始まり
「…坊や 坊や」
少年は目の前の大柄な女性に介抱されて意識を覚醒させた
「…イシュメール」
少年はその女性を呼び体を起こした
「気が付いたか」
彼女にそう言われて当たりを見渡した
「…ここは」
「…グラウンドゼロだ」
彼が目覚めたのは、戦場の真っ只中であった 少年はイシュメールという長身の女性と共に世界を放浪していた ある時、彼女が軍の施設に潜入し、機密文書を入手するために少年をある町に待機させていた
しかし、その直後、その町で戦闘が勃発し、その町を境に両軍が砲火を浴びせあっていた 少年は爆風に吹き飛ばされ、気を失っていたところを彼女に介抱されてたのであった
「坊やなぜ逃げなかった やばくなったら逃げろと言ったはずだ」
彼女は強い口調で少年に行った
「いやだった」
「何が」
「もう会えなくなると思ってた いやだった… 会えなくなるなんて」
「…坊や」
そう言いながら彼女は少年を抱きしめた
「すまない」
「…イシュメール」
「!?」
彼女は何かを察し、彼を抱き抱えたまま横にローリングした すると直後その付近が爆発した おそらく迫撃砲だろう
「… とにかく逃げるぞ」
そう言い彼女は、マンホールを開けて、少年と共に逃げるのであった
それから、数時間彼らは地下を移動して、地上に出た 外に出るともう日が暮れて寒くなっていた この辺りは砂漠地帯で昼間は暑いが夜になるとめっぽう寒くなる
彼女は着ていたコートを少年に渡し、砂漠を歩き始め、少年は後に続いた 少年が後に続いていると彼女の足が止まったので少年も止まり前方を確認した
前方を確認すると、数百メートル先にボロボロの鉄の塊のようなものがあった 近づこうとすると彼女に止められ、地面に伏せさせられた 彼女を見ると彼女も地面に伏せていた
「どうしたの」
「静かに」
彼が彼女に尋ねると彼女は静かに強く少年に言った
「ここで待ってろ」
彼女は彼にそう言い、その塊に近づこうとしたら彼に引き止められた
「…」
少年は無言で彼女の手を引き目で「嫌だ」と訴えていた。
「わかった 一緒に来い …だか音は立てるなよ」
「…わかった」
彼女がそういうと少年は喜び、静かに彼女の後に続いた そして、黒い鉄の塊に近づき、後数メートルのところで彼女が止まれのサインを出したので止まり、彼女はその塊に耳を当てた
そして、少年に来いの合図を出した 少年は彼女の元に来ると、彼女はその塊に飛び移り、ハッチを開けたがすぐにハッチを閉め少年の元に戻った
「イシュメール これは」
「…見たことはあるだろ T72-M 戦車だ」
「戦車…」
「そう、人を殺すためだけの乗り物」
彼女は戦車を見てそう呟いた
「人を…殺すためだけの」
少年もその戦車を見てそう呟いた。少年が戦車をまじまじと見ている間に彼女は、戦車のハッチを開けて中を確認した。
「…乗り捨てられたやつか」
特に損傷や車内などに死体などがないことからそう判断した。そしてブービートラップの痕跡のないことを確認して少年を呼びハッチから内部に入った。
「…」
少年は戦車の中を茫然と見ていた。戦車の外観は見たことはあるが、内装を見たのは初めてであった。内装は外装とは違い複雑そうでとても狭く感じた。
「…いけそうだな」
またその間に彼女はメカニズムやエンジンなどを確認してこの戦車は十分使用に長けると判断した。
彼女は手際よく操縦席のスイッチ類を確認し、重厚な金属音と共にエンジンを始動させた。腹に響くような野太い鼓動が、狭い車内に伝わってくる。
「揺れるからしっかりつかまってろ。舌を噛まないようにな」
イシュメールがレバーを引くと、鉄の巨体は砂を噛み、ゆっくりと動き出した。
戦車の中は、外の刺すような寒さが嘘のように、エンジンの排熱でじわじわと温まり始めていた。少年は計器類の鈍い光に照らされながら、厚い装甲の壁に背を預ける。
