【完結】黄昏の輪舞   作:扇架

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八話

 大理石の床をカラコロと、錫のカップが転がった。手袋を嵌めた手がそれを拾い上げる。ついと向けられた顔は眼の周りを黒い仮面で隠されている。

「リアイス家のリーン嬢ですね」

 声は無機的で、起伏が少ない。片腕を曲げ、膝を折る仕草は洗練されてはいたが、儀礼以上のものは感じなかった。

「どうぞ、お選びになってください」

 机を示され、近寄る。色や形も様々な仮面が、ずらりと並んでいた。あまりぐずぐず迷うのも嫌なので、最初に目に付いたものを指先で引っ掛けた。従者がつけているような、目の周りを覆うようなものだった。

「……皆、仮面を?」

 館にやってきて、初めて口にした言葉だった。従者は口元に笑みを浮かべることなく、事務的に言った。

「当家の主人の趣味でして」

 そう、とリーンは返し、仮面を顔に着けた。紐も何もなくとも、魔法の力ですっとなじんでしまう。

 従者がドラゴンが刻まれた扉を押し開ける。光の帯が差し込み、徐々に太くなっていった。

 入った瞬間、一斉に注目されたのが分かった。仮面という仮面がシャンデリアの光の下でこちらを向く。一種異様な光景に萎縮しかけた。

――背筋を伸ばして

 尻尾を巻けばそこで終わりだ。嘗められる。

 軽く膝を折る。その仕草に自分たちと同じ『貴種』だと悟ったのか、視線が剥がれた。後は元の通りの歓談の声が埋めていく。

 甘い花の香り、料理の匂い。翻る裾の色彩。その只中から、誰かがこちらにやってくる。漆黒の衣装。よくよく見なければ分からないが、光を弾いて時折赤を滲ませる。挿された紋に、口元がひきつる。

――蠍

「久しぶりだね、リーン嬢」

「……ご機嫌よう、Mr.レストレンジ」

「ロドルファスで構わないよ」

 仮面をつけていても、彼が笑ったのが分かった。二年生の時のあれこれを思い出して、今すぐにでも逃げたくなる。彼のコンパートメントに招待された時の、腹の中からせり上がるような恐怖は忘れようも無い。容赦ない言葉も。

「いらしていたんですね……ロドルファス」

 ああ、と彼は頷く。給仕からさっとグラスを受け取り、リーンに差し出した。

――こんな場で毒は入れないだろう

 事前に薬を飲んではいるので、大抵の毒ならば中和できる。足にはホルスターを巻きつけ、杖も仕込んである。大丈夫なはずだ。

「妻がブラック家出身なのでね……ベラトリックス」

 呼びかけに応え、人の間を縫うようにして女がやってきた。艶やかな紅色のドレス、結い上げられた黒髪。眸はおそらく灰色。

「何かしら?」

 夫に応える声に、ぬくもりはない。年下の夫などどうでもよいといわんばかりだった。

「こちらはリーン嬢だ。リーン嬢、こちらは妻のベラトリックスだ」

 リーン、とベラトリックスは口中で呟いた。仮面のせいで表情が分かりにくい反面、声の響きが気に掛かった。ねっとりとした声だった。

 軽く膝を折ったリーンを、彼女はじっと見つめ、口元が孤を描いた。

「どうぞよろしく、リーン……これからも仲良くしていただけると嬉しいわ」

「ええ。光栄ですMrs――」

「ベラトリックスで結構」

 途中で遮られ、困惑する。

――初対面にしては、友好的すぎる

 そもそも『あちら側』と仲良くするわけにはいかないのだ。リーンの立場が悪くなる。視線を彷徨わせ、彼女のドレスに挿された紋に気がついた。

――“双狼”一つきり?

