よくない感じだよね、ここのところ、と呟いたのはジェームズだった。シリウスは気のない様子で杖を振り、宙にきらきら光る玉をいくつも作り出した。淡い金色と銀色のそれは軽やかに踊り、ぶつかりあって弾けて消える。霧雨のように降って来る残滓が融けるころ、ようやく返答した。
「マッキノンのことか、それとも最近のゴタゴタのことか?」
「どっちもさ」
ジェームズの作り出した玉も激しく伸び縮みしながら弾けてしまう。
「小母さんを殺したことで調子づいているからねえ……普通だったらマッキノン一族の殲滅なんてありえないって笑ってるところだよ」
「リアイスに切り込んでいるんだ、それくらいはやるだろう。それで、かなりのスリザリン派が『あの人』についたらしいし……」
シリウスの一族であるブラックは今の段階では闇側と距離をとっている。自称王族である彼らにとって、突然『卿』を称してきたどこの馬の骨とも知れぬ輩を警戒する気持ちが強かったのである。 たぶん、とシリウスは続けた。
「スリザリン内部でも誰が闇側かわからないのかもしれない」
ジェームズが意外そうに首を傾ける。
「皆が闇側じゃないのかい?」
「グリフィンドール六大……いや、五大……みたいにハッキリしているほうが珍しいんじゃないかな」
リーマスがひょいと杖を振り、虹色の玉を作り出して教室中を旋回させる。フリットフィックが「グリフィンドール十点!」とキーキー声で叫んだ。
そのうち課題に飽きてきた。シリウスは欠伸をかみ殺しながら、作り出した玉を獅子の形に変化させ、同じく変化させた蛇を咬み裂かせる。いいぞ、とどこからか声があがった。
またもジェームズが杖を振ると、蛇は木っ端微塵になった。
「どこの家が闇側だろうが、ポッター家はリアイス家とともに」
それが古い盟約なのさ、と彼が呟いた時、終業の鐘が鳴った。
好き勝手に遊んでいられる素晴らしい授業との別れである。彼らは杖をベルトに挟み、階段教室を登って行く。
扉を開け放ち、廊下に出れば喧騒が溢れている。外の世界が死に溢れているのと同じように。
外がどうであれ、ホグワーツは安全だった――今のところは。
グリフィンドールの上級生五人が大怪我をしたのは、つい二、三日前だ。内輪もめらしいが、それにしても酷い怪我だった。
骨折や打撲、顔や手にも傷があり、争ったとされる空き教室は壁が陥没している有様だ。
雑踏の中、件の集団をみつけた。足の骨折はマダム・ポンフリーが治療したものの、他の傷はゆっくり治すらしく包帯やガーゼが貼られている状態だった。内輪もめなどなかったかのように談笑して行きすぎていく。
「乱闘したとは思えないよねえ」
「あそこまでできるもんじゃないよ」
クスリでもやってたんじゃないか、と誰かが言う。しかし、周囲の疑念はどうであれ、本人達が内輪もめだといっている以上それから事態が進展するわけではなかった。
――ずっと妙だ
シリウスの独特の嗅覚はホグワーツに漂う饐えたような臭いを感知していた。それでもその感覚は簡単に言葉にならず、静かに降り積もっていくだけだった。
◆
リーンは羊皮紙の束に眼を通した。ブルーブラックのインクは、淡々と事実を書き記している。
・本家への襲撃は恐らく一人。当主夫妻及び子ども達を殺害
・激しい抵抗の痕跡あり
・今回は人狼の投入はない模様
・被害者たちには喉首を噛み切られたような痕があり
・襲撃日時はおそらく八月末日
・分家も全滅
・本家を襲った者は相当な手練である
・闇の帝王が直接出向いた可能性あり
・敵の戦力は未だに未知数である
文字の一つ一つから血の臭いが立ち昇ってきそうだ。リアイスは滅ぼされたマッキノン一族の復讐に燃えていると続いている。
お祖父様が止めてくださればいいのだが。当主不在のリアイス一族の手綱を握っているのは実質長老であるアシュタルテである。筆頭分家から第三分家までは彼の直系孫たちがいるので抑えるのはたやすい。しかし、先代当主を殺され、盟友たるマッキノンを潰されては、一族の堪忍袋の緒も切れるというものだ。
インセンディオの呪文で手早く羊皮紙を消滅させると、リーンは鞄を手に取った。次は魔法薬学の時間だ。スラグホーンは彼女のことを気に入っているらしく、少々遅刻したところで咎められないだろうが自寮やグリフィンドール寮の生徒たちがここぞとばかりにあてこするのにはうんざりしていた。
「遅い」
合流したセブルスはいつもどおりの仏頂面だ。気質によるものだろうから仕方ないが、もうすこし愛想よくしてくれてもいいのに、と思ってしまう。
「今日の課題はなんだったかしら」
「縮み薬」
比較的簡単な薬だ。グリフィンドールとの合同授業である点を除けば幸運であるといえる。教室に滑り込み、席に座る。三年目ともなれば定位置は決まってくる。リーンとセブルスは大抵通路側の席に陣取ることにしていた。思い切りスリザリンの領域に踏み込むことも、グリフィンドールの領域に踏み込むこともできない、中途半端な位置だ。
いつもの通りペアを作ろうとしたが、グリフィンドール側が欠員が出たとかで、上手く組みをつくれないようだった。
「リーン。せっかくだからリリーとプルウェットと組みなさい。君はいつも固定のメンバーとばかり組んでいけない」
ほがらかにスラグホーンに言われ、ぎょっとして手を止めた。この教師の周りの雰囲気を読もうとしない能力は致命的だと、リーンは常々思っていた。いつもセブルスと組んで何が悪い。友人の輪を広げてやろうというありがたい配慮ということなのだろうか?
