ガールズ&パンツァー 少年の女子高戦車生活   作:ダオダオ

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聖グロリアーナ 訪問

少年は一晩かけてヘリで聖グロリアーナ女学院に向かっていた 朝日が出てしばらくすると聖グロリアーナの学園艦が見えてきた 大きさは大洗の学園艦の二倍ぐらいはあるように感じた  

 

ヘリポートには、青のスクールセーターに黒のネクタイ、そして濃い青色のスカートに黒タイツという特徴的な制服を纏った二人の生徒が、少年の着陸を待っていた 一人はブロンドの長く流れる髪に大きな黒いリボンをあしらい、もう一人はオレンジ色の髪を上品なギブソンタックにまとめている どちらも若々しいながらも、その立ち姿には確かな品格が漂っていた

 

「お待ちしておりました」

 

少年がヘリポートに着陸し、ヘリを降りると、ブロンドの生徒が、透き通るような声で優雅に告げた

 

「ようこそ聖グロリアーナ女学院へ」

 

続いてオレンジ色の髪の生徒が、深々としたお辞儀と共に歓迎の言葉を述べた 彼女たちの洗練された振る舞いに、少年は少なからず感銘を受けた

 

「お出迎え、感謝する」

 

少年もまた、自然と一礼を返した どう振る舞うべきか測りかねていた少年にとって、彼女たちの対応は少年に安堵をもたらした

 

「私はアッサム 以後お見知りおきを」

 

ブロンドの生徒が、柔らかな微笑みを浮かべて自己紹介をした 

 

「私はオレンジペコです よろしくお願いします」

 

小柄ながらも品格を感じさせるオレンジ色の髪の生徒が、丁寧な口調で続けた アッサム、オレンジペコ その名前に、少年はかすかな既視感を覚えた

 

「ジョンだ 急な申し込みを了承してくれて感謝する」

 

少年は自己紹介を済ませ、改めて挨拶を交わした 少年は昨晩の出来事について感謝した

 

「いえ、こちらこそ本日は急なご足労、感謝いたします」

 

アッサムは、にこやかに答えた その完璧な応対に、少年は感銘を受けていた

 

「それでは、ご案内いたします」

 

二人は少年を促し、学園艦の内部へと歩き出した 少年は彼女たちの後を静かに追った 学園艦の内部は、外観に劣らず壮麗だっ重厚な英国風の建築様式が随所に用いられ、建物も庭園も、寸分の狂いもなくシンメトリーに配置されている 少年は感動を胸にしまい、周囲の光景を目に焼き付けた

 

しばらく歩くと、ひときわ大きな建物が見えてきた 外観から察するに学校なのだろう 多くの生徒たちが賑やかに行き交う中、彼女らの視線が少年に集中しているのが感じられた

 

(やはり物珍しいようだな)

 

そのほとんどの生徒が少年の方を向いて、不思議そうな視線を投げかけていた 学園艦に男性がいること自体が、彼女たちにとっては稀な出来事なのだろう 少年の顔には出さないものの、内心ではあまりいい気には慣れなかった しかし自身が周囲の好奇の目を集めることに慣れているため、動揺を露わにすることはなかった

 

「気になったんだが、ここの生徒は全員、名前の由来は紅茶なのか?」

 

少年はふと疑問に思い、二人に質問した 昨日電話したダージリン、アッサムとオレンジペコという名前に、何かしらの意味があるのではないかという考えが浮かんだのだ

 

「いえ、皆様全員にあるわけではありません」 

 

アッサムが答えた どうやら全員ではないらしい

 

「幹部のものだけに授けられるものです」

 

オレンジペコが付け加えた 幹部と聞いて、ジョンは納得したどうやらこの学校では、特別な役職にある者に「紅茶」の称号が与えられるようだ 

 

やがて校内に入り、ある部屋の一室に辿り着いた 扉は重厚な木製で、その前には精緻な彫刻が施されている 

 

「着きましたわ」

 

アッサムが扉の前で立ち止まり、静かに告げた 彼女の声音には、これから対面する人物への敬意が込められているようだった

 

「ダージリン様、お連れしました」

オレンジペコの声に促され、少年は一室に入った。室内は明るく、上品な家具で統一されていた。壁には古い絵画が飾られ、窓からは柔らかな光が差し込んでいる

 

「……失礼します」

 

少年は、室内を見渡し、その中心に立つ人物に視線を向けた

 

「ようこそ、我が伝統ある聖グロリアーナ女学院へ」

 

