インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~    作:不知火 丙

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第十五話

― 一樹・S・バニングス ―

 

「で? 何なんだこんな遅くに?」

 

 部屋でまったりしていると、一夏とデュノアが訪ねて来たので部屋に入れてお茶を出してテーブルを挟んで向かい合っているのだが、いつまでたっても話そうとしない。一応この部屋にはザッフィーもいるのだが、専用の座布団の上でまったりしているのでとりあえず放置する。時折デュノアが視線を向けるので気になっているようだ。

 

「「あ~…………え~っと…………」」

 

 こんな調子である。まあ、こんな状況になる理由はひとつしか思い浮かばないので此方からダイレクトアタックしてみる。

 

「デュノアが女だってばれたのか?」

 

 二人がお茶を飲んだ瞬間に言ってみたら、ものの見事に噴出してむせてから、

 

「「し、知ってたんですか?!」」

 

 二人が驚いて聞いてくる。

 

「まあな。伊達に要人警護やってる訳じゃねーんだよ。アリサの付き添いでいろんなパーティーに顔出してんだ。デュノア社のパーティーにだって出席した事はあるんだよ。主要人物とその関係者を全部調べて顔に特徴に性格を記憶する。それなりに大変なんだぞ護衛ってのは」

 

 まあ実際は、アリサと世界旅行をしているときにお呼ばれ、というか空いてる人がいないのでどうしても行って欲しいと言う事で顔を出したのだ。そのときにデュノア社の社長、アレクサンドル・デュノア、デュノアの父ちゃんにシャルロットがどれだけ可愛いか自慢されたので、俺もマリアがどれだけ可愛いか自慢したら仲良くなったのだ。

 ちなみにアレクからシャルロットを宜しくとの連絡も受けているんで、もう来る前からばれていたりするのである。

 

「そ、そうだったんですか」

 

「まあな。っていうかデュノア、転校初日に正体ばれてどうすんだよ」

 

「す、すいません…………ん? あれ? 注意するところそこですか?」

 

「他の事をお前に注意しても仕方ねーべよ。しかも俺、一応生徒って扱いだからデュノアの秘密を知ったところで報告の義務とかねーしな。ま、他の連中にばれなきゃ普通にしてていいんじゃねーの?」

 

「僕が言うのもなんだけど良いんですかそれで?」

 

「良いんだよ別に。俺に実害があるわけじゃねーし。大変なのは山田先生と千冬さんだろ。そん時に手伝えば問題ねーよ。それに悪いのはデュノア社だろ? 普通こんな最悪な手段使わねーぞ?」

 

「最悪な手段ですか?」

 

「当り前だろ? ばれたら会社の建て直しどころか一発昇天の手段普通使わねーぞ。しかも確実にばれるしな」

 

 それだったらシャルロットとして入学させて、ハニートラップでも仕掛けたほうがまだ可能性があっただろうに。この辺はアレクが猛反対しそうだが。

 

「か、確実にですか?」

 

「おう。学園生活がどんだけイベントだらけなのか知ってんのか? 体育祭に文化祭、修学旅行に身体検査、エトセトラエトセトラ。正体を隠して入学した時点で既にばれるフラグがたってるようなもんだぞ? それに古今東西こういった秘密を隠し通せた物語は存在しないからな、大体すぐにばれる。これを決定したやつは経営者としては三流以下だな」

 

 まず間違いなくアレクならこんな手段はとらない。とるなら他の狙いがあるかだ。もしくはもっと上が絡んでいるかだ。

 

「じゃ、じゃあ、一樹さんは俺達に協力してくれるんですか?」

 

 能天気な事を聞いてくる一夏に一応釘を刺しておく。

 

「一夏、それはデュノアが白式のデータを不正に取得して、デュノア社に流すのを承知しての事か?」

 

「でも俺がシャルに渡せば不正じゃなくなりますよね? そうすれば大丈夫なんじゃないですか?」

 

 やっぱり分かってなかった。対してデュノアは分かっているようで若干顔色が悪い。

 

「はあ、……一夏、ISの……いやこの場合白式のデータを渡すって意味がどういうことか分かっているのか?」

 

「?……稼動データとかじゃないんですか?」

 

「勿論それもある。……そうだな、この際だからISのデータというものがどれほど重要なものなの話しておくか。現時点でやばい理由として三つ程ある。軽い方から上げていくとまずISのデータを渡すと相手はそれを解析するよな?」

 