――不運だわ
グリフィンドールに対する苦手意識は膨らむばかりなのだ。
「いいね、リーン?」
「はい先生」
大人しく返事をするしかなかった。襲撃者を撃退する腕前も、普段の生活では役に立たないことが証明されてしまった。
自分の大鍋と薬の材料の入った袋を持って、すごすごとグリフィンドール側へ渡った。ふんわりとした赤毛はすぐ分かる。
「一緒になってよかったわ」
リリーが微笑む。彼女とアリス・プルウェットが身体をずらして席を開け、リーンはそこに滑り込んだ。皆が二人組、もしくは三人組になったのを見届けて、スラグホーンがチョークで黒板を叩いた。
「今日は『縮み薬』をやってみよう」
さっと杖を一振りすると、黒板に材料から調合法まで書き記された。この『膨れ薬』ならば野菜を肥え太らせるために肥料として少しだけ使われるが、縮み薬はあまり使われることはない。魔法薬学の基礎的な課程を学ぶのに良い材料とはなっているが。
スラグホーンが縮み薬に関しての注意事項を述べている隙に「リリー、リリー」と誰かが後ろから呼びかけてきた。なあに? とばかりに彼女が振り向く。
「こっちに来なさいよ」
「どうして? そっちは人数足りてるでしょ」
だって、と声が小さくなった。リーンに聞こえないように最大限に配慮したのだろうが、続く言葉は筒抜けだった。
「リアイスと仲良くしていたら危ないわよ」
萎び無花果の皮を剥こうとしていた手が止まる。ため息が漏れそうになったが懸命にこらえた。アリス・プルウェットが材料にてこずっているのに気がついて、拒絶されないだろうかと思いつつも、そっと手伝った。
「ありがとう」
彼女は一瞬眼を見開いたあと、はにかむように笑った。
「私は調合したことがあるから、色々手伝えると思うわ……その、迷惑じゃなければだけど」
彼女はプルウェット家の人間だ。マッキノン襲撃事件に神経を尖らせてもいるだろうし、リリーの友人のようにリーンを遠ざけようとしても無理はなかった。だが、アリス・プルウェットは首を振った。
「とっても助かるわ。私、魔法薬は苦手で――」
「私とリーンは入学の時から友達なのよ。どこの家だからとかそんなこと気にしてたら埒が明かないわ」
リリーの刺々しい声が被さってきた。ここまでぴりぴりしているのも珍しい。務めて声を遮断しようと、手を動かす。雛菊の根をきちんと切らなければいけないし、ヒルの汁やネズミの脾臓も用意しなくてはならない。
「リリー、あなたのためを思って」
「誰が友達かは、私が決めるわ」
作業が止まっているリリーの代わりに雛菊の根を切っていると、小声で言い争っていたリリーがまな板に切っ先をドンと突きたてた。
「とにかく、黙って作業を進めなきゃいけないんじゃないの? 私の心配をするより」
後ろの席から息を呑むような気配がした。視線がちくちくと刺さってくる。
――もっと婉曲な物言いをすればいいのに
そうしてくれたほうがリーンの精神的負担は二割ほど減っただろう。リリーが後ろの席に突きたてた小刀を回収し、荒い手つきで材料を用意しようとする。
「リリー、私は構わないのよ」
「絶対イヤ」
「私と一緒にいれば損ってことは、貴女だって分かってるでしょう」
「そういう問題じゃないの!」
じろりと睨まれた緑の眼が燃えるような輝きを宿している。こういう時の彼女は何を言っても聞かないともう学んでいた。
あっぱれなほどグリフィンドール的だわ、と呆れながら材料を鍋に放り込んだ。
「プルウェットさん、ネズミの脾臓は一つだけよ」
びくり、とアリス・プルウェットが動きを止める。危うく脾臓を二つ入れるところだったのだ。
「あ、ありがとう。それと、私のことはアリスって呼んで」
瞬いたとき、前方の鍋が火を吹き、鍋の中身が盛大に飛び散った。あの席は見るまでもなく悪戯仕掛け人のエリアのはずだ――。
「素晴らしき変色薬さ!」
高らかに言う声に、頭痛すら感じた。避ける間もなく、飛沫が掛かる。痛みはない。みるみるうちに髪の色が変わっていく――。
「ジェームズ!!」
「やあリーン、僕の変色薬はお気に召したかい? いいじゃないか、綺麗なピンクブロンド!?」
杖で飛ばしたネズミの脾臓があやまたずジェームズの顔面を強打する。彼はもんどりうって椅子から転がり落ち、スリザリンのテーブルからどっと笑い声があがった。
「ほら、リーン落ち着いて」
スラグホーンがさっと間に入ってリーンから杖をもぎ取った。腹の立つことに悪戯仕掛け人は無事だ。ジェームズはぶつぶつ言いながら眼鏡を拭いていた。
