落合side
今日は8月31日、長くて充実した夏休み最後の日である。また学校生活が始まるとテンションが上がる。
「……暇だな」
学校から出された課題は終わらせた。借りていた本たちは全て読んだ。誰からの連絡もない。
「出掛けるか」
特に外になにか用事があるわけではないが、外に出たら何かがあるはず。そうして俺は外へ出たのであった。
数時間後
「なにもない」
とくに興味が引かれることもなく、ただそこそこ暑い中歩きまわっていただけであった。
「少し休憩するか」
俺は自販機で梅ソーダーを購入して、近くにあるベンチに座った。
「上手いな」
この梅ソーダー、夏ごろから登場したが中々に美味しい。夏の暑さによって疲労した体に梅の酸味が体にきく。
『梅ソーダーとは良い趣味をしているではないか少年よ』
突如として隣からしらない女性の声がする。横を見ると知らない女性が座っていた。全く気配がしなかったなんだこの人?
『ん?急にこっちを見てどうした少年よ?もしかしてあれか、ついに私の念願である【きさま!見ているなッ!】ができる?なんつって、いつも誰にも見えてなくて私が一人悲しい思いをするだけなんですけどね~』
「その場合は俺はどう返答すればいい?」
『それは勿論、ディ……オって……あれ?もしかして本当に見えてる?』
「見えてる」
さっきから彼女は何を言っているのだろうか?隣に座っていたら見えて当然であろう。
『ええええええぇぇぇぇ!?』
突然隣で叫ばれたので思わず耳を塞ぐ。なんだこの人?
「急に叫ばないでほしい」
『あ、ごめんないって……っていやいや、そうじゃないまじ!?まじで見えてるの?』
「本当に大丈夫か?」
さっきから当たり前のこと聞いてくる。もしかしたらこの人ヤバい人なのかもしれない。俺はベンチを立ち、その場から離れようとする。
『いや、ちょ待てよ……ってあれ!?触れる!?』
しかし、腕を捕まれて引き止められる。さっきから当たり前のことを言ってくるが、なんなんだこの人?
「……さっきからどいうつもりだ?」
『いやお姉さんさ、久しぶりに会話できたからさ、嬉しいの。だからさ、もうちょっと話そうよ』
「隆二が知らない人についてったら駄目だって」
『いや、隆二って誰!?』
「親友」
『そうなの……そういうのは普通先生とか親じゃないかな……もしかして、薄い本が厚くなる関係!?」
「一度発行された本が急にページ数が増えるわけないだろ?」
『うーん、そうだけどそうじゃないの。ネタがわからないってこんなに辛いのね。ごめんね佐枝ちゃん』
さっきからおかしなことばっかり言ってるなこの人。隆二からこういう人には気をつけたほうがいいと言われている。ここは少しずつ離れることにしよう。
『って少年よ、だんだんと距離を開けないでくれよ寂しいだろ!?』
今度はこちらの腕をがっしりと掴んでくる。
「離れてくれ、隆二から知らない人には……」
『わかった、わかったから名乗るから、私が名乗ればもう知らない人じゃないでしょ』
名乗れば知らない人じゃないだと
「確かに」
『言い出したのは私なのだが、お姉さんちょっと君のことが心配になってきたぞ』
なんか急に心配された。
『まぁいいか、私の名前は
「夏っぽい名前ですね」
『そうだろう、ちなみに誕生日は9月1日』
「明日だな、おめでとう」
『そこじゃないでしょ!!そこは普通「夏じゃないんかい!」とかでしょ!』
祝ったのに駄目出しされた。ここは反省するべき点だな。
「ごめんなさい」
『素直すぎてやりずらいな!?まぁいいやさぁ少年、君の名前は?』
「落合天嶺15歳、誕生日は11月25だ」
『なるほど天嶺少年か』
「少年って同い年だから別に変わらないだろ」
『いや、確かに永遠の15歳だけど。君よりは長く生きて……生きてるのかな?まぁいいやとりあえず私のほうが人生の先輩なのだよ』
よくわからんので俺は首をかしげる。
『察しが悪いな少年、ここまできたらわかるだろ【ゆ】から始まって【い】で終わる奴だよ」
ゆから始まっていで終わるだと!?
