ガールズ&パンツァー 少年の女子高戦車生活   作:ダオダオ

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聖グロリアーナ戦 決着

 

「来た……!囲まれたらまずい!」

 

西住の張り詰めた声が、窮屈な車内に響き渡った。目の前に現れた三輌のマチルダ歩兵戦車の編隊を見て、彼女は即座に危険を察知する。

 

「どうする?」

 

冷泉は、この緊迫した状況下でも、常に変わらぬ冷静さで西住に判断を求めた。

 

「とにかく敵を振り切って!」

 

西住は、まずは包囲を回避することを最優先とし、そう命令した。

 

「了解」

 

冷泉は短い返事と共に、Ⅳ号戦車D型を駆り、敵戦車との距離を稼ごうと試みる。しかし、三輌のマチルダIIは巧みに連携し、まるで網を張るように包囲網を狭めてくる。この大洗町に来て日が浅い西住には、地形を利用する「地の利」という武器がなかった。

 

それでもなんとかこの包囲を突破しようと、Ⅳ号戦車は狭い路地裏へと飛び込んだ。その最中、すぐ後ろを追尾していた一輌のマチルダが操縦を誤り、脇の民家に激突。木造の民家は轟音と共に大きな損傷を負い、土煙が舞い上がった。

 

しかし、その惨状を目の当たりにしたはずの店の店主らしき人物は、なぜか喜びの表情を浮かべている。戦車道の試合で生じた破損は、連盟の規定により全て完全に修復されることを知っているのだろう。つまり、無料で新築同然の建物が手に入る、棚から牡丹餅の状況なのだ。

 

西住はマチルダの衝突に一瞬気を取られ、その直前で道が工事による通行止めになっていることに気が付かなかった。急いで方向転換を試みるが、時すでに遅し。正面から、重々しい影が現れた。それは、チャーチル歩兵戦車を先頭に、残りのマチルダ二輌を引き連れた聖グロリアーナ女学院の戦車隊だった。

 

互いの距離が数十メートルまで縮まったところで、チャーチルは前進を停止する。キューポラハッチが開き、中から車長であるダージリンが、優雅な紅茶の湯気のように立ち昇る優美さで上半身を現した。

 

「こんな格言を知ってるかしら? イギリス人は恋愛と戦争では……手段を選ばな…」

 

「…騎士道精神はどうした、大将」

 

ダージリンの含みのある言葉を遮るように、低い声が飛んだ。その声の主は、チャーチルの背後、死角となる位置からモーリス装甲車の砲塔を向け、今にも砲撃せんとする少年だった。

 

「ジョン君!」

 

予想外の援軍の出現に、西住は歓喜の声を上げる。

 

「待たせたな!」

 

少年は、それに応えるように力強く言い放った。

 

「…ジャック… いつの間に…」

 

ダージリンは、動揺を隠せない様子で少年に向かい合って呟いた。

 

「何、あんたがイギリス人はどーのこーの言ってる間さ。…そもそもあんたイギリス人なのか?」

 

少年は挑発するのように、そしてどこかシニカルに尋ねた。

 

「ええ、私は名誉ある英国淑…」

 

「「日本人です!!」」

 

ダージリンの気取った台詞を遮るように、戦車内部から二つの声が被さった。おそらくオレンジペコとアッサムだろう。

 

(…金髪碧眼の東洋人か…)

 

少年はダージリンの東洋人とは思えない風貌を観察しながら、内心そう思った。

 

「ジョン君…?」

 

西住が、少年が敵と妙な空気になっていることに不満げな様子で呟いた。その時、彼女の無線機に信号が届いた。それは音声ではなく、カチカチという音の連なり。

 

(…モールス信号…… 好機を待て)

 

少年は無線機を使い、相手に悟られないようにモールス信号で西住へ指示を送る。それを受け取った西住は、顔色一つ変えずに他のメンバーに指示を出した。

 

「…さてと、どうするダージリンさん。投降すると言うのも一つの手だが」

 

少年は挑発的な口調でダージリンに問いかけた。

 

「投降? 私たちがですか? 仮にあなたが私を撃破しても、その間にⅣ号を撃破できますわ」

 

ダージリンの言葉通り、チャーチルとマチルダ二輌の砲塔の照準は、明確にⅣ号戦車に向けられていた。少年がチャーチルを撃破したとしても、残りのマチルダが即座にⅣ号を仕留めるだろう。

 

「それに、その後であなたはこの狭い路地でマチルダの攻撃を躱しきれますか?」

 

