トントンと包丁が規則的な音を奏で、そこにしゅうしゅうとヤカンが合いの手をいれる。
ボコボコと鍋から音が響けば、ジュワーッとフライパンが締めに入る…伏黒家の朝はミュージックのような朝食の準備から始まる。
「クレマンティーヌ、皿を用意してくれるか?」
「はいはーい」
目玉焼きにウインナー、そして瑞々しいレタスを皿に盛り付ける筋骨隆々の男…アミバは可愛らしいくまさんのエプロン姿だ。
そんなアミバに言われ、食器棚から皿を出したり使い終わった調理器具を洗う金髪の女…クレマンティーヌは無地の紺色のエプロン姿である。
「甚爾、そろそろ恵を食事用のテーブルに座らせてやってくれ」
「へいへい」
アミバに言われ、むっちむちの我が子を抱き上げて幼児用の食事テーブルへ座らせる目茶苦茶良い声の男…伏黒甚爾は上下黒のスウェット姿である。
「アミバさん達が来てくれてから、賑やかで楽しいわね!」
そんな朝のワンシーンをにこにこと見るたおやかな女性…名前がわからない。
なぜ名前が原作でも出ないのだろう…もしかすると本名を言ったものは誰も生きていないのかもしれない。
「いただきます」
全員が食卓につき、手を合わせてから食事を始める。
「だぁう!」
「おお〜!恵はもうスプーンで食べられるのか!!
やはり恵は天才だぁ!!いつかこのオレを超える天才になるやもしれんなぁ〜」
ニコニコと一人で食べる恵の頭を撫でるアミバ。
「……この箸っての、全然慣れないんだけど……」
箸に未だ慣れずスプーンを使う恵を若干羨ましそうに見るクレマンティーヌ。
いつになればスティレットのように逆手に持ってるから駄目だと気付くのだろう。
「ディップ、ディップディップディップ」
我関せずとエビフライにタルタルソースをつけている紫色の髪をした少年…いや誰?え?居た……?
「……誰だお前?」
甚爾が自身の真横に座る少年を見て顔をしかめる。
「ん〜?甚爾、いったい何を言って──うおわぁ!?誰だ貴様ァ!??」
アミバが大驚きをしながら恵を抱き上げて自分の背に庇う。
クレマンティーヌは嫌そうな顔をしながら恵の母親の前に立ち、野生動物が飛び掛かる前にするような独特の構えをとる。
「アミバ、お前はコイツの分のメシ作ってる時に気付けよ…」
「いや……だが、エビフライとタルタルソースを作ってくれと言ったのは───甚爾だろう?」
「……あ゛?」
アミバが心底わからないという顔で不安そうに聞いてくる。
そして、ここまで喋っていながら紫髪の少年は未だエビフライをタルタルソースに漬け続けている。
ヌト…とタルタルソースがべったりと付いたエビフライをようやく口へ運ぶ。
「………」
サクサクに揚がるよう高温、短時間で仕上げられたアミバ渾身の一品が同じく自家製ピクルスと隠し味の味噌により深い『コク』を持ったタルタルソースと共に少年の口の中で躍る。
互いが互いの魅力を引き立て、さながら重厚なオーケストラが如き一体感と満足感を齎す。
「動くなっ!」
少年はスッと立ち上がると構える甚爾の横をすり抜け、懐から一本の杖を取り出した。
ついっとその杖を一振りすると、眼の前に豪奢なグランドピアノが現れ───弾きだした。
ダン!!
荒々しく、自身の激情を表すように始まった演奏は徐々に柔らかく美しい音へ変化していく。
繊細で正確、精緻にして大胆な演奏は次第にアップテンポとなっていきクライマックスへ駆ける。
奏者である少年の額に玉のような汗が浮かぶ…それすらも一つの芸術だと周囲へ『理解』させてしまう程の熱量と身体を打つ程の大音響。
少年が再び大きく鍵を叩く。
叩きつけるような…己が興奮を共有するような、ラストであった。
「美食の夏…ね」
「……何見せられてんだ、コレ……」
ひたすらに困惑する甚爾、しかし…彼以外の反応は、違った。
「うわあぁぁぁ!!?甚爾と同じ声だぁ!!???」
「……もしかして甚爾君の───弟!?」
「八番目は
ホント目茶苦茶だよね~」
そう、マカロンは──甚爾と全く同じ声であった。
「あ゛?声……?………………俺はこんなカマ臭ぇ声してねぇ」
「あら、心はオンナよ?」
緩んでいるのか張り詰めているのかよくわからない雰囲気の中、甚爾が距離を詰めていく。
「ここじゃ狭いだろ…外で相手してやる」
「フフッ…情熱的な殺し文句ね、興奮しちゃう」
甚爾の狙いは当然、場所の変更。
甚爾の日常の象徴であるこの場所を…己の帰るべき場所での戦闘など彼には考えられない。
勿論、そんなことなどマカロンとて百も承知である。
そして──
「ハジメテが外でなんて…イケナイ人」
マカロンは、戦闘に…闘争に対し、限りなく誠実であった。
自由を愛するマカロンが唯一縛られる、闘いの美学。
枷のある相手を打倒するに、なんの価値があろう?
