なんか俺のヘイロー砕けてね?   作:つヴぁるnet

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第7話

 

 

 

「ケモ耳だぁぁぁあ!!」

 

 

「だから開幕早々に飛びつくのはやめんか!?ひゃん!!待つのじゃ!、そこは…!!ふぁ…!あぅ、んん!な、なんか一年前よりも上手くなってないか!?ひゃん…!!」

 

 

「そりゃ一年もあればモフリストとして腕も上達するさ!ケモ耳愛!ケモ耳正義!そしてこれは俺の夢の世界!!ならば全てが合法ってわけだ!ぐへへへ!」

 

 

「やめぃ!やめぇ…やめるんじゃ…!あまり、モフモフされると、妾も、流石に溶けてぇ…ふにゃぁぁぁ……」

 

 

 

さて、百鬼夜行連合学園にやって来て一年が経過した。寺子屋での学生生活も慣れ、キヴォトス目線で言えば特に目立ったような大きな事件もなく平和に過ごせている。たまに聞こえる銃声の音にも慣れてしまったところだ。

 

いや慣れって怖いな。

 

なんかドンパチしてると察知したら手元にある武器を秒で点検して巻き込まれないように足が避難するんだもん。これは遺伝子レベルで刻まれている。

 

ちなみにドンパチ始まった戦闘区域では基本的に百花繚乱調停委員会の者達が駆けつけては鎮圧してくれる。

 

これもキヴォトスの日常かつ、百鬼夜行の日常って感じなので周りの大人とか「お?3日ぶりの爆音だな。さてさて…」と手慣れたように被害被らないようそそくさと店を閉める。

 

キヴォトス半端ねぇよ。

 

前世なら絶対にそこらで混乱起きてるし、パニックに巻き込まれていた。もちろん俺も最初は唐突な銃声音に対して全身をビクッとさせては怯えていた。身体もナグサやアヤメと比べて脆いし、流れ弾とか洒落にならない。

 

だからそうならないよう逃げ足のために体力作りをするとか、弱かった頃の自分とお別れをしたい月雪カナタとして鍛えたりとか、キヴォトスの世界観に溺れぬよう俺自身も戦えるようにナグサやアヤメ達とたくさん鍛錬を重ねたり、努力の成果を確かめるために寺子屋のメンバーで模擬戦を行ったり、時には百鬼夜行の総合訓練まで三人で遠征したりもしてきた。

 

あと俺自身に備わっている『神秘』の理解を進めるためにも色々研究を進めている。

 

たまに忍者研究を建前にイズナを呼んでは手伝って貰ったりと、息抜きにケモ耳をモフったりと、百鬼夜行での学生生活はかなり充実してると言える。やっぱココが正解だわ。

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ………ふぅ、まったく……相変わらずお主と言う奴は…」

 

「挨拶の一端として必要かなと思ってついやっちゃうんだ。あと大預言者様のケモ耳は上質で触り心地最高だからな。ケモ耳があるならモフらないと失礼だろ?」

 

「褒められてるのか判断に困るのぉ。あと断りもなく女性に触れるのは失礼じゃないのか?」

 

「確かに。では……そのお耳に触れてよろしいでしょうかぁ!大預言者クズノハ様!」

 

「ダメじゃ。コレで閉幕と致せ。それと……妾の名前を調べたようじゃな?」

 

「俺の通う寺子屋の先生が歴史家でね。色々と調べれたんだよ。そしたら数ある預言者の中に『クズノハ』って大昔の人物が百鬼夜行に存在したらしくてな。だから貴方はそうじゃないかなって。あとケモ耳だから絞りやすかった」

 

「ケモ耳が決定的になるとは思わなんだ。しかしなるほどのぉ。あい確かに、妾は預言者クズノハで間違うないとする」

 

 

そう言って彼女、預言者クズノハはキセルを一度吸って軽く蒸す。薄い桃色の煙が漂う。

 

 

「さて久しぶりじゃの、月雪カナタ。此度はまたこの黄昏にて邂逅を果たせたのは幸運の中の幸運じゃ。普通なら妾以外の浮世者がココに招かれることはあり得ぬ事であるが、やはりお主は『外』から浮き出た魂。この箱舟に弾かれた歯車として転がり落ちたから」

