OVERLORD:The Invisible Watchmaker   作:Stormgren

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ゲーム的リアリズムの実装(1)

「〝ダンジョン運営〟をやります」

 

 とは言ったものの、これは当初からの計画に入っていた要素ではない。俺が思い付きでポロっとこぼしたアイデアを、例のごとくNPCどもが勝手に拾って勝手に拡大発展させていった結果、なんかメリット多そうだしやってみようか……という流れができあがっていた代物である。

 

「ダンジョンを我々の手で造営する? いったい何のメリットが…………いや……そうか。なるほど。確かに。『冒険者』計画とも噛み合う。我々の存在を明るみに出すことなく、各地への影響力を盤石のものとできるか……軍事面だけではないな。流出させる〝財宝〟を通じて経済に干渉し、また傷病人が持続的に生まれることで、医療巡礼団の権威と影響力を高める結果にもなる。これは既存の計画を強化する重要な制御装置たり得る……待てよ? さらには今後、転移してくるプレイヤーを含めた、警戒すべき強者に対する撒き餌ともなるか……流石でございます、我が君。ここまでの策を我らにも明かさず温めておられたとは、お人が悪い……」

 

 などと一息に勘違い劇場を演じてくれたのがエルスワイズで、そこから各部門に話が伝わり、あれよあれよという間に大陸各地で人工ダンジョンを作ろうという話になってしまった。お前ら箸が転んでも計略のネタにできそうだな。俺いらなくない?

 

 ともあれ労働力も資材も有り余っている『盲目の時計職人(ブラインド・ウォッチメイカー)』は、とくに問題なく現物の設計・建築に着手。大規模構造物の建設も指揮できるサラムとミリアベルを陣頭に、無休無給のハイパーブラック労働で塔や神殿や洞窟や迷宮がドカドカ組み上げられ掘り抜かれていく。

 

 最初のダンジョンは今から三十年ほど前に完成し、ひっそりと小規模な試験運用から始められた。

 場所は大陸中央――といってもクソ広いので、どっちかといえば西側寄りの地域。近くに多種族の入り混じって暮らす小国があり、ここを実験のメインターゲットに据えた。

 

 山間の崖の一角が長雨で崩れ、そこに()()()()()()古代の塔が姿を現したらしい――

 そんな情報が小国にもたらされ、次いで誰かが財宝を持ち帰ったらしいとの噂が流れ始める。

 

 もちろんどっちも俺たちの仕込みである。塔はあらかじめ崖の中に掘った地下空間で建造しておいて、完成後に自然の崖崩れを装って露出させたもの。噂は諜報部門のエージェントである二重の影(ドッペルゲンガー)たちが広めたもの。

 ゴールドラッシュならぬダンジョンラッシュの火が点かなかった場合に備え、〝持ち帰った財宝〟の現物を見せびらかすトレジャーハンター役も待機していたのだが、これは結局必要なかった。噂だけで暇人・破落戸(ごろつき)・荒くれ者・夢追い人どもがわらわら〝古代の塔〟に集まってきたからだ。お前ら本当にそういう話好きだな。真の冒険者の称号をやろう。

 

 塔の中には現地人でも倒せる程度のモンスターがいっぱい。もちろん必殺の陣形で一斉に襲い掛かるなんて野暮な真似はせず、()()()()()()()敵の人数に合わせた編制で散発的な襲撃を仕掛けてくる。

 

 挑戦者たちは地上階に開いた唯一の入り口からエントリーし、()()()階が上がるほど強い種が配置されているモンスターたちを倒しながら、塔内各所に隠された金銀宝石類やらマジックアイテムやらを血眼で探し回る。

 

 塔の最上階にはボスモンスターがいて、これはだいたい死者の大魔法使い(エルダーリッチ)とかそのへんのレベル。倒すと装備していたマジックアイテムを最低一つは確定ドロップする。これにてダンジョン攻略完了。おめでとう冒険者よ、君は偉業を成し遂げた。わーぱちぱちぱんぱかぱーん。