 レストレンジ家の“蠍”とブラック家の“双狼”を組み合わせた紋も、レストレンジ家の“蠍”そのものも挿されてはいない。孤高の狼だけが、ベラトリックスのドレスで吼えている。

 見てはいけないものを見たような気がして、グラスの中身を飲むことに専念した。緊張のせいか味はしない。

 ちょうどそのとき、灯りが落ち、どこからともなくタキシードを着た集団が現れた。楽器が弾むような音色を響かせる。

 ダンスパーティの始まりだった。

――壁の花でいてやろう

 踊るなんて真っ平だった。ダンスは一通り知ってはいるものの、得意ではない。影にかくれてしまおうと、その場を離れた。

 中央でステップを踏んでいく人々を見るとも無しに見る。きらきらと輝く首飾りや耳飾、ドレス。さりげなく配された家紋。

――スリザリン系ばかりだわ

 グリーングラス家の“隼”メルフレア家の“狐”ノット家の“三頭犬”――。

――幻獣

 青いドレスが翻っている。ユスティヌの紋が静かに輝いていた。彼女のすんなりとした、白い手を取っているのは“双狼”の紋を身に着けた、シリウス・ブラックだった。

 

 ステップ、ターン、ステップ、ターン。昔から嫌というほど仕込まれたお陰で、足は正確にリズムを刻み、腕は相手をしっかりと支えている。

「気が乗らない様子ね?」

 耳元で囁かれ、足が止まりそうになる。仮面の影のせいで、紅藤色の眸はむしろ紫に近い色になっていた。

「分かっているくせに」

――目立ってしかたない

 ブラック家の嫡男と表舞台に出てきたユスティヌのダンスだ。注目しないほうがどうにかしている。レギュラスに押し付けてやればよかった、と歯噛みする。こんな面倒な役回りはごめんだ。このパーティに出席している父母は、ユスティヌの相手を務めたことを狂喜しているに違いない。

「もっと目立っている子がいるわよ」

 ユスティヌが、彼の心を読み取ったかのように言って、つと広間の窓側を示した。落ち着いた藤色のドレス。いくつか飾りをつけた黒髪。見たところ、家紋はつけていない。すんなりと白い手を、白金の髪の男が取る。家紋は“ドラゴン”。

「ご当主御自ら……抜け目ない男」

 ステップ、ターン。ユスティヌの髪に着けられた深い緑色の飾りが鈍く光る。

「ルシウス・マルフォイが――あれは、」

 バカなの、といわんばかりに鼻を鳴らされた。

「リーンよ。蛇の中に引きずり出された、かわいそうな子猫ちゃん」

 ステップがずれた。ユスティヌはそれを読んでいたかのように冷静にステップを踏んでいった。

「利用価値がありそうなモノは、確保せずにはいられないのよ。あの男は」

 戸惑い気味に“子猫”がステップを踏むのが、妙に目に焼きついた。

 ステップ、ターン。ステップ、ターン。何度も入れ替わり、くるくると踊る。相手が相手でさえなければ、リーンは楽しんでいたかもしれない。

 魔法灯に『彼』の指輪が煌く。おそらく当主のみが嵌めることができるのだろう、ドラゴンを模したものだ。強い魔力を感じる。

「楽しんで頂けていないようだね」

 腰に手を添えられ、ターン。

「なぜそんなことを仰るのです?」

 返しながら、口元に笑みをのせる。指輪のドラゴンの紅い目が咎めるようにこちらを見ているような気がした。

――厄介な相手

 スリザリン系純血名門・マルフォイ家の当主。ブラック家には負けるものの家格は高い。そして、リアイス家とは仲が良いとはいえなかった。

 よりにもよって当主その人とダンスを踊ることになるとは思っていなかった。注目の的もいいとこだ。

 彼女達がステップを踏む度に、ほうとため息が聞こえた。表情を崩さぬよう気をつけながら内心で舌打ちする。

 貴族たちは素直にダンスの技量に感心しているようだが――

――踊らされている

 ルシウス・マルフォイはリーンを巧みに導き、ステップを踏ませ、ターンをさせている。玩具を好き勝手に動かすように。

「眼を伏せてばかりじゃないかな?」

「仮面のせいですわ」

 軽く返す。マルフォイの笑いが癇に障った。『人形遊び』が大層好きらしい。趣味の悪いことだ。こんな早い調子の曲は、リーンにはとても無理なはずだった。それを軽々と踊らせている。