 

「そうそう、それ。その『箱舟』とか『歯車』とかどういう意味なんだ?俺はB型だからこのままだとA型の会話には少しついて行けないぞ」

 

「お主はA型をなんだと思っているんじゃ?まずこれは血で語る与太話ではない。さて、そうじゃな。まずは腰を落ち着けて伝えるべき内容じゃろう。そろそろお主もココを理解してきたはずだからの」

 

 

彼女は__預言者クズノハはキセルを一度蒸すと煙が漂い、一瞬だけ視界が歪む。思わず目を閉ざして見ている光景を視界から外し、そして再び開ける。

 

 

「!」

 

 

するとそこは立派な縁側が見える大きな畳部屋に早変わり。庭には野生の狐達がコンコンと走り回り、色鮮やかな蹴鞠が意思を持ったように転がっている。その光景に目を奪われているとふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。クズノハのキセルから漂う煙だ。そしていつのまにか足元に座布団が一枚敷かれており、そこに座るように促される。目の前にはお煎餅もあるな。

 

 

「最初一度目の邂逅だけではお主の全て図ることは出来なかった。あまりにも異質極まる外からの来訪者故に致し方なし。預言者と言えども妾はそう万能ではない。だがしかしお主の魂はこの黄昏にてよく浮き出ておる。何分常識から浮いておるからの。でなければこの場に来ることも叶わない」

 

「俺って言う存在が非常識ってことか?」

 

「噛み砕けばな。先程も明かしたようにお主は月雪カナタの成り代わりにより『託し』また『託された』側である。有物を返せばお主は月雪カナタではないと言うことだ。つまり『偽物』じゃな」

 

「!」

 

「器は月雪カナタである。しかし注がれたモノは月雪カナタに代ろうと色染まる魂。そしてお主は自身を月雪カナタであると正当化をする歯車に過ぎない。こう言えば分かるだろう。偽りの依代を本物にしようとする__憑依者だ」

 

 

 

間違いない。元を言えば月雪カナタは消えた前任者のモノである。俺のモノでは無い。

 

今は、俺の魂()月雪カナタに成ろうとした憑依者である。それが憑依。

 

成り代わり、と言うものだ。

二次創作に良く有げな『ご都合主義』の贋作。

 

俺の身に起きてしまったイレギュラー。

 

 

 

「前会った時もそうだけど、よく俺が憑依者と分かったな…?成り変わりと言えど、多重人格者としての狂気や、人格形成された新たな芽生え、もしくは心の壊れた人間のフリをする機械人形だとか、もっとこの世に見合った心理学や人間性に解を繋げると思ったけど。ココがキヴォトスだからか?」

 

「それもある。何せココはキヴォトスという箱舟の世界。大航海のために乗り込む酔狂な乗船客と言うのはそう珍しく無い。お主もその一人だろう。しかしお主の場合は乗船客の枠に収めてはならぬ規格外の証明。憑依者として正当化を促すだけの歯車。お主は選ばれた」

 

 

淡々と真実を告げる預言者クズノハ。

 

しかしその眼はどこか笑っていない。

 

あくまで「こ奴はまだ大丈夫だろう」と言う、懐から手は出さないでくれる前段階。

 

しかしコレから俺の吐き出す選択が、俺の起こすべき行動が、それ次第で扱いが変わり果てそうな恐ろしさはキセルから湧き出す煙で俺の背筋を撫でる。

 

俺はいま、この大預言者に見極められている。

 

 

 

「お主は【色彩】たるものを知っておるか?」

 

「しき、さい?…色に、彩って言葉の?」

 

「そうじゃ。色彩は___解釈もされず、理解もされず、疎通もされず、ただ到来するだけの不吉なだけの観念。それは主に外からやってくる厄災の証として箱舟を揺らす」

 

「…まさか、それが俺だとでも?」

 

「それを知るためには妾と幾つか答え合わせをする必要がある」

 

 

キセルを蒸し、一呼吸置く。

 

俺もケモ耳をモフモフしてた手の感触を忘れてしまうほどに緊張していた。

 

 

 

「そう緊張するで無い。妾もある程度の答えに行き着いておるが、それでもお主と言う人間性の擦り合わさせのためいくつかの質問に答えてほしいだけじゃ」

 

「わかった。それなら幾らでも質問してくれ」

 

「うむ。では尋ねるべきことはひとつ。それは前任者のことだ」

 

「月雪カナタ…」

 

 

 

クズノハから尋ねられた。

 

 

前任者はどんな者だったのか?