室内には、ブロンドのギブソンタックに上品な制服をまとった女性がいた その声は、昨日電話で話し合ったダージリンという人物の声と寸分違わなかった 

 

「初めまして、だな ダージリンさん」

 

少年が挨拶をした。彼の口調は常に淡々としており、感情を読み取ることは難しい

 

「ええ、初めまして、ジャック どうぞお座りになって」

 

ダージリンは優雅に手を差し伸べ、少年を席に促した その仕草は、まさに生粋の貴婦人を思わせた 少年は案内された席に腰を下ろした。座り心地の良い椅子に深く身を沈めた

 

「こちらをどうぞ」

 

オレンジペコが、湯気の立つカップを差し出した カップからは、芳醇な紅茶の香りが漂ってくる 少年は無意識にその香りを深く吸い込んだ

 

「…かたじけない」

 

少年はカップを受け取り、一口飲んだ 熱すぎず、ぬるすぎず、絶妙な温度で淹れられた紅茶は、彼の喉を心地よく潤した その瞬間、少年は驚きを隠せなかった

 

「ダージリン……ファーストフラッシュ……」

 

少年が呟くと、オレンジペコとアッサムは目を見開いて驚いた 少年の言葉は、彼女たちにとって予想外だったのだろう

 

「……当たり、です……」

 

オレンジペコが震える声で答えた その声には、驚きと尊敬が入り混じっていた

 

「まあ」

 

アッサムも驚きを隠せなく、表情に現れていた

 

「ふふっ」

 

ダージリンは嬉しそうに笑った 彼女の笑い声からはこうなることがわかっている様な気がした

 

「しかもこれほどの鮮度のものを……少し勿体無い気もするが……」

 

少年は出された紅茶を飲むのを躊躇った この紅茶は数万円はするであろう高級品だ 

 

「構いませんことよ それにしてもあなたは紅茶にも詳しいのね」

 

ダージリンは少年を見つめて言った。その瞳から察するに彼女は少年にますます興味を持った様であった

 

「無類の紅茶好き……いや、イギリス好きの知人がいてな おそらくそれの影響だ」

 

少年はそう答えた 彼の言葉の端々からは、その知人への深い尊敬の念が感じられた

 

「その方はイギリス人なのですか?」

 

オレンジペコが興味津々に尋ねてきた 

 

「ああ、イギリス出身のイギリス人だ あんたらは?」

 

少年が尋ねると、ダージリンが甲高く「もちろん私たちもえいこ……」と言いかけたところで、アッサムとオレンジペコが声を揃えて遮った

 

「「日本人です」」

 

二人の生徒の素早い反応に、少年はわずかに戸惑った 

 

「それで、失礼ですが、あなたの出身はどちらに……」

 

アッサムが尋ねてきた 彼女の表情は真剣そのものであって少年にとってはあまりいいものではなかった

 

「さぁな」

 

少年はそっけなく答えた 彼自身、自分の出身を知らないため、答えようがなかったのだ 少年は紅茶を啜った 少年の内面には、自分のルーツを知らないことへの複雑な感情が渦巻いていた 

 

「それで、俺をここに呼んだわけは」

 

少年は話題を逸らすように、彼女らに尋ねた この学園に呼ばれた目的こそが、少年にとって最も重要なことだった

 

ダージリンは紅茶を飲み、一呼吸置いてから、少年に問いかけた その表情は、先ほどまでの和やかなものから一変し、鋭い顔になっていた

 

「あなた、何者なんですの?」

 

 

 

 

 

昨晩、聖グロリアーナ女学院のダージリンは、大洗女子学園の少年、少年関する詳細をアッサムに尋ねていた。彼女の表情は、いつものように冷静沈着だったが、その瞳の奥には、未知への探求心が揺らめいていた

 

「アッサム、何か掴めたかしら?」

 

ダージリンの声には、わずかながら期待が込められていた

 

「はい……ですが」

 

アッサムが答えにくそうにしていると、オレンジペコが心配そうに尋ねた 彼女は、アッサムの苦しげな表情を見て、何かしらの異常事態を察したようだった

 

「どうかされたんですか?」

 

「何も分からないことが分かりましたわ」

 

アッサムはそう答えた その言葉は、ダージリンにとって予想外のものだった

 

「えっ」

 

オレンジペコは思わず声を上げた 彼女にとっても、「何も分からない」という答えは、予想外のことだったのだろう

 

「どういうことかしら」

 

さすがにその答えに、ダージリンも表面上は冷静だったが、その声には驚きが隠せなかった 

 

