インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~ 作:不知火 丙
― 一樹・S(斎藤)・バニングス ―
二月、アリサと再会して半年、その日は今年一番の冷え込みだった。
マフラーを着けているのにも関わらず首回りが寒く感じる程に、着ているコートの襟を首筋まで上げる。
空は曇っていて、あたりは薄暗く、風は突き刺さるように痛い、雪が降る前のような天気だ。まるで今の俺の心情を表しているかのような天気だった。
俺は今墓地にいる。日本の墓地ではなく、洋風の墓地である。さっぱりとしていて規則正しくに並ぶ白い墓石があり、そのうちの一つの前に立っている。その墓石にはこう刻まれていた。
New Calendar57~182 Alisa S Bannings Rest in Peace
「アリサ・S・バニングス、安らかに眠る……か。まあ、大往生だしな。ゆっくり休んでくれ。そっちに逝くのは何時になるかわからねーけど、みんなによろしく言っといてくれや」
俺はアリサに頼むように呟く。それが届いたかどうかは分からない。が、きっと天国(あっち)でちゃんと伝えてくれるとそう思った。
俺達はアリサの親族の反対を押し切る形で結婚式を挙げた。何で反対されたかと言うと、察しが着くと思うが遺産相続に関してだった。まあ、ごく一部の馬鹿共だったのでアリサが、
「大丈夫よ、あんた達には一切相続させないから」
と一蹴して終わったのだが。でも流石に疑われなかったわけじゃない。
日本に呼ばれた孫のアスカと曾孫のテレサには始めは胡散臭そうに見られて、マリアに関してはISで襲ってきた。
マリアはバニングス・インダストリーズでISのテストパイロットをしているらしく、俺のことを聞いて文字通りすっ飛んできたのである。
まあ、知らせたのは忍さんで、有る事無い事言いまくって俺の所に向かわせたらしい。いきなりの事で何事かと思ったが、とりあえず無力化しようとした。
しかし、流石は忍さんとすずか謹製のISだった。そん所そこらのISとは訳が違った。ネタ武装から、マジな武装まで盛りだくさんなステキISだった。
流石に第四世代とまではいかないが、それでも第三世代機の性能としては破格だった。普段はリミッターがつけてあるのに、そのときはリミッター解除の全力というのだからこちらとしてはたまったもんじゃない。
仕方がないので一瞬の隙を衝き、締め落す事に成功した。とりあえずISを待機状態に戻し(スサノオが戻した)、話を聞いて忍さんの悪戯ということが判明したのだ。
その後アリサにこってりと絞られ、三人に俺の紹介が終わった。当然の如く驚かれた。流石に自分より年下の人を「お爺さん」と言われたって信じられるわけが無い。
だけど、アリサが出してきた写真、スサノオが出した写真に動画、DNA鑑定、更に結婚指輪で何とか信じてくれた。
その後は二人で世界中を見て回った。今まで一緒にいれなかったぶん思いっきり楽しんだ。
世界中の景色をみて、世界中の観光地を渡り、世界中の食べ物を食べ歩き、世界中の文化を見た。そのときはアリサも元気だった。いつも以上に。
今にして思えば、それは蝋燭の炎が最後に一瞬激しく燃え上がるように命が燃え尽きる瞬間でもあった。
年を越して、少したったあたりでアリサが体調を崩しがちになった。今まで元気だったのが嘘のように目に見えて衰えだしたのだ。
歩くことは出来なくなり、食べることが出来なくなり、喋ることすら困難な状態になってしまった。
そして二月七日、俺と出会った病院の病室でその生涯に幕を下ろした。その死に顔は満足そうに笑っていた。そんな風に思い出していると、
「やはりここにいましたか、一樹大御爺様」
と声をかけられた。俺に話しかけてきたのはアリサに瓜二つの女の子だった。
ただ髪の毛はショートカットしにしていて、お嬢様と言うよりはスポーツ少女といった感じである。
「マリアか……どうした?」
俺は振り返らずに答えた。
「どうしたではないでしょう? もうとっくに皆さんお帰りになりましたよ」
「アスカとテレサもか?」
「はい、お母様と、お婆様は海鳴の方へ」
「そっか……」
それっきり黙ってしまう。自分でも思った以上に精神的に効いているみたいだった。
