ゆるディストぼやきピア   作:小心 モノ

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正解は?

 

 

 

 ガシャコンガシャコン。流してパッパではい次ガシャコン。

 

「……なあ」

「……」

「なあって」

「……なに」

「だりぃなってさ。お前思わない?」

「思うけど。正直これ何してるの?」

「俺は知らん」

「わたしも」

「労働は?」

「くそ」

「だよな」

 

 隣に立って同じく作業をしている317番――ミィナに俺はぼやいた。

 朝九時起床、十時から二十一時までひたすら工場のラインから運ばれてくる部品を組み立ててはまた流すというのが、今週の仕事だった。三時間ほどが経過したが、もう飽きてきた。なんなら三日前から飽きてた。

 白の外壁白の床、人が着る服も照明も白。何ならベルトコンベアも白ときた。色違いがあるとすれば肌と髪と目ぐらいのもので、俺らを監視しているロボットすらもセンサー類以外は白というこだわりようだ。我らがマザーは白が大好きらしいというのがもっぱらの噂だった。聞いてみた奴は誰もいないが。

 隣の知らんやつから移った欠伸が口を開けた。盛大に声が出たのでミィナは顔を顰めたが、奴もまた俺のが移ったらしく小さく口を開いていた。俺はその様子を図らずもガン見してしまい、それに気付いたミィナが赤面する。琥珀の瞳に涙が滲んでいた。かと思えば、足蹴にしてきやがった。

 

「いてっ」

「見んな」

「仕方ねぇだろ見えちまったんだから」

「……後で報告する。記憶消去してもらう。不要な記憶でしょ」

「おいおい止めろよ、あれ喰らうときついんだよ」

「知らない」

 

 そっぽを向いてしまった。おい本気でやるつもりじゃねぇだろうな? 前後の記憶の繋がり消えんのって結構辛いんだぞ分かってんのか? というかコイツ、平然と施設の機能悪用しようとしてやがる。

 俺が視線で問い詰めても、ミィナは頑なに顔を合わせようとしない。無理に体を逸らしているせいで、背のわりに豊満な胸が強調されてる。白は膨張色だと聞いた事がある。色気無い味気無い個性無いの三拍子揃ったツナギの作業服であっても、視覚的な丸みと重量感が増すと、なんというか、凄い。途端に蠱惑へ大変身だ。

 無理な体勢にも関わらず、手元の作業に狂いないのは流石にこの時代に生まれ育った人間らしい。腕が当たって歪んでる。多分機械には曲線に興奮する人間の心理は永遠に理解出来ないんだろうな。魂での理解だ。

 無意味にエロが強調されている事を伝えようと悩んだが、止める。コイツが本気で記憶を消そうと企んでるのならどうせ無くなるのだし、今だけの役得というものだ。

 そうと決めたら遠慮は無しだと、しかと見させて貰っていたのだが、流石にバレたらしい。赤面にプラスして睨みも頂戴してしまった。

 

「変態」

「お前が脅すからだろ」

「悲鳴を上げる。警備に来て貰う」

「おいホントに脅すな!」

 

 深く息を吸い始めたので慌てて静止、手元もおぼつかなくなりミスをしそうになる。配給のグレードが下がるのも刑罰房にぶち込まれるのも勘弁願いたい……!

 

「……ふん」

 

 幸いにして、俺の無様な慌てっぷりに気が済んだらしい。ミィナは鼻息を鳴らすと作業に戻る。

 

「あっぶねぇ……」

「主導権、今日はわたしが握ってるから。そのつもりで」

「うっへぇ」

「文句ある?」

「ありませんとも」

 

 強気な態度。しかしヘマをしたのは俺であるからして、しばらくは甘んじて受け入れる他なかった。コイツの隙どっかで見つけらんねぇかな。対等っていい言葉だよな。

 

「それで」

 

 しみじみ俺がそう感慨に耽っていると、今度はミィナから話しかけてきた。

 

「なんだよ」

「さっきの続き。これ何してるのか、何なのか想像しようよ」

 

 ミィナの目は、今なお絶賛組み立て中の何らかの部品に向けられていた。

 

「……あー……これが?」

「そう。これ」

「お前がそういうの提案すんの珍しいな」

「だってだるいし。ていうか暇だし。正直つまんないし」

「大概つまんないけどな、ここでの仕事」

「今週は格別じゃん」

「言えてんな」

 