「まあ、それはそうですよね」

 

「そうなると、一夏はどんな事が苦手でどんな事が得意なのか、攻撃手段、行動の時の癖、弱点、そういった情報がすべて今後戦うかも知れないIS操縦者に渡る事になる」

 

「げっ! そんな事になったら!」

 

「まあ、現状じゃ勝てなくなるだろうなぁ~。でも、勝てなくなるだけならまだ良い。次があるからな。でもな一夏最悪の場合お前死ぬぞ? この間みたいな正体不明のISが一夏の対処法を知っていたら」

 

「そ、それは俺が強くなれば問題ないんじゃ」

 

「まあ、一番確実なのはそれだな。極端に言っちまえば千冬さんや俺のレベルまで強くなることができればこれは問題じゃなくなる」

 

 それに弱点をカバーするための装備の開発ぐらい出来るだろうし。

 

「そ、それはそれで大変そうだよね」

 

 顔を青くしたままデュノアが答える。

 

「でも、不可能じゃないんだ。それにこの手の情報は逆手に取る事も出来るから対処方も割りとある。だからこそ三つある問題の中で一番軽いんだ」

 

 そう、これぐらいだったら問題は無いんだ。これくらいだったら。

 

「第二の理由は、これは俺にも言える事だが男だという点だ」

 

「?」

 

「つまり、男でも乗れる白式を調べる事で男が誰でも乗れるようになるかも知れないという事だ」

 

「それがまずいんですか?」

 

 まだ分かっていない一夏。

 

「ああ、まずい。万が一解析できた場合、どんな事態になるか分からないからな。下手をすれば第三次世界大戦が勃発するかもしれないぞ?」

 

「そんな大げさな。なあシャル……って大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

 

 そう言ってデュノアを見るが、そこで一夏はシャルの顔色が悪いことに気づく。

 

「デュノアは分かっているみたいだな。これは大げさなものでも何でも無いことだぞ? 極端な例を挙げれば、今は女尊男卑の時代だろ? そうなると高い地位についてる女性も多くいる訳だ。実際に国のトップが女性って国はかなりあるだろ?」

 

 これは俺もこっちに来てから驚いたのだが、ほとんどの国のトップが女性になっているのだ。あの大国ですらそうなっている。

 

「はい」

 

「女尊男碑になった原因はISだっただろう? 女性だけが乗れる最強の兵器、それがあったからこそ女尊男卑になった。でも今回は違う。男性側に戦う術が出来てしまった。するとどうなる? どこの国にも頭の固いヤツ、考えの古いヤツ、女の下で働けるかって思っているヤツ、ISに乗りたがる中二なヤツ、そんな奴らがうじゃうじゃいる。そんな奴らが黙っていると思うか?」

 

「………………」

 

 ここで一夏はやっと理解したのか黙り込む。

 

「そうなったら後は簡単だ。そういった奴らはまずどうにかしてISコアを手に入れようとする。それこそどんな手段を使ってもな。そしてその標的の中にはIS学園も確実に含まれるって事だ」

 

「で、でもこの学園には一樹さんや千冬姉が…………」

 

「一生ここにいられるかよ。仮に一生いたとしても俺と千冬さんが死んだ後はどうするんだ? それにそれが分かっているからこそ、そういう連中は警備が手薄な時を狙うだろうし、それこそ邪魔な奴らはどんな手を使ってでも排除しようとするだろうからな。それこそ暗殺なんて考えは一番初めに浮かぶだろうさ。ISを常時起動していれば問題ないだろうがそんな事は不可能だ」

 

 俺はともかく千冬さんは間違いなくもたない。精神的にも体力的にも。

 

「で、でも!」

 

「それにな一夏、厄介なのはそれだけじゃないんだよ」

 

「え?」

 

「一番厄介な理由が、その白式は間違いなく篠ノ之束謹製のISだって事なんだよ」

 

 そう、これこそ最大の理由である。ISの開発者である篠ノ之束謹製のIS。それは間違いなく現存するISを遥かに凌駕するポテンシャルを持っている。

 

「ええ?!」

 

 驚いたのはデュノアだ。流石にこの情報は知らなかったか。表向きは倉持技研が研究開発していたものだしな。

 

「え? 白式ってそうなんですか?」

 

「ああ、一応これ千冬さんしか知らない事だからしゃべるなよ?」

 

「そ、そんな機密レベルの高い情報をさらっと言わないで下さい!!」

 

