伏黒「クソみてぇな術式」   作:悲しいなぁ@silvie

7 / 12
閑話︰虎杖とクソみてぇな式神達

「なぁ伏黒…俺、強くなりたい!」

 

「………なんで俺に言うんだよ」

 

呪霊食べさせおじさんのピザで無理矢理呪力に目醒めさせられた虎杖悠仁は同級生になった伏黒恵にそう言って頭を下げる。

 

「俺…ずっと、お化けなんて視たこと無かった

だから知らなかった、あんなのが居るなんてのも……それで、不幸になる人が居るなんてのも」

 

恵は頭をガシガシと掻きながら黙り込む。

虎杖少年はこの数日で嫌と言う程に自分の力不足を思い知らされていた。

自身の通っていた高校で起きた1件、その後の入学テストで夜蛾正道学長から言われた言葉…

勿論、生き方を変える気は無い。だが…その生き方を通し抜く力が、自分にまるで足りない事もまた事実であった。

 

「お化けじゃなくて呪霊だ…それに、そういうのは先生達に言え」

 

恵の言う先生とは、この高専で最も多くの始末書数と任務遂行数を誇る二人の問題教師…即ち、『食中毒患者』五条悟と『呪霊食べさせおじさん』夏油傑である。

………勿論、恵も言った後でやっぱり駄目な気もしている。

 

「先生にも言ったんだけど…」

 

ていうかもう言ってた。

行動力の化身がよ。

 

「けど?」

 

「俺にはジュツシキ?ってのが無いから、殴る蹴る以外出来ないって」

 

「あぁ…」

 

そう、夏油の呪霊クッキングで呪力に目醒めたものの…特に高名な呪霊でも呪物でもないそこらの低級呪霊に生得術式など宿っている筈もない。

 

「で、それなら伏黒に聞いた方が良いって…先生達が」

 

「信じらんねぇ……あの不良教師共、生徒に仕事投げやがった」

 

これには恵もドン引きである。

ちなみに、この後文句を言いに行って五条が食中毒で倒れているのを見付け更にドン引く事を付け加えておく。

 

だが、残念ながら恵自身もある程度納得はせざるをえないのもまた事実であった。

術式に頼らない───どころか、()()()()()()()()()戦い方など自分以外では教えられないだろうから。

 

「やっぱ、駄目だよな…?」

 

少し悲し気にそう言う虎杖。

恵は眉間にしわを寄せながら…クソデカため息と共に同級生の弟子をとることになるのであった。

 

 

 

「俺は今から任務やらで忙しいから付きっきりで教えたりは出来ねぇ

だから…俺が居ない間は、アミバさんに聞け」

 

「そのアミバさんってのは…どちら様?」

 

「俺の式神なんだが…俺の育ての親でもある」

 

「どういうコト!?」

 

そう言って恵が指定した場所に来た虎杖。

その場所とは…高専の食堂だった。

虎杖がキョロキョロと食堂の厨房を見渡す。

 

「アミバさーん!カツ揚がりました!」

「こっちもつけダレできましたー!味見お願いします!」

「キャベツの千切り太くね?」

「太くねぇって!!」

 

昼前の為、職員達が忙しそうに準備する中…一人の男が分身でもしているのかという程の動きを見せていた。

 

「よし、カツはアルミホイルで包んで余熱でしっかり火を通しておいてくれ!」

「うむ、良い味だ…よし!時間もあるし今日は2種のつけダレで行く!

そのまま梅干しの種取りを頼めるか?」

「お前らもケンカはいかんなぁ〜!

太いならその分は味噌汁の具にするぞ!今日はキャベツと卵の味噌汁に決まりだな!」

 

彼こそが東京高専の味の番人、食堂の主…というかアミバである。

 

「えーと…アミバさん?で、良いんスよね…今ちょっと良いですか?」

 

「ん~?どうしたんだ小僧?

確かにアミバとはこのオレの事だが…あぁ!なるほどなぁ~!!