「グリフィンドールから二十点減点、ジェームズとリーンは罰則!」
そんな、と声を上げる。気の毒そうなアリスとリリーの視線が痛かった。
「まさか貴方とこんな形で一緒になるなんてね」
ナイフでネズミの腹を切り裂く。腸を抉り出してバケツに落としていく。手には血がこびりついていて、とっくの昔に麻痺してしまった。
「悪かったよ、リーン」
「何度その言葉を聞いたかしら」
ぴしっと言えば、ジェームズはうなった。ホグワーツ入学前から今までの所業を思い出しているらしい。理不尽だわ、とリーンは呟いた。
――巻き込まれた挙句に罰則を受けるなんて
スラグホーンの研究室なのが幸いで、暖炉に火が入って暖かいし、楽といえば楽ではある。肝心の先生は隣の部屋で論文だか書類だかを執筆中で、こちらにやってくる気配はない。
隣でせっせと腸を取り出しているジェームズを見る。彼とは寮が違うのでこういう機会でもないとじっくり話せないかもしれない。ナイフを床に置いて、代わりに杖を握る。
「マフリアート」
耳塞ぎ呪文を唱え、会話の内容が間違っても聞かれないようにした。
「どうしたんだい」
「手は動かしたままでいいわよ……リーマスの件で貴方達が何を企んでいるのか知りたいだけだし」
ジェームズの手元が狂った。
――分かりやすい
「……リーン、君」
「とっくの昔に知っているわよ『そのこと』については」
腸がぼとぼとと落ちる音がしばらく続いた。ジェームズのぎこちない手つきがもとの滑らかなものに戻った時、彼が再び口を開いた。
「どうして知ったんだい」
「元々父様が脱狼薬について研究していた、というのもあるけど……勘ね。よくマダム・ポンフリーのお世話になっているようだったし」
私の話なんてどうでもいいわ、と続けた。
「『最上級魔法第五篇』『最上級変身術』『形態模写――その働き』『闇の魔法生物・森林編』……授業よりも高度な魔法に関する本を借りて、何をするつもりよ」
昨年、ブラックが借りていた書名を挙げていく。ジェームズの顔が面白いくらいに引きつるのが、愉快だった。ひたと眼を合わせれば、観念したように両手をあげた。
「オーケイ、まあ、リーンだし……」
今度はリーンが手元を狂わせる番だった。指を少しだけ切ってしまったが、気にならない。
「動物もどきですって!?」
◆
「お前は何リアイスにバラしてんだよぉぉぉ!!」
空き教室――通称『必要の部屋』と呼ばれる部屋に、ブラックの怒号が響いた。ついでにジェームズの断末魔も聞こえる。ピーターはあわあわ言うばかりでどうしようもないし、リーンも唖然として立ち尽くすばかりだった。
「シリウス、落ち着いて! リーンだったらいいじゃないかぁ!!」
「よくねえよ! 何考えてんだよこのクソメガネ」
ここが防音完備で助かった。杖を取り出して黙らせ呪文を唱えると、やっと部屋は静かになった。
「貴方達は次が空き時間だからいいでしょうけど、私は授業があるのよ。早く話を進めましょう」
すかさず杖を取ろうとしたバカ二人に容赦なく『武装解除呪文』を発射して、丸腰にした。ジェームズの哀れっぽい目を無視して、棚から次々に本を取り出す。変身術に関するものをどんどん積み上げていった。
「術式はこれね……」
紙束があったので眼を通していく。二年生のときからこの計画を始めたと言っていたので随分と式は組めていたが、まだまだ先は長そうだった。二人が暴れるので、術を解いてやる。
「何をするんだ!」
「お望みならまた黙らせるわよ、ブラック!! 協力して欲しいんじゃないの?」
「もちろんさ! なあ、シリウス」
ジェームズがブラックの腹に拳を叩き込みながら言った。リーンは見なかったことにした。できれば耳障りな呻き声も遮断したいところだ。
「まだまだ文献が足りないわ……変身できたとしても、このままじゃ元に戻れなくなって終わりね」
だよねえ、とジェームズが相槌を打つ。
「図書館とかの資料じゃここまでで限界なんだよ。後は禁書の棚に忍び込むしかねえ」
「リアイスにも蔵書はあるけど……面倒ね」
学期中であり、実家にそう簡単に帰れるとは思えない。用事をでっちあげるのも手間だ。かといって、このまま動物もどきの術が完成するとは思えない。おそらく、長時間変身すれば人間としての自我がなくなり、獣になってしまう可能性が高い。屋敷しもべに聞かせてもらった昔話のように。
禁書の棚に入る口実さえもらえればいいのだ――と考え、リーンは指を鳴らした。
