ガールズ&パンツァー 少年の女子高戦車生活   作:ダオダオ

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無力

 

「眠い…」

 

少年は重い瞼を擦りながら学校の門をくぐった 昨夜から一睡もしていない 頭の中は、昨日の放課後の出来事で飽和状態だった

 

「なっ何よその顔」

 

不機嫌で驚いたような声が降ってきた 顔を上げると、風紀委員長の園みどり子が腕を組んで立っている

 

「やあ、風紀委員長 今日もごお元気で」

 

少年は、わざとらしく軽い調子で挨拶を返した

 

「まるで冷然さんのような顔ね」

 

彼女は、訝しげに少年の顔を覗き込んだ

 

「一緒にされるとは心外だな 俺は遅刻をしていない」

 

そう言い残して、少年は足早に校門を通り過ぎた 背後で、「授業をサボったら承知しないんだから」というみどり子の声が聞こえた気がしたが、今の彼にはそれどころではなかった いつものサボり場所、人目のつかない裏庭へと急いだ

 

(どうしたもんかね)

 

少年は、裏庭の隅の芝生に腰を下ろし、青空を見上げながら深くため息をついた 頭の中で情報を整理する 放課後すぐに西住さんに会い、一方的に謝罪し、戦車道をするかどうかの選択を彼女に委ねた その直後、大佐から学園艦が廃艦になることを告げられた 廃艦を免れるためには、戦車道の全国大会で優勝するしかない。  そして、そのためには戦車道の経験者である西住さんの力が必要不可欠だ しかし、あの時、彼女に選択を委ねた手前、今更戦車道を勧めるなどできるはずもなかった

 

「彼女に任せるしかないなのか…」

 

そう呟くと、疲労困憊の少年は、芝生に寝転がりながら意識を手放した

 

 

 

 

 

 

「後悔しているのか、坊や」

 

静かで、どこか物憂げな声が聞こえた 少年が振り返ると、イシュメールと呼ばれている長身の女性が立っていた

 

「よくわからない」

 

イシュメールは、少年の隣に腰を下ろした 遠くで、鳥の鳴き声が聞こえる なんてことはない 山で鹿狩りにきて、少年が鹿を仕留めた ただそれだけのことだった

 

「俺は間違ったのか」

 

動物を仕留める時、基本は頭を正確に打ち抜く そうすれば、苦痛を与える時間を最小限に抑えられるからだ しかし、今の少年には、まだそれほどの正確な射撃の技術がなかった 焦った彼は、鹿の腹を撃ってしまった 鹿は、絶命するまでの数十分間、苦しみ悶えていた

 

「お前の選択は間違ってはいない 的の小さい頭より胴体を狙った方が仕留める確率は高い」

 

イシュメールは、静かに言った

 

「でも…」

 

少年の声は、わずかに震えていた

 

「それに、お前がこいつを仕留めたことで、あの村の住人たちや私たちも食事にありつけるのだ」

 

イシュメールは、遠くの景色に目をやった

 

「もし自分が間違いを犯したと感じるなら、後悔するよりも反省することだ お前はこれから生きていく上で多くの間違いを犯すだろう だがその度に自分を責めても何もならない 必要なのは、それを反省し、次の糧にすることだ 次こそは間違えないように」

 

イシュメールの言葉は、少年の心に深く染み渡った

 

「…わかった」

 

かすれた声で、少年は答えた

 

「…少し休むか」

 

イシュメールはそう言い、近くの木の幹に背を預けた 少年も同じように体を預け、再び眠りに落ちた。今度は、穏やかな眠りだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ョン、ジョン」

 

優しい声が、少年の意識を呼び覚ます

 

「……イシュメール」

 

寝ぼけ眼で呟くと、目の前に見慣れた顔があった。自動車部部長のナカジマだった。どうやら、懐かしい夢を見ていたらしい

 

「…なに寝ぼけてるのよ」

 

ナカジマは、呆れたように言った

 

「別にボケてはいない。ただ懐かしい夢を見て、現実と区別がつかなかっただけだ」

 

