なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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第6話

 

 

 

百鬼夜行に来てから半年間が経過した。

 

夏の暑さを乗り越えて秋の季節。

 

相変わらず食べ物が美味しい。

 

あと空気も美味い。

 

充分に学生生活を謳歌していると言える。

 

 

そんな俺こと月雪カナタは……

 

 

 

 

 

ダン!ダン!ダン!

 

ガサ!ガサ!

 

 

 

「っと!」

 

 

秋の彩りに身を任せるのは勝手だが今は集中するべき相手がいる。射線を見極めながら遮蔽物を使い、迫り来る弾丸を回避する。

 

鳴り止んだタイミングで顔を出し、敵の位置を補足してコチラも銃撃に入る。

 

今現在、敵対状態にある__七稜アヤメも遮蔽物を使ってコチラを伺っている。

 

 

「どうしたアヤメ!いつものように突っ込んで来ないのか?今回は随分とおとなしいな」

 

 

「安易に手を出したほうが負けるんやろ?カナタと何度もやって学んだけん、そんな挑発はのってやらんよ」

 

 

 

アヤメは初等部だが純粋なスペック面ではこの寺子屋で一番だ。もし直接戦闘になったら俺が負けるのは一目瞭然。うまく立ち回りでカバーしないと純粋な戦闘力に食われてしまう。

 

 

 

「そろそろ。誘うか………よっと!」

 

 

俺は訓練用の銃の引き金を引き、遮蔽物の隙間を狙い、アヤメを牽制する。訓練用のゴム弾が遮蔽物に弾かれ、それでも弾ける音が焦燥感を誘う。さぁ!痺れを切らして出てこい…!

 

 

「とりゃあ!」

 

「来たな…!」

 

 

俺も同時に遮蔽物から飛び出して回り込むように走る。アヤメも遮蔽物の傍から飛び出してコチラを追い込もうと迫り来る。少しずつ逃げ場を無くしていく俺。アヤメはチャンスとばかりに詰めに入った…が、ココでアクシデント。

 

 

「カナタ!追い詰め……ぐぇ!?」

 

 

季節は秋。枯れ葉がよく舞い散る。

 

アヤメは枯れ葉に足を取られ、思いっきり横に滑り転んだ。

 

 

「はい、終わり!」

 

「きゃん!」

 

 

転んだアヤメにゴム弾を一発ぶつけて終了。

模擬戦は俺の勝ちだ。

 

 

 

「うぇ!?そ、そんなぁ…!」

 

「遮蔽物から遮蔽物に移動するのはアタッカーとして基本行動。なら遮蔽物から飛び出す際に滑りやすい落ち葉を死角となる足元に置いておけばそれはトラップになる訳。俺が退きながら『ガサ!ガサ!』としてたのは落ち葉を集めて引っ掛けるためだ」

 

「うわーん!結局誘われたぁー!」

 

「ふん、初等部を相手に俺は負けんよ」

 

 

 

悔しそうにジタバタするアヤメ。

 

スペック面では負けるけど頭脳性なら負けるつもりはない。立ち回りで勝ってみせる。

 

 

「アヤメちゃんお疲れ様。それとカナタ兄様もお疲れ様です。あの、コチラをどうぞ…」

 

「おしぼりか。ありがとうナグサ。ほらアヤメも立ちな。反省会だ」

 

「ぐぬぬぬ……年上なのに本気とかズルい…」

 

「ズルいって……あのねぇ?純粋なヘイロー持ち相手に手加減とか俺出来ないからね?普通に負けるからね?」

 

「負けちまえ」

 

「何が負けちまえだ。断る。とりあえず顔を良く見せろ。顔中に砂ついてるぞ。動くなよ」

 

「わっっぷ!んむむむむ…!」

 

 

アヤメの頭を掴んで、ナグサから貰ったおしぼりで顔をゴシゴシと拭き取る。

 

 