ダージリンは畳み掛けるように指摘した。彼女の言う通り、この狭い道で二輌の戦車の砲撃を回避するのは、ほぼ不可能だ。そう言っている間に、一輌のマチルダがジョンに向かって砲塔を回し始めた。

 

「…試してみるか」

 

ジョンは、さらに挑発を強める。

 

「構いませんことよ」

 

ダージリンはその挑発に乗り、冷ややかに答えた。

 

ガガガッ

 

「……来たな。ダージリンさん、何か勘違いしているかもしれないが、伏兵が俺一人だと思っているのか?」

 

少年は、路地の奥から聞こえてくる別のエンジン音を確認し、ニヤリと口の端を上げた。

 

「何を… …この音… まさか!」

 

ダージリンもその音を聞きつけ、ハッとした表情を浮かべた。

 

『参上~!!』

 

その直後、Ⅳ号とチャーチル・マチルダ隊が対峙するT字路の横の小道から、金ピカの38tが突如として飛び出し、その場に割って入った。

 

「生徒会チーム!?」

 

「履帯、直ったんですね!」

 

突然の伏兵の出現に、少年を除く敵味方双方が驚きの声を上げた。生徒会チームは、大破していたはずの38tの履帯を応急処置し、駆けつけたのだ。

 

「冷泉さん、距離を詰めて!」

 

「ほい」

 

西住はこの混乱の隙を逃さず、態勢を立て直そうと指示を出す。

 

「応戦して!」

 

ダージリンの命令を受けたマチルダの一輌は、Ⅳ号戦車から、目の前の邪魔な38tへと砲塔を向け直そうとした。しかし、その瞬間、少年が自分のモーリス装甲車をマチルダの側面にぶつけ、照準が定まらないように妨害した。もう一輌のモーリスを狙っていたマチルダも、射線上に味方がいるため、容易に発砲できない。

 

「もらった」

 

その一瞬の間に、38tはチャーチルの懐へと一気に滑り込んでいた。距離はわずか数メートル。この至近距離では、いくら厚いチャーチルの装甲でも、砲弾の直撃に耐え切るのは難しい。

 

『発射!!』

 

河嶋がそう叫びながら引き金を引き、砲撃した。

 

「は?」

 

砲弾は見事に直撃……しなかった。その砲撃はチャーチルではなく、明らかに射線から逸れていた少年のモーリス装甲車に命中した。装甲など皆無に等しいモーリス装甲車は、この近距離からの砲撃を直撃され、文字通り吹っ飛んで近くの民家に激突した。

 

「「「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」」」

 

この場にいる誰もが、予想外の同士討ちに呆然とし、一瞬の静寂が訪れる。

 

「あ……」

 

河嶋は、自分が何をしたのか理解できていない様子で、口を半開きにした。

 

「嘘〜」

 

会長も、あまりの事態に茫然自失といった様子だ。

 

「桃ちゃん… いくらなんでも…」

 

小山も、信じられない出来事にそれ以上言葉を続けることができなかった。

 

「フフッ、フフフッ。ありがとうございます。お礼ですわ」

 

ダージリンは、この想定外の事態に口元に笑みを浮かべ、感謝の気持ちを込めて、三輌の戦車から38tに集中砲火を浴びせた。

 

「や~ら~れ~た~!」

 

直撃を食らった八九式からは、白い旗が上がり、同時に会長の悲鳴が響き渡った。

 

「!? 前進!一撃で離脱して、路地左折!!」

 

西住はすぐさま正気に戻り、冷静に指示を出す。前にいたマチルダに一撃を食らわせて撃破し、横の小道へと急速に退避した。

 

「回り込みなさい! 至急!!」

 

ダージリンもすぐさま行動を開始し、西住たちの行動を先読みして追撃を開始した。

 

「大通りに出て、先に路地を抑えます」

 

西住は、一つ先の路地を進むチャーチルの進路を予測し、待ち伏せの策を講じた。

 

「急いで下さい!右折したら壁に沿って進んで急停止!」

 

「はい」

 

西住の指示を受けた冷泉は、大通りの交差点の曲がり角で急停止し、敵が来るのを待ち構える。すぐにマチルダが角を曲がって現れたため、Ⅳ号戦車は即座に側面を砲撃し、撃破に成功した。そして、すぐに追いついたチャーチルの砲塔を砲撃するも、分厚い装甲に弾き返されてしまう。

 

「後退してください、ジグザグに!」

 

