伏黒「クソみてぇな術式」   作:悲しいなぁ@silvie

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九番目:【クレマンティーヌ】

初めは単純な疑問だった。

 

「おいアミバ、調伏ってなにやんだ?」

 

五条悟爆殺事件の翌日、マッサージ店から逃げるように籍を消した二人はリビングで駄弁っていた。

 

「うむ…簡単に言えば式神を倒せば良い

それかその式神を納得させれば調伏完了だな」

 

「納得?」

 

マッサージ店での殺人的な激務の甲斐あって金銭的に余裕が出来た伏黒家ではある。

あるが…甚爾的にはもう一稼ぎしておこうという魂胆である。

なにせ、一番下の十番目ですらアミバなのだ…上にはもっと特殊な技術をもった金ヅル式神が居るに違いない。

 

「神社に参拝しに行く時に賽銭を入れるだろう?

あんな感じだ…まぁ、金銭に限らんが何かしらの対価を差し出して式神側が納得すれば調伏完了になる場合もある」

 

「ふぅん…」

 

明らかに気のない返事を返す甚爾。

その顔にはありありと、殴り倒した方が早いな…と書いてあった。

 

「一先ず、オレの一つ上…九番目の調伏から始めるとするか」

 

「………アミバ、その調伏ってのはこっちの意思で中断したり出来るのか?」

 

ちなみに、この質問にイエスと返ってきたならば甚爾は迷いなく一番目の調伏を始めるつもりである。

 

「いや…一度開始した調伏は止められん、儀式として扱われるからな…下手に中断すれば術者()にどんな影響があるかわからんぞ」

 

「チッ…」

 

「そう露骨に嫌がるな、それに順番に式神を調伏するメリットもきちんとある」

 

アミバは言いながらエプロンの前ポケットから1枚のメモ用紙を取り出す。

 

「オレ達十種影法術の式神は調伏された際に自分の一つ上の式神についての情報を与えられる…つまり、オレならば九番目の式神の情報という訳だ」

 

「ほう…」

 

甚爾はそれなら早くそう言えと視線だけで語りながらアミバの持つメモを奪い取る。

だが…

 

「『元漆黒聖典第九席次』…?どういう意味だコレ…」

 

「知らん、だがどうやら女のようだな…それに武技という特殊な力を使うらしい」

 

武の技と書くぐらいだから武術家には違いない筈だが…と話すアミバの言った事を脳内で反芻(はんすう)しながら整理する。

 

(武技…?聞いたことねぇな…話し方的にアミバも知らねぇようだし

まぁ、ゴリラみてぇな女でもなけりゃ力負けはしねぇ筈だしどうにかなるか)

 

 

十分後、念の為呪具の保管用呪霊を首に巻き付け釈魂刀(しゃっこんとう)を手に完全武装した甚爾と、パタパタと慌てて準備した結果エプロン姿のアミバが近くの空き地に集合していた。

 

「よし…この辺りならば問題なかろう

では早速調伏を始めて良いか?」

 

「俺は構わねぇが…仮にも恵の術式なのに俺達二人で調伏なんて出来るのか?」

 

今更になって至極当然の疑問を口にする甚爾。

当然だが、十種影法術においての調伏の儀は術者とその式神のみで達成しなければ無意味となる。

例え式神を倒せても調伏が為されないのだ…だが、伏黒甚爾は一切の呪力を持たない特異体質。

完全なるフィジカルギフテッド…呪力を持たない甚爾は建造物や地面の石塊と同じ、存在しないモノとして扱われる。

故に───ここに、術者不在の調伏の儀が始まる。

 

「いくぞ…」

 

アミバがそう声を掛けると共に、地面に突如として大きな影が水面のように揺れる。

ゴボゴボと泡立ち、その水面からゆっくりと金髪の女が浮かび上がる。

 

九番目:クレマンティーヌ

 

スッ、と切れ長の目を女が開く。

英雄級…そう自身を評価する彼女が最期に目にしたのは、出落ちさせようと釈魂刀を振りかぶるゴリラの化け物と跳び蹴りをしてくる筋肉モリモリマッチョマンの化け物だった。

 

「……………口程にもねぇが、これでホントに調伏とやらが出来てんのか…?」

 

「むぅ……おそらくそのハズだが……」

 

クレマンティーヌが影から完全に出終わる前に真っ二つに両断し、更に秘孔を突き爆散させた為二人共倒しそこなったとは考えていない。

だが、あっさり倒し過ぎた為に逆に何かを間違ったのではないかと不安になっていた。

 

「調伏が終わったんなら呼び出せるんだよな…?