「…っと、よし。コレで美人さんだな。ほらいつまでもブー垂れてないで一度外に退避しろ。次はナグサと俺の模擬戦だ」

 

「ぶー、分かったよぉ……っ、ナグサ!こんな奴とっとと倒してしまい!ウチが許可するけん!」

 

「う、うん…?」

 

 

 

訓練用の銃を軽く点検したあと、準備が揃い次第、俺とナグサは定位置に移動する。

 

そして「始めっ!」とアヤメから合図を受けた瞬間、俺たちは一気に動いて遮蔽物に身を隠す。

 

先手必勝っとばかりに俺は銃撃に入ろうとしたが、不意に殺気…!

 

顔を出そうとした位置にゴム弾が鋭く通り過ぎた。

 

 

 

「ッー!やはりあの娘ニュータイプだろ!」

 

 

「っ!外した…!一撃で当てるつもりだったのにカナタ兄様も勘が良い…!」

 

 

早くなる鼓動。

 

初等部とは思えない程の闘気。

そして純粋に高い戦闘力。

 

間違いなく天才と言える未来の卵だろう。

この模擬戦で負けても納得いくレベル。

 

しかしただで負けてやるほど月雪カナタは甘くない。成り代わったからこそ負けない。それが模擬戦だろうと……俺は負けん!

 

 

 

「狙うっ!」

 

「そこです…!」

 

 

 

模擬戦は緊張感を交えてしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でも使ってこその銃撃戦だけど、でも水の上はズルいと思わんの?」

 

「使えるものは使った。じゃないと俺は君達に勝てないし」

 

「だからと言って水面をおもいっきり踏ん付けることで水飛沫の壁を作ってゴム弾を遮るとかズルも良いところやん!もう!ナグサもなんか言ってええんよ!カナタは大人気ないって…!」

 

「ええと……お、お見事、でした?」

 

「ありがとう、ナグサ。君も強かったよ」

 

「ぁ……うん。その……あ、ありがとう…!カナタ兄様!……えへへ…」

 

「むー!面白くなーい」

 

「何とでも言え。俺は誰が相手でも負け__」

 

 

強気な発言で先輩としての威厳を確保しようとして…

 

 

 

「主人殿ぉぉ!」

 

 

「へ?ぐぁぇっ!!!」

 

 

急に飛んできたケモ耳ことイズナ。今日も元気いっぱい。コチラの体が持つか心配だ。

 

それより突進されて吹き飛ばされる先が池って不用意に濡れたくないんだが?

 

あかん、このままだと池に落ちる。

 

 

「っ、のぉ!」

 

「わわ!?」

 

 

突進してきたイズナを両手で抱え上げながら内側にある神秘を稼働する。

 

すると月雪カナタは常識から()()

 

体内の質量は変わらないが受ける重力が半減されたような身軽さ。

 

水飛沫を上げながら池の水面に着地した。

 

 

「おお!さすが主人殿!私が憧れる水遁の術をこんなにも易々と…!」

 

「いや別に水遁でも何でもないぞ?ただ神秘を使って立ってるだけ。それよりも危ないだろイズナ。急に飛び込むのダメ。あまり悪い子だとそのケモ耳好き勝手するぞ」

 

「ケモ耳ですか!?どうぞ、どうぞ!主人殿で良ければイズナのことを幾らでも好きにしてください!」

 

「語弊がひどい」

 

「またイズナちゃんか。ベッタリやんね」

「す、好きっ…!?」

 

 

耳をピコピコするイズナを抱え直しながら水面を歩いて池から陸に上がると、ナグサが慌てたように反応している。

 

なんや?ナグサもケモ耳触りたいんか?

 

イズナなら頼めば幾らでも触らしてくれるぞ。俺も良くモフってる。

 

めっちゃフサフサで触り心地が良い。

 

 

あ、でもあの夢の中で出てきた大預言者のケモ耳が最高クラスに良かったな。またあの耳モフりてぇわ。半年ぶりに会いたい。…会いたくない?