今日の日替わりはダブルソースのチキンカツ定食だぞ!」

 

「おお!美味そう…!あっ、でも今日はメシ食いに来た訳じゃ」

「失礼、食事でないなら退いて下さい」

 

後ろから掛けられた声に虎杖が振り向くと…そこには金髪に特徴的な鼻掛け眼鏡をした男が立っていた。

 

「あっ、スンマセン」

 

「いえ、こちらこそ…アミバさん、日替わり定食一つといつものを」

 

虎杖が頭を下げて身を引くと、男はアミバに注文を通す。

 

「おお七海!任務は無事に終わったようだなぁ〜!

任せておけ、オレ達が腕によりをかけて最高の昼食を馳走してやるぞ!!」

 

アミバの言葉に男…七海建人は軽く会釈し空いている席に座る。

 

「えっと…さっきの話の続きなんスけど…」

「おい、飯じゃねぇなら退け一年」

 

「おいおい真希、あんまり歳下をイジメるなよ?」

 

「しゃけしゃけ」

 

再び話を切り出そうとした虎杖の声を遮る、ポニーテールの女子生徒…禪院真希は虎杖の襟を掴んで猫のようにつまみ上げると脇に退ける。

 

「アミバさん、私は日替わり定食二つで」

「俺は蕎麦と天丼のセットで」 

「いくら、明太子!」

 

「おお!お前らもう授業が終わったかぁ〜!

よしよし、任せておけ…この天才が成長期のガキ共の胃袋を満たしてやるぞぉ〜!!」

 

虎杖は会話が終わったのを見て…それでも声は掛けず、ゆっくりと振り返る。

そこには、広い食堂を埋める程の人数が入ってきていた。

 

「くぁー!任務終わりにお前のメシ食うと生きてんなぁーってしみじみ思うぜ」

「フハハハ!よほど任務が堪えたようだな日下部!

よしよし、後でこの天才がマッサージをしてやるぞ!!」

 

「あーっ!居ないと思ったらやっぱり一人で先に来てる!!

待ってたのに…ヒドイじゃないか七海!」

「あまり怒ってやるな灰原、腹が減っては苛立つのも当然だぁ

まずはこのオレの飯を食ってから…話はそこからだな!」

 

「アミバさん、私も日替わりを…まだ残っていますか?」

「おお伊地知!任せておけ!!お前達の胃袋を満たせるようにたんと用意してあるからなぁ!」

 

 

「………すっげ…」

 

ぼそっと、声が漏れた。

アミバを中心に、人々の笑顔が花畑のように開いていく。

式神というのがどういうものか、虎杖はまだよく知らない…ただ、アミバという人物がどういうものかはすぐにわかった。

万の言葉よりも眼の前の光景が教えてくれた。

 

そこから数時間、食堂が落ち着いた頃合いを見計らい再び声を掛ける。

 

「あの…」

 

「ん〜?おお!さっきの小僧か!

悪かったなぁ、この時間はいつも手が空かんのだ!!」

 

これもこの天才が料理でもまた天才であるせいだがなぁ〜!と上機嫌にエプロンを外すアミバ。

 

「で?どうしたんだ…この天才に話してみろ」

 

「えっと……伏黒から、自分は忙しいからアミバさんに修行つけて貰えって」

 

「伏黒……ああ!恵からか!!

なるほどなぁ~この天才に教えを請いに来たと言うわけだな?

フハハハ!!!任せておけ小僧!!このオレのアミバ流北斗神拳を覚えればお前もすぐに一人前の拳士になれるぞ!!」

 

少年の言葉に更に機嫌を良くするアミバ。

いっぱい笑ってて健康に良さそうである。

 

「だが、オレの修行は厳しい…ついて来れるか?」

「ウス!!!」

 

こうして、虎杖悠仁改造計画が幕を開ける。

 

「まずは指先のトレーニングからだ!

指の力だけでこの鉄板を貫けるようになれ!!」

「ウ、ウス!!!」

 

「次は経絡秘孔の暗記だ!

本家の北斗神拳では全部で708あるとされるが…この天才のアミバ流北斗神拳では1109覚えて貰う!!」

「ウ、ウス……」

 

「では実戦だ!!