「スラグホーン先生を丸め込めばいいわ」
「ずいぶん自信があるね」
「あの先生は贔屓が凄いわ。私はお気に入りのようだし……こっちでも独自に研究しているものがあるから、それを引き合いに出せば突破可能」
ブラックが鼻をならす。リーンは小さく笑った。
「感謝することね。あなたやジェームズだったら絶対無理なんだから」
危なくって禁書の棚になんか近づかせてもらえないに決まっているわ、と締めくくった。
◆
結果として、まんまとスラグホーンを陥とした。父が残した『脱狼薬』の研究のために、是非とも禁書の棚を云々と言えば二つ返事で署名してくれたのである。
ひらひらとサインを泳がせれば、ジェームズが口を半開きにしたまま紙切れを眼で追った。
「リーン……」
「なに?」
「いや……ミスラ小父さんを口実に使うのってどうなの」
「嘘は言っていないわよ。省いただけよ」
――魔法薬についての禁書を見たかったのは本当だもの
じゃあ、本を借りてくるわね、とリーンは図書館に向かった。司書は疑わしそうにこちらを睨みつけてきたが、スラグホーンの署名の前に引き下がった。
悠々と禁書の棚にまで入り込み、人狼や魔法薬、変身術関係の本を引き抜いていく。せっかくなので古代魔法の載っている本が並んでいる区画にまで足を運んで、背表紙を眺めていく。
『魂と魄』『血を使った魔術』『依り代――影』『鏡魔術』
手を滑らせていたが、ふと止まった。
「……抜き取られている?」
ホグワーツの本には校章が押捺され、番号が振られている。それまでは連番できちんとそろっていたのが、ごっそりと抜けているのだ。おそらく、三、四冊ほど。
――誰かが借りているんだわ
禁書の棚のなかでも特に奥まった一角だから、よほど熱心な生徒でないと来ないだろうが。時計を見る。だいぶ時間が経ってしまった。そろそろ戻らないと、司書がうるさいだろう。
本を抱えなおして、元来た路を戻っていった。
わたしは一者であり両者だ
わたしは父であり母胎だ
わたしは剣であり鞘だ……
密やかな声が陰々と響く。熟練した指揮者のように軽やかに、時に情熱的に杖を振った。その動きに同調するように奏でられる悲鳴に、彼女の片頬に笑みが浮かんだ。
わたしは犠牲であり刺殺者だ
わたしは見られるものであり見るものだ
わたしは弓であり矢だ
わたしは祭壇であり祈願者だ……
「どうか……妻と子どもだけは……」
誰かが這いずって、ようよう伸ばした手――血にまみれたそれで――彼女の足首を掴んだ。粘るような感触と鉄錆の臭い。
「お前達に慈悲をかけるとでもお思い?」
言い捨て、虫の息の男に向かって杖を振った。またも悲鳴が奏でられ、足首から指が外れる。無造作に血溜まりを踏みつけ、いくつも穴が空いた黒御影の床を進んでいった。魔力が溢れて止まらない。心拍が速くなっているのがよく分かった。
――殺せ、殺せ
内から響いてくる聲に、彼女は頷いた。ええ、分かっていますとも。脈々と受け継いできた悲嘆と絶望、憤怒と怨みに背くはずがないでしょう、と。
館に詰めている護衛は処理した。彼女には造作もないことだった。当主は殺した。さて次は――。
「隠れん坊というわけね?」
奇妙に昂ぶっている彼女はくすくす笑った。残るは当主の妻とその子ども達。脱出できないように姿くらまし防止術をはじめとしたあらゆる障壁を築いている。逃げ場は、ない。この館の住人たちは、袋のネズミも同然だ。
わたしは火であり薪だ……
呪文で扉を吹き飛ばす。がらんどうの部屋に踏み込む。
わたしは富者であり貧者だ……
悲鳴をあげる肖像画たちを残らず焼き、そこに何も仕掛けがないのを確かめた。
わたしは徴であり意味だ……
大きく円を描くようにして、杖を振った。見えぬ刃が両断したかのように、花瓶や像がすっぱりと切り裂かれ、胴体と分かれた天辺が虚しく床に落ちて、砕けた。魔力が体中を駆け巡っている。熱に浮かされたかのように、ふらふらと踏み出した。
わたしは影であり実在だ……
どこからか物音が聞こえてきて、彼女は足を止めた。歯をちらりと覗かせる。血濡れた足で、弾むようなステップを踏む。声は――下から。 杖を床に突き刺すようにする。
「破砕せよ」
強力な古代魔法をたわむれのように発動させ、幾重にも魔法で守られた隠し扉を塵に変えてしまう。泣き声が聞こえる。子ども特有の、甲高い声。凍りついたように彼女を見上げる年若い魔女。
熱っぽく潤んでいた視界が、その時だけ澄んだ。