 

 

「日に日にカナタもだんだんと忍者っぽくなってきてんね。もしかしたら本当に忍者の末裔だったりするんかな?」

 

「そんな家系聞いた事ないな。ただ俺の持ってる神秘がアニメや漫画にある忍者っぽい事を出来るようにしてくれてるだけで、忍術に関しては何も使えないから」

 

「でも主人殿は水の上どころか壁に両足を張り付けてそのまま駆ける事が出来ますよ!私にとっては忍術は使えずとも主人殿はとても忍者なお人だと思います!」

 

「忍術を使えずとも忍者…って、なんかどこかで聞いたことあるなぁ」

 

 

 

多分、八門とか開きそうな体術のスペシャリストだと思う。緑のタイツとゲジ眉。

 

あ、でも人外離れしたキヴォトス人のフィジカルなら案外可能かもしれないな、体術のスペシャリストって概念。

 

実際にSRT特殊学園の者達って相当フィジカル高いと聞くし、持ち合わせている神秘次第では八門遁甲は開けれたりするんじゃないのか?

 

このカナタがァ!!

お前を最強と呼んでやるッッ!!

 

 

 

その前に今の俺は誰かを認めれるほど強くないし、なんならまだまだ弱いですけど。

 

弾丸一つで致命傷を負うような脆さを引きずっているし。

 

それでいざ銃撃戦が始まると基本隠れることしかできない月雪カナタって喧嘩上等なキヴォトスの環境だとほぼ詰んでるよな。

 

普通に死ぬやん。

 

やっぱり俺に必要なのは回避力と機動力か。

 

 

 

「イズナもやるか?俺と模擬戦」

 

「主人殿直々の稽古ですか!?やります!」

 

「まだやるん?元気やねぇ」

 

「そ、そうだね…」

 

 

 

もっとこの神秘に対して理解深めて『月雪カナタ』を完成させないとな。

 

成り代わった以上はもっと頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___月雪カナタ。それが彼の名前。

 

 

半年前の梅雨前に百鬼夜行連合学園に引っ越してきた二つ上の男の子。彼は中等部一年として私達が通う寺子屋に転入してきた。

 

百鬼夜行連合学園にはもっと大きな学舎はある筈だけど彼はこの寺子屋を選び、私とアヤメちゃんの三人で勉強するようになった。

 

最初は少しだけ彼のことが、その…

 

少しだけ怖かった。

 

 

もちろん接してみて彼が優しい人柄なのは分かったし、砕けているヘイローからしてどこか大変な思いをして生きてきたと、そう感じられたから私は月雪カナタから恐怖を感じなかった。

 

そう、ただ、純粋に男の人と接する方法がわからなくて困惑していただけ。

 

つまり、ただ人見知り。

私は付き合い方に迷っていた。

 

でもアヤメちゃんは彼とすぐ仲良くなった。

 

最初は私もアヤメちゃんも「くん」と名前の下に付けていたけど、彼の人柄の良さに甘えたのかアヤメちゃんはすぐに彼を呼び捨てするようになった。

 

そして彼もまた呼び捨ては気にせず、それを受け入れながら同じ明るい者同士としてアヤメちゃんとすぐに仲良くなった。

 

それから次第に私も彼と解け込むようになり何の遠慮も、躊躇いもそこに阻まれず、気づいた時には私は笑って彼と寺子屋で時間を共にしていた。怖かったと思っていた感情が嘘。むしろ年上のお兄さんとして接してくれる彼に心地よさがあって、温かい。

 

アヤメちゃんがボケて、カナタ兄様がツッコミを入れる。もしくはカナタ兄様がボケて、アヤメちゃんがツッコミになる。そんな二人を眺める私はコロコロと静かに笑っている。

 

寺子屋でも、それ以外の場所でも、三人揃った時はそれをありきたりな日常にして、百鬼夜行のおおらかさに恵まれながらこの真っ白に彩りが注がれる。

 

 

 

__真っ白。

 