 

前任者は何があり成り代われたのか?

 

前任者は何故この様な結末に行き着いたか?

 

 

そして___【恐怖】はあったのか??

 

それは___【反転】に見合ったか??

 

どれも俺の理解に遠いことばかり。

 

 

 

しかし、わかったことはある。

 

それは…

 

 

 

「そうか。ただお主は…身勝手に注がれた被害者として留まらず、目の前で泣いていた子供(カナタ)のために砕け散った証を拾い上げようと純粋な心で成り代わりを受け入れた、外の大人であったのか。そうか……それは……良く受け入れたものだな」

 

「アイツは……もっとこの箱舟が優しければ揺らされずに生きてこれた。歪なヘイローだろうと逞しく歩める選択だって知れたはず。でも子供故に知らないが多すぎた。子供故に脆さを知ってしまった。俺は……未だにあの泣き顔を忘れないし、代わりに流した涙も覚えてる…」

 

「だから成り代わりを受け入れたのか。その砕け散ったヘイローを新たな形として。それが今のお主、砕けた先にある月雪カナタとしての正当化を促す憑依者として」

 

「っ…ああ、そうだ。俺が…っ!月雪カナタとして今ココにいる事を選んだ!箱舟に抱いた【恐怖】は俺が汲み取り!そして【反転】させる!月雪カナタという名はこの箱舟で生きていると!俺がそれを正当化する、と!」

 

 

そうとも。俺が月雪カナタだ。

 

前任者はもう居ないけど、でも月雪カナタという箱舟に足を付けた人間はまだ残る。

 

ならば『注がれた』ことに意味を持つべき。

 

不可抗力の先であるが、でも目の前で大人を知らない子供が泣いていたんだ。

 

なら子供を知る一人の大人としてなんとかしてあげたいと思うことになんの疑いがある?

 

俺は月雪カナタをする。

それがココにいる答えだ。

 

 

「なるほどのぉ。これがお主の【神秘】か。ならばそれはもう…ある意味完成したのか。いや、この完成を今から正当化するのか。ならばこの箱舟に浮く理由も分かる。この者はただ憑依者とではなく一つの軌跡として刻もうとする。まさに彩を注ごうとするのか…」

 

「何度だって言う。俺は月雪カナタをするよ。それが憑依だとかいう反則行為に等しいだろうとココはキヴォトスなんだから関係ない、その程度で気にするな、くだらないと幾らでも正当化してやる。もし箱舟がカナタを助けてくれないのなら俺が甲板を叩いてでも揺れる箱舟を止めてやる。その甲板に叩き跡を残してやる。月雪カナタはキヴォトスにいるんだと」

 

「うむ。ならそれがお主だろう」

 

「……質問は、以上なのか?」

 

「うむ。そうじゃな。偽りなく語り告げたお陰で答え合わせが済んだ。背筋に絡む煙にも揺らぎはない。嘘吐きは何一つないの。もちろん獣耳好きって素直な情欲のもな」

 

 

彼女は満足げに頷く。

 

キセルから漂う煙もどこか穏やかで、背筋に絡みついてた煙も、今は頬を優しく撫でる。

 

あとケモ耳は本当に好きだぞ。間違いなく。

 

 

 

「さて、お主が獣耳好きなだけの無害証明が済んだところでまだ話は続くぞ?」

 

「少し疲れたんだが…」

 

「ならば少し移動しようかの。ほれ、そこにあるお主の妾の分の湯呑みとお煎餅を持って縁側に移動せい。コレから特別にお主の中にある神秘を手解きしてやろう」

 

「!!?」

 

「妾はお主のことが非常に気に入っておる。だから遠慮などするな。この黄昏に来れた幸運を確かな幸運として、妾達の(よすが)に繋げたいまでじゃ」

 

「っ…ありがとう。クズノハって、すごくいい人なんだな」

 