 時間の感覚の長引き方では歴代トップに近い。マザーの管理する人間に与えられる仕事というのはどれもこれもクソほど退屈だ。だるすぎて定期的に記憶をリセットして新鮮な気持ちを維持しようとする強者すら現れるぐらいだといったら、この純然たるつまらなさが伝わるだろうか。噂にしか聞いた事は無いが、本当にいたら激ヤバだなそいつ。

 どうにかして気を紛らわせようとは考えていたが、ミィナの提案は基本過ぎて逆に思いつかなかった。アリだな。

 どうしてもっと早めに浮かばなかったのか後悔したくなったが、よくよく考えたらこのクソ長クソ退屈勤務時間が原因に違いなかった。脳がボロボロ崩れるわこんなん。

 

「よし、やるか」

「やろう」

「そういうことになった」

「……それ娯楽じゃん。禁止されてるやつじゃん」

「お前も知ってんじゃねぇか」

「教えたのアンタでしょニゴロウ」

「……載ってる本貸したか? あやべ、消去喰らってんのか俺?」

「したよ。それでされてない。借りたのだいぶ前だけど、少なくともそこから一度も行ってないよ操作部屋には」

「純粋に忘れてただけか……そういう無意味な混乱起きうるんだよなここ。せめて痕跡残して欲しいわ」

「ていうかよくバレないね」

「正直そっち方面の監視ザルだからな。業務に支障なけりゃ知られても報告されねぇよ」

「ふーん」

 

 興味あるんだか無いんだかよく分からん相槌の直後、ちょうどいいタイミングで次の部品が来た。ミィナは慣れた手つきで各種部品を組み合わせ、あっという間に工程を終えていく。

 鮮やかなもんだ。基礎から取り掛かり方が違う。

 

「よ。ほ。ふ」

「組み立てんの上手いよなお前」

「まあね。ふふん」

「誇ってんなぁ」

 

 しかもよく分かんねぇとこで。猫とかいう生き物が誇らしげにしているみたいだった。実物映像でしか見た事ねぇけど。

 ミィナに倣って俺も組み立てていく。中心に穴の開いた角の丸い、平たい土台のような部品に半透明のレンズを被せる。ちょうど穴が埋まって合体。一つになったそれに、次に流れてきた細長い筒を宛がい、スリットにはめ込む。それはレンズを覆うように配置されているので、台から先が丸くなった鉛筆が生えているみたいな見た目となる。

 後はそいつを横に倒して専用の台に置く。ちょうど作った物と同じ形の窪みがあるので合わせるように置き、上蓋を閉じると蒸気が噴き出す。小気味良く連結したような音がしたら蓋を開く合図だ。それで取り出せば、各部品が継ぎ目なく一つになった完成品の出来上がりだ。

 後は台に入れる前より重くなったそれを、ベルトにまた置いて流していく。これが一連。

 

「……マジで俺なに作ってんだろうな」

「それ。というか何で知らされないのかいっつも不思議なんだけど」

「知る必要はないとかじゃね」

「なにそれ陰湿。陰湿マザー。湿気って頭の中カビついてるんじゃないの」

「悪口冴えわたってんなオイ」

「みんな言ってる事代弁しただけだし」

「そんなかにお前の本音も……?」

「もち入り」

「おもち入ってるみたいに言うな。お得か」

「伸ばしても尽きないぐらいには不満があるから」

「なんで不穏分子扱いされてねぇのお前?」

「日頃の行い」

「今悪口言ったばっかでよくほざけるよな」

 

 無敵か?

 仮にも支配者に暴言を振りまいていたにも関わらず、ミィナは平然と次の部品に取り掛かっていた。ラインに流す速度はミィナに軍配が上がる。この手の単純作業に限らず、手先がやたらと器用なんだよなあコイツ。

 その手際に感心しきりといきたい所だが、あいにく今は本題がある。俺も次に取り掛かりながら、この謎部品の正体について思考を巡らせてみた。

 

「手に収まるぐらいのサイズ感だよな。んで三つの部品で出来てる」

「これさ、そもそも人にやらせる仕事? 機械集団に任せないの?」

「言うなよ。手数が不足でもしてんじゃねぇの?」

「そんなに足りなくなるやつなのこれ……?」

「知らねえけどそうなんじゃね」

 