「……ねえ、イシュメール」
「なんだ」
「これ、動くんだね」
「ああ、操縦してみるか」
そうして彼女は操縦席を代わり少年は運転を始めた。
「…飲み込みが早いな」
先程まで彼女がどのように操縦していたのかを見ていたので、その通りにやってみるとぎこちないが問題なく操縦できた。
彼女はいつも通り淡々としていたが、その横顔には隠しきれない疲労が滲んでいた。彼女は体制を崩して楽にして無線機の周波数を適当に操作し始めた。しばらく、経過した頃、車内の無線機が突如として雑音(ノイズ)を吐き出した。
『……聞こえるか? 応答せよ、04小隊……こちらデルタ。目標は座標542に移動したようだ…… 直ちに……』
少年がびくりと肩を揺らす。イシュメールは鋭い目付きで無線機を睨みつけた。
「敵軍の周波数か……?」
彼女がボリュームを絞ろうとしたその時、無線から別の、もっと切羽詰まった声が聞こえてきた。
『助けて……誰か……。北の廃村に、まだ子供たちが……!』
声はそこで激しい爆発音と共に途切れた。
「北の廃村…」
彼女はそう聞き、地図を見た。ここから2マイルほどの距離にその廃村はある。そしてそこは彼らを匿ってくれていたところであった。
イシュメールは地図を指でなぞり、苦々しく奥歯を噛み締めた。
「……坊や、操縦席を代われ。全速で北へ向かう」
「助けに行くの?」
「勘違いするな。私は正義の味方じゃない……だが、あそこに残してきた予備の燃料と食料が他人に渡るのは癪(しゃく)だからな」
彼女の不器用な嘘を、少年は何も言わずに受け入れた。少年は席を立ち、イシュメールがレバーを強く握った。
「坊や、お前は降りて待機していろ」
「…」
少年は無言で答えた。少年の無言は拒絶を意味することを彼女は知っていた。
「これは戦いだ。さてられないことはある。それでも来るか」
「…ああ」
少年がそう答えるとイシュメールがレバーを力強く押し込む。T-72のエンジンが咆哮を上げ、鉄の巨体が砂漠の闇を切り裂いた。
「ただいま姉御」
「早かったわね どうだった」
少年は宿舎に帰ってくると、彼女はそのような主語のない話をしてきた
「どうだったとは」
「戦車のことよ」
「ああ、怖いほどうまくいったよ 俺の出番が必要ないほど」
「そりゃそうよ 何たって私が作った資料を入れておいたんだから」
彼女はさも当然のように言った
「おかげで助かった ありがとう」
「…その割には暗いわね 何があったの」
「いや、改めて自分の無力さを知っただけだ…」
「結局彼女に頼るしかなかったと」
そう、少年は昨日西住にあんなことを言っておいて、結局は彼女の優しさにつけ入ってしまった そのことに深い無力感を感じていた
「プリンス あんたに聞きたい あんた戦車をどう思う」
「兵器だ」
彼の質問に彼女はあっさり答えた
「戦車は兵器以外の何でもない 人を殺すため 歩兵の盾になり前進するため 敵の拠点を破壊するため そのために戦車ができた」
そう、ただ彼女は正論を言った 戦車は兵器以外の何でもなかった
「なら戦車道は」
そう、なら戦車道とは何なのだろう 人を殺すためだけの乗り物の武道とは一体何なのだろう
彼女のからの答えはなく、少年は続けた
「俺にはわからない 俺は一度だけ戦車道をしたことがある」
「それは初耳ね」
「だが俺には、歩兵がいなかったこと以外は戦場との違いがわからなかった 俺は実弾で相手を戦車を撃って戦闘不能にした 戦場でやっていたことと変わらない」
「私も詳しくは知らないがだが安全は確保されているはずだろう まだこの競技で死人は出ていない よくできた競技だと思うが…」
「この世界に安全など存在しない」