「記録に全てプロテクトが施されてますの 解除を試みましたが、全て遮断されてしまいました 少なくとも、私たちGI6ではこれ以上のことはできそうもありません」

 

アッサムは悔しそうに告げた GI6は、聖グロリアーナ女学院が独自に持つ情報機関であり、その能力は極めて高そのGI6をもってしても、少年の情報にたどり着くことができないというのは、異例中の異例だった

 

「どういう方なんでしょう。通信先は大洗の学園艦からだったんですか?」

 

オレンジペコが不思議そうに尋ねた 彼女の頭の中には、様々な疑問が渦巻いているようだった

 

「ええ、発信元は大洗の学園艦からでしたわ どうします、ダージリン?」

 

アッサムはオレンジペコに返し、ダージリンに尋ねた 彼女の判断を仰ぐその声には、僅かな不安が滲んでいた

 

「こんな格言を知ってる? 知は力なり 無知は無力なり」

 

ダージリンは静かに答えた その言葉には、彼女の決意が込められていた

 

「フランシス・ベーコンですね」

 

オレンジペコが即座に答える 

 

「分かりましたわ。準備にかかります」

 

アッサムは、ダージリンの言葉の真意を理解したように答えた 彼女は、ダージリンがどのような決断を下したのかを正確に読み取っていた

 

「頼んだわよ」

 

ダージリンは、謎の少年を学園艦に招くことを決断し、彼女の好奇心と、未知なるものへの探求心がそうさせたのだった

 

 

 

 

「何者、ねぇ」

 

少年はダージリンに何者なのかを尋ねられて、考え込んでいた あまりにも直接的な質問に、少年は戸惑いを隠せなかった 少年は、自分の出自について話すことに常に抵抗を感じていた それは、彼の根深いコンプレックスであり、あまり触れられたくない傷だった 少年は落ち着くために紅茶を飲み、一呼吸入れた

 

「調べても分からなかったのか?」

 

少年は皮肉げに質問した 少年の言葉には、どこか挑戦的な響きがあった

 

「いいえ、何も分からない、ということは分かったわ」

 

ダージリンは皮肉に返してきた どうやら彼女の方が一枚上手のようだ 少年は 話せる範囲で話すことにした 隠し通すより、ある程度の情報を開示する方が賢明だろうと判断した

 

「出身不明 人種は推定で日本人 年齢は身体検査の推定で15~16 本名不明…… 以上が俺が話せる情報だ 察してくれると助かる」

 

ジョンは淡々と答えた 少年の言葉には、一切の感情が込められていない しかし、その言葉の裏には、彼自身の苦悩が隠されていることをダージリンは感じ取った

 

「ふふっ やはり何も分からないわね」

 

ダージリンは残念そうに答えた しかし、その表情には、どこか楽しげな色も見て取れた 彼女は、少年の謎めいた存在に、ますます興味を抱いているようだった

 

「まあ、お互い本名が不明なのは同じだがな」

 

少年はそう返した 少年は、彼女が『ダージリン』という紅茶の称号で呼ばれていることを利用し、皮肉を込めて返したのだ

 

「ふふっ そうね」

 

彼女は一本取られたと言わんばかりの反応をしてくすくすと笑いながら答えた 彼女の反応は少年にとって予想通りであった

 

「……話は済んだか?」

 

少年はそう切り出した 少年は、これ以上の詮索は無用だという意味を込めた

 

「ええ この話はまたいつか 次は……」

 

ダージリンが何か話を続けようとした時、ドタドタドタ、と凄い勢いで廊下を走ってくる音が聞こえた それは段々と近づいてきて、やがてこの部屋の前で止まった その騒々しさに少年は眉をひそめた この厳かで格式高い学園に、このような無作法な生徒がいるとは想像していなかった

 

「ごっ機嫌様でございますわ!」

 

走ってきたであろう少女は、ドアの前に着くと勢いよく扉を開け、挨拶をしてきた その勢いに、少年は呆気を取られてしまった 赤い髪をしていて、気品や優雅は置いておいて、元気があることだけは分かった その少女の登場は、この部屋の厳粛な雰囲気を一瞬にして吹き飛ばした

 

「ローズヒップ! 廊下は走ってはいけないといつも言ってるでしょ!」

 

アッサムが頭を抱えながら呟いた 彼女の口調には、諦めと、どこか慣れのようなものが感じられた 発言から察するに、いつものことらしい 少年は、この学園にも、様々な個性を持つ生徒がいるのだと思った

 

「ローズヒップさん、今日はどうされたんですか?」

 