 作業用の自立ロボもあるらしいが、俺達全員見た事ねぇからなぁ。要所の警備は厳重で、比較的自由なエリアに比べて通り抜ける隙間も無い。もし実在したとしても、俺らが暮らすエリアとは隔離された空間にいるのだろう。

それだけ人の目というものがないからか、本当にあるのかどうかは定期的に賭けの対象になっている。見つかったら流石に即懲罰房行きらしく、スリリングな体験だという事で賭け事全般は結構人気だったりする。

 いや馬鹿しかいねえのか? 退屈は人を馬鹿にするのか? どこでヒリついてんだよ。

 流石に限られた人間の間に限りって話で、そいつらの中での人気ってだけではあるんだが。やけにやり切った顔で連行されてる馬鹿連中を思い出していると、ミィナが何か思いついたらしく、しきりに首をかしげていた。結構長い真っ黒な髪が揺れる。機械に巻き込まれないか見ていてハラハラすんなぁおい。

 

「……巨大なロボット用のペンとか? ほら、握りやすそうだし。中身詰まってるっぽいし」

「中身ゲルインキって事か?」

「そう」

「そんでロボットが書き散らしてると?」

「うん」

 

 想像してみた。ロボットは巨体で、ペンを握れる程度には精密な動作が出来る。いやまあマザー製ロボットたいがい高性能なんだが、まあでかくて器用と。そいつが何らかの作業をしつつ、手に持ったペンで何かを書き続けている。俺ら含めて万単位の人間が作り続けても足りないぐらいに早く消費されて、書かれる紙がどんどん積まれていく、そんな光景。

 

「ありえなくね」

「なんで?」

「逆にそんな書く事あるか? コピー機代わりに手動でやってたりすんのかよそいつら。でっかい身体動かしてひたすら書き続けてんのかよ。無駄だろその体形」

「知らないけど」

「おい言い初め」

「でも可愛くない? 大きくてガタイいいのに縮こまってちまちま書いてるの」

「それこそ知らねぇよ……は? 可愛い?」

「え、うん」

「え、いやぁ……よく分かんないっすねそれ、はい」

「……」

「いってぇ!」

 

 本気で蹴ってきやがった! 同意得られなきゃすぐそれかよ暴君か!

 作業を止められはしないのでひたすら足踏みして痛みを誤魔化している俺に、ミィナの冷たい眼差しが突き刺さる。なんでそんなキレてんだよ!

 

「おめぇ何すんだ!」

「敬語した」

「は?」

「……あと、同意しなかった」

「やっぱそっちか!」

 

 なんか途中に挟んだけどそっちが本命だろコイツ! キレるラインまったく予想もつかねえよ! マジで暴君めいてる。普通そんだけで本気で蹴るか?

 なんという理不尽の権化だよ。仕返しに俺が睨んでもぜんっぜん見向きもしねぇし。

 

「……」

「理解出来なかったらそりゃ同意も出来ねえよ。なんだ可愛いって。お前ロボの事どんな目で見てんだよ普段。何に可愛げ見出してんだよ……おい、おいミィナっておい。おーい! 聞いてんのかおい!」

「……ニゴロウはどう考えてるの」

「あ?」

 

 返事が返事で無くて短く聞き返すしかなかった俺に、ミィナはゆっくりと振り返った。

 ……赤っ。いや顔赤っ。なんでそんな赤面してんの。反対側向いている間にどんな事象が発生したらそんななるんだよ。配給飯の当たりバーと同じ色してんじゃねえか。短時間で激変過ぎるわ茹でた蟹か。

 

「どしたお前。大丈夫か? 風邪引いたのか急激に?」

「ちがわい」

「本気でどうした!?」

 

 ちがわいとか初めて聞いたわミィナの口から。ある意味出てきちゃ駄目だろ。

 まじでどうしたと心配して覗き込めば、逃れるように体を逸らす。だから強調してるっての。

 

「わ、わたしはいいから。ほら、ニゴロウはこれが何なのかどう考えてるの」

「本当に大丈夫か……?」

「大丈夫だから」

 

 手を突き出して俺の動きを止めようとしてくるミィナ。うーん……コイツがいいって言ってるんだから、いいのか。ミィナの言葉を信じて俺も考えてみる。

 

「そうだな……あえてなんだが、ミサイルとかか?」

「……は?」

 

 瞬時に赤みが取れたミィナが訝し気に見つめてくる。なんだよ。

 

「ミサイル?」

「おう」

「これが?」

「おうって」

「……危なくない? 純粋に危なくない?」

「そうだろうけど仕方ねえだろ、そう思っちまったんだから」

 

 危ないかもしらんけど。少なくともミィナの意見よりかは自信が俺にはあった。

 だがミィナからの同意は全く得られていないようだ。心なしか、組み立てる手付きが荒くなっている。そこまで? そこまで指先に影響出る程の事言ったか俺?

