

色の感じさせない眼でそのまま。

 

 

されど雪は止まず、降り続ける。

 

まだミリ程度の粉雪だ。

 

 

しかし、段々と寒さが深まる。

 

 

このままでは風邪を引く。

 

白い吐息が部屋に戻れと訴えて敵わない。

 

 

大人しくベランダから、リビングに。

 

ガラス扉を閉め、鍵を閉めようとして__

 

 

 

 

「ぇ?」

 

 

 

その刹那__背筋に悪感が走る。

 

私は、眺めていた庭に振り返り、そこには…

 

 

 

 

 

ドンっ

 

 

 

 

 

銃を構えた数体のオートマタが立っていた。

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

カチャリ

 

 

 

 

 

 

「!!、!??」

 

 

 

 

 

衰えている筋肉を総動員し、私は真横に飛んでオートマタの射線上から回避行動を行う。

 

すると、ダダダダッ!と乱射される。

 

先ほどまで居た場所に多くの弾丸が通り過ぎた。

 

ベランダの窓ガラスを破り、外の冷たい空気と共にガラスもリビングに飛び散り、部屋中に弾が乱射される。

 

 

 

「いやぁぁぁぁああ!!!」

 

 

 

叫びながら両手で頭を覆い、銃撃音と降り注ぐ窓ガラスに耐える。

 

カラン…

カラン…

 

薬莢が転がる音。

家の中の家具が倒れる音。

 

しばらくして、銃声が鳴り止んだ。

 

 

 

「おい、今のがヤツの血縁者か??」

「ああ、月雪の妹で間違いないな」

「ならとっとと捕まえるぞ」

 

 

 

外から3人の声が聞こえる。

 

それより、捕まえる??

 

わたしを??

 

な、なぜ???

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

割れたガラスによって切り傷を浴びた腕。

 

垂れ落ちる血がフローリングを赤く汚す。

 

ああ、腕が震える。怖くて、冷たい。

 

それでもなんとか立ち上がる…!

に、逃げないとっ!!

 

 

 

「うっぁ!?」

 

 

 

しかし、割れた窓ガラスに足を取られてしまい、ガジャン!音を立ててガラス破片の上に倒れ落ちてしまう。

 

 

 

「ぅ、ぅぅっ、ぐっ…」

 

 

全体重をかけてガラスの破片の上に倒れてしまったことで、腕を、肘を、膝を、頬に、切り傷を加えてしまい更に血を流してしまう。

 

 

痛い……

 

いた、いっ……

 

痛いよぉ………

 

 

 

「ターゲットを捕捉した。間違いない」

「おいおい??血だらけじゃないかよ!」

「本当にアレの妹か?随分と弱々しい…」

 

 

 

「ひぃっ…!?」

 

 

 

恐怖で腰抜けてしまった体。

 

わたしは起き上がれない。

 

しかし、その場から逃げようと尻餅を付きながらも手のひらを支えに退がる。

 

だがその手のひらもガラスの破片で肌を傷つけ、血まみれにしてしまい、リビングのフローリングは傷ましそうに引きずった血痕を生み出す。

 

対してオートマタの外装は装甲なためガラスの破片を踏み砕いて、リビングに入り込んだ。

 

 

 

「いや……いやっ………来ない…で…!!」

 

 

 

自分の3倍以上の大きさはあるオートマタ。

 

それが三体、迫ってくる。

 

そうして血だらけの私を見下ろす。

 

手足はガタガタと震えて、動けない。

 

 

 

 

__助けて…

__助けて…!

 

 

 

 

「月雪の妹。着いて来てもらうぞ」

「抵抗するな?子供だろうと撃つ」

「そういうことだ。大人しくしろ」

 

 

 

「ぁ、ぁ…ぁ……ぁぁ…っ…、!!!」

 

 

 

 

こちらに伸ばされる手。

 

それが、ゆっくりと迫り来る。

 

 

 

 

助けて…

 

怖い…!

 

 

 

 

「た……す、けて…」

 

「んぁ?」

 

 

 

 

 

助けて…っ

 

怖い…っ!!

 

 

 

 

 

 

「たすけて……にいさんっ……っ!」

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

___く、くははっ!!

 

 

 

 

 

 

誰かが、嘲笑い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の兄はこんな所に来ねぇよぉ!!!」

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

 

 

 

無意味だと大人は子供に突きつける。

 

 

 

届きやしない理想を子供に知らしめる。

 

 

 

どうしようもない、無力の嘆き。

 

 

 

大人は遂行のために手を伸ばし__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダン!!!

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ!!」

 

「!?」

「!!?」

 

 

 

 

刹那__新たな銃声が部屋に響き渡った。

 

 

「!」

 

 

そして誰かが、私の真横を通り過ぎる。

 

 

 

ダン!!

ダン!!

バキッ!!

 

 

 

「ぐぁぁあぁ!!」

 

「な、なに!!?」

 

 

 

銃声がもう一体オートマタを吹き飛ばした。

 

 

 

 

「間に合った、のかな…」

 

「ぁ………ぁ…ぅ…?」

 

 

 

 

私の前に__誰かが立つ。

 

コチラを守るよう敵に立ちはだかって。

 

 

 

「このっ…! 何者だぁ!!」

 

 

すると残り一体のオートマタは大型のアサルトライフルを構えると私の前に立っている者を狙って引き金を弾く。

 

しかし目の前の人は構えていたシールドを展開すると銃撃を防ぎ、弾幕から私を守る。

 

 

 

「何者、か…」

 

 

展開した盾で銃撃を受け止めながらその者は小さく呟き、斜めに構えた盾の窪みから銃を覗かせてトリガーに指をかける。

 

 

 

そして___ダン!!!

 

__と、神秘の込められた銃弾は目の前のオートマタを容易く吹き飛ばしてしまう。

 

 

 

「この装甲に一撃……だ、と…??」

 

 

 

そして残り一体のオートマタは倒れる。

 

簡単に敵を殲滅した。

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

 

巨大なオートマタによって阻害されていた外の光が部屋の中に差し込む。

 

そうして助けに割って入った、その者を照らした。

 

 

 

「そういや何者…だった、ね」

 

「!」

 

 

のオッドアイ。

桃色の短めな髪の毛。

少しだけ砂の被った制服。

あと三角のマークを飾った名札。

 

その人は銃と盾を解除する。

 

そして、コチラに振り向きながら…

 

 

 

 

 

「シラトリ区の英雄…と、だけ言っておくよ」

 

 

 

 

僅かに誇らしくそう笑んで言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてコレが後に…進学先を決めた出会い。

この者が未来の先輩になってくれる。

そのことを私はまだ知らない。

 

 

 

 

 

つづく

 







まぁ原作のジェネラルもSRT相手に通りすがりに踏みつけられたりと雑な扱い受けていたし、それがカナタ相手だとこうなるのは予定調和すねぇ。ぺちゃんこデスよ。






もちろん明日(18:00)も更新する事にした。
錠前サオリだ、よろしく頼む。

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