燃え盛る火の中を、妹を背負って歩く
俺は…駄目な兄貴だなあ
みっともねぇなあ、本当にみっともねぇ…鬼殺隊のガキにあんだけ言っといて、本当に妹を守れてねえのは俺のほうじゃねぇか
勝てない戦いじゃなかったんだ…油断した、油断しちまった
十回やりゃあ十回、
それがよくなかった
柱は、俺と相性が悪かった…もしもアイツ以外の柱なら最初の一撃で毒が回って死んでた筈だ
ガキ共だってザコじゃなかった、梅だって一人で柱を7人殺してる…あのガキ共2人で柱1人分より上ぐらいの実力があったんだ
みっともねぇ、みっともねえ、みっともねえなあ
妹守れねぇで、約束も忘れて泣かせちまって…
本当に………みっともねえなぁ
鬼になったことに後悔はねぇ
俺は何度生まれ変わっても必ず鬼になる
幸せそうな他人を許さない、必ず奪って取り立てる…妓夫太郎になる
でも、もし…もしも、梅が───俺と梅が、二人で生まれ変わって…もしも、普通の親元に生まれたなら
そん時は────二人で、幸せに……
(……!…何だあここは……地獄…にしちゃあ明るいし、温けえ……
人間の家……かあ…?)
妓夫太郎はキョロキョロと辺りを見渡す。
此処は、伏黒家のリビング…そう、またしても恵が手遊び歌で調伏の儀を暴発させたのだ。
その日、甚爾は星漿体を巡って繰り広げられた1件の後始末として五条らと共に高専に出向いていた。
その日、クレマンティーヌは気晴らしに街を歩きながらナンパしてきた男をこっ酷くフッて遊んでいた。
その日、ママ黒はせっかく元気になったのだからとマカロンに誘われて百貨店へウインドウショッピングに行っていた。
つまり、この家には幼い恵とアミバしか居ない。
「ん〜?なんだ、また新しい式神が出たのか?」
背後から聴こえた声に妓夫太郎はすぐさま血の鎌を手に振り返る。
「誰だ!!」
「……そう構えるな、貴様と戦う気はない」
両手を挙げながらそういう男は、幼い頃から殺意や敵意を向けられて育った妓夫太郎から見ても一切の悪感情がこもっていない目でこちらを見ていた。
哀れみでも、同情でも、見下している訳でもない。
男はただ、妓夫太郎を見ていた。
「………なんなんだお前は」
「おれはアミバという…まぁ、一応の家主代わりだな」
男は言いながらテーブルの椅子を引く。
「立ち話もなんだ、座るといい
腹は空かんか?それとも飯は食えんか?」
「ああ…?」
男がそう言うと、妓夫太郎は心底意味がわからないと眉をひそめる。
眼の前の男は一体何を言っている?
実力差というのがわからないのだろうか…それとも、わかった上で言っているのか??
もしかすると、脳ミソがクソにでもなっているのかもしれない。
妓夫太郎は少し考えて…引き裂けたように口元を歪める。
「あぁ…なるほどなあ!
お前、飯に毒でも混ぜようってワケか…ひひひっ!!
みっともねえなぁ!真正面からじゃ俺に勝てねえからってなあ!
まだお前が何かもわかってねえのに出されたモンなんて食うわけ…」
嗤う妓夫太郎の話を遮ったのは、同じく妓夫太郎の腹の音だった。
グルグルと大きく音をたてる…アミバはそれを聞くと何も言わずキッチンへ向かった。
「な…っ!おい、待て!!クソ…効かねぇからなあ!俺は鬼なんだぞ!お前が用意できるような毒が効くワケが…」
「なら、安心して食えるだろう?
それに…毒の一つや二つで埋まる程、おれとの実力差は浅く無かろう」
アミバは怒鳴る妓夫太郎の前に、大きな皿にてんこ盛りにしたカレーを差し出した。
カレーライスの伝来は幕末頃…明治時代とされる。
当時はまだ舶来品のスパイスやカレー粉を使う都合上、高価であり庶民に手の出るものではなかった。
それが解消されたのは…明治38年、日本国内で生産されるカレー粉が出回り始めた事と洋食文化の隆盛に起因する。
大正時代にはカレー粉を使った和食…カレーうどんやカレー南蛮が市井に広まる…つまり、大正時代を生きた妓夫太郎にとって
カレーライスとは決して知り得ない料理ではない。
筈だ────
(クソ…なんだあ、この変な飯は…ッ)
しかし、鬼となる前は勿論のこと…鬼となった後にも妓夫太郎がカレーライスを見る機会などなかった。
遊郭という場所の特異性、匂いの強い食べ物や飲み物はどうしても忌避される傾向にある。
妓夫太郎とて花魁として頂点を極めた妹と共に、店の人間が用意したものを食べる事だって何度もあった。
それでも、こんな茶色くてドロドロしたナニカが白米にかけられた料理など見たことがなかった。
(この茶色いのは…?いや、中になにか入ってやがる…これは、
他には…
金属製の匙でカチャカチャと皿に盛られた料理を検分しながら眉間に深々と皺を刻む妓夫太郎。
香りは──良い、認めよう…鬼となって人の食事など道楽に成り果てた自分ですら尚、惹かれる程の芳香がこの一皿にはある。
だが、問題は味だ。香りを食うなぞ霞を食う仙人でもなし出来る筈がないのだから。
(チッ…なにビビってんだあ、俺は!