「
『
……幽霊だと
「フッ」
『鼻で笑われた!?』
どうやらこの人は随分と俺のことを舐めているようだ。
「君が幽霊なんてそんなわけないだろ」
『いやいや、結構伏線あったと思うよ!?』
「俺は君が幽霊でないとわかるぞ」
「だって幽霊は長髪だからな!」
俺は彼女を指差し、高らかに宣言する。
『………はい?』
「それに白い服を着ている筈だ」
前に伊吹と見た映画で出てきた幽霊は髪で顔が隠れるほどの長髪で白い服を着ていた。しかし隣にいる彼女はショートヘアーで制服姿である。
『………』
どうやら完璧な推理に言葉も出ないようである。
「そういえば何で制服なんだ?新学期は明日からだぞ。あわてんぼうさんか?」
『………空いた口が塞がらないってこういうことか……お姉さん想像の斜め上の回答でびっくりだよ」
「…落合?」
突然聴き覚えのある声が聞こえる。そちらを向くと綾小路がこちらに向かって歩いていた。
「綾小路、こんなところでなにしているんだ?」
「いや、こっちのセリフなんだが。なんでお前は
「……え?」
虚空だと?
「何を言っているんだ綾小路、いるだろここに人が」
「お前、何を言ってるんだ?」
『………』
この反応を見るにもしかして
「見えてないのか?」
「見える?本当に何を言ってるんだ?」
俺は綾小路の肩を掴む。
「綾小路……今すぐ休んだほうが良い」
「そうだな休んだほうが……俺のほうなのか?」
『えええええー』
「あぁ、おそらく君はこの暑さによって見えるはずのものが見えなくなっている」
「……そうなのか?」
『えええええー』
「そうだ、今日はもう帰りなさい」
「そうする」
そうして綾小路は帰っていった。
『……普通逆なのでは?見えるほうがやばいよね』
そういえば俺もそろそろ涼しいところに行きたくなってきた。
「すまないが、話を続けるのなら場所を変えないか?」
『あ、はい』
そうして俺たちはベンチから立ち上がり部屋に向かう。
「……その前に」
俺は自販機のゴミ箱へ飲んだ梅ソーダーの缶を捨てて、新たに梅ソーダーを購入する。
「君は何がいい?」
『え?私はいいよ。どうせ飲めないし』
「遠慮は必要ない、うちには今飲み物は水しかないからな」
『……私も梅ソーダーで』
「ふむ」
俺は追加で梅ソーダーを購入して彼女に渡す。
『触れるし、冷たい』
そうして俺たちは俺の部屋へと向かったのであった。
『へぇ~男の子の部屋なんて初めて来たけど意外とキレイなんだね』
「キレイは心掛けてる。よく客人が来るからな」
『ほほう!!してそれは男子それとも女子?』
「両方だな」
この夏はたくさんの人と遊ぶことができた。昨日も姫野とししょー、神室、鬼頭、橋本、隆二で神経衰弱大会を行ったしな。
『おやおや、青春してるね。いいよそういう話はすごいわくわくする』
「そうだな、それが目的である」
『目的?』
「あぁ、俺は青春をするためにこの学園に来たんだ」
『そうかぁ、青春か』
彼女は懐かしむように、梅ソーダーを飲んだ。
『……やっぱり好きだなこれ』
彼女は懐かしむように、そしてそのジュースの一口一口を惜しむように飲んでいた。
「一気に飲まないのか?なくなったのならすぐに買いにいくぞ」
『……奢って貰ったものだしね。それにわかってないな~少年よ、梅ソーダーツウの人は一口一口を丁寧に飲むものなそさ』
「そうなのか」
今度から俺もちびちび飲むとしよう。
『ハハハ、素直だな少年』
「……その少年というの止めないか?君と俺は同い年なんだろ」
同い年の人に少年と言われるのは違和感である。
『なら先ずはそちらからだな、さっきから私のことを君としか呼ばないじゃないか?私にはちゃんと名前があるんだよ』
「それもそうだな……終里」
『どうしたんだい落合少年?』
「……嘘つきだな」
『アハハハハハ、ほんのジョークだよ。許してくれよ落合くん』
「許す」
「めっちゃ素直」
そうしてしばらく雑談をしている。終里との話はとても楽しかった。
『ねぇ、聞いてもいい。落合くんは何で青春を目指すの?』
突然、終里がそう聞いてきた。
「いきなりなんだ?」
『いいじゃん教えてよ。この学校ってさほとんどさなんかすごい志を持っている人がたくさんいるじゃん。だからさ、青春を目指すバカなんて滅多にいないじゃん。だからさ教えてよ』
「……俺の世界は家の中で完結していた」
『………』
「俺の家はそれなり裕福らしく、家の中には色々な設備があったし、様々な教養も得ることができた。だからこそ俺は家の外に出ることなく、ただ知識と技術を得る機械のように過ごしてきた」