 デュノアが若干キレ気味に言ってくる。

 

「まあ、これはそう遠くない内にばれるだろうから問題ねーよ」

 

 具体的には臨海学校ぐらいで。

 

「それなら……いいのか?」

 

「いや、良くないと思うよ一夏。でも確かにこれは一番厄介な理由ですね」

 

「何でなんだ?」

 

 首をかしげて聞いてくる一夏。 

 

「一夏はもうちょっとISの一般常識を学ぶべきだと思うよ? いい一夏、篠ノ之束博士ISを独自に研究開発してこの世界中にその名をとどろかせた人物ここまではいい?」

 

 俺に代わってデュノアが説明を始める。

 

「ああ、箒の姉ちゃんで千冬姉の親友だ」

 

「……そういう情報は良いから。そこそこ重要な情報をぽろっと出さないでね? で、ISが世に出て十年経つけど未だにISコアを造れるのは博士しかいない。だから各国が血眼になって行方を追っているけど尻尾を掴むことも出来ない。そうなると一夏の白式はここ最近で博士が手がけたIS、もしかしたら博士につながる手がかりがあるかも知れないし、手がかりが無くてもISの最新技術が使われてる可能性は非常に高くなる。そしてその情報を解析応用が出来たら、頭ひとつ飛びぬけた性能のISを造れる。そうなったら現在最高の第三世代のISが束になっても敵わないなんて事もありえるかもしれないんだよ」

 

「その通りだ。そうなったら今のパワーバランスが崩れる恐れも出て来る」

 

「で、でもISはアラスカ条約で情報開示とかあったはずじゃあ……」

 

 お、一夏からそんな言葉が出てくるとは。

 

「多少なりと勉強の成果が出ているけど残念だな。アラスカ条約じゃ意味ないんだ」

 

「ど、どうして?」

 

「アラスカ条約、IS運用協定ってのは日本に対して定められているのであって、他国については定められていない。日本が情報を入手すれば公開する必要が出てくるが、他の国が手に入れた場合公開する必要な無いんだよ。一応国に定められているから企業が政府に対して報告しなければ基本情報開示しなくても大丈夫だろうけど、一夏が関わっている以上政府として関わりを持たないなんて選択はありえないから、入手した情報は開示する義務が発生しちまうんだ。そんでもって何でこんな事になっているのかといえば、それはつまり篠ノ之束が日本人であり、日本に妹である箒や親友の千冬さんがいるからこそ、そこからもたらされる技術を公開させるためのものと言っても過言ではないんだよ。現に博士と連絡が取れるのは世界中で千冬さんと、モッピーの二人だけだろうからな」

 

「そんな……」

 

 実際のところはどうか知らんがこれに近い感じではなかろうかと思っている。日本政府がこの条件で条約を結んだのも、性悪ウサギとのつながりが強いものではなかったからだろう。条約を拒んで世界中を敵に回したら日本という国は無くなっていた可能性がある。流石に白騎士一機だけでは日本を護りきることは出来なかっただろうからな。

 

「じゃあどうするんですか! 白式のデータが渡せないんじゃシャルが! 俺はシャルを護るって約束したんだ! こんな事に、こんな風に人を物みたいに扱うなんて間違ってる!!」

 

「一夏……!」

 

 声を荒げてシャルを護る宣言をする一夏。それを涙目で頬を赤くして見つめるデュノア。あ~、これは落ちましたわ~。

 

「落ち着け一夏」

 

「これが落ち着いて「良いから! 俺が協力しないって一言でも言ったか?」……へ?」

 

 ヒートアップする一夏に言う。デュノアも「え?」という感じでこっちを見てる。

 

「俺はあくまでも白式のデータを渡すという重要性を認識させたかっただけだ。これだけ話せば今後も迂闊な行動はしないだろうからな」

 

「そ、そりゃあまあこれだけの事を聞けば……」

 

「こういった事は今後も付きまとうからな。早いうちに教えとくに越した事は無い」

 

「で、でも一体どうやって?」

 

「忘れたのか一夏? 男性の操縦者はお前一人じゃねーんだぞ?」

 

「「あっ!」」

 

「俺が乗ってる打鉄のデータを渡してやるよ」

 

「で、でも性能が違いすぎてすぐにばれるんじゃ……」

 

 デュノアが心配して聞いてくる。

 

「問題ないよ。白式の性能くらい自前で出せるし、多少のデータ改竄くらいならすずかが片手間でやってくれるよ。打鉄に乗った状態でそのデータをたたき出せばそこまでいじらないで済むだろうからな」