――他家から嫁した魔女は……獲物にする価値もないのでは
だが、殺せ、と聲が魂を揺さぶった。殺せ、殺せと騒ぎ立てる。
わずかな隙を、魔女は見逃さなかった。禁じられているはずの魔法を死に物狂いで唱える。
「息絶えよ!」
殆ど反射で呪文を放ち、死の呪文の軌道を逸らす。片手に焼け付くような痛みが走ったが、気にせず次の呪文を放った。弾けるような音がして、魔女が絶叫した。両手首がだらりと垂れ、杖が転がる。
「杖を持てねば虫けらも同じ」
「子どもだけは……」
己の敗北を悟ったのか、魔女が、床下からすがるように手首の折れた腕を伸ばす。相当な痛みのはずだが、それでも粘る魔女に、彼女はわずかに感心した。母性を備えた女を生まれて初めて見たような気がする。そっと腕を伸ばし、魔女の五指に手を添えた。
「苦しませないことを誓いましょう。そして死にゆく貴女たちに我が名を告げましょう……」
絶望に彩られた顔、その耳に口を寄せる。囁かれた名に、魔女がかすれた声で何かを呟いた。
「ええ。そうよ……分かってくれてとても嬉しいわ……何故殺されるのか、何故恨まれるのか。恨むなら、ご先祖を恨むことね。愚かなグリフィンドールに味方したご先祖を」
甘やかに告げ、彼女はそっと言葉を滑らせた。
「息絶えよ」
――破壊されつくされた部屋に、生者の足音が聞こえた。
派手にやったなと言う男に、彼女は淡々と返した。
「それがお好みでしょう、卿?」
「違いない」
くつくつと笑う男の双眸は深い紅色。病的にまで白い肌とは対照的な、燃えるような色合いだった。死者の館がいたく気に入ったのか、彼は笑い続ける。
「さすがは怨みの血を継ぐ娘よ」
――彼女は眼を開けた
寮のベッドの上だ。ルームメイトたちはまだ眠っている。あの夏から季節は過ぎ、今は冬も近い。スリザリン寮は殊に冷えた。だが、彼女はあの異様な昂ぶりを思い出していた。過去の夢の中、奇妙に熱っぽかったあの時を。覚えのある感覚だった。幾度も昂ぶり、幾度も殺してきたのだ、きっと。だが、彼女の代で全てが終わるだろう。前回は泥仕合だったが、今回は違う。リアイスの当主の命を奪い、それに与する家門を滅ぼした。
――脈々と血を守ってきた
最も魔力が濃く流れる血を。
彼女は片手を広げた。硬い感触。何かを突き刺し、貫く――。幻影を幾度も視てきた。視るたびに痛苦に苛まれる。焼けるような憎しみ、怒り。振り下ろされる刃と、裂かれる顔。爛々と光る蒼い眼。敵の色を。
――今度こそ
彼女は、囁いた。
わたしは終局であり開始だ
*文中の詩はゲオルゲ詩集(岩波文庫)より引用
血には血を、と誰かが言った。許すまじ、と別の誰かがこたえる。
「翁! 盟友マッキノンを滅ぼされ、黙っていられましょうか」
上座の一席は空いている。その座に最も近い場所に座った魔法使いは、声を震わせた男をひたりと見据えた。薄すぎて時折灰色に見える両眼がちかりと光った。
「無論、おめおめと黙っておるつもりはない。そも、ランパントが弑された時点でそのつもりはなかった。絶対に」
彼は皺の刻まれた手で、閉じた扇を掴み取り、発言した魔法使いを示した。剣の切っ先を向けられたかのような緊迫感が堂に満ちる。
「赦すと思うてか? かつてグリンデルバルドと戦い、彼奴の配下を殺してきた私が。燃えるがごとき怒りをもつのはお前達だけではない」
"獅子公"と渾名される魔法使いは片頬を動かした。
「浮かれ騒ぐ愚か者どもに知らしめよ。リアイスは――グリフィンドールは屈せぬと!」
◆
「……リアイスが動き出したようだな」
セブルスがぽんと新聞を放る。『各地で戦闘勃発』とでかでかと印刷されていた。大々的に動いているのは間違いないようだ。
――祖父が動き始めた
やっと、と言うべきか、早かったと言うべきか。今のリアイス一族の中で最高権力者は"獅子公"アシュタルテ・リアイス。元パッサント・リアイス当主であり、先々代ランパント――つまりリーンの祖母である、ディアドラ・リアイスの夫――ダンブルドアとともに史上最悪の魔法使いグリンデルバルトを倒した、祖父の影響力はとても強い。中途半端な位置にいるリーンと違い、祖父ならば一族は膝を折り、従うはずだった。
無論、紙面にはリアイスなどとは一言も書いていない。それでも、魔法界は悟るだろう。リアイスの反攻を。代々闇の魔法使いたちと干戈を交えていたのは誰なのか、魔法界は知っている。
新聞を拾い上げながら、セブルスをちらりと見た。
――彼はどうするのだろう?