そう、少年は知っている この世にそんなものは存在しないことを すると彼女が口を開いた
「…ジョン 剣道は知っているな」
「…それが」
「あれも元は人を殺すためのものだ、だが今は競技として認知されている」
「…」
「タイ発祥のムエタイもそうだ スポーツの起源も決して鮮やかと言えるものではない」
「…」
そう、元来武道もスポーツの歴史は闘争の歴史だ それに、今でも競技中に不幸な事故に遭うこともある
「少年 私も君に聞きたいことがある 君はなぜ戦車道をやる事を選んだの 生徒会の人にやれと言われたから、それとも大佐に命令されたから、あるいは学園を守りたいから もしくはあの子への罪滅ぼし」
「それは…」
「どうでもいいわ理由なんて でもあなたがやると決めたからには、最後までやり遂げなければならない 例えどんな結末になったとしても」
「姉御…」
「…頑張れ少年 応援してるよ」
「…ああ ああそうだな ありがとう 姉御」
「頑張れ少年 私も気が向いたら、サポートするから」
「ああ、頼りにしている」
翌日、校庭に戦車道を選択した生徒が集まった パッと見て校庭に集まったのは二十人前後であった
「ここにいるので全員か」
少年は、近くにいた河嶋にそう尋ねた
「ああ、全部で18人、私達と貴様を入れて22人」
河嶋は淡々と答えた そもそも選手でない少年を人数に加えるのはどうだろう
「思ったより集まりませんでしたね」
副会長は、不安げにそう呟いた 確かに予想より少ない あれだけの宣伝と報酬があればもっと集まってもいいはずだ
ただ、あんな条件を出されても事情を知らなければ本当にもらえるのかどうか疑うのはおかしいことではない
「まぁ、なんとかなるでしょ、結果オーライ」
会長はいつも通りのマイペースでいた どうやらこれで大丈夫らしい しかし少年にはそうは見えなかった
「目指せ!バレー部復活!!」
「「「おー!!」」」
少年がまず目についたのは、バレー部のユニフォームを着た四人組だ スポーツマン特有の掛け声を上げており、格好と掛け声から戦車への関連性が全く見受けられなかった
次に目立つのは制服をやや改造したコスプレっぽい四人組だ 軍服、甲冑、マフラー、和服とそれぞれ違う おそらくの歴史付きの集まりなのだろう
そしてその次が見たところ全員が一年生であろう六人組の女子生徒であった
あとは、西住と武部と五十鈴が固まっているのと、先日知り合った秋山がいた 気のせいか秋山は西住を凝視していた
そして最後に、我らが生徒会のメンバーであった。 とも頼もしい生徒達だろうと彼は心の中で言った
「ではこれより戦車道の授業を始める…何だ」
河嶋が取り仕切るように皆に言い放った しかし、皆の視線は少年に釘付けであった
「どうやら俺が気になって仕方ないらしいな どうすればいい」
「…じゃージョンちゃん、自己紹介よろしくー」
彼が生徒会に尋ねると会長が指示を出した 特に逆らう理由もなかったので簡単に済ませることにした
「あー ジョンNウォーカーだ 色々あって君たちの手伝いをすることになった よろしくな」
彼が自己紹介しても周りは唖然としていた どうやらまだ状況が受け入れられていないようだ
「…何か質問のあるものは」
「はい いいでしょうか」
少年の質問に答えたのは、一年生のリーダーのような生徒だった
「はい ええっと…」
「あ、はい 一年、澤梓です 先輩は男ですよね 戦車道は男の人はできないはずですが」
いきなり核心をついたことを質問してきた 彼女の言う通り男は戦車道はできないことになっている
「その通りだ だから俺がするのは整備やその他の力仕事 あとは多少のアドバイスをする程度だ」
「はい」
「ええっと そちらは」
今度はかなり元気のある子が質問してきたおそらく一年生だろう