「ナルシッサと仲良くしてくれたまえ。何せ、彼女の家格につりあうような家柄の者は少なくなってきている……スリザリン寮も質が落ちた」

 彼は嘆くというよりも、軽蔑したように言った。さすがはマルフォイ家。矜持だけは無駄に高いらしい。

「ユスティヌの魔女がいるでしょうに」

 まさか、と大げさに言う。いちいち芝居がかった男だった。

「あの御方は、我々にとって畏れ多すぎるというもの」

 それまでとは違うものが声に混じっているような気がして訊き返そうとしたとき、曲が緩やかになり、やがて終わった。

「では、リアイス嬢。よき時を過ごされん事を」

「ええMr.マルフォイ。お相手してくださって光栄でしたわ」

 挨拶を交わすや否やさっとその場を離脱する。大広間にいる貴族たちを観察する。レストレンジ家、ブラック家の面々がいるのは当然のことで、メルフレア、グリーングラス、ノットは先ほど見たとおりだ。加えてロジエール、ゴイル、クラッブ、ヤックスリー、イージス――スリザリン系は手当たりしだい集めましたという感じだ。

――スリザリン系ばかりでもないか

 そっと訂正を入れる。一通りの家紋を頭に入れておいて正解だ。シックネス、ルックウッドも参加しているようだった。出身寮の比率はレイブンクローが主で、たまにグリフィンドール。マルフォイおよびブラック主催の宴なのだから、出席していてもおかしくはない。特にブラック家などほぼ全ての貴族と血が繋がっている。リーンの幼馴染であるジェームズだって、母はブラック家出身なのだ。

 集まった彼らの視線はユスティヌに向いている。正確には、シリウス・ブラックからレギュラス・ブラックに相手を交代し演じられている共演に。中には、華麗なダンスよりも、あちこち飛び回り言葉を交わすのに忙しい者もいるようだった。

――イージスと、ノット

 マルフォイ家やブラック家と距離を縮めたいのだろう。果たしてそれが成功するか疑問だが、情報は情報だ。混沌としたスリザリン派の面々が一同に介している場面など、そうは見られない。

「お相手いただけませんか?」

 手が差し出されている。衣装の縫い取りからすれば、ロジエール家の誰か。マルフォイと踊っているのを見て、興味がわいたらしい。物好きな、と思いながら手を取ろうとする。だが、目の前の相手が口元を引きつらせた。すっと退く。

「――どうやら先客がいらしたようで」

 え、と声を漏らした時には、彼は消えていた。代わりに誰かが前に立った。

「踊っていただけるかな、ご令嬢」

 のっぺりと青白い手がのばされている先には、リーンしかいなかった。さっと衣装に眼を凝らす。家紋はない。

 男を見上げる。仮面に隠されて顔立ちは分からない。燃えるような双眸がリーンを射抜く。

――火星の輝き

 禍々しい兆しの色だった。

 

 取った手は、大広間の熱気とは反対にひんやりと冷たかった。マルフォイのような値踏みするような目つきではない。リードもよどみなく、自信に溢れている――最初から自分のものだといわんばかりに。

 男は名乗らなかった。だからリーンも名乗らない。とっくに知られていてもおかしくはなかったが。

「……黒髪か」

「え?」

 いいや、と男は返す。

「白金ではないのだな」

「――親は父方の祖母に似たのだろうと」

 わずかに男の手に力が篭った。何がおかしいのか喉を震わせる。

「そうか」

 片頬をゆがませ、彼はそっとリーンの黒髪を手に取った。

――あれは

 背の高い男と、リアイス家の令嬢が踊っているのを眼に留める。

「足がお留守よ」

「すみませんウラニア嬢」

「いつもみたいに先輩で構わないのに」

 スリザリン寮の上級生である彼女はくすくすと笑う。これではどちらがリードされているのか分かったものではない。レギュラスは気を取り直すと、腰に添えた手に力をこめた。無様なところは見せたくなかった。

