色彩として扱われた俺が、前任者を反転させたことで神秘がそうさせるようになったのか、水面に足をつけて立てるなんて随分と忍者紛いなことが出来るようになったんだと、ほぼ何でもありなブルアカの世界に遠い目をする。
神秘の使い方に関しては大預言者クズノハのお陰で理解できたためそう困っては無い。体に神秘を浅く広く循環させ、常に通気口を開けておくことで全身神秘人間になれる…って、言われた時は思わず猫ミームで「は?」と反応してしまった。いくらキヴォトスの月雪カナタが規格外だからと言って全身神秘人間はパワーワード過ぎるわ。
そりゃ自分の事だから自身の体内がどうなっているかわかるし、意識すればナニカに満たされてる感覚は充分にあるし、その前にも上物の酒を頂いてからは調子がとても良かったりといいこと尽くし。思った以上に強くてニューゲームだった件について、なんてタイトルの小説を書けるくらいには満たされている。
これも大預言者クズノハのお陰だ。黄昏で出会えた幸運を確かな幸運とすべく手を貸してくれたのもあるけど、彼女自身も月雪カナタとしての完成を願ってくれてる。心強いバックアップがあることに安心感もあるし…
もう何も怖く無い!
こんな気持ち初めて!
「主人殿ぉぉ!!」
「……へ?」
水面が一部だけ暗くなる。
それは太陽の日差しを遮っている証拠。
そして聞き慣れた声。
言わずもがな、主人殿大好きケモ耳ことイズナが上からコチラに飛び付いてきた。
「ちょぉぉぉお!?急に上からマミろうとするんじゃねぇよ!危なっ!!」
「大変ですよ主人殿ぉぉ!大変なんです!」
「なにが!?」
「あちらです!!」
「挑戦状を!受け取って!ください!」
なんか追加で知らん奴おるんだが??
とりあえず飛びついてきたイズナを受け止めグッと踏ん張ると全身に衝撃が伝わったのか足元の水面がぐらんと揺れ、足裏から水飛沫をあげて少し後退。やはり水面だと滑るな。イズナ自体はとても軽いのだが。
しかしフサフサの毛が歓迎してくれるのでケモ耳狂いな俺としては嬉しい瞬間だ。ただ夏は汗のせいで毛が肌に張り付いたりと場面を選びどころさん。あと季節は関係なく別のことで集中している時にダイナミックエントリーは勘弁願いたいかな。それで腰やってしまうとか笑えんぞ。
「で?あの元気な挑戦者は?」
「道場破りですよ!主人殿!」
「道場破りぃ?いつ俺が道場なんて持った?」
「ふぇ?主人殿は忍者研究部の師範ではありませんか?」
「いつ俺が師範になったし!?」
凛と伸びる黒いケモ耳と、腰に巻き付けたフサフサ尻尾をピコピコと荒ぶらせながらこの状況に心躍らせるイズナ。時代劇が好きな彼女にとっては最高のシチュエーションなんだろう。いやはや可愛らしい。
「お待たせ。君は?見たところ初等部だが…」
「あ、はい!わたくし!宇沢レイサと申します!凡ゆる人達に挑戦するために!本日は道場が多いとされる百鬼夜行まで遠征へと参りました!ええと…その、よろしくお願いします!」
「あ、うん、よろしく?」
「はい!」
「あー、ええと……とりあえず道場ってのはココには無いけど…まあ何かしらの挑戦者ってことで良いか?一応ココは忍者研究部*1という形で活動を進めてるが…」
「うぇ!?あー、そうみたいです…ね?しかし道場で無いのでしたら…あっ!もしかしてお邪魔が過ぎたでしょうか!?」
「いや、別に気にしては無い。コレもイズナの暴走なんだと思ってる。どうせこの忍者研究部を自慢したコイツが勘違いさせたんだろ?」