 

 だが一回攻略されたらおしまいでは、さすがに運営側としてもコスパが悪い。だからボスも含めて、ダンジョンのモンスターは()()()()する。

 といっても、本物のユグドラシル製ダンジョンと違ってモンスターの自動POP機能なんぞ実装できないから、補充する分の個体は俺たちが()()()()している。

 

 傭兵モンスターは金貨コストが重いので――少なくとも正規の手順では――召喚しない。主に使うのはNPCたちのモンスター創造系スキルや、眷属生産能力を持ったモンスターの固有スキルなど。

 本来(ゲーム)なら効果時間に限りのあるそれらも、この世界では適切な媒体を用いれば永続化する。うちのギルドは百年来この手の研究を続けてきて、もはや九十レベル代の最上位モンスターさえ(材料は希少だが)物質界に定着させる方法を編み出している。その技術と生産力があれば、日々挑戦者たちに狩られる分の低位モンスターを品切れなく追加投入し続けるのも難しい話ではない。ダンジョンが百基あっても維持できるだろうし、将来的には千基でも運営できるだろうとはヘスの言。

 

 むしろ日々産み出されては待機拠点に送られたり石化保存に回されたりするだけだった余剰モンスター群を、少しずつでも有効活用する道がようやく拓けて俺はホッとしている。『下方大地(アンダーアース)』の一部を占拠してモンスター置き場に使ったりはしていたが、()()()()()()()()()()さえも増大していく中、労働力の増加が速すぎて割り振るべき仕事の準備が追い付いていなかったのだ。将来的に必要になるかもしれんとはいえ、ただ備蓄を積み上げておくだけなんていかにも勿体ない。

 

 ダンジョンMOBとして現地人に倒されるだけでも、ギルドの計画に役立つならそれは立派な仕事である。実際彼らは喜んで噛ませ犬を演じて死んでいく。生みの親たちにも、それを命じた俺にも罪悪感はない。油断すれば死ぬのは挑戦者の方だし。

 うちもなかなか倫理観の狂った企画をやるようになってきたなあ、と思う。だがまあ使い捨てる命を内部調達できているだけ、この世界ではマシな部類かもしれないのが悲しいところだ。

 

 そうまでして出来上がったのは、現地人が何度踏み込んで掃討しても無限にモンスターが湧いてくる魔窟。

 どこからともなく忽然と現れるモンスターたちは、不思議なことにダンジョンの外へは出てこない。そして、内部には怪物だけでなく財宝も出現する。どこかから召喚されているのか、ダンジョン自体がその場で創造しているのかは誰も知らない。

 

 ときにはモンスターがマジックアイテムを装備していたり、巣に宝物を貯め込んでいることもある。当然それらは、主を倒せば挑戦者たちの総取りとなる。

 モンスターの死体がそのまま戦利品に変わることもある。特定の部位が武具や薬剤の材料となるから、あるいは肉が単純に美味であるからと、高値で取引されるのだ。

 

 そんなダンジョンの情報が広まるにつれ、何が起きたか?

 

 隣接する小国で、()()()()()()()()()()()()()()()()が回り始めた。

 

 最寄りの街に宿が増え、国内外から腕自慢のトレジャーハンターやら魔物猟師やら傭兵やら学者やらが続々と集う。モンスターの解体やマジックアイテムの鑑定を行う業者が移り住んできて店舗を開く。当事国の軍が兵を送り込んできて基地を建設する。

 急速にダンジョン攻略拠点として生まれ変わった最寄りの街を中心に、物と人と金の流れが発生し、周辺地域はダンジョンバブルとも呼ぶべき好景気に沸いた。

 