 拍子の遅い曲である分、周りを観察する余裕がある。幾人かがレギュラス越しに『誰か』を見ている。

 リーンと踊っている男だ。

――見覚えが無い

 このパーティでは家紋をつけるもつけないも自由だ。大抵は自分の家紋を誇っているので衣装に挿しているが、例外もあるにはある。それでも、大体どの程度の家の出身なのかはあたりをつけることは可能だった。

 洗練された作法、巧みなダンスと――強い魔力を感じさせる双眸。

――高位の家柄だろうが

 少なくともブラック家の者ではない。では、マルフォイ家かとも思ったがあそこには黒髪の持ち主はいない。色彩は正反対だ。

 くるくると踊っているうちに、何組かとすれ違う。ちらりと見えたロジエール家の男の強張った口元に、目が吸い寄せられた。きょときょとと落ち着きなく視線は投げかけられている。何組かがそんな風だった。

「来年の選択科目は何にするか決めたのかしら?」

 ふと現実に引き戻される。昏い紅藤色の両眼を細め、彼女は笑っている。彼のことをお見通しだといわんばかりに。

「魔法生物飼育学とルーン文字……それと、古代語ですかね」

「意外と少ないのね」

「貴女ほど優秀ではないんですよ」

 思わず、苦笑してしまった。彼女は知識欲が旺盛なのか何か他の目的があるのか、随分多くの科目を取っていた。しかも軒並み一位をかっさらっている。グリフィンドールのネメシス・リアイスも善戦をしているようだが、今一歩及ばず二位に甘んじているぐらいだ。

「冗談を。学年首位でしょうに。今年も首位独占かしらね、私たちの学年は」

 誇らしげだった。やはり彼女もグリフィンドールを好いてはいないらしい。

――よく分からないな

 昨年ユスティヌがやってきた時は、これは荒れると思ったものだった。"紫薇戦争"のことは魔法族であれば誰でも知っている。彼女が先陣を切ってリアイスと敵対するであろうことは想像に難くない。

 実際、長らく表舞台に立っていなかったユスティヌの『帰還』に名門たちは快哉を叫んだとも聞く。膠着を突き崩す時がついにきたのだと。

――だが、内実はどうだろう

 リーン・リアイスを追い詰めるどころか、助けている。ネメシス・リアイスとも首位を争っているものの、それだけといえばそれだけだ。むしろ、他の家門同士の争いのほうが激しいぐらいだった。

 教師は生徒すべてに目が行き届くわけではない。隙を見て呪文をしかけるなり、毒を盛るなりして再起不能にしてしまうことだって、できないわけではない。例はそれほどないが、過去にもグリフィンドールとスリザリンの間で激しい争いがあり、退学者が続出したことだってあったのだ。

「だって潰してしまうのはもったいないじゃない?」

――閉心術が甘かったのか?

 ぎくりとしてユスティヌを見る。血のように紅い目が妖しく光っていて、レギュラスは頭の芯から揺さぶられた。冷や汗が滲む。慌てて視線を外せば、遮断されていた喧騒が戻ってきた。

「どうしたの、レギュラス」

 いえ、と返しながらかすかな震えを抑えようとする。格の違いを見せ付けられた。

――この女は

 スリザリンに君臨する女帝なのだ。

 ユスティヌは嫣然と笑っている。再度その眸が妖しく光ったと思った瞬間。

――館が揺れた

 ピキ、とかすかな音をリーンの耳は捉えた。足元が揺れ、轟音とともに飾り窓が吹き飛ぶ。鋭利な破片が殺到してくる。頭では知覚していても、身体がついていかない――。

 さっと手首を掴まれ抱き寄せられる。杖が振られる、ひゅっという風切音がした。

 『盾の呪文』が展開され、硝子が全て弾かれる。あちこちで悲鳴と、姿くらましをしているであろう破裂音が木霊していた。

 礼を言う暇もなく、引き離される。

「さて……」

 男は大広間を見回す。硝子を防ぎきれずに呻いている者、恐怖に震えている者を見て鼻を鳴らし、逆に杖を構えている魔法使い達をみてにやりとした。「まあまあ、だな」と呟きが聞こえる。

 ようやく、リーンは杖を抜いた。何がどうなっているのか不明だが、危険であることは変わりない。

 再度、館が揺れた。砕け散った窓から見える夜空に、赤い光が迸る。

――悪霊の火!