「それを寝ぼけてるって言うんだよ」

 

ナカジマの的確なツッコミに、少年は苦笑した

体を起こして立ち上がると、まだ少し眠気が残っていた

 

「それで、俺の安眠を邪魔した理由は?」

 

「何言ってんのよ、ジョンが言ったじゃない 本格的な整備は今日からだって」

 

「…そういやそうだったな 倉庫に何か届いてたか、ナカジマさん」

 

「うん、大きなコンテナが置いてあったよ。あれなんなの?」

 

「なら大丈夫だな」

 

少年はそう言い、ナカジマと共に倉庫へと向かった

 

「遅いよー」

 

倉庫に着くと、すでに自動車部の他の三人が待っていた

 

「悪い悪い」

 

「何してたの?」

 

「生物の三大欲求の一つを満たしていただけだ」

 

少年の言葉に、一人が呆れたように言った

 

「なーんだ、またいつも通りのサボりか」

 

倉庫の中には、大きな資材コンテナが置かれていた 少年がコンテナを開けて中を確認すると、戦車の整備機材と資料がぎっしりと詰め込まれていた 軽く機材を確認したところ、戦車の整備に必要なものは全て揃っているようだった

 

「…ちなみに、戦車の整備をしたことは?」

 

少年が尋ねると、一人が少し戸惑ったように答えた

 

「いや、だけど大体のことは一昨日いじって何となくわかったよ」

 

「…アドバイスは不要かもな」

 

少年はそう言い、コンテナの中から取り出した書類を彼女らに渡した

 

「すごい、わからなかったことが全て書かれている」

 

資料に目を通した一人が、感嘆の声を上げた

 

「これならいけるよ」

 

自動車部は自信ありげに頷いた

 

「ジョン、一度私たちだけでやってもいい?」

 

ナカジマが、少し遠慮がちに尋ねた

 

「ああ、まあ何かあれば連絡をくれ」

 

少年はそう言い残し、倉庫を後にした

 

(さてと、昼寝の続きを…)

 

再び裏庭のベンチに向かおうとしたその時、校内放送がけたたましく鳴り響いた

 

『二年A組西住みほ 至急生徒会室へ 繰り返す』

 

少年は、足を止めた おそらく、彼女は戦車道を選択しなかったのだろう 少年には、彼女が自分の意思で決めたことを責める権利はない しかし、生徒会はそうはいかないようだ あの様子では、生徒会室で説得という名の恐喝が始まっているだろう

 

「…ケジメはつけないとな」

 

少年は、踵を返し、生徒会室へと向かった

 

 

 

 

 

生徒会室の前まで来ると、中から激しいやり取りが聞こえてきた

 

「これはどういうことだ!あの男に戦車道をやれと言われたはずだろう!」

 

川嶋の怒声が響く

 

「何で選ばないかねぇ…」

 

会長の、諦めたような声

 

「終わりです!このままでは終わりです!」

 

小山の焦燥した叫び

 

「………」

 

そして、西住の、押し黙った沈黙

 

しかし、予定外の声も聞こえてきた

 

「何よそんなのみほに関係ないじゃん!」

 

武部の強い反論

 

「そうです!これはただの横暴です!」

 

五十鈴華の、毅然とした抗議

 

「………」

 

少年は、固唾を飲んで聞き入った やはり西住は戦車道を選ばなかったようだ そして、生徒会が今まさに彼女を説得している しかし、武部と五十鈴が西住と一緒にいたのは予想外であった

 

「そんなこと言っているあんたたち、この学校に居られなくしちゃうよ!」

 

ついに、会長は、説得から露骨な脅迫へと手段を変えた

 

「お、脅すなんて卑怯です!」

 

さすがの五十鈴も、動揺を隠せない

 

「会長はいつだって本気だ」

 

川嶋が、冷ややかに言い放つ

 

「今のうちに謝った方がいいよ、ねっ?」

 

小山が、にこやかに付け加える

 

「みほは戦車道やらないって言ってるじゃん!」

 