──────ちなみに当然ながら呪霊には経絡秘孔など無いぞ!」

「駄目じゃん!!??」

 

ここまでの無茶ぶりになんとか耐えていた虎杖だったがアミバからの無慈悲な宣告に遂にツッコむ。

 

「むぅ、そうは言ってもなぁ…無いものは無い」

 

「いや…じゃあ俺珍しい格闘技教えてもらっただけじゃん!」

 

「格闘技ではなく拳法!アミバ流北斗神拳だ!!」

 

細かい所にしっかり訂正を求めるアミバ。

許してやってくれ…彼は天才なんだ。

 

「じゃあ、武技はどう?」

 

「ん?居たのかクレマンティーヌ」

 

「あっ!あん時の!!」

 

膝をついて嘆いていた虎杖を見下ろすようにクレマンティーヌが出てきた。

ちなみに、鉄板を指で貫いてたあたりから見ていた。

そして人間技じゃねぇなぁとドン引いていた。

 

「武技なら呪霊相手にも効くし、めぐっちゃんが使ってたトコも観てたでしょ?」

 

「おぉ…!お、教えて下さい!!」

 

「良いよ〜!あっ、でも…」

 

「でも…?」

 

「めぐっちゃんクラスに使いこなすには4〜5年かかるけど」

「駄目じゃん!!!」

 

再び膝をつく虎杖をケラケラと見下すクレマンティーヌ。

これがやりたかったから出てきたまである。

 

「むぅ…流石に収穫が何もなしでは不憫だな

丁度いい、訓練室の方まで行くぞ悠仁」

 

「訓練室…?」

 

「ああ、オレ達と同じ式神がそこで組手をしていてな…

しかし、これがあまりにも戦闘以外に気が回らん奴らでな

オレが飯を持っていってやらねば倒れるまで闘っているのだ」

 

「なるほど…?」

 

「だが…実力は折り紙付きだ

奴らにも知恵を借りよう」

 

そう言うとアミバは大きなおにぎりと昼の残りのおかずを重箱に詰めていく。

 

「オモシロそーだし私も行く〜!」

 

こうしてアミバ一行は訓練室へ向かった。

 

 

 

「血鬼術!『円斬旋回・飛び血鎌』!!」

 

「闘技!『神砂嵐』!!」

 

訓練室の扉を開けた瞬間、虎杖は開けた事を後悔した。

眼の前に広がるは、人外同士の血戦。

血が飛び散り、腕が引き裂け、頸が吹き飛ぶ。

目まぐるしく変わる戦況を楽しむように飛び交う二つの影。

破壊と死を撒き散らす災厄が如き戦闘は一際大きな力のぶつかり合いで一旦の幕となった。

 

「まだだ…!まだ終わっちゃねぇぞ!!」

 

竜巻に巻き込まれ、腰から下が消滅したギザ歯の男が正に鬼気迫るといった表情で立ち上がる。

肉体が逆再生のように修復され、虎杖が瞬きを一つする間に元通りの姿で両手に鎌を持ち構えていた。

 

「いや、終わりだ妓夫太郎」

「ああ゛!?まだ俺は戦え……なんだ、アミバさんが来てたのかあ」

 

まるでギリシア彫刻かのように均整の取れた美しいとすら言える肉体を惜しげもなく晒す大男はギザ歯の男に待ったをかける。

ギザ歯の男…妓夫太郎は一瞬声を荒げるも、視線の先のアミバを確認すると一気に肩の力が抜け、間延びした声で話しだす。

 

「精が出るな妓夫太郎、ワムウ!」

 

「いつもすまんなアミバよ…本来であればおれ達が出向くべきだとわかってはいるのだが、比武となると時を忘れ没頭してしまうものでな…」

 

「かまわん!俺も拳士としてその気持ちは痛い程にわかっているつもりだからなぁ〜!

ほら妓夫太郎、梅の分も用意してあるから呼んでくれるか?」

 

「いつもありがとうなああ、梅の分どころか俺の分まで…

この恩は絶対に返すぜぇ…?俺は貸し借りはキッチリしてるからなあ」

 

「フハハハ!そんなものはお前達が美味そうに食ってくれればそれで構わん!!」

 

アミバは訓練室の床にレジャーシートを敷くと持ってきた重箱を広げていく。

 

「あら、今日も美味しそうじゃない!!