チャーチルがすぐさま砲塔を向けてきたため、Ⅳ号戦車は退避を始めた。西住の指示を受けた冷泉は、蛇行運転しながら後退し、なんとか距離を取る。

 

「路地行く?」

 

「いえ、ここで決着を着けます。回り込んでください、そのまま突撃をします」

 

西住からの指示で、冷泉は急遽進路を180度変更し、チャーチルへと突撃を敢行した。

 

「と、見せかけて合図で相手の右側方部に回り込みます!」

 

「はい」

 

西住から飛び出した急な指示に、冷泉は抑揚のない声で応じる。そして西住の合図で急ブレーキをかけ、ドリフトを敢行し、チャーチルの側面に回り込もうとする。

 

「撃て!!」

 

「はい!」

 

西住の言葉に、五十鈴は引き金を引き、Ⅳ号とチャーチルの砲撃が同時に発砲された。両者の放った砲弾は、互いの装甲の弱い部分に命中し、同時に白旗が上がった。

 

『大洗学園、聖グロリアーナ女学園。全車両行動不能…… よってこの試合、引き分け!』

 

蝶野教官のアナウンスが、戦場となった街中に鳴り響いた。こうして大洗学園戦車道部の初陣は、強豪相手にドローという形で幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの聖グロリアーナに引き分けるなんて…!」

 

練習試合が終わり、互いの戦車がレッカー車によって運び出されている光景を見ながら、秋山は興奮気味に声を漏らしていた。初陣で、強豪校の一角と五分に渡り合ったのだから、上々の結果だろう。

 

「あなたが隊長さんですわね?」

 

ダージリンたちが西住たちの元へやって来て、優雅に尋ねた。

 

「あ、はい」

 

「あなた、お名前は?」

 

「あ……、西住みほです」

 

西住は少し俯き加減に答えた。

 

「もしかして西住流の? …随分、まほさんと違うのね… …ところで彼はどちらに?」

 

ダージリンは少し驚きながら呟き、周囲を見渡して少年の所在について尋ねた。

 

「そういえば」

 

「生徒会チームに撃破されて」

 

「それからどうなりましたっけ」

 

「レッカーにも乗せられていないな」

 

「ジョン君…」

 

西住はそう呟き、少年が撃破された地点、民家が半壊した場所へと駆け足で向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…射線は逸らしていたはずだが… …故意なのかあまりにもアレなのか…」

 

少年はモーリス装甲車の車内で倒れ込んだ状態で、かすかに呟いていた。

 

「…まさか、ここでもこんな目に遭うとは… うっと」

 

起き上がろうと試みるが、ふらついて装甲車の側面に倒れかかってしまう。予想外の至近距離からの砲撃を無防備に受け、軽い脳震盪を起こしているようだった。

 

「…クソッ。全くもって情けない」

 

少年がぼやき、懐からスキットルボトルを取り出そうとした、その時、ハッチが勢いよく開くと同時に、西住が彼の元へ駆け寄って来た。

 

「…西住さん」

 

予想外の出来事に、少年は動きを止める。

 

「ジョン君! 大丈夫!?」

 

西住は、顔を曇らせて少年の安否を問いかけた。かなりの心配をかけてしまったようだ。

 

「…ああ、問題ない」

 

少年は体勢を戻し、ハッチから自力で出ようとした。すると、西住は彼に手を差し伸べていた。

 

「…大丈夫だ、一人で出れる」

 

「無理だよ。とても大丈夫に見えないよ」

 

少年は拒否するが、西住には聞き入れてもらえない。スキットルボトルの中身を飲んでも、完治には数分かかるだろう。それまで彼女を待たせるのも心苦しい。

 

「…辱い」

 

少年はそう呟き、西住の手を握り、引き上げてもらうことにした。西住の引き上げる力は、その細い腕からは考えられないほど力強かった。

 

「あっ」

 

「えっ きゃあ」

 

少年はそのまま引き上げられて外に出ようとしたが、体勢を崩し、もつれ込むようにして地面に倒れ込んでしまった。

 

「………」

 

「………」

 

その結果、西住が少年の上に覆い被さるような体勢になっていた。互いに無言になってしまう。それもそのはず、互いの顔の距離は数十センチまで迫っていたのだ。少年は動くことのできない体勢に茫然とし、西住の顔は真っ赤に染まり、硬直してしまっていた。どちらも動ける状態ではなかった。

 

「…すまない …怪我はないか? 西住さん」

 

少年は、沈黙を破るように答えた。

 

「…あっ、うん。大丈夫だよ」

 