 

「「じ、自前って…………」」

 

 二人で呆れたような声を出す。

 

「男性操縦者である点は既に一夏と俺のデータを日本政府が取り扱ってるから仕方ないにしても、俺の使っているISは特注品でも何でも無い単なる量産機だからな。一夏見たいなケースにはならんだろうさ。ま、デュノア社についてはご愁傷様って感じだがな」

 

「で、でも良いんですか? こんなことしたら一樹さんの立場が……」

 

 デュノアが俺の心配をする。ホントにこの子は優しいねぇ~。アレクが自慢するだけの事はあるな。

 

「馬鹿たれ。俺の立場なんか元々あってないようなもんだぞ? そんな事より全部済んだ後お前の身の振り方を考えとけ。幸いこの学園にいる三年間は猶予があるんだからな」

 

「あ、はい」

 

 素直に頷くデュノア。しかし視線が一夏をちらちら見ているのは何でだろうな~(すっとぼけ)

 

「でもばれてよかったんじゃねーかな? もしも三年間隠し通せて卒業後に公になってたらデュノア社が未確認ISの攻撃を受けて壊滅してたかもしれないし」

 

「「あ~……」」

 

 あのウサギがそれを知ったら間違いなくそうするだろうし、下手をすると千冬さんまで参加しかねない。そうなったら「IS大戦3 パリは燃えている」が始まるだろう。

 

「ま、これが俺に出来る事だろうな。多少俺も協力するが基本的にはお前ら二人で何とかしろよ? 一夏の方が一緒にいる時間は長いんだからな」

 

「はい! 分かりました!」

 

 元気よく返事をする一夏。全く現金なやつだ。

 

「デュノアも気をつけろよ? どうせ一夏が風呂場に侵入して正体がばれたんだろ? 今後もそういう事が無いとも限らないんだからな」

 

「「な、何で知ってるんですか!?」」

 

 二人が顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。

 

「何でって、正体がばれるとしたらそれぐらいしかないだろうし、それがお約束でもあるからな。そしてデュノア、ひとつ覚えておけ。一夏はラッキースケベ体質だということを」

 

「あ~、はい分かりました。…………一夏のエッチ!」

 

「何で?! あれは事故だろ!」

 

 無実を主張する一夏。しかし、

 

「言った通りだろ?」

 

「はい、そうですね」

 

 納得するデュノアであった。

 

「ま、一応これでいいか? そろそろ良い時間だから二人は部屋に戻っとけ」

 

「「はい」」

 

 少し長く話しすぎてしまったのでもうすぐ十二時を回ろうとしていた。

 今後の対応に納得した二人はお辞儀をして部屋を出て行った。

 二人の気配が遠ざかったのを確認して俺は呟く。

 

「だ、そうですよ千冬さん」

 

『全く、次から次へと厄介ごとを……』

 

 その返事は机の上から返ってきた。正確に言えば机の上に置いてある携帯電話からであるが。

 

「くっくっく、いいのか一樹。学園に報告義務は無かったんじゃないのか」

 

 今まで黙っていたザッフィーが言ってくる。

 

「別に報告はしてねーだろ? たまたま電話を切るのを忘れてて、その電話の相手がたまたま千冬さんだったってだけだ。そして極めつけは今の千冬さんは業務時間が終わってプライベートタイムを満喫しているんだ。だから俺は織斑教師に報告した訳ではなく、織斑千冬に聞かれてしまったってだけだ」

 

「全く、屁理屈を言うのは変わらないな。いつもの一樹で安心だ」

 

 そう言って丸くなるザッフィー。

 

『まあ、構わんがな。で? どうするんだ?』

 

「どうするって?」

 

『とぼけるな。何か手があるんだろう?』

 

 流石に誤魔化せないな。

 

「まあ、一応あるがGOサインは俺が出すわけじゃないからな。一応話を通す事はするけどな」

 

「待て、GOサインが出なかったらどうするのだ?」

 

「そこはまあIS学園に丸投げしようかと」

 

『はあ…………、まあ良い実際生徒を護るのは此方の仕事でもある』

 

 ため息をつきつつ了承してくれる千冬さん。

 

「GOサインが出る確率はかなり高いと思うけどな。なんせIS一機とテストパイロット付き、さらにヨーロッパ市場がおまけでついてくるからな」

 

