ガールズ&パンツァー 少年の女子高戦車生活   作:ダオダオ

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聖グロリアーナ戦4

 

「ダージリン様、ローズヒップさんが撃破されてしまいました」

 

オレンジペコが無線機を耳に当てたまま、ダージリンに報告した

 

「……やはり、ローズヒップ一人には荷が重かったかしら」

 

ダージリンは微かに動きを止め、ソーサーに置いたカップの紅茶をそっと見つめたが、すぐにその瞳にいつもの冷静な光を戻し、静かに呟いた。

 

「これで五対五ですね。しかし、火力、装甲はこちらが有利です」

 

アッサムはスコープを覗きながらそのように分析した。

 

「アッサム データだけで判断するのはよろしくないわ。それが正しいのなら、ローズヒップはやられていないわ」

 

ダージリンは冷静にアッサムを制した。彼女には、戦力比の数字以上に、少年という未知の要素への警戒感が張り付いていた。

 

「どうします、ダージリン様。ジョンさんが本体に合流すると、厄介なことになりますが」

 

オレンジペコは、その警戒の対象を口に出し、ダージリンに指示を仰いだ。

 

「そうね。ジャックが来る前に本体を潰しておきたいわ。『各車前進しつつ、前の敵本体に向けて砲撃開始』」

 

ダージリンの指示は、一拍置いた後、鋭く響いた。

 

「ダージリン様……まだ興奮してらっしゃるんですか」

 

「全く。これでは他の生徒に示しがつきませんわ」

 

オレンジペコとアッサムは、ダージリンにかろうじて聞こえないほどの小さな声で、思わず本音を漏らし、それぞれの持ち場である装填と砲撃の再開に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は、本体に向かう前に履帯が外れて動けなくなったEチーム、38(t)の元へ急行した。戦車を降り、金属のハッチを勢いよく開け、中を覗き込む。

 

「無事か」

 

「いや〜、ダメっぽいね。どうしようか〜、ジョンちゃん」

 

会長は、危機感の欠片もない調子で返した。どうやら、人員は無事らしい。

 

「おい貴様!なぜ逃げた!あのままここで応戦していれば、我々は勝てていたんだぞ!」

 

河嶋が、砲塔から身を乗り出し、怒りの形相で少年を指さした。撤退を煽ったことへの不満が、顔に現れていた。

 

「そうか。あのまま応戦していれば全滅していたと思うが」

 

少年は、この場の感情的な空気を無視するように、冷徹に状況を分析し、言い放った。

 

「それに貴様、私の無線を無視しただろう!」

 

「さぁな。無線機が一時的に故障していたから、あんたが無線で『おい待て、私たちはどうなる』なんて言ったことなんて、知る由もなかったよ」

 

少年が皮肉たっぷりにそう返すと、河嶋は「きっ、貴様!」と声を震わせ、激しく激昂した。

 

「まあまあ、桃ちゃん」

 

小山(小山柚子)が、慌てた手つきで河嶋を宥め始める。

 

「いや〜、一言一句間違いなく聞こえてたようだね〜」

 

会長は相変わらず楽しそうに、少年の態度を評した。試合の最中だというのに、いつもの生徒会の空気が展開されてしまった。

 

「……まぁ、履帯が外れただけだから、修理をすれば動けるはずだ。そういうわけで、早く修理をして欲しいんだが……」

 

少年は気持ちを切り替えるように声を上げ、会長に指示を出した。

 

「りょーかーい。かーしま、こやま」

 

「はっ」

 

「わかりました」

 

会長の命令で、河嶋と小山は不満を滲ませながらも下車し、履帯の修理に取り掛かった。

 

(……あんたはやらんのか……)

 

「まっ、修理が終わり次第合流するから、ジョンちゃんは、先に行っててね〜」

 

少年が心中で独りごちた瞬間、会長が先を見越したように指示を出した

 

「了解。それでは市街地で」

 

少年は自身がここにいる意味はないと判断して、戦車に乗り込み、モーリスのエンジンを始動させた。

 