スリザリンの内部は混沌としている。外部からはどの生徒も闇側だと思われているが、そうでもない。スリザリン生ですら、誰が闇の帝王の軍門に下っているのか、読めない状態だ……一部の家系を除いては。
そして、セブルスの母方の家系であるプリンス家は闇側ではない――そして、セブルスも。
――今のところは
マグルの父親のことを語る時、彼は驚くほど冷ややかな目をする。それを見るたびにリーンは心の奥底を掻き毟られる気がする。傷口から不安が萌す。とっさに紙面から顔を背け、教科書を確認するふりをする。
――グリフィンドールにいれば、誰が敵か味方か分からない情況に放り込まれなくても済んだのに
この混沌は手に余る。しかし、この渦のなかを、リーンを泳ぎきらなくてはならないのだ。
陰鬱な気分を振り払うために、声を張った。
「次の休暇、ホグズミードに一緒に行かない? セブルス」
かすかに眉間に皺を寄せるその顔は、見慣れたものだ。
「僕が――」
「人ごみが嫌いなのを知っていて訊くか、でしょ」
先手を打てば、セブルスがちっと舌打ちした。思わず笑ってしまう。
「薬の材料が切れてるのよ。付き合って頂戴、セブルス……場合によっては、暢気にホグズミードに行けなくなるかもしれないんだから」
軽く付け加えた一言に、セブルスの動きが止まる。ちらっと紙面に眼をやり、漆瞳が暗さを増した。ふう、と長々と息を吐いて、不承不承頷いた。
「そうだな……行ってやってもいい」
「さすがセブルス」
リーンはにこりと笑う。他愛いのないやり取りのなかに少しだけ混じった緊張を無視して。
お互い悟っている。スリザリンの中で上手く立ち回らなければ、いずれ――。
――どちらかが、もしくはどちらもが破滅することを
雪が降っているのをみて、セブルスが舌打ちした。
「……積もってるんだから今更じゃない」
リーンがぽそりと呟けば、彼はしかめっ面をして雪を蹴り飛ばした。手袋、マフラーまでつけて防寒は万全のようだ。
「濡れるだろうが」
「魔法でどうとでもなるでしょ……インバービアス」
ひょいと杖を振り『防水呪文』をかけて、踏みしめられて凍った地面をさっさと進んでいった。片手でスリザリンのネクタイをむしりとって、ローブのポケットに入れてしまう。セブルスは口を開きかけたが、思いなおしたように閉じてしまった。
「分かってるわよ、セブ……でも、学校の外なんだからいいでしょ」
「スラグホーンに見つかるなよ」
リーンは片目を瞑った。
「隠れるのは慣れてるわ」
◆
途中、凍った地面に辟易して『滑り止めの呪文』を掛け、二人でホグズミードに到着した。魔法族だけの村なので、吸血鬼なども多くいる。ホグズミードの歴史は古く、ホグワーツ城建設時に遡るほどだ。――ヘルガ・ハッフルパフの人脈や資金で集まってきた多くの職工が寝泊りするための、仮の集落が始まりだったのだという。そこに商人や他の魔法使いたちが流入し、現在のホグズミードへと発展していったのだ。
大通りは混み合っていて、人と人の間を縫うように進んでいった。今日ばかりはリーンにわざわざちょっかいをかけようというバカはいないだろう。皆、自分のことで忙しい。
通りを右に折れ、小路に入る。『ホッグズ・ヘッド』を通り過ぎた先に、目指す薬問屋はあった。
軒先の垂れ下がった氷柱をちらっと見ながら、凍った取っ手をぐいと押した。ガラン、と鈍いベルの音が店内に響き独特の臭いが鼻腔に届く。
セブルスはメモを片手に商品棚に歩み寄り、リーンはリーンで天井から吊り下げられた薬草を見上げた。ダイアゴン横丁ほどではないが、それなりに品はそろっている。
「トリカブトとニガヨモギと……サフラン、ハナハッカ……」
店主に言って取ってもらう。視線を泳がせた先にあるものを見て、それも指差した。
「ああ、毒ツルヘビの皮の千切りと、二角獣の角の粉末もください」
「随分と難しい魔法薬でも煎じるのかね?」
リーンは少し笑った。
「魔法薬学だけは得意なので」
ごつごつした手が二重にした紙袋に材料を詰めていく。一ガリオン七シックル払い、セブルスと合流すれば彼は眼を丸くしていた。
「そんなに買い込んで、何に使うんだ?」
「あなたこそ」
「スラグホーンの個人的課題をこなすためだ……許されるなら、生ける屍の水薬をポッターどもにぶち込んでやりたいとたまには思うがな」