「手を差し伸べることは普通じゃろ?それはいま月雪カナタであるお主が良く知っておるはず」

 

「……参ったなぁ、少なくとも大人側だったのに子供を前にちょっと泣けてきた」

 

「それほどに月雪カナタとして成り代わろうしている証。多少なり肉体に対する精神年齢が引っ張られておるのじゃろ。あと見た目子供であるが刻の数で言えば妾の方が歳上ぞ?」

 

「そうなると……クズノハさん?」

 

「クズノハで良い。今の妾は煙を蒸かせる程度のしがない預言者じゃ」

 

 

 

そして縁側に座ったクズノハは「少し喋り疲れたわい」と湯呑みに手をつけてお茶を飲み、次にお煎餅を手に取ってポリポリと齧り、俺も寛ぐように座って湯呑みを手に取る。

 

目の前に広がる庭には野生(?)の狐達が各々好きにしている。日向ぼっこをしたり、走り回ったり、蹴鞠を鼻で突いて転がしたりと、平和を築き上げる。

 

てかやべぇ、狐達モフりてぇぇ。

めっちゃかわええもん。コンコン!

 

 

「基本的に神秘はその者に纏わる『存在証明』を形に変える。例えば…腕っぷしが力が強い者にはそれに値する形を。脚が速い者にはそれ相応に値する形を。熱の様に燃え上がる者にはそれ相応に値する形を。大凡、その者に見当たったモノとして偏らせる。まあ赤には炎のように考えればよい」

 

「それは生きている環境にも関わるのか?」

 

「無論じゃ。しかしこの類はあくまでこの箱舟で生まれた者のルール。結論からすればお主は違う。もう何度も言っておるが今の月雪カナタは規格外として外からやって来た魂である。なら箱舟のルールから浮いた月雪カナタとして完成する」

 

「なるほど。浮いているってそう言うことか。いや言葉遊びかよ。それで水の上に足裏付けて立てるって何処ぞの学園異能インフレ言語バトル *1だよ。俺の色彩(スキル)すげーな」

 

「先程も言った通り、神秘はその者に纏わる『存在証明』を形に変える。月雪カナタに成り代わろうとしたお主が、一人の『大人(やくわり)』として交わした『言葉(やくそく)』が地に足を付けたのだろう。それは箱舟から『浮いた』証としてじゃな」

 

「なんでもありだな、キヴォトス」

 

「耳や角、ましてや尻尾や翼など異形を生やした者が健在に渡り歩く世界じゃぞ?形作るのは何も神秘からではない。まあお主場合は憑依者として特殊なところから来ておる。強いていうならヘイローが砕けている歪なヘイロー持ちと言う個性じゃの」

 

「それにしては随分と面倒な手順を踏んで生まれた神秘だな」

 

「過程を多く踏んだ結果じゃな。前任者は箱舟のルールに『恐怖』を抱え、そこに外から舞い込んだ『色彩』に注がれ、お主は前任者の『後悔』を拾い上げ、成り代わりな憑依者として『反転』させてしまい、箱舟のルールから砕け散った月雪カナタの『神秘』は完成した。そして存在証明に拘るその結果が『浮いた』と言う訳だ」

 

 

 

弱くてニューゲームかと思ったけど、実はなかなかに強くてニューゲームだった件について。

 

まあ歪なヘイローが原因で純粋なヘイロー持ちよりも耐久面で不安ありげなんだけどね。

 

つまりステータスは強くてニューゲームだけど代わりにオワタ式ってこと?

 

……それなんてダークソウル??

周回好きのドMプレイヤーかな??

 

 

「でもこの『浮く』ってのが本当の意味でパワーワードとして力を与えてくれるなら空でも飛べたりするんかな」

 

「さて、それはどうかの。注がれた内側は浮くことが出来ても、ルールに縛られた外側の器はまた別問題じゃな」

 

「じゃあ水の上が限界か」

 

「正直、周りからしたらその時点で充分に規格外であるがのぉ」

 

 

まあそれもそうだろう。

 

重力に縛られた人間だ。幾らキヴォトス人とは言え与えられた常識には逆らえない。

 