何もする気になれず、ただアリサの墓の前でボーっと立っていることしか出来ない。
どのくらいそうしていただろうか? ふと気が付くと雪が降り始めていた。あたりはうっすらとだが白くなろうとしていた。それに気が付いたとき、
「クシュン!」
と可愛らしいくしゃみが後ろから聞こえた。
後ろを見ると、コートも着ないで立っているマリアが、両手で身体を抱いてぶるぶると震えていた。
「なっ! お前上着着てこなかったのか?!」
それを見た俺は慌てて近寄る。マリアは、女性用の喪服を着ているだけで上に何も着ていない。見るからに寒そうな格好だった。
「は、はい、大御爺様を呼んですぐ戻ろうと思ってましたので」
「おいおい、それだったら戻ればよかったじゃないか」
ポケットから出した両手でマリアの手を包む。手は氷のように冷えていた。
「一緒に戻ろうと……」
「あ~、そうか。すまん気が付かなくて」
「いえ」
「これでも着てろ」
そう言って俺はマフラーとコートをマリアに着させる。
俺のコートを着させるとマリアはすっぽり覆われてしまった。かろうじて裾は引きずってはいない。
「い、いえ、大丈夫です!」
「我慢すんな。マリアに風邪をひかせた原因が俺だと分かったらテレサがめちゃくちゃ怒るだろ」
「お母様は……怒りますね」
否定しようと思ったが否定出来なかったようだ。
「何であそこまで嫌われちまったのかね?」
はあ~、とため息をつく。
「あ、いえお母様は一樹大御爺様の事認めてますよ?」
「……うっそだ~」
「本当ですよ。アリサ大御婆様があんなに嬉しそうな顔をしたのは久しぶりに見たって嬉しそうに言ってました。それをした大御爺様はすごいって、でもお母様が出来なかった事が悔しいって言うのと、素直に褒められないみたいです」
「あ~、そうだったのか」
「はい、何時もお父様に愚痴を言っているみたいです」
「マジで?!」
「はい、お父様が電話で言ってました」
それを聞いて申し訳ない気持ちになる。
「そうか……、今度こっちに来る事があるなら俺のおごりで飲みに行こうって言っといて。美味い店探しとくから」
「分かりました。伝えておきます」
「じゃあ、戻るか」
「はい」
雪はそんなに積もっていはいないがこの分だと交通機関に影響が出そうだ。少し急いだ方が良いかもしれない。
そう思い、マリアと歩き出そうとしたとき、俺の携帯端末が震える。誰からだと思ったら千冬さんからだった。通話のボタンを押すと、ピ、と音がして、千冬さんと繋がる。俺は歩きながら話をする。
「誰だ?!」
『とぼけるな。名前の表示位されているだろう』
ごもっともで。
「で、何すか千冬さん」
千冬さんの名前を出すとマリアがピクッと反応する。やはり気になるようだ。
『すまない、少し厄介な事が起こった』
「厄介なこと? IS学園が武装集団に占拠でもされたか?」
『そのくらいだったら私一人で何とかなる』
なっちゃうんだ。
「じゃあ、何だ?」
『……実はだな……あ~、何と言うか……』
何時もハキハキとものを言う千冬さんにしては珍しく言い出しにくそうだった。
「どうしたんだ?」
『……一夏がだな』
「ん? 一夏がどうかしたのか?」
俺は何度か会ったことのある一夏の顔を思い浮かべる。
『ああ、ISを動かしてしまった』
「……はい?」
『ISを起動させてしまったんだ』
「ISってI (いかん)S(そいつには手を出すな)のISか?」
『違うわ馬鹿者。女性専用兵器のISだ』
「自分で言ってて違和感には気づいてんだよな? 何で動くんだよ?」
まあ、知ってはいるが改めて聞くと違和感がバリバリだ。
『私が知るか。大方どこかの兎の仕業だと思うが』
「何その兎、ちょー怖い」
『ああ、世界で一番怖い兎だよ』
ため息を盛大について、黙ってしまう。なにやら相当疲れているようだ。
ちょうどそのころ、どっかの研究所でキーボードを弄っていた兎が盛大にくしゃみをした。
「で、俺はどうすればいいんだよ?」
『しばらく一夏の護衛を頼みたい』
「何時から?」
『出来れば今すぐにIS学園の入学試験の会場まで行ってもらえるか? そこに一夏を待たせている』
「了解、ちょっと待たせておいてくれ。こっちもマリアを家まで送っていく。十分以内には向かう」