アミバ、さっきのヤツ呼んでみろよ」

 

「……は?何を言っている甚爾、式神が式神を呼べる訳がないだろう」

 

馬鹿かコイツは、と言わんばかりにアミバが甚爾を見る。

そもそも式神が式神の調伏をしている時点でおかしいのだが…術式はおろか呪力すら持たず、禪院家でも碌な教育を受けてこなかった甚爾は術式で出来る事自体は知っていても細かな点までは知らない。

だから、アミバの言葉にも…

 

「なるほどな…恵じゃねぇと駄目な訳か」

 

そうすんなりと納得していた。

なお、この場には居ないがもしも彼の生家である禪院家の当主辺りが見れば術者不在の調伏の儀を開始した辺りで悪い夢だと断定して大酒をかっ喰らって不貞寝しているし、頭に縫い目のある新妻が見れば爆笑し過ぎて過呼吸をおこすだろう。

 

 

その後、帰宅した二人は恵をベビーカーに乗せて再び空き地に来ていた。

 

「そもそもなんだが…お前ら式神ってどうやって出すんだ?」

 

「なんだ甚爾、そんな事も知らんのか…

十種影法術の名の通り、オレ達は影絵で創られた術者の影と呪力を媒介として召喚される」

 

「影絵……んなもんしてたか…?」

 

甚爾はついこの間、アミバが初めて召喚された場面を想起してみるが恵が影絵をしていたようにはどうしても思えなかった。

 

「まぁ…偶々偶然が重なったのかもしれんな」

 

アミバはそう言いながら恵に九番目の式神を呼び出す為の影絵を教える。

未だ予後検査の為に家を空ける事の多い母親の代わりとして食事からオムツの世話までを全て担当しているアミバははっきりと甚爾よりも恵からは懐かれていた。

 

「だーぅ…きゃっきゃっ!!」

 

「おぉ、良いぞぉ〜恵は天才だぁ!」

 

頭を撫でながらニコニコと褒め倒す…アミバは褒めて伸ばすタイプだった。

 

「………は?それが影絵……か…?」

 

「ん?そうだが?」

 

アミバと恵の団らんを若干不服そうに見ていた甚爾が待ったをかける。

アミバが恵に教えていた九番目の式神を呼ぶ影絵…それは──

 

「いや……影絵っつーか……右手の親指折って残り9本立ててるだけっつーか………影絵ってそんなんだったか……?」

 

勿論そんな訳がない。

本来の十種影法術は召喚する式神に合わせて犬だったり蛙だったり兎だったりを創る、ちゃんとした術式である。

断じてこんな『両手がパーでアミバ〜♪』みたいなカスのグーチョキパーでなにつくろではない。

だが……

 

「こ、此処は……?」

 

それで本当に召喚されるのだから仕方ない。

 

「なにが……ヒュッ!?」

 

クレマンティーヌはキョロキョロと周囲を見渡し、眼の前に立っている先程自分を斬り殺してきた化け物二人を見つけ喉から空気が一気に吐き出された。

肺が握り潰されたように詰まり、目と身体中からどろどろと液体が垂れ流される。

 

(じょ、冗談じゃねぇぞ…!あんな化け物と戦って、死んだかと思えばまたコレか…!?

ていうか、私はなんで生き返ってんだ…?法国の奴らがなんとかしたとか……?)