西住は視線を逸らしながら答えたが、それ以上の会話が続かず、再び膠着状態に陥る。

 

「みほ〜! ジョンの様子はどう〜?」

 

その膠着を破ったのは、武部の声だった。西住はすぐさま起き上がり、少年もそれに続くように起き上がった。

 

「…うん、大丈夫だったよ」

 

西住は、こちらに向かって来た武部たちにそう答えた。

 

「…本当に大丈夫なのか?」

 

冷泉は、少年の埃まみれの姿を見てそう指摘した。武部の反応を見る限り、先ほどのやり取りは見ていなかったようだ。

 

「何、こんなのすぐに落ちるから問題ない。それで、勝敗はどうなったんだ?」

 

少年はこれ以上心配されたくないこともあったが、純粋に試合結果が気になり、武部たちに尋ねた。

 

「はい! 私達はあの強豪の一角の聖グロリアーナ相手に引き分けまでもつれ込むことができました!」

 

秋山が、まるで自分が勝ったかのように嬉しそうに結果を報告した。

 

「…そうか、引き分けか」

 

しかし、そんな秋山とは対照的に、少年は不満げに呟いた。

 

「どうしたんですか? 何か不満そうですけど」

 

少年の態度が気になったのか、五十鈴が尋ねた。

 

「いや、結果に関してはよくやってくれたが… 生徒会との約束が」

 

「「「「……」」」」

 

少年がそのように呟くと、西住を除く他の四人は一斉に青ざめた。

 

「…でも確かそれって負ければじゃなかったっけ?」

 

西住は、会長の言葉を思い出しながら言った。

 

「そうだよ、私達負けてないじゃん!」

 

武部がそれに同調するように言った。

 

「でも勝ってもないよね〜」

 

そこに、生徒会のメンバーが割って入ってきて会長がそう言って来た 

 

「そうだ。では約束通り…」

 

「でも負けてもいない」

 

河嶋の言葉を少年が遮った。その通り、勝ってもいないが、負けてもいないのだ。

 

「それに、どこかの誰かさんが同士討ちなどしなければ、結果は変わったはずだ」

 

「ギクッ」

 

少年に指摘され、河嶋は罰が悪そうに顔を歪ませた。

 

「何か案があるの、ジョンちゃん?」

 

会長が、何か妙案を持っていそうな少年にそう尋ねた。

 

「ああ、まあ落とし所としては…

 

 

トレーラーの荷台の上では、ピンクの全身タイツを着用した少年と、生徒会チームの三人が、あんこう音頭に合わせて、どこかコミカルに、そして全力で踊り狂っていた。どうやら、作戦失敗の責任と同士討ちを折半する形で、案を提案した少年と、味方を誤爆した生徒会だけで罰ゲームのあんこう踊りを踊ることになったようだ。

 

「いいぞ! 少年!」

 

「もっとキレをだせー!」

 

観客からは、声援とも罵声ともつかない声が聞こえてきた。その奇抜な姿と全力の踊りは、街の人々に大いにウケているらしい。

 

(クソッタレ… こうなったらヤケクソだ!)

 

少年はそれに応えるように、さらにキレを増した動きで踊り出す。すると観客からは、さらに大きな歓声が上がった。

 

「やるねー、ジョンちゃん」

 

会長は、自分も楽しそうに踊りながら少年に話しかける。見たところ、彼女はこの状況を心から楽しんでいるようだ。

 

「もうこうなったら恥も外聞もない! 見さらせ、俺のアンコウ魂!」

 

少年は、興奮のあまり自身が何を言っているのかわからないほどヒートアップし、動きがどんどん派手になっていった。

 

「…全く。これでは何のための罰なんだか」

 

「まあまあ、悪いのはジョン君の戦車を撃破しちゃった桃ちゃんだし…」

 

「…アレは私の射線にいたアイツが悪い」

 

「いなかったと思うけど」

 

他の二人は、愚痴を言い合いながらダンスを踊っていた

 

 

 

「…危なかったです」

 

「全くだ」

 

「それにしても…ジョンさん、すごいキレですね」

 

「…アレが… あんこう踊り…」

 

「そうだよ。もしアレを踊り切れていたらと思うと… 」

 

Aチームは、少し離れた位置から少年たちが踊っているあんこう踊りを、どこか複雑な表情で見ながら呟いた。

 

少年の提案により、彼女たちはこの公開処刑を免除されたのだ。

 

(…ジョン君)

 

西住は少年を見ながら心の中で彼の名前を呼ぶのであった

 

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