『すまない』
「気にすんな。貸し一つだ」
『分かった』
「じゃあ、何かあったら連絡くれ」
『重ね重ねすまん』
「おう、じゃあまたな」
ピッ、っと通話をきる。
あ~、この時期だったんだ。まあ、受験シーズンではあるからな。
ちなみにマリアはすでに合格済みだ。一般入学と特待生の試験は日程が違うらしい。
「大御爺様、千冬さんはなんと言っていたのですか?」
若干興奮しているのか頬が赤い。
まあ、前にマリアを紹介したらものすごい感謝されたからな~。やっぱ憧れなんだろうな。
「う~ん、ちょっと今はまだ言えない。そのうちニュースでやると思うから気長に待ってろ」
「ニュースで、ですか?」
「ああ、ニュースだ」
「そうですか」
それで納得したのかそれ以上は聞いてこなかった。
「すまないがちょっと急ぐことになったから「魔法」を使うぞ」
「え! 本当ですか!?」
嬉しそうに声を上げる。
「ああ、転移する。スサノオ」
《了解、周囲に監視はありません》
「分かった。……じゃあなアリサ。近いうちまた来るからな」
俺は一言アリサに告げ、
「転移」
その言葉と同時に足元に魔方陣が展開して、俺とマリアは墓地から姿を消した。
― 織斑一夏 ―
俺は今、試験会場の中の部屋に入れられて閉じ込められている。何故かと言うと本来女性しか動かすことの出来ないISを動かしてしまったからだ。
俺は今日、市立藍越学園の試験を受けるためにここに来たはずなのに、間違えてIS学園の試験会場にまぎれてしまい、置いてあったISに触ったら、そのISが起動してしまったのだ。
何が起こったのか分からずにいると、そこに試験官が入ってきて、それを見られてしまったのだ。
今に思えば、いくらカンニングが問題になった時期とは言え、カンニング対策で着替えさせる何て事はさせないだろうし、そのことに疑問も感じなかった自分が恥ずかしい。
「はあ、俺どうなるんだろう? 千冬姉とは連絡が付かないし……」
月に一~二回しか帰ってこない千冬姉を思い浮かべる。
これじゃあ、また千冬姉に迷惑を掛けてしまう。そう思うと更に自分が情けなくなってくる。そう思っていると、
ガチャ
とドアが開く音がした。誰が来たのかと思い、音のした方を見るとそこには一樹さんが立っていた。
「一樹さん!?」
「おう、一夏久しぶりだな」
そこに現れたのは千冬姉の知り合いの一樹・S・バニングスさんだった。ちょっと前にテレビに出てきて吃驚した。
何でも百年過去から未来にタイムスリップしてきたらしい。そして、タイムスリップしてくる前に婚約していた人と結婚した人だ。
いろいろと話題になった人だ。やれ、本物かとか、タイムスリップの可能性とか、遺産目的とかいろいろだ。
千冬姉がその当事者二人を家に連れてきたときはマジで吃驚したけどな。そんな経緯があって一樹さんとは知り合いである。
「どうしてここに?」
「ん? 千冬さんに頼まれてな」
「千冬姉に? 何て?」
「一夏が厄介ごとを増やしたから、とりあえず迎えに行ってくれだとよ」
あ~、やっぱり千冬姉に迷惑掛けちまったらしい。
「とりあえず帰るぞ。ここにいても仕方ないからな」
「分かった」
そういわれて俺は立ち上がって一樹さんについていく。
「じゃ、そう言う事で。山田先生後よろしくお願いします」
そう言って一樹さんは入り口横にいた女の人に声をかける。何故か涙目だ
「は~い~、分かりました~、ああ、今日は寝れそうにありません」
教師はそんなに忙しいのだろうか? と思いながら進む。そこで思い出した。
「あ! 一樹さん! 俺、藍越学園の入学試験受けてません! どうなるんですか?!」
先を歩く一樹さんに聞いてみる。
「ん? そりゃあ、受けてねーんだから不合格じゃねーのか?」
「え゛?」
その答えを聞いて固まる。
「で、でも有無を言わさずさっきの部屋に入れられちゃったんですよ?! 後日受けられるとかそういうのって……」
「ん~、無いとは言いきれないが、そもそもあの部屋に入れられたのはISを勝手に触ったからだろう? 今はスポーツの一種となってはいるが兵器には違いないんだ。それを正当な理由無しに触ったんだ。本来だったら豚箱行きだろうよ」
「そ、そんな! 触っただけですよ!?」