「ええと、はい、そうなのですか…ね?…あ、それであのぉ、実は今日初めて百鬼夜行に足を運びまして、それでイズナさんに道案内をお頼みしたところ忍者研究部たるものを聞きまして!それで素晴らしい忍者道場だとお聞きしたので失礼唐突ながらも今日はお邪魔させていただきました!」
「なるほど」
十中八九イズナだったわ。
あの小娘ぇ…
忍者を目指すなら秘密主義通してもろて。
「まあ…なんだ。せっかく来てくれたし歓迎するか。ほれ、ヘイローだ」
「………へ?あわわわわ!!?」
「落とすなよ?もし落としたら百鬼夜行自治区が爆発するかもしれないぞ」
「ひぇぇぇえ!!?」
適当に頭のヘイローを掴み取って宇沢レイサって挑戦者に投げ渡す。まあ別に落としても問題ないし、爆発もしないし、あと勝手に頭の上に戻るから心配する必要は無い。ただ見たところ良い反応してくれそうだからとりあえず揶揄っておく。
「そのヘイローを持っておくと水の上に立てるようになる。さっき俺がやってたの見てたな?」
「た、確かに!いや、え、でも…これが?」
「できるよ。じゃけん、それを持って水上射撃戦でもしましょうね」
「………へ???」
そして…
「な、なんとー!?遮られたのですか!?」
「そうだ。こうやって水面を思いっきり踏むと水飛沫が立ち上がって、それがペイント弾の盾になる。水上戦ならではの遮蔽物だから利用してみろ…と、言ってもまだ初等部で体が小さいよな。ま、無理はするな」
「いえ!やってみます!……てりぁあぁ!」
「……おお?」
「で、できました!」
「へー、やるやん」
「宇沢レイサに!お任せください!」
やはりキヴォトス人だけあって身体能力は既に高いな。まだ未熟だけどその強さは見受けられる。磨けば何とやらか。
「その間にリロードを!って、片手でリロードをするの大変なんですね!ぐぬぬ!こ、こうやって…!」
「体が小さいからか、高くない水飛沫でも身を潜めれる時間は長いな…こりゃ良く狙わんとな」
レイサは思い切りの良さはあるし、今のところ前衛能力が高いな。なるほど。コレが【タンク】ってヤツか。脆い俺には無縁のポジションだな。
「主人殿ぉ!道場の看板をお守りください!」
「いや、そもそも看板は無いんだが?」
「うりゃぁぁあ!そこです!」
「っと!来るか。ならココは右に添えるだけで…」
「わひゃぁ!?」
「え、外した…?やっぱり足元揺れるから精密射撃には向かないか…ならば!」
「!!?」
片足に力を入れ、そして水面を思いっきり踏みつける。
すると一軒家を飲み込むくらいの高さに上がる水飛沫…いや、ここまでくると水柱と言えるレベルの分厚さだろうか。まだ小さなレイサにとっては水柱も充分な壁かもしれない。その間に俺は神秘をフル稼働させると、高くジャンプした。
そして……着地した。
「ええ!?」
驚く宇沢レイサ。それもそうだ。
俺は今、水柱の頂上に着地した。
そのため宇沢レイサよりも2メートルほど高いところから見下ろしている。だが、これだけでは終わらん!
「な、なんとぉ!?」
「わ、わー!主人殿!」
水柱の頂点に片足で着地…から、更に上に飛翔する。
すると今よりも真上に浮いた。
その高さ、水面から約6メートルだ。
宇沢レイサを真上から見下ろす。
「ぁう!眩しいっ…!!」
「今日は晴天なり!!」
水面の揺れがダメなら静止できる空中で狙えば良いだけの話。
陽の光に目が眩む宇沢レイサに対し、俺は銃をピンと伸ばす。銃口と目線を重ね合わせ、射線が挑戦者のレイサと一致する。揺れはなし。そして無風。条件は揃った!