 駆けてくる。最初、それは四足の獣にしか見えなかった。だが、形がはっきりと分かるにつれ、リーンは眼を見開いた。その炎は術者によって姿を変える。ただの獣ではない――。

――グリフィン

「イヌンダーティオ!!」

 それぞれの杖先から迸った水が、姿を変えていく。大蛇に、蠍に、狼に、各々の生物に。

 突撃してきた炎のグリフィンに、リーンの創りだしたグリフィンが飛び掛る。だが、脆く形が崩れそうになる。

「しっかりなさい」

 声がした。同時に上方から何かが降ってくる。獅子の頭がグリフィンを食いちぎる。毒蛇の尾がさらなる襲撃者を叩きのめし、山羊の角が刺し貫いた。

――幻獣

 あちこちで悪霊の火とその対抗呪文が激突している中、いつの間にかやってきていた人物を見やる。熱風に黒髪とドレスを翻し、淡々と迎撃しているのは、誰あろうユスティヌだった。

 眼が暗い紅藤から、燃えるような深紅に輝いている。また一匹グリフィンが飛び込んできた。リーンに向かって。唇を噛む。

――私を狙うのか

 腹の中から怒りがこみ上げる。これほど強力な悪霊の火を操れる魔法使いなど限られる。しかも、形はグリフィン。

 再度、唱えた。

「イヌンダーティオ!!」

 グリフィンが飛翔し、炎をばらばらに蹴散らしてしまう。リーンの怒りが伝播したかのように獰猛に暴れまわり、敵陣を突破した。

 陽炎の中、ゆらめく影がある。数は十数人。魔力に肌がぴりぴりする。

「スリザリンも、裏切り者のリアイスも殺してしまえ!」

 一斉に悪霊の火や失神呪文、切断呪文を飛ばしてくる。スリザリンたちの怒号が波となって空気を震わせた。

 閃光と閃光がぶつかり合い、炎と水が叩きつけられる。

 混戦の中、影が突進してくる。

「息絶えよ!」

 緑の閃光が過たず飛んでくる。素早く半歩ずれ、すれすれのところで呪文をかわした。閃光は髪を焦がし闇夜に消えた。

「ペトリフィカストタルス!」

 誰かの呪文が襲撃者に当たり、硬直させる。シリウス・ブラックが援護してくれたのだと悟った。

 戦闘は続いている。ベラトリックスは素晴らしい身のこなしで二人の魔法使いを吹き飛ばしているし、アンドロメダはナルシッサとともに迎撃している。

 グリーングラス家の令嬢が片腕を押さえてうめいている。逃げ遅れたのだろう。しんと胸の奥が冷えていく。

 リーンは倒れ伏す魔法使いに近づくと、無理矢理立たせた。ぐっと喉首に杖を突きつける。

「……貴方達はどこの当主の命に従ったの」

 怒りと魔力を孕んだ声は、戦闘の最中よく響いた。襲撃者たち――リアイス一族の者たちが硬直する。

「これ以上戦闘を続けるのなら、この男を殺すわよ」

 杖に魔力をこめていく。

『非常に強力で、癖のある杖です』

 囁くような、オリバンダー翁の声が蘇った。

『闇の魔術すら易々と扱えるでしょう』

 声もなく、男が暴れる。襲撃者たち一人一人を強く睨めば、彼らは憑き物が落ちたのように、杖をからりからりと床に投げ出していった。力が抜けたのか、へたり込む。

「お、お赦しを……」

「どうか、慈悲を」

「アリアドネ様の御息女」

 冷えた目のまま、捕らえていた男を突き飛ばす。

 広間に散る出席者の中から、マルフォイとナルシッサを見つけ、告げた。

「魔法省の者をここに」

 彼らは真っ青な顔のまま、頷いた。

 リーンは杖をしまう。視線を感じ、そちらを見る。満面の笑みを浮かべたユスティヌが佇んでいた。そして、紅い目の男の姿は跡形もなく消えていた。

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