先日の午前六時頃、ベルカとウスティオの国境に位置する場所を飛翔する二機の所属不明機体が確認された。
ウスティオとベルカの軍が国境の侵略を防ぐ為に飛行隊を寄越したが、それら全てが残らず撃墜されている。瞬く間に、一つの飛行隊がだ。
そして、君達ロングレンジ部隊に二機を撃墜してくれと直接の依頼が来た。以上の事から、作戦に当たってくれ。
確認された機体はF−15CとADFX−01。私の記憶違いでなければおそらく……いや、なんでもない。
全員、気を引き締めて作戦に当たってくれ。
■ ■
その日の天候は、決して良いものではなかった。曇り空で澄み渡る青は見えず、重たそうな鉛色の世界だけが広がっている。
ロングレンジ部隊―――「三本線」と言われ敵国から恐れられるエースパイロット、トリガーが率いる飛行隊は現在その空を飛んでいた。
『まさか傭兵紛いな事をさせられるとはな。しかも国境の近くときた』
《国境の近くで、F−15CとADFX−01か。まさか鬼神と妖精だったりしてな》
『勘弁しろよロングキャスター。鬼神様と妖精様が相手だってのか?』
元
トリガーは、そうだとしたら是非とも会いたいなと、まるで有名人に会えるかもしれいなと楽しむ子供の様な感想を零した。
当然、カウントは呆れた。お前は勇者だ、ただし勇気じゃなくて蛮勇のな。
『なぁ、鬼神と妖精ってのは何だ?』
『マジかよ、フーシェン。お前「円卓の鬼神」と「片羽の妖精」も知らねぇのか?』
驚くカウント。まさかパイロットでありながら、かの鬼神と妖精を知らないとは思うまい。彼らはメビウス1に並ぶ有名人であるというのに。
フーシェンは首を傾げた。
『何だよ、そんなに有名なのか?』
《ベルカ戦争で活躍した、二人のエースパイロットの異名だ。ウスティオ共和国の傭兵達で編隊されたガルム隊の1番機と2番機、サイファーとピクシー。サイファーが『円卓の鬼神』、ピクシーが『片羽の妖精』と呼ばれていた。特に鬼神は凄まじくてな、彼を知る人間の誰もが彼を話す時に強かったと口にする》
片羽の妖精。本名、ラリー・フォルク。元ウスティオ共和国空軍第6航空師団第66飛行隊所属、元ガルム隊の2番機。TACネームはピクシー。
F−15の右主翼が大破したにも関わらずベイルアウトせずに帰還し、その奇跡とも言える神業の操縦テクニックから『片羽の妖精』と呼ばれた男。
円卓の鬼神。本名不明。ラリーと同じく元ウスティオ共和国空軍第6航空師団第66飛行隊所属、元ガルム隊の1番機。TACネームはサイファー。
円卓と呼ばれた空域B7Rにおいて、連合軍の航空戦力の40%を損失―――つまり壊滅状態―――している状況の中で、相棒であるラリーと共に増援として駆け付け、圧倒的な力でその戦況を一気にひっくり返した事から鬼神と呼ばれた。
その活躍は身を以て味わったベルカの兵は言った。「悪魔だ」と。だか、それは否定された。「そんな生易しいものじゃない。ああいうのはな…鬼神って言うんだよ」と。
『俺も息子に聞かせた事があるな。強いパイロットは誰か、なんて聞かれたら鬼神かメビウス1くらいなものだ』
『今じゃ新しくトリガーも追加されたと』
『良い子にしてないと三本線が来るって?』
『あまり息子をいじめないでくれよ、トリガー』
それは止めてくれ、とトリガーは苦言を呈する。ジョークであっても、知人の子供に怖がられるのは不満である。
そんな会話を挟みながら、空を飛ぶ彼らは数十分という時間を経て、ようやく作戦地の近くへと到達した。
作戦目的地まで、残り1kmと言った所だ。
《レーダー反応有り! 真正面からレーザー照射だ、全員散開!》
『っ!』
『レーザーだと!?』
―――赤い閃光が空を奔る。中央を飛んでいたトリガーはマニューバを吹かせ機体を上昇させ、広がっていた各機は左右へと傾け、散開する。
目視する。レーザーを背負った、右主翼が赤い機体と主翼と尾翼の両方が青色の機体の二機が、隣に立つ様に並んで空を飛んでいる。あれが、今回の作戦目標―――撃墜すべき二機。
《なんてこった…! 当たってほしくない予想が当たりやがった! 各機警戒せよ、相手は鬼神と妖精だ! 間違いない!》
『くそったれ! なんで今更になって老兵が出てくるんだ!?』
『サイファーもピクシーも軍を辞めたんじゃなかったのか!?』
『そんな事は今はどうでもいい! 気を緩めるな、一瞬で落とされるぞ!』
『……行くぞ』
トリガーは一言、それだけを言って空を駆け抜ける。
鬼神と妖精、それを撃ち抜く為に―――