「チェックメイトだ!」
引き金を弾いた。
…
…
…
「ま、参りましたぁぁああ!!」
「さすが主人殿ぉ!お見事です!」
水上射撃戦は俺の勝利で終えた。まあ挑戦者にとって水上戦はアウェイな環境だから俺が負ける可能性はかなり低い。あと初等部相手に早々負けてやらない。ただしアヤメとナグサは仕方ないとする。あの二人強くなりすぎ。元から強かったけど。
さて、看板を守ることに成功(?)した俺は宇沢レイサの見事に綺麗な土下座を目の前にする。まあ正直、大人気なかったかもしれないと気持ちやや申し訳なくなってしまうが、しかしレイサの様子を見る限りだと充分な敗北として受け止めているらしい。なら良いか。彼女もどうやら満足そうだし。あとイズナも。
「あと申し訳ありませんでしたぁ!手元からヘイローを落としてしまった上に私が池に落ちそうになったところを支えて貰いまして!完全に私の負けでしたァァ!」
「いや、不慣れな水面でよく頑張った。小さな体だろうと水飛沫も思い切りの良い高さまで弾けていたし、大した道場破りだ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
宇沢レイサは土下座からピョンと立ち上がって喜び出す。目の中もキラキラ。なんとも元気な奴だ。
横からバチャーン!と池から音がする。
水の上に浮こうとしたようだ。
そして今日もダメだったらしい。
「いやはや、月雪さんはすごいですね。終わってみたらあっという間でしたが、よく考えたら水の上に立てるなんて!不思議なこともあるんですね!」
「これは俺だけの神秘かな。他の人には真似できないよ。もし出来るとしたら相当なイレギュラーを抱えてないと逆らえない非常識の所業。まあ俺のことはあまり参考にするな」
「そ、そうですね。自力では永遠に出来無さそうに見えるので。あ、あはは…」
「しかしレイサは見たところ足腰が強いな」
「へ?」
「今日は無風だったが、でも水面はそれなりに揺れるし、レイサにとって不慣れな足場には変わりない。だから体重移動の際も踏み込む時に少しコツが必要なんだが、レイサは姿勢に安定感はあった。だから小さい頃から相当キヴォトスを渡り歩いてると見た」
「そ、そこまで私のことを!?」
「俺の中にある神秘を理解しようと試行錯誤してるため水の上での鍛錬も長い。だから水上戦を通してその者がある程度わかるんだ。例えば水面の揺れによってどの程度姿勢が安定しているだとか、水面を踏み込んだ際に発生する水飛沫の高さで身体能力を把握するとか、まぁいろいろ把握できる。なにせ水の揺れは絶対に裏切らない。だから嘘つけない水上戦でその者の力を暴けるんだよ。結果としてレイサは足腰の強さと思い切りの良さに注目したってところかな」
「!!」
「さすが主人殿ぉ!やはり主人殿は忍者の師範としての……へっくしょん!!」
「まったく。やるならタライに水を溜めてやれと言ってるだろ。失敗したらずぶ濡れだというのにこのバカ弟子は……ほれ、こっちにこい。頭くらいは払ってやる」
「えへへ、あるじぃ〜」
イズナはピコピコと耳を動かしながら頭を差し出す。俺は手のひらに神秘を纏わせてイズナの頭に触れて__浮かせる。
すると手のひらに当たる水滴は俺の手から弾かれて、イズナのずぶ濡れな髪の毛は瞬く間に水分が払われて、ワシャワシャワとするごとに乾いてく。イズナも「んふふー!」とご機嫌に喉を鳴らしていた。
「一度帰宅して着替えてこい。俺はいつもの団子屋にいるから」
「かしこまりました主人殿!イズナ着替えて参ります!」
そう言ってイズナは駆け出し、忍者らしく塀を軽々と越えてその姿が消えていく。
「そんじゃ俺たちも行くか」
「え?ええと…ど、どちらにでしょうか?」
「団子屋だよ。あ、学生証持ってるか?安くなるから用意しておけ。うまいぞ団子」
「あ、ええと、その、実は交通費しか今日はお手元に納めてなくて、ですね…」
「何言ってんだ。奢るに決まってんだろ。これでも稼ぎ口はあるんだ。後輩に奢るくらいなんて事ない。まぁ流石に人数分の学生証があったら金銭的には助かるがな」
「お、お、お、奢っていただけるのですか!!?」
「構わんよ。ついでに軽く反省もしようや。ほら、とっとと行くぞ。イズナならすぐ着替えて団子屋に来るだろうからな」
「!!!」
俺も2年近く住んでるせいか百鬼夜行の歓迎力に影響されてるらしく、半ば強制的に宇沢レイサを連れて黒柴大将が切り盛りする団子屋に案内する。相変わらずココの団子は美味しい。
最初は遠慮気味だったレイサも一口放り込めば段々と団子を頬張るようになり、水上戦後の一服として緑茶を嗜む。途中通りすがるケモ耳も眺めて一息。前世の生活環境もそうだがやっぱり百鬼夜行の雰囲気しか勝たんな。もうココで骨埋めてもええわ。
「あ、あ、あのぉ!月雪、さん!」