「阪口桂利奈です そもそも何で先輩はこの学校にいるんですか」
「……」
そしてこの子もかなり痛いところをついてきた しかしそれはここに集まった多くの生徒が感じていたものだろう
「…それは俺の保護者が勝手にこの学校に入学届を出してこの学校がそれを受理したからであり俺に非はない 以上」
少年が長々と説明したのは事実であり、これを納得してもらうしかない
「つまり ジョンはコーチということでいいのか」
そう質問してきたのはバレーのユニフォームをきた小柄な生徒であった。確か2年の生徒だったような気がする
「…まあ間違いではないから構わないが」
「「「「よろしくお願いします コーチ」」」」
少年がそう答えると、バレー部全員がそれいい頭を下げてきた
「…こちらこそ 他には……」
少年がそういようとするとマフラーをかけた生徒が手を挙げていた
「ジョン 貴殿は歴史には興味があるか」
「…人並みにはあると思うが」
「ふむ、その中で好きな偉人はいるのか」
次に質問してきたのは、制服の上に軍服を着て、軍隊の帽子をかぶっている生徒だ
「…キューバ革命の英雄 チェゲバラだ」
「なぜ 彼が好きぜよ」
そう詰めた質問をしてきたのは制服の上に和服を羽織っているメガネをかけた生徒だ
「逸話はさまざまあってわからないが人間的に成熟した考えや思想を持っていた 後は知人の影響 と言ったところだ」
「ふむ、合格だ 我々は君のことをチェと呼ぼう」
胸に弓道の胸板をし、片目を閉じてた生徒がそう言ってきた よくわからないが何かに合格にしたらしい
「ああよろしく頼む それで君たちのことはなんと呼べば」
「カエサルだ」
「エルヴィン」
「おりょうぜよ」
「左衛門座だ」
「……(なるほど歴史好きか) 他に質問は」
「はい、戦車道をやればモテるんです 「知らん 占ってもらえ」 何よーひどい」
武部がなんだか訳の分からない質問をしてきたので一蹴した
「以上だな では後は任せた」
そういい少年は生徒会に後を任せた
「この男からも説明があった通りこの男は公式戦には参加できない よってこの男には、全面的に私たちのバックアップを担当してもらう それでは会長」
「んー じゃあまず戦車見てみよっか」
とりあえず彼の事故紹介が終わると河嶋が簡単に説明し、会長が指示を出した
「ジョン君 戦車は」
「倉庫の中だ」
「あっ あの 戦車はティーガーですか それとも……」
そう言って少し興奮気味に質問してきたのは先日知り合った秋山さんであった
「いや、だがティーガーと同じドイツ戦車だ」
少年はそう答えて倉庫を開けて生徒達に戦車を見せた
「「「「「おおおお」」」」」
「デカい」
「強そう」
「かっこいい」
「感激です」
おそらく戦車を見たのは初めてなのだろう ほぼ全員が驚いていた そして戦車道の経験者である西住は戦車に近づき戦車の各種を目視で確認した後、手で触り戦車を確認していた
「どうだ、西住さん」
「うん、装甲も転輪も問題なさそう」
確認している彼女に尋ねると彼女は凛々しく答えた 少年にとってみると意外な反応だった なぜなら、これほど凛々しい姿を見たのは初めてであったからである そして少年は戦車に飛び乗り戦車のハッチを開けた すると彼女は察したのか戦車に飛び乗り、戦車の中を確認した
「うん、車内も大丈夫そう」
そして、2人は戦車から降りた
「ジョン君、他の戦車は」
「…この一台だけだ」
「「「「え…」」」」
西住の質問に少年が答えるとみんなが呆気に取られていた
「…この人数なら少なくともあと4両は必要だと思うけど」
「…探すしかないな」
西住の最もな質問に少年はかなり無茶なことを答えた
「とゆーわけでで捜索開始」
会長はそう宣言し、彼らの戦車道はまず戦車を捜索することから始まるのであった