 

私はこの言葉があまり好きじゃない。

 

 

幼い頃から、肌も髪も、まつ毛、目の色も、何もかも真っ白な私を揶揄う人がいた。特に男の子から『雪女』と笑う。人を苦しめる妖怪の類。

 

そのあだ名が嫌で、その度に苛めっ子からアヤメちゃんに助けられて、震えるだけの私。

 

 

そんな弱い私は嫌だった。

 

 

銃を持てるようになり、キヴォトス人として正当化の手段を手にいれたけど、でも心は一向に強くならない。

 

どう足掻いても真っ白な私にはなんも変わりないから。

 

 

けれど…

 

 

 

 

『ナグサって真っ白だよなぁ。え?変?いや。将来性を考えたら間違いなく美人さんコースだろ。それって女性としての強みじゃね?間違いなくアヤメよりも男性受け……いてぇ!アヤメ!やめろ!ナイスぅ!』

 

 

 

余計なことを言ってアヤメちゃんに頭を噛みつかれる彼は良くありげな光景。でも私の真っ白を笑わず、将来を約束された真っ白は強みなんだと彼は頷く。

 

あ、あと、美人さんだって…………。。。

 

 

だから嬉しかった。

そう言ってくれて。

 

そして彼は察してくれた。

その真っ白に怯える私を。

 

 

 

__いや俺もさ。このヘイローが原因で昔から良くイジメの標的にされていた。男性なのに歪な光輪を頭に飾った異端者なんだってさ。ひどいよな?別に好きでこんな贋作を掲げてる訳じゃないのにね。でも分かってくれない奴らは仕方ないんだ。何せこちらが弱いと相手は付け上がる。それがキヴォトスなら尚更。

 

 

だからさ…

 

 

 

 

自分を『俺』と言うようになった。

 

彼からそう教えられた。

 

引きずり続ける弱さから脱そうと。

むしろその歪さを強みにしようと。

 

その日まで痛みに耐え続けていた『僕』の在り方を『俺』に代わることで正当化する。

 

それが生徒の自由意志を尊重するキヴォトスなら出来るとヘイローを濁らせながら光らせていた。それを聞いた私は……

 

 

 

__わ、わたしも、同じ…できるかな?

 

__うん。

 

 

 

 

ハッキリと告げる。悩まずに。

 

 

だからいつしか…

そんな彼に『憧れ』を抱くようになった。

 

 

その濁りすらも月雪カナタとしての形。

 

歪すらも自分だけのアイデンティティ。

 

 

そしていつだったか、私は自分の弱さ故に『カナタ様』と呼んでしまっていた彼の名を、憧れを抱くようになってから『カナタ(にい)様』と呼ぶように変わっていた。

 

もちろん年上だから『様』付けになるのはわかる。私の場合は育ちも関わるけど。

 

でも私の『先駆者』になってくれる。

 

先行くが同じ、学舎の『兄者』として私は月雪カナタを尊敬するようになったから。

 

だから呼び名が変わった。

 

 

怯えではなく__慕う、として。

 

 

 

 

 

 

「あっちもケモ耳っ!こっちもケモ耳っ!今日は秋祭りだけあってぎょうさん集ってる!いやー!堪らんですなぁ!ズルズルズルズル!!」

 

 

「…うーん……」

 

 

 

視界に入れるケモ耳を追加の味付けとばかりに屋台のうどんを啜る、月雪カナタ兄様。

 

尊敬はしてるお方ですが、ケモ耳が関わると暴走する彼のことは少しだけ困惑します。

 

相当好きなのでしょう。ケモ耳………

 

わ、わたしの頭にもケモ耳がございましたらイズナさんの様に彼から頭を撫でられることも出来たりと………少しだけ羨ましい。

 

 

 

「あれ?ナグサ?」

 

「!」

 

 

 

うどんの小皿をゴミ箱に捨てながら私に声をかけるカナタ兄様。

 

 

 