でも俺はこの箱舟から浮いた月雪カナタって神秘だから、箱舟の中でなら可能な限りルールを無視していられる。それがまず水の上に浮いて立っていられるってことだろう。この場合は神秘を使っていることになるか。いやチャクラかよ。そりゃイズナも俺を忍者の末裔だとかではしゃぐわな。

 

 

「ところで、体の調子はどうじゃ?前に酒を飲んでからは安定してると思うが」

 

「あまり変化は分からないけど…でも、アレを飲んで以来は神秘がわかりやすくなったような気がする。なんと言うか、元々あるべき物が正しく認識できるようになったって、感じかな」

 

「それは仕方ない。お主は憑依者として外からの来訪者。外付けの知識のみで暴ける真実など限られておる。前に交わしたあの上物の酒もあくまでお主を繋ぎ止めるためのモノ。側面だけ壊れたヘイローと認識したところで噛み合わせの悪い歯車のまま正当化に投じても、器と魂は並行に進まず、別々に置いていかれてしまう。そうなれば片方が崩れ、もう片方が崩れる」

 

「前任者という月雪カナタ(器)と、俺という月雪カナタ(魂)と、この二つが並行して完成させることが重要という訳だな?」

 

「だから酒を場に交わして貰うた。しかしもうその心配も無用であろう。今の月雪カナタは百鬼夜行で謳歌しておる。前任者の『後悔』に思い馳せながらも"そうで有りたい"をお主が『追憶』として刻んでおる。さしずめ…」

 

後悔と追憶(ブルーアーカイブ)って事か?」

 

「月雪カナタの青春物語。それが色彩から弾き出された答え。それは全てお主の行動次第で月雪カナタの物語は決まるじゃろう。……存在証明を止めるではないぞ?さもなければ色彩は意味を求めようと慣れ果てることになろう」

 

「大丈夫。クズノハがめちゃくちゃ優しくて親切だから出だし躓くことは無いよ」

 

「ほほほっ。若造が口だけは達者なことを。さてさて。夢も有限である。目覚める前にお主にしか無い神秘の扱い教えようかの。何せコレも幸運な事かな、妾に似ておる性質だからか案外早いのかもしれんのぉ」

 

「似てる?」

 

「妾もある意味、浮いた存在だということよ」

 

 

それからクズノハはキセルを懐に仕舞うと縁側から庭に踏み入れ、俺を招く。

 

するとクズノハは扇子を取り出すと手元でパッと開き、パッと閉じるといつの間にか小さな墨壺を手のひらに乗せていた。

 

クズノハは扇子を仕舞うと墨蓋を開け、指で中身を触り、指先に墨を掬い上げる。

 

それを俺の右手の平にプラスの文字を墨で書き、左手の平にはマイナスの文字を墨で書いた。

 

俺はややくすぐったく身を震わせると、クズノハはクスクスと笑う。彼女は俺より年上みたいだが随分と少女らしい笑い方をするものだからさ少し見惚れてしまう。

 

そして墨壺をポンと煙に変えて消した。

 

 

 

「右手で神秘を注ぎ、左手は神秘を注がれる。コレを両手を合わせた状態で身体に神秘を巡回させるんじゃ。コレがうまくいけば後は幾らでも神秘を好きに扱える。お主次第だな」

 

「まるで魔力回路だな。トレースとか言ったら何か生成できそう」

 

「神秘を見える形に浮かせることができるなら似たようなことはできよう。しかし今は神秘を全身に巡回させ、または浸透させ、いつでも、どこからでも、引き出しからモノを取り出せるように慣らしておく。さぁ、手を合わせい」

 

「はぁぁぁっ!穢土転生の術!」

 

「両手合わせたからと言ってろくでもないことをするな。卑劣じゃのぉ…」

 

「いや、この構えはそういう事やない?なくない?」

 

 

 

改めて俺は両手を合わせる。

右手から神秘を流し、左手で受け止める。

 

……っ、なるほど。

入り口が狭いな。

 

コレは確かに、神秘を全身に巡回させて通気口を開いておかないと使用時に何処かで詰まりを起こしそうだ。おいおい。魔力回路かと思ったら実は全集中の呼吸だったパターンか?百鬼夜行で月雪カナタを作り上げるならどちらでも構わないが。

 

 

