ガールズ&パンツァー 少年の女子高戦車生活   作:ダオダオ

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交渉

「はい…はい…わかりました 無理を言って申し訳ございません はい 失礼します」

 

夕陽が沈みかける頃、大洗女子学園の生徒会室にいる少年は、受話器を置いて深いため息をついた 少年の前には、無情にも通話終了を告げる画面が光っている

 

「はぁー、まあ当然か……」

 

窓にもたれかかり、ぼんやりと外を眺めていた

 

 

 

 

数十分前

 

「練習試合、やろっか?」

 

会長の言葉に少年は少し身構えていた出てきた案は普通の提案であった 少年はまた学園内でチーム分けをして練習試合をするのだと思った

 

「またですか?なら今度はチームを……」

 

「違うの そうじゃなくて……」

 

小山はにこやかに首を振る どうやら少年の予想は外れたらしい

 

「今回は他校との練習試合だ 全国大会の前に一度やっておきたいんだ」

 

河嶋が少年にそう告げた 今回は外部の学校と戦車道の練習試合を行うということだ 少年も生徒会の提案に賛成だった 戦車道は、個々の力も大切だが、集団での連携が何よりも重要であることを少年はよく知っている

 

「確かに、この競技は個々の力も大切だが、集団での連携のほうが重要ですからね」

 

少年は続けて尋ねる

 

「それで、当てはあるんですか?」

 

少年の問いに、会長はあっけらかんとした声で答えた

 

「いやー、ないよー」

 

「……は?」

 

会長の予想外の答えに、少年は驚愕し、絶句した

 

「仕方ないよ うちは今年再開したばっかりだから……」

 

小山がフォローを入れるが、少年は納得がいかない

 

「確かにそうかもしれませんが……というか、それで俺にどうしろと……」

 

少年は、経緯は一度置いておいて、なぜ自身が呼ばれたのかを尋ねた 河嶋が少年を見つめる 答えた

 

「貴様には明日までに他校との練習試合の交渉を任せる」

 

河嶋の言葉に、少年は即座に反論しようとする

 

「待て待て、さすがに……」

 

だが、会長がそれを遮った

 

「そういうわけでよろしくねー」

 

一方的に少年へ役目を押し付け、生徒会メンバーは次々と生徒会室を後にする 少年は呆然と立ち尽くし、やがて独り残された生徒会室で、ぽつりと呟いた

 

「……明日まで、か」

 

 

 

 

 

生徒会メンバーが出て行った後、少年はタイムリミットを呟き、窓際から生徒会の机に座り直した 手元には、ずっしりと重い他校の資料の束がある

 

「そもそも大会前の時期に急な申し込みを受けてくれるところがあるとは思えないが……」

 

少年は資料をめくる ページを繰るたびに、急な練習試合の申し出など受け付けてくれそうもない

 

「次は……聖グロリアーナ女学院。女子高か……」

 

資料によると、この学校はイギリスの文化を多く取り入れているお嬢様学校のようだ 規律を重んじ、格式を重んじる校風が写真からも伝わってくる 確率は低いが、少年はこの学校に電話をかけた 呼び出し音が鳴り響き、やがて応答があった

 

「はい、こちら聖グロリアーナ戦車道チーム、ダージリンですわ」

 

電話に出たのは、自身をダージリンと名乗る女性だった その声は、流れるような優雅さと、どこか含みのある響きを帯びている 少年は少し驚いたがすぐに用件を伝えた 少年の声は、電話越しでは女性の声に聞こえるよう高く変声している

 

「……こちらは大洗女子学園の者です お話ししたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

 

「へぇ、大洗女子学園、ねぇ……それでこちらにどのようなご用件で?」

 

ダージリンは含みのある言い方で用件を尋ねた 少年は内心で探りながら、言葉を選んで尋ねた

 

「はい、最近こちらの学園で戦車道を再開することになりまして、急ではございますが、練習試合の相手になってはいただけないかと思い連絡した次第です」

 

少年はなるべく丁寧な言葉遣いで用件を伝える 相手はお嬢様学校の生徒だ 失礼のないようにしなければならない

 

「大洗学園、戦車道を復活されたんですね、おめでとうございます」

 

ダージリンは祝辞を述べた その声に少年は、一切の悪意や嘲りはなく、純粋に祝っているように聞こえた

 

「ありがとうございます それで、試合の件は……」

少年は感謝を述べ、再度試合の件を尋ねた

 

「その前にいくつか尋ねたいことがございますが、よろしいかしら」

 

「はい、構いませんが」

 

少年は了承した 向こうにも都合というものがあるので当然のことである

 

「なぜ、女子学園に男性の方がいらっしゃいますの?」

 

「……」

 