十全にして万全、死力を尽くす相手を上回ってこそ…至極の刺激を得られる。
「ただ…私の調伏はさっきのタルタルで終わっている事だけは伝えておくわね」
そんなマカロンだからこそ、包み隠さぬ真実を告げるのであった。
「………………………は?」
流行りの猫ミームのような返しをする甚爾。
その目ははっきりと困惑の色が浮かんでいた。
「こないだ言っていた調伏条件の内、『納得』をさせたという訳だな…すまんな甚爾、この天才が料理でもまた天才だったせいで」
あんなにも殺気バリバリで決めシーンをした甚爾へ慰めるように声をかけるアミバ。
最近は非術師にも視えるよう特訓を重ねた結果、近所のお料理教室へ通っている。
「てか、そのチョーブク?ってのは勝手に出てきて勝手にやれるモンな訳?」
「普通はそんな訳がないんだが………」
クレマンティーヌの疑問に首を傾げるアミバ。
真相はテレビで手遊び歌を観ていた恵が調伏の儀を暴発させていたという事は誰も知らない。
「言ってたゴジョーってのとゲトーってガキは今、女二人連れて逃げ回ってるみたいだよ」
マカロンの調伏後、朝食を終えたアミバ、クレマンティーヌ、甚爾、マカロンはいつもの空き地で話している。
「あぁ…裏でも依頼まみれだぜ、五条の坊めまさか星漿体連れて逃げるとはな…目茶苦茶しやがる、呪術界全部を敵に回したようなモンだ」
ケータイでいわゆる裏のサイトを一瞥した甚爾は眉間にしわ寄せて言う。
「甚爾……せーしょうたい…?とは、なんだ?」
アミバ達が首を傾げ甚爾へ尋ねる。
そう、先程調伏されたマカロンやこないだ調伏されたばかりのクレマンティーヌには勿論のこと、かなり一般常識に詳しくなったアミバですら星漿体とはなんぞやと疑問に思っていた。
「星漿体ってのは……まぁ、ひらたく言えば天元っつースゲー術師のアンチエイジング用の人間だ
天元は『不死』の術式を持って呪術関連の重要拠点を結界で護ってるんだが…不死であって不老じゃねぇからな、ある程度の歳をくったら術式が老いを克服しようとしやがる
まぁ要するに、人間の味方を化け物にしねぇ為の人身御供ってトコだ」
「…………なるほど、つまり───天元とやらが若返れば良いんだな?」
アミバが意を得たりと鋭い目つきで甚爾を見る。
「あぁ?……まぁ確かに理論上はな
天元の若返りに星漿体が必要なんであって、天元が若いままなら星漿体は必要ねぇが………まさか」
「五条と夏油は星漿体を守る為に逃げ回っているんだろう?
ならば───星漿体が死ぬ必要がなければ逃げる必要も無い筈だ」
甚爾がアミバを見る。
正気かコイツ…と。
コイツなら…やるかもしれない、と。
「出来んのか…?」
「フフフ…!オレは天才だぁ!!天才に不可能などぬぅあいのだ!!!」
やる気マンマンのアミバ……しかし、甚爾は目茶苦茶渋い顔をしていた。
(冗談じゃねぇ……なんで俺がそんな一銭にもならねぇ慈善事業なんざしなきゃならねぇんだ
天元の結界がどうなろうが困んのは御三家や総監部のクズ共…俺にはカンケーねぇ)
「だが…天元は高専結界の更に内側、薨星宮の最奥に居るんだぞ?
俺達じゃ逆立ちしたって会えるわけ…」
「その星漿体のお嬢さんが居ればいいじゃない
私達が捕まえたと言って一緒に入ればいいわ…暴れた時に抑える役だとか言ってね」
なんとかアミバを丸め込もうとする甚爾にマカロンが食い付く。
甚爾が余計な事を言うなこのカマ野郎と思ったのは言うまでもない。
「……………だが、そこまでやってやる義理なんざ…」
「あるだろ、五条を残悔拳で爆殺したのは甚爾…お前だ」
「だから違ッ!!!!クソッッッッッ!呪術界めぇぇぇ!!!」
だが、既に詰みであった。
甚爾はもう首を縦に振る以外の選択肢など無い。
しかし…天は、甚爾を見放してはいなかった。
「……ん?」
手に持っていたケータイが震える。
番号は───元、仕事仲間の情報屋。
「もしもし」
『おお、繋がったか!