「神秘は内側のお主から。それ外側に染め上げることで発揮する。キヴォトス人は主にそのやり方で身体能力を強化しておる。しかし神秘はもっと凄い。潜在能力の塊。その点お主は唐突な発覚にせよ水の上に立つことが出来た。まあ上物の酒を飲んだ後のタイミングだから運良く神秘を体現できた訳じゃな」

 

「…もしかしてなんだがあの時、俺に上物の酒を飲ませてくれたのはそのためなのか?コレも預言者だからこそ知り得た未来視ってヤツ?」

 

「さて、なんのことやら。少なくとも妾はただ純粋に前任者の器と憑依者の魂が、注ぎ注がれる関係を一律にしようと整えたまで。目の前に湯呑みが倒れていたら、それを手に取って立て直したくなるじゃろ?それと同じゃよ」

 

「……なんか、その……色々世話かけたな」

 

「この黄昏にて幸運な出会い。妾はそれを確かな縁として応えたまで。もしこの幸運を礼で応えたいのならばこの邂逅を確かな幸運として受け取るのが招かれた者の礼儀。さて時間は有限じゃぞ?終わらないと獣耳もモフる時間も___」

 

「うおおおお!燃え上がれ!俺のコスモ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!セイヤ!!」

 

「まるで蝉じゃのぉ」

 

 

 

いや分かんないけど、でもSNSでミカ蝉たるモノを知って、後ついでにセイア蝉なるモノも知ったから急に思い出した。

 

因みにアレが先生達(?)の成れの果てと知ってブルアカってこえーな、くらいの気持ちで見ていた。

 

たまに変なトレンドに載るんだもん。

原作知らないのに適当な知識は蓄えられる。

 

 

やっぱブルアカってこえーな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてことない百鬼夜行の風景。

 

変わらないからこそ良く、変化が無いからこそ退屈でもある。

 

それがココだとばかりに、この瞬間も紅葉が舞い散るから。

 

 

 

「退屈ですわ……」

 

 

 

仮面を揺らし、飾りを揺らし、耳を揺らす。

 

既に学校を抜け出して私は百鬼夜行自治区をコツコツと一本歯下駄を鳴らし、ゆらりゆらりと行先宛てなく揺れる。

 

いつもは閉じ込めれないほどの情動に駆けられて体は動くのに、今日は特に何も湧き上がらず私は静かに退屈を作る。

 

今からでも学園に戻ろうか。

 

いや、あそこはあまり好きじゃない。

 

窮屈で仕方ない。

 

 

 

「はぁぁ…」

 

 

 

何度目のため息だろうか。

 

開放的なのに、退屈に縛られている。

 

そんな矛盾を残しながら、私はコツコツと歩き行き、気づいた時に赤く塗装された和風の橋の上に立っていた。その真ん中で橋の下に流れる川を眺めてはボーっと時が過ぎる。

 

 

 

今日はため息が多い。

 

そうなれば少しだけ息苦しくもなる。

 

 

 

そう思い、仮面を外して……

 

イタズラな風が私の退屈を追い込む。

 

 

 

「あっ」

 

 

外した仮面が手元から飛んでいく。

 

風に持って行かれた。

 

手を伸ばすが既に遅し、風に乗った仮面は川の上にチャポンと音を立てて流される。

 

 

 

「や、待って…!」

 

 

退屈ならば、追いかけっこでもしていろ。

 

そんな風に導かれても嬉しく無い。

 

走る足に向かない一本歯下駄をコツコツと強く音を立てさせながら橋から土手に回り込み、川に流れる仮面を追いかける。あの仮面はお気に入りだ。手放したく無い。

 

しかし、いくらキヴォトス人の身体能力でも走りに向かない一本歯下駄は窮屈だ。

 

仮面を追いかけるために脱ぎ捨てようかと考えたが、しかし荒くなる息と共に段々とその気持ちも消え失せ、このまま川に流れる仮面を見送ってしまおうかと、足を遅める。

 

 

「…」

 

 

あの仮面はもしかしたら退屈な私から逃れたくて風に任せたのかもしれない。

 

そこまで考えが行き着こうとして…

 

 

 

 

__退屈(かめん)は川の真ん中で拾い上げられた。

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

目を疑う。

誰かいる。

 

そこに人が立っている。

あり得ない。どうして?