「そんなとき、親の知り合いでうちに来ていた少女と出会った。少女は俺のこと寂しそうに、つまらなそうにしているという理由で色んな話をしてくれた。色んな遊びをしてくれた。友達になってくれた」
「それをきっかけに俺の世界はさらに広がった。新しい友達ができた。そして遂には俺は外に出てこの学校の外に出ることができた」
「だからこそ、今度は俺が話してくれたこと、遊んでくれたことをそいつに返したい。だからこそ俺はこの三年間で青春をしたいんだ」
『……そうか、いい夢だね』
「……あぁ、まずは友達100人だ」
『そっか……ちなみにどれぐらい進んだの友達100人は?』
「………」
別に友達がいないわけじゃない。ただきっかけがないだけだ。新しい出会いが。
『おい』
「……でも今日また一人、終里が増えた」
『!?……そっか友達か』
嬉しそうに終里は笑う。
随分長いこと話していたから、もうすっかり外は暗くなっていた。
『さてと……じゃあ私はもうそろそろ帰らせて貰おうかな?』
「もう帰るのか?夜ご飯ぐらい作るぞ」
『そこまで迷惑はかけれないよ』
「そうかじゃあ
『………
「明日学校だろ、そういえば誕生日だったな、盛大に祝おう」
『………』
「どうした?」
彼女は俺に背を向けているから彼女の顔が見えない。
『……ううん、なんでもないプレゼント期待してるから、それじゃあバイバイ』
そう言って俺は終里を見送った。
「………しまった」
彼女が帰ってから俺は自分の失態に気づく。俺は彼女に連絡先を聞くのを忘れたのである。
「明日聞こう」
そう思い俺は梅のジュースを飲もうとしたが缶の中身は既に空であった。そうして8月31日、長いようであっといまの夏休みは終ったのであった。
9月1日
「おかしい、どういうことだ?」
俺は
ならば俺が昨日会った彼女はなんだったんだ?
「ここにいたか落合」
声がした方向を見るとそこにいたのは茶柱先生であった。
「何か用ですか?」
「お前が終里夏という生徒を探していると聞いてな」
着いてこいといい俺は茶柱先生の後ろを着いて行った。
着いたのは屋上で会った。
「さてとお前が終里を探しているという話を聞いてな。話が聞きたくなった。なぜ探しているんだ?」
「友達の誕生日を祝いたいと思うのは当然では?」
「それは随分とおかしな話だな」
「何故?」
「
「………え?」
信じられない。既に死んでいるだと!?
「ちょっと待ってください。俺は昨日、彼女に会いました」
「だからこそおかしな話だと言っている。三年前に死んだアイツがお前と出会うなどありえる話ではないからな」
「……そんな」
俺は膝をつく。
「何があったんだ?」
俺は昨日会ったことを茶柱先生へ話した。
「にわかには信じられんな」
「………」
「だが、お前の話している特徴と完全に一致しているな。それにお前は普通では知りえないはずの誕生日まで知っていた。恐らくは本当なのだろうな」
「……どんな人でしたか?」
「……バカだが、真面目でいつもクラスのことを考えている奴だったよ。私のことを佐枝ちゃんなんて呼んできて。まぁそれでも当時のクラスにとっては光のような存在であったな」
茶柱先生は懐かしむようにタバコの煙を吐きながらそうこたえた。
「死んだのは三年前の8月31日だ。もともと体が弱かったらしくてな。おかしな奴だったよ『私は青春とともにあるんだ』と言って制服を最後まで着ていたらしい」
「……そうですか、ありがとうございます」
そうして俺は屋上から去ろうとする。
「……落合、私は心霊現象などはあまり信じてはいない。だがこれだけは伝えておいてくれ……誕生日おめでとうとな」
「……わかりました」
俺は彼女と出会ったベンチに来た。
「本当に幽霊だったんだな」
『ね、だから言ってたでしょ』
「まさか、ショートカットに制服の幽霊がいるとは思わなかった。今度からちゃんと覚えておく」
『ちゃんと覚えておきたまえよ』
「茶柱先生から聞いた、どうやら青春を目指すバカというのはそちらも同じだったようだな」
『佐枝ちゃんめ、余計なことを』
「俺は君の分まで青春を目指すことを約束する」
『……そっか』
そうして俺はベンチに梅ソーダーの缶を置く。
「そういえば、あんなに長く話していたのに俺は君の好きなものをこれしかわからなかった」
『えへへ、極力私は話さないようにしてたもん』
ふぅと俺は息を吐く。
「茶柱先生の分も含めて誕生日おめでとう終里。そしてありがとう」
そうして俺はベンチを背にして歩き出す。
『私のほうこそ、最高の誕生日をありがとう』
終里side