「そうは言うがな仮に、触ってぶっ壊れたらどうするつもりだったんだ? そのせいでアレを使う人が死んだりしたら? 触っただけと言うが、そこから起こりうる事について考えなかったのか? 世界でたった467機しかないものなんだぞ? しかもそれ一つあれば一国の軍に勝てちまうって代物だ、盗もうとする奴は腐るほどいるぞ? そういった意味では運が良かったのかもしれないな。別の国だったら即射殺なんて事もあったかもしれないからな」
その説明で自分がいかに危険な立場にいるかが簡単に想像できた。
俺が今ここに無事にいるのは運が良かったからなんだと。
「……じゃあどうすれば良いんですか?」
「いや、それは自分で考えるとこだろ? 他の高校を受けるもよし、就職を探すもよしだからな」
「はあ~、どうすればいいんだ」
「悩め悩め、そうして人は成長していくもんだ」
一樹さんはニカッと笑いながら答えてくる。
「でも一樹さん、一樹さんだったらもしISが無造作に置かれてたらどうしますか?」
どんな事をするか気になったので聞いてみた。俺の場合なんか吸い寄せられるような感じがしたのだけど。
「もちろん触る」
間髪いれずに答えてきた。
「さっきの説教は一体なんだったんですか?!」
「もちろん自分のことは棚にぶん投げた説教だ」
少しも悪びれた様子は無く堂々と言い放った。
「壊れたらどうするんですか!!」
「兵器が触っただけで壊れるわけねーべさ。そんなもんは兵器じゃなくてガラクタだ」
「もしもですよ!」
「そしたら逃げるに決まってるじゃん。犯罪者になりたくねーし」
「さ、最低だ!」
台無しだ! もう色々と台無しだ!!
「いやいや、そもそも一般人が自由に出入りできるような置きかたしてる方がおかしいんだよ。見張りもいなかったんだろ? 盗んでくださいって言ってるようなもんじゃねーか。ちょっと扱いを知ってる女だったら、待機状態にして持って行っちまうぞ?」
「じゃあ、何で俺はさっき部屋に入れられたんですか?!」
「起動しちまったからに決まってんじゃん」
「……そうでした」
そうだった。何故かは知らないが本来女性しか動かすことの出来ないはずのISが動いてしまったのだ。
「そこで動きさえしなければちょっと怒られて、試験会場に案内されて、試験を受けてさよならだったんだろうけど、一夏は動かしちまったからな。そのせいだろうよ」
「俺、これからどうなるんですか?」
「俺が分かるわけねーじゃん。精々研究所で解剖されてホルマリン漬けにならないように祈っておけ。ほれ」
そういうと一樹さんはヘルメットを渡してきた。一樹さんの持っているバイクで「RR」って言うらしい。珍しいガソリン車でもある。
実はこれに乗るのは好きで、会ったときは必ず乗せてもらっている。受け取ったヘルメットをかぶり、一樹さんの後ろに乗る。
「そういえば一樹さん、珍しくスーツですけど何かあったんですか?」
いつもジャージとか、私服姿しか見たこと無かったから何となく聞いてみた。
「ん、嫁さんの葬式」
「え?」
「だから嫁の葬式だって。126年の大往生だったよ」
「す、すいません!」
俺は慌てて謝った。まさかそんなことになっているとは思わなかった。
「いや、大丈夫だよ。かなり凹んだだけだから」
「大丈夫な要素が一つも無いですよ?!」
「あ、一夏遺書は書いたか?」
「へ?」
「だから遺書、今日はちょっと無茶な運転するかも知れないから」
アクセルを捻ってエンジンを廻している。
ブオン!!ブオォン!!!
「……冗談ですよね?」
「いや」
本気だが? と言いそうな顔だった。
「お、下りまs……下りられない?!」
急いで下りようとするけど、まるで下半身が縫い付けられてるように動かない。何でだ?!
「お~、そうかそうか。そんなに乗って逝きたいか」
「字が違いますよ?! 俺はまだ生きたいです!!」
「な~に大丈夫さ~! 逝く時は一瞬だ!」
「ちっとも大丈夫じゃねー!?」
「じゃあ、逝きますか」
「イヤァァァァァァァァァァァ!!!」
その日俺は風になるのがどんな事か判った気がした。
― 一樹・S・バニングス ―
目的地に着き、エンジンを止め一夏を降ろす。
「俺、もうどんな絶叫マシン乗っても怖くないっす」
目の光が消え、ウヘヘヘヘと笑う一夏。いかんやり過ぎたか?