なぁ甚爾、お前が足洗ったのは知ってるんだが…良い仕事があるんだ
ちょっと聞いていかねぇか?』
「星漿体か?」
『ほぅ…流石、引退してても耳聡いな
そう、今星漿体は五条家のと一般出の呪霊操術の二人で護ってる…だが、その二人は星漿体を逃がすつもりだ』
「だから…そいつら捕まえろってか?」
『逆だ逆…逃がして欲しい』
「あ?」
『盤星教って聞いたことあるか?
奴等は天元が星漿体と同化するのに反対してる…純粋な天元サマとやらがよっぽど大事なんだろうよ
だが、五条家の秘蔵っ子に数百年ぶりの呪霊操術の使い手…はっきり言って同化の阻止は絶望的だった』
「そこに、今回の事件か…」
『そう、奴さんこの機に乗じて何としてでも同化を阻止したいんだと
もとから戦力だけなら余裕で逃げ切れるトコにお前も噛んでくれりゃあ完璧だ…な、良い話だろ?』
甚爾はゆっくり考える。
そう、前回のクレマンティーヌの調伏の際に考えていたが…もう一度ガツンと稼げれば言うこと無しなのだ。
さらに、血も流れないとくれば……
「おいアミバ──やっぱり助けてやらなきゃな!!
義を見てせざるは勇無きなり!!腐った御三家や総監部、呪術界から若者を護ってやらなきゃな!!!」
「甚爾、お前……カネに目が眩み過ぎて…」
「馬鹿野郎!!!!助けてぇぇ……良いことしたくてたまんねぇーーー!!!!!」
目を$マークにした甚爾がそう叫んだ。
「おい、その下っ手くそな尾行…バレてんだよ」
目に真っ黒の隈を作った五条が血走った目で神経質にがなる。
「あら、それは残念ね」
物陰から出てきたのは紫髪の少年。
五条は面倒くさそうに構えると射抜くように睨みつける。
「失せろ」
「凄い殺気ねぇ…敵じゃないわ
逆に、アナタ達を助けてア・ゲ・ル」
ピン、と凄まじい速度でマカロンの頬のすぐ横を何かが通り抜けた。
ツゥ…と血が流れる。
「疑ってるのかしら?」
「あ〜?知らねぇよ
お前らが総監部からの追手なのか…それともマジに助けに来てる奴らなのかなんて、今の俺にわかるワケねぇだろ」
こちとら寝不足腹ペコで頭回ってねぇんだよ、と苛立ちと共に吐き捨てる五条。
「だからさ…来る奴全員ブッ潰したら──話し早いだろ?」
五条から常人なら昏倒してもおかしくない程の呪力が物理的圧を伴って放たれる。
「スゴい殺気……フフフ、こんなにゾクゾクするのは
マカロンもまた、魔力を解放する。
神覚者に最も近いとされるその全力を。
「殺す」
「私をこんなにトキメかせるなんて、あなたって本当──ギルティ」
イーストン魔法学校オルカ寮監督生、マーガレット・マカロン
東京都立呪術高等専門学校二年、五条悟特級術師
異色にして異例のマッチアップ────FIGHT!!
伏黒甚爾
金は命より重い…ッ!!
アミバ
天才は何をしても許される
クレマンティーヌ
しっかり偵察をこなせる有能
マーガレット・マカロン
当然ながら五条と闘う為に来ている
五条から来なければ自分から攻撃する気だった
七番目:【上弦の陸】
コッチの調伏も『納得』系
六番目:【戦闘の天才】
五番目:八握剣異戒神将魔虚羅
まこーらを調伏しようと思ってる。
歴代十種のみんなには、悪いけど。
抜け駆けで。
次の任務終わり、呪力回復したら。
布瑠部由良由良して。そこで実力を示す。
まこーらは過去の十種影法術師に調伏されたことないから。
びっくりするかもだけど。
もう奥の手で自死するのは我慢できないから。
四番目:【暗黒盗賊団ダークマター頭目】
三番目:『手ブラジーンズ』
二番目:【食欲の奴隷】
一番目:【心の闇】
五条悟
テメェら全員殺せばよぉ!星漿体の同化はパアだぜ!!