はじめは後悔であった。やっと病室から出られたんだから青春をしてやるとそんな心づもりだった。そうして憧れていた学園での生活。結果は全然上手くいかない、学校は何か思ってたのと違うし、友達はみんな何か志を持ち、私みたいなバカは一人も居なかった。
でもバカなりに頑張った。友達もできたし、佐枝ちゃんはきつい態度をとるが優しい先生であるとわかった。本当に楽しかった。
そう楽しかったのだ。
事態は急変した。私の体は悪化して、誕生日を向かえるまでに死ぬということがわかった。それはもうすごくショックだった。やっと楽しくなってきたこれからだというときなのに。
神様も意地悪である。三年、たった三年である。その三年間の青春くらい許してくれてもいいじゃないか。どうやら青春の神様とやらは私のことが嫌いらしい。
ならばせめてもの抵抗である。私は死ぬ直前まで制服を着て、最後まで青春していたぞと神様を嘲笑ってやるのだ。そうすればきっと満足して逝けると
しかし後悔は残った
目が覚めると私は学園内にいた。
あれ?どういうことだ?私は死んだはずでは。そう思っていた。どうやら私は死んで幽霊となったらしい。温度も何も感じないし、鏡にも映らない。友達や先生に話しかても誰も反応しない。
『……ハハハ』
想像以上にこたえた。誰にも反応して貰えない。何も感じることがない。私は孤独なのだ。私を自由にしてくれたこの学園も今となっては私を縛る足枷となってしまっていた。
そんな日々が三年続いた。
8月31日、三年前のこの日、私は新学期も誕生日も迎えることが出来ずに死んだ。正直もうここにいることさえもつらくなってきた。しかし私はこの学園から出られない。一生ここで苦しみ続けるのだろうかそう考えていた。
無意識に歩いているととある場所についた。ここは生前私がここで飲み物とかお菓子を食べながらゆっくりしていたベンチである。
『懐かしいな、よく飲んでいたな梅ソーダ』
中でも夏限定である梅ソーダーはよく飲んでいた。あんなもの病院にはなかったし、とても新鮮で美味しかった。まぁあんまり共感してくれる人はいなかったけど。そんな懐かしい思い出も今となっては私を苦しめる要因であった。
そんなベンチを見てみると一人の男子が座っていた。美形の男子が飲み物飲むところは絵になるな。って彼が飲んでいたのは梅ソーダであった。それに興奮して私は思わず彼に話しかけてしまった。見えないし、聞こえないから無視されるのに。しかし、なぜか彼だけには私が見えて、私の声が聞こえたである。私はそれにテンションが上がった。さらに極めつけば私は彼に触れて、彼から貰った梅ソーダーを飲むことさえもできた。
思わず涙しそうになったが、お姉さんパワーでなんとかした。彼は落合天嶺くん。見た目は少し怖いが、素直で年相応いや、年齢より少し幼い印象を受ける心やさしい少年であった。
そんな彼から目標を聞いた。彼の目標は青春を目指すというものであった。それは私が抱いた目標と同じであった。どうやら彼も私とは違うが外の世界、いや、青春というものに憧れたらしい。
これは運命だと思った。どうやら青春の神様も粋な計らいをするらしい。お前の未練はこの少年に託せということだろうか?正直言おう、彼に託せるのなら文句はない。彼は私と違って賢い。ちょっと抜けてて、変なところもあるが彼なら成し遂げてくれるという確信もある。
であるのならば、未練たらたらな私はこの場を去らなければならない。少し眠たくなってきた。こんなこと死んでから今まで一度もなかったのに。そうして私は彼とお別れしようとした。
『……
きっと彼は私に明日も会えると信じて疑わないのだろう。恐らく今日私は消える。この睡魔によって私はこの世との未練を断ち切ることができるだろう。きっとそれが私にとって一番の選択。
『……でもかわいい後輩の最後の頼みくらい聞いてやらなくてはな』
また明日、誕生日を祝ってくれるとそう言ってくれたのだ。私の最初にして最後の後輩。そんな彼が祝ってくれる。ならば、であるのならば!!
『……悪いな神様、年相応の反抗期ってやつさ』
そうして私はベンチで彼が来るのを待っていた。私の声が届くかな?まぁいいか取り敢えずこれだけは絶対に伝えなくきゃ
『私のほうこそ、最高の誕生日をありがとう』
以上です。まぁ私は天嶺と違って終里の言葉は聞こえませんが、もしかしたら読者の皆さんには天嶺の独り言に対する終里の返答が聞こえるかもしれませんね?今回はここまでです。次回はちゃんと本編を更新しますのでお楽しみに。それでは最後まで見ていただきありがとうございました。また次回の更新をお楽しみに!