 ミィナはまたも一つ作り終え、それをジトっと見つめた後に流す。信じていないのはよく伝わってきた。

 

「何にそんな使ってるの。仮にミサイルだとしてそんなばんばか撃つ?」

「ばんばかってなんだよ。さっきからお前言葉遣いおかしくねぇか」

「それにこれ結構雑に置いてるよ? ゴンって。ゴトンって。ゴトトトンって」

「無視だしお前そんな風に置いてたの?」

 

 雑過ぎだろ。

 

「誰に撃つのこんなにたくさん。人いっぱいで作ってるのに」

「さぁ……レジスタンスとか?」

「だとしても作り過ぎでしょ。マザーの生産計画どうなってるの? 地に満たす勢いで増やしてくじゃん。神気取りじゃんマザー」

「俺らにとっては神みたいなもんだろ」

「バカの神マザーじゃん」

「おい暴言! 暴言おい!」

 

 ヒヤッとしたわ。さっきよりも直接的過ぎる。

監視近くにいねぇよな? ていうかその言い方だと俺ら全員バカって事にならねぇか? 全方位爆撃かよ。やっぱコイツ暴君だろ。

 思わず俺は辺りを見渡した。入り組んだベルトコンベアで部屋の床面は殆ど埋まり、その隙間を埋めるように人が敷き詰められている。監視用のロボットはそんな俺らの足元を縫うように移動する、球状のカメラに一輪が足として生えてるみたいな見た目だ。とりあえず近場にはいないと分かり、詰まった息を吐く。

 俺が冷や汗を流している間も、ミィナは平然と作業を続けていた。ほんとそういうとこクソ度胸あるよなコイツ。

 

「お前なぁ……」

「別にいいでしょ。それより、ミサイルだって思った根拠は?」

「あ? ああ、なんか見た目それっぽくね?」

「……どこが?」

 

 率直に言えば、またも疑問に思われる。

 どこがと問われても俺にとってはそれなりに的を得ていたので、いざ細かく聞かれるとなると言語化には時間が掛かった。それでもほんの少しの間でしかなく、やっぱりこいつはミサイルなのではという確信はどんどんと高まっていった。っぱミサイルだよな!

 

「だってよ、こんな細長くて先端細くなって、丸み帯びてんだぞ。ちっせぇミサイルみたいじゃね?」

「……うーん……じゃあ、この土台は?」

「噴射口」

「無理あるって」

「いやいけるいける。これ底の四隅に穴空いてんだぜ?」

 

 そう言って、俺は組み立て終わった完成品をベルトに流す前にひっくり返してみせる。底面は想像するより遥かに複雑な線が入り混じり、四つの大き目な穴が空いていた。ミィナの前にそれを晒してみせれば、興味深そうにしげしげと観察し始めた。

 

「……ほんとだ」

「だろ?」

「……でもやっぱり無理あるって。仮にミサイルだとしても小さいし、逆に軽くない?」

「その軽さがいいんだろ、多分」

「根拠うすっ。ニゴロウの人間性みたい」

「いわれなき罵倒急に飛ばすなよお前! だいたいそれなら俺以外も大概だろ育ち大概変わらねぇんだから!」

 

 脈絡なさ過ぎてビビったわ何事だよ?

 さらりと暴言をぶっぱなしやがったミィナは流れていく完成品と、俺の手にある製作過程の部品一群を見比べるとやれやれと言わんばかりに首を振った。おいなんだよその態度。小馬鹿にしている表現か?