「一人とは珍しいな。アヤメはどうした?」

 

「ちょっと遅れるみたいでして…」

 

「そうか?どうせ既に秋祭りに来てて屋台に足取られてんだろ。探したらそこら辺に転がってるかもしれんぞ」

 

「こ、転がってる…」

 

 

アヤメちゃんに対する扱いの雑さはいつも通りであり、それはそれで羨ましくも感じる。

 

二人は本当に仲が良いですから。

 

 

「あ、それとナグサ」

 

「?」

 

「その浴衣姿可愛いな。似合ってるぞ」

 

「!!……ぅ、うん、ありがと__」

 

「でもぱっと見て『雪女』だな」

 

「うぇ!?ゆ、ゆき……」

 

「着物もほぼ真っ白だし」

 

「っ!変……かな………」

 

 

彼の言う雪女には全く悪意がない。

 

ただの感想。

彼にとっては褒めてるのかもしれない。

 

でもやはり雪女としての評価は__

 

 

 

「焼きそばとか食べるの大変そう」

 

「え?……あ、うん」

 

 

 

しかしカナタは斜め上に浮く。

 

唐突な「焼きそばソース」の感想に対して私は遅れて反応してしまい、いつの間にか雪女の言葉から引き剥がされるとむしろ戸惑いを与えられて反応に困る。ま、まあ確かに焼きそばのソースを気にすると食べるのが、大変そう…?

 

……え?それだけ?

 

やっぱりこの人は何処か違う。

 

 

 

「でも豊作は夏祭りと違って秋の奥深さに重きを置くんだ。なら着飾るなら深めな色で良かったんじゃないのか?もし白色に寄せるにしろ、薄めの桃色とか、年頃らしくもっと可愛らしく飾っても良いと思う。良く見たら頭の簪も無しか」

 

「か、可愛らしく…」

 

「たしか女性モノの羽織か、あと法被(はっぴ)があったはずだ。ちょっとついてこい。アヤメ探すついでに屋台巡って羽織モノを探すぞ」

 

「うぇ!?」

 

 

 

すると彼は私の手を掴んで祭りの中に進む。逸れないようにするために手を取ったんだと思うけど急な展開に気持ちが追いつかない。そんな彼は売り物の屋台を探す。そのついでにケモ耳に気を取られては「ぐへへ」と斜め上の情欲だらしなさを見せ、でもズンズンと進むその背中は頼もしさしかない。わたしも手を強く握る。

 

 

そして奥に進めば、金魚掬いや、おみくじ、射的など、食べる以外に楽しめる屋台が見えてくるようになり、お面や雑貨品を取り扱う屋台も目につくようになる。すると狐のお面を見つけた彼は片手間に購入すると狐のお面を側頭部に飾り、引き続き羽織ものを探し出す。

 

そして…

 

 

「これとかどうだ?着物の上から更に着ることができる薄めの羽織だよ。厚くないし邪魔にならないと思う」

 

「ほんとうだ……かわいい…」

 

「おじさん!これ幾らですか?」

 

「!?」

 

 

彼は屋台の者に値段を聞き、財布を取り出して先ほどの羽織ものを購入すると、再び私の手を引いて少し開けたところに案内される。

 

 

「ほれ、着てみろよ」

 

「え、ええと……でも、いい、の?」

 

「同じ学舎の仲間だ。あと俺は君達の先輩だからな。奢るくらい普通だろ」

 

「……」

 

 

彼は私に羽織物を差し出す。

 

桃色と水色の混ざった落ち着いた色。

 

私は困惑しながらもズイっと目の前に出された羽織物を手に取る。

 

すると更にグッと押しつけられる。

 

もうそれはナグサのモノとばかりに、だ。

 

 

 

「ど、どうか…な?」

 

「雪女から秋女になったな」

 

「ど、どう言うこと…?」

 

「穫り入れができそうだなって意味だよ。今日は豊作の祭りだ。それ着て楽しめ」

 