さっき言ってたろ、人間が用意出来るような毒が俺に効くワケねぇんだ!仮に、藤の花の毒が用意出来てたとしてもこんなに煮込んじまったらダメになってるだろうしなあ!!)
妓夫太郎は意を決して匙を口元に運び、乱雑にカレーライスを頬張る。
一口、眉間の皺が更に深くなる。
二口、自然と手が伸びる。
三口、左手が皿へと伸びる。
四口、焦ったように掻き込む。
五口、六口、七口、八口、九口…………
ガチャガチャと金属製の匙が陶器の皿を掻く音と時々、息継ぎをするような妓夫太郎の声ともつかぬ息だけが伏黒家のリビングに響く。
数分後、山盛りだった皿は米粒一つ残さずに綺麗に平らげられていた。
アミバはそれを見て何も言わず、ただ嬉しそうに目を細める。
「どうだ?腹は膨れたか…?
もし、まだ膨れておらんのなら…まだまだ作り足りんのでな、お前さえ良ければ食うのを手伝ってくれると有り難いのだが」
「………」
アミバの言葉に妓夫太郎は何も言わず、ただ空っぽになった皿をアミバの方へ押し返す。
その手には、金属製の匙がしかと握られていた。
初めてだった。
こんなにも温かい飯なんて。
飯なんてのは…冷たくて、硬くて、臭くて、不味いもんだと思ってた。
鬼になったあとだって、一緒だった。
遊女の為にと毒見を重ね、やっと食えると思えば客の対応で…口に入る頃には冷たくて硬い──いつもの飯。
俺の為に飯を作ってやろうなんて酔狂なヤツは居ない。
だから、俺は誰かの分を奪い盗って…取り立ててきた。
後悔なんざある訳ねぇ、そうしなきゃとっくにくたばってた。
でも……いや、だから──自分の為に作られた、温かい飯なんて…生まれて初めて食った。
「少し、おれの独り言でも聞いてくれるか?
なに、料理が出来上がるまでの繋ぎだ…不快なら耳を塞いでくれ」
だから、妓夫太郎は普段なら聞かないであろうそんな言葉に耳を傾ける。
「おれは…今までに多くの人を殺めてきた」
そんな独白に、妓夫太郎はそうだろうなとアミバを見遣る。
明らかに、場慣れしている…それに身に纏う空気とでも言うべき何かが一人や二人殺した程度で身に付くソレではない。
「一つ、勘違いの無いように言っておくが…おれはソレを後悔などしていない
全てはおれの編み出したアミバ流北斗神拳を完成させる為…もしも生まれ変わって、また同じ状況になればおれは間違いなく同じように人を殺めるだろう
「……お前、何が言いたいんだあ?」
「何が、か……そうだな…おれは、自分が善人だなどとは思った事がない
天才とはえてして理解されぬものだ、おれとて誰かに理解されたくて生きている訳では無い……だがな」
アミバはゆっくりと新しく出来た料理を片手に妓夫太郎のもとへ歩み寄る。
「人は、一人で生きては行けぬ…きっとそれはお前のような者でも変わらんだろう
そして、それに気付き人の輪に入りたいと願った時…その時になって初めてわかるのだ───己の手が、血に塗れ過ぎているとな」
悲しそうに言うアミバに、しかし妓夫太郎は顔を歪める。
嗤うような、馬鹿にするような……泣き出しそうな顔に。
「はっ!なんだなんだあ…?長々と……結局は俺に説教したかっただけかあ?
ふざけんなよ……ふざけんなよなあ!!!俺は、俺は鬼なんだぞ!?人を喰わなきゃ飢えて死ぬ化け物に人を喰わずに死ねとでも講釈垂れる気かあ!!?
俺だってそうさ!何回死んだって!何回だってやり直してやる!!何回だって取り立てる…妓夫太郎になる!!
俺は────ちっとも変われやしねぇんだ!!!」
その慟哭は、獅子の咆哮のようで
その慟哭は、迷子の悲鳴のようで
その慟哭は、怪物の鳴き声のようで
その慟哭は、幼子の泣き声のようで
今にも、襲い来るようで
今にも、泣き崩れそうな
そんな、叫びだった。
「死ねなどと言う訳がなかろう
妓夫太郎と言ったな…今からおれは、お前に死よりも辛い事を言う」
アミバはそっと妓夫太郎の前に料理を置くとその双眸を見つめて話す。
「死ぬな───生きろ、妓夫太郎
死んで償える罪などたかが知れている、おれやお前の罪が命程度で贖えるものか
人の輪に入り込み、善人なのだと嘯きながら縁を紡ぎ、そして自分の手を見る度に絶望しろ
人の何倍も苦しみ抜いて、人の何倍も縁を紡ぎ、人の何倍も絶望し、死に恋い焦がれる程惨めでも……生きるんだ」
「なんだあ…それは……っ!!