『……待て、何をしようとしている』

 

 声に若干の不安をにじませ聞いてくる千冬さん。

 

「勿論、バニングス・インダストリーズによるデュノア社の買収」

 

 ちょっとコンビニ行って来る的なノリで言ってみた。

 

― 織斑一夏 ―

 

 シャルの正体を知ってから数日、なんとか問題なく過ごすことができている。っていかあれ以来一樹さんが学校に来ていない。寮室にもいない。助けてもらおうにもいないんじゃどうにもならない。千冬姉に聞いても家庭の事情としか教えてくれないし。

 

「一体どこに行ったんだ一樹さんは」

 

 ため息混じりに呟く。

 

「そうだね、一体どうしたんだろう?」

 

 隣にいるシャルも同じなのだろう。助けると言ったのに全く助けてもらっていない。

 今のところそこまで危ない状態になったことがないからいいものの。

 

「まあ、一樹さんのやる事はいつも突拍子のない事だからな。ほっといても問題ないんじゃないか」

 

「それもそうだね」

 

 少ししか一緒にいなかったのに一樹さんの性格をしっかりと把握しているシャル。まあ、四六時中あんな感じならいやでもわかるけどな。

 

「で、一夏。今から餌をあげるそのザフィーラってどんなペットなの?」

 

「え~っと、犬じゃなくて狼で、サイズ的には大型で、大人しくてすごく頭が良いんだ。あとフカフカのモフモフでのほほんさんがよく背中に乗ってる」

 

 今、俺とシャルは一樹さんの部屋に向かっている。一樹さんがいないとわかっているのになんで向かっているのかというと、一樹さんの飼っているザフィーラの餌やりの為だ。

 昨日一樹さんから連絡があって餌と散歩を頼まれたので仕方なく引き受けた。

 

「へぇ~フカフカのモフモフなんだ……楽しみだね!」

 

 目をキラキラさせて言ってくるシャル。

 そんな話をしていると一樹さんの部屋の前についた。俺は部屋のドアをノックする。

 

トントン

 

「一夏、一樹さんいないんだよね? ノックしても「ガチャ」……へ?」

 

 鍵の開く音がしてドアが開く。

 

「よ、ザフィーラ餌持ってきたぞ」

 

 そう言うとザフィーラが頷く。

 

「……ねえ一夏、さっきザフィーラが鍵を開けてドアも開けたんだよね?」

 

「ん? そうだよなザフィーラ」

 

 そう聞くと頷くザフィーラ。

 

「ちょっと待って?! 明らかにこっちの言葉理解してるよね?! 頭がいい犬じゃ説明つかなくない?!」

 

 シャルが突っ込んでくる。

 

「そう言われてもな~、いつもこんな感じだし一樹さんなんか普通に会話してるっぽいぞ?」

 

「嘘でしょ?!」

 

「いや、これがホントなんだよ。一樹さんが指示出すとそれにそれに従うし、ネタを言ったりすると反応するし、流石に喋ったりはしないけどな」

 

「犬なんだよね?」

 

「まあ、狼らしいけど一応イヌ科になるのか?」

 

 するとまた頷くザフィーラ。それを見てシャルが、

 

「……もういいや」

 

 考えるのをやめてザフィーラを撫で始める。

 

「うわ~フカフカだ~」

 

 ザフィーラの首に抱きついて顔をうずめる。確かに気持ちいいんだよなそれ。

 それを横目にザフィーラ専用のお皿を出してその中に持ってきたドックフードを入れる。

 

「ほら、ザフィーラ」

 

 お皿を置くとすぐさま食べ始めるザフィーラ。よほどお腹が空いていたに違いない。

 

「そういえば一夏、このあとアリーナに行くの? 」  

 

「ああ、今より少しでも強くならないといけないしな。一樹さんがいなくても訓練はしないとな」

 

 今までの復習をする意味でもちょうどいいと思うし。

 ザフィーラがあっさり食べ終わったの確認してシャルが行ってくる。

 

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 

「おう、……ん? ザフィーラも行きたいのか?」

 

 服の裾を引っ張ってくるザフィーラに聞くと頷いてきた。

 

「う~ん、でも危ないぞ?」

 

 言ってみたが首を横に振られてしまった。しかもリードを咥えて尻尾が豪快に左右に振られている。

 

「もしかして、散歩と勘違いしてる?」

 

 まあ、アリーナまで歩けばそこそこあるし散歩って言っても差し支えないか?