 

驚く私。その人はこちらなど気にせず頭に浮かんでいる砕け散ったヘイローを揺らしながら川に流れた仮面を拾い上げ、それをパッパと水滴を払い、舞い込む風と共に水面を揺らしている。

 

 

川の上に人が立っているんだ。

 

 

 

「これは君のか?」

 

「!!!」

 

 

 

男性の声だ。

 

ヘイローを頭に浮かばせながら、拾い上げた仮面を持って、コチラに声をかける。

 

私は常識外れな出来事を目の当たりにして言葉に詰まってしまう。

 

水の上にも浮き、男性にも関わらずヘイローを浮かせ、コレまでの常識からも浮いた、そのような印象が次々と入り込む。

 

 

 

「は、はい、そうです…わ」

 

「そうか。じゃあ、どうぞ」

 

「え、ええ、ありがとうございます」

 

「今日は風が強い。荷物には気をつけろよ」

 

 

その人は私に仮面を渡すとまた川の真ん中に戻ろうと歩く。ゆらり、ゆらり、と水面を揺らしながら、退屈とは程遠そうな背中を見せる。

 

 

 

「あ、あの!お待ちになってください!」

 

「?」

 

 

 

思わず、私は呼び止めてしまう。

 

その人は振り向く。

 

声の先でも未だ水面に浮き、川の流れにも、風の流れにも、舞い込む退屈すらも逆らい、常識から浮き続ける佇まいは、退屈に染められていた私を興味に満たすのに充分だった。

 

 

 

「え、ええと!そのっ!」

 

 

何を語ろうか。定まりの無い言葉はあまりにも不器用で、それが段々と恥ずかしくなる。

 

でも川の上に立っているその人は魅力的だ。

 

いや少し違う。その人がと言うよりそうなっている神秘的な不思議が魅力なんだ。

 

私は今も水面に立っている足から目が離せず、でもチラリチラリとその人の顔も伺いながら言葉を探り…

 

 

 

「君も、立ってみるか?」

 

「!!?」

 

 

そう言うとその人は私に寄り歩く。

 

するとその人は自分の頭の上にあるヘイローに手を伸ばした。

 

砕け散ったヘイローの破片を一つ選び、それを掴み取って私の手に握らせる。

 

 

 

「え、え…?ヘイローが…?!」

 

「稀に良くあるから気にするな。それじゃ踏み出してみろ。愉快な事が起きるぞ」

 

 

困惑は止まらない。

 

何故ヘイローを掴み取れて、しかもそれを他者に握らせる事ができるのか?

 

思考が追いつかない私に、その人は構わず川に招こうとする。

 

 

……このままだと落ちる。

 

思わず踏ん張りそうになる。

 

 

 

でも…

 

 

 

__この退屈の先から浮き出れるなら。

 

 

 

私は招かれる足をその先に委ね、未知の恐怖心は握らされたヘイローをギュッとする事で紛らわせ、恐る恐る川の上に足を付けて…

 

 

 

「ほーれ」

 

「ひゃん!?」

 

 

 

急に引っ張られた。

 

ああっ!落ちるっ!!

 

危険から目を閉ざし、そして目の前にいるその人に情けなくしがみついた。

 

足は踏み外した。

 

このまま、ずぶ濡れで落ちるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

私は浮いていた。

 

川の上に、浮いていた。

 

 

 

「ぇ……ふぇ!?」

 

「さっきよりも随分と良い顔をしてるな」

 

「!」

 

「あ、手は離すなよ?神秘が止まるから」

 

「っ!?は、は、はい…」

 

「よし、良い子だ。後でケモ耳をワシャワシャワしてやろう!」

 

「え?ええと、そ、それは………ちょっと、困りますわ」

 

「おや。ダメだったか。じゃあ仕方ない」

 

 

 

生まれて初めて、私は言葉の中にある確かな神秘を目の当たりにして、同時に殿方の手を強く握りしめながら、そして川の上でエスコートされる。

 

そんな特別な経験を、退屈だと思われた日に用意されている。

 

川の中に泳ぐ小魚のように自由なひと時は、しばらく私を退屈から連れ出し、非日常へと浮かせてくれた。

 