ねぇアミバ!卵焼きはある?お砂糖たっぷりの甘いやつ!!」

 

アミバが重箱の蓋を開けていると、妓夫太郎の背中から銀髪の見目麗しい女が生えてくる。

 

「勿論あるぞぉ〜!」

 

「キャー!!アミバ、やっぱアンタ天才よ!!」

 

天真爛漫、まるで少女のままに歳を重ねたように無垢に笑う。

アミバはそれを微笑ましそうに眺めると、箸を手渡していく。

 

「いただきます」

「いただきます」

「いっただっきまーす!」

 

3人はシートに腰をおろすと手を合わせ思い思いのおかずやおにぎりへと手を伸ばす。

 

「…あっ!あ、あの…俺…っ!」

 

心臓を握り締められるような威圧感が消え、一人を除いて黙々と食事を摂る一行に虎杖はようやく当初の目的を思い出す。

 

「皆まで言わずともよい…その目を見れば何を言わんとするか、察する事など容易

男が自分の理念を、理想を語るに…言葉など無粋!!

語るならば武勇をもって!それこそが強者、それでこそ勇者!」

 

大男…ワムウはそう言うと虎杖の前に立つ。

決して小さい訳では無い虎杖少年が子供のように見える程のビッグサイズ。

197センチという身長よりも、筋骨隆々の肉体よりも…ワムウという生物が積み重ねてきたブ厚いバックボーンとその信念が、ワムウを見上げる程の巨人へ見せていた。

 

「まあ、要するに強くなりたいんだろぉ?

なら俺達と組手でもするかあ?お前じゃ3日で死ぬかもしれねぇけどなあ」

 

くつくつと笑う妓夫太郎に虎杖はうつむく。

3日…どころか1日すらもたないと一目で理解してしまっていた。

眼の前の二人は、自分では見当もつかない程の怪物なのだと理解させられてしまった。

 

「そう虐めてやるな妓夫太郎、強くなりたいと思う気持ちに貴賤はない」

 

「そうそう、それにぃ〜めぐっちゃんからのお願いだから…点数稼ぎにもってこいだよ〜?ぎゅうちゃん」

 

クレマンティーヌがそう言うと妓夫太郎は目の色を変えて虎杖の肩に腕を回す。

 

「うん!そうかあ!お前強くなりたいんだなあ?

良いなあお前…俺は向上心のあるヤツは割と好きだからなあ!」

 

「あっ、えっと……」

 

「俺がお前を強くしてやるからなあ!!」

 

引き裂けたような恐ろしい笑みを浮かべる妓夫太郎。

明らかに安心させる為というより威嚇の為の笑顔であった。

 

「ふむ…しかし現実問題、妓夫太郎やワムウと組手をしては悠仁の命が幾つあっても足りんだろうし……

そうだ妓夫太郎、悠仁を鬼にできないか?」

 

「鬼に?……駄目だなあ、鬼にするには無惨のヤツの血が要る

少しなら持ってた筈なんだが…こっちに呼ばれた時にはもう持って無かったしなあ…」

 

「……もし、その鬼ってのになってたらどうなってたの?」

 

「鬼になれたら、俺みたいに【血鬼術】っつー特殊な技が使えるようになるし人間なら死ぬような怪我もすぐに治るなあ」

 

「おお!!」

 

「まあ、太陽の光を浴びれば死ぬんだが」

「駄目じゃん!!!」

 

思わずツッコむ虎杖。

そろそろわざとやってんじゃないかと疑いだしている。

 

「んー…ワムウ、吸血鬼ってのにはできねぇのか?」

 

「吸血鬼か…アレには石仮面が要る

俺では理屈はわかっても作ることなど不可能だ、カーズ様やエシディシ様ならば1からでもお作りになられただろうがな…」

 

「……………もし、その吸血鬼ってのになってたら…?」

 

虎杖はなんとなく先が見えた気もするが一応聞いてみる。

 

「石仮面を着けた者はその種の限界を超えた力を手に入れる

高い身体能力や再生力…場合によっては特殊な技を手に入れる者も居る」

 

「おお!!」

 

「まぁ、日の光を浴びれば灰になるがな」

「駄目じゃん!!!!」

 