「こちらFチーム。クルセイダーの撃破に成功。今からそちらに向かう。各車、可能であれば報告を」

 

少年は、状況を整理するために無線機で皆に応答した

 

『ありがとう』

 

『ナイス根性』

 

『さすがだな、チェ』

 

無線から、安堵と激励の返答が返ってきた。

 

「どうも。西住さん、そちらの状況は」

 

『現在市街地に移動しつつ交戦しています。あと少しで市街地に入ります。市街地に入り次第「もっとコソコソ作戦」を開始します』

 

西住からの報告を受け、少年は作戦名に一瞬眉をひそめたが、心に留めた。

 

「(……普通にゲリラ戦でいいと思うが……まあいい)了解。こちらも市街地に到着次第作戦を決行する」

 

少年は、市街地へと加速していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から市街地に入ります、地形を最大限に活かしてください!」

 

西住の号令と共に、大洗の車両は馴染み深い市街地の迷路へと一斉に滑り込んだ。

 

『Bei Gott!(我が神よ!)』

 

『大洗は庭です!任せてください!』

 

BチームとCチームは、戦意に満ちた叫びを上げ、それぞれ大洗の路地へと分散した。

 

「消えた……?」

 

ダージリンは、追撃して市街地の入り口に着いたチャーチルの砲塔から、愕然としたように目を凝らした。大洗の戦車は消えていた。

 

「どうやら向こうは遊撃戦を展開するようですね。遭遇戦であれば装甲の優劣は少なくなりますし……それに地の利は向こうにあります」

 

オレンジペコは、焦燥を押し殺して冷静に分析した。

 

「こちらは、このままで大通りで相手が出てくるのを迎え撃つことも可能ですが……どうします、ダージリン様」

 

アッサムが問いかけた。

 

ダージリンは、カップを口元に運び、静かに呟いた。

 

「危険から逃げ出すと、危険が二倍になる。しかし決然と立ち向かえば、危険は半分に減る。何事に出会っても、決して逃げ出すな」

 

「……チャーチルですね」

 

オレンジペコは、即座にその言葉の意図を汲み取った。

 

『各車分散し、敵車両を発見及び撃破しなさい。不意の遭遇戦になることが予想されるわ。味方の位置は常に把握すること。よろしいかしら』

 

『『『『了解』』』』

 

ダージリンからの指示を受け、マチルダ各車は、重い履帯の音を響かせながら、市街地の捜索を開始した。

 

「……できればジャックが来る前に片付けておきたいわね」

 

ダージリンは紅茶を一啜りして、小さな焦燥を吐き出した。

 

「……それほど警戒する相手なのですか。いくらなんでも過大評価しすぎなのでは」

 

アッサムは納得がいかない様子で尋ねた。

 

「わかりません。少なくともジョンさんへの警戒は怠らない方がいいかと……」

 

ダージリンの代わりにオレンジペコが答えた。試合前の少年を見た二人と、彼を見ていないアッサムとでは、その脅威の認識に大きな隔たりがあった。

 

「さあ、私たちも行きますわよ」

 

ダージリンはそう言い、チャーチルも静かに市街地へと足を踏み入れた

 

 

 

 

一両のマチルダが、周囲を神経質に警戒しながら、細い通りを進んでいた。特に変哲のない薬局の前を通り過ぎようとした瞬間、轟音と共に、突然側面から砲撃を喰らった。

 

「なっ!」

 

突然の衝撃に、車体が大きくのけぞる。薬局の軒先、妙な違和感のある旗の向こうに、低く身を隠した三号突撃戦車が潜んでいたのだ。これほどの近距離からの三突の砲撃を、装甲自慢のマチルダとて耐えきれない。マチルダからは白旗が上がり、停止した。

 

同時刻

 

別のマチルダの車長が辺りを捜索していると、駐車場のブザーが鳴り、ランプが点滅し、格納庫が開こうとしているのを確認した。

 