 

「まあ、いいか。よしザフィーラ一緒に行くぞ」

 

 そう言って俺達は部屋を出てアリーナに向かう。

 

「一夏は今日なんの訓練するの?」

 

「いつも通りだよ。回避と接近戦の訓練」

 

「そっか、白式は近接オンリーだからね。そこを重点的に鍛えないと意味ないしね」

 

「そうなんだけどな。でも俺もこう射撃武器を使ってみたいんだけどな」

 

 そう言いながら手で銃の形を作って狙いをつけてみる。

 

「う~ん、そのうちそういった訓練をするとは思うけどね。知識だけより実際の経験を積んで銃の特性なんかを掴んで対処の仕方を習うと思うよ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。銃っていってもいろんなのがあるからね。それによって対処方も違ってくるから」

 

「はあ、まだまだ道のりは長そうだな」

 

 そう考えるとため息しかでない。俺はいつかたどり着けるのだろうか? 一樹さんのような高みに……。

 

「まだISに乗り始めて数ヶ月しか経ってないんだから焦ることないよ」

 

 そうなのかもしれないんだけどな。最近立て続けに厄介事に巻き込まれてる気がするから、少しでも強くなっておきたいんだよな。それに一樹さんにも俺自身が強くならないといけないって言われたし。

 そう話をしているとアリーナの近くに来ていた。そこで俺達は周りが少し騒がしいことに気がついた。

 

「どうしたんだ?」

 

「何かあったのかな?」

 

 俺達は足早にアリーナに入る。

 

「ちょっと様子を見てみる?」

 

 シャルがピットじゃなく客席の方を指差す。確かにピットに行くより早いだろう。

 

「ああ、そうするか」

 

 俺達は客席に向かうことにした。客席に出るとアリーナの最前列に出た。グラウンドをみると土煙が上がっていた。

 

「あ、模擬戦してるみたいだな」     

 

「それにしては様子が……あっ!?」

 

 シャルが驚きの声をあげる。その理由は土煙の中から出てきた二機のISが見知ったものだったからだ。

 

「鈴! それにセシリア!?」

 

 さらに言えば二人の姿がボロボロになっていたからでもある。そんな二人に近づくもう一機のIS。それは転校生のラウラだった。鈴とセシリアはダメージが酷いのかまだ動けない。そんな二人に止めをさしに行くように近づくラウラ。

 それを見て俺は咄嗟にグラウンドに出ようとするけど、

 

「へぶ?!」

 

 バリアーに阻まれて降りる事ができなかった。

 

「一夏! ISを起動して!」

 

「わ、わかった! ザフィーラ! ここで待って……へ?」

 

 そこでザフィーラの方をみるとザフィーラはいなかった。正確に言うとリードで繋がっているのは、ザフィーラによく似た子犬のぬいぐるみだった。

 い、何時の間に入れ替わっていたんだ?!

 

「一夏! 何してるの! 早くしないと二人が!!」

 

 シャルの声で我にかえる。

 

「そ、そうだった! 来い! 白式!!」 

 

 俺は白式を起動させるが、ラウラは二人に止めをさそうと肩についている大型カノンで狙いをつける。

 

「おおおおおおおお!!」

 

 俺は雪片二型を構え零落白夜を発動させてバリアーを切りつける。零落白夜によって切り裂かれたバリアーの隙間からグラウンドに入る。

 イグニッションブーストで二人に近づこうとするけど全然近づけない。やけに周りの動きが遅く動くように感じる。それをもどかしく思い、焦りがでる。

 するとラウラのカノンから光が出て、銃口から弾がゆっくりと出て行く。反動で銃口が上がって、煙が立ち上る。その間も弾がゆっくりと二人に向かっていく。それは止まらないで二人にあたって、二人に確実にダメージを与える。そんな事は許せない。でもそれで近づくスピードが上がるわけでもなかった。

 弾がもうすぐ当たるというところで諦めかけたとき、

 

ガギャン!

 

 と大きな音がして再び土煙が上がる。その光景を見て俺は信じられなかった。

 

「一夏!」

 

 遅れて来たシャルが声をかけてくるけど全く反応出来ない。それほどの光景だった。

 土煙がだんだん晴れて状況がわかるようになる。鈴とセシリアは倒れたままだけど決定的に違うのは二人とラウラの間に一匹の大きな犬がいる事だった。

 

「「「「……ザフィーラ?!」」」」

 

 俺達は驚きのあまり声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

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