 財宝もマジックアイテムもモンスター素材も、別にここのダンジョンでしか手に入らないわけではない。

 貴金属も宝石も鉱山で採れる。マジックアイテムなら製作系の技術を身に着けた魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいれば作れる。モンスターだってこの世界には溢れかえっている。

 

 重要なのは、本来それらの生産・採取に必要な設備も人材も時間も資源も占有することなく、ダンジョンさえ攻略できれば()()()()されるという点だった。

 

 自然の鉱物には有限の埋蔵量がある。マジックアイテムを作るには優れた職人の時間と労力、それに応じた費用が掛かる。野生のモンスターは遭遇する場所やタイミングを選べず、数や強さが一定しないリスクがある。また一度狩ってしまえば勝手に再出現(リポップ)したりしないし、乱獲すれば生態系の破壊にも繋がる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――少なくとも、〝塔〟を利用する者たちには、そう見えた。

 

 同じエリアにはだいたい同じくらいの強さのモンスターが、いつも一定数まで出現する。縄張りがあるのか、所定のエリア外には出てこない。倒しても無限に湧いてくる。死体が資材になる。たまにアイテムも落とす。

 財宝もランダムな位置に再出現する。まるで誰かが餌として配置しているかのように、強力なモンスターが出る場所ほど良いものが落ちている。わざわざ宝箱に入っていることさえある。

 湧き続けるモンスターを倒せるだけの腕さえあれば、ダンジョンはまさに尽きせぬ宝の山となる。

 

 いやまあ実際にはうちのギルドが裏でせっせと放出用のモンスターやアイテムを用意しているわけだが、生産力がほとんど無尽蔵という点では間違っていない。

 そして基本的に有事以外は役に立たず、本来なんの生産性も持たない存在である〝戦闘の専門家〟たち――兵士とか傭兵とか――が、ダンジョンの産出物を持ち帰ることで()()()()()()()として経済活動にコミットするようになる。これが大きかった。おまけにモンスターを狩りまくるのでレベリングにもなり、結果的に戦力の強化に繋がっている。

 

 初回なので難易度は抑え目、扱いやすいダンジョンを作ってみたわけだが……結果はおおむねエルスワイズらの事前予測通り。小国は逞しくもダンジョンを()()()()()()のごとく活用することを覚え、かつてない富と力の源泉を手にした。

 ゲームの仕様を再現したダンジョンが実在すれば、この世界の住人はそれを資源として活用する。そうできる程度の賢さはある、ということが分かったわけだ。

 

 もちろん、いいことばかりではない。現実世界(リアル)だってそうだ。ある国が油田を掘り当てたからといって、オイルマネーで国が潤ってめでたしめでたし――で終わりなんてことはあり得ない。

 

 この国の場合は、まず治安が悪化した。

 ダンジョンで一獲千金を夢見る荒くれ者どもが拠点化された街に集い、日夜どこかでトラブルを起こす。後追いで派遣されてきた軍がそいつらを取り締まりはしたが追い付かず、むしろ軍人が問題行動を上乗せしてさらに治安を悪化させる。

 ダンジョン産出品の販売ルートも国より先に裏社会が目を付けており、マフィアやギャングの懐に相当量の金が流れた。犯罪組織が力を付ければ、当然犯罪率も全国的に増加する。

 

 医療を担う神殿への負担も、馬鹿にならなかった。

 ダンジョンから成果物を持ち帰るには、たいていモンスターとの命がけの戦闘を潜り抜けねばならない。俺は自家製モンスターたちに()()()()()()こそ命じたものの、不殺縛りまでは課していないので、舐めてかかった挑戦者は当然死ぬ。死ななくても大怪我したり毒や病気や呪いをもらったりする。

 

 生きて街まで戻れた奴らは、治療を求めて神殿へ行く。……が、治癒魔法が使える神官の数は限られている。魔力(MP)だって低レベル帯ではそう潤沢でもない。

 ダンジョンが生み出したのは富だけではなかった。その代償として多数の死傷者をも送り返し、この世界の病院にあたる神殿の処理能力を大いに圧迫していたのである。

 