 

「……それなら、わたしのペンだって一理ある。ミサイルよりかはペン」

 

 どうやら、よっぽど自分の意見に自信があるらしい。だがそれは俺も同じだ。

 

「は? 俺のミサイルの方がよっぽど正解だろ」

「いや、わたしだし」

「俺だろ」

「は?」

「あ?」

「……」

「……」

 

 睨み合いが勃発した。

その間も手元は互いに狂わねぇんだから身についた管理人間根性ってのはすさまじい。じっくりことこと染みついた極上の逸品だ。なんせ生まれついてから今に至るまで施設の外出た事ねえんだからな。

 

「……ペン」

「ミサイル」

「絶対、ペン。可愛いからペン。わたしが見たいからペンったらペン」

「ミサイルだっての……いやお前の願望えぐいわ。量自重しろ量を」

「譲って。譲れ」

「ド直球じゃねえか!」

 

 交渉のこの字もねぇ! 直接ぶんどりに来やがったミィナの奴!

 そこまで見たいのかよ巨大ロボットの細々とした作業風景。どこでその嗜好獲得したんだよ。突然変異でもしたのかお前は。個性ってもんがないその他の面々に比べたら確かにミィナは抜けた存在ではあるけど。

 よく分かんねぇこだわりぶりを発揮するミィナは細く息を吐くと、毅然とした目でこちらを見つめてくる。

 

「そこまで言うなら勝負しよう。わたしとニゴロウ、どっちの意見が正しいのか」

「おうやってやるよ上等だよ。報酬は」

「配給バーの一番良いやつと不味いやつ交換」

「乗ったぁ!」

 

 位の下層に位置するバーはクソほど不味いからな、燃えてきた……なるほどコイツが賭け事の妙か。確かに馬鹿になるのも分かるわ。何故なら俺は今馬鹿になっている……!

 急に始まった賭け事。幸い監視の目は近くにねぇ。取引成立、勝負開始となった。

 

「……ふん」

「……はっ」

 

 バチバチに視線がぶつかり合う。火花を散らし、どちらが正しいのかを押し付け合う。戦いなんてのは管理された人間の領分じゃねえからな、こうも真っ向から向かい合う機会は自分から作らないと在り得ない。高揚するというのか、やけに揺れ動く心というのは、そうそう味わえるものでは無かった。レジスタンスの連中もこんな心地なのだろうか。

 後は勝負の決着方法を互いに定めるか、と俺が話の続きを始めようとする。

 途端、爆発。遅れて警報音が馬鹿でかい音量で響き渡る。

 

「っ」

「なんだぁっ!?」

 

 随分急だなおい!

 白が赤に。警告色に染まり上がった工場内だが、続けて生じた爆発音によって外壁が吹き飛び外からの光が差し込む事で目映さが相殺される。薄まった赤は未加工の人工肉のような色合いになって、慣れない明かりに俺は腕で顔を庇うしかなかった。

 その向こう側で、争いの声。

 

《緊急事態! レジスタンス襲来! 防衛機構解放、人民方は迅速に避難されたし!》

 

 飛び交う銃声。警報音と迅速な通達音声が混ざり合い、轟音めいた駆動の唸りと共に甲高い音を発しながら空に飛翔するミサイル群。空は青い。

 レジスタンスが多いとは聞いていたが、こんな深くまで攻め入ってくるもんなのかと俺は妙に感心してしまった。我先に逃げていく群衆の只中で観戦気分だ。いやこれ正常な判断出来てねぇな。

 

「……あ」

 

 そんな中、ミィナがふと空を指差した。

 

「お前逃げてねぇのかよ」

「そっちこそ。それよりあれ、あれ」

「なんだよこんな時に……あ?」

 

 赤と青が重なり合う光景の遥か先、白線を切って飛んでいくミサイル。ミィナが示すそれを俺はよくよく観察した。

 それは土台があって、鉛筆みたいな形の筒が伸びていて、底辺の四隅から巧みに出力を調整しながら炎を噴き出し飛んでいる。ちょうど俺たちが作っていたやつがそのままに、何百発と打ち込まれ続けていた。

 ……。

 

「ミサイル、だな」

「だね」

「俺の勝ちだよな」

「ね」

「……判明するの早すぎね?」

「だよね。変に熱入ってた分あっさりだったね、正体分かるまで」

「だよなぁ……」

 

 え、なにこれ。すっげぇ微妙な気分なんだが。勝ち誇れもしないしなんなら今生命の危機の真っ只中だし。釈然としないどころじゃないんだが。どうしてくれるんだよこの空気。

 ミィナも微妙そうな、消化しきれない重いものを抱えたみたいな表情を浮かべていた。

 

「……とりあえず、逃げる?」

「……そうするか」

 

 というわけで俺たちも逃げた。なんでこんな敗走気分味わなくちゃいけねぇんだよ!

 

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