「おら、何時までも変なとこに行ってんじゃねー」
バシン!
俺は一夏の頭を軽く叩く。
「はっ! あれ? ここは……もう着いたのか」
現実に戻ってくる一夏。きょろきょろと見渡して自分の家に着いたのを確認した。
「一夏、晩飯食ったか?」
「いや、まだですけど」
「じゃあ、久しぶりに五反田食堂にでも行くか」
「あ、良いですね」
「おう、じゃあ弾に電話しとけ、今から行くって。俺はチキンカツ定食のMAX盛で」
「判りました。じゃあ、電話しときます」
そう言って一夏は電話を掛け、少し話して電話を切る。
「用意しとくそうです」
「ん、じゃあ行くか」
俺はRRを織斑家に止めて五反田食堂へ歩き始める。
一夏と他愛無い話をしながら少し歩くと、昔ながらな感じの定食屋が見えてきた。五反田食堂だ。俺達は暖簾(のれん)をくぐり挨拶をする。
「ちーっす厳さん。来てやったぞ~!」
「誰も来てくれなんて頼んでねーだろうが」
俺はカウンターの向こうで厳つい顔をした初老の男性に声をかけた。五反田厳、一夏の友達の弾の祖父である。
「一夏に一樹さん。いらっしゃい」
「おう、弾も店の手伝いか?」
「そうなんすよ! これから見たいテレビがあったの「ガン!」あ痛!!」
喋ってる途中でお玉が飛んできて弾の頭にヒットする。投げたのはもちろん厳さんだ。
「二人の注文を取ったのはおめーだろ! 手伝いぐらいしやがれ! お玉洗っとけよ!」
「へ~い」
そう言って弾は厨房に入って洗物を始める。俺と一夏はカウンターに座る。するとカウンターの奥から、
「お、お待たせしました!!」
と注文を持ってくる女の子。五反田食堂の看板娘、五反田蘭である。
はっきり言ってめちゃくちゃかわいい。今だって一夏に会うために余所行きの格好までしていると言うのに。当の一夏は、
「これからどこか行くのか?」
「い、いえ! 普段と一緒ですよ!?」
これである。実際に見て思うがワザとじゃねーだろーな? それを見て弾と小声で話す。
「蘭ちゃん浮かばれないな」
「頑張ってはいるんすけどね」
一生懸命なのは傍から見てて痛いほどに良く分かる。
しかし当の本人がこれっぽっちも気づいていない。不憫である。しかも来年度からはIS学園でハーレム状態になるのだ。これは蘭ちゃんにとって痛いところである。
「そ、そういえば一夏さん、今日試験だったんですよね? どうだったんですか?」
「……どうなるんだろう?」
蘭の問いに顔を曇らせる一夏。
「何かあったんですか?」
「いや~、一夏のやつ試験前にオイタして試験受けさせてもらえなかったんだよ」
「「え!?」」
それを聞いて驚く弾と蘭。そりゃまあ、そうだろうな。
「ちょ、一樹さん!」
「本当のことだろうが」
「そうですけど」
「ま、そんなわけでめでたく藍越学園を不合格になった一夏は、これからの事を考えているのですよ」
けらけら笑う俺。
「ふ~ん、一夏お前どうすんだよ? やばいんじゃないのか?」
「いや、とりあえず先生と相談して、今から間に合う高校を探すしか……無かったら就職決定になりそうだし」
う~んと悩む一夏。そんなやり取りを聞いていた蘭ちゃんが俺の横で、
「ということは一夏さんと同級生になれるかもしれない?!」
と目を光らせつつぶっ飛んだ事を呟いていたのは聞かなかったことにしておこう。
「ま、今はそんな事考えても仕方ないだろ。とりあえず食っちまおうぜ。せっかくの料理が冷めちまう」
俺はそう言って自分の注文した物を食べ始める。それを見た三人が、
「「「相変らずすごい量っすよね(ですよね)」」」
「そうか?」
俺の前に置かれているのは丼に山のように盛られたご飯に、草鞋サイズのチキンカツが二つ、更にキャベツも山のように盛られている。味噌汁は普通だが、御代わりは自由である。これで1200円はお徳である。
そう言ってくる二人を後目にもりもりと食べ始める。それを見ていた厳さんが俺に聞いてきた。
「そういえば一樹、一著前にスーツなんぞ着てどうしたんだ?」