彼女は即座に、その格納校の中に敵戦車がいると判断し、マチルダを扉の正面に鋭く、強引に着けた。

 

「ふっ……馬鹿め」

 

車長は嘲笑を漏らしたが、正面の車庫が開き始めたのと同時に、すぐ後ろの昇降機が上がり始めた。その上には、八九式中戦車が待ち構えていた。マチルダの車長は正面の車庫に敵戦車がいないことに気付くと同時に、車庫のミラーに映る背後の脅威を捉えた。

 

「……はっ!?後ろだぁ!」

 

彼女の叫びが響く。

 

「そーれぇ!」

 

「「「そーれっ!!」」」

 

マチルダは咄嗟に車内に避難したが、Bチームの掛け声と共に八九式の五七ミリ砲が火を噴き、砲弾がマチルダに炸裂。黒煙に包まれた。

 

『こちらCチーム。一輌撃破!』

 

『Bチーム。一輌撃破!』

 

BチームとCチームは、興奮した声で戦果を報告した。

 

「これで五対三か……ようやくこちらが優位になったな。さあ、どうするお嬢様方」

 

少年は、大洗の市街地に入ったと同時に聞こえてきた無線を聞き、不敵に呟き、大洗の路地へとモーリスを滑り込ませた。

 

『攻撃受け走行不能!』

 

『こちら被弾につき現在確認中!』

 

立て続けに届く味方の報告に、「なっ!?」ダージリンは驚愕し、手に持っていたティーカップを思わず装甲床に落としてしまった。ティーカップは砕け散り、紅茶が飛び散った。

 

「ダージリン様、大丈夫ですか……」

 

オレンジペコが心配そうに尋ねる。

 

「……問題ありませんわ」

 

ダージリンは冷静さを取り戻そうと努め、一つ息を吐いた。

 

「これでこちらは三両、向こうは三両。形勢は五分五分に逆転されました」

 

アッサムが状況を訂正した。

 

「なかなかおやりになりますわね……けど、ここまでよ!『各車、砲撃音がした場所へ急行。まだ近くにいるわ。迅速に撃破しなさい』」

 

『『了解』』

 

ダージリンからの指示を受けたマチルダは、速度を上げて移動を開始した。

 

三号突撃戦車の砲塔からは、「「あははっ!」」と、車長のエルヴィンとリーダーのカエサルが腕を組み、高笑いしていた。

どうやらマチルダを撃破したことで気分が高揚しているようだ

 

そこに一両のマチルダが前方に現れた。

 

「路地裏に逃げ込め!」

 

車長のエルヴィンは操縦者のおりょうに指示を出し、三突を素早く路地裏に入り込ませた。

 

「入り組んだ道に入ってしまえばよい。三突は車高が低いからな」

 

塀に隠れながら進むが、確かに車高は低いものの、三突に付けていた旗竿が塀の上をわずかに移動していた。マチルダの車長はそれを見逃さず、旗竿の下の塀を目掛けて砲撃を放った。塀が音を立てて崩れ、その先にいた三突の側面に砲弾が命中し、白旗が上がった。

 

「なぜだ……なぜ我々の位置が……」

 

当の本人たちは、自分たちの軽率な行動が敗因だと知る由もなかった。

 

 

 

 

 

「Bクイック大成功!」

 

一方磯部たちBチームは、歓喜の声を上げていた。至近距離、しかも背後からの攻撃に成功したはずだった。

 

「あれ?」

 

しかし、火薬の煙が消えると、そこには無傷で、しかも砲塔をこちらに向けたマチルダの姿があった。命中したのはマチルダ本体ではなく、予備燃料タンクであったようだ。

 

「うわぁ!嘘!生きてた!!」

 

「これでもくらえ!!」

 

想定外の出来事に態勢を立て直し、八九式はマチルダに向けて再度発砲したが、マチルダの厚い装甲に弾かれてしまった。

 

「サーブ権取られた」

 