「否定はしないわ。でも、そうね……せいぜい痺れ薬とか、幻覚薬くらいにしておきなさい」
「お前、本当にポッターの幼馴染か?」
「幼馴染でも線引きはあるのよ」
返して、店を出た。
雪は止む様子はなく、足跡を消していく。いくら防水呪文をかけていても寒さは変わらない。マフラーを口元まで引っ張りあげ、リーンとセブルスは『三本の箒』を目指した。二人とも騒がしいのは好きではないが怪しげな『ホッグズヘッド』と天秤にかければ、どうしても前者を選んでしまう。
――ジェームズならホッグズヘッドを選びそうだけど
好奇心旺盛な幼馴染を思い浮かべる。怪しげな場所が大好きなのだ。こっそりノクターン横丁に行っていたとしてもちっとも驚かない。
扉を開ければ、軽やかなベルの音が鳴った。すらりとして綺麗なマダム・ロスメルタに挨拶して、隅の席へ行こうとする。途次で見かけた顔ぶれに足が止まりそうになった。
「どうした」
「い、いいえ……」
平静を保てたか自信がない。楽しげに談笑しているグリフィンドール生のそばを通り過ぎる。こっそり見て、ほっと息をつく。
――全く覚えてないみたい
ユスティヌの忘却呪文は完璧だったようだ。
――セブはあの件は知らないんだから
言い聞かせ、席に座った。バタービールを注文し、二人で小さく乾杯する。一口飲めば、身体が芯から温まった。だが、壁に貼られたポスターに昂揚していた気分は吹き飛んでしまう。
「フェンリール……」
闇の帝王の配下の一人――父の、母の死の直前に戦ったとされている男。 無理矢理バタービールに視線を落そうとしたが、ふと顔を上げた。酒場が奇妙に静かな気がしたからだった。
セブルスと顔を見合わせる。
「ああ、やっと見つけたわ」
混んでいる通路を皆が飛びのいて路を開けていく。淡い色の髪に、灰色の眸を持ったスリザリン生がやってくる。
「何か御用ですか、Ms.ブラック?」
そう固くならないで、とナルシッサ・ブラックが微笑む。たおやかな手から、漆黒のカードが差し出された。痛いほど注目されているのを感じながら、そっと受け取る。
――これは
驚愕に眼を瞠ったリーンに、ナルシッサが告げる。
「私とルシウス・マルフォイの婚約パーティの招待状よ。是非いらしてくださいな」
否といわれることなど考えていない響きだった。
黒いフクロウが落としたカードに、親友が眉根を寄せるのを見てジェームズはふむと頷いた。
――実家からまたぞろ何か言われたな
黒フクロウはブラック家が好んで使う種だ。シリウスは本家の長男だというのにグリフィンドールに組み分けされて、一族からよく思われていなかった。根本的に反りが合わないのだから仕方ないことだ。
「今度は何を言われたのかな? 兄弟」
「見れば分かる」
差し出されたカードを受け取り「ああ」と声を漏らす。捺されているのはブラック家の“双狼”と、マルフォイ家の“咆哮するドラゴン”。
「従姉の婚約パーティに出なきゃいけない、かわいそうなシリウス君、と」
舌打ちとともに、膝を蹴られる。思い切り当たってジェームズは痛みにもだえる羽目になった。打撃を受けた場所を駆ける彼をよそに、シリウスは忌々しいとばかりにカードを睨んでいる。
「誰が好きで出るかよ」
「君の大好きなアンドロメダのパーティだったらともかく?」
「当たり前だ」
「姉より先に妹が婚約なんて、珍しいね」
グリフィンドールの席を見渡していたリーマスが口を挟んだ。相変わらず角砂糖を入れすぎの、恐ろしいほど甘いコーヒーを飲んでいる。
「アンドロメダは優等生しながら、上手くかわしていくからな……ナルシッサは聞き分けがいいから、とりあえずマルフォイと婚約させて地盤の強化をはかりたいんだろ」
シリウスが諦めたようにカードをポケットに仕舞う。
――拘束が厳しいと大変だ
つくづくシリウスが気の毒だった。ポッター家は大らかな家系で、家同士のややこしい関係もあまりない。
「ああ、兄さんにも届きましたか」
スリザリンカラーのネクタイと、シリウスによく似た顔立ち。ブラック本家次男のレギュラスがグリフィンドールの席までやってきていた。
「お前だけ出れば分家の顔も立てられるんじゃねえの?」