武部の声も、さらにヒートアップしていく このままでは、お互いが不幸になるだろう そう思った少年は、意を決して生徒会室の扉を開けた

 

突然の闖入者に、室内の空気は一瞬にして凍りついた 全員の視線が、扉の前に立つ少年に注がれる

 

「…ジョン君」

 

少年を見た西住が、小さく呟いた。その声は、わずかに震えていた

 

「なっ、なんだ貴様、何のようだ!」

 

我に返った河嶋が、警戒するように少年に尋ねた 少年は、生徒会の面々の前に進み出て、彼女らと西住たちの間に立った

 

「なっ…まあいい、ちょうどいい時に来た おい貴様も西住を説得しろ!」

 

川嶋は、居丈高に少年を指さした

 

「お願い、ジョン君 このままじゃ…」

 

小山が、不安そうに少年に訴える

 

「好き勝手言わないでよ!」

 

武部も、強い口調で言い返した

 

「ジョンさん、何か言ってください!」

 

五十鈴も、期待の眼差しを向けてくる どうやら、少年は生徒会派か西住派か、どちらにつくか選ばなければならない状況に追い込まれたようだ

 

「彼女は、戦車道ではなく華道を選択した それを咎める理由はないと思うが」

 

少年は、机の上に置かれた西住の選択科目の提出書を一瞥し、静かに答えた

 

「…ジョン君」

 

西住は、嬉しそうにに少年の名前を呼んだ

 

「なっ!貴様、どっちの味方だ!」

 

川嶋は、語気を強めて詰め寄った

 

「俺はどっちの味方でもない だが、これはあくまで客観的な意見だ」

 

そうだ これは、ただの客観的な意見であり、誰にでも言えることだ それでは、根本的な解決にはならない それに、少年はそんな誰でも言えそうなことを言いに来たわけではない

少年は、振り返り、西住と正面から向き合った

 

「…ジョン君」

 

西住は、不安げな表情で少年の顔を見つめた

 

「西住さん、今から君に言うことは、俺個人のエゴだ 生徒会は関係ない …頼む 戦車道をしてくれ」

 

そして、彼は深々と頭を下げながら、彼女に懇願した

 

「なっ!何言いだすのよ!」

 

武部が、信じられないといった表情で叫んだ

 

「そうです!あんまりです!」

 

五十鈴も、強い口調で訴えた この二人がそれを言うのはもっともだ さっきまでは威勢よく言っていた奴がいきなりこのようなことを言えばそうなるだろう だがこのまま行けば生徒会は、この三人に圧力をかけ続けるだろう しかし、その先に待っているのは、学校の廃校という誰も得をしない結果だ 生徒会も基本的には生徒と学校を大切に思っており、今までこのような強硬手段に出ることはなかった つまり、彼女たちもそれほど追い詰められているのだろう

 

「西住さん…あんたが戦車道をしたくなくてこの学校を選んだことは知っている だが頼む 君の力が必要だ」

 

そう言い、彼は地面に膝をつき、額を地面につけた。

 

「なっ!何をしている貴様!」

 

川嶋が、狼狽した声を上げた

 

「ジョン君、そこまでしなくても…」

 

小山も、慌てて少年に声をかける

 

そう、これは、いわゆる土下座と言われている、日本における最大限の謝罪と懇願の意思表示だった 生徒会の二人の制止を振り切り、少年は西住に土下座した

 

「…ジョン」

 

「…ジョンさん」 

 

武部と五十鈴も、少年の予想外の行動に言葉を失っていた

 

そして、西住は大きく息を吸い込み、決意を込めた声で宣言した

 

「…あ、あの、私、戦車道、やります!」

 

「えぇ!」

 

武部は、間の抜けた声を上げた

 

「いいんですか、みほさん!」

 

五十鈴は、驚きと安堵の表情で西住に問いかけた

 

「…フン、さっさと言えば良かったんだ」

 

川嶋は、ようやくいつもの強気な態度を取り戻した

 

「会長!」

 

「……」

 