マチルダの車長は、冷静にお返しとばかりに八九式に発砲。八九式はその砲撃をもろに受け、白い旗が上がった。

 

 

 

 

 

『Cチーム走行不能!』

 

『Bチーム敵車両撃破失敗!走行不能!すいません!!』

 

西住の車両に、C、Bチームの敗北と謝罪の報告が届く。

 

「残ってるのは我々とジョン殿の車両だけです!」

 

秋山が焦燥感に満ちた声で叫んだ。

 

「向こうは何両?」

 

武部が西住に尋ねた。

 

「四両です」

 

西住は重い口調でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

わずか数分前

 

「ふぅぅ……脅かせやがって」

 

八九式を撃破したが、想定外の不意打ちを喰らったことに、マチルダの車長は冷や汗を拭いながら、安堵の息を漏らした。

 

「……まさかこの距離でも撃破できないとはな」

 

「ああ、正直他の車両なら危なかっ………」

 

マチルダの車長はそのように話しかけられたので、無意識に返事をしてしまったが、ふと我に返り、話しかけてきた相手の方を見た。

 

そこには、マチルダの側面に主砲を突きつけ、こちらをくつろぎながら見ている少年の姿があった。

 

「……さっきはどうも」

 

少年は余裕のある表情で話を続けた。

 

「なっ!貴様いつの間に!」

 

突然現れた少年に、マチルダの車長は驚きを隠せず、明らかに動揺していた。

 

「あんたが油断している間に……それよりさっきからずっと思っていたが、その言葉遣い、なんとかしたらどうだ。ええっと……茶髪のお嬢さん」

 

「茶髪……!私にはルクリリと言うソウルネームがあるんだ!」

 

少年にそのように呼ばれ、腹を立てたルクリリは反射的に自身の名を名乗った。

 

「……じゃああんたは幹部か……」

 

少年は、聖グロリアーナでの幹部の特徴を思い出し、そのように尋ねた。

 

「ああ、それでどうするつもりだ。まさかその豆戦車でこのマチルダ装甲を貫けると思っている……」

 

「ルクリリさん……ちなみにこいつは6ポンド砲だ……」

 

ルクリリがそう言い終えるよりも早く、少年は端的に告げた 6ポンド砲の貫通力を、イギリス戦車乗りが知らないはずはない。

 

「………逃げ……」

 

ドォーン

 

ルクリリが我に返り、後退しようとする。だが、そう言う前に、少年の放った6ポンド砲弾がマチルダ側面の装甲を鋭く貫通し、マチルダから白旗が上がった。

 

(……これで状況は五分五分ってところかな……)

 

『ジョンちゃん〜、元気〜』

 

少年が状況を分析していると、会長の弾むような声が無線機を通して聞こえてきた。

 

「ああ、まだまだ元気いっぱいだ。そっちは」

 

『履帯の修理終わったよ〜。そっちの状況は〜』

 

どうやら修理は完了したようだ。これでこちらの戦力も相手と同じになったようだ

 

「ああ、どちらも残り三両。状況は五分五分」

 

少年は端的に戦況を報告した。

 

『オッケー。今からそっちに行くけど、大体どこら辺に行けばいい』

 

「……今からだと」

 

ドォーン! ドォーン!

 

少年が答えようとすると、複数の砲撃音が聞こえてきた。砲撃音から察するに、発砲しているのはチャーチルとマチルダだろう。そして、その砲撃を受けているのは、間違いなくAチームだ。

 

「……とりあえず大洗の鳥居をくぐってくれ。それから砲撃の後を辿ってきて、砲撃音のする方に向かってくれ。総力戦になるはずだ」

 

少年はEチームに明確な指示を出した。

 

『りょーかーい。ジョンちゃんは早く西住ちゃんたちの援護に向かって』

 

会長は少年にそう指示を出した。まるでこちらのことを見越しているような余裕のある口ぶりであった。

 

「……言われるまでもない」

 

少年はそう呟き、無線を終了し、エンジンを唸らせて交戦地点に急行するのであった。

 

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