「!!……っ、うん。ありがとう…」

 

「でも焼きそば食べるのは気をつけろよ?やっぱりソースは目立ちそうだ」

 

「う、うん、そうだね………ふふっ」

 

「!」

 

 

 

とても……温かい。

 

コレなら雪女なんかにはなれない。

 

そう感じるに充分だ。

 

 

 

「それと後、コレもやる」

 

「え?……これは、簪?」

 

「羽織物を買ったついでにオマケでくれたんだよあのおっちゃん。当然、俺は付けないからソレもナグサにあげる。まあ今のところ刺すだけで何の飾りもない簪だけどな」

 

「刺すだけ…?」

 

「その簪にある穴あき部分に石を嵌める必要があるだろ?その装飾入れには好きな石でも加工して嵌めろってさ。まあ今日中には無理だから後日適当に装飾品でも探してナグサの好きなのを嵌めてくれ」

 

「!」

 

 

まさか羽織物だけじゃなく他にも貰えるとは思わなくて驚いてしまう。

 

でも彼からの贈り物。

そう考えると、とても嬉しい。

 

私は髪を掻き分け、簪も頭に通して飾る。

飾りがない、飾りが白髪に纏う。

 

 

「おいおい…」

 

「い、いいの…!巾着袋忘れちゃったから。だから頭に付けておいた方が手元が空くから…」

 

「なら、俺が持っておいても__」

 

「っ、だ、だめ!大丈夫っ、だから!」

 

「お、おう…?そうか」

 

「うん!」

 

 

 

久しぶりに、アヤメちゃん以外に強気な態度で受け答えが出来たと思う。少し驚かせてしまったからちょっと申し訳なくなっちゃうけどコレは譲れない。だからわがままくらい言う。

 

 

 

「そんじゃあアヤメ探すぞ。どこかでくたばってるかもしれん」

 

「ア、アヤメちゃんの現状が酷くなってる…」

 

 

 

アヤメちゃんに対する雑な扱いはある意味羨ましくも思うけど、でも私だけの扱いもあるんだなと思いながら僅かに誇らしくなる。

 

私は真っ白な浴衣と彩りある羽織モノを揺らして彼を追いかけながら…

 

 

 

「あの、カナタ兄様」

 

「?」

 

「ええと…っ、ありがとう。大事にするね…!」

 

「ああ。大事にしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません副長!ご自宅に上がってしまって。それでもお茶も貰いまして!」

 

「ううん、気にしないで。レンゲとは久しぶりに話したかったから。あとここでは畏まらなくていいわ。普通にしてて」

 

「そ、そうか?えへへ!なら遠慮しないぜ!それで話って何だ?何でも聞いてくれよ!」

 

「ありがとう。ただ普通に上手くやれてるかどうかを聞きたいだけよ。調停委員会に元気な新人が来てくれるのは嬉しいから」

 

「こんな元気で良ければ幾らでもいいぜ。訓練中はバテる時あるけど…」

 

「そう?無理はしないでね」

 

「おう!………?なぁ、こう言っては何だけど副長もオシャレとかするのか?」

 

「え?」

 

「ほら、あの壁にある___簪とかさ!」

 

「!」

 

 

戸棚の上にある壁に、大事に飾られた簪。

 

それは少しだけ小さな贈り物。

 

 

「オシャレは……そうね。幼少期の頃は少しだけしてたわ。調停委員会に入ってからはこの羽織物のまま過ごしてるから今は無頓着かもね」

 

「そうなのか?でも確かに小さな簪だな。あ、じゃあ今よりも少しはやんちゃできたのか!?」

 

「や、やんちゃ、って……でもそうね。やんちゃせざるを得ない時は偶にあったかしら。基本的にアレの送り主が原因でね」

 

「貰ったモノなのか?」

 

「ええ、そうよ。アレは大事な…そう、とてもとても大事な贈り物よ。……ふふっ」

 

「!」

 