やっぱりかとツッコむ虎杖。

今回は吸血鬼という名前でもう先が見えていたという説もある。

 

「むぅ…いっそあのデカい式神の法輪を縫い付けるか?」

「めぐっちゃんもたまにしてるよね〜」

「アレは恵が術者だから出来てるだけだと思うがなあ…影じゃなくて自分の身体を媒介にした式神術の応用の筈だあ」

「鍛錬あるのみだ…邪法に身に着けた力に意味などあるまい」

「ソレを言っちまったら終わりになっちまうなあ…」

 

式神達が集まってあーでもないこーでもないと話す。

………そもそもこんなに式神達がフリーになっていて当の恵少年は大丈夫なのだろうか?

 

「………私、あんまり頭良くないからわかんないんだけど…

前に恵にしたみたいにお兄ちゃんが呼吸を教えるんじゃ駄目なの?」

 

「……………梅ぇ…お前は本当に賢いなあ!

やっぱりお前は俺の自慢の妹だなああ!!」

 

「え、えへへ…!」

 

ワシャワシャと撫でられ照れながらも嬉しそうに笑う梅。

お兄ちゃんは常に妹を褒める機会を伺っているのである。

 

「その呼吸ってのにはなんにも無い?

死んだりとか覚えるのに目茶苦茶時間掛かったりしない…?」

 

怪訝そうに聞く虎杖。

みんなが虎杖をイジメてばかりいるので虎杖は人を疑うようになってしまいました。

お前らのせいです。

あーあ。

 

「いや…使うだけなら二、三か月ありゃあ十分の筈だあ」

 

「波紋戦士は生まれつき呼吸を扱える者も居ると聞く…そこまで時間は掛からんだろう」

 

「おお…!!で!で!?その呼吸ってのは覚えたら何が出来んの!!」

 

虎杖がパアっと顔を明るくしてニコニコと聞いてくる。

しかし、妓夫太郎とワムウはスッと黙り考え込む。

 

「………嫁が3人できる」

「………シャボン玉で人が殺せる」

 

「どういうコト!!???」

 

 

 


 

 

その後、色々あった為に少し疲れた虎杖少年は寮の自室へ向かってとぼとぼと歩いていた。

 

『やぁ悠仁ちゃん!』

 

その背中に、まるで見知った友人のように声を掛けてくる見知らぬ男。

 

「……?えーっと…?」

 

当然ながら首を傾げる虎杖…だが男が虎杖に手をかざすと、まるで不審感やら警戒心が『無かった事』になったように心が凪いでいく。

 

『僕と少し話そうぜ、疲れも無くなったろ?』

 

「そういや…確かに」

 

先程までの倦怠感もどこかへいっていた…虎杖は少し考えるが、男の提案を受けて近くのベンチへ腰掛ける。

 

『その眼…治さないのかい?』

 

男は虎杖の眼帯を指差し訊ねる。

 

『別に名誉の負傷って訳じゃあないんだろ?

初めて呪霊に遭って、何も出来ずに負けて受けた『不名誉の負傷』ってヤツだ』

 

虎杖の眼帯の内側は…未だ癒えぬ傷が痛々しく残っている。

引きちぎられ保護が出来なくなったまぶたの代わりに…そして眼球が抉り出された傷、それを見て何も言わず少しだけ申し訳なさそうにする伏黒恵の顔を見たくなかったから虎杖は眼帯を着けている。

 

『硝子ちゃんの反転術式で治せなかったから?

なら問題無い、僕ならすぐにでも()()()()()にできる

痛みも、傷も、悔恨も、残念ながらに残念無く消し去ってやれる』

 

男の目が、腐り果てた大樹の(うろ)のように深く理解できない闇を(たた)える。

その手には、いつの間にか…大きな螺子が握られていた。

 

『痛かったろ?怖かったろ?嫌だったろ?

