OVERLORD:The Invisible Watchmaker 作:Stormgren
プロローグ
このゲームに人生の半分を捧げてしまったどっかの骨には申し訳ないが、言わせてもらう。あえて。
基本的なユーザーインターフェースの使い方すら説明されない。クエストのヒントは乏しい。割とすぐ死んでレベルはガンガン下がる。アイテム作成の材料集めがクソめんどい。
公式が
ゲームバランスが悪い。壊れ性能の
それでもなんだかんだ人気を博したのは、ただのクソゲーじゃなく「遊べるクソゲー」だったからだと俺は思う。
まともな操作説明すらなくファンタジー世界に放り込まれても、チュートリアルクエストまで辿り着きさえすればなんとか遊べるようにはなった。油断すればそのへんの
それも今日で終わる。
西暦二一三八年某日、かつて一世を風靡したDMMO-RPGの金字塔、『
サービス終了は日付変更と同時。二十三時五十九分五十九秒にすべてのサーバーが停止し、思い出との別れを惜しむプレイヤーたちは現実の世界へログアウトさせられる。
そのはずだった。
だが、少なくとも一部のプレイヤーにとって
共にゲームを始めた仲間たちと世界を巡り、拠点を手に入れ、金貨やアイテムを集め――〝向こう〟で真価を発揮しそうな種族、職業構成を模索し、同じ観点でNPCのビルドにも様々な実験的要素を持たせ――ときには「ロールプレイが過ぎる」とギルドメンバーに苦言を呈されながらも、莫大なプレイ時間と課金額を費やし、なんとか充分と思える程度に準備ができた。最後の一週間には、予想外の
そうだ。待っていた。
サービス開始当初から、この日をずっと。
仲間は、残らなかった。残念ではあるが、やることは変わらない。
誰かが一緒にいてくれれば心強かったと思う反面、こんなイカレた計画に他人を巻き込むのは筋違いだという思いもあった。船頭多くして船が山に上ってしまうリスクを考えれば、ひとりでよかったのだろう。ここに残ったプレイヤーが俺だけなら、とりあえず
本当は、彼女だけでも連れて行ってやりたかったが――。
いやいや。これは詮無い未練だ。やめよう。
今日ここにはひとりきり。予定通り、俺はただ待っている。
もう誰も来ない拠点の
目の前に置いた時計が、カウントダウンを刻む。
23:55:48、49、50……
拠点の外、各ワールドの街やフィールドでは、残ったプレイヤーたちが最後まで馬鹿騒ぎに興じていることだろう。買い込んだ花火を乱射したり、もったいなくて使えなかった消費アイテムを処分するつもりで蕩尽していたり。ギリギリまで
あの豪華絢爛陰鬱悪趣味な墳墓の底でひとり、俺と同じように終わりの時を待っている。去りゆく日々を惜しみながら。明日からもまた一介のサラリーマンとして、煤けた日常を生きるのだと信じたまま。
――あるいは、本当にそうなるのだろうか?
俺の記憶の中にある
俺がこの十二年クソゲーの中で準備してきたあれこれは全部無駄で、日が変わると同時に全プレイヤーが無事にログアウトを果たして、どこぞの骨は人に戻って四時起きで会社へ行くのかもしれない。
俺は神にも怪物にもなることなく、滅びゆく地球でちっぽけな人間のまま、死ねるのかもしれない――
23:59:35、36、37……
だが、もしも。
何の因果か第二の生を受けたこの世界が、恐ろしいほどよく似た
――ああ、悔しいなぁ。
そう言ってため息をついた彼女の願いを、せめて俺が〝向こう側の世界〟で叶えてやれるなら。
23:59:48、49、50……
無意味な代償行為だ。この地球に生きる人々は、誰も救われない。
誰より愛した人には、もう二度と会えない。
23:59:58、59――
目を閉じる。その瞬間を待つ。
0:00:00
瞼の裏の闇の向こうで、音もなく、世界が変わった。