 

 

「あの…お名前をお伺いしても、宜しくて?」

 

「月雪カナタだ。去年引っ越してきた」

 

「狐坂ワカモですわ。月雪…さま」

 

「カナタで良い。……それで…」

 

 

 

 

 

___まだ退屈か?

 

 

 

 

 

 

 

水面を揺らしながら私はその問い応える。

 

コレが彼と初めて出会い。

 

そして退屈から浮いた日だ。

 

 

 

 

 

つづく

 

*1
めだかボックス





独自解釈マシマシ回でした。
クズノハさんは神的に良い人だから。



Q_で、つまりどう言う事だってばよ?


1__前任者は絶望、失意、そして【恐怖】を抱いた。このように【反転】できるための条件を得てしまい、同時に常識が変わり、そのため前段階としてヘイローに触れることが可能になる。自壊後に中身が無くなりうつわが出来る。

2__そこに憑依者の魂が現れるも外来から訪れた事で箱舟(キヴォトス)目線で【色彩】としての扱いになってしまった。恐怖を反転させようと憑依者が器に注がれる。

3__しかし前任者は【大人】としての【役割】と【意味】を持ち合わせた事で、本来箱舟に厄災を齎す筈だった常識(ルール)が変わってしまい、そのため色彩の扱いが憑依者の中で【反転】した。同時にヘイローの在り方も変化する。

4__反転した結果、箱舟を傷つける筈の色彩って【概念(ルール)】は無くなり、月雪カナタっていう別ルールが生まれてしまう。砕けたヘイロー持ちと言う存在証明。

5__これにより箱舟の常識から【浮いた】存在として地に足を付けていることになり、また月雪カナタが「キヴォトスでは浮いた常識」って扱いになっているため、月雪カナタをルールの接続口とすればキヴォトスのルールから何でも浮くようになる。そうさ!俺がルールだ!

こうなるとキヴォトスにある水の上に『浮く』とか、キヴォトスで受けた傷を『浮かし』体の傷を治すとか、現在のルールに見合った神秘の量に比例して、色彩を受けた月雪カナタである限り、人間の月雪カナタなら出来ることをルールとする。つまり触れれるモノ、背負ったモノなら大体ルール関与OKになる。NARUTOのチャクラかな?

ココらへんはアリスと同じ。彼女はキヴォトス全てを支配出来る力を持っているけど、でも人の形である限り重力や喜怒哀楽に縛られて生きている。こうなるとゲームと淫夢が好きなそこらの子供にとなんら変わらない生き物。だから月雪カナタも非常識な力を持つけど結局は人間で沢山だから出来ることも限られている。

所詮、与えられた器は人間(うつわ)に過ぎない。


だから黒服がウキウキしてる訳やね。
こいつマジで良い空気吸ってるよな。


あっ、そうだ(唐突)

もし色彩扱いの憑依者が前任者の【憎悪】と【狂気】を優先した場合シロコテラーを肩代わりしたプレ先みたいになる可能性は充分にあった。その場合は憑依者も消えている。役割終えてるし自我なんて…不要ら!なので実は初手の選択次第では紙一重だったりする。

……トリカスあのさぁ(世界危機)


でもそうはならずに済んだのは前任者の【後悔】と【追憶】を拾い上げた憑依者が【子供】の代わりとなる【大人】だったから。

そうして後悔(ブルー)追憶(アーカイブ)に始まる月雪カナタの青春物語、つまり【ブルーアーカイブ】というタイトル回収が完了したってことですね。



え?もっと簡単に説明しろ?

前任者【恐怖】したから死んだ。成り代わろうとする憑依者は【色彩】としての扱い。普通なら【反転】してキヴォトスを危機に追いやるとんでもねぇ【厄災】の筈なんだけど、憑依者がケモ耳好きなアホかつ【無害】だったから特に何も起きなかったわ。でも中身にとんでもねぇルールを抱えたアリス並みのチートキャラになっちゃったことは、クズノハさんが教えてくれるまで内緒だよ☆ってこと。

文字通り『彼方(カナタ)』先までイっちまった主人公キャラだから手遅れだ。もう助からないぞ☆


ではまた
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