厳さんの言葉を聞いた一夏が手で×サインを送るが時既に遅し。
「いや~、嫁さんの葬式でな」
俺が軽い口調で言い放つ。厳さんもピクリと反応してから「そうか」とだけ言って、カウンターの奥へ消えていった。
なんとも気まずい空気になった所で、厳さんが直ぐに戻ってきた。手には一升瓶を持っている。
「飲め」
ドン、と目の前に置かれた。純米大吟醸「山丹正宗(やまたんまさむね)」とラベルに書かれていた。何か見た感じすごく良い酒みたいだ。
「いいんすか?」
「構わん」
「それじゃあ、一杯だけ」
そう言って俺は差し出されたコップに注ぐ。そして一口、
「これは……」
「良い酒だろ? わしのとっておきだ」
「ええ、これは良い酒だ」
そう言ってまた一口飲む。口に入れると澄み切った味わいに、滑らかな口当たりと奥深い旨みがあり、非常に美味い酒だった。また、一口飲んで一息入れる。すると厳さんが聞いてきた。
「これからどうするんだ?」
「特に考えて無いですよ。とりあえず今の仕事をやり遂げるだけですかね」
「そうか……。まだ若いんだしっかりやれよ」
「はい」
厳さんとしんみり会話をしつつちびちびと酒を飲む。そんな俺と厳さんを見ている三人。
((何か爺さんと一樹さんかっこいいな……))
(一夏さんも年を取ったらあんな雰囲気が似合いそう……キャーーー!!)
三人から変な視線を感じつつ食事を進めていった。
― 織斑家 ―
五反田食堂で食事を終えた俺と一夏は織斑家でくつろいでいた。
俺はデザート作りを開始し、一夏はテレビを見ていた。今の所不穏な気配は無く、何時も通りに時間は進んでいく。と思ったが、
ピンポ~ン
と来客を知らせるインターホン。時間はそこまで遅くは無いが、来客があるような時間でもない。
「俺が出よう」
「え? いいですよ。俺んちだし」
「まあまあ、相手の反応が見たいだけだから」
「相変らずですね」
「まあ、ゆっくりしてろ」
と、一夏に言って玄関に向かう。一夏は再びテレビに目を向ける。
(さてと、気配は四つ、玄関前に固まっているか……)
気配を探りつつ、玄関を開ける。
「は~い、どちらさまでしょうか?」
チェーンロックをしたままドアを開けて外を見ると、そこには、
「こんばんは! NHKの者です!」
とテレビカメラを持った人、ライトを持った人、音声マイクを持った人、マイクを持った人がそろっていた。
「あ~、ウチは引きこもりじゃありませんので」
バタン、ガチャ
「「「「………………」」」」
「ふ~」
「一樹さん、誰だったんですか?」
「ん~? 何か日本(N)引きこもり(H)協会(K)の人が来た」
「何ですかそれ?」
「いや、だから引きこもり協会『違います!』……ん?」
ドアの向こうから声がしてきたのでもう一度あけてみる。
ガチャ
「こんばんは! 日テレの者です!」
「フジテレビです!」
「TBSです!」
「テレ東です!」
「ABCデス!」
「CNNデス!」
「増えてる!?」
バタン! ガチャ! ドタタタタ!
「おい、一夏! テレビ! テレ……ビ」
俺は慌てて戻ると、一夏がテレビを見たまま固まっていた。俺もテレビを見ると、
『緊急ニュースをお伝えします! 本日、世界初の男性IS操縦者が発見されました! その男性は織斑一夏さんといい、詳しい経緯は未だ分かりませんが、今日偶然にもISを動かした模様です。こちらがその映像になります!』
キャスターがそういうと場面が切り替わり、一夏がISに触って、ISが起動する場面が流れる。
『こちらの映像は匿名の方からの情報で、加工などは一切されていないと専門家も言っています。そして……』
と、キャスターがニュースを伝えている。それを見てピクリとも動かない一夏。その反面、テーブルの上においてある一夏の携帯は鳴りっぱなしである。
前に回って見てみると、白目をむいていた。そんな一夏をみて、
「あ~、とりあえず……デザートを作り上げちまうか」
とりあえず現実逃避することにした。原作知ってたってどうしようもできない事だってあるよね。