 神殿は拠点街の医療崩壊を食い止めるべく治癒魔法の心得ある者を募集したが、ヒーラーはどこでも引く手あまたなので、そんなに多くは連れて来られなかった。

 そうなると神殿も、不本意ながら枠を絞らざるを得なくなる。先着順にしたり、重傷者に限定したり、治癒費用を吊り上げたり。なんにせよ巷には治療枠からあぶれた怪我人・病人がゴロゴロするようになり、そこを狙って法外な治療費を請求する闇ヒーラーも跋扈して、治安と衛生状態は悪化する一方。

 

 うち(BW)としてはここまででも充分興味深いデータが取れており、行きつくところまで放っておいて観察を続けてもよかったのだが……サティアたち善カルマ連中が日々なんとなくそわそわしていたので、初回ながら()()()()の投入までテストしてみることにした。

 

 といっても、ギルドの方針として現地文明への大っぴらな介入は基本的にNG。NPCを直接送り込んで解決させるようなことはしない。

 なので今回は、法国の医療巡礼団を手先として使わせてもらった。

 









地味に今回で100話目でした。
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心がもちもちしますね。

[memo]

■多種族の入り混じって暮らす小国
・今回モルモットにされたかわいそうな国A。いちおう国名があり、『ラデ伯国』という。が、周辺国どころか自国民ですら国名を知らないことが多い。
・百数十年前に崩壊した巨大な多種族国家の貴族領の一つが独立し、そのまま残ったという建国経緯を持つ。代々の国主は王を名乗らず、元の国に与えられていた伯爵位を継承し続けている。
・人口十万に満たない山間小国。大国に挟まれた緩衝国家であり、大規模農業はできず、鉱山も乏しく、特産品も少ない。街道を通る商人への課税だけで食べている国、などと言われることもある。
 為政者は凡庸。国民性は素朴。花開くべき文化もなく、英雄も賢者も擁していない。
 普通なら歴史の表舞台に出ない国であるがゆえに、『盲目の時計職人(ブラインド・ウォッチメイカー)』の実験対象とするには都合がよかった。
・建国の父として伝えられる〝初代〟ラデ伯の日誌が領都の地下に残されている。
 「この国は私が〝打ち建てた〟のではない。
  あの大戦ですべての秩序が滅びゆく中、忘れ去られ、打ち棄てられ、ただ〝残った〟だけだ。
  民は私を褒め称える。巧みな舵取りで国を生かした名君であると。
  しかし私は、ずっと後悔している。
  何故あのとき、わが王に殉じて滅びなかったのだろうと」

■「生産ユニット自体の数さえも増大していく中」
・時間経過で消えないモンスターの生産は、プレイヤーや拠点NPCだけの専売特許ではない。対応するスキルと素材、環境などの条件さえクリアすれば、モンスタータイプのユニットも出産や創造などの能力によって配下のモンスターを増やしていくことができる。
・特に、ヘスとサラムのスキルを組み合わせることで時間のみをコストとして(金貨・アイテムの消費なく)召喚される、一部の高位傭兵モンスターが費用対効果および生産性において優秀。
 代表的なものとして妖虫の女王(ワーム・クイーン)魔胎神母(エキドナ)侵菌胞祖(マザーマタンゴ)の三種は戦闘力こそ低いものの、それぞれ一体で小規模なダンジョン一つのモンスター生産を担うことができる。
・ほか、ミハネが創造する死の支配者(オーバーロード)系列や怠惰の魔将(イビルロード・スロウス)、サティアが創造する原動天の熾天使(セラフ・ナインススフィア)なども眷属モンスターの生産能力を持つ。これらはいずれも高レベル帯のため、素材を現地生物から調達するのは難しいが、ヘスやその配下が生産した上位生物系モンスターを媒体に使えば恒久的に定着させることは可能。
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