小山は歓喜しており、会長も言葉には出さなかったが明らかに喜んでいた

 

(…西住さん、すまない)

 

少年は頭を地面につけたまま、心の中で深く謝罪し続けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー驚いたねー まさかジョンちゃんが土下座するなんて」

 

西住たちが生徒会室から出て行った後、小山は立ち上がり、窓枠に腰掛けている少年に話しかけた

 

「あれが謝罪の最上級だろ 地べたを這いずるなんて何でもない」

 

少年は、顔を上げずに答えた

 

「いやー、確かにそうなんだけど」

 

どうやら、土下座が今ではただのパフォーマンスとして認識されていることを、少年は知らないようだ

 

「ごめんね、ジョン君 いやな役を押し付けて」

 

小山は、気を遣って少年に謝罪した

 

「言っただろ、あれは俺のエゴだ あんたらは関係ない」

 

「全くだ と言うより、貴様は一体何をしに来た?貴様には整備を言い渡したはずだが」

 

河嶋が、訝しげに少年を睨みつけた

 

「ああ、それは自動車部の連中がやっている おそらく俺の出番はないだろう」

 

「ジョンちゃん、西住ちゃんにあの一件は言ったの?」

 

会長が、唐突に尋ねた

 

「…あの一件?」

 

少年は、ほんの一瞬戸惑った

 

「この学校が廃校になること」

 

「かっ!会長!」

 

「なっ、何を!」

 

2人は突然の会長の発言に驚きを隠せなかった

 

「いーじゃん、別に ジョンちゃんも知ってたでしょ?」

 

会長は、あっけらかんと言った

 

「ああ、ここまでするにはそれなりの理由があることは察しはついていたよ まあ、廃校になるとは思わなかったがな」

 

少年は、苦笑しながら答えた

 

「どうやって調べたの?」

 

小山が、興味深そうに身を乗り出した

 

「そうだ 我々もそのことを知らされたのはほんの一週間前だ」

 

河嶋も、訝しげな表情で少年を見つめた

 

「何 知人の伝手でな」

 

少年は、曖昧に答えた

 

「いやー、相変わらずなんでも知ってるねー、ジョンちゃんの知人 それで、西住ちゃんには?」

 

会長が、再び本題に戻した

 

「…いや、伝えていない 彼女にあれ以上負担をかけるべきではないと判断した」

 

少年は、静かに答えた

 

「フーン、まあいいや」

 

会長は、それ以上追求しなかった

 

「…失礼する」

 

少年はそう言い、生徒会室を後にした 足取りは、少し重かった

 

倉庫に戻ると、自動車部の生徒たちが作業を終えたところだった

 

「おっ、ジョン いいところに来たね!」

 

「丁度今終わったところだよ」

 

自動車部は、満足そうに言った

 

「…みたいだな」

 

少年はそう言い、戦車の中に入り、電気系を確認したところ、どれも異常なく作動した 砲塔も問題なく回り、砲身もスムーズに動いた

 

「どうだった?」

 

ナカジマが、心配そうに覗き込んだ

 

「見事だ どこも異常はない」

 

少年はそう言いながら、戦車から降りた

 

「悪かったな、任せて」

 

「いいよいいよ 確かに忙しかったけど、すごくやりがいがあったし」

 

「そうか、ならあとの細かいことは俺に任せてくれないか?」

 

「りょーかい!それじゃあよろしくねー!」

 

ナカジマはそう言って、他の生徒たちと共に倉庫を後にした

 

自動車部の生徒たちが帰った後、少年は一人、戦車と向かい合っていた 正直言って、彼女らがほとんどの作業を終えてくれたので、あとはオイルと砲弾を詰め込むだけだ プリンスが作成した資料が素晴らしかったのもあるが、それを理解し、一度もしたことのない戦車の整備をこれほど見事にやり遂げた自動車部の生徒たちは、少年が思っていた以上に優秀だった

 

「戦車、か」

 

少年は、静かに呟いた 目の前の無骨な鉄の塊が少年の朧げな記憶の中で木霊するのであった

 

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