「?」
「え、え、ええと、そのっ…、!よ、よ、よろしければ、何ですが!こ、今回の出来事をなんですが!そのっ!ひ、ひとつの記録と言いますか…その、思い出と言いますか…と、とりあえず写真の方、よよよ!よろしければ…!!」
「良いよ。レイサので携帯で撮ろうか」
「!!」
「黒柴大将!ちょっとお頼み申したい!」
「わぁ……!!!!」
そして夕方、子供はもう帰る時間。
レイサも暗くなりすぎる前に帰宅する。
その手にお団子のお土産。歓迎の証。
そして、彼女のスマートフォン。
「えへへ……カナタさん、かぁ…」
その待ち受けには俺とイズナとレイサが並んで撮った今日の思い出が詰まっていた。
♢
「そこの者!頼まれて欲しいことがある」
「はい?」
帰り道、突然声をかけられる。
青色の羽織を着た、百鬼夜行の生徒だ。
「今からオレとこの者で【継承戦】を行う。外部者の協力が必要だ。ああ、もちろん見てるだけで構わない。ただ仕来りに従って外部者の力が必要なだけなんだ」
「なるほど、調停委員会の方ですか」
「そういうことだ……頼まれてくれないか?」
「構わないですけど、立会人は『大人』じゃなくて良いんですか?継承戦は格式を決める大事なシステムとお聞きしてますが…」
「気にしなくて良い。場を設けるのみでそれ以上に理由は不要。ただそこに立場を決めるためのルールに沿うまでだ……さぁ!お前の座をこのオレが頂く!保身に走る貴様など副長に向かん!」
どこか勝気な娘は銃をビシッと標的に向ける。
「何だと!?保身に走ってるだと!?ただ委員長の意思を尊重してるだけで余計な口を出さないだけだ!」
「それが保身に走ると言うのだ!反論を恐れ荒れている波に意見も述べれずして、そんな二番目など無いも同然!!その腑抜けを引き摺り下ろしてやる!!」
「い、言わせておけば!!」
そして合図も無しに始まる継承戦。
俺は静観しているもう一人の調停委員会の者に「ええんコレ?」と目線を送るが無言で気にするなと返される。
まあ、意見と意思の衝突を銃撃戦に持ち込んで格式を取り決める一騎打ちに変わりない。
俺は流れ弾を気にして岩陰に身を潜めて一騎討ちを眺める。
「そこだぁ!!」
「流石に口だけじゃないな!」
……しかし、すごいな。
練度の高さが伺えるのかそこらの自警団と比べて動きがまったく違う。物陰に隠れることなく射線を目測だけで判断して、最小限の足捌きで弾を掠める。なんだあの無駄のない動き。
もちろん、ココに2年近く住んでるから百花繚乱紛争調停委員会の働きを知ってるし、実際にこの目で何度か見たことがある。自宅外から現れるチンピラとかも片手で始末するほどだ。そこらの奴らに比べたら調停委員会はめちゃくちゃ強いこと、俺は存じている。
しかし、この一騎打ち。
そこらのチンピラとかを乱雑に掃討してやるような加減で留めず、この一騎打ちでは本気で相手の心臓を射抜いてやろうと闘争を繰り広げている。落ち葉が踏み込む時の風圧のみで肩まで舞い上がっている。すげぇ…
「……これが…」
あまりの強さ。
あまりの凄さ。
この領域を知ると語彙力が無くなる。
だから俺は、少し気が抜けてしまう。
故に___
「コレが【クズノハ】が言っていた継承戦か」
つい、それを溢したから…
「「「!!!???」」」
継承戦で闘争を繰り広げていた二人は互いに喉元へ銃口を突きつけて互角を見せる。
だがそのタイミングで意識の矛先が切り替わったのか、視線は一斉に俺の方に向いていた。
「……え?」
俺は驚く。
え?なに?
なんかやばいしたか?
すると隣で見ていた委員が俺を見て…
「ねぇ、君……いまクズノハ様と言ったかな?」
「??……………………あっ」
危機管理ぃ!!
危機管理ぃぃぃ!!
し、神秘をフル稼働!!
今すぐココから逃げ___!!
「逃がさないよ」
「ひぇ」
無口だった見届け人の一人が俺の両肩にストンと手を乗せて固定する。一歩も動けねぇ…
「なぜ預言者クズノハの事を知っているの?いや歴史書を開けば書いてあるのはわかる。だがこのシステムを預言者クズノハが作ったことはあまり知られてない筈。何故?」
「ええと………それは、たまたま聞い__」
「ボクは肩の揺れで嘘かわかる。掴んでいるなら尚更だよ」
「!」
「で?どうなの?」
「………」
こるるぇぇぇぇわ、終わりましたねぇ。
どうやら帰れそうにないや。
つづく
宇沢レイサうるさいのにメモロビで急にしおらしくなるのホンマなんなん?好き。金平糖型のヘイロー捕食したい。
月雪カナタにとって水上はある意味『水見式』のような扱いで、神秘を図るに丁度良いから良く利用している。相手を知る時にも水上は使えたりとかなり便利。ちなみに水に濡れても付着した水を浮かせたりとリカバリーできるが冬で水ポチャは死ねるので勘弁(4敗)
ではまた