「自分が長男だということを忘れていませんか」
やれやれ、とレギュラスが肩をすくめた。そうして、グリフィンドールの席に目を配り「やはりね」と呟いた。
「……なんだい?」
「一つ教えておきますよ、兄さんのお友達……ブラック家は、リーン・リアイス嬢も招待しました」
ジェームズは飲みかけの紅茶を盛大に吹いた。
◆
――やられた
その言葉以外で、この情況をどう言い表せというのか。
矢のように突き刺さる視線に、心なしか動作も鈍くなる。口に運んだベーコンの味もしない。
テーブルの中ほどに座っているナルシッサは、ユスティヌと何か話しているようだ。彼女が楽しげなのに比べ、ユスティヌの淡白な表情が対照的だった。
――生粋のスリザリンなら、苦労はしなかっただろうに
むしろ、ブラック家からの招待を名誉だとすら考え、高揚していただろう。だが、リーンはリアイスであり、スリザリン系純血名門でも筆頭に近い実力を持つブラック家からの招きなど、侮辱にも等しい。
視線が飛んでくるのはグリフィンドールからで、リーンは生きた心地がしなかった。
――これを見越して招待したのだろう
狡猾なことだわ、と内心で呟いて席を立つ。リーンの緊張に気づいているのか、セブルスが少し心配げな様子を見せた。しかし、それに応える余裕もない。敵意を置き去りに、大広間を抜ける。
灼けるような眼差しを向けていたのは、第六分家クーラントのネメシスや他のグリフィンドール系の者だろう。ブラック家から招待されたことで、リーンの立場はますます悪くなった。
じめじめとした地下牢を進み(三年目になってもこの陰鬱さには慣れない)肖像画の前に立つ。
「栄誉、不滅」
“賢人”が深く頷き、寮への道が開かれた。通路を抜ければスリザリン寮だ。食事時なので人は少ない。誰とも言葉を交わすことなく、自室まで辿り着き、長々と息を吐いた。
――祖父に手紙を書かなくては
パーティ用のドレスの準備もある。羊皮紙を取り出し、書き始めたものの手が止まる。じっとりと汗ばんだ掌を開いたり閉じたりした。
――見捨てられたら
一族はリーンを疑うだろう。スリザリンに組み分けされた異端が自らの一族を裏切り、敵方についたのではないかと。だからこそ宴に招かれたのではないかと。グリフィンドール派の昏い眼が忘れられない。
いいや、とリーンは思い直した。
――裏切りが確定すれば
イルシオンの手で秘密裏に処理されるだけなのだと。
孫娘からの手紙を読み終え、脇に避ける。ちょうどその時、入室の許しを乞う声がした。
「入れ」
開かれた扉から、影が滑り込んでくる。手を組み合わせ、軽く膝を折った老魔法使いは、クロム・イエローの双眸をアシュタルテに向ける。第四分家のイルシオンの父親だった。分家内でも高い地位にいるわけでもない男は、アシュタルテに歩み寄った。
「リーン嬢が、招かれたとか」
――耳の早いことだ
思考を読み取ったのか、彼が続ける。
「クーラントが騒いでいたのでね。さしずめ娘から伝わったのでしょう」
「……ネメシスか」
左様で、と彼は頷く。
「あすこは鳴くばかりでうるさくてかないませんな。子猫でももう少し静かにしていますでしょうに」
普段から物静かで、年を食っているだけの無害な老いぼれと思われている彼が、今日はよくしゃべった。むしろこちらの方が本当の姿なのだろう。
「しゃべりに来ただけか?」
いやいや、と彼は片手を振る。
「リーン嬢を送り込む気ですかな」
「人聞きの悪い。我が孫はお前やお前の息子と違って、間諜ではないぞ」
魔法使いはにたりと笑った。
「私はもう引退した身ですがね……まあ、貴方たちがたまには汚れ仕事をやろうというのは賛成ですよ。己の手がどれほどの汚濁を免れているか、知るべきです」
アシュタルテは眦に険しいものを滲ませた。孫からの手紙を目の端に捉える。
「あの子を送り込めというわけだな?」
男は笑うばかりだ。
「招かれたのなら、応えぬわけにはいきませんでしょう……使える駒は使えばよろしい」
平然と言ってのける。本家の娘に対する同情や敬意は欠片も無い。その代わり敵意もなく、クロム・イエローの両眼には冷えた光が灯っている。
「スリザリンに放り込まれた嬢が、どう立ち回るのか見物ですな」
それだけを言うと、彼はゆっくりと部屋を出て行った。