 

ぐるぐると思考が巡り無数の疑問が噴出するが、一向になんの答えも出ない。

当然である、どこの世界にオーバーロードに殺された後でクソみてぇな術式の九番目の式神になったという事実にノーヒントで行き当たれる奴が居るだろう。

 

「チッ…ガタガタ震えるばっかで役に立ちそうにねぇな」

 

「そう言うな甚爾、そもそもお前があんな倒し方をするからだろう」

 

自分は自分で爆殺しておきながらアミバが言う。

天才は何をしても許されるのでセーフなのだろうか。

 

だが、クレマンティーヌからすれば二人の言葉はたまったものではない。

アミバの発言で先程の出来事が夢ではないと釘を刺され、甚爾は役に立たないと腹立たし気に言っているのだ…

クレマンティーヌからすれば、次の瞬間にでもまた甚爾が自分の首を飛ばさないという保証がないのである。

 

「──ま!待ってよ!!そ、その……」

 

クレマンティーヌは必死に考える…自分の有用性を。

 

(戦闘力…はダメだ、あっちの方が強い

法国の情報でも売るか…?……ダメだ、コイツらの素性が法国側だったらお終いだ

なら……色仕掛け…?…………………あっ、赤ん坊いる)

 

「せっ、潜入工作員……とか…?」

 

「は?」

 

なんとか絞り出したクレマンティーヌの言葉に甚爾の地の底から響くような声が応える。

クレマンティーヌはまたもヒュッと悲鳴にもならぬ声を出してアフリカオオコノハズクのように縮こまってしまった。

 

「………ふむ、中々いいんじゃないか?甚爾」

 

しかし、神はクレマンティーヌを見捨ててはいなかった。

 

「あ?」

 

「ほら、お前が昨日殺したガキが居たろう」

 

「だから俺じゃねぇって!!!

クソッッッ!!!呪術総監部めぇぇ!!!!!」

 

「あのガキ達のところに偵察に出したらどうだ?

オレ達は顔が割れているが、コイツならば問題ない」

 

甚爾は口元に手をやり少し考える。

 

「おい、お前」

 

「あっ、は…はい!!」

 

「何が出来る?」

 

「え…えと……その、オリハルコン級冒険者ぐらいのザコ相手なら問題ないですし、ま…魔法詠唱者(マジック、キャスター)相手でも全然倒せます!」

 

勿論のことだが、甚爾にはオリハルコン級冒険者も魔法詠唱者もまるで聞いたことのないものだが…それでも、クレマンティーヌの一挙手一投足からおおよその強さは把握していた。

 

「武技ってのは…何が出来る?」

 

「はい!疾風走破に超回避と能力向上に…」

 

「全部使ったら、俺に勝てるのか?」

 

クレマンティーヌの口が止まる。

目が見開かれ、わなわなと肩が震える。

……クレマンティーヌは、悲惨な人生を歩んできた。

優秀な兄に比べられる日々、幼い身で受けた凌辱の数々…そんな彼女はいつしか、己の『強さ』に絶対的信頼を置き自身の揺るがぬ拠り所としていた。

自分は強いから許される。

自分は強いから自由である。

ならば…自分の強さを否定する眼の前の相手をどうする?

 

「てめえ…舐めてんじゃねぇぞ!!

この人外――英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様が負けるはずがねぇんだよ!」

 

黙らさなければならない。

一刻も早く、速く、疾く。

眼の前の愚か者を肉の塊にしなければ、クレマンティーヌはクレマンティーヌでなくなってしまう。

ホルダーから素早くスティレットを抜き、構え、駆ける。

戦士としては世界で指折りの実力者であるクレマンティーヌは今、天与の暴君へ挑む。

 

 

その後、顔面が陥没するぐらいボコボコにされた。

 

 


 

クソみてぇな十種影法術式神紹介

 

十番目:アミバ

あまりにも呪力消費が少ないので出しっぱなしになっている天才。

ママ黒の治療から掃除洗濯炊事まで全てをこなす伏黒家の柱。

強さ的には呪霊換算で4級。

 

九番目:クレマンティーヌ

甚爾にボコボコにされた末、呪術高専に偵察に行かされた。

こちらも呪力消費が少ないので出しっぱなしされる予定。

武技はあくまでもクレマンティーヌ自身の精神力を使うので術者への負担が無く大変便利。

強さ的には武技全使用時には呪霊換算で2級。

 

八番目:【エビフライ】

 

七番目:【のろまの腑抜け】

 

六番目:【俺の後ろに立つな】

 

五番目:八握剣異戒神将魔虚羅

 

四番目:【俺より強い奴に会いに行く】

 

三番目:『裸エプロン』

 

二番目:【マザコン】

 

一番目:【セコい】

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