ダージリンの指摘に少年は言葉を失った やはり見抜かれていたようだ 少年は声を高く変声することができ、少年の声は電話越しには女性の声に聞こえているはずだった しかし、彼女は一瞬でそれを見破った 動揺を悟られぬよう少年は努めて冷静を装う

 

「……妙なことをおっしゃいますね 女子学園だからといって用務員や教師も女性とは限らないでしょう」

 

少年は何とか誤魔化そうと足掻く だが、彼女はそのことに追求してきた

 

「ええ、そうですわね では質問を変えましょう なぜ女子学園に男子生徒がいらっしゃるの?」

 

どうやら彼女にはお見通しのようだった これ以上嘘をついても逆効果だと判断し、少年はいつもの話し方に戻した 

 

「ああ、俺はあんたが察した通りだよ さっきの質問に関しては、色々と複雑な事情があるってことで理解してもらいたい」

 

少年は観念したように言った 彼女は、それを聞いて、どこか楽しげに、そして哲学的な言葉を口にした

 

「分かりましたわ ところでこんな言葉を知ってる?“Life is like a cup of tea. It's all in how you make it.”」

 

彼女は少年のことを察したかと思うと、突然英語で哲学的なことを語り出した 直訳すると『人生は一杯のお茶のようなもの。すべては、どのように淹れるかにかかっている』という意味である

 

「ああ、確かイギリスの作家ジョージ・オーウェル……だったか 民主社会主義の」

 

少年は思い出したように答えた その言葉の出所を知っていることに、ダージリンは少し驚いたようだった

 

「まあ、よくご存知でしたわね」

 

彼女は感心したように聞いてくる

 

「一度彼の思想形態に興味を持ったことがある それだけだ」

 

少年はさっぱりと答えた

 

「ふふ、なかなか面白い方ですわね」

 

ダージリンは楽しそうに答えた 電話越しでも、彼女が微笑んでいるのがわかった

 

「それはよかった それでくどいようだが、試合の件は?」

 

少年は再三試合の件について尋ねる 

 

「構いませんことよ ただし、条件がございますわ」

 

ダージリンは宣言するように言った やはり条件があるようなので少年は身構える

 

「……ありがとうございます それで条件とは?」

 

少年は試合の件に礼を言い、彼女の条件を尋ねた

 

「あなたを我が聖グロリアーナ女学院に招待いたしますわ」

 

突然の招待に少年は硬直してしまった 少年にはなぜ自分が招待されるのか理解できなかった

 

「……分かりました 練習試合後に伺わせて……」

 

少年は気を取り直そうと尋ねたが、ダージリンは少年の言葉を遮った

 

「いいえ、明日ですわ」

 

予想外の答えに再び固まった どうやら少年は明日、聖グロリアーナ女学院へ行がなければ行かないようだ

 

「急すぎはしませんか?」

 

少年は思っていたことをそのまま口に出した するとダージリンは英語で再び哲学的なことを言い放った

 

「“There is a tide in the affairs of men, which, taken at the flood, leads on to fortune; omitted, all the voyage of their life is bound in shallows and in miseries.”」

 

日本語に訳すと『人間の運命には、潮時がある それをつかめば、順風に乗って富へと導かれるが、逃せば、人生の航海は浅瀬と不幸の中に閉じ込められる』という意味である

 

「シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』の第4幕第3場……だな」

 

少年はそう答えた 要するにチャンスは待ってはくれないと言いたかったのだろう 彼女の言葉の意味は理解できるが、それにしても急なものであった

 

「ふふっ、ますます面白い方ですわね」

 

ダージリンはくすくすと笑う 彼女にとって少年との会話は退屈しないものであったようだ

 

「では明日伺わせてもらう」

 

少年は腹を決め、そう答えた 少年には、この状況で断る選択肢はなかった

 

「ええ、それとあなた、お名前は?」

 

少年がそう約束すると、ダージリンは少年に名前を尋ねた

 

「……これは失礼 自己紹介が遅れたな ジョンだ ジョン・N・ウォーカー」

 

少年が非礼を詫び、自己紹介をした

 

「ジョン……ならジャックね」

 

「(……いきなり愛称か)ああ、ダージリンさん」

 

いきなりの愛称に少年は驚いたが、特に反論はしなかった

 

「では失礼する」

 

「ええ、ごきげんよう」

 

互いに挨拶をして電話を切った 可能性はかなり低かったが、練習試合を成立させることができたようだ 少年はすぐに生徒会長に報告し、生徒会室を後にした

 

 

 

夕陽が沈みきり暗い夜道を一人で歩いて帰り、宿舎に着くとすぐに少年は彼女に相談をしようとした 

 

「姉御…少し頼みたいことが……」

 