さぁ、もう大丈夫…全部僕が消してやるよ』

 

男は引き裂けた笑みで手を伸ばす。

 

「あんがとね…でも、いいや」

 

その顔が、その目が変わったのは…虎杖がその腕を掴んで引き止めたからだった。

 

眼帯(コレ)はさ…確かに俺の失敗だと思う

目茶苦茶痛かったし、スゲー怖かったし、泣きたくなるぐらいに嫌だった───でも、後悔はしたくないんだ」

 

『後悔…?』

 

「うん…もし、もしもコレを簡単に治せたら──いつか、俺はきっと後悔すると思う

なんであんな事したんだとか、あん時逃げてればって…でもさ、痛かったし、怖かったし、嫌だったのは──先輩達もおんなじなんだ

なのに、俺だけが痛みも傷も…何もかもを忘れたら、俺はきっとあの時の選択を後悔すると思う

どんなに間違えて、後悔する事があっても───生き様で後悔はしたくない」

 

虎杖少年の言葉に、少しだけ…男は何かを懐かしむように目を閉じる。

そして、ほんの少しだけ……楽しそうに、笑った。

 

『全く、どいつもこいつも…主人公ってのはやっぱり違うもんだ

ねぇ、悠仁ちゃん…最後に一つ、質問良いかい?』

 

「質問…?いいけど……」

 

『人生はプラスマイナスゼロだって言葉…君はどう思う?』

 

虎杖は少し考えて…首を傾げながら口を開く。

 

「ん~…よくわかんないけど、そんな事ないと思うんだよな

だって、良いことがあったからって悪いことが無くなる訳じゃないし良いことがある度にあー、次は悪いことが起きんのかなーなんて思いたくねぇもん

だから───人生はきっとプラスの方が多いんだって大声で言いながら生きたい

だって、あんな事あったけど…伏黒とかアミバさんとかに会えたしさ

だから…これからの人生でどんなに悪いことがあっても、それを良いことにしていきたい

その為に───俺、強くなるよ」

 

『………………ったく、僕みたいなマイナスには眩し過ぎて目が潰れそうだぜ』

 

男は…球磨川禊は立ち上がると虎杖の眼帯に軽く触れる。

 

『【欲視力(パラサイトシーイング)】…善吉ちゃんから、安心院さんに会ったら返しといてくれって渡されてたんだ

もうスキルなんて無くたって、自分を見つめ直すぐらいできるからってね』

 

虎杖の目が、眼帯の裏地をはっきりと視認する。

 

『治しも、無かった事にもしてねーんだ…これなら良いだろ?』

 

そう言うと、球磨川は背を向けて歩き出す。

もう、やるべき事など無いとばかりに。

 

「ありがとう!えっと…」

 

『球磨川…僕は球磨川禊とかいう、そこら辺の奴だよ』

 

振り返りもせずに歩いていく球磨川に、虎杖も決して後は追わず…そのかわり、何処に居ようと聞こえる程の大きな声で叫ぶのだった。

 

「ありがとう!!球磨川!!!」

 

『ふふっ…どういたしまして」

 

今日もまた球磨川は天を仰いで、精一杯に括弧つけて呟くのだった。

 

『また勝てなかった』

 

 

 


 

 

伏黒恵

まこーらいつもありがとう

 

夏油傑

いつか五条を殺す男

 

五条悟

硝子いつもありがとう

 

家入硝子

目の隈が原作よりもマイルドになっている。

それはそれとして五条と夏油には死んでほしいと思っている。

 

アミバ

戦闘以外なんでもできる男 

 

クレマンティーヌ

伏黒恵は私が育てた

 

マーガレット・マカロン

今回は恵と共に任務に出ていたので未登場。

 

妓夫太郎&梅

どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!!

 

ワムウ

暇さえあれば妓夫太郎や他の強者と闘っている。

球磨川…?アレはなんか違うから……

 

五番目:八握剣異戒神将魔虚羅

最多使用頻度を誇るクソみてぇな術式の癒やし枠。 

 

四番目:【災害レベル「竜以上」】

ほとんど呼び出されなくて死ぬ程退屈。

 

球磨川禊

調伏されてから一度も呼び出されていないが、それはそれとして勝手に出てくる。

『束縛の強い男は嫌われるぜ、恵ちゃん』

 

二番目:【美食會ボス】

家族と食事中。

 

一番目:【ラスボス(笑)】

お前の出番はずっと先だぜ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。