オレンジペコが慣れている様にローズヒップに尋ねた 

 

「はい! 男の方がこちらにいらしていると聞いたので……あー、いましたわー!」

 

ローズヒップは少年の方を見て、そう叫んだその言葉に、少年は呆れを通り越して、ある種の感銘すら覚えた 彼女の純粋な好奇心は、この学園の堅苦しい雰囲気を和らげる効果があるのかもしれない

 

「初めまして、ローズヒップさん ジョンだ お初にお目にかかる」

 

少年はローズヒップに挨拶をした 彼の口調は、普段と変わらず淡々としている

 

「ジョン……変わった名前ですわね……それに言葉遣いも……」

 

ローズヒップはジョンの挨拶を受けてそう言った 彼女の言葉は、まるで子供が思ったことをそのまま口に出したかのようだった

 

「……」

 

少年は予想外の回答に面食らってしまった 少年は名前や言葉遣いを指摘されることはなかったので、どのように反応すべきか分からなかった

 

「ローズヒップ! なんてことを……」

 

アッサムがさらに頭を抱えていた 彼女の苦悩は、少年のそれよりもはるかに深刻なように見えた

 

「……それに、私たちをあまり人のことを言える名前では……」

 

オレンジペコは冷静に対処していた 彼女の言葉は、ローズヒップや他の生徒に対する穏やかな皮肉だった

 

「ふふっ」

 

ダージリンはその光景をくすくすと笑っていた 彼女の笑い声は、この騒がしい状況に、どこか上品なアクセントを加えていた 

 

少年は何となく、この生徒たちの関係図が見えた気がした 少年の想像では、ダージリンが絶対的な存在であり、アッサムとオレンジペコがそれを支え、ローズヒップが場をかき乱す存在であると結論を出した

 

「……あんたが呼んだのか、ダージリンさん」

 

少年はダージリンに尋ねた ローズヒップの突然の訪問は、ダージリンの意図によるものだと感じ取った

 

「いいえ、でも好都合ですわ。ローズヒップ」

 

ダージリンは少年にそう返し、ローズヒップを呼んだ 彼女の口元には、何か企んでいるかのような笑みが浮かんでいた

 

「あっ、ダージリン様! 何でございましょう!」

 

ローズヒップは呼ばれると、元気よく挨拶をした 彼女の返事の速さと元気の良さは、周りの生徒とは一線を画していた

 

「あなたには彼がどのように映るかしら?」

 

ダージリンはローズヒップに尋ね武部 その質問の意図は、少年には全く理解できなかった

 

「うーん、よく分かりませんわ」

 

ローズヒップは少年の方を見て数秒考え込んで、きっぱりそう言った 彼女の純粋な反応とダージリンの先程の質問の意味がわからなく、少年はバツが悪そうにする他なかった

 

「そうよね。実は彼は世界名数の執事ですの」

 

「……は?」

 

ダージリンの突然の発言に、少年は驚きを隠せなかった 少年の脳裏に、様々な疑問符が飛び交った。どうやら少年の扱いは、執事になっていたようだ 少年はますます自分がなぜこの学校に来たのか全く分からなくなっていた

 

少年はアッサムとオレンジペコの方を見るが、二人とも「またか」みたいな反応をしていた その反応から、ダージリンが突飛な発言をすることは日常茶飯事なのだろうと理解した しかし、少年の目の前でいきなり「執事」と設定されるのは、少年にとって予想外すぎる展開だった それに少年の格好は執事服ではなく少し変わった学生服でありとても執事には見えなかった

 

「へー、そーでございますの でも、なぜ執事の方が?」

 

ローズヒップは興味がなさそうにいい ダージリンに尋ねた

 

「あなたには、聖グロリアーナの持つ気品が足りていないの」

 

ダージリンはローズヒップにそう答えた その言葉は、ローズヒップにとって衝撃的だったのだろう

 

「マジでございますの!」

 

ローズヒップはそれを聞いて驚きを隠せなかった どうやら自覚してはいなかったようだ 彼女は、自分の行動が周囲にどのように映っているのか、全くわかっていなかったのだろうか

 

「そうね。『本気』と書いて『マジ』と読むぐらい本当のことね」

 

ダージリンから淑女とは程遠い言葉遣いを聞き、少年は呆然とした ダージリンはなぜか楽しそうだった 

 

「ですから、あなたには淑女というものを、この執事方から学んでもらいます」

 

「……(もはや何も言うまい)」

 

少年は反論する気力すら無くなってしまった

 

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