「元気かしら……あの人は。正直このまま百鬼夜行連合学園の調停委員会に入って、それで寺子屋で私達の兄貴分として先を歩んでくれた時のように、後続の私達を束ねてくれる。そんな先人になってくれると思ってた。でもココを出てしまった…」

 

「あ、あの、その先人って誰なんだ?」

 

 

 

副長として君臨するほどに強く、でもそんな彼女すらも束ねる『先人』とは一体何者か。

 

レンゲという新人は気になってしかたなかった。何より兄貴分。それはつまり男性ということか?情報量が多い。

 

しかも副長の言葉からすれば()()()()()()()()すらも部下として率いるだろう強さを持った者が存在したかもしれないと言うことだ。

 

そして「私達」と言うからには現隊長のアヤメ以上って意味にもなる。

 

新人のレンゲにとって既に目の前の副長がとんでもなく強いと言うのに、更にその上を行くだろうその『先人』とやらを図り損ねていた。

 

 

 

「___月雪カナタ」

 

「つ、月雪…!?」

 

「噂では聞いたことあるかしら?小さな寺子屋にいたからあまり世間の目に入らなかったかもしれないわね。でも知っている者は彼のことを良く知っている。彼がどのような方だったか」

 

「っー!!会ってみたかったなぁ…!」

 

 

 

月雪__今だから鮮明に聞き届く名前。

 

もうその人間は百鬼夜行連合学園にいない。

 

 

しかしこのキヴォトスのどこかにいる。

 

 

頂を示す腕章を腕に巻き、たった一人の部隊長として今も『俺』を正当化する。

 

それが許されるこのキヴォトスで。

 

 

 

「大きな祭りが開かれたら、もしかしたら遊びに来てくれるかも知れないわね」

 

「本当か!…っし!なら今のうちに腕を上げておくか!是非手合わせしたいな!」

 

「そう?ならまずは私と隊長には余裕で勝てないとね。瞬きした時には地面に倒されてるわ。それも片手でね」

 

「ええ!!?」

 

 

 

思い出話も緑茶の湯気ともに混ざり合う。

 

百鬼夜行だからこその香りと空気。

 

幾度なくその形を吸ってきたのだから。

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

「カナタ……兄様」

 

 

 

 

壁に飾られた簪。

 

元々空いていたその装飾部分には、ナニカを嵌められている。

 

 

それは、とある___ヘイローの片鱗だ。

 

 

真っ白に彩りを与えた濁りとして、いまも神秘に描くそれは『僕』が『俺』に代わったように彼女にも代わることを願われた約束と贈り物。

 

 

今の自分はあの頃よりも代われただろうか?

 

 

いまだに必死なのは間違いない。

 

 

親友に置いていかれぬよう真っ白な自分を、浮世に濁ろうと幾度なく正当化してきた彼みたく飾れるよう、その背を追いかける。

 

あの背中も、憧れは今も終わらないから。

 

 

 

 

「いつか………きっと、貴方に…」

 

 

 

 

 

 

 

それは彼女の3年間の追憶(ブルーアーカイブ)

 

 

 

つづく

 






カナタにとっては普通に後輩にプレゼントしたつもりだけどナグサにとっては充分に男性観を破壊されたようなものですね。あーあ。尚カナタはSRT特殊学園に多くのケモ耳がいてウハウハ気分でいる模様。もちろんモフってる。ほんまコイツ。あとナグサが思い馳せてるタイミングでカナタは連邦生徒会室でたこ焼きパーティを開いて連邦生徒会長の誕生日を祝ってたらしい。もちろんリンに見つかり怒られたけどたこ焼きは振舞った。ほんまコイツ。ちなみに生徒会長が自身のインスタにたこ焼きパーティーの写真を上げており、もちろんたこ焼きを頬張ってるカナタも一緒に写っている。コレを見たナグサはチベットスナキツネみたいな顔をしてアヤメは横で爆笑していた。ほんまコイツ。


また来週、土日更新を待て。
じゃあな!
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