インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~    作:不知火 丙

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第二話

― 斎藤一樹 ―

 

 昼食時、そこは一種の戦場だった。

 

「チーズケーキ一つ下さい~!」

 

「こっちはショートケーキ!」

 

「チョコレートケーキお願いします!」

 

「え~い! 一遍に注文すんじゃねー! いつも言ってんだろうが! こっちは一人でやってんだぞ?!」

 

 俺がIS学園で働き始めて一週間がたった。

 あの後、ISとIS学園について説明を受け原作開始前という事が分かり、とりあえず俺の戸籍やらを再取得するまでの臨時の職員として働かせてもらうことになったのだが……、なんだこの忙しさは!?こんなに忙しいなんて聞いてねーぞ!!

 俺は殺到する注文を捌きつつ、ケーキを準備していく。食堂の職員になった理由は、単に職員の一人が交通事故に遭いしばらくこれなくなったからである。軽い気持ちでOKしたがちょっと忙しすぎである。

 あ、そろそろ用意していたケーキも数が少なくなってきた。

 

「……毎度毎度完売するのは非常に嬉しいんだが、どんどん忙しくなっている気がする」

 

 俺の担当はデザートである。初日に調子ぶっこいて一人でいろいろ作っていたら美味しいと評判がよく、俺以外の人がレシピ通り作ってもどうも味が落ちるらしい。

 その結果、デザートを一人で作る羽目になってしまった。正直人数ぶん作るなんて無理である。一クラスあたり三十人前後、それが九クラスあり、さらには一年から三年まであるのだ。単純計算八百十人である。

 正直言って無理だ。今は種類を三つに絞って作ってはいるがそれでも全生徒にはいきわたらない。するとどうなるか?

 

「え~! また売り切れたんですか!? 何でもっと作っておいてくれないんですか!!」

 

「酷いです! 私達にデザートを我慢しろって言うんですか!」

 

 こう文句を言われるのである。さすが女尊男卑の世界である。

 これで作っている人が女の人ならそんな酷くは無いんだろうが、なにぶん作っているのが男の俺である。

 名のあるパテシエなら兎も角、何処の誰とも分からない奴には少々風当たりが厳しい。最近段々と文句が酷くなっている気がする。

 

「あ~、すまん。今日食べられなかった人は「優先券」持ってってくれ」

 

 とりあえず苦肉の策として食べられなかった人に対して優先券を配布することで何とか納得してもらっている。

 今のところ食べ損ねる生徒はそんなにいないのが救いである。優先券に番号を書いて渡していく。最後に渡した番号をメモ帳に控え、その分は別でとって置くようにしている。

 そして、俺の食堂での作業は終了である。この後は学園長と一緒に花壇の手入れだったり、学園の掃除をしたりしている。最後に、食材のチェックをしていると二人ほどまだ優先券を使っていない事が判明した。

 まあ、この二人は生徒がいなくなってから来るのだが。そう思っているとカツカツ、と足音が近づいてくる。その方向を見るとスーツをビシッと着た女性と、眼鏡をかけたぽわ~っとした感じの女性がこっちに来ている。織斑千冬と山田真耶だ。

 

「調子はどうだ?」

 

「今日も完売御礼だよ。そっちこそ授業は良いのか?」

 

 差し出された「優先券」をうけとりながら答える。

 

「大丈夫ですよ。この後授業は入っていませんから」

 

 いつも道理のやり取りをする。今はまだ忙しいわけではなく若干余裕があるらしい。

 一夏が入学してきたらこんなもんではすまないだろう。

 

「でもすごいですね。ここ一週間学食を利用する生徒がどんどん増えているんですよ。それに斎藤さんのケーキかなり評判良いんですよ」

 

「だからって、食べられなかった文句言うのはやめてほしいもんだ」

 

 俺は苦笑しつつ紅茶とコーヒーを準備しながら答える。

 

「身体の調子はどうだ?」

 

「ん~、一週間もあったからな。あらかた完治したよ。昔っから身体だけは丈夫でね。ただ少しなまってる感じがするから軽く運動したい」

 

「……骨折が一週間で治るんですか?」

 

 驚いたようにこっちを見てくる山田先生。

 

「肋骨だからな。足やら腕だったらもうちっと掛かっただろうけどな」

 

 紅茶とコーヒーをトレイに載せ、カウンターに座っている二人に持っていく。最近日常になった光景だ。

 

「へい、お待ち」

 