俺は!!償いたいともやり直したいとも言っちゃいねぇだろうが!!!後悔なんてねぇ!じゃなけりゃ……俺が、俺が後悔なんてしちまったら…っ!梅は…っ!!梅は……」
消え入るようなその言葉は、最後まで発される事もなく溶けるように呑み込まれる。
「……れると、思うか……?」
消え入るような声、しかし…万感の想いがこもったその声は確かに眼の前の男に届いた。
「何がだ」
「か、わ……っ!変われると、思うか…!
俺は…っ、き…っ、汚くて、腑抜けで…ぼ、ボンクラで、役立たずで…っ!!こ、こんな俺でも……思うか…?
変われるって───やり直せると、思うか…っ!?」
迷子の幼子が縋るように強く、強く差し伸べられた手を握り締める。
男は何も答えず、ただ微笑んだ。
「変われるさ…生きる事を罰だと思えるお前なら
自分の罪に向き合えるのなら、妓夫太郎…お前はきっと変われるとも───この天才が保証してやろう」
「お、おぉ…っ!!お…おおおぉぉぉぉおお!!!」
それは、嗚咽のようで
それは、歓声のようで
それは、勝鬨のようで
それは、懇願のような
そんな、声だった。
「どうしたの!?大丈夫…?ねぇ、お兄ちゃん!!」
滂沱の涙を流す妓夫太郎の背中から、見目麗しい女が現れる。
女は妓夫太郎の背を心配そうに擦りながら感情が伝播したように目を潤ませる。
「な、泣かないで…お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
遂には理由も分からず涙を流す女を妓夫太郎は愛おしそうに抱き締める。
欠けた何かを埋めるように、一つの何かに戻るように。
「梅…梅!変わるからな…今度こそ、二人で…俺達兄妹二人で…!!」
梅はおっかなびっくり妓夫太郎の背に手を回すと、自分もぎゅっと抱き着く。
しばらくして、涙が収まると…先の涙が偽物だと言わんばかりの滝を思わせる程の涙が溢れ出る。
「わ゛、わだじも!!!私もがわる!お兄ちゃんと…お兄ちゃんと私はずっと一緒だもん!!お兄ちゃんだけ頑張らないでよー!!」
互いに互いを掻き抱きながら、兄妹は延々と泣き喚く。
この世に二人の兄妹は…ようやくに抱き締めあった。
七番目:妓夫太郎&梅────調伏完了
アミバは兄妹の様子を眩しそうに見つめるとフッと目を離す。
もう大丈夫だろうと…そして、あの妹の分も料理を作らねばとキッチンを目指そうとし───気付いた。
あまりにも、遅まきながらに…その『テレビ番組』に。
『右手がチョキで左手がパーで焼きそば〜♪』
教育番組を観ながら、自分のむちむちの手を一生懸命に動かす恵。
アミバは、これで妓夫太郎を呼び出したのかと微笑ましく見守り…次の瞬間、一気に血の気を失った。
『次行くよ〜!右手がチョキで左手もチョキでカニさん〜♪』
両手がパーで、アミバ…なら、両手がチョキなら?
「恵っ!!!待っ──」
「……何処だ此処は?俺はサイタマに敗れ、死んだ筈だが」
一瞬で、全身の汗腺が馬鹿になったように…蛇口を捻ったように汗が噴き出す。
眼の奥がばちばちと火花が散ったように痛み、喉が胃の中身を押し留めようと必死に絞られる。
拳士としての勘でも、鬼としての場数でもない。
ただ、生物が当たり前に持つ危機察知能力が…けたたましい程の爆音で警鐘を鳴らす。
勝てない
眼の前の生物は、自分達の遥か上…埒外の怪物であると。
「………おい、そこの人間共…A市は──サイタマは何処に居る」
全宇宙の覇者は、眼の前に居た三匹の羽虫にそう問い掛けた。
伏黒甚爾
呪術総監部より一連の事件の後始末として術師(4級)として認定された。
クソッ!!!!!呪術総監部めぇ!!!!!
五条悟
横で爆笑しながら聞いていた。
何故か最近螺子を見ると鳥肌が立つ。
夏油傑
最近肉づきが良くなりつつある。
呪霊を見るとお腹が鳴るようになった。
クレマンティーヌ
とても満喫したので早目の帰宅中。
マーガレット・マカロン
思いの外買い込んでしまったので荷物を置きに帰宅中。
妓夫太郎&梅&アミバ
大ピンチ
六番目:ワムウ
五番目:八握剣異戒神将魔虚羅
四番目:ボロス
戦闘調伏オンリー
三番目:球磨川禊
二番目:【好きなフローゼ発表ドラゴン】
一番目:【リアルファイト最強】