少年が地下へと続く階段を降りかけたその時、地下から彼女が歓喜しながら現れた その目には、どこか誇らしげな笑みを浮かべている

 

「ついに完成したわ」

 

「…昨日言っていたことか」

 

少年は思い出したように言った 

 

「ええ、いらっしゃい」

 

そう言って彼女は少年を地下に案内した 研究室に降りると、そこには驚くべき光景が広がっていた

 

「これは……装甲車か?」

 

地下の研究室に着くと、そこには砲塔が搭載された小型偵察車があった それは、詳しくはないが形状からするとおそらく大戦中に開発されたものだろう 簡素ながらも機能的な設計をしているように感じた

 

「モーリス系偵察車 いや、モーリス・ファイアフライと言った方が適切ね 第二次世界大戦中にイギリスで作られたものよ」

 

彼女は少年に簡単に説明した その言葉には、完成への自信と満足が滲み出ている

 

「モーリス・ファイアフライ……シャーマン・ファイアフライなら聞いたことがあるが」

 

ジョンは説明されても全くピンとこなかった ファイアフライと名の付く戦車は他にもあったような気がするが、モーリスと聞いても記憶にない

 

「まあ、少量しか生産されなかった試作段階の兵器だったからね。シャーマン・ファイアフライの砲弾は17ポンド、そしてモーリス・ファイアフライは6ポンドね」

 

プリンスは補足説明を加える 試作段階の兵器か それにしては、かなり完成度が高いように見えた

 

「……待ってくれ これは戦車なのか?」

 

ジョンは改めて尋ねた 偵察車と聞いたが、砲塔が搭載されている

 

「ええ、確認したところによると駆逐戦車の枠に入っているわ」

 

「なるほど……」

 

駆逐戦車、つまり対戦車戦闘に特化した車両ということだろう それになりより大戦中の戦車であれば戦車道で使うことができるということだ

 

「それにこの戦車は、一人乗りよ だからあなたでも使いこなせるわ」

 

彼女は自信満々に言う 

 

「……なあ姉御…俺は試合に出れないんだけど」

 

生徒会からは交渉や雑用を任されただけで、選手として参加する許可は出ていない

 

「……そういやそうだったわね。まあでも、使い道はいろいろあるでしょ」

 

彼女はすぐに思い出し多様に言って、すぐに気を取り直したように言った

 

「それもそうか ありがとう姉御 使わせてもらう」

 

少年の言葉に、彼女は得意げに微笑む

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、まさかこんなことまでできるとは」

 

少年は地下から上がってきて、改めて彼女のすごさに驚かされた 彼女の技術力は、少年の想像をはるかに超えている

 

「私にかかればこんなもんよ いい加減慣れなさい 身がもたないわよ」

 

少年の後に続くように、彼女も地下から上がってきた 彼女は当然のように答える その口調には、自負と少年への少しの呆れが混じっている

 

「それで相談が……」

 

少年が切り出そうとすると、彼女は彼の言葉を遮った

 

「はい、行くんでしょ?聖グロリアーナ……だったかしら」

 

どうやら彼女は全てお見通しだったようだ 彼女はクルーの服を渡してきた

 

「……前も思ったが、なぜ俺の今日の出来事を知っている?」

 

前にも一度あったことだが、少年は彼の行動をかなり的確に把握しているのだ まるで、少年の行動を全て監視しているかのようだった

 

「さぁね。……そうそう、一応言っておくことがあるわ」

 

彼女ははぐらかすように答え、何かを思い出したように言った 

 

「あなたのことについて調べようとしていたものがいたわ」

 

「……」

 

彼女がそう言うと、少年の緊張感が増した 少年の存在は、一般には知られてはならないはずだ

 

「……まさかバレたのか?」

 

少年は危惧していたことを尋ねた 最悪の事態が頭をよぎる

 

「まさか。あなたの情報は機密案件よ そんな簡単に破れるわけないわ」

 

彼女は少年の不安を一蹴した その言葉に、少年は少し安堵した

 

「まあでもなかなかいい線は言っていたわ 詰めは甘かったけど」

 

彼女は相手のハッカーを称賛していた 彼女が褒めるほどの実力者だったということは相当の手だれであることがわかる

 

「発信元は?」

 

彼女に尋ねた 誰が少年の情報を探ろうとしたのか

 

「……聖グロリアーナ女学院」

 

「……」

 

おそらくダージリンの仕業だろう 少年はその名前を聞いて、それまでの緊張がほぐれ、呆れてしまった

 

「……何か調べられる心当たりでもあったの?」

 

少年がその名を聞いて安堵していたので、彼女はにやりと笑いながら聞いてきた

 

「さぁな。明日直接聞くさ」

 

そう言い少年はヘリのある格納庫に行き、聖グロリアーナ女学院へ向かうのであった

 

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