 二人の前にコーヒーと紅茶を置く。

 

「ありがとうございます。あれ? ケーキじゃなくてシュークリームですか?」

 

「おう、ちょっと懐かしくなってな。数量限定で作ったやつだ。食べたこと無かったよな二人は」

 

「ああ」

 

 俺もコーヒーを飲み一息つく。

 

「フフーフ」

 

 某武器商人のように鼻を鳴らす。

 

「どんな一息のつきかただ」

 

 呆れながらこっちを見てくる織斑先生。

 

「……まあ、分かってたけどね。あの時ヴィータが反応してくれたのが懐かしいもんだ」

 

 もう百年前になるのか。まあ実際はそんなにたってねーけど。

 

「うわ! このシュークリームすごく美味しいですよ! これも職人さんから教えてもらったんですか?」

 

「ああ、翠屋の看板メニューだからな。割と厳しく教えられた」

 

「翠屋? お墨付きを貰ったって聞きましたけど、そのお店の人からですか?」

 

 ケーキを食べていた山田先生が聞いてくる。

 

「ん~、流石に百年も前だからな、知ってるかどうかは知らんけど、翠屋って喫茶店の高町桃子っていう人だ。妹がたまたま桃子さんの子供の同級生でな。知り合いになってからいろいろ教わってたらいつの間にか弟子入りしてた」

 

 それを聞いた山田先生はフォークをくわえたまま考え始めてしまった。

 

「う~ん、高町桃子? どこかで聞いたような……」

 

 そうつぶやくと自分の携帯端末で調べ始める。

 

「……段々現状を受け入れられるようになったか?」

 

 俺の言葉を聞いてか織斑先生が聞いてきた。

 

「……まあ、ここまで技術が違うと流石にね」

 

 そういって山田先生が持っている携帯端末を見る。一見してスマートフォンのようだが、中身は別物だ。

 この端末、百年前のスパコン以上の性能を持っている。そして端末の周辺にはいくつかのウィンドウが空中に浮かんでいて、山田先生は端末をいじったり、ウィンドウを直接触ったりしている。

 この技術は学園内でも使われていて、黒板に机、案内板にテレビといたるところで見ることができる。

 他の技術で言えば車は空中に浮かんでいるし、ガソリンなんてものは使われていないそうだ。発電にしても原子力が過去の遺物というのだから驚きである。

 まあ、大体の技術はISでの流用らしいが。ミッドチルダを知っているから、地球もここまで進歩したか、という方が強かったけど。

 

「無理はするなよ。ゆっくりで良い。少しづつなれていけ」

 

「ありがとう」

 

 ちょっとしんみりしていると山田先生が調べ終わったのか聞いてきた。

 

「さ、斎藤さん! 高町桃子ってこの人ですか!!」

 

 何か興奮して聞いてくる。山田先生がウィンドウを指差して聞いてくる。そこに映っていたのは間違いなく桃子さんだった。

 

「お~、そうそうこの人だよ。確か写真があったはず。え~っと……あったあったこれだ」

 

 そういって俺は財布に入れていた写真を取り出す。

 高町家、八神家、テスタロッサ家、ハラオウン家、月村家、斎藤家、バニングス家と全員が写っている。

 ちょっと人数が多すぎで修学旅行の集合写真見たいになっている。

 

「ほ、本当ですね……って言うか全然変わってませんねこの高町さん。写真を見る限りだと斎藤さんも中学か高校生くらいですよね?」

 

「うん、若作りしてるわけじゃねーんだけどな。年をとらないといっても良いくらいにかわらなかったな」

 

「うらやましいです……って違うんですよ! この人すごいですよ!!」

 

「へ? 何が?」

 

「これ! この記事読んでください!」

 

 そういってウィンドウを持ってくる。

 

「え~、何々「日本人初!! クープ・デュ・モンド個人部門で優勝!!」……は?」

 

 クープ・デュ・モンドって確かパテシエの世界大会だったよな? それで優勝?!

 

「え~っと「高町選手が作ったのは何の変哲も無いただのイチゴの乗ったショートケーキだった。会場からは失笑が漏れ、審査員すら呆れていた。それもそのはず、世界大会でまさかショートケーキが出てくるとは夢にも思わなかっただろう。他の選手の作品を見れば極め細やかに作られ、工夫を凝らした作品であった。まさに雲泥の差である。しかし変化があったのは審査員がそのケーキを一口食べた後だった。突然その審査員が涙をこぼした。いったい何事かと思い他の審査員が尋ねても「このケーキを食べれば分かる」といって聞かなかった。他の審査員がそのケーキを食べるとはじめの審査員と同じように涙した。その場にいた記者が何事かと尋ねる。そうすると審査員はこう答えた「このケーキには全てが詰まっている。私はかつてこれ以上のケーキを食べた事はない」そして結果は満点での優勝。しかし、この結果に納得いかない選手が審査員に詰め寄る。「こんな結果納得できない!」と、それはそうだ、自分が持てる力を出して作った作品が単なるショートケーキに負けたのだから。審査員も他の選手の言い分が分からないわけでは無かった。審査員達もそれを食べるまでそう思っていたのだから。そこで審査員長が異例の判断を下す。選手全員に食べてもう為に高町選手に人数分作ってもらうように頼んだのだ。その結果、他の選手全員が納得した。そしてある一人の選手が高町選手に尋ねた。「どうやったらこんなに美味しく作れるのか?」とそして高町選手はこう答えた。「私には一人、教え子がいました。その子とはもう会えませんが、その子が美味しいと言って食べてくれるケーキを一生懸命に作っただけですよ」と。」……マジでか!?」

 

「この教え子って斎藤さんの事ですよね?」

 

「多分そうだと思います。しかし、なんと言うか……なにしてんすか桃子さん」

 

 遠い目をしながら呟く。

 

「こんなすごい人から教わってたんですか」

 

「いや、俺が行方不明になった後に優勝してっからなんとも言えん。……しかしほんとに百年未来に来ちまったんだな」

 

 ぽりぽりと頭をかく。

 

「あ、す、すいません」

 

 山田先生が謝ってくる。

 

「いや、いいんすよ。どっちにしろ向き合わなきゃいけないことだし。あ、そうだ織斑先生。放課後時間ある?」

 

「あるにはあるが何だ」

 

「いや、ちょっと身体を動かしたくて。道場で軽く相手してもらえないかと思って」

 

「え゛! 斎藤さん、それはちょっと……」

 

 若干眼鏡がずり落ちつつ山田先生が言ってくる。

 

「ん? 何か問題でもあんのか?」

 

「問題といいますか何と言うか……」

 

 本人が傍にいるから言い辛いのか歯切れが悪い。大方俺じゃ瞬殺と考えているのだろう。

 

「そうか、そういう事ならいいだろう。相手になってやる。私もちょうど鈍りを感じていたところだ」

 

「織斑先生!?」

 

「心配するな山田君。ちゃんと手加減する」

 

 む、いくら俺が鈍っているからといって面と向かって言われると流石にカチンと来るな。

 

「手加減だぁ? それは負けたときの言い訳か?」

 

 ニヤニヤしながら織斑先生を挑発する。

 

「さ、斎藤さん!?」

 

 山田先生が声を上げる。

 

「ほう、随分と強気だな?」

 

「織斑先生が強いのは分かるけど残念だけど俺には勝てねーよ」

 

「何だと?」

 

 それまで穏やかだった織斑先生の目つきが鋭くなる。

 

「事実だ。織斑先生じゃ俺には勝てない」

 

「なら、私が勝ったらどうする?」

 

「そうだな……俺がここで働いている限りタダでデザートを作ってやるよ。その代わり俺が勝ったら千冬ちゃんって呼ぶからな」

 

「んなっ?!」

 

 流石にこの条件は予想外だったのか驚いている。

 

「あれあれ~? 手加減するほど強いんだからこの程度の条件飲めるだろう? なんたって負けなきゃ良いんだから」

 

 俺は安い挑発をする。これで乗ってきてくれれば楽なのだが……。織斑先生を見るとプルプル震えている。怒りを抑えているのだろう。

 

「いいだろう乗ってやる。本気で行かせて貰うぞ」

 

「おう、楽しみにしてる」

 

 そういうと織斑さんはコーヒーをグッと飲み干し席を立つ。

 

「後悔するなよ。行くぞ山田君」

 

「あ、ま、待ってくださ~い!」

 

 そういって二人は去っていった。俺は残された皿とコップを片付ける。幸いシュークリームはきれいに食べられていた。

 

― 放課後 ―

 

 おっちゃんの手伝いを終え、ジャージに着替えて道場に向かう。

 この道場は半分が柔道場、もう半分が剣道場になっていて柔道場だけでも試合スペースが四面ある。同じく剣道場も試合スペースが四面あり、やたらとでかい造りである。

 そんな道場の入り口から入り、中に入るとすでに部活は終了しているようで、しんと静まり返っている。

 久しぶりに入る道場。そこは昔通った高町家の道場に似た匂いや空気があった。そして剣道場には三人ほど先に来ていた。一人は織斑先生、もう一人は山田先生、そして最後の一人はおっちゃんだった。

 

「……おっちゃん、そこでなにしてんだよ?」

 

 道場の壁際に山田先生と一緒に正座をしている。

 

「いえね、山田君が道場のほうに走っていくのが見えたので、声をかけてみたら織斑先生が試合をすると聞きましたのでお邪魔させてもらいました。それに」

 

「それに?」

 

「そろそろ、斎藤君の実力を見ておきたいと思いましてね」

 

 ニコニコしながら言ってくるおっちゃん。

 

「んだよ~、俺の実力なんか知ってどうすんだよ? これ以上仕事が増えるのは勘弁してほしいんですけど?」

 

 食堂の仕事で一杯一杯なのだ。これ以上仕事が増えたらまじめに睡眠時間を削ることになる。

 

「まあ、それはこの試合しだいという事です」

 

「……手ぇ抜いて良いか?」

 

 それを聞いて織斑先生に提案するが、

 

「もともと貴様が挑発したんだろう? そんな事を認めると思っているのか?」

 

「ですよね~」

 

 にべも無く却下された。

 

「さて、はじめるか」

 

 そう言って織斑先生は立ち上がる。

 その姿は白の胴着に黒の袴を着ていて、腰には日本刀を差してい…………って日本刀?!

 

「待て待て待て!? 腰に差しているそれは何だ!!」

 

「日本刀だが?」

 

 見て分からんのか? とでも言いそうな顔だった。

 

「そうじゃなくて!! ここは普通竹刀とかせめて木刀じゃね?!」

 

「本気で来いといったのは貴様だろう?」

 

「本気で殺しに来てる?!」

 

 予想GAIデス!!

 

「ふう、安心しろ。刃引きはしてある」

 

「出来るか!! 刃引きしてあっても斬鉄位出来そうじゃん!!」

 

「よく分かったな」

 

「意味ねぇぇぇーーー!!!」

 

 ニヤリと笑う織斑先生をみて俺の叫びが道場にこだまする。そんな俺をよそに鞘から刀を抜く織斑先生。

 

「では行くぞ!」

 

「ちょ、こっちくんな!」

 

 そうは言っても止まってくれるはずがない。仕方ないので迎撃に移る。

 

「ハアァァァ!!」

 

 掛け声と共に無数の斬撃が襲い掛かってくる。

 袈裟、唐竹、逆袈裟、斬り上げ、横なぎ、突き、そのどれもが速く鋭い。俺はそれを、屈み、捌き、いなし、半身になり、受け、攻撃をかわしていく。

 道場には風斬り音や、時たま俺が受ける音が響くだけになった。

 

― 轡木十蔵 ―

 

「さ、斎藤さんってすごいですね」

 

「織斑先生相手にまだ一発ももらっていないとは……」

 

 二人の試合を見て思わず声が出てしまった。

 

「私はてっきり一瞬で終わりになってしまうと思いました」

 

 さらりと山田先生が酷い事を言う。

 

「こうなると実力は斎藤さんの方が上と見るべきなのでしょうかね~?」

 

 私は思ったことを口にした。

 

「……三倍段の事ですか?」

 

「ええ、真剣など殺傷能力の強い武器を使用した剣道家に勝つためには、その剣道家の三倍の段が必要といわれています。実際そんな事は無いと思いますが、こうして試合を見てみると思うんですよ。世界最強といわれた相手が、刃引きをしてあるとはいえ殺傷能力の高い武器を持って攻撃を仕掛けてくる。そしてその攻撃を捌き、かわし、懐に入り、隙あらば攻撃を返す。いったいどれだけの実力が必要なのだろうと」

 

「…………」

 

 それを聞いた山田先生が黙ってしまった。

 

「おそらく素手同士であったなら織斑先生に勝ち目は無いかも知れませんね。そういった意味では成るほど、斎藤さんが言ったことは正しいのでしょう」

 

「そ、そんな事は……」

 

「無いですか? しかし現に、武器を使っている織斑先生と互角ですよ。しかも致命打はおろか掠ることすらない。これがどれだけ異常な事か山田先生になら分かるはずです」

 

「…………」

 

 今尚、終わることの無い試合を見てそう思う。

 斎藤君は明らかに武器を持った相手に戦うことに慣れている。そうでなければ刀を持った相手に戦おうとは思わないだろう。普通であれば回れ右して逃げ出してもおかしくない。

 にも関わらず試合は互角に進んでいる。これは斎藤一樹という人物をもう一度調べなおさなければならないようだ。

 

「山田先生、もう一度「斎藤一樹」と言う人物を調べなおしてもらえますか? 趣味、趣向、好きな物、嫌いな物、過去の経歴一切合財全てです。時間は掛かっても構いません。できる限り正確な情報がほしいです」

 

「分かりました……本人には?」

 

「できる限り内密にお願いします」

 

「分かりました」

 

 山田先生にお願いしたところで試合がに動きがあった。二人が若干距離をとって一足一刀の間合になった。

 

「決まりますかね?」

 

 そんな雰囲気を私は感じ取った。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 ふう、やっぱ公式チートは半端ねーな。下手に飛び込めば斬られるイメージしか出てこない。でも、

 

「織斑先生、本気じゃねーでしょ?」

 

 俺の言葉にピクリと反応する。やっぱり。

 

「いつから気がついていた?」

 

「割と最初から。動きが単調だし、フェイントもなし。十分強いけどこれで本気ってんならがっかりだ」

 

「なに、こちらだけウォームアップはすんでいたんだ。そっちがアップ不足で本気を出せなければ不公平だろう?」

 

「素手対刀のどこら辺に公平さがあるのか聞いて言いか?」

 

「些細な差だろう?」

 

「些細じゃねーよ?! 大差だよ!!」

 

「今まで私の攻撃を捌ききった奴がよく言う。素手で捌ききった奴は貴様が初めてだ」

 

「織斑先生の初めてを頂けたのなら光栄だね。できればベッドの上で頂きたかったけど」

 

「なっ!」

 

 俺がそういうと顔を真っ赤にしてしまった。

 

「あり? この手の話は免疫が無いのか? さらりとスルーされると思ったんだが?」

 

 意外な一面を見た。眼福眼福。

 

「ほう~、そんなに死にたいのか。良いだろう介錯をしてやる」

 

 織斑先生がそう言って上段に構える。顔が黒くて表情が読めない上に、目だけが赤く光っている。

 何これ超怖い。しかもどっかで見たような……あ、シグナムとか亜夜を怒らせた時だ。まあ何だ、介錯されるのは嫌なので本気で行きますか。

 

「それは遠慮したいところだな」

 

 そう言って俺も上段に構える。織斑さんと同じ構え、鏡に映ったように同じだ。

意識を合わせ、呼吸を合わせ、距離を合わせる。ピンと張り詰めた空気がその場を支配する。

 そして同時に動く。お互いが踏み込み距離をつめる。織斑先生は上段から一気に振り下ろす。それと同じように俺も刀を持っているかのように振り下ろす。

 そして俺は織斑先生が持つ刀の握りに俺の拳を添わせ、振り下ろされた刀の軌道をずらし、織斑先生の手首を極め刀を奪い、勢いを殺さずそのまま回転させ織斑先生の肩付近で刀を止める。

 

無刀取り

 

 刀を持つ相手に対してのカウンター技だ。

 呆然とする織斑先生。何が起こったのかまだ理解が追いついていないようだ。

 

「う、嘘……」

 

 山田先生は俺が勝つとは微塵も思っていないかったのだろう。驚き固まっている。

 

「これはまた……」

 

 おっちゃんは純粋に驚いているようだ。俺は刀を下げ、未だ固まっている織斑先生に声をかける。

 

「俺の勝ちで良いか千冬ちゃん」

 

「あ、ああ、私の負けだ……ん? 待てその呼び方は」

 

「約束したじゃん。俺が勝ったら千冬ちゃんって呼ぶって」

 

 そこでやっと反応があった。

 

「それはそうだが……」

 

「嫌か?」

 

「……負けた後でこんなことを言うのも何だが、別のことに変えてくれると助かる」

 

 …………そんなに嫌なのか。

 

「分かった、その呼び方はやめよう」

 

「すまない」

 

 心底安心したように胸をなでおろす織斑先生。

 

「その代わりちーちゃんと嘘です、すいません! マジでごめんなさい!!」

 

 持っていたはずの刀がいつの間にか奪われ、首に突きつけられる。流石に命の危険を感じ謝りたおす。

 

「次は無いぞ?」

 

「了解です。マム。……で、代わりの要求なんですけど」

 

「……何だ?」

 

「昼に話していた高町桃子、そしてその夫である高町士郎の命日を知りたいんですが」

 

「聞いてどうするんだ?」

 

「どうするんだって一つっきゃないでしょ。墓参りくらいしなきゃ怒られちまうよ。なんせ二人とも俺の師匠だからな」

 

「へ? 桃子さんだけじゃなくて、その士郎さんですか? その人もパテシエなんですか?」

 

 話を聞いていた山田先生が聞いてくる。

 

「あ~、パテシエではないけど翠屋のマスターをしてたんだ。だからコーヒーと紅茶の入れ方に関しては確かに師匠だな。そのほかに、剣術の師匠でもあったんだ」

 

「そうなんですか。剣術なんですよね? 何て言う名前なんですか?」

 

「ん? 確か「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術」だったかな?まあ俺は剣術は基本だけで、後は素手で模擬戦ばっかりしてたけどな。これがまた模擬戦好きな一家でな! 士郎さん、だけじゃなくて息子に娘まで模擬戦が大好きだからよく相手をさせられましたよ」

 

 けらけらと笑う。

 

「だからなれている様に見えたんですかね?」

 

「ん? なれてたって?」

 

「私から見ても、斎藤君の動きは武器を持っている相手と戦うのに随分なれているようでしたので」

 

「あ~、まあ確かそうかも。状況によって色んな武器を使い分けるけど、基本素手っすからね、必然と上手くなりますよ」

 

 それを聞いていた織斑先生が聞いてくる。

 

「剣術は基礎のみか……あの技はその流派の技なのか?」

 

「いえ、あれは別の流派ですね。柳生新陰流、無刀取りって言った方が有名じゃねーかな?」

 

 流石に漫画見て覚えましたなんて言えねーし。

 

「柳生ってあの柳生ですか?!」

 

「そ、歴史上でも有名なあの柳生です」

 

「そんなものまで習っていたのか?」

 

「いえいえ、あれは自己流ですよ。基本は柳生ですけど。まあ、猿真似みたいなもんです」

 

「あれが猿真似だと?!」

 

「いや、練習はしましたよ? 初めのころは頭とか両肩をバンバン打たれるからしんどかったんですよ? 酷いときは両鎖骨折られましたから」

 

 士郎さんに恭也さん、亜夜にシグナム。みんな容赦ねーんだもんな~。

 しかも怪我してもシャマルが待機してっからすぐ治るし。流石に士郎さん、恭也さん、シグナムと三連続で折られた時は泣きが入ったね。

 

「そこまでするんですか……」

 

「そりゃあ、一応奥義と呼ばれる類の技だからね生半可な練習じゃ身につかないんっすよ」

 

「そうか……、後は何を習っていた? 少なくとも何かしらの格闘技はしていたのだろう?」

 

「そうっすね、こっちは教えてもらう人が居なかったんで完全に我流になるんすけど、メインは中国拳法の心意六合ですね。後は空手、ボクシング、柔術、CQC、etc、etcと、こんなとこですかね」

 

「「「………………」」」

 

 それを聞いた三人が黙り込んでしまった。ん?あれ?俺変な事言ったか?

 

「何と言いますか……」

 

「非常識ですね」

 

「変態だな」

 

「ひど!! 仕方ねーだろ!! いろいろ手段があった方がいいんだから」

 

 三人とも呆れ顔である。

 

「まあいいや、とりあえずさっきの件お願いしますね」

 

 そう言って俺は立ち上がって道場の出口に向かう。

 

「待て、どこに行く」

 

「何処って、適当にグラウンドでも走ろうかと」

 

「ふむ、それなら私も付き合おう」

 

「お、付いてこれるかな?」

 

「ふん、お前こそ付いてこれるか?」

 

「なら、負けた方が飲み物を奢るって事で」

 

「いいだろう」

 

 そう言って俺達は道場から出て行った。

 

「織斑先生が生き生きしていますな」

 

「はい、なんだか嬉しそうです」

 

 道場から出て行った織斑先生を見た二人はそんなことをつぶやいた。

 

 因みにグラウンドでの結果は、長距離は俺、短距離は織斑先生に軍配が上がった。流石に魔力をで身体強化はしなかった。その後飲み物を買おうとしたが、手持ちに使えるお金が無かったため織斑